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遠い唇*北村薫
- 2016/12/05(月) 19:15:44
小さな謎は、大切なことへの道しるべ。
ミステリの巨人が贈る、極上の“謎解き”7篇。
■「遠い唇」
コーヒーの香りでふと思い出す学生時代。今は亡き、姉のように慕っていた先輩から届いた葉書には、謎めいたアルファベットの羅列があった。
■「解釈」
『吾輩は猫である』『走れメロス』『蛇を踏む』……宇宙人カルロロンたちが、地球の名著と人間の不思議を解く?
■「パトラッシュ」
辛い時にすがりつきたくなる、大型犬のような同棲中の彼氏。そんな安心感満点の彼の、いつもと違う行動と、浴室にただよう甘い香り。
■「ビスケット」
トークショーの相手、日本通のアメリカ人大学教授の他殺死体を目撃した作家・姫宮あゆみ。教授の手が不自然な形をとっていたことが気になった姫宮は、《名探偵》巫弓彦に電話をかける――。
全7篇の、一筋縄ではいかない人の心と暗号たち。
解いてみると、“何気ないこと”が光り始める。
さまざまな趣向の七編である。宇宙人目線に妙に納得させられたり、懐かしい顔(?)を見られてにんまりしたり。謎自体にもやさしさがあり、人が死んだとしても、なぜか品の良さが感じられる。著者らしい一冊でもある。
中野のお父さん*北村薫
- 2015/11/17(火) 17:19:29
出版界に秘められた“日常の謎”は解けるのか!?体育会系な文芸編集者の娘&定年間際の高校国語教師の父。
出版社に勤める田川美希の元に持ちあがる出版界の謎を、中野の実家の父に相談すると、父が豊富な知識と知恵で解き明かしてくれる、という日常の謎物語である。体育会系の娘・美希の魅力と、探偵役としての博識の父の魅力、そしてなにより、父娘の関係のあたたかさが魅力的な一冊である。
八月の六日間*北村薫
- 2014/07/20(日) 17:04:18
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0歳目前、文芸誌の副編集長をしている“わたし”。ひたむきに仕事をしてきたが、生来の負けず嫌いと不器用さゆえか、心を擦り減らすことも多い。一緒に住んでいた男とは、3年前に別れた。そんな人生の不調が重なったときに、わたしの心を開いてくれるもの―山歩きと出逢った。四季折々の山の美しさ、怖ろしさ。様々な人との一期一会。いくつもの偶然の巡り合いを経て、心は次第にほどけていく。だが少しずつ、けれど確実に自分を取り巻く環境が変化していくなかで、わたしは思いもよらない報せを耳にして…。生きづらい世の中を生きる全ての人に贈る“働く山女子”小説!
「九月の五日間」 「二月の三日間」 「十月の五日間」 「五月の三日間」 そして表題作である「八月の六日間」
読み始めて、著者は北村薫氏ではなく、40代の女性エッセイストだったかと、思わず表紙を見直してしまった。山登りの経験はないので、その辺りのリアルさは判らないが、それでも、装備やらルートやら、山小屋でのあれこれやら、体験した人でないと判らないような臨場感が漂っている。荻原浩氏オバサン説(わたしが勝手に思っているだけだが)に加えて、北村薫氏女性説も唱えたくなる。それを抜きにしても、三年間一緒に暮らした男性と離れ、仕事で責任ある立場になり、古くからの心を許せる友人を喪い、心細さと力強さの間で揺れ動く女性の姿が目の前に立ち上ってくるようで見事である。読んでいる間、くっきりと彼女が目の前にいると思える一冊である。
いとま申して―『童話』の人びと*北村薫
- 2011/04/02(土) 16:51:34
![]() | いとま申して―『童話』の人びと (2011/02) 北村 薫 商品詳細を見る |
若者たちの思いが集められた雑誌「童話」には、金子みすゞ、淀川長治と並んで父の名が記されていた―。創作と投稿に夢を追う昭和の青春 父の遺した日記が語る“時代”の物語。
父の残した日記が下敷きにはなっているが、単なる日記紹介とか人物伝などというものとはまったく違った一冊である。大正から昭和にかけての時代背景やその時代特有の空気、そして作家を目指す人びとのもたらす熱風のようなものを、単に息子という視点に留まらず、同じ作家として、またその後の時代を生きる者としての視点を持ってみつめているように思われる。静かながら熱い風を感じる一冊である。
元気でいてよ、R2-D2。*北村薫
- 2009/11/18(水) 16:58:55
![]() | 元気でいてよ、R2-D2。 (2009/08/26) 北村 薫 商品詳細を見る |
●隣の課の課長が自分のことを好きらしいと聞いた陽子は、全く好意はないが変に意識するようになる。その後課長は若い部下との結婚が決まって、陽子は微妙に“振られた女”という目で見られるように。最初に課長の話を振ってきた後輩・亜里沙の作為を疑う陽子。だが後輩の行動はそれだけではなかった…「三つ、惚れられ」
●会社の後輩と居酒屋で飲んでいる女性の独白。連想ゲームのように次々と話題が出てくるなか、彼女の儚く終わった恋の記憶が蘇る…「元気でいてよ、R2- D2。」
●千葉に住む姉夫婦の家に数日泊まって東京見物をする詩織。義理の兄に郊外の美術館に連れて行ってもらう。日常を離れて特別な時間を味わうが、帰宅して姉に言われた言葉にどこか毒を感じてしまう…「さりさりさり」
他、普段は見えない人の真意がふと現れる瞬間を描く、全8編収録の短編集。
上記紹介作のほか、「マスカット・グリーン」 「腹中の恐怖」 「微塵隠れのあっこちゃん」 「よいしょ、よいしょ」 「ざくろ」
「普段は見えない人の真意」の内でも、ダークな部分が、するりと身を入れ替えるように描かれていて、静かに怖い。登場人物のだれもが、声を荒げるでもなく暴れるでもなくほんとうに静かで、あまりにも淡々としているのがかえってじんわりと怖い。「腹中の恐怖」の息子はもちろん怖いが、その母の怖さも背筋が凍りつくようである。
鷺と雪*北村薫
- 2009/05/27(水) 11:20:38
![]() | 鷺と雪 (2009/04) 北村 薫 商品詳細を見る |
帝都に忍び寄る不穏な足音。ルンペン、ブッポウソウ、ドッペルゲンガー…。良家の令嬢・英子の目に、時代はどう映るのか。昭和十一年二月、雪の朝、運命の響きが耳を撃つ―。
表題作のほか、「不在の父」 「獅子と地下鉄」
ベッキーさんシリーズ第三弾である。
恙なく女学生生活を送る英子だったが、友人や知人の身の回りに起こるちょっとした不思議に、心を奪われたり胸を痛めたりもする。そんなときに頼りになるのは、お抱え運転手のベッキーさん(別宮みつ子)である。控えめながら、豊富な知識と思慮深さで、陰ながらいつも的確なアドバイスを授けてくれるベッキーさんなのである。
現代では考えられないが、良家のお嬢さまである英子が、ごく限られた範囲ではあるが、このように探偵まがいの冒険をすることができるのも、ベッキーさんが雇い主である英子の両親から絶大なる信頼を寄せられている証でもあるだろう。なんとも格好いいのである、ベッキーさん。
最後に配された表題作では、時代は不穏な気配が濃厚になり、英子の淡い恋心にも影が差す幕切れとなる。若月さんがどうなったのか、とても気になる。
1950年のバックトス*北村薫
- 2007/11/12(月) 17:28:21
一瞬が永遠なら、永遠もまた一瞬。過ぎて返らぬ思い出も、私の内に生きている。秘めた想いは、今も胸を熱くする。大切に抱えていた想いが、解き放たれるとき――男と女、友と友、親と子、人と人を繋ぐ人生の一瞬。「万華鏡」「百物語」「包丁」「昔町」「洒落小町」「林檎の香」など、謎に満ちた心の軌跡をこまやかに辿る二十三篇。1950年のバックトス
(2007/08)
北村 薫
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1995年から2007年までに発表された作品がまとめられている。
二十三の味の違うドロップスをひとつずつ取り出して味わうような愉しみである。甘いものあり、すっぱいものあり、ほろ苦かったり、ツンとしたり、じわっと沁みたり・・・いろんな風味。
中でも、表題作にはじんとさせられた。人の縁(えにし)とはまったくもって不思議なものである。
そしてなんと、最後の物語「ほたてステーキと鰻」では大学生になったさきちゃんと牧子さんのその後の様子もチラリとわかったりするのである。思ってもいなかったので、うれしくなってしまうのだった。
玻璃(はり)の天*北村薫
- 2007/06/19(火) 18:29:13
☆☆☆☆・ ステンドグラスの天窓から墜落死した思想家。事故か、殺人か。英子の推理が辿りついた切ない真相とは-。昭和初期を舞台にした北村ワールド。表題作のほか「幻の橋」「想夫恋」を収録。 玻璃の天
北村 薫 (2007/04)
文藝春秋
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『街の灯』の続編。ベッキー(別宮)さんに再会できた。
時代は昭和初期。主人公は上流階級のお嬢様である花村英子。しかしほんとうの主役は花村家のお抱え運転手・ベッキーこと別宮みつ子だろう。
時代背景を巧みに生かし、現代が失ってしまった日本人のほんとうの意味での豊かさや奥ゆかしさを作品中に存分に満たして、趣きある一冊としても充分に愉しめる。そこに英子の周りに浮かび上がる日常の謎をベッキーさんが解き明かすというミステリ要素がプラスされるのだから堪えられない。
表題作はベッキーさんの胸の内を思うと切なくもあるが、それさえも凛として乗り越えてゆくベッキーさんなのだった。
ひとがた流し*北村薫
- 2006/11/14(火) 07:45:13
☆☆☆☆・ アナウンサーの千波、作家の牧子、元編集者で写真家の妻となった美々は、高校からの幼なじみ。牧子と美々は離婚を経験、それぞれ一人娘を持つ身だ。一方、千波は朝のニュース番組のメインキャスターに抜擢された矢先、不治の病を宣告される。それを契機に、三人それぞれの思いや願い、そして、ささやかな記憶の断片が想い起こされてゆく。「涙」なしには読み終えることのできない北村薫の代表作。 ひとがた流し
北村 薫 (2006/07)
朝日新聞社
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人の生きていく道はたしかに人の数だけあり、ずっと交わっていることなど有り得ない。それでも、人生の長い期間、別の誰かの人生と寄り添っていることはあるだろう。そんな三人の女性と彼女らを取り巻く人たちの物語である。
人ひとりひとりは、孤独で弱い存在かもしれないが、「生きていてほしい」と誰かに心底望まれることで大波や大壁を乗り越えることもできるようになるのだろう。三人の踏み込みすぎず いつも互いを心にかけている関係がとても清々しく、羨ましく思えるものだった。
そしてなんと、「さばの味噌煮」のエピソードがなければ気づかないところだったが、ここに出てくる牧子さんとさきちゃんは、あの『月の砂漠をさばさばと』のお母さんとさきちゃんだったのだ。あの物語の行く先にこんな物語が続いていたのだ、と懐かしい人に出会ったような心地になった。
紙魚家崩壊*北村薫
- 2006/04/25(火) 17:46:57
ニッポン硬貨の謎*北村薫
- 2005/11/06(日) 17:23:02
☆☆☆・・
一九七七年、ミステリ作家でもある名探偵エラリー・クイーンが
出版社の招きで来日し、公式日程をこなすかたわら東京に発生していた
幼児連続殺害事件に興味を持つ。
同じ頃、大学のミステリ研究会に所属する小町奈々子は、
アルバイト先の書店で、五十円玉二十枚を「千円札に両替してくれ」と
頼む男に遭遇していた。
奈々子はファンの集い<エラリー・クイーン氏を囲む会)に出席し、
『シャム双子の謎』論を披露するなど大活躍。クイーン氏の知遇を得て、
都内観光のガイドをすることに。
出かけた動物園で幼児誘拐の現場に行き合わせたことから、
名探偵エラリーの慧眼が先の事件との関連を見出して・・・・・。
(見返しより)
エラリー・クイーンが来日した折の事件を題材にした未発表原稿があるということで、クイーンを敬愛してやまない北村薫氏に訳者として白羽の矢が立った。
節ごとに丁寧な訳注を入れながら訳されていく物語は連続幼児殺人事件の犯人を追いつめることだった。
大学のミステリ研に属する奈々子は、大学の先輩で日本でのクイーンの世話役である白井の伝で囲む会に出席し、マニアックな質問で氏を喜ばせ在日中の多くの時間を共に過ごすことになったのだが、連続幼児殺人事件と彼女とは無関係ではなかったのだった。
翻訳口調にはやはり馴染めず、時代錯誤や認識不足な点も多々見られるが、まあかえってそれも味があるか・・・・・などと思って読んでしまいそうである。
というのも、これは実は純然たる北村薫さんの(エラリー・クイーンの未発表の原稿を翻訳している という体裁を取った)小説なのだから。
奈々子が ≪描表具≫という 絵で言う額縁の部分にまで絵を書く技法でクイーンの『シャム双子の謎』を説明する個所があるが、この『ニッポン硬貨の謎』にこそ描表具の技法が使われているのである。
そして、この奈々子のモデルは学生の頃の若竹七海さんであり、彼女の実体験を元に書かれた『競作 五十円玉二十枚の謎』に北村氏が加わらなかった理由がこの本なのである。
ミステリ十二か月*北村薫
- 2005/06/23(木) 17:25:50
☆☆☆・・
毎日がミステリきぶん
子どもの頃感じた素朴な驚き、忘れていませんか?
北村薫が選んだ50冊
そこに、あなたが出会えて良かったと思える本が必ずあります
有栖川有栖氏との熱血対談と、
大野隆司氏の彩色版画を収録 (帯より)
読売新聞の夕刊に連載されていたものがまとめられた一冊。
『詩歌の待ち伏せ』でも感じたが、北村薫さんの本が好きでたまらない様がこぼれだしている。
書かれようはとても穏やかなのだが、裡に熱が篭っているのがわかるようである。ときに、辛口なのも愛ゆえだろう。
版画家大野隆司さんの円形の版画挿絵がまたいい。
その回のテーマに沿っていることはもちろん、円の中には大野隆司風の別の謎まで隠されていて、何倍にも愉しめる。
最後に載せられている有栖川有栖さんとの対談も、味わい深い。
さっそく何冊か図書館に予約を入れた。
謎物語*北村薫
- 2004/09/02(木) 17:57:46
☆☆☆・・
-----あるいは物語の謎-----
校庭で遊んでいて、「動詞は活用する」ことにふと気づき、
新鮮な驚きを覚えた小学生が、長じて作家・北村薫になりました。
けっしておしゃべりではないのに話し上手。
そんな北村さんが、落語の話、夢の話、手品の話、
さまざまな話題を織り交ぜながら、
本格推理小説の尽きない魅力と、
宿命的に背負うその危うさとについて語り、
「しかし友よ、それは冒す値打ちのある冒険なのだ」と謳う――
この本をこれから読む読者(あなた)は、とびきりの幸せ者です。
宮部みゆき
(帯より)
さすが北村さん、お子さんの頃から 目のつけどころが違いますね。
帯の宮部みゆきさんのおっしゃるおしゃべりでないのに話し上手という言葉に深く肯いた。きっと 北村さんの頭の中には 思いがけず発見したことのあれこれを 誰かに話したい、聞いてもらいたい というわくわくした少年のような昂ぶりが詰っているのではないだろうか。そんな気がする。素敵である。
第七回の冒頭のこんな文章には失礼ながら少し笑ってしまった。
昨今では、人の死なないミステリ、特に日常性の中の謎、
などといったタイプの作品に出会うと、もうそれだけでうんざりする
――ことが多い。
私の 北村作品のいちばん好きなところがまさにこの 人の死なない日常性の謎なのだから。うんざり、などとおっしゃらずに これからもこの線でいっていただきたいものである。
素に近い北村さんの横顔を垣間見られたような気がして 嬉しかった。
詩歌の待ち伏せ 上下*北村薫
- 2004/06/30(水) 08:40:08
覆面作家の愛の歌*北村薫
- 2004/06/13(日) 08:18:04
☆☆☆・・
覆面作家の愛の歌
お嬢さま作家は名探偵
ミステリ界に登場した《覆面作家》は、
天国的な美貌で、大邸宅に住む20歳のご令嬢。
難事件に、信じがたい推理力を発揮する・・・・・
待望のシリーズ第2弾!
きっかけは、春のお菓子、梅雨入り時のスナップ写真、
そして新年のシェークスピア・・・・・
三つの季節の、三つの事件に潜む謎!?
《覆面作家》千秋さんの推理が冴える――
(帯より)
いろんな顔を見せてくださる北村薫さん。
このシリーズはなんといっても軽妙でコミカルな設定と千秋さんの見事な推理が魅力的だ。
今回も 些細な所に引っ掛かりを見つけて 物の見事に謎解きをする千秋さんと 彼女を取り巻く人々の表情が愉快痛快なのである。
北村さんご自身がもしかすると多重人格か?と疑いたくなるほど 描き分けは素晴らしい。
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