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雀蜂*貴志祐介
- 2018/07/02(月) 17:03:35
角川書店 (2013-10-25)
売り上げランキング: 305,892
11月下旬の八ヶ岳。山荘で目醒めた小説家の安斎が見たものは、次々と襲ってくるスズメバチの大群だった。昔ハチに刺された安斎は、もう一度刺されると命の保証はない。逃げようにも外は吹雪。通信機器も使えず、一緒にいた妻は忽然と姿を消していた。これは妻が自分を殺すために仕組んだ罠なのか。安斎とハチとの壮絶な死闘が始まった―。最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!
ホラーと言っていいのかどうかはよくわからないが、主人公が、ひたすら雀蜂の襲撃から逃れる描写が印象的な物語である。逆に言えば、この状態に陥ったそもそもの理由や犯人のことなどどうでもよくなってしまうようでもある。いちばんかわいそうなのは、途中でやってきて巻き込まれて亡くなった編集者なのは間違いない。後半のどんでん返しも、そこまでの雀蜂との悪戦苦闘ぶりのせいで、印象が薄くなってしまったような気がする。雀蜂攻めにはされたくないと思わされる一冊ではあった。
狐火の家*貴志祐介
- 2018/03/11(日) 18:30:28
築百年は経つ古い日本家屋で発生した殺人事件。現場は完全な密室状態。防犯コンサルタント・榎本と弁護士・純子のコンビは、この密室トリックを解くことができるか!?
表題作のほか、「黒い牙」 「盤端の迷宮」 「犬のみぞ知る Dog knows」
弁護士・青砥純子と、怪しい防犯コンサルタント・榎本が、すっかり定着してしまった密室案件の謎解きに挑む。純子は、なんだかんだと榎本に頼ってはいるが、心の底では、実は犯罪者側に立つ者なのではないかと疑いの目で見ており、榎本は榎本で、ほのめかすような発言をわざとしている節も見受けられ、微妙な掛け合いがコメディっぽくもあって愉しめる。すっかりいいコンビである。本作では榎本のさらなる趣味の範囲の広さも披露され、それもまた興味深い。行く末を見届けたいシリーズである。
ミステリークロック*貴志祐介
- 2018/01/13(土) 18:19:21
KADOKAWA (2017-10-20)
売り上げランキング: 7,341
犯人を白日のもとにさらすために――防犯探偵・榎本と犯人たちとの頭脳戦。
様々な種類の時計が時を刻む晩餐会。主催者の女流作家の怪死は、「完璧な事故」で終わるはずだった。そう、居あわせた榎本径が、異議をとなえなければ……。表題作ほか、斜め上を行くトリックに彩られた4つの事件。
表題作のほか、「ゆるやかな自殺」 「鏡の国の殺人」 「コロッサスの鉤爪」
防犯探偵・榎本と弁護士の青砥純子が凸凹コンビのようで、榎本の身になってつい笑ってしまう。女性弁護士でこのキャラはなかなか珍しいのではないだろうか。物語は、トリックがかなり高度で、図解されていてもなかなか理解しにくい部分もあるのだが、なんとなくの理解でも充分愉しめるので、ところどころ突き詰めずに読み進めた。謎解きをされた当事者たちは、しっかり理解できているのだろうか。それを於いても、ハラハラドキドキさせられるものばかりで、榎本の目のつけどころが、常人とはいささか違うところも興味深い。難解な部分はあるにしても、500ページ越えを感じさせない愉しい読書タイムを過ごさせてくれる一冊である。
鍵のかかった部屋*貴志祐介
- 2011/10/20(木) 21:09:53
![]() | 鍵のかかった部屋 (2011/07/26) 貴志 祐介 商品詳細を見る |
自称・防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)榎本と、美人弁護士(実は天然!?)純子のコンビが、超絶トリックに挑む!貴志祐介にしか考えつけない、驚天動地の密室トリック4連発!密室ミステリの金字塔、ついに登場。
表題作のほか、「佇む男」 「歪んだ箱」 「密室劇場」
密室好き(?)の弁護士・青砥純子と怪しげな防犯コンサルタント・榎本が関わった四つの事件の物語である。純子が乗り出した事件の調査に榎本が助っ人に入り(あるいは偶然出くわし)、結局は榎本が、全面的に推理力と腕に覚えのある技術を駆使して謎を解き明かす、という趣向である。榎本が着目する真犯人の性格と密室トリックの必然性の関係には注目すべきところがある。だが、最後の物語にはちょっと物足りなさを感じてしまった。息が合っているのかいないのかよくわからないコンビだが、純子の天然振りがアクセントにもなっているのかな、という一冊である。
天使の囀り*貴志祐介
- 2005/08/16(火) 08:28:57
☆☆☆・・
『黒い家』を凌ぐ、大傑作
現代社会の病根を抉りだす、前人未到の超絶エンタテインメント
頻発する異常自殺事件!それは人類への仮借なき懲罰なのか。
迫りくる死の予兆と快楽への誘惑。漆黒の闇から今、天使が舞い降りる。
注目の気鋭が放つ、衝撃の問題作(書き下ろし) (帯より)
ホラーは苦手と言いつつつい手にしてしまう貴志祐介。
インターネット上に巧妙に仕掛けられた罠・人の弱い部分を巧みに刺激して付け入る卑劣さ・麻薬的快楽に陥る怖さ。そしてなにより、人間の奢りを根こそぎ覆す線虫のおぞましさ。
ラストに向かって少々急いだ感じがするのが少し気になったが、タイトルから想像する世界と、物語のなかの現実とのギャップの激しさには言葉を失う。
黒い家*貴志祐介
- 2005/04/13(水) 18:28:16
☆☆☆・・
第4回 日本ホラー小説大賞受賞作
人はここまで悪になりきれるのか?
人間存在の深部を襲う戦慄の恐怖。
巨大なモラルの崩壊に直面する日本。黒い家は来るべき破局の予兆なのか。
人間心理の恐ろしさを極限まで描いたノンストップ巨編。
「ホラー小説界にまたまた出現した今世紀最強の銃弾!
(帯より)
子どもは保険金欲しさに自殺を装わされて殺されたのか?
殺したのはなさぬ仲の父親?それとも・・・。
保険金支払い査定の現場で働く若槻が、ある日受けた一本の問い合わせの電話が、考えてみればこの物語のきっかけであった。
「保険金いうのは、自殺した時でも出ますんか?」
そして、始まりはいつとも知れないのだ。
いつもの仕事の一環として関わったつもりが、実は巧みに利用されていたのではないかと気づくのは、もうほとんど事件が終わりかけているときだった。事件を起こした側と翻弄された側の双方の幼い頃の体験によるトラウマが複雑に絡み合い、緊張感を高めている。
荒唐無稽の怖さではなく、今にも身近に忍び寄ってきそうな温度のある怖さに震えながらページを捲った。
硝子のハンマー*貴志祐介
- 2004/09/22(水) 19:45:01
☆☆☆☆・
見えない殺人者の、底知れぬ悪意。
異能の防犯探偵が挑む、究極の密室トリック。
日曜の昼下り、株式上場を目前に、出社を余儀なくされた
介護会社の役員たち。
エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、有人のフロア。
厳重なセキュリティ網を破り、自室で社長は撲殺された。
凶器は。殺害方法は。すべてが不明のまま、逮捕されたのは、
続き扉の向こうで仮眠をとっていた専務・久永だった。
青砥純子は、弁護を担当することになった久永の無実を信じ、
密室の謎を解くべく、防犯コンサルタント榎本径を訪れるが――。
(帯より)
幾重にも護られた密室。万全のセキュリティ。ほんの一握りの限られた人々以外、蟻の入り込む隙もなさそうに見える社長室である。だが、防犯コンサルタント・榎本は 忍び込みの技術を活かして次々とセキュリティを掻い潜る方法を見つけ出す。
読みながら 何度犯人に近づいたと思わされたことだろう。喜々として次の章に進むと そこに待っているのは推理や証拠の不備だったりするのだ。何度も推理の山を登り崩され、意外なところに辿り着く。
最後の最後にタイトルの意味がわかるのである。
青の炎*貴志祐介
- 2003/12/20(土) 08:23:15
☆☆☆・・ 青の炎
家族を護るため 最後まで護り切るために 完全殺人を目論む高校生の少年の物語。
理由はどうあれ 動機がどうあれ 越えてはいけない一線があることを 切なさと共に思い知らされる作品。
自分が手を染めたあらゆることは 様々に形を変えて 一つ残らず自分に帰って来るのだ。
この種の作品には 犯人側に罪があるのが明白でも つい 犯人側の思いに立ってしまいがちなものが多いが この作品では 何故か 少年の心に寄り添うことができずに読了した。
何故だろう?と考えを巡らしてみたが はっきりとした答えは見つけることができなかった。
ただ 【母と妹を護るため】という 動機と思考に なんとなく 綺麗事過ぎる欺瞞を感じたからかもしれない。
犯行前のシミュレーションでは 計り知れなかった重圧に苦しむ少年は それでもまだ 相当の罰を受けたとは言えないのだとも思う。
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