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陽気な容疑者たち*天藤真

  • 2017/09/07(木) 16:42:08

陽気な容疑者たち 天藤真推理小説全集
東京創元社 (2012-10-25)
売り上げランキング: 63,928

山奥に武家屋敷さながらの旧家を構える会社社長が、まさに蟻の這い出る隙もないような鉄壁の密室の中で急死した。その被害者を取り巻く実に多彩な人間たち。事件の渦中に巻き込まれた計理事務所所員の主人公は、果たして無事、真相に辿り着くことができるだろうか。本書は、不可能状況下で起こった事件を、悠揚迫らざる筆致で描破した才人天藤真の、記念すべき長編デビュー作。


密室ミステリなのだが、仄かに匂い立つユーモアのせいか――タイトルからしてすでに然り――、鬼気迫る感じではなく、どう展開していくのかをわくわく愉しむといった印象のミステリである。被害者が経営する工場の閉鎖に伴う組合とのいざこざあり、山奥の家屋敷の売買契約あり、遺産相続の関係あり、また被害者の人望の無さによる恨みあり、などなど、殺される要素が満載なところも、何とも被害者に同情する気が起きないのである。事件が解決した後しばらく経ってからの付け足しのような真実の披露で、なるほどとやっと腑に落ちる。それでも、めでたしめでたし、と言いたくなるような一冊なのである。

大誘拐*天藤真 

  • 2017/09/06(水) 07:56:01

大誘拐―天藤真推理小説全集〈9〉 (創元推理文庫)
天藤 真
東京創元社
売り上げランキング: 51,947

三度目の刑務所生活で、スリ師戸並健次は思案に暮れた。しのぎ稼業から足を洗い社会復帰を果たすには元手が要る、そのためには―早い話が誘拐、身代金しかない。雑居房で知り合った秋葉正義、三宅平太を仲間に、準備万端調えて現地入り。片や標的に定められた柳川家の当主、お供を連れて持山を歩く。…時は満ちて、絶好の誘拐日和到来。三人組と柳川としの熱い日々が始まる!第32回日本推理作家協会賞長篇賞受賞作。


なんというか、規模が大きすぎて想像に余る。誘拐されるのは、大家の当主、柳川とし刀自。身代金はなんと100億円。誘拐事件は、それが起こった途端にどういうわけか柳川としにそのシナリオを握られ、とんでもない規模で進行する。としの人望の厚さゆえに、誘拐犯三人組は、この上ない切り札を握ることになり、それもとしの思う壺であったわけである。しかも、その記憶力や判断力は、とても80歳を過ぎた人のものとは思えず、格好いいとしか言いようがない。全国民、さらに全世界の目までをくぎ付けにした、一大スペクタクルと言っても過言ではないだろう。誰も傷つかず、誰も損をしない誘拐劇。三人の誘拐犯たちのキャラクタも結構魅力的である。文句ない面白さの一冊である。