鎮憎師*石持浅海

  • 2017/08/05(土) 16:27:09

鎮憎師
鎮憎師
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石持 浅海
光文社
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赤垣真穂は学生時代のサークル仲間の結婚式の二次会に招かれた。その翌日、仲間の一人が死体となって発見される。これは、三年前にあった“事件”の復讐なのか!?真穂は叔父から「鎮憎師」なる人物を紹介される…。奇想の作家が生み出した“鎮憎師”という新たなる存在。彼は哀しき事件の真相を見極め、憎しみの炎を消すことができるのか―。


理詰めでじわじわと外堀から埋めていって真相にいきつく著者流の謎解きが健在である。ことに、事件の当事者の八人が理系の大学出身ということで、情に流されない理論的な検証が自然である。とは言え、人間関係は、理詰めでいかないことの方が圧倒的に多く、そんな意のままにならない人間関係によって事件は引き起こされるのである。犯人を暴くのではなく、憎しみの連鎖を止めるという「鎮憎師」と呼ばれる沖田の存在が、狭い関係性に新しい何かを吹き込み、あとから思い出したふとした違和感から真犯人にたどり着くという結果にもなる。たったこれだけの関係者の中で、そういう趣向の人間があれだけいるというのは、いささか不自然な気がしなくもないが、ひとつずつ積み重ねていく過程と、お互いを案じる思いとに惹きこまれる。好きな一冊である。

殺し屋、やってます。*石持浅海

  • 2017/02/19(日) 16:48:36

殺し屋、やってます。
石持 浅海
文藝春秋
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ひとりにつき650万円で承ります。ビジネスとして「殺し」を請け負う男、富澤。仕事は危なげなくこなすが、標的の奇妙な行動がどうも気になる―。殺し屋が解く日常の謎シリーズ、開幕。


コンサルティング会社を営む中年男性・冨澤允が主人公。顧客は主に中小企業なので、儲けはあまり出ないが、副業のおかげでそこそこ楽な暮らしをしている。その副業がなんと殺し屋なのである。依頼人と殺し屋の間に2クッション置くことによって、双方共の安全が確保されるという仕組みで仕事を請け負っている。料金は前金で300万円、成功したら350万円。悲壮感も罪の意識も感じさせない軽いノリなのが、物語の世界ならではだろう。ターゲットの周囲の腑に落ちない点を調査し、連絡係の塚原や恋人のユキちゃんと一緒に推理して、すっきりさせるのもいつものことである。納得できないと仕事は請け負わないのである。たまに人助けもするが、あくまでも我が身に被害が降りかからないようにである。そして仕事をすると決めたら、一瞬もためらわずにこなす。冷酷無比な殺し屋のように聞こえるが、その辺にいるごく普通の男性であるというミスマッチが不思議である。読んでいると、冨澤に肩入れしたくなってくるのも不思議である。あくまでも物語世界の中だけということで、愉しませてもらった一冊である。シリーズ化されるということで今後も愉しみである。

パレードの明暗 座間味くんの推理*石持浅海

  • 2017/01/06(金) 16:40:41

パレードの明暗 座間味くんの推理
石持 浅海
光文社
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警視庁の女性特別機動隊に所属し、羽田空港の保安検査場に勤務する南谷結月は、日々の仕事に不満を感じていた。身体を張って国民を護るのが、警察官として最も崇高な使命だ。なのに―。そんな不満と視野の狭さに気付いた上官から、結月はある飲み会に同席するように言われる。行ってみた先に待っていたのは、雲の上の人である大迫警視長と、その友人の民間人・座間味くんだった。盟友・大迫警視長の語る事件の概要から、隠れた真相を暴き出す!名探偵・座間味くんの推理を堪能できる傑作集!


久々の座間味くんである。相変わらず穏やかながら、ただならぬ洞察力と、事象だけではなくその先に与える影響までをも慮れる想像力が見事である。話題に取り上げられた当人の思いも――もっともご当人の知るところではないのだが――、報われるというものである。そして座間味くんと大迫警視長との飲み会に上官・向島の命令で参加している南谷結月の真っ直ぐさがなんとも可愛い。その真っ直ぐさが危うさにも通じると危惧してこの飲み会に彼女を参加させた向島の度量の深さも魅力である。座間味くんの魅力を改めて見直させてくれた一冊である。

凪の司祭*石持浅海

  • 2016/02/18(木) 14:02:45

凪の司祭
凪の司祭
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石持 浅海
幻冬舎
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暑さが残る初秋の、とある土曜。コーヒー専門店店員・篠崎百代は、一人で汐留のショッピングモールへと向かった。できるだけ多くの人間を殺害するために。一方、百代の協力者・藤間護らは、仲間の木下が死亡しているのを発見する。計画の中止を告げるため、百代を追う藤間たちだったが…。緻密な設定と息もつかせぬ展開で、一気読み必至の傑作大長編!


こんなに普通のテロリストが現れてしまったら、手の打ちようがないではないか、というのが最初の感想である。だって、実行犯は、婚約者が継ぐ食堂を手伝うのに役立つようにとのコーヒー専門店でアルバイトをしているごく普通のどこにでもいる女性なのだから。政治的背景があるわけでもなく、後ろ盾にコワイ団体がついているわけでもない、ごく平凡な一般市民。それが、恋人の突然の死、それをもたらした遠因のひとつかもしれない場所を標的にして、二度と使い物にならないようにし、今後同じような被害者が出ることを少しでも防ぐために、綿密に計画されたテロなのだから。ごく普通に暮らしていた女性が、これほどまでに残酷な行動に徹しきれるのだろうか、という疑問は当然湧くが、それを於いておいたとしても、似たような状況に置かれたときに、群衆が取る反応は充分想像の範囲である。そして、日本の警察や機動隊がこの状況に対処するのは難しいだろうことも想像に難くない。だからなおさら恐ろしい。いやだいやだ。絶対に起こってほしくない事件である。にもかかわらず、ほんの少し百代を応援しそうになってしまうのは、動機ゆえだろうか。それにしても、動機はともかく、それ以後の行動はまさにテロリストの論理である。背筋が凍るような一冊だった。

罪人よやすらかに眠れ*石持浅海

  • 2015/12/31(木) 17:10:39

罪人よやすらかに眠れ
石持 浅海
KADOKAWA/角川書店 (2015-12-02)
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訪れた者は、この場所で自らの業と向き合う。それは揺らがぬ、この《館》のルール。

「この館に、業を抱えていない人間が来てはいけないんです」

北海道札幌市、中島公園のすぐそばに不思議な《館》がある。
公園と同じ名の表札を掲げるその建物に、吸い寄せられるように足を踏み入れた客の境遇はさまざまだ。
「友人と、その恋人」を連れた若者、
「はじめての一人旅」に出た小学生の女の子、
「徘徊と彷徨」をせざるを得ない中年男性、
「懐かしい友だち」を思い出すOL、
「待ち人来たらず」に困惑する青年、
「今度こそ、さよなら」をするために過去をひもとく女性……。
そして彼らを待ち受けるのは、北良(きたら)と名乗るおそろしく頭の切れる男。
果たして迷える客人たちは、何を抱えて《館》を訪れたのか?

ロジックの名手が紡ぐ、6つの謎。
まったく新しい《館》ミステリ、ここに誕生!


札幌市の中島公園にほど近い高級住宅街の、ひときわ大きな中島家の邸宅で繰り広げられる推理物語である。なぜか吸い寄せられるように、業を抱えた人物が中島邸の前へたどり着き、邸に住まう誰かに誘われて中島家にやってくる。犯した罪を白日の下に晒される者あり、業を洗い流して帰っていく者あり、さまざまであるが、抱えているものはかなり残酷な事々である。来訪者は、無理やり連れてこられたわけではないのだが、囚われた、という印象を受けるのは、業を宿した者を引き寄せる中島家と、元々業を抱えて邸に居ついてしまい、いまや探偵役となっている北良の存在ゆえだろうか。もっと別の来訪者の物語もぜひ読みたいと思わせる一冊である。

身代わり島*石持浅海

  • 2015/01/23(金) 18:47:45

身代わり島 (朝日文庫)身代わり島 (朝日文庫)
(2014/12/05)
石持 浅海

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景観豊かな鳥羽湾に浮かぶ本郷島が舞台となった大ヒットアニメーション映画『鹿子の夏』のイベント開催を実現させるため、木内圭子ら発起人5名は島を訪れる。しかし打ち合わせをはじめた矢先、メンバーの辺見鈴香が変わり果てた姿で発見される…。


アニメ映画のイベント開催に絡む敵対関係、映画監督と何か曰くがありそうな語り手・圭子の心の裡、映画の主人公が生きて現れたような民宿の娘・彩音、コアな鹿子オタク、などなど、意味ありげな要素があちこちに散らばっている中で起こる殺人事件である。密室でもなく特殊な状況でもない、普通の人々が登場する珍しい石持作品である。そのなかにあって、映画に興味もなく、ただ魚釣りを愉しみに来ている鳴川が、ひとり異質と言えば言えるかもしれない。そしてその鳴川が探偵役として、事件の謎を解き明かすのである。限られた状況から繰り出される推理は素晴らしいのだが、彼の素性がいまひとつよく判らず、圭子との関係も、どうなることやら、な印象なのが、いささか物足りない気もしなくはない。鳴川シリーズにして、鳴川のことをもっと知ることができたら、きっともっと入り込めるのではないかと思う。鳴川シリーズ、ぜひ読みたいと思わされる一冊である。

相互確証破壊*石持浅海

  • 2014/09/27(土) 21:08:55

相互確証破壊相互確証破壊
(2014/07/24)
石持 浅海

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エロスと論理の融合! ストレンジ風味炸裂
情事を映像に残す江見の真の意図は? 深夜のヒッチハイクの真の行く先は? 6人のヒロインと恋人たちの熱いセックスと怜悧な推理。


表題作のほか、「待っている間に」 「三百メートル先から」 「見下ろす部屋」 「カントリー・ロード」 「男の子みたいに」

うーん、やはりこの性描写は好きになれない。それ抜きでも全く支障がないのではないかとしか思えない。というか、それなしで理詰めで推理を展開してくれた方がよっぽどのめり込めるのに、と残念な思いさえしてしまう。二話目からはほとんど飛ばし読みだった一冊。

御子を抱く*石持浅海

  • 2014/08/21(木) 13:02:51

御子を抱く御子を抱く
(2014/07/14)
石持 浅海

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埼玉県越谷市某町―絵に描いた様に平和な新興住宅地であるこの町の住民の多くは、ある人物を師と仰ぐ集団の「門下生たち」によって占められていた。彼らは師亡き後も、その清廉な教えに恥じぬよう行動し、なんとか結束を保っていた。目覚めぬ遺児「御子」をめぐり牽制し合いながら…。しかし、かつて御子の生命を救った異端の研究者の死で、門下生たちの均衡は破れた。「私たちこそが、御子をいただくのにふさわしい」三つに分裂した各派閥によって始まった、熾烈な後継者争い。立て続けに起こる、凄惨な第二の死、第三の死。驚愕の真犯人が、人の命と引き換えてまで守ろうとしたものとは!?奇抜な状況設定における人間心理を、ひたすらロジカルに思考するミステリー界のトリックスター、石持浅海が放つ渾身の書下ろし長編。


新興宗教ではないのだが、門下生と呼ばれる者たちがそれに近い心理状態にあり、星川という一会社員を崇める構図ができあがっていた。星川は普通の人間で、ただ真心から他人に接するという気質の人だったのだが、彼の急死後、彼を取り巻いていた人々の間に動揺が広がる。階段から落ちて亡くなった星川の前妻と、大怪我をし、九死に一生を得たが未だに眠ったままの、門下生の間で「御子」と呼ばれるひとり息子、そして恋人であり事実上の現在の妻・順子、さらには門下生間の派閥のにらみ合いのようなものが先行きを暗くしているところであった。そんなときに御子の生命維持に関わる研究者江口が交通事故で亡くなり、辛うじて保たれていた均衡が揺らぐことになる。たまたま江口の救命活動に手を貸してくれた深井が、まったくの第三者としての客観的な観察眼で、論理的に絡まった糸をほぐしていくのが痛快である。誰ひとり悪人がいないのに、不幸が連鎖してしまい、何か痛ましいような心持ちになる一冊である。

二歩前を歩く*石持浅海

  • 2014/04/17(木) 18:21:21

二歩前を歩く二歩前を歩く
(2014/03/19)
石持 浅海

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不可解な謎と論理のアクロバット。
石持ミステリーの真骨頂!!

スリッパが勝手に歩く? 留守の間に風呂場の照明が点く?
現代科学では説明のつかない不思議な出来事。
幽霊のしわざか、はたまた超常現象か?
そこに隠れた法則を見つけ出したとき、意外な真相が浮かび上がる!


表題作のほか、「一歩ずつ進む」 「四方八方」 「五か月前から」 「ナナカマド」 「九尾の狐」

企業の研究所に勤める小泉が同僚や後輩、先輩たちのいささか尋常ではない悩みを聞くうち、論理的に謎を解き明かす連作である。特に変わったところもない小泉が、超常現象かと思われるような謎を、些細な引っ掛かりから少しずつ解き明かしていくのが、なるほどと思わされて興味深い。そしてそれだけでは終わらず、解き明かされた先に見えてくるものの禍々しさと、それまでの日常の謎的流れとの落差に愕然とさせられるのである。なんと恐ろしいことだろう。ぞくぞくする一冊である。

三階に止まる*石持浅海

  • 2013/08/09(金) 08:53:56

三階に止まる三階に止まる
(2013/07/20)
石持 浅海

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あなたの会社やマンションは大丈夫? 誰もボタンを押していないのに、必ず3階で止まるエレベーター。住民がそこに見たものは……? 奇妙な表題作はじめ、思わず背筋の凍るミステリー短編集。


表題作のほか、「宙(そら)の鳥籠」 「転校」 「壁の穴」 「院長室 EDS緊急推理解決院」 「ご自由にお使い下さい」 「心中少女」 「黒い方程式」

どれも――表題作だけはいささか趣が異なるが――著者らしく理路整然と読者を真実にたどり着かせてくれて興味深い。ひとつ次の段階に進むごとに、なるほどそうだったのか、とスッキリさせられる。やっぱり石持さんは面白いと思わされる一冊である。

わたしたちが少女と呼ばれていた頃*石持浅海

  • 2013/06/24(月) 16:43:03

わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (碓氷優佳シリーズ)わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (碓氷優佳シリーズ)
(2013/05/16)
石持 浅海

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新学期、横浜にある女子高の特進クラスで上杉小春は碓氷優佳という美少女に出会う。おしゃべりな小春とクールな優佳はやがて親友に―。二学期の中間試験で、東海林奈美絵が成績を急上昇させた。どうやら、夏休み中にできた彼氏に理由があるらしい。だが校則では男女交際は停学処分だ。気をもむ小春をよそに平然とする優佳。奈美絵のひと夏の恋の結末を優佳は見切ったようで…(「夏休み」)。教室のどこかで、生まれ続ける秘密。少女と大人の間を揺れ動きながら成長していくきらめきに満ちた3年間を描く青春ミステリー。


碓氷優佳の高校生時代の物語がいま読めるなんて、思ってもいなかった。そして高校生と言えどもやはり、優佳は優佳で、ちょっと鳥肌が立ってしまった。もちろん女子高生なので、女子高生らしい友だちづきあいもしているし、たわいのないおしゃべりもしているのだが、そんな日常生活の中でさえ、友人たちの誰も気づかないような些細な違和感を見つけてしまうのである。ラストの小春の慄きがとてもよくわかって、そんな風に産まてついてしまった優佳が可哀想になる。それはそれとして、ちょっぴり得したような一冊である。

この国。*石持浅海

  • 2013/06/23(日) 16:53:00

この国。 (ミステリー・リーグ)この国。 (ミステリー・リーグ)
(2010/06/10)
石持 浅海

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一党独裁の管理国家であるこの国では国家に対する反逆はもっとも罪が重く、人材育成をなにより重要視するこの国では小学校卒業時に児童の将来が決められ、非戦平和を掲げるこの国では士官学校はたんなる公務員養成所となり、経済の豊かなこの国では多くの女性が売春婦としておとずれ、文化を愛するこの国では「カワイイ」をテーマに博覧会が開かれる。そこで起こる「事件」の真の犯人は、やはりこの国自身なのかもしれない―。


治安警察の番匠少佐と、反政府組織の首謀者・松浦との命とメンツを賭けた戦いがキーになった連作短編集である。
裏をかき合う戦略の応酬は見応えがあるし、番匠のタフさにも目を瞠るのだが、それぞれの物語のラストに救いがないのがいささか辛くもある。2010年の作品だが、2013年のいま読むと、そこはかとなく厭な感じがするのはわたしだけだろうか。この国が我が国とイコールにならないことを祈りたい一冊である。

カード・ウォッチャー*石持浅海

  • 2013/06/19(水) 21:08:36

カード・ウォッチャーカード・ウォッチャー
(2013/03/13)
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ある日、遅くまでサービス残業をしていた研究員・下村が起こした小さな事故が呼び水となり、塚原ゴムに臨検が入ることになった。突然決まった立入検査に、研究総務・小野は大慌て。早急に対応準備を進めるが、その際倉庫で研究所職員の死体を発見してしまい…。現役サラリーマンが描く、新感覚ロジカルミステリー。


きっかけは、サービス残業に疲れて椅子の背もたれに寄りかかって伸びをした下村が、背もたれが壊れて右手首に怪我をしたこと。すべてがここから始まる物語である。労働基準監督署の臨検が入ることになった塚原ゴム。担当官が来社する直前に、さらに思ってもいないことが起こり、労働基準監督署の担当官・北川と塚原ゴム側の担当者・米田と小野の一見穏やかな戦いの幕が切って落とされるのだった。物語は、ある会社の臨検の様子を描いているだけとも言えるのだが、北川の調査姿勢がただの仕事熱心とはひと味違い、違和感をひとつずつ拾い上げて検証する探偵のようでもあって、ちゃんとミステリになっているのが不思議である。人の心の動きと、それを見逃がさない怜悧な目。面白くてページを繰る手が止まらない一冊である。

届け物はまだ手の中に*石持浅海

  • 2013/03/25(月) 17:04:35

届け物はまだ手の中に届け物はまだ手の中に
(2013/02/16)
石持 浅海

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楡井和樹は恩師・益子の仇である江藤を殺した。しかし、まだ終わっていない。裏切り者であるかつての親友・設楽宏一にこの事実を突きつけなければ、復讐は完結しないのだ。設楽邸に向かった楡井は、設楽の妻、妹、秘書という三人の美女に迎えられる。息子の誕生パーティーだというのに、設楽は急な仕事で書斎にいるという。歓待される楡井だが、肝心の設楽はいつまで経っても姿を見せない。書斎で何が起こっているのか―。石持浅海が放つ、静かなる本格。


著者らしい一冊である。クールビューティもちゃんと登場する。復讐を果たし、途中で裏切ったかつての親友に事実を見せつけるために、偶然を装って自宅を訪ねた楡井が、なかなか姿を現さない旧友と、彼の妻・妹・秘書の振る舞いの不自然さから、状況を分析し、推理し、事実にたどり着くという趣向である。読者は自然に楡井と一緒に推理しながら読み進めることになり、興味が増す。さまざまな想像をしながら読んだが、事実は全く違うところにあり、しかも充分すぎるほど納得できるものであった。そうきたか、という感じ。しかし女は――というか守るべきものがある女は――強い、と改めて思わされる一冊でもある。

フライ・バイ・ワイヤ*石持浅海

  • 2012/12/22(土) 18:22:37

フライ・バイ・ワイヤフライ・バイ・ワイヤ
(2012/11/29)
石持 浅海

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僕、宮野隆也が通うさいたま工科大学附属高校の選抜クラスに、転入生としてやってきたのは二足歩行のロボットだった。これは病気のため学校に来られない一ノ瀬梨香という少女を、遠隔操作で動くロボットを通じて登校させる実験だという。僕たちは戸惑いつつも“彼女”の存在を受け入れ、実験は順調なすべりだしを見せたが、小さな疑念がクラスに不協和音をもたらし、悲劇は起こった。近未来を舞台にした、学園ミステリ。


フライ・バイ・ワイヤとは、航空機の飛行・操縦制御システムの一種で、パイロットが入力した内容が電気信号に変換されてコンピュータを通じて油圧アクチュエータに伝えられるものだそうである。
一ノ瀬梨香とIMMID-28もそんな関係とも言えるのである。近未来が舞台とは言え、二足歩行ロボットがクラスメイトである以外、さいたま工科大学附属高校の選抜クラスの日々は、これと言って今の学園生活と変わるところもない。恋あり友情あり、定期考査の結果に悔しい思いをしたり、部活や放課後の寄り道を愉しんだり、いまの高校生と何ら変わるところはない。ただ彼らがはっきりとした目的意識を持ってこの場にいるということが見て取れるのは、選抜クラスという性質上当然だろう。ここで起こった悲劇は、それ故、と言うこともできるかもしれない。著者ならではの、明晰で一見硬質な女性は本作では差し詰めかみーとみおみおだろうか。ロボットがひとり(一体?)いるだけで、歯車の噛み合い方がこんな風に変わってしまうのか、と思うとともに、それでも友だちは友だちなのだとも思わされる。次の展開が待ち遠しくて仕方のない一冊だった。