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悪の芽*貫井徳郎

  • 2021/04/04(日) 16:24:05


犯人は自殺。無差別大量殺人はなぜ起こったのか?
世間を震撼させた無差別大量殺傷事件。事件後、犯人は自らに火をつけ、絶叫しながら死んでいった――。元同級生が辿り着いた、衝撃の真実とは。現代の“悪”を活写した、貫井ミステリの最高峰。


アニメコンベンション・通称アニコンの会場で火炎瓶や刃物による無差別殺人事件が起こり、犯人はその場で焼身自殺した。ニュースを見た安達は、犯人が小学校の同級生ではないかと思う。しかも、自分が身勝手な意趣返しで、悪意のあるあだ名をつけたばかりに、その後虐められて不登校になった同級生である。悔恨の念と罪悪感から逃れたい思いがせめぎ合うなかで、安達はパニック障害を起こし休職することになる。そして、犯人・斉木のことを調べ始める。斉木のしたことは、どんな理由があっても許されることではないが、安達の行動も、どちらかといえば保身のようにも見えてしまい、もやもやした思いは拭い去れない。登場人物それぞれが、結局は自分のことしか考えていないようで、(人間なんてそんなものかもしれないが)誰にも感情移入はできない。斉木を犯行に駆り立てたものの正体を、突き止めたようでありながら、本当のところはたぶん本人にもはっきり判ってはいなかったのではないだろうか。悪の芽がいつ芽生えたかよりも、その芽をどう育ててしまったかを考えなければならないような気がする。最後には小さな善の芽も芽生える兆しを見せたが、それですべて良しとはならない一冊である。