鍵の掛かった男*有栖川有栖

  • 2016/03/21(月) 18:36:37

鍵の掛かった男
鍵の掛かった男
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有栖川 有栖
幻冬舎
売り上げランキング: 5,551

2015年1月、大阪・中之島の小さなホテル“銀星ホテル”で一人の男・梨田稔(69)が死んだ。警察は自殺による縊死と断定。しかし梨田の自殺を納得しない人間がいた。同ホテルを定宿にする女流作家・影浦浪子だ。梨田は5年ほど、銀星ホテルのスイートに住み続け、ホテルの支配人や従業員、常連客から愛され、しかも2億円以上預金残高があった。影浦は、その死の謎の解明をミステリ作家の有栖川有栖とその友人の犯罪社会学者・火村英生に依頼。が、調査は難航。梨田は身寄りがない上、来歴にかんする手がかりがほとんどなく人物像は闇の中で、その人生は「鍵の掛かった」としか言いようがなかった。生前の彼を知る者たちが認識していた梨田とは誰だったのか?結局、自殺か他殺か。他殺なら誰が犯人なのか?思いもしない悲劇的結末が関係者全員を待ち受けていた。“火村英生シリーズ”13年ぶりの書き下ろし!人間の謎を、人生の真実で射抜いた、傑作長編ミステリ。


火村&アリスシリーズの最新刊である。この二人はやはりいいなぁ。だが、今回はいささか趣向が違っていて、前半の探偵役はアリスであり、彼ひとりでかなりなところまで調べを進めているのである。いつもなら、的を射た火村の推理に、要らない茶々を入れつつ、その実しっかり核心に通じるヒントを与える役どころに徹しているアリスだが、今回は、アリス無くしては真相に近づくことはできなかっただろう。だが、やはり、火村先生登場後の進展には目を瞠るものがある。目のつけどころがやはり違うのだと、改めて実感させられる。このコンビはいつまでも末永く続いてほしいと願う一冊である。

怪しい店*有栖川有栖

  • 2014/12/05(金) 18:58:54

怪しい店怪しい店
(2014/10/31)
有栖川 有栖

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骨董品店で起きた店主殺人事件、偏屈な古書店主を襲った思いがけない災難、芸能プロダクションの社長が挑んだ完全犯罪、火村が訪れた海辺の理髪店でのある出来事、悩みを聞いてくれる店“みみや”での殺人事件。「どうぞお入りください」と招かれて、時には悪意すら入り込む。日常の異空間「店」を舞台に、火村英生と有栖川有栖の最強バディの推理が冴える。極上ミステリ集。


表題作のほか、「古物の魔」 「燈火堂の奇禍」 「ショーウィンドウを砕く」 「潮騒理髪店」

火村&アリスシリーズ。今回は、火村先生とアリスが別々に聞き込みをする作品もあり、それぞれの相手に対する思いの一端を知ることができたりして、ちょっぴり得した気分でもある。骨董品店、古書店、きょうで閉店の理髪店、路地裏の聴き屋など、舞台になる店が趣があるものが多いのも想像力を掻き立てられた。そして、最後にアリスが大阪府警捜査一課の紅一点・コマチ刑事の反省会をした喫茶店<shi>もとても気になる店である。最後まで店で魅せてくれる一冊である。

臨床犯罪学者・火村英生の推理--アリバイの研究*有栖川有栖

  • 2014/08/18(月) 16:35:43

臨床犯罪学者・火村英生の推理 アリバイの研究 (角川ビーンズ文庫)臨床犯罪学者・火村英生の推理 アリバイの研究 (角川ビーンズ文庫)
(2014/06/28)
有栖川 有栖

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アリバイ――それは犯罪者が安全圏へ逃れるための蜘蛛の糸。推理作家・有栖川有栖が書いた色紙や、シドニーで撮られた写真によって紡がれるその糸を、クールな犯罪学者・火村英生が叩き切る! 傑作揃いの短編集。


第一話「三つの日付」 第二話「わらう月」 第三話「紅雨荘殺人事件」 第四話「不在の証明」 第五話「長い影」

犯人が施したアリバイ工作は、アリスのサイン色紙だったり、南半球で取られた写真だったり、タクシー運転手の証言だったりとさまざまだが、熱血森下刑事の聞き込みや、火村先生のクールな観察眼、そしてアリスの一見どうでもよさそうな茶々による閃き(火村の)によって、薄皮をはぐように少しずつその齟齬が明らかにされていく。何とも言えない快感である。ただこのカバーのイラストがあまりにもイケメンすぎて、イメージを狂わされるのがいささか難でもあるかもしれない。それはさておき、火村とアリス、相変わらずいいコンビだなぁ、と思える一冊である。

臨床犯罪学者・火村英生の推理--密室の研究*有栖川有栖

  • 2013/11/29(金) 17:04:21

臨床犯罪学者・火村英生の推理    密室の研究 (角川ビーンズ文庫)臨床犯罪学者・火村英生の推理 密室の研究 (角川ビーンズ文庫)
(2013/10/31)
有栖川 有栖

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推理作家の有栖川有栖と、クールな天才犯罪学者・火村英生。学生時代からの盟友である彼らには、常に難事件が寄ってくる。たとえば、人を招く魔性の滝で起きた殺人事件。死の滝目指して突き進む足跡に隠された真実とは…(「人喰いの滝」)。ほか今世紀最高に冴えてる名探偵・火村英生が、怖くて華麗、切なくて美しい、ミステリーの華「密室」を解き明かす!著者・有栖川有栖厳選、名作がコラボした、奇跡の密室アンソロジー!!


著者自らが選んだ、密室ばかり集めたアリス&火村作品である。
なかなかわくわくする趣向で愉しめるのだが、イラストのアリスと火村が、どうにも自分の頭の中の彼らと結びつかないのが困る。いささかイケメンすぎやしませんか?と問いたくなるが、仕方がないか。愉しい一冊ではある。

菩提樹荘の殺人*有栖川有栖

  • 2013/10/01(火) 16:56:45

菩提樹荘の殺人菩提樹荘の殺人
(2013/08/26)
有栖川 有栖

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若き日の火村、そして若さゆえの犯罪――シューベルトの調べにのり高校生・アリスの悲恋が明かされる表題作、学生時代の火村英生の名推理が光る「探偵、青の時代」、若いお笑い芸人たちの野心の悲劇「雛人形を笑え」など、青春の明と暗を描く。


表題作のほか、「アポロンのナイフ」 「雛人形を笑え」 「探偵、青の時代」

著者あとがきによると、<若さ>がモチーフだそうである。アリスの悲恋話は以前にもどこかで聞いたことがあるが、高校生時代の火村の見事な探偵ぶりは、目のつけどころと言い、思考の老成ぶりと言い、まったく意外性がないのがかえって火村先生らしくてわたしは好きである。ただ今回も、火村の闇の部分は明かされず、高校時代のエピソードからも窺うことはできないのは残念でもあり、次へ続く期待も持たせてくれる。物語自体は、いつものようにアリスと火村の掛け合いが絶妙で、意図せずにアリスが役に立つところもいつも通りであり、愉しめる。いつまでも続いてほしいシリーズである。

幻坂*有栖川有栖

  • 2013/07/05(金) 18:20:12

幻坂 (幽BOOKS)幻坂 (幽BOOKS)
(2013/04/12)
有栖川有栖

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幼い頃、清水坂でよく遊んだ幼いヒナちゃん。不慮の事故で亡くなったヒナちゃんを偲んで、清水坂を通る人に語りかける。坂の傍らにはあのころと同じ、山茶花が咲いています。ーー「清水坂」
作家志望の美咲と愛染坂で会い、恋仲になるが、新作に苦悩する新進作家の私。いつしか二人の関係に亀裂が入り・・・。亡くなった美咲の四十九日に愛染坂で再び二人は会えるのか…切ない悲恋を描いた「愛染坂」。
七坂を舞台に歴史的因縁や文化的背景を織り交ぜながら、大阪の人々をリアルに叙情的に描いた傑作9編。
傑作と話題沸騰の、大阪で頓死したといわれる芭蕉の最期を怪談に昇華した「枯野」。怪談雑誌『幽』に連載された8篇に加え、難波の夕陽に心奪われた平安時代の歌人・藤原家隆の終焉の地となった「夕陽庵」を悠久の歴史とともに描いた書き下ろし傑作。


「清水坂」 「愛染坂」 「源聖寺坂」 「口縄坂」 「真言坂」 「天神坂」 「逢坂」 「枯野」 「夕陽庵」

大阪の天王寺七坂が舞台の少しばかり妖しい物語集である。大阪に抱いているイメージとは全くと言っていいほど違う坂の趣と、そこに流れる不思議な時間と心の動きに、惹きこまれる。坂というのは、違う時間や空間をつなぐものなのではないかと、つい思ってしまいそうになる一冊である。

ダリの繭*有栖川有栖

  • 2013/06/12(水) 16:42:13

ダリの繭ダリの繭
(1999/12)
有栖川 有栖

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幻想を愛し、奇行で知られたシュールレアリズムの巨人―サルバドール・ダリ。宝飾デザインも手掛けたこの天才に心酔してやまない宝石チェーン社長が、神戸の別邸で殺された。現代の繭とも言うべきフロートカプセルの中で発見されたその死体は、彼のトレードマークであったダリ髭がない。そして他にも多くの不可解な点が…。事件解決に立ち上がった推理作家・有栖川有栖と犯罪社会学者・火村英生が辿り着いた意外な真実とは?!都市を舞台に、そこに生きる様々な人間たちの思惑を巧みな筆致と見事な理論で解き明かした、有栖川ミステリの真髄。


火村&アリスシリーズ二作目だそうである。すでにコンビの持ち味がいかんなく発揮されていて素晴らしい。物語自体も、設定と言い登場人物の相関図と言い、かなり特殊なのにもかかわらず、無理なく仕立てられていて惹きこまれる。永遠のコンビだと確信するシリーズである。

論理爆弾*有栖川有栖

  • 2013/01/19(土) 20:30:57

論理爆弾論理爆弾
(2012/12/20)
有栖川 有栖

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南北に分断され、探偵行為が禁じられた日本。空閑純は探偵を目指していた。彼女の両親は名探偵として活躍していたが、母は事件を追い行方不明となり、父は殺人事件の推理をした罪で逮捕され、裁判を待つ身となっている。失踪した母の足跡をたどり、純は九州の山奥にある深影村を訪れた。だが、テロにより村に通じる唯一のトンネルが破壊され、連続殺人事件が発生!暗躍する特殊部隊、蠢く陰謀、蔓延るコンピュータウイルス―論理爆弾!少女は探偵の業をその身に刻み、真実と対峙する。


『闇の喇叭』『真夜中の探偵』につづく空閑純(そらしず じゅん)シリーズの三作目。
友人たちともきっぱりと別れ、空閑純は探偵・ソラとして、わずかな手掛かりで母を探しに深影村へやってきた。舞台は、現実とほんの少しずれたパラレルワールドであり、北海道は日ノ本共和国となり、休戦しているとは言え、日本国とは敵対関係にある。純が深影村に着くとまもなく、北(日ノ本共和国)によってトンネルが破壊され、連続殺人事件が起こる。母の痕跡と行方の手掛りを求めて歩き回る純も、否応なく事件に巻き込まれることになるのである。ただでさえ、探偵が違法とされ、それ以外にも現実と違って不自由なことが多々あるのに、さらに人里離れた村に閉じ込められるといったマイナス条件ばかりのなか、それでも頼れる味方を得て事件を推理し、母の手掛りをも見つけようとする純の真摯さには頭が下がる。やはり探偵の素質と一緒に暮らしていたころの両親の教えによるところが大きいのだろう。母が無事でいる希望が湧いたいま、次に考えるのは父の裁判のことだろうか。一家が一緒に暮らせるようになるまで見守り続けたいシリーズである。

江神二郎の洞察*有栖川有栖

  • 2012/12/10(月) 14:25:00

江神二郎の洞察 (創元クライム・クラブ)江神二郎の洞察 (創元クライム・クラブ)
(2012/10/30)
有栖川 有栖

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その人の落とした『虚無への供物』が、英都大学推理小説研究会(EMC)入部のきっかけだった―。大学に入学した一九八八年四月、アリスは、江神二郎との偶然の出会いからEMCに入部する。江神、望月、織田とおなじみの面々が遭遇した奇妙な出来事の数々。望月の下宿でのノート盗難事件を描く「瑠璃荘事件」をはじめ、アリスと江神の大晦日の一夜を活写する「除夜を歩く」など、全九編収録。昭和から平成への転換期を背景に、アリスの入学からマリアの入部までの一年を瑞々しく描いた、ファン必携のシリーズ初短編集。


アリスの大学入学から、マリアの推理小説研究会入部までの一年の短編集であるが、大学生としてはどうか判らないが、推理研究会的にはとても濃い一年である。江上さんに焦点があてられているので、彼の人となりや名探偵ぶりはよく判るのだが、相変わらず謎の部分が多く、そこを知りたかったのに、と物足りなく思わなくもない。この洞察力・推理力の素晴らしさは、彼の謎に何か関係しているのだろうか。いつか解き明かしてくれるんですよね、有栖川さん?とお訊ねしたくなる一冊である。

46番目の密室*有栖川有栖

  • 2012/11/16(金) 17:06:25

新装版 46番目の密室 (講談社文庫)新装版 46番目の密室 (講談社文庫)
(2009/08/12)
有栖川 有栖

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日本のディクスン・カーと称され、45に及ぶ密室トリックを発表してきた推理小説の大家、真壁聖一。クリスマス、北軽井沢にある彼の別荘に招待された客たちは、作家の無残な姿を目の当たりにする。彼は自らの46番目のトリックで殺されたのか―。有栖川作品の中核を成す傑作「火村シリーズ」第一作を新装化。


火村&アリスシリーズの一作目である。どうしていままで読んでいなかったのか――読んで忘れているのかもしれないが――不思議なくらいである。火村はもうアリス言うところの「臨床犯罪学者」であるし、現場で絹の黒手袋もはめている。第一作からしっかりキャラクターができあがっていたのである。火村とアリスの役どころも然り、である。、全く古びていないどころか、最新作と比べてもちっとも遜色ないことに驚かされる。事件自体は、隠された驚きの真実によって、あっと驚く動機が明らかになり、火村やアリスとともに読者も目を瞠ることになる。どこから読んでも惹きつけられるシリーズである。

高原のフーダニット*有栖川有栖

  • 2012/04/14(土) 08:14:30

高原のフーダニット高原のフーダニット
(2012/03/16)
有栖川 有栖

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「オノコロ島ラプソディ」容疑者には鉄壁のアリバイ。国産み神話の淡路島で、火村を待ち受ける奇天烈な事件。「ミステリ夢十夜」有栖川有栖は近ごろ怪夢を見る。火村と彼を次々と不可思議が襲う夢だ。今夜もきっと…。「高原のフーダニット」弟を手にかけました…美しい高原を朱に染めた双子殺人事件は、一本の電話から始まった。透徹したロジックで犯人に迫る、これぞ本格=フーダニットの陶酔。ミステリ界の名手、初の中編集。


火村英生&アリスシリーズ。
間に挟まっている「夢十夜」が十の掌編のようで、ちょっとおもしろい構成の一冊である。アリスが見る夢が、火村に対する深層心理が表れているようで興味深い。そして、ほかの二作では、いつもアリスがいい加減に思いつきを口にしているように見えていたことが、実は火村の推理に役立っていたことも判って、勝手に胸をなでおろしたのであった。アリス本人に自覚がないところがまたいい。火村先生、もっともっと引っ張り出して欲しいと思わせられる一冊である。

真夜中の探偵*有栖川有栖

  • 2011/11/05(土) 07:45:19

真夜中の探偵 (特別書き下ろし)真夜中の探偵 (特別書き下ろし)
(2011/09/15)
有栖川 有栖

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〈もう一つの日本〉で探偵は何ができるのか第二次世界大戦後、南北に分断された日本ではすべての探偵行為が禁じられていた。父を逮捕された空閑純は、行方不明の母を捜し、自ら探偵になる決意を固める。


『闇の喇叭』につづく空閑純(そらしず じゅん)シリーズの二作目。
前作の最後に父が逮捕され、純は一時叔父の元に身を寄せたが、現在は高校へも行かずアルバイトを掛け持ちして自活している。父とは面会もできないまま、探偵だった両親に仕事を斡旋していた仲介者とも接触し、純はいよいよ探偵になって母を探す決意を強くするのだが、それほど容易いことではない。探偵としての名を「ソラ」とした純だが、今作は探偵ソラの初めての腕試しというところだろうか。誰が味方で誰が敵かさえも判然としない状況の中、否応なく大きな渦に巻き込まれていくことが予想されるソラの運命に興味津々である。2012年春に刊行が予定されている次回作『論理爆弾』を愉しみに待ちたい。探偵ソラ誕生の一冊。

闇の喇叭*有栖川有栖

  • 2011/09/24(土) 17:17:58

闇の喇叭 (ミステリーYA!)闇の喇叭 (ミステリーYA!)
(2010/06/21)
有栖川 有栖

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平世21年の日本。第二次世界大戦後、ソ連の支配下におかれた北海道は日本から独立。北のスパイが日本で暗躍しているのは周知の事実だ。敵は外だけとはかぎらない。地方の独立を叫ぶ組織や、徴兵忌避をする者もいる。政府は国内外に監視の目を光らせ、警察は犯罪検挙率100%を目標に掲げる。探偵行為は禁じられ、探偵狩りも激しさを増した。そんな中、謎めいた殺人事件が起きる。すべてを禁じられ、存在意義を否定された探偵に、何ができるのか。何をすべきなのか?


冒頭、戦争の話で、ちょっと苦手だなぁと思ったが、それは前振りだけでそれにつづく物語は一応平和な世界の物語である。だが、戦争中から現実とは少しずつずれて、わたしたちが過ごしている日本とは少しずつ道を別っていったのだった。領土のこと然り、法律のこと然り、言葉遣いのこと然り、である。こちらの世界のわたしたちから見るとなんとも不自由なことである。そんななかでも高校生たちは恋をし、未来の夢を語らうのである。物語の世界では私立探偵は罪であり、その探偵を父に持つ「ソラ」こと空閑(そらしず)純が主人公である。大阪から逃げるようにしてやってきた奥多岐野で、殺人事件が起き、友人の母親が疑われたのをきっかけにソラは事件の謎を解こうとし始めた。両親譲りの推理力で真相に肉薄するのだが、中央警察の刑事に監視されていることにはまったく気づかなかったのだった。謎解きも興味深いが、青春物語としても愉しめる。だが、この結末はあまりにも切な過ぎる。有栖川さん、YAなのにこの結末ですか、と泣きつきたい一冊でもある。

長い廊下がある家*有栖川有栖

  • 2011/02/27(日) 16:42:00

長い廊下がある家長い廊下がある家
(2010/11/19)
有栖川有栖

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廃村に踏み迷った大学生の青年は、夜も更けて、ようやく明かりのついた家に辿り着く。そこもやはり廃屋だったが、三人の雑誌取材チームが訪れていた。この家には幽霊が出るというのだ―。思い違い、錯誤、言い逃れに悪巧み。それぞれに歪んだ手掛かりから、臨床犯罪学者・火村英生が導き出す真相とは!?悪意ある者の奸計に、火村英生の怜悧な頭脳が挑む。切れ味抜群の本格ミステリ傑作集。


表題作のほか、「雪と金婚式」 「天空の眼」 「ロジカル・デスゲーム」

火村&アリスシリーズの新作短編集。
なんと「天空の眼」では、いつもはどうしようもないことを言っている――火村の推理の助けになっているようだが――だけのアリスが、単独で事件の真相を暴いてしまうという二度と見られないかもしれないような愉しみもある。アリスにとっては喜んでばかりもいられないのかもしれない展開になっているところもこのシリーズらしくていい。他の事件でも二人の名コンビ振りは、漫才師のボケと突っ込みのように安心してみていられるのだが、事件そのものはいつも新鮮なので、いつでも新たな醍醐味を味わわせてくれるシリーズである。

妃は船を沈める*有栖川有栖

  • 2011/02/20(日) 17:39:27

妃は船を沈める妃は船を沈める
(2008/07/18)
有栖川 有栖

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所有者の願い事を3つだけ、かなえてくれる「猿の手」。“妃”と綽名される女と、彼女のまわりに集う男たち。危うく震える不穏な揺り篭に抱かれて、彼らの船はどこへ向かうのだろう。―何を願って眠るのだろう。臨床犯罪学者・火村英生が挑む、倫理と論理が奇妙にねじれた難事件。


 はしがき
 第一部 猿の手
     幕間
 第二部 残酷な揺り籠


三つの願い事を叶えてくれる代わりによくないことをも引き寄せる、と言われる猿の手にまつわる殺人事件と、地震という大きな揺り籠に思惑を狂わされることになる殺人事件。ふたつの事件はどちらも妃こと三松(設楽)妃沙子の身近で起きたものなのだった。犯罪心理学者・火村英生と助手兼語り手の有栖川有栖のコンビがどちらの事件にも借り出され、ああでもないこうでもないとろくでもない思いつきを言うアリスを置いて、火村先生の推理と謎解きが冴えるのである。物語の中でもすっかり有名になったこのコンビであるが、アリスの判りやすさに比べ、樋村先生の真実がなかなか見えてこないのがもどかしくもある。彼を犯罪現場に駆り立てるのはいったい何なのだろう。それが明かされるのはシリーズが終わるときのようにも思うので、知りたいようなまだ知らなくていいような、複雑な気持ちである。今回の事件では、真相をまず誰に話そうか悩んだ火村先生がいつもに似合わず揺れていたのも気になるところである。妖しく不思議な設定だがいつもながらに見事な一冊である。