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新しい世界で 座間味くんの推理*石持浅海
- 2022/03/01(火) 18:03:49
大学生の玉城聖子、警視庁の幹部、会社員の座間味くん。世代も性別もバラバラだが、不可解な話を肴に酌み交わす仲だ。杯が進むほど推理は冴えていく。極上の酒。かけがえのない友。不可解な謎。鮮やかな反転。2021年の掉尾を飾る、短編本格ミステリの精華!
新宿東口の書店で待ち合わせて飲みに行き、警視庁幹部の大迫が提供した話題に、座間味くんと聖子があれこれコメントし、最後は座間味くんがぽつりとつぶやくひとことから始まる謎解きのような見解にうならされる、という定型と言ってもいい趣向の物語である。なので、座間味くんがどう解明するかと、考えながら読み進めるのだが、いつも目を開かされる心持ちになるのである。相変わらず頭が切れる座間味くんである。そして、このラストはなんてしあわせなのだろう。これ以上ない展開ではないか。座間味くんシリーズは終わってしまうの?新しい世界でまだまだ続いてほしいシリーズである。
君が護りたい人は*石持浅海
- 2021/11/05(金) 16:42:15
周到な計画。何重もの罠。
強固な殺意を阻むのは、故意か、偶然か。
容赦なき読み――名探偵・碓氷優佳。ベストセラーシリーズ最新刊!
成富歩夏が両親を亡くして十年、後見人だった二十も年上の奥津悠斗と婚約した。高校時代から関係を迫られていたらしい。歩夏に想いを寄せる三原一輝は、奥津を殺して彼女を救い出すことを決意。三原は自らの意思を、奥津の友人で弁護士の芳野友晴に明かす。犯行の舞台は皆で行くキャンプ場。毒草、崖、焚き火、暗闇……三原は周到な罠を仕掛けていく。しかし完璧に見えた彼の計画は、ゲストとして参加した碓氷優佳によって狂い始める。見届け人を依頼された芳野の前で、二人の戦いが繰り広げられる――。
碓氷優佳、今回もさりげなく怖い。バーベキューに参加した彼女が何をしたのか、わかる人にしかわからない。わからない人にとっては、単なるメンバーの知り合いで今回だけ参加した人ということになる。それなのに、しっかり殺人を阻止してしまう。とは言え、誰も死ななかったかと言えばさにあらず。まさかそこまでタイミングを計ったとは思えないが、ぜっていにないとは言い切れないところが、敵に回したくない所以である。相変わらず、計り知れない女性である。そして、それこそが彼女の魅力でもある。ただ、今回の殺人計画者が、彼女と対決するには力不足だった気がしてしまうのは、わたしだけだろうか。ハラハラドキドキそしてほっと息をつくという目まぐるしい一冊だった。
殺し屋、続けてます。*石持浅海
- 2019/12/29(日) 16:37:45
ビジネスに徹する殺し屋、富澤に商売敵現る? 発売即重版となった『殺し屋、やってます。』に続く、日常(?)の謎シリーズ第二弾。
主人公はプロの殺し屋なので、本来憎むべきなのではあるが、下調べは完ぺきで、仕事は必ず成功させるという優秀さ。加えて、普段は人畜無害の極みのような趣で、経営コンサルタントなどという仕事をしているのである。憎めないではないか。この世界に殺し屋あり、と潔く認めてしまった方が、心行くまで愉しめる、というものである。今回は、そんな殺し屋富澤とは別に、中年女性の殺し屋まで現れ、その私生活も、思わず応援したくなってしまうようなものなので、これはもう応援するしかないではないか。そして、こうなったからには、彼女が富澤の敵になるのか味方になるのか、次作で追ってほしいものである。長く続いてほしい魅力満載のシリーズである。
Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス*石持浅海
- 2019/09/16(月) 18:47:03
長江、渚、夏美は大学時代からの飲み仲間だった。
やがて長江と渚は夫婦になり、夏美は会社の同僚・健太と結婚、それぞれ子を持つ親に。
長江の海外赴任でしばらく途切れていた“宅飲み”が、帰国をきっかけに復活。
簡単&絶品グルメをアテに、世間話はいつも思わぬ方向へ……。
米焼酎×サーモンの酒粕漬け=双子が一日ずれるワケ
日本酒×イカの肝焼き=二年の未婚期間の秘密
紹興酒×鶏手羽のピリ辛煮=受験の本当の成功とは
ビール×たこ焼き=悪口上手なママの離婚
旨い酒×時短レシピの絶品グルメ=極上の謎解き!
おいしい料理とお酒、気心の知れた仲間との語らいのひととき、というところは前作と変わらないのだが、今作では、夏美の夫の健太と、息子の大、そして長江夫妻の娘の咲が新たに加わっている。子どもたちはまだ小学生なので、一足先に夕食を済ませて、ふたりで宿題をしたり漫画を読んだりして過ごし、大人たちは、おいしい料理とそれに合うお酒を愉しみつつ、語らうのである。だが、毎回、何かのきっかけで記憶を刺激され、ミステリめいた話になっていくのである。ああだこうだ言いあいながらの推理を見ているだけで愉しくなる。そして、料理もお酒もあらかたなくなるころ、みんなが納得できる結論へとたどり着くのである。それが毎回、なるほど、とうならされる。最後の物語には、ちょっとした仕掛けが施されているが、次につながっていきそうな予感もして嬉しくなる。ひとつひとつは短い物語なので、読みやすく愉しめる一冊である。
不老虫*石持浅海
- 2019/06/01(土) 19:18:46
人類の脅威となる恐ろしい習性を持つという寄生虫"不老虫"が日本に入ってくるかもしれない――。日本の未来は美貌の“ハンター"に委ねられた! 本格ミステリー作家・石持浅海が放つ飛びっきりの変化球に仰天せよ!!
ミステリともサスペンスともホラーともつかない、それらがすべて混ざり合ったような物語である。とても現実とは思えないながら、想定外のことが次々に起こる現代にあっては、絶対にありえないとは言えない恐ろしさがある。しかも、その利用目的が認知症の治療ということであれば、なおさらこういうことも起こり得るかもしれないと思えてしまう。希望を人質に取られて不安と恐怖を突き付けられるようなおぞましさである。だが、認知症の治療薬も捨てがたいのは確かである。ラストまで安心しきれない展開は、この事案が決して終わっていないことを印象付ける。救いは、酒井とジャカランダの心にあたたかいものが通い合ったことだろう。想定外のさらに外を常に考えておかねばならない時代が来ているのかもしれないと思わされる一冊でもあった。
崖の上で踊る*石持浅海
- 2019/01/27(日) 09:06:25
那須高原にある保養所に集まった、絵麻をはじめとする十人の男女。彼らの目的は、自分たちを不幸に陥れた企業「フウジンブレード」の幹部三人を、復讐のために殺害することだった。計画通り一人目を殺した絵麻たち。次なる殺人に向けて、しばしの休息をとった彼らが次に目にしたのは、仲間の一人の変わり果てた姿だった―。クローズドサークルの名手が挑む、予測不能の本格ミステリー。
とても著者らしい組み立て方の物語である。かなり凄惨な場面も多く、目をそむけたくなることもあるのだが、そこはさらっと描き、理詰めでひとつずつ目の前にある要素を積み上げていく。場面上荷動きは多くなく、考えながら語る部分が多くて、退屈しそうにも思うのだが、そこが著者の巧みなところだろう。時系列で起こったことを思い出しながら、語りにのめり込んでしまう。いくつもの殺人を目の前にし、残虐な復讐をそれでも続けようとする人たちにはとても見えない穏やかさすら感じてしまうのが不思議である。息をつめてのめり込む一冊である。
賛美せよ、と成功は言った*石持浅海
- 2017/11/26(日) 07:13:23
武田小春は、十五年ぶりに再会したかつての親友・碓氷優佳とともに、予備校時代の仲良しグループが催した祝賀会に参加した。
仲間の一人・湯村勝治が、ロボット開発事業で名誉ある賞を受賞したことを祝うためだった。
出席者は恩師の真鍋宏典を筆頭に、主賓の湯村、湯村の妻の桜子を始め教え子が九名、総勢十名で宴は和やかに進行する。
そんな中、出席者の一人・神山裕樹が突如ワインボトルで真鍋を殴り殺してしまう。
旧友の蛮行に皆が動揺する中、優佳は神山の行動に〝ある人物〟の意志を感じ取る。
小春が見守る中、優佳とその人物との息詰まる心理戦が始まった……。
白熱の対局を観戦しているような読み応え! 倒叙ミステリの新たな傑作、誕生。
碓氷優佳物語の最新作である。相変わらず冷製で、理詰めで周囲を固め、攻め上っていく印象である。予備校時代の仲間たちのなかで、最初に成功を手にした湯村を祝う会の席上で、隣の席にいて、いちばん慕っていたはずの恩師の真鍋をワインボトルで殴って死なせた神山を巡り、いち早くそのからくりに気づいた優佳が、きっかけを作った人物をさりげなく追い詰める姿とほかのメンバーの反応を、本作の語り手役の武田小春の目を通して描いていく。他者にはただの雑談と映る場面でも、事情を察している小春に語らせることで、二人の応酬のギリギリ感が伝わってきてハラハラドキドキを愉しめる。犯人(と言っていいのかは疑問だが)の真意には途中でうっすら気づいたが、それでも興味は削がれることなく、二人の伯仲したやり取りと、他のメンバーの裡に抱えた心情が暴露され始める緊張感で、ページを繰る手を止められなくなる。優佳のことをもっともっと知りたいと思わされる一冊である。
鎮憎師*石持浅海
- 2017/08/05(土) 16:27:09
赤垣真穂は学生時代のサークル仲間の結婚式の二次会に招かれた。その翌日、仲間の一人が死体となって発見される。これは、三年前にあった“事件”の復讐なのか!?真穂は叔父から「鎮憎師」なる人物を紹介される…。奇想の作家が生み出した“鎮憎師”という新たなる存在。彼は哀しき事件の真相を見極め、憎しみの炎を消すことができるのか―。
理詰めでじわじわと外堀から埋めていって真相にいきつく著者流の謎解きが健在である。ことに、事件の当事者の八人が理系の大学出身ということで、情に流されない理論的な検証が自然である。とは言え、人間関係は、理詰めでいかないことの方が圧倒的に多く、そんな意のままにならない人間関係によって事件は引き起こされるのである。犯人を暴くのではなく、憎しみの連鎖を止めるという「鎮憎師」と呼ばれる沖田の存在が、狭い関係性に新しい何かを吹き込み、あとから思い出したふとした違和感から真犯人にたどり着くという結果にもなる。たったこれだけの関係者の中で、そういう趣向の人間があれだけいるというのは、いささか不自然な気がしなくもないが、ひとつずつ積み重ねていく過程と、お互いを案じる思いとに惹きこまれる。好きな一冊である。
殺し屋、やってます。*石持浅海
- 2017/02/19(日) 16:48:36
ひとりにつき650万円で承ります。ビジネスとして「殺し」を請け負う男、富澤。仕事は危なげなくこなすが、標的の奇妙な行動がどうも気になる―。殺し屋が解く日常の謎シリーズ、開幕。
コンサルティング会社を営む中年男性・冨澤允が主人公。顧客は主に中小企業なので、儲けはあまり出ないが、副業のおかげでそこそこ楽な暮らしをしている。その副業がなんと殺し屋なのである。依頼人と殺し屋の間に2クッション置くことによって、双方共の安全が確保されるという仕組みで仕事を請け負っている。料金は前金で300万円、成功したら350万円。悲壮感も罪の意識も感じさせない軽いノリなのが、物語の世界ならではだろう。ターゲットの周囲の腑に落ちない点を調査し、連絡係の塚原や恋人のユキちゃんと一緒に推理して、すっきりさせるのもいつものことである。納得できないと仕事は請け負わないのである。たまに人助けもするが、あくまでも我が身に被害が降りかからないようにである。そして仕事をすると決めたら、一瞬もためらわずにこなす。冷酷無比な殺し屋のように聞こえるが、その辺にいるごく普通の男性であるというミスマッチが不思議である。読んでいると、冨澤に肩入れしたくなってくるのも不思議である。あくまでも物語世界の中だけということで、愉しませてもらった一冊である。シリーズ化されるということで今後も愉しみである。
パレードの明暗 座間味くんの推理*石持浅海
- 2017/01/06(金) 16:40:41
警視庁の女性特別機動隊に所属し、羽田空港の保安検査場に勤務する南谷結月は、日々の仕事に不満を感じていた。身体を張って国民を護るのが、警察官として最も崇高な使命だ。なのに―。そんな不満と視野の狭さに気付いた上官から、結月はある飲み会に同席するように言われる。行ってみた先に待っていたのは、雲の上の人である大迫警視長と、その友人の民間人・座間味くんだった。盟友・大迫警視長の語る事件の概要から、隠れた真相を暴き出す!名探偵・座間味くんの推理を堪能できる傑作集!
久々の座間味くんである。相変わらず穏やかながら、ただならぬ洞察力と、事象だけではなくその先に与える影響までをも慮れる想像力が見事である。話題に取り上げられた当人の思いも――もっともご当人の知るところではないのだが――、報われるというものである。そして座間味くんと大迫警視長との飲み会に上官・向島の命令で参加している南谷結月の真っ直ぐさがなんとも可愛い。その真っ直ぐさが危うさにも通じると危惧してこの飲み会に彼女を参加させた向島の度量の深さも魅力である。座間味くんの魅力を改めて見直させてくれた一冊である。
凪の司祭*石持浅海
- 2016/02/18(木) 14:02:45
暑さが残る初秋の、とある土曜。コーヒー専門店店員・篠崎百代は、一人で汐留のショッピングモールへと向かった。できるだけ多くの人間を殺害するために。一方、百代の協力者・藤間護らは、仲間の木下が死亡しているのを発見する。計画の中止を告げるため、百代を追う藤間たちだったが…。緻密な設定と息もつかせぬ展開で、一気読み必至の傑作大長編!
こんなに普通のテロリストが現れてしまったら、手の打ちようがないではないか、というのが最初の感想である。だって、実行犯は、婚約者が継ぐ食堂を手伝うのに役立つようにとのコーヒー専門店でアルバイトをしているごく普通のどこにでもいる女性なのだから。政治的背景があるわけでもなく、後ろ盾にコワイ団体がついているわけでもない、ごく平凡な一般市民。それが、恋人の突然の死、それをもたらした遠因のひとつかもしれない場所を標的にして、二度と使い物にならないようにし、今後同じような被害者が出ることを少しでも防ぐために、綿密に計画されたテロなのだから。ごく普通に暮らしていた女性が、これほどまでに残酷な行動に徹しきれるのだろうか、という疑問は当然湧くが、それを於いておいたとしても、似たような状況に置かれたときに、群衆が取る反応は充分想像の範囲である。そして、日本の警察や機動隊がこの状況に対処するのは難しいだろうことも想像に難くない。だからなおさら恐ろしい。いやだいやだ。絶対に起こってほしくない事件である。にもかかわらず、ほんの少し百代を応援しそうになってしまうのは、動機ゆえだろうか。それにしても、動機はともかく、それ以後の行動はまさにテロリストの論理である。背筋が凍るような一冊だった。
罪人よやすらかに眠れ*石持浅海
- 2015/12/31(木) 17:10:39
KADOKAWA/角川書店 (2015-12-02)
売り上げランキング: 145,117
訪れた者は、この場所で自らの業と向き合う。それは揺らがぬ、この《館》のルール。
「この館に、業を抱えていない人間が来てはいけないんです」
北海道札幌市、中島公園のすぐそばに不思議な《館》がある。
公園と同じ名の表札を掲げるその建物に、吸い寄せられるように足を踏み入れた客の境遇はさまざまだ。
「友人と、その恋人」を連れた若者、
「はじめての一人旅」に出た小学生の女の子、
「徘徊と彷徨」をせざるを得ない中年男性、
「懐かしい友だち」を思い出すOL、
「待ち人来たらず」に困惑する青年、
「今度こそ、さよなら」をするために過去をひもとく女性……。
そして彼らを待ち受けるのは、北良(きたら)と名乗るおそろしく頭の切れる男。
果たして迷える客人たちは、何を抱えて《館》を訪れたのか?
ロジックの名手が紡ぐ、6つの謎。
まったく新しい《館》ミステリ、ここに誕生!
札幌市の中島公園にほど近い高級住宅街の、ひときわ大きな中島家の邸宅で繰り広げられる推理物語である。なぜか吸い寄せられるように、業を抱えた人物が中島邸の前へたどり着き、邸に住まう誰かに誘われて中島家にやってくる。犯した罪を白日の下に晒される者あり、業を洗い流して帰っていく者あり、さまざまであるが、抱えているものはかなり残酷な事々である。来訪者は、無理やり連れてこられたわけではないのだが、囚われた、という印象を受けるのは、業を宿した者を引き寄せる中島家と、元々業を抱えて邸に居ついてしまい、いまや探偵役となっている北良の存在ゆえだろうか。もっと別の来訪者の物語もぜひ読みたいと思わせる一冊である。
身代わり島*石持浅海
- 2015/01/23(金) 18:47:45
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景観豊かな鳥羽湾に浮かぶ本郷島が舞台となった大ヒットアニメーション映画『鹿子の夏』のイベント開催を実現させるため、木内圭子ら発起人5名は島を訪れる。しかし打ち合わせをはじめた矢先、メンバーの辺見鈴香が変わり果てた姿で発見される…。
アニメ映画のイベント開催に絡む敵対関係、映画監督と何か曰くがありそうな語り手・圭子の心の裡、映画の主人公が生きて現れたような民宿の娘・彩音、コアな鹿子オタク、などなど、意味ありげな要素があちこちに散らばっている中で起こる殺人事件である。密室でもなく特殊な状況でもない、普通の人々が登場する珍しい石持作品である。そのなかにあって、映画に興味もなく、ただ魚釣りを愉しみに来ている鳴川が、ひとり異質と言えば言えるかもしれない。そしてその鳴川が探偵役として、事件の謎を解き明かすのである。限られた状況から繰り出される推理は素晴らしいのだが、彼の素性がいまひとつよく判らず、圭子との関係も、どうなることやら、な印象なのが、いささか物足りない気もしなくはない。鳴川シリーズにして、鳴川のことをもっと知ることができたら、きっともっと入り込めるのではないかと思う。鳴川シリーズ、ぜひ読みたいと思わされる一冊である。
相互確証破壊*石持浅海
- 2014/09/27(土) 21:08:55
御子を抱く*石持浅海
- 2014/08/21(木) 13:02:51
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埼玉県越谷市某町―絵に描いた様に平和な新興住宅地であるこの町の住民の多くは、ある人物を師と仰ぐ集団の「門下生たち」によって占められていた。彼らは師亡き後も、その清廉な教えに恥じぬよう行動し、なんとか結束を保っていた。目覚めぬ遺児「御子」をめぐり牽制し合いながら…。しかし、かつて御子の生命を救った異端の研究者の死で、門下生たちの均衡は破れた。「私たちこそが、御子をいただくのにふさわしい」三つに分裂した各派閥によって始まった、熾烈な後継者争い。立て続けに起こる、凄惨な第二の死、第三の死。驚愕の真犯人が、人の命と引き換えてまで守ろうとしたものとは!?奇抜な状況設定における人間心理を、ひたすらロジカルに思考するミステリー界のトリックスター、石持浅海が放つ渾身の書下ろし長編。
新興宗教ではないのだが、門下生と呼ばれる者たちがそれに近い心理状態にあり、星川という一会社員を崇める構図ができあがっていた。星川は普通の人間で、ただ真心から他人に接するという気質の人だったのだが、彼の急死後、彼を取り巻いていた人々の間に動揺が広がる。階段から落ちて亡くなった星川の前妻と、大怪我をし、九死に一生を得たが未だに眠ったままの、門下生の間で「御子」と呼ばれるひとり息子、そして恋人であり事実上の現在の妻・順子、さらには門下生間の派閥のにらみ合いのようなものが先行きを暗くしているところであった。そんなときに御子の生命維持に関わる研究者江口が交通事故で亡くなり、辛うじて保たれていた均衡が揺らぐことになる。たまたま江口の救命活動に手を貸してくれた深井が、まったくの第三者としての客観的な観察眼で、論理的に絡まった糸をほぐしていくのが痛快である。誰ひとり悪人がいないのに、不幸が連鎖してしまい、何か痛ましいような心持ちになる一冊である。
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