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IN*桐野夏生

  • 2009/12/15(火) 16:50:09

ININ
(2009/05/26)
桐野 夏生

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小説は悪魔ですか。それとも、作家が悪魔ですか?
かつて小説家の緑川未来男は、
愛人の存在に嫉妬した妻の狂乱を
『無垢人』という小説で赤裸々に書いた。
そして今、小説家の鈴木タマキは、
己自身の恋愛の狂乱と抹殺を
『淫』という小説に書こうとしていた。
『無垢人』と『淫』を繋ぐ、「○子」とは誰か?
やがて「○子」は、書く人と書かれた人と書かれなかった人々の蠢く
小説の此岸の涯へ、タマキを誘っていく。


作品に登場する作家・緑川未来男の小説『無垢人』が半ばに挿入されてはいるが、章ごとのタイトルはすべて「イン」である。「淫」「隠」「因」「陰」「姻」そしてタイトルの「IN」。
作家・鈴木タマキが自分の小説を書くために、緑川未来男の『無垢人』に登場する愛人・○子を探し出し、恋愛の抹殺を解き明かそうという物語なのだが、タマキ自らのW不倫である恋愛の抹殺も絡みあって、ときとして現実と虚構を行きつ戻りつするような感覚である。小説というものの性質を考えると、すべてが作者・緑川未来男によって生み出されたものかもしれず、本人亡きいまとなっては真実はだれにも判らず、周りの人々がそれぞれに想像することしかできないのかもしれない。読者としては、そんな正解のない旅をタマキと共に歩んだ心地である。もどかしさの残る一冊と言えるかもしれない。

東京島*桐野夏生

  • 2009/01/09(金) 19:12:57

東京島東京島
(2008/05)
桐野 夏生

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あたしは必ず、脱出してみせる――。ノンストップ最新長篇!

32 人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても、無人島に助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。果たして、ここは地獄か、楽園か? いつか脱出できるのか――。欲を剥き出しに生に縋りつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、読む者の手を止めさせない傑作長篇誕生!


読み始める前は、もっと象徴的な物語かと思っていたのだが、まさに無人島サバイバル物語であった。
ただ、たったひとりの女を含む男たちの、ある意味閉ざされた場所での落胆と焦燥と本能の欲求とで始まった日々の生き様は、それまで生きていた場所の縮図とも言えるようで興味深い。名前を与えることで、何もなかった物事に意味づけをする様子は、現代人の心許なさを見るようでもある。しかも、皆が心の拠り所とするいわば中心的な場所につけられた名前が、「ナガタチョウ」でも「カスミガセキ」ではなく「コウキョ」であるというのもとても日本人的であり、皮肉でもあるように思われる。
後日談には、拍子抜けの感もあるが、納得もできる。脱出した者と残った者、どちらがほんとうに幸福だろうか。

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白蛇教異端審問*桐野夏生

  • 2008/05/18(日) 17:00:46

白蛇教異端審問白蛇教異端審問
(2005/01)
桐野 夏生

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デビュー以来、枠にとらわれない問題作を発表し、周囲の軋轢と闘い続けてきた作家の10年間の軌跡。『朝日新聞』『オール読物』等に発表したエッセイをまとめる。ショートストーリー8篇も併録。


著者初のエッセイ集 + ショートストーリー。
ショート・コラム、日記、エッセイ、書評・映画評、ショートストーリー、白蛇教異端審問から成る。
桐野夏生たからばことでもいった趣である。
作品を生み出す苦悩、作家であるということから派生するあれこれについて、作家であるからこそ受ける攻撃と反撃について、などなど・・・・・。著者の生きる姿勢の一端がうかがえて興味深い。
だがやはり、エッセイよりもショートストーリーの方に魅力が感じられる。

メタボラ*桐野夏生

  • 2007/10/07(日) 08:45:21


メタボラ メタボラ
桐野 夏生 (2007/05)
朝日新聞社
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なぜ「僕」の記憶は失われたのか? 世界から搾取され、漂流するしかない若者は、日々の記憶を塗りかえる。破壊されつくした僕たちは「自分殺し」の旅に出る。孤独な魂の冒険を描く、まったく新しいロードフィクション。


いきなりなにかから逃げている場面で物語りは幕を開ける。何から逃げているのかは読者には判らず、次第に逃げている本人にも判っていないことが判ってくる。なぜなら「僕」は記憶を失っていたのだった。
逃げる途中で、同じく逃げてきた――といってもこちらは自分が誰かも何から逃げてきたかもはっきりしているが――昭光と出会い、行動を共にするうちに、新しい自分が一から形作られていき、同時に本当の自分の在り処を手探りするもどかしい日々が始まるのだった。
ふとしたきっかけで記憶の欠片をひとつ、またひとつと取り戻し始めても、そこには希望の光はなく、新しい自分と本来の自分との間で揺れ続ける「僕」なのだった。
主な舞台は沖縄だが、そう聞いて一般的に思い浮かべるようなのどかで南国的な鷹揚さとは無縁に物語りは繰り広げられているのだが、舞台が沖縄だからこその展開でもあるような気がする。
DV、ニート、劣悪な労働条件、ネットの集団自殺、などなど・・・。たくさんの要素が盛り込まれているが、何一つ解決したわけでもなく、却って泥沼にはまり込んでいくようでもある。
読後感は重いが、なぜか未来を想い描けるような心持ちにもなる一冊である。

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顔に降りかかる雨*桐野夏生

  • 2006/08/29(火) 17:07:14

☆☆☆☆・

顔に降りかかる雨 顔に降りかかる雨
桐野 夏生 (1996/07)
講談社

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親友のノンフィクションライター宇佐川耀子が、一億円を持って消えた。 大金を預けた成瀬時男は、暴力団上層部につながる暗い過去を持っている。 あらぬ疑いを受けた私(村野ミロ)は、成瀬と協力して解明に乗り出す。 二転三転する事件の真相は?女流ハードボイルド作家誕生の'93年度江戸川乱歩賞受賞作!  ――文庫裏表紙より


素材は紛れもなくハードボイルドだが、味付けには実にさまざまな調味料が使われていて、男性の書くハードボイルドとはひと味もふた味も違っている。
暴力団がかかわってくるのは当たり前としても、死体写真同好者、壁崩壊後のベルリン、ネオナチ、中古外車のディーラー、ノンフィクションライター志望の押しかけ助手、などなどが、ときにヒントとなり、またときには迷路の扉となって惑わせ、読者を物語りに惹き込んでゆく。
かなり早い段階で ある理由によってかなり強く疑った人物は、その後 何度も上書きされる状況によって 疑いの濃度を薄めていったが、最後の最後で、あぁ こういう筋書きだったのか、と腑に落ちるのである。
村野ミロの父で、調査探偵を引退した村野善三が、わずかしか登場しないがいい味を出している。

光源*桐野夏生

  • 2006/05/12(金) 17:56:52

☆☆☆・・



あんたら、ふた言目には「いい映画」って言うけどさ。
俺は映画の奴隷じゃねえよ。

『柔らかな頬』から二年。
「狂乱」を求めて、光を発し続ける男女を鮮烈に描く
待望の直木賞受賞後長篇第一作
  ――帯より


出版は平成十二年。
帯に謳われているように、映画の製作現場が舞台である。であるが、映画の話というわけでもない。あくまでも映画製作の場は物語を描くための舞台である。
描かれているのは人間のさがのようなものだろう。登場人物の誰も彼もがことごとく自分本位である。
どうすれば自分の立場を守れるかを第一義として動く者、自分のイメージを守ろうと必死になる者、自由を奪われた躰ゆえに実現できないことを実現しようとする者に嫉妬する者、愛する者を独り占めしようとする者。
どの登場人物にも肩入れする気になれず、見直そうとする端緒を垣間見せてはまた自己愛にどっぷり浸かるのを目の当たりにして幻滅させられる。
だが、それがなんとも人間臭くて 不思議なことに誰をも憎むことができないのだ。
本を閉じたあとも 彼らがきっと自分のことをいちばんに考えてきょうもどこかで誰かと衝突しながら生きているだろうと、おかしな親しみさえ覚えるのである。

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冒険の国*桐野夏生

  • 2006/05/05(金) 17:15:56

☆☆☆・・



永井姉妹と森口兄弟は、姉と兄、妹と弟が同級生同士で、常に互いの消息を意識してきた。特に、弟の英二と妹の美浜は、強い絆で結ばれていた。が、ある日、一人が永遠に欠けた。英二が自殺したのだ。美浜は、欠落感を抱えたまま育った街に帰って来る。街はディズニーランドが建設され、急速に発展していた。そこで、美浜は兄の恵一に再会する。バブル前夜の痛々しい青春を描く文庫オリジナル。  ――文庫裏表紙より


1988年に「すばる文学賞」に応募し、最終候補に残りながら「受賞作なし」という結果になった原稿に加筆修正を施して出版されたのがこの作品だそうである。いってみれば幻のデビュー作というところだろうか。
日本がどんどん何かを作リ生み出していったバブルという時代の階段に片足をかけた頃の何か慌ただしく騒々しく浮かれ騒ぐ気分に取り残されたような美浜の一家の居心地の悪さと、美浜自身の人生における居心地の悪さのようなものがリンクしていて切なく哀しい。空に浮かぶ部屋の窓から見えるのがディズニーランドのシンデレラ城だというのが物悲しさをいや増している。

残虐記*桐野夏生

  • 2006/03/31(金) 17:20:18

☆☆☆・・



誘拐。監禁。謎の一年間。
そして、25年後の「真実」。

暗くて狭いアパートの一室。
汚れた作業着の若い男。
女の子が一人――。

失踪した作家が残した原稿。
そこには、25年前の少女誘拐・監禁事件の、自分が被害者であったという驚くべき事実が記してあった。
奔流のように溢れ出した記憶。
誘拐犯と被害者だけが知る「真実」とは・・・・・。
  ――帯より


物語は、失踪した作家の夫から 担当編集者に宛てられた手紙からはじまる。
そして、作家がその編集者に渡すように指示するポストイットガ貼られた原稿へと進んでいくのであるが、その原稿の冒頭には、服役を終えて出所してきた25年前の誘拐・監禁事件の犯人から作家の元に届いた手紙が載せられている。

想像を絶する出来事に目も耳も心さえ塞いで生きてきた作家の元に この手紙が届いたことで彼女の記憶は堰を切ったように溢れ出し、書かずにいられないほど突き動かされたのだろう。真相は犯人と被害者にしか共有できないとは言え、次第に事件の本質が解き明かされてゆくのである。しかし、原稿を残した作家の行方も安否も相変わらず知れないままなのである。
彼女は何を思い、どこへ行ったのだろうか。行き先には必然性があるはずだと思うのだが、物語ではそれは明かされてはいない。主人公のいま現在の生の気持ちはまったく判りようがないという珍しい物語である。作家自身が出てきたら、もしかするとまったく別の物語りになるのかもしれない。などとさえ思ってしまう。

アンボス・ムンドス*桐野夏生

  • 2006/02/08(水) 20:49:19

☆☆☆・・



この世には二つの世界がある。
表と裏、そして
天国と地獄。

一日前の地球の裏側で、あなたを待っています。

人生で一度だけ思い切ったことをしよう――
キューバで夢のような時を過ごした男と女を待ち受ける悪意の嵐。
直木賞受賞後の著者の変遷を示す刺激的で挑戦的な作品集
  ――帯より


表題作のほか、植林・ルビー・怪物たちの夜会・愛ランド・浮島の森・毒童。

桐野さんの描く女性はどうしていつもこうなのだろうと思わせられる。自虐的であったり、ずぶずぶとなにか溺れていたり、抜け出そうとして 諦めてもがくのさえ止めてしまっていたりする。
けれど、彼女たちはいつでも爆発できるだけのものを身の裡に飼い馴らしているように見える。女性の本当の強さがそこにあるように思われる。
著者が女性だからこそ書けるのだろうあれこれが胸に刺さる。

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錆びる心*桐野夏生

  • 2005/11/09(水) 17:45:52

☆☆☆・・



 閉じこめられた想い
 封じ込んだ願い
 叶えられない夢・・・・・

 出口を塞がれた感情が いつしか狂気と幻に変わる
     (帯より)


短編集。表題作のほか
虫卵の配列・羊歯の庭・ジェイソン・月下の楽園・ネオン

桐野作品によく登場するグロテスクな怖さの女性は出てこなかったが、これらの物語に登場する女性たちはみな静かに普通に怖い。
男性はと言えば、なんだか頼りなく儚い趣きである。見掛けは強そうな男の人も出てくるのだが、それでも漂うものが儚く哀しい。

ジオラマ*桐野夏生

  • 2005/10/18(火) 10:00:47

☆☆☆・・



 ちがう。
 こんなはずではなかった。
 ずれていく、何かがずれていく・・・。

 マンションの真下に住む赤い髪の女。銀行員の自分とは
 まったく別世界の人間だと思っていたのに・・・・・。
 夜はウリそやるOL、偽装結婚をしてしまったゲイのサラリーマン、
 みな自分なりに普通の人生を歩んでいたはずの人たち、
 その平凡な日々にひそむ闇。
 日常の断片が少しずつ異常な方向にずれていく恐怖感が、
 濃密に立ちこめる短編群。
                (帯より)


表題作のほか、
デッドガール・六月の花嫁・蜘蛛の巣。井戸川さんについて
捩れた天国・黒い犬・蛇つかい・夜の砂

取り立てて語ることもないような ごく普通の日常が淡々と描かれ、淡々とした語り口は変わらないのに どこかから少しずつずれてゆく。
登場人物たちは ずれたことに、ずれ幅が大きくなり後戻りできなくなってから気づいてしまったような、茫然としつつもある種の開放感に満たされているような気がする。
怖いのだが、これこそが人間の営みなのではないかという心持ちにもなる。


魂萌え!*桐野夏生

  • 2005/09/23(金) 21:02:31

☆☆☆☆・



 とことん行きなさい!
 夫の急死後、世間と言う荒波を漂流する主婦・敏子。
 六十歳を前にして、惑う心は何処へ?
 ささやかな<日常>の中に豊饒な世界を描き出した桐野夏生の新たな代表作。

 どうとでもなれ。
 強風に煽られて吹き飛ぶ木の葉。
 吹き飛ばされてどこかへ飛んで行きたかった。
 木にしがみつくのは馬鹿げている。(本文より)
       (帯より)


ほとんど前ぶれもなく夫・隆之が風呂上りに心臓麻痺で急死した。
63歳だった。
物語の主人公である専業主婦の妻・敏子は59歳。努力しなくては保てない円満さを感じ、しっくりいっていたとは言えなかった夫の死によって、初めて夫にとっての自分、自分にとっての夫の存在の意味を考えることになる。
さらに、十年もの間夫に別の生活があったことが明らかになり、まったく気づかせなかった夫の裏切りを憎み、気づかなかった自分を恨みもするのだった。
一人になったことで微妙に変化する友人との関係や夫の知己との交流、そして束の間の情事。
夫の死を実感できないままに呆然と過ごす敏子の身に次々と降りかかってくる難題。
それらを何とか乗り越えてゆくうちに、敏子の内面にも少しずつ変化が(きざ)してくるのだった。

若い人にはおそらくまだ実感として捉えられないのではないかと思うあれこれが、親を亡くし伴侶を失う年代に差し掛かる者にとっては我が身のことのように実感される。
読者の置かれている立場はさまざまだろうが、心情的にはほぼ間違いなく敏子と同じような想いに襲われるのだろうと思う。
切なくてやりきれなくて、しかし目を瞑るわけにはいかない物語だった。

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I'm sorry,mama.*桐野夏生

  • 2005/01/23(日) 09:10:10

☆☆☆・・




 かつて女であった怪物たちへ、そして、
 これから怪物になる女たちへ捧ぐ、衝撃の問題作!

                           (帯より)


父も、母さえもわからずに娼館で育ったアイ子。戸籍さえなく、学齢になっても学校へやろうと考えてくれる人は誰もいなかった。
そんな彼女が辿った人生の恐ろしく悲しい物語である。

アイ子のしてきたことは 人の心を持たない悪魔のように恐ろしいことには違いないが、人の心を持てないようになってしまったのはアイ子のせいだけではないだろう。
親――特に生物としての繋がりが目に見える母親――の存在を確かに感じることは、人が人として生きてゆく上に欠くべからざるものなのだということを哀しいまでに思わせられる。
アイ子は悪魔のような加害者であると同時に、抵抗する術を持たない捨て猫のような被害者でもあるのだろう。

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グロテスク*桐野夏生

  • 2004/04/09(金) 19:26:16

☆☆☆・・


 光り輝く、夜の私を見てくれ。
 堕落ではなく、解放。敗北ではなく、上昇。
 昼の鎧が夜風にひらめくコートに変わる時、
 和恵は誰よりも自由になる。
 一流企業に勤めるOLが、夜の街に立つようになった理由は何だったのか。

                   (帯より)

帯の惹句は作品のほんの一部分を現わしているに過ぎない。
「グロテスク」このタイトルから想像できるとおりのグロテスクな最期を女たちは何故選ぶのだろう。女たちだけではないかもしれない。男たちもまた、であろう。
生きると言うことは それほど日々闘わねばならないことなのだろうか。自分よりも優れる者と、自分より劣る者と、他者と闘う自分自身と。
負の相乗効果というものは きっと存在するのだろう。この本から それはゆらゆらと立ち上ってくるようだ。なんともやりきれない読後感である。

OUT*桐野夏生

  • 2003/11/04(火) 07:34:57

☆☆☆・・   OUT 上 講談社文庫 き 32-3

弁当工場の夜勤パートの主婦が夫を殺す。
パート仲間が彼女を庇ってしたことは...

どこまでも救いがなく 鬱々と暗い話である。
舞台が夜勤という 闇の中であるということさえ 象徴的に思える。
人が人としてあるまじきある境界を越える時。それはどういう時なのだろう。
満たされぬものを抱えた独りの人間が それを越えるのは 案外あっけないものなのかもしれない。
隣に住んでいても 全くおかしくないような、もっと言ってしまえば
自分かもしれないような主婦達が抱える 心の闇。
読み進むに連れ 逃れられなくなり 引き込まれながらも 暗澹たる気分にさせられる。