fc2ブログ

東京日記6 さよなら、ながいくん。*川上弘美

  • 2021/04/25(日) 16:25:03


たんたんと、時にシュールに、そして深くリアルに。あなたの日常でも、不思議なこと、愉快なこと、実はいっぱい起きていませんか? 20年目を迎えたライフワーク日記、最新刊!


今回も、川上ワールド全開である。愉しく微笑ましく、勝手に身近に感じてしまう。そしてタイトルの意味に、ふふふ、と笑う。そういうことか。ずっとずっと続いてほしいシリーズである。

わたしの好きな季語*川上弘美

  • 2021/01/09(土) 16:42:10


96の季語から広がる、懐かしくて不思議で、ときに切ない俳句的日常。
俳人でもある著者による初めての「季語」にまつわるエッセー集。
散歩道で出会った椿事、庭木に集う鳥や虫の生態、旬の食材でやる晩酌の楽しみ、ほろ苦い人づきあいの思い出、ちょっとホラーな幻想的体験など、色彩豊かな川上弘美ワールドを満喫しながら、季語の奥深さを体感できる96篇。名句の紹介も。


季語の選択、それにまつわる思いや、懐かしい昔の出来事などのエピソード。どれをとっても著者らしさが満ち満ちていてうれしくなる。書かれていないあれこれまで想像してしまって、ついつい頬が緩んだり。紹介されている句も、季語の使われ方がわかりやすく、情景が思い浮かぶものばかりで愉しい。大切に読みたい一冊である。

某*川上弘美

  • 2019/12/04(水) 16:47:22


変遷し続ける〈誰でもない者〉はついに仲間に出会う――。
愛と未来をめぐる、破格の最新長編。

ある日突然この世に現れた某(ぼう)。
人間そっくりの形をしており、男女どちらにでも擬態できる。
お金もなく身分証明もないため、生きていくすべがなく途方にくれるが、病院に入院し治療の一環として人間になりすまし生活することを決める。
絵を描くのが好きな高校一年生の女の子、性欲旺盛な男子高校生、生真面目な教職員と次々と姿を変えていき、「人間」として生きることに少し自信がついた某は、病院を脱走、自立して生きることにする。
大切な人を喪い、愛を知り、そして出会った仲間たち――。
ヘンテコな生き物「某」を通して見えてくるのは、滑稽な人間たちの哀しみと愛おしさ。
人生に幸せを運ぶ破格の長編小説。


川上弘美さんでなければ思いつかないような設定で、興味深い。何者でもないものとは、一体何者なのだろう。本人(?)たちでさえ、確固とした答えを持っていない者たちの、それでもそれぞれに個性を持った者としての生きざまをのぞき見しているような気分である。何者でもないからと言って、何にも縛られないわけでもなく、人間関係もそれなりに築き、多少変わった個性として人間社会に存在し、変異すれば忘れられていく。現在いる場所につなぎとめられる理由はなく、さりとてつなぎとめられない理由もまたない。だが、ほかの何者でもない者のために自分を犠牲にし、あるいは、その者を大切に思ったとき、なにかが変わるのだ。「某」が幸福なのかどうかはよくわからないが、某ではないわたしは、しがらみがあっても、逃げられなくても、生まれてから死ぬまで「わたし」という者として生きて行くのが幸福だと思わされる一冊でもあった。

森へ行きましょう*川上弘美

  • 2017/12/04(月) 16:27:05

森へ行きましょう
森へ行きましょう
posted with amazlet at 17.12.04
川上 弘美
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 3,517

1966年ひのえうまの同じ日に生まれた留津とルツ。「いつかは通る道」を見失った世代の女性たちのゆくてには無数の岐路があり、選択がなされる。選ぶ。判断する。突き進む。後悔する。また選ぶ。進学、就職、仕事か結婚か、子供を生むか…そのとき、選んだ道のすぐそばを歩いているのは、誰なのか。少女から50歳を迎えるまでの恋愛と結婚が、ふたりの人生にもたらしたものとは、はたして―日経新聞夕刊連載、待望の単行本化。


500ページ超えの超大作であるが、途中一度も飽きることなく――というよりも、次の展開が愉しみで愉しみで、本を置くのが名残惜しくて仕方がなかった。留津とルツ二人の人生が描かれているのだが、登場人物はほぼ同じ。いわゆるパラレルワールドの物語である。後半、さらに分化してべつの「RUTSU」が登場するが、彼女たちが、留津の小説の登場人物なのか、さらなるパラレルの世界の人なのかは判然としない。そしてそれは大した問題でもないのかもしれないとも思われる。それぞれの人生は、良くも悪くもありそうな人生であり、誰もが自身に引き寄せて考えることのできるエピソードが満載であり、何ら突出したことはないのだが、ほんの些細な選択の違いによって、少しずつ様相を異にしていく人生の道筋がたいそう興味深くて、のめり込む。語り口も至って淡々としているのだが、すっかりとりこになってしまう一冊である。

赤いゾンビ、青いゾンビ。 東京日記5*川上弘美

  • 2017/06/02(金) 18:09:19

東京日記5 赤いゾンビ、青いゾンビ。
川上 弘美
平凡社
売り上げランキング: 20,212

たんたんと、時にシュールに、そして深くリアルに……。2013年~現在までを綴ったライフワーク日記シリーズ、第5弾!


「つくりごととほんと」の境目が至極曖昧な著者の思考回路であり、行動パターンである。読者が明らかにつくりごとと思って読んでいる事々も、実はほうとのことかもしれない、と思わず読み返してしまうような雰囲気がある。そして、どちらにしても、そのときどきの著者の姿を容易に想像できてしまうのである。うつぶせで打ちのめされている姿とか、来る日も来る日もドラクエに明け暮れている姿とか、柱や建物の陰に身を潜めて、街で見かけた知り合いと出くわさないようにしている姿とか、である。それをそっと背後から覗き見している心地になれるのが、本作を読む醍醐味でもある。ともかく、愛すべき一冊なのは間違いない。

ぼくの死体をよろしくたのむ*川上弘美

  • 2017/04/13(木) 18:26:46

ぼくの死体をよろしくたのむ
川上 弘美
小学館
売り上げランキング: 11,657

彼の筋肉の美しさに恋をした“わたし”、魔法を使う子供、猫にさらわれた“小さい人”、緑の箱の中の死体、解散した家族。恋愛小説?ファンタジー?SF?ジャンル分け不能、ちょっと奇妙で愛しい物語の玉手箱。


一般的な現実世界とは、薄膜一枚ほど隔たったちょっぴり不思議な世界の物語といった趣である。登場人物も、描かれる題材も、一筋縄ではいかない。奇妙というほどではなく、非常識とも言い切れず、しかし現実からはほんの5mm浮いている感じ。だがどの物語を読んでもやさしい気持ちになれるのは、どの登場人物も著者に愛しまれているのが伝わってくるからかもしれない。少しだけ自分がやさしくなれたような気がする一冊でもある。

晴れたり曇ったり*川上弘美

  • 2017/02/27(月) 18:34:27

晴れたり曇ったり
晴れたり曇ったり
posted with amazlet at 17.02.27
川上 弘美
講談社
売り上げランキング: 347,713

日々の暮らしの発見、忘れられない人との出会い、大好きな本、そして、「あの日」からのこと。いろんな想いが満載!最新エッセイ集。


川上さんの欠片の一部を集めて並べたようなエッセイ集である。個人的には、作家さんのエッセイは、読まなければよかったと思わされることも多いのだが、川上弘美さんのエッセイは、小説から想う著者像を裏切らず、さらに深く納得させてくれるので好きである。町のどこかでそんな彼女に偶然出会いたいと思わされる一冊である。

このあたりの人たち*川上弘美

  • 2016/11/04(金) 18:39:17

このあたりの人たち (Switch library)
川上 弘美
スイッチパブリッシング (2016-06-29)
売り上げランキング: 147,303

『蛇を踏む』『神様』『溺レる』『センセイの鞄』『真鶴』『七夜物語』『水声』と現代日本文学の最前線を牽引する傑作群を次々に発表しする作家・川上弘美が、8年の年月をかけてじっくり育て上げた、これまでにない新しい作品世界。

現在も柴田元幸責任編集の文芸誌「MONKEY」に大好評連載中のこの「サーガ」は、日本のどこにでもあるような、しかし実はどこにもないような<このあたり>と呼ばれる、ある架空の「町」をめぐる26の物語。

にわとりを飼っている義眼の農家のおじさん、ときどきかつらをつけてくる、目は笑っていない「犬学校」の謎の校長、朝7時半から夜11時までずっと開店しているが、町の誰も行くことのない「スナック愛」、そして連作全体を縦横に活躍する「かなえちゃん」姉妹――<このあたり>という不思議な場所に住む人びとの物語を書いた連作短篇集が、ついに待望の一冊に。


語り主のことはよくわからない。かなえちゃんと友だちで、このあたりに住んでいるようだ、ということくらいしか……。それなのに、このあたりの人たちのことをものすごくよく見ていて、「このあたり通」とも言えるような人物である。このあたりには、さまざまな人たちが暮らしており、それぞれに誰よりも個性的なのである。いろんな年代のその人たちのことを、語り主も共に成長しながら見続けているのである。このあたりってどのあたりだろう、と思いをめぐらせてみるのも、ちょっと愉しい。自分もこのあたりに暮らす人になった心地にほんの少しだけなれる一冊でもある。

大きな鳥にさらわれないよう*川上弘美

  • 2016/08/01(月) 18:44:38

大きな鳥にさらわれないよう
川上 弘美
講談社
売り上げランキング: 8,980

遠く遙かな未来、滅亡の危機に瀕した人類は、「母」のもと小さなグループに分かれて暮らしていた。異なるグループの人間が交雑したときに、、新しい遺伝子を持つ人間──いわば進化する可能性のある人間の誕生を願って。彼らは、進化を期待し、それによって種の存続を目指したのだった。
しかし、それは、本当に人類が選びとった世界だったのだろうか?
絶望的ながら、どこかなつかしく牧歌的な未来世界。かすかな光を希求する人間の行く末を暗示した川上弘美の「新しい神話」


遠い未来の物語、ということなのだが、遥か太古から絶えず繰り返してきた生命の営みのようにも思われて、他人事とは思えず、味わい深い。人は、同じようなことを繰り返していると思っているが、実は少しずつ、大きな力に操られるように道を逸れて違う世界に足を踏み入れているのかもしれない。そして、最初の内こそ抱いていた違和感をも呑み込んで、何事もなかったように別の生き方を始めるのである。それさえもいま現在の人間社会を見せられているようで、背筋が寒くなる心地でもある。誰もが諍いなく平和に穏やかに暮らしたいと願っているわけでもなさそうである。含むところが深い一冊である。

水声*川上弘美

  • 2014/10/22(水) 17:02:45

水声水声
(2014/09/30)
川上 弘美

商品詳細を見る

過去と現在の間に立ち現れる存在「都」と「陵」はきょうだいとして育った。だが、今のふたりの生活のこの甘美さ!
「ママ」は死に、人生の時間は過ぎるのであった。


「ママ」の存在の大きさと、彼女を取り巻く人たちの距離感。死んでもなお影響を与え続ける圧倒的な存在感。いつもどこかに彼女の声を聞きながら、姉弟として育った都と陵は自分の身の内にある水の声に耳を傾けながら、かけがえのない存在を身近に感じながら生きているのである。途方もなく甘美でありながら哀しく切なすぎる一冊である。

不良になりました。--東京日記4*川上弘美

  • 2014/04/01(火) 18:37:42

東京日記4 不良になりました。東京日記4 不良になりました。
(2014/02/14)
川上 弘美

商品詳細を見る

川上弘美の人気日記シリーズ、待望の最新作! 東日本大震災、引っ越し、入院、手術……。2010年~2013年は、ほんとうに、いろいろなことがありました。カワカミ・ワールドのエッセンス。


川上弘美ワールド、嬉しいくらい全開である。著者の視線は、平凡な日常をするするとすり抜けて、道をほんのちょっぴりはみ出した物や事や人に止まる。たいがいは、へぇ、そこに引っかかるんだぁ、と思うが、たまに、そうそう、と膝を打ちたくなることがあって、そんなときは躍りだしたいほどうれしかったりする。内容にあっているのかいないのかよくわからない挿絵も味があって素敵である。息子さんもいい味を出していて、これからもどんどん秀逸なひと言を漏らしてほしいと願ってしまう。いつまでも続いてほしいシリーズである。

猫を拾いに*川上弘美

  • 2013/12/05(木) 16:50:46

猫を拾いに猫を拾いに
(2013/10/31)
川上 弘美

商品詳細を見る

恋をすると、誰でもちょっぴりずつ不幸になるよ。いろんな色の恋がある。小さな人や地球外生物、そして怨霊も現われる。心がふるえる21篇。傑作短篇小説集。


なんとも贅沢な21篇である。わたしたちが暮らしている世界から見たら、いささか不思議なことがたくさんあるのだが、それが不思議でも不自然でもなんでもなく、日常としてある世界の物語なのが川上世界である。しかも、そのずれ方が一様ではなく、物語によってさまざまな方向にさまざまな度合いでずれている、というかぶれているのである。さらに言えば、ずれながらぶれながらも芯は一本通っているので、読んでいて心地好いのである。瞬く間にその世界に取り込まれてしまう一冊である。

七夜物語 上下*川上弘美

  • 2012/07/26(木) 20:13:58

七夜物語(上)七夜物語(上)
(2012/05/18)
川上弘美

商品詳細を見る

小学校四年生のさよは、母親と二人暮らし。離婚した父とは、以来、会っていない。ある日、町の図書館で『七夜物語』という不思議な本にふれ、物語世界に導かれたかように、同級生の仄田くんと共に『七夜物語』の世界へと迷い込んでゆく。大ネズミ・グリクレルとの出会い、眠りの誘惑、若かりし両親、うつくしいこどもたち、生まれたばかりのちびエンピツ、光と影との戦い……七つの夜をくぐりぬけた二人の冒険の行く先は? 著者初の長編ファンタジー。
新聞連載時に好評だった酒井駒子さんの挿絵250点以上を収録!


「しちや」かと思っていたら「ななよ」だった。同じクラスの少年と少女が物語の中の七つの夜を旅するお話である。上巻は、五日目の夜が始まるところまで。はじめは起こることを受け止めることばかりに気を取られていた二人だったが、次第に周囲のことや人の気持ちを考えながら夜の国へ赴くようになっていく。過去を振り返り、未来の方向に手をかざし、あれこれと考えをめぐらせて少しずつ思慮深さを身に着けていく様子が好ましい。物語の内容は違うが、ミヒャエル・エンデの『モモ』と似たテイストのファンタジーな一冊である。

七夜物語(下)七夜物語(下)
(2012/05/18)
川上弘美

商品詳細を見る

いま夜が明ける。二人で過ごしたかけがえのない時間は―。深い幸福感と、かすかなせつなさに包まれる会心の長編ファンタジー。


五日目の夜から夜が明けて元の世界(?)に帰り、十数年経ってそのときのことを振り返るまでが下巻である。児童書のように教訓的な出来事が次から次へとさよと仄田くんの身に起こり、二人は知恵を絞ってそのたびにくぐり抜けて元の世界へ帰ってくるのだが、少しもお説教臭くなく、彼らと一緒に考え応援したい心持ちにさせられるのは著者の巧みさだろうか。二人にとって、元の世界――と言ってしまっていいのか少し戸惑うが――での物事の見え方がずいぶん変わったのではないだろうか。そして最後に配された十数年後の回想では、なんとくるりとめぐって輪になっているのだ。なんて素敵な一冊なのだろう。

神様 2011*川上弘美

  • 2011/11/03(木) 07:33:02

神様 2011神様 2011
(2011/09/21)
川上 弘美

商品詳細を見る

くまにさそわれて散歩に出る。「あのこと」以来、初めて―。1993年に書かれたデビュー作「神様」が、2011年の福島原発事故を受け、新たに生まれ変わった―。「群像」発表時より注目を集める話題の書。


「あのこと」の前も後も変わらないことがある。その一方で、どうやっても取り戻せない数え切れないことごとがある。変わらないことを描くことで、変わってしまった多くのことに否応なく直面してしまうやりきれなさをこれほどまでに切なくもどかしく苦しく伝えることができるのか、と思わされる一冊である。「あのこと」がなければ一生知らずにいられたであろう単語やその持つ意味が重い。

天頂より少し下って*川上弘美

  • 2011/08/02(火) 16:51:44

天頂より少し下って天頂より少し下って
(2011/05/23)
川上 弘美

商品詳細を見る

奇妙な味とやわらかな幸福感の恋愛小説集

<収録作品>
☆「一実ちゃんのこと」一実ちゃんは、「私、クローンだから」と言う。父がクローン研究に携わっていて、19年前亡くなった母を「母株」にして一実ちゃんは誕生したらしい。
☆「ユモレスク」17歳のハナのイイダアユムに対するコイゴコロは見事に破れた。「私、玉砕?」。
☆「エイコちゃんのしっぽ」「しっぽがあるんだ」とエイコちゃんは言った。エイコちゃんは女だけのガソリンスタンド、あたしは市場調査の会社で働いている。
☆「壁を登る」母はときどき「妙なもの」を連れてくる。最初はおばさんとその息子。次におじいさん。三番目に五朗が来た。「何者?」と聞いたら「わたしの弟」と母は言う。
☆「金と銀」治樹さんは泣き虫でのんびりしていた。彼とばったり出くわしたのは大学生のときだ。治樹さんは絵描きになっていた。
☆「夜のドライブ」40歳のわたしは、ある日、母を誘って車で温泉に出かけた。旅館に泊り、真夜中、母がわたしを呼んだ。「ねえ、夜のドライブに行きたいの」。
☆「天頂より少し下って」45歳の今まで、真琴は何人かの男と恋をした。今つきあっている10歳年下の涼は柔らかげな子だ。涼は真琴のことを「猛々しい」と言う。


著者の書く恋愛小説は、どうしてこうも一筋縄ではいかないのだろう。別の誰かが書けばよくある恋愛物語になるかもしれない心の動きを、ごく普通の日常を背景に微妙にずれた役者たちが見事に溶け込んで描かれているような印象である。なんの違和感もなく、怪訝な顔でも見せれば、どこかに問題でも?、とかえって問われそうな心地になる。ゆるくゆるくなんとなく幸福な一冊である。