クリスマスを探偵と*文 伊坂幸太郎  絵 マヌエール・フィオール

  • 2018/02/03(土) 07:20:59

クリスマスを探偵と
クリスマスを探偵と
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伊坂幸太郎
河出書房新社
売り上げランキング: 158,560

舞台はドイツ。
探偵カールがクリスマスの夜に出会った謎の男とは……?
伊坂幸太郎が贈る聖夜の奇跡の物語
大学生のときに著者が初めて書いた小説(初出『文藝別冊 伊坂幸太郎』/2010年小社刊)を自身の手により完全リメイク!

デビュー以来の伊坂作品のモチーフ、
「探偵」「男2人」「親子愛」「巧妙な構成」「ラストのどんでん返し」……
などのエッセンスがすべて凝縮された、珠玉の物語。
伊坂作品にはおなじみ、あのキャラクターの元祖とも言える人物も登場。

* * * * *

生まれて初めて完成させた短篇が元となった作品です。 ──── 伊坂幸太郎

お話の最後ではいつも呆然となり、もう一度読み直したい気持ちで胸がいっぱいになりました。 ──── マヌエーレ・フィオール


街角にたたずんだだけで、物語の登場人物になった心地になる、ローテンブルグの街が舞台の絵本である。時はまさにクリスマスイブ。ロマンティックな物語が始まるのかと思いきや、主人公の探偵は浮気調査の真っ最中。偶然公園で出会った男と何気なく始めた会話がなんとも味があって深い。話しているうちに判った浮気調査の実態にまず驚かされ、男が繰り広げる仮定の話しの見事さに目を瞠り、最後の最後にさらなる驚きが準備されていて、知らず知らずに頬がゆるんであたたかな気持ちになる。絵本とは言え、題材が子ども向きとは言い辛いが、波立った心が静かに凪いでいくような一冊である。

AX*伊坂幸太郎

  • 2018/02/02(金) 07:35:13

AX アックス
AX アックス
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伊坂 幸太郎
KADOKAWA (2017-07-28)
売り上げランキング: 2,132

最強の殺し屋は――恐妻家。

物騒な奴がまた現れた!
新たなエンタメの可能性を切り開く、娯楽小説の最高峰!

「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。
一人息子の克巳もあきれるほどだ。
兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。
引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。

こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。

書き下ろし2篇を加えた計5篇。シリーズ初の連作集!


文句なく面白い。プロの殺し屋と文房具会社の営業マンの顔を使い分ける主人公・兜。と聞けば、冷酷で、常に冷静さを失わない男を想像するが、実は家では常に妻のご機嫌を伺う気弱な夫で、そのギャップの激しさに、戸惑うのだが、難なく両立させてしまうのは、著者の力量だろう。手術と呼ばれる裏の仕事をこなすときには、効率的に瞬殺とも言える素早さで事に当たるのに、それ以外の場面での人情味あふれる顔を見ると、憎めなくなるのはずるい。そして、あっけない最期の後に配された章が秀逸で、更生の見事さにうならされる。魅力的過ぎる一冊である。

サブマリン*伊坂幸太郎

  • 2016/07/26(火) 17:06:14

サブマリン
サブマリン
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伊坂 幸太郎
講談社
売り上げランキング: 22,780

「武藤、別におまえが頑張ったところで、事件が起きる時は起きるし、起きないなら起きない。そうだろ? いつもの仕事と一緒だ。俺たちの頑張りとは無関係に、少年は更生するし、駄目な時は駄目だ」/「でも」/うるせえなあ、と言いたげに陣内さんが顔をしかめた。/「だいたい陣内さん、頑張ってる時ってあるんですか?」/と僕は言ったが電車の走行音が激しくなったせいか、聞こえていないようだった。(本文より)

『チルドレン』から、12年。家裁調査官・陣内と武藤が出会う、新たな「少年」たちと、罪と罰の物語。


陣内と永瀬の物語ふたたび、である。相変わらずの陣内である。絶対に上司にしたくない人の上位に位置づけられるのは間違いなく、部下として働く武藤の日々のストレスたるやいかばかりかと同情を禁じ得ない。上司にはしたくないし、親しい友人としてもどうかと思う陣内ではあるのだが、だからと言って憎むべき屋からかといえば、まったくそうではなく、逆になんともかっこよかったりもするから始末が悪い。家裁調査官などと言う職業にはもっとも向いていない人材と言えそうなのだが、その実、結果だけを見れば、天職かもしれないとさえ思えてしまう不思議さ。陣内という人のことが、まるで分らなくなるが、ほんの中にいてくれさえすれば、なんとも魅力的なのである。ただいい加減なことを吹聴しているだけに見えて、結構核心を突いたことを言っていたりもして、担当した少年たちも、周りの大人たちも、いつの間にか取り込まれていると言った感じである。陣内の謎にもっと迫りたい。次も愉しみにしたいシリーズである。

陽気なギャングは三つ数えろ*伊坂幸太郎

  • 2016/01/29(金) 07:43:01

陽気なギャングは三つ数えろ (ノン・ノベル)
伊坂幸太郎
祥伝社
売り上げランキング: 2,662

絶体絶命のカウントダウン!
史上最強の天才強盗4人組に強敵あらわる!
嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女――
180万部シリーズ待望の最新作!

陽気なギャング一味の天才スリ久遠は、消えたアイドル宝島沙耶を追う火尻を、暴漢から救う。だが彼は、事件被害者のプライバシーをもネタにするハイエナ記者だった。正体に気づかれたギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器成瀬ら面々は断崖に追いつめられた! 必死に火尻の急所を探る四人組に、やがて絶体絶命のカウントダウンが! 人気シリーズ、九年ぶりの最新作!


陽気なギャングシリーズの最新作である。このシリーズを読むと、ついギャングを応援したくなってしまうのが難なのだが、今回も見事にやってのけてくれた。そこまではよかったのだが、久遠が負わされた怪我によって、ハイエナのような週刊誌の記者に疑われることになり、以後、身辺で不穏なことが立て続けに起きるようになる。自分たちの身を守ることと、ハイエナ記者に恨みを持つ者たちに肩入れすること、両方を叶えることはできるのか。記者が厭な奴なのでなおさらギャングたちを応援したい気持ちが募るのである。彼らのキャラクタと掛け合いも相変わらず絶妙で、真面目であるほど笑えるのもいつも通りでうれしくなる。もうギャングはやめてしまうのだろうかという一抹の不安も抱えつつ、それ以外の活躍だけでもいいから、ずっと長く続けてほしいと思うシリーズである。

ジャイロスコープ*伊坂幸太郎

  • 2015/09/25(金) 18:44:10

ジャイロスコープ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎
新潮社 (2015-06-26)
売り上げランキング: 3,700

助言あり〼(ます)――。スーパーの駐車場で“相談屋”を営む稲垣さんの下で働くことになった浜田青年。人々のささいな相談事が、驚愕の結末に繋がる「浜田青年ホントスカ」。バスジャック事件を巡る“もし、あの時……”を描く「if」。文学的挑戦を孕んだ「ギア」。洒脱な会話、軽快な文体、そして独特のユーモアが詰まった七つの伊坂ワールド。書下ろし短編「後ろの声がうるさい」収録。


意外性も含めて著者らしさが詰まった短編集だと思う。いつもながらに読者を喜ばせるリンクもちゃんとあり、クスリとさせられたりもする。冒頭に置かれた辞書の「ジャイロスコープ」の項を模した意味解説も遊び心に富んでいてうれしくなる。難解さ、堂々巡り、繋がり、すべて含めて伊坂流といった趣の一冊である。

アイネクライネナハトムジーク*伊坂幸太郎

  • 2015/08/27(木) 16:37:12

アイネクライネナハトムジーク
伊坂 幸太郎
幻冬舎
売り上げランキング: 19,045

ここにヒーローはいない。さあ、君の出番だ。奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、他力本願で恋をしようとする青年、元いじめっこへの復讐を企てるOL…。情けないけど、愛おしい。そんな登場人物たちが作り出す、数々のサプライズ。


あとがきに書かれているように、初めの二編は、斉藤和義さんに「恋愛をテーマにしたアルバムを作るので、『出会い』にあたる曲の歌詞を書いてくれないか」と頼まれたのがきっかけだそうである。恋愛ものには興味のなかった著者だが、斉藤和義さんのファンだったので、引き受けることにしたのだとか。なので、このところの著者の作風とはいささか異なった物語になっている。だが当然伊坂さんである。主題が恋愛に関するあれこれだとしても、てんでに散らばっているように見えるパズルのピースを、最後にはきっちりしかるべきところにはめ込んで見せてくれるのである。場所を、時を、自在に行き来しながら、ある時は親子、またある時はかつての同級生、という風に、登場人物が次々と繋がっていくのは、見ていてぞくぞくする。そして油断していた最後の最後にまで、こんな人物が、と思わせる人がピースのひとつになっていて興奮する。恋愛に留まらず、広く愛と、そして勇気の物語と言っても間違いではないと思われる一冊である。

火星に住むつもりかい?*伊坂幸太郎

  • 2015/03/28(土) 07:38:04

火星に住むつもりかい?火星に住むつもりかい?
(2015/02/18)
伊坂 幸太郎

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この状況で生き抜くか、もしくは、火星にでも行け。希望のない、二択だ。
密告、連行、苛烈な取り調べ。
暴走する公権力、逃げ場のない世界。
しかし、我々はこの社会で生きていくしかない。
孤独なヒーローに希望を託して――。
らしさ満載、破格の娯楽小説!


いまの時代だからこその物語のような気がする。バットマン的正義の味方が現れるかどうかは別として、平和警察の存在は、虚構の世界のできごととして安閑とはしていられないようにも思われて、空恐ろしささえ感じてしまう。黒ずくめの正義の味方が生まれたいきさつも、成り行き感満載で、いまの時代を映しているようにもみえる。著者が武器に選んだものも、虚を突かれた感がある。銃火器だけが武器になるわけではないのだ。東京からやってきた個性的な捜査官・真壁鴻一郎があっけなくやられたときには、こんなはずはないと思ったが、彼の続編をぜひ読みたいものである。いろいろと示唆に富む一冊である

首折り男のための協奏曲*伊坂幸太郎

  • 2014/03/28(金) 07:30:02

首折り男のための協奏曲首折り男のための協奏曲
(2014/01/31)
伊坂 幸太郎

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首折り男は首を折り、黒澤は物を盗み、小説家は物語を紡ぎ、あなたはこの本を貪り読む。胸元えぐる豪速球から消える魔球まで、出し惜しみなく投じられた「ネタ」の数々! 「首折り男」に驚嘆し、「恋」に惑って「怪談」に震え「合コン」では泣き笑い。黒澤を「悪意」が襲い、「クワガタ」は覗き見され、父は子のため「復讐者」になる。技巧と趣向が奇跡的に融合した七つの物語を収める、贅沢すぎる連作集。


連作集とは言え、それぞれが緊密に繋がっているわけでもない。ゆる~い流れに乗っているという感じの連作である。首折り男と黒澤と合コンメンバー。一見何のつながりもなさそうでありながら、そして実際的なつながりはないものの、物語としてはゆるく遠く繋がっているのである。今作のキーワードは時空の捻じれと神の気まぐれ、だろうか。そしてなぜだか、懐かしくて哀しくて切ない想いが胸に満ちてくるような気がする一冊でもある。

死神の浮力*伊坂幸太郎

  • 2013/09/29(日) 21:23:38

死神の浮力死神の浮力
(2013/07/30)
伊坂 幸太郎

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『死神の精度』で活躍した「千葉」が8年ぶりに帰ってきました!
クールでちょっととぼけた死神を、今度は書き下ろし長編でお楽しみください。


久々の死神・千葉の物語である。死神なのになぜか憎めない、音楽好きの千葉のキャラクターが、今作でも炸裂している。人間の姿をしているが、人間界のことには疎く、対象者との会話もずれていて、それがかえって含蓄があるように聞こえたりもして、くすりと笑わされる。冷たいのか熱いのかよく判らない千葉が素敵だ。ストーリーは言葉を失うほど救いがなくて、やり切れなさに満ちている。千葉の対象者である山野辺が追う、娘の敵・本城の、あの度を越した理解不能さはなんなのだろう。何度、さっさとその首根っこを摑まえて、真意を問いただしたい思いに駆られたことだろう。躰の中からちりちりと焼かれるようなもどかしさだった。またいつか千葉の仕事ぶりを見たい――死神なのだが――と思わされるシリーズである。

ガソリン生活*伊坂幸太郎

  • 2013/04/28(日) 13:39:41

ガソリン生活ガソリン生活
(2013/03/07)
伊坂 幸太郎

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実のところ、日々、車同士は排出ガスの届く距離で会話している。本作語り手デミオの持ち主・望月家は、母兄姉弟の四人家族(ただし一番大人なのは弟)。兄・良夫がある女性を愛車デミオに乗せた日から物語は始まる。強面の芸能記者。不倫の噂。脅迫と、いじめの影―?大小の謎に、仲良し望月ファミリーは巻き込まれて、さあ大変。凸凹コンビの望月兄弟が巻き込まれたのは元女優とパパラッチの追走事故でした―。謎がひしめく会心の長編ミステリーにして幸福感の結晶たる、チャーミングな家族小説。


語るのは、緑のデミオ。デミオに乗るのは、望月家の長男で免許取りたての普通の二十歳の良夫、歳の離れた秀でた弟の亨、良夫の妹で亨の姉のまどか、母の郁子さん。緑デミが隣人細見さんのマイカーザッパや、道ですれ違ったり駐車場で隣り合った車と情報交換したり、自分に乗っている人の会話からあれこれ想像したりする設定は、絵本のようだが、結構シリアスでハラハラドキドキさせられる。車同士のネットワークによって、車しか知らない真実があっても、人間に知らせるすべはなく、それがまたもどかしいながらも納得できるのである。事実に見える物事にも、表面に出ない真実があるのかもしれない、と思わせてくれる一冊でもある。最後の最後にじんわり胸が熱くなった。亨、なかなかやるな!

残り全部バケーション*伊坂幸太郎

  • 2013/02/08(金) 17:19:42

残り全部バケーション残り全部バケーション
(2012/12/05)
伊坂 幸太郎

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人生の<小さな奇跡>の物語
夫の浮気が原因で離婚する夫婦と、その一人娘。ひょんなことから、「家族解散前の思い出」として〈岡田〉と名乗る男とドライブすることに──(第一章「残り全部バケーション」)他、五章構成の連作集。


表題作のほか、「タキオン作戦」 「検問」 「小さな兵隊」 「飛べても8分」

毒島の恐ろしさに、命じられた危ない仕事を命じられるままにこなす溝口とその手下の岡田のコンビの掛け合いが絶妙で、小悪党ながらわくわくする。伊坂さん上手い。そして、それぞれの物語が微妙に重なり合い、繋がり合ってくるりと元に戻るところも伊坂さんらしくてうれしくなる。岡田のスイーツブログのハンドル、サキって、あの沙希ちゃん、ですよね。罪を憎んで人を憎まず、ワルたちのキャラクターが愛おしすぎる一冊である。

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夜の国のクーパー*伊坂幸太郎

  • 2012/07/31(火) 18:29:12

夜の国のクーパー夜の国のクーパー
(2012/05/30)
伊坂 幸太郎

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この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからない――。これは猫と戦争と、そして何より、世界の理のおはなし。どこか不思議になつかしいような/誰も一度も読んだことのない、破格の小説をお届けします。ジャンル分け不要不可、渾身の傑作。伊坂幸太郎が放つ、10作目の書き下ろし長編。


伊坂さんだなぁ、と思う。初期の伊坂作品が大好きな人には受け入れられないのかもしれないが、伊坂さんが胸に抱いていることは終始一貫しているのだと思う。この路線でこれからもいくのだろう、きっと。主に猫の視点で語られ、ときどき、その猫に拘束され、彼の話を聞かされている――猫は話せるのである――人間の考えが挟み込まれる。初めて彼らが会話する場面に出くわしたとき、これはもしかすると…、と思った(書けないが)のだが、案の定そうであった。それはそれとして、人間社会でも猫や鼠のそれでも、支配者の摂理は変わらないのか、と思うとやるせなくもなる。が、どんな場合でも、立ち上がるものは現れるのだという希望も残してくれたようで、ほっと息が吐ける気もする。大きくて小さな世界の一冊である。

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仙台ぐらし*伊坂幸太郎

  • 2012/05/09(水) 17:08:00

仙台ぐらし仙台ぐらし
(2012/02/18)
伊坂 幸太郎

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タクシーが多すぎる、見知らぬ知人が多すぎる、ずうずうしい猫が多すぎる…。仙台在住の作家・伊坂幸太郎が日々の暮らしを綴る。『仙台学』掲載を中心に書籍化。書き下ろし短編「ブックモビール」も収録。


伊坂さんの普段の様子が垣間見られるようで、うれしい一冊である。震災の前に書いていたもの、それ以後のもの、その時に何を感じたか、どうしたか。飾らない思いがつづられているように思われる。伊坂さんはエッセイもいい。

PK*伊坂幸太郎

  • 2012/04/16(月) 17:00:00

PKPK
(2012/03/08)
伊坂 幸太郎

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その決断が未来を変える。連鎖して、三つの世界を変動させる。こだわりとたくらみに満ちた三中篇を貫く、伊坂幸太郎が見ている未来とは―。未来三部作。


表題作のほか、「超人」 「密使」

中篇三作なのだが、大きく見ると長篇一作としても読めるような仕掛けが著者らしい。デビュー以来、神様のレシピ的な大いなるなにかを書きつづけられているが、今回もその思いは根底に流れている。運命と言ってしまうには、もう少し流動的で、自らの働きかけで微妙に流れが変わっていくのが、前向きな未来を感じさせられて好ましい。表紙のドミノ倒しが象徴的である。SFのようでもあり、人生訓のようでもあり、哲学的にも感じられる一冊である。

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3652 伊坂幸太郎エッセイ集*伊坂幸太郎

  • 2011/01/20(木) 17:12:28

3652―伊坂幸太郎エッセイ集3652―伊坂幸太郎エッセイ集
(2010/12)
伊坂 幸太郎

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「喫茶店」で巻き起こる数々の奇跡、退職を決意したあの日のこと、「青春」の部屋の直筆間取り図、デビュー前のふたりの恩人、偏愛する本や映画に音楽、「干支」に怯える日々、恐るべき料理、封印された「小説」のアイディア―20世紀「最後」の「新人作家」が歩んできた10年。


3652とは、【365×10+2】のことである。すなわち、著者がデビューしてからの十年の日数である。そんな「十年」に関するあれこれが扉を開くと辞書を開いたように並んでいるのも著者らしくて、ふふふ、である。
さまざまな場所に発表してきたエッセイも、こんなふうにまとまると伊坂幸太郎という人をよく知ることのできる一冊になるのだ、と思わされる。そして脚注の解説、さらには本音や告白がたまらない。小説家の書くエッセイは苦手なことが多いのだが、本書は逆である。著者の作品のすばらしさはもちろん、ひとりの人としての伊坂幸太郎が、ますます好きになる一冊でもある。