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捜査線上の夕映え*有栖川有栖

  • 2022/04/11(月) 18:25:17


「臨床犯罪学者 火村英生シリーズ」誕生から30年! 最新長編は、圧倒的にエモーショナルな本格ミステリ。
一見ありふれた殺人事件のはずだった。火村の登場で、この物語は「ファンタジー」となる。
大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも……。
「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」
火村を追い詰めた、不気味なジョーカーの存在とは――。
コロナ禍を生きる火村と推理作家アリスが、ある場所で直面した夕景は、佳き日の終わりか、明日への希望か――。


コロナ禍で自由に出歩けないから、ちょっと気分転換に、というわけではないだろうが、本作はいつもといささか趣が違い、火村とアリスが捜査協力をお休みして旅に出かける場面がある。とはいえ、そこは火村アリスコンビ、ただの物見遊山であるわけがない。この旅で思わぬ収穫があるのだから、転んでもただでは起きない二人である。謎解き自体は、いささかトリッキーだと思える部分もないわけではないが、心情的には理解できる行動なので、よしとする。犯行動機も、ごく早い段階で、もしかすると・・・、と思わされるような描写もあって、やはりそうだったか、と納得させられた。子ども時代を過ごした場所の影響や、人間関係の複雑さを改めて思わされる一冊でもあった。

濱地健三郎の幽れたる事件簿*有栖川有栖

  • 2021/02/06(土) 07:36:14


年齢不詳の探偵・濱地健三郎には、鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。新宿にある彼の事務所には、奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の強面刑事も秘かに足を運ぶほどだ。助手の志摩ユリエは、得技を活かして、探偵が視たモノの特徴を絵に描きとめていく―。郊外で猫と2人暮らしをしていた姉の失踪の謎と、弟が見た奇妙な光景が意外な形でつながる(「姉は何処」)。資産家が溺死した事件の犯人は、若き妻か、懐具合が悪い弟か?人間の哀しい性が炙り出される(「浴槽の花婿」)など、驚きと謀みに満ちた7篇を収録。ミステリの名手が、満を持して生み出した名探偵。待望のシリーズ、第2弾!


霊的なものが視える心霊探偵・濱地健三郎と、助手の志摩ユリエが活躍するシリーズ第二弾である。年齢不詳の濱地の魅力は前作と変わらないが、ユリエの助手としての有能さは増している印象である。事件解決の助けとなっていることが多い。クライアントの現れ方からして、人知を超えた何かしらの力が働いているようにも思え、依頼を引き受ける必然性が感じられたりもするのである。依頼を受けた段階で、濱地には進むべき道が見えているようにも思われ、それを検証するのがストーリーの主な流れであることも多い。今回は、タイムリミットのある難しい案件もあったが、濱地ユリエコンビに加えて、ユリエの恋人叡二の存在も助けになった。次の活躍もぜひ見たいシリーズである。

こうして誰もいなくなった*有栖川有栖

  • 2019/04/14(日) 07:56:05

こうして誰もいなくなった
有栖川 有栖
KADOKAWA (2019-03-06)
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あの名作『そして誰もいなくなった』を再解釈し、大胆かつ驚きに満ちたミステリに仕上げた表題作をはじめ、ラジオドラマ脚本として描かれ、小説としては世に出ていない掌編や、自殺志願者の恐怖と悔恨を描く傑作ホラー「劇的な幕切れ」、書店店長の名推理が痛快な日常ミステリ「本と謎の日々」など、一作たりとも読み逃せない名作揃い。有栖川有栖作家デビュー30周年記念を飾る、華麗なる傑作作品集!!


本のタイトル通り「こうして誰もいなくなった」が勿論メインなのだが、そのほかの掌編や短編もバラエティ豊かで、愉しめる。「こうして~~」では、ネット社会で、世界中のどことでも繋がれる現代といえども、舞台設定によって孤島の密室殺人事件が成り立つものなのだと再認識させられる。ネットに頼りすぎる現代人にとっては、ネットから遮断された時点で、恐怖が倍加されるかもしれない。クリスティの時代とは別の怖さでもあろう。そして、さらりと描かれてはいるが、現代の自覚なき罪の深さの告発でもあるように思う。さまざまなテイストの物語を味わえて愉しい一冊だった。

濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿*有栖川有栖

  • 2019/01/21(月) 09:51:17

濱地健三郎の霊なる事件簿 (幽BOOKS)
有栖川 有栖
KADOKAWA (2017-07-29)
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心霊探偵・濱地健三郎には鋭い推理力と、幽霊を視る能力がある。新宿に構える事務所には、奇妙な現象に悩まされる依頼人だけでなく、警視庁捜査一課の辣腕刑事も秘密裡に足を運ぶ。ホラー作家のもとを夜ごと訪れる、見知らぬ女の幽霊の目的とは?お化け屋敷と噂される邸宅に秘められた忌まわしい記憶とは?ある事件の加害者が同じ時刻に違う場所にいられたのは、トリックなのか、生霊の仕業なのか?リアルと幻惑が絡み合う不可思議な事件に、ダンディな心霊探偵が立ち向かう。端正なミステリーと怪異の融合が絶妙な7篇。


新しい主人公の登場である。濱地健三郎には、この世ならぬものが視え、彼らが現実の日常に及ぼす影響まで見極めることができる。心霊探偵を名乗る所以である。助手の志摩ユリエも、次第に霊的な目を開かれ、探偵とともに依頼案件の解決に力を貸すようになる。霊が出てくるとは言え、純然たるホラーと言うわけではなく、そこはミステリの感覚の方が強いので、苦手な者にもとっつきやすい。ギブアンドテイクの関係の赤波江刑事との関わり方もなかなかスマートで好ましい。今後の心霊探偵の活躍もぜひ見てみたいと思わされる一冊である。

インド倶楽部の謎*有栖川有栖

  • 2018/12/10(月) 07:30:30

インド倶楽部の謎 (講談社ノベルス)
有栖川 有栖
講談社
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前世から自分が死ぬ日まで―すべての運命が予言され記されているというインドに伝わる「アガスティアの葉」。この神秘に触れようと、神戸の異人館街の外れにある屋敷に“インド倶楽部”のメンバー七人が集まった。その数日後、イベントに立ち会った者が相次いで殺される。まさかその死は予言されていたのか!?捜査をはじめた臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖は、謎に包まれた例会と連続殺人事件の関係に迫っていく!


前世が犯行の動機に絡んでくるというのは、いささか現実離れしている感がなくもないが、関係者たちがかたくなに信じ込んでいるとなれば、これも致し方ないのかもしれない。さらに今作では、火村とアリスが刑事(時にはそれ以上)のような役割をしていて、宿敵・野上とのやりとりも、ちょっぴりいつもと違って、ある意味拍子抜けする場面もある。その野上の着眼と行動力も見るべき点のひとつだろう。以外にも最後はあっさり犯人に行きついてしまったが、ラストの描写を読むと、「もしかしたら?」とほんのわずかな疑念が湧かないでもない。腑に落ちたような落ちないような事件ではある。アリスの活躍は少なめの一冊である。

狩人の悪夢*有栖川有栖

  • 2017/06/30(金) 13:35:51

狩人の悪夢
狩人の悪夢
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有栖川 有栖
KADOKAWA (2017-01-28)
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「あなたに、悪夢を」 ――火村英生シリーズ、最新長編登場!

「俺が撃つのは、人間だけだ」
彼は、犯罪を「狩る」男。
臨床犯罪学者・火村英生と、相棒のミステリ作家、アリスが、
悪夢のような事件の謎を解き明かす!

人気ホラー小説家・白布施に誘われ、ミステリ作家の有栖川有栖は、
京都・亀岡にある彼の家、「夢守荘」を訪問することに。
そこには、「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があるという。
しかしアリスがその部屋に泊まった翌日、
白布施のアシスタントが住んでいた「獏ハウス」と呼ばれる家で、
右手首のない女性の死体が発見されて……。

火村英生シリーズ、待望の長編登場!


待望の火村&アリスシリーズである。個人的には、ドラマを観た後でも、役者のイメージにとらわれずに済む数少ない作品でもある(わたしの中の火村先生は、もっと複雑で深い)。そして相変わらず時に三枚目を演じるアリスとはいいコンビであり、謎解きに至る火村の思考に果たすアリスの役割を、火村自身がいちばんよくわかり、頼りにしていることが改めて判って嬉しくもある。火村対真犯人の構図のほかに、アリスが真犯人に投げかける言葉に内包される愛ゆえの怒りや哀しみが、やり切れなさを誘う。火村&アリスが誕生して25年だそうだが、まだまだふたりを見続けられそうなのがなにより嬉しいと思うシリーズである。

ミステリ国の人々*有栖川有栖

  • 2017/06/25(日) 16:14:19

ミステリ国の人々
ミステリ国の人々
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有栖川 有栖
日本経済新聞出版社
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これぞミステリ!と膝を打ついかにも“らしい”52人。あの名探偵から、つい見逃してしまう存在まで、名編の多彩な登場人物にスポットライトをあて、世相を織り交ぜながら、自在に綴ったエッセイ集。作家ならではの読みが冴える、待望のミステリガイド!


ミステリ国に住む人々に焦点を当てたエッセイ集である。名探偵や、その相棒、たまには脇役、そして彼らを生み出した作者や、その作品が生まれた背景にまで及ぶこともある。紹介されている作品を読んだことがあってもなくても、とても魅力的であり、未読の作品はついつい読みたくなって、メモを取ってしまったりもする。愉しくわくわくするひとときをもたらしてくれる一冊である。

鍵の掛かった男*有栖川有栖

  • 2016/03/21(月) 18:36:37

鍵の掛かった男
鍵の掛かった男
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有栖川 有栖
幻冬舎
売り上げランキング: 5,551

2015年1月、大阪・中之島の小さなホテル“銀星ホテル”で一人の男・梨田稔(69)が死んだ。警察は自殺による縊死と断定。しかし梨田の自殺を納得しない人間がいた。同ホテルを定宿にする女流作家・影浦浪子だ。梨田は5年ほど、銀星ホテルのスイートに住み続け、ホテルの支配人や従業員、常連客から愛され、しかも2億円以上預金残高があった。影浦は、その死の謎の解明をミステリ作家の有栖川有栖とその友人の犯罪社会学者・火村英生に依頼。が、調査は難航。梨田は身寄りがない上、来歴にかんする手がかりがほとんどなく人物像は闇の中で、その人生は「鍵の掛かった」としか言いようがなかった。生前の彼を知る者たちが認識していた梨田とは誰だったのか?結局、自殺か他殺か。他殺なら誰が犯人なのか?思いもしない悲劇的結末が関係者全員を待ち受けていた。“火村英生シリーズ”13年ぶりの書き下ろし!人間の謎を、人生の真実で射抜いた、傑作長編ミステリ。


火村&アリスシリーズの最新刊である。この二人はやはりいいなぁ。だが、今回はいささか趣向が違っていて、前半の探偵役はアリスであり、彼ひとりでかなりなところまで調べを進めているのである。いつもなら、的を射た火村の推理に、要らない茶々を入れつつ、その実しっかり核心に通じるヒントを与える役どころに徹しているアリスだが、今回は、アリス無くしては真相に近づくことはできなかっただろう。だが、やはり、火村先生登場後の進展には目を瞠るものがある。目のつけどころがやはり違うのだと、改めて実感させられる。このコンビはいつまでも末永く続いてほしいと願う一冊である。

怪しい店*有栖川有栖

  • 2014/12/05(金) 18:58:54

怪しい店怪しい店
(2014/10/31)
有栖川 有栖

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骨董品店で起きた店主殺人事件、偏屈な古書店主を襲った思いがけない災難、芸能プロダクションの社長が挑んだ完全犯罪、火村が訪れた海辺の理髪店でのある出来事、悩みを聞いてくれる店“みみや”での殺人事件。「どうぞお入りください」と招かれて、時には悪意すら入り込む。日常の異空間「店」を舞台に、火村英生と有栖川有栖の最強バディの推理が冴える。極上ミステリ集。


表題作のほか、「古物の魔」 「燈火堂の奇禍」 「ショーウィンドウを砕く」 「潮騒理髪店」

火村&アリスシリーズ。今回は、火村先生とアリスが別々に聞き込みをする作品もあり、それぞれの相手に対する思いの一端を知ることができたりして、ちょっぴり得した気分でもある。骨董品店、古書店、きょうで閉店の理髪店、路地裏の聴き屋など、舞台になる店が趣があるものが多いのも想像力を掻き立てられた。そして、最後にアリスが大阪府警捜査一課の紅一点・コマチ刑事の反省会をした喫茶店<shi>もとても気になる店である。最後まで店で魅せてくれる一冊である。

臨床犯罪学者・火村英生の推理--アリバイの研究*有栖川有栖

  • 2014/08/18(月) 16:35:43

臨床犯罪学者・火村英生の推理 アリバイの研究 (角川ビーンズ文庫)臨床犯罪学者・火村英生の推理 アリバイの研究 (角川ビーンズ文庫)
(2014/06/28)
有栖川 有栖

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アリバイ――それは犯罪者が安全圏へ逃れるための蜘蛛の糸。推理作家・有栖川有栖が書いた色紙や、シドニーで撮られた写真によって紡がれるその糸を、クールな犯罪学者・火村英生が叩き切る! 傑作揃いの短編集。


第一話「三つの日付」 第二話「わらう月」 第三話「紅雨荘殺人事件」 第四話「不在の証明」 第五話「長い影」

犯人が施したアリバイ工作は、アリスのサイン色紙だったり、南半球で取られた写真だったり、タクシー運転手の証言だったりとさまざまだが、熱血森下刑事の聞き込みや、火村先生のクールな観察眼、そしてアリスの一見どうでもよさそうな茶々による閃き(火村の)によって、薄皮をはぐように少しずつその齟齬が明らかにされていく。何とも言えない快感である。ただこのカバーのイラストがあまりにもイケメンすぎて、イメージを狂わされるのがいささか難でもあるかもしれない。それはさておき、火村とアリス、相変わらずいいコンビだなぁ、と思える一冊である。

臨床犯罪学者・火村英生の推理--密室の研究*有栖川有栖

  • 2013/11/29(金) 17:04:21

臨床犯罪学者・火村英生の推理    密室の研究 (角川ビーンズ文庫)臨床犯罪学者・火村英生の推理 密室の研究 (角川ビーンズ文庫)
(2013/10/31)
有栖川 有栖

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推理作家の有栖川有栖と、クールな天才犯罪学者・火村英生。学生時代からの盟友である彼らには、常に難事件が寄ってくる。たとえば、人を招く魔性の滝で起きた殺人事件。死の滝目指して突き進む足跡に隠された真実とは…(「人喰いの滝」)。ほか今世紀最高に冴えてる名探偵・火村英生が、怖くて華麗、切なくて美しい、ミステリーの華「密室」を解き明かす!著者・有栖川有栖厳選、名作がコラボした、奇跡の密室アンソロジー!!


著者自らが選んだ、密室ばかり集めたアリス&火村作品である。
なかなかわくわくする趣向で愉しめるのだが、イラストのアリスと火村が、どうにも自分の頭の中の彼らと結びつかないのが困る。いささかイケメンすぎやしませんか?と問いたくなるが、仕方がないか。愉しい一冊ではある。

菩提樹荘の殺人*有栖川有栖

  • 2013/10/01(火) 16:56:45

菩提樹荘の殺人菩提樹荘の殺人
(2013/08/26)
有栖川 有栖

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若き日の火村、そして若さゆえの犯罪――シューベルトの調べにのり高校生・アリスの悲恋が明かされる表題作、学生時代の火村英生の名推理が光る「探偵、青の時代」、若いお笑い芸人たちの野心の悲劇「雛人形を笑え」など、青春の明と暗を描く。


表題作のほか、「アポロンのナイフ」 「雛人形を笑え」 「探偵、青の時代」

著者あとがきによると、<若さ>がモチーフだそうである。アリスの悲恋話は以前にもどこかで聞いたことがあるが、高校生時代の火村の見事な探偵ぶりは、目のつけどころと言い、思考の老成ぶりと言い、まったく意外性がないのがかえって火村先生らしくてわたしは好きである。ただ今回も、火村の闇の部分は明かされず、高校時代のエピソードからも窺うことはできないのは残念でもあり、次へ続く期待も持たせてくれる。物語自体は、いつものようにアリスと火村の掛け合いが絶妙で、意図せずにアリスが役に立つところもいつも通りであり、愉しめる。いつまでも続いてほしいシリーズである。

幻坂*有栖川有栖

  • 2013/07/05(金) 18:20:12

幻坂 (幽BOOKS)幻坂 (幽BOOKS)
(2013/04/12)
有栖川有栖

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幼い頃、清水坂でよく遊んだ幼いヒナちゃん。不慮の事故で亡くなったヒナちゃんを偲んで、清水坂を通る人に語りかける。坂の傍らにはあのころと同じ、山茶花が咲いています。ーー「清水坂」
作家志望の美咲と愛染坂で会い、恋仲になるが、新作に苦悩する新進作家の私。いつしか二人の関係に亀裂が入り・・・。亡くなった美咲の四十九日に愛染坂で再び二人は会えるのか…切ない悲恋を描いた「愛染坂」。
七坂を舞台に歴史的因縁や文化的背景を織り交ぜながら、大阪の人々をリアルに叙情的に描いた傑作9編。
傑作と話題沸騰の、大阪で頓死したといわれる芭蕉の最期を怪談に昇華した「枯野」。怪談雑誌『幽』に連載された8篇に加え、難波の夕陽に心奪われた平安時代の歌人・藤原家隆の終焉の地となった「夕陽庵」を悠久の歴史とともに描いた書き下ろし傑作。


「清水坂」 「愛染坂」 「源聖寺坂」 「口縄坂」 「真言坂」 「天神坂」 「逢坂」 「枯野」 「夕陽庵」

大阪の天王寺七坂が舞台の少しばかり妖しい物語集である。大阪に抱いているイメージとは全くと言っていいほど違う坂の趣と、そこに流れる不思議な時間と心の動きに、惹きこまれる。坂というのは、違う時間や空間をつなぐものなのではないかと、つい思ってしまいそうになる一冊である。

ダリの繭*有栖川有栖

  • 2013/06/12(水) 16:42:13

ダリの繭ダリの繭
(1999/12)
有栖川 有栖

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幻想を愛し、奇行で知られたシュールレアリズムの巨人―サルバドール・ダリ。宝飾デザインも手掛けたこの天才に心酔してやまない宝石チェーン社長が、神戸の別邸で殺された。現代の繭とも言うべきフロートカプセルの中で発見されたその死体は、彼のトレードマークであったダリ髭がない。そして他にも多くの不可解な点が…。事件解決に立ち上がった推理作家・有栖川有栖と犯罪社会学者・火村英生が辿り着いた意外な真実とは?!都市を舞台に、そこに生きる様々な人間たちの思惑を巧みな筆致と見事な理論で解き明かした、有栖川ミステリの真髄。


火村&アリスシリーズ二作目だそうである。すでにコンビの持ち味がいかんなく発揮されていて素晴らしい。物語自体も、設定と言い登場人物の相関図と言い、かなり特殊なのにもかかわらず、無理なく仕立てられていて惹きこまれる。永遠のコンビだと確信するシリーズである。

論理爆弾*有栖川有栖

  • 2013/01/19(土) 20:30:57

論理爆弾論理爆弾
(2012/12/20)
有栖川 有栖

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南北に分断され、探偵行為が禁じられた日本。空閑純は探偵を目指していた。彼女の両親は名探偵として活躍していたが、母は事件を追い行方不明となり、父は殺人事件の推理をした罪で逮捕され、裁判を待つ身となっている。失踪した母の足跡をたどり、純は九州の山奥にある深影村を訪れた。だが、テロにより村に通じる唯一のトンネルが破壊され、連続殺人事件が発生!暗躍する特殊部隊、蠢く陰謀、蔓延るコンピュータウイルス―論理爆弾!少女は探偵の業をその身に刻み、真実と対峙する。


『闇の喇叭』『真夜中の探偵』につづく空閑純(そらしず じゅん)シリーズの三作目。
友人たちともきっぱりと別れ、空閑純は探偵・ソラとして、わずかな手掛かりで母を探しに深影村へやってきた。舞台は、現実とほんの少しずれたパラレルワールドであり、北海道は日ノ本共和国となり、休戦しているとは言え、日本国とは敵対関係にある。純が深影村に着くとまもなく、北(日ノ本共和国)によってトンネルが破壊され、連続殺人事件が起こる。母の痕跡と行方の手掛りを求めて歩き回る純も、否応なく事件に巻き込まれることになるのである。ただでさえ、探偵が違法とされ、それ以外にも現実と違って不自由なことが多々あるのに、さらに人里離れた村に閉じ込められるといったマイナス条件ばかりのなか、それでも頼れる味方を得て事件を推理し、母の手掛りをも見つけようとする純の真摯さには頭が下がる。やはり探偵の素質と一緒に暮らしていたころの両親の教えによるところが大きいのだろう。母が無事でいる希望が湧いたいま、次に考えるのは父の裁判のことだろうか。一家が一緒に暮らせるようになるまで見守り続けたいシリーズである。