晴れたり曇ったり*川上弘美

  • 2017/02/27(月) 18:34:27

晴れたり曇ったり
晴れたり曇ったり
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川上 弘美
講談社
売り上げランキング: 347,713

日々の暮らしの発見、忘れられない人との出会い、大好きな本、そして、「あの日」からのこと。いろんな想いが満載!最新エッセイ集。


川上さんの欠片の一部を集めて並べたようなエッセイ集である。個人的には、作家さんのエッセイは、読まなければよかったと思わされることも多いのだが、川上弘美さんのエッセイは、小説から想う著者像を裏切らず、さらに深く納得させてくれるので好きである。町のどこかでそんな彼女に偶然出会いたいと思わされる一冊である。

このあたりの人たち*川上弘美

  • 2016/11/04(金) 18:39:17

このあたりの人たち (Switch library)
川上 弘美
スイッチパブリッシング (2016-06-29)
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『蛇を踏む』『神様』『溺レる』『センセイの鞄』『真鶴』『七夜物語』『水声』と現代日本文学の最前線を牽引する傑作群を次々に発表しする作家・川上弘美が、8年の年月をかけてじっくり育て上げた、これまでにない新しい作品世界。

現在も柴田元幸責任編集の文芸誌「MONKEY」に大好評連載中のこの「サーガ」は、日本のどこにでもあるような、しかし実はどこにもないような<このあたり>と呼ばれる、ある架空の「町」をめぐる26の物語。

にわとりを飼っている義眼の農家のおじさん、ときどきかつらをつけてくる、目は笑っていない「犬学校」の謎の校長、朝7時半から夜11時までずっと開店しているが、町の誰も行くことのない「スナック愛」、そして連作全体を縦横に活躍する「かなえちゃん」姉妹――<このあたり>という不思議な場所に住む人びとの物語を書いた連作短篇集が、ついに待望の一冊に。


語り主のことはよくわからない。かなえちゃんと友だちで、このあたりに住んでいるようだ、ということくらいしか……。それなのに、このあたりの人たちのことをものすごくよく見ていて、「このあたり通」とも言えるような人物である。このあたりには、さまざまな人たちが暮らしており、それぞれに誰よりも個性的なのである。いろんな年代のその人たちのことを、語り主も共に成長しながら見続けているのである。このあたりってどのあたりだろう、と思いをめぐらせてみるのも、ちょっと愉しい。自分もこのあたりに暮らす人になった心地にほんの少しだけなれる一冊でもある。

大きな鳥にさらわれないよう*川上弘美

  • 2016/08/01(月) 18:44:38

大きな鳥にさらわれないよう
川上 弘美
講談社
売り上げランキング: 8,980

遠く遙かな未来、滅亡の危機に瀕した人類は、「母」のもと小さなグループに分かれて暮らしていた。異なるグループの人間が交雑したときに、、新しい遺伝子を持つ人間──いわば進化する可能性のある人間の誕生を願って。彼らは、進化を期待し、それによって種の存続を目指したのだった。
しかし、それは、本当に人類が選びとった世界だったのだろうか?
絶望的ながら、どこかなつかしく牧歌的な未来世界。かすかな光を希求する人間の行く末を暗示した川上弘美の「新しい神話」


遠い未来の物語、ということなのだが、遥か太古から絶えず繰り返してきた生命の営みのようにも思われて、他人事とは思えず、味わい深い。人は、同じようなことを繰り返していると思っているが、実は少しずつ、大きな力に操られるように道を逸れて違う世界に足を踏み入れているのかもしれない。そして、最初の内こそ抱いていた違和感をも呑み込んで、何事もなかったように別の生き方を始めるのである。それさえもいま現在の人間社会を見せられているようで、背筋が寒くなる心地でもある。誰もが諍いなく平和に穏やかに暮らしたいと願っているわけでもなさそうである。含むところが深い一冊である。

水声*川上弘美

  • 2014/10/22(水) 17:02:45

水声水声
(2014/09/30)
川上 弘美

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過去と現在の間に立ち現れる存在「都」と「陵」はきょうだいとして育った。だが、今のふたりの生活のこの甘美さ!
「ママ」は死に、人生の時間は過ぎるのであった。


「ママ」の存在の大きさと、彼女を取り巻く人たちの距離感。死んでもなお影響を与え続ける圧倒的な存在感。いつもどこかに彼女の声を聞きながら、姉弟として育った都と陵は自分の身の内にある水の声に耳を傾けながら、かけがえのない存在を身近に感じながら生きているのである。途方もなく甘美でありながら哀しく切なすぎる一冊である。

不良になりました。--東京日記4*川上弘美

  • 2014/04/01(火) 18:37:42

東京日記4 不良になりました。東京日記4 不良になりました。
(2014/02/14)
川上 弘美

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川上弘美の人気日記シリーズ、待望の最新作! 東日本大震災、引っ越し、入院、手術……。2010年~2013年は、ほんとうに、いろいろなことがありました。カワカミ・ワールドのエッセンス。


川上弘美ワールド、嬉しいくらい全開である。著者の視線は、平凡な日常をするするとすり抜けて、道をほんのちょっぴりはみ出した物や事や人に止まる。たいがいは、へぇ、そこに引っかかるんだぁ、と思うが、たまに、そうそう、と膝を打ちたくなることがあって、そんなときは躍りだしたいほどうれしかったりする。内容にあっているのかいないのかよくわからない挿絵も味があって素敵である。息子さんもいい味を出していて、これからもどんどん秀逸なひと言を漏らしてほしいと願ってしまう。いつまでも続いてほしいシリーズである。

猫を拾いに*川上弘美

  • 2013/12/05(木) 16:50:46

猫を拾いに猫を拾いに
(2013/10/31)
川上 弘美

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恋をすると、誰でもちょっぴりずつ不幸になるよ。いろんな色の恋がある。小さな人や地球外生物、そして怨霊も現われる。心がふるえる21篇。傑作短篇小説集。


なんとも贅沢な21篇である。わたしたちが暮らしている世界から見たら、いささか不思議なことがたくさんあるのだが、それが不思議でも不自然でもなんでもなく、日常としてある世界の物語なのが川上世界である。しかも、そのずれ方が一様ではなく、物語によってさまざまな方向にさまざまな度合いでずれている、というかぶれているのである。さらに言えば、ずれながらぶれながらも芯は一本通っているので、読んでいて心地好いのである。瞬く間にその世界に取り込まれてしまう一冊である。

七夜物語 上下*川上弘美

  • 2012/07/26(木) 20:13:58

七夜物語(上)七夜物語(上)
(2012/05/18)
川上弘美

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小学校四年生のさよは、母親と二人暮らし。離婚した父とは、以来、会っていない。ある日、町の図書館で『七夜物語』という不思議な本にふれ、物語世界に導かれたかように、同級生の仄田くんと共に『七夜物語』の世界へと迷い込んでゆく。大ネズミ・グリクレルとの出会い、眠りの誘惑、若かりし両親、うつくしいこどもたち、生まれたばかりのちびエンピツ、光と影との戦い……七つの夜をくぐりぬけた二人の冒険の行く先は? 著者初の長編ファンタジー。
新聞連載時に好評だった酒井駒子さんの挿絵250点以上を収録!


「しちや」かと思っていたら「ななよ」だった。同じクラスの少年と少女が物語の中の七つの夜を旅するお話である。上巻は、五日目の夜が始まるところまで。はじめは起こることを受け止めることばかりに気を取られていた二人だったが、次第に周囲のことや人の気持ちを考えながら夜の国へ赴くようになっていく。過去を振り返り、未来の方向に手をかざし、あれこれと考えをめぐらせて少しずつ思慮深さを身に着けていく様子が好ましい。物語の内容は違うが、ミヒャエル・エンデの『モモ』と似たテイストのファンタジーな一冊である。

七夜物語(下)七夜物語(下)
(2012/05/18)
川上弘美

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いま夜が明ける。二人で過ごしたかけがえのない時間は―。深い幸福感と、かすかなせつなさに包まれる会心の長編ファンタジー。


五日目の夜から夜が明けて元の世界(?)に帰り、十数年経ってそのときのことを振り返るまでが下巻である。児童書のように教訓的な出来事が次から次へとさよと仄田くんの身に起こり、二人は知恵を絞ってそのたびにくぐり抜けて元の世界へ帰ってくるのだが、少しもお説教臭くなく、彼らと一緒に考え応援したい心持ちにさせられるのは著者の巧みさだろうか。二人にとって、元の世界――と言ってしまっていいのか少し戸惑うが――での物事の見え方がずいぶん変わったのではないだろうか。そして最後に配された十数年後の回想では、なんとくるりとめぐって輪になっているのだ。なんて素敵な一冊なのだろう。

神様 2011*川上弘美

  • 2011/11/03(木) 07:33:02

神様 2011神様 2011
(2011/09/21)
川上 弘美

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くまにさそわれて散歩に出る。「あのこと」以来、初めて―。1993年に書かれたデビュー作「神様」が、2011年の福島原発事故を受け、新たに生まれ変わった―。「群像」発表時より注目を集める話題の書。


「あのこと」の前も後も変わらないことがある。その一方で、どうやっても取り戻せない数え切れないことごとがある。変わらないことを描くことで、変わってしまった多くのことに否応なく直面してしまうやりきれなさをこれほどまでに切なくもどかしく苦しく伝えることができるのか、と思わされる一冊である。「あのこと」がなければ一生知らずにいられたであろう単語やその持つ意味が重い。

天頂より少し下って*川上弘美

  • 2011/08/02(火) 16:51:44

天頂より少し下って天頂より少し下って
(2011/05/23)
川上 弘美

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奇妙な味とやわらかな幸福感の恋愛小説集

<収録作品>
☆「一実ちゃんのこと」一実ちゃんは、「私、クローンだから」と言う。父がクローン研究に携わっていて、19年前亡くなった母を「母株」にして一実ちゃんは誕生したらしい。
☆「ユモレスク」17歳のハナのイイダアユムに対するコイゴコロは見事に破れた。「私、玉砕?」。
☆「エイコちゃんのしっぽ」「しっぽがあるんだ」とエイコちゃんは言った。エイコちゃんは女だけのガソリンスタンド、あたしは市場調査の会社で働いている。
☆「壁を登る」母はときどき「妙なもの」を連れてくる。最初はおばさんとその息子。次におじいさん。三番目に五朗が来た。「何者?」と聞いたら「わたしの弟」と母は言う。
☆「金と銀」治樹さんは泣き虫でのんびりしていた。彼とばったり出くわしたのは大学生のときだ。治樹さんは絵描きになっていた。
☆「夜のドライブ」40歳のわたしは、ある日、母を誘って車で温泉に出かけた。旅館に泊り、真夜中、母がわたしを呼んだ。「ねえ、夜のドライブに行きたいの」。
☆「天頂より少し下って」45歳の今まで、真琴は何人かの男と恋をした。今つきあっている10歳年下の涼は柔らかげな子だ。涼は真琴のことを「猛々しい」と言う。


著者の書く恋愛小説は、どうしてこうも一筋縄ではいかないのだろう。別の誰かが書けばよくある恋愛物語になるかもしれない心の動きを、ごく普通の日常を背景に微妙にずれた役者たちが見事に溶け込んで描かれているような印象である。なんの違和感もなく、怪訝な顔でも見せれば、どこかに問題でも?、とかえって問われそうな心地になる。ゆるくゆるくなんとなく幸福な一冊である。

東京日記3 ナマズの幸運。*川上弘美

  • 2011/03/30(水) 17:02:34

東京日記3 ナマズの幸運。東京日記3 ナマズの幸運。
(2011/01/26)
川上 弘美

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おおむね楽しい、ちょっぴりさみしい。カラダ半分、ずれている――。カワカミ・ワールドが詰まった、日記シリーズ最新作。2008~2010年までの3年分を収録。「WEB平凡」の人気連載を単行本化。


ほんとうのこと率が、以前は五分の四くらいだったのが、今回は十分の九くらいにあがっているそうである。読者としては一層素の著者に近づけたと思っていいのだろうか。相変わらず著者が引っかかる場面やことごとがいちいち興味深い。視線の角度や捉え方が著者ならではで、にやりとしてしまう。川上さんにあとをつけられるような人間になりたいものだと思わされる一冊である。

パスタマシーンの幽霊*川上弘美

  • 2010/08/21(土) 08:35:15

パスタマシーンの幽霊パスタマシーンの幽霊
(2010/04/22)
川上 弘美

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一篇が10ページ前後の短篇が22篇収められている。なにしろ川上弘美のこの短篇群の面白さは驚嘆に値する。「おひまなら一篇だけ立ち読みしてみてください」と言うしかないのです。若い女性の一人称の作品が多いけれど、だからといって若い女性向きの作品集とばかりはいえない。そんなことはどうでもよくて、男性が読んでもたぶん心にしみるはず。これぞ川上魔術。表題作の一部をご紹介するのが手っ取り早い。こんな感じです。「このパスタマシーンを使うのは、いったい誰? あたしの胸は、大きく一つ、どきんと打った。『小人じゃないの』というのが隆司の答えだった。/あたしはすぐさま、隆司を問いただしたのだった。料理は下手だけれど、そのかわりあたしはものすごく率直なのだ。ねえ、誰がこのパスタマシーンを使ってるの。『小人』あたしはゆっくりと繰り返した。/『じゃなきゃ、猫とか』『猫』あたしは隆司の顔をまじまじと見た。無表情だ。/『このごろの猫って、ほら、お手伝いさんとかして働くみたいだし』/あたしは笑わなかった。隆司は一瞬だけ笑って、それから『しまった』という表情になった。あたしは率直なうえに、怒りっぽいのだ。」「クウネル」の人気連載が本になった。絶賛を博した第一弾『ざらざら』につづく最新短篇小説集。今回の短篇も、決然とした恋愛の情熱や欲望ではなく、恋愛関係のうちにある何かとらえどころのない心のゆらめきを魔術的とってもいい文章で描いた傑作ばかり。読み終えたあとに、また本を開きたくなる。おなじみの、アン子とおかまの修三ちゃんも再登場。新たな主人公、誠子さんとコロボックルの山口さんの恋の行方にも注目だ。深刻な感情がユーモアに転換され、そのあとに〈しん〉とした淋しさが残る名品22篇。


海石 染谷さん 銀の指輪 すき・きらい・ラーメン パスタマシーンの幽霊 ほねとたね ナツツバキ 銀の万年筆 ピラルクの靴べら 修三ちゃんの黒豆 きんたま お別れだね、しっぽ 庭のくちぶえ 富士山 輪ゴム かぶ 道明寺ふたつ やっとこ ゴーヤの育てかた 少し曇った朝 ブイヤベースとブーリード てっせん、クレマチス


タイトルを並べてみただけで、どんな世界が広がるのだろうとわくわくする22編である。どれもしあわせいっぱいという感じではない恋愛の物語で、主人公の女の人はよく泣いているのだが、それでも決定的にふしあわせというのでもない。なんにせよ両極端ではないあわいのところでゆらゆらしているような心地好さがある。恋愛の旅半ばの微妙なあれこれを言葉にし、そこからこぼれおちてすきまに入り込んだ気持ちが滲み出してくるようなそんな一冊である。

これでよろしくて?*川上弘美

  • 2009/10/29(木) 17:23:21

これでよろしくて?これでよろしくて?
(2009/09)
川上 弘美

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上原菜月は38歳。結婚生活にさしたる不満もなく毎日を送っていたのだが…。とある偶然から参加することになった女たちの不思議な集まり。奇天烈なその会合に面くらう一方、穏やかな日常をゆさぶる出来事に次々と見舞われて―。幾多の「難儀」を乗り越えて、菜月は平穏を取り戻せるのか!?コミカルにして奥深い、川上的ガールズトーク小説。


「これでよろしくて?同好会」という、名前からはその内容が窺い知れない会に、結婚七年目、子どもなし、38歳の菜月は、なぜか昔つきあっていた人の母に誘われて入ったのである。
その会は、年齢も立場もさまざまな人たちで構成されており、決まった店にときどき集まって、いろいろなものをつまみながら、そのときに出されたり、懸案になっていたりする議題について意見を言い合う、というものなのだった。
なんとなくぼんやりと日々を送っていた菜月にも、取り立てて言葉にするほどではないが、いつの間にか抱え込んでしまっている事々があり、もやもやとした気持ちは決してよい方へとは向かわないのである。そんなとき、この会でみんなの意見を聞いていると、吹っ切れることがあったりもするのである。
菜月の日々のあれこれを、「これでよろしくて?同好会」という、ある意味夢のような会に取り込んでしまうところが、著者流であろうか。

どこから行っても遠い町*川上弘美

  • 2008/12/31(水) 16:21:39

どこから行っても遠い町どこから行っても遠い町
(2008/11)
川上 弘美

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捨てたものではなかったです、あたしの人生――。男二人が奇妙な仲のよさで同居する魚屋の話、真夜中に差し向かいで紅茶をのむ「平凡」な主婦とその姑、両親の不仲をじっとみつめる小学生、裸足で男のもとへ駆けていった魚屋の死んだ女房……東京の小さな町の商店街と、そこをゆきかう人びとの、その平穏な日々にあるあやうさと幸福。川上文学の真髄を示す待望の連作短篇小説集。


表題作のほか、「小屋のある屋上」 「午前六時のバケツ」 「夕つかたの水」 「蛇は穴に入る」 「長い夜の紅茶」 「四度目の浪花節」 「急降下するエレベーター」 「濡れたおんなの慕情」 「貝殻のある飾り窓」 「ゆるく巻くかたつむりの殻」

知らないのに知っているような心地にさせられる、どこか懐かしい町に暮らす――あるいは通りかかる――人々の、取り立てて言うほどのことはないが、それでいて奥にはひとにぎりの危うさが潜んでいるような日々の物語である。
ものすごく個人的でありながら、どこか普遍的でもあるような、不思議な雰囲気が漂う一冊だった。

風花*川上弘美

  • 2008/05/09(金) 17:12:23

風花風花
(2008/04/02)
川上 弘美

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日下のゆりは33歳。システムエンジニアの夫の卓哉と結婚して7年。平穏な日々が、夫に恋人がいるという一本の電話で破られる・・・。何気ない日常の中で、色あせてゆく愛を描く長編恋愛小説。


川上さんらしくありながらも、不思議世界に遊ぶ川上さんではないような物語である。
結婚七年目の卓哉とのゆり。卓哉の背中に隠れるように、もたれるようにして暮らしていたのゆりだったが、卓哉の浮気を知ってから、自分の存在が不確かになるような、ここにいてここにいない心許なさに侵食されていくのだった。面と向かって真剣に話さなければならないことがあるのはわかっているのだが、ことさら向かい合うことを避けてしまうような。決断を先延ばしにすれば、いつのまにかなかったことになっているのではないかというあるはずのない期待を胸に秘めながら、のゆりはゆらりゆらりと揺れながら日々をやり過ごしている。
はじめのうちはただなす術もなくおろおろしているかのように見えるのゆりだったが、目に見えないくらいじわりじわちとではあるが確実に変化し、次第に自分の胸の内や行動の意味を自分で確認するようになる。そして、少しずつ自立していくのである。
事が起こったときにほんとうに強いのは、常日頃弱々しく見えている女性の方かもしれないと、ふと思わせられたりもする。
のゆりの言葉にするのは難しい心の動きや変化を、特別な言葉を使うわけではなくさりげなく、それでいて絶妙に描ききる著者はまったくもってすばらしい。

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ほかに踊りを知らない。*川上弘美

  • 2008/01/30(水) 17:19:51

東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))
(2007/11/17)
川上 弘美

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七月某日 雨
ひさしぶりに、俳句をつくってみる。
破調の句である。
「ごきぶり憎し 噴きつけても 噴きつけても」

三月某日 晴
電車に乗る。隣に座っている人が、熱心にメールを打っている。つい、のぞきこむ。「愛されることへの覚悟が、私にはないのかもしれません」という文章だった。びっくりして、思わずじっとその人の横顔を見る。不思議そうに見返される。そんなにびっくりすることも、ないのかな。思い悩む。やっぱりびっくりしたほうがいいんじゃないのかな。思いなおす。
(本文より)

たんたんと、ちょっとシュールに、日々は流れゆく――。
ウソじゃないよ、五分の四はホントだよ。カワカミさんの日記、続いてます。

2004年~2007年分を収録した『東京日記』第2弾。


『卵一個ぶんのお祝い。』につづく川上さんの五分の四はほんとうの日記である。
子どもたちのことも少しだけ知ることができて、ふむふむ川上さんを母に持つ子どもらしいぞ、とにんまりしたり。遠い遠い関係の親戚の叔母さんの行動様式に、なぜか川上チックなところを発見してしまったり。感覚的にとても近しく思えるいろいろをうなずきつつ読み、行動的にあまりにも隔たったあれこれを驚きつつもほんの少しのあこがれを抱きながら愉しんだ。
また三年後・・・ということになるのだろうか。たのしみである。

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