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明るい夜に出かけて*佐藤多佳子
- 2016/12/21(水) 07:38:39
今は学生でいたくなかった。コンビニでバイトし、青くない海の街でひとり暮らしを始めた。唯一のアイデンティティは深夜ラジオのリスナーってこと。期間限定のこのエセ自立で考え直すつもりが、ヘンな奴らに出会っちまった。つまずき、人づきあい、好きだって気持ち、夢……若さと生きることのすべてが詰まった長篇小説。
心に傷を抱え、これまでの人生から逃げ出したくなって大学を休学してひとり暮らしを始めた若者が主人公の物語である。親の立場からすると、不甲斐なく、心配でたまらず、無意味な遠回りをしているように思えてしまい、つい余計なひと言を言ってしまいそうな若者たちがたくさん出てくる。序盤では、親の気持ちで、なにをぐうたらしているのだとイライラすることもあったのだが、読み進むうちに、彼らには彼らなりの譲れない矜持のようなものがあり、周りと足並みをそろえられなくても、各自なりのペースで確実に前に向かっているのだということが実感されて、応援したい気持ちに変わってくる。いくら人付き合いが苦手でも、やはり人間関係は大切だということも、身に沁みる。ラジオのリスナーではないので、そちらの熱狂ぶりは実感としては判らないが、ラジオの番組を通じた繋がりにも、見えないながら深いものがありそうである。タイトルの切実感が迫ってくる一冊でもある。
第二音楽室*佐藤多佳子
- 2013/05/28(火) 07:12:06
![]() | 第二音楽室―School and Music (2010/11) 佐藤 多佳子 商品詳細を見る |
重なりあい、どこまでも柔らかく広がる四つの旋律。眩しくて切なくてなつかしい、ガールズストーリー。
表題作のほか、「デュエット」 「FOUR」 「裸樹」
小学校高学年から高校生。それがこの物語の主人公たちである。体験のなにもかもが初めてで、戸惑ったり目を瞠ったり感動したり、そのすべての感情の発露が初々しい。いじめられたり、友人関係や恋に悩んだり、七面倒くさいあれこれにがんじがらめにされることもあるのだが、同じようにそこを通り抜けた年代から見ると、すべてが雨上がりの新緑の滴りのように瑞々しく輝いて見える。その落ち込みこそが、その舞い上がりこそが若さだよ、と教えてあげたくなる一冊である。
ごきげんな裏階段*佐藤多佳子
- 2009/11/24(火) 16:48:16
![]() | ごきげんな裏階段 (新潮文庫) (2009/10/28) 佐藤 多佳子 商品詳細を見る |
アパートの裏階段。太陽も当たらず湿ったその場所には、秘密の生き物たちが隠れ住んでいる。タマネギを食べるネコ、幸せと不幸をつかさどる笛を吹く蜘蛛、身体の形を変えられる煙お化け。好奇心いっぱいの子供たちは、奇妙な生き物たちを見逃さず、どうしても友達になろうとするが…。子供ならではのきらめく感情と素直な会話。児童文学から出発した著者、本領発揮の初期作品集。
「タマネギねこ」 「ラッキー・メロディー」 「モクーのひっこし」
著者の子ども向け物語。みつばコーポラスの寂れた裏階段つながりの連作である。
裏階段は、じめじめしていて埃っぽく、壁にはヒビが入っていて薄気味悪く、なにやらヘンな生き物もいるのである。タマネギ頭のねこや、笛を吹く蜘蛛、煙を食べるけむりおばけなど・・・。みつばコーポラス住む子どもたちが彼らと出会い、家族や先生を巻き込んでごきげんな――不運なこともあるが――ひとときをすごすうちに、ほかの住人とも繋がっていく。子ども向けではあるが、細かい描写など大人でも充分愉しめる一冊である。
一瞬の風になれ3*佐藤多佳子
- 2006/11/21(火) 17:57:18
☆☆☆☆・ すべてはこのラストのために。話題沸騰の陸上青春小説 一瞬の風になれ 第三部 -ドン-
佐藤 多佳子 (2006/10/25)
講談社
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ただ、走る。走る。走る。他のものは何もいらない。
この身体とこの走路があればいい……
「1本、1本、全力だ」
そして、俺らはいつものように円陣を組んだ。総体に行くためだけでなく、タイムを出すためだけでなく、鷲谷と戦うためだけでなく、何より、俺たち4人でチームを組めたことのために走りたいのだった。
「この決勝走れて、どんなに嬉しいか、言葉じゃ言えねえよ」
全3巻圧倒的迫力の完結編!!
まったくもって「言葉じゃ言えねえよ」という感動である。またもや泣かされてしまった。
あの緊張の塊でトイレに駆け込んでばかりいた新二が、目の前のコースを<自分だけのための一本の走路>と思えるまでに成長し、ただ速く走れる少年だった連が、しっかりと春高 陸上部の一員としての連になったのだ。そしてそれだけではなく、関東大会の大舞台で最高の4継を走るまでになったのである。
それぞれみんな違う個性の陸上部員たちが一丸となって成し遂げたことでもあり、春高陸上部創設以来の顧問や部員ひとりひとりの汗と涙と無念と喜びが連綿とつながってきた結果でもあるのだろう。
新二と連の素晴らしさは言うまでもないが、かなり重要な役どころなのが根岸ではないだろうか。単独で主役を張れる器ではないが、身の程を冷静にわきまえ、それでいて卑屈にならず 常に自分を高める努力は怠らない。さらに、チームのことを第一に思い、ときには自分を抑えて後輩に適切な指導をする。そしてチームのムードメーカーでもある。彼なしには春高陸上部はありえなかっただろうと思う。
そして、一層の高みを目指して、彼らが明日も走り続けることを確信させてくれるラストもとてもよかった。
一瞬の風になれ2*佐藤多佳子
- 2006/10/18(水) 19:08:10
☆☆☆☆・ 何かに夢中にだった、すべての人へ贈る青春小説 一瞬の風になれ 第二部
佐藤 多佳子 (2006/09)
講談社
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第二部――ヨウイ――
「最高だ」
直線をかっとんでいく感覚。このスピードの爽快感。身体が飛ぶんだ……。
少しずつ陸上経験値を上げる新二と連。才能の残酷さ、勝負の厳しさに出会いながらも強烈に感じる、走ることの楽しさ。意味なんかない。でも走ることが、単純に、尊いのだ。
「そういうレースがあるよね。きっと誰にも。一生に一回……みたいな」
今年いちばんの陸上青春小説、第2巻!
とにかくもう涙が止まらなかった。ほのぼのとした涙、悔し涙、悲しい涙、そして胸震わせる涙。
第一部ではまだ迷いがあったが、この第二部で 新二はもうすっかり、陸上選手になっている。走ることがたのしくて仕方がない様子を見ると、こちらの方が嬉しくなるほどである。うらやましい。走ることの何かを一瞬捉まえられそうになったり、重要な役割を任されたり、甘酸っぱい想いを胸に抱いたり、と これ以上ないほど充実した毎日を送っている。このままいけば、新二の走りは さらにぐんぐん伸びていくのだろうと誰もが思っているだろうところに、とんでもないことが起こるのである。しかも新二にではなく 健ちゃんに...。
顧問のみっちゃんをはじめ 陸上部のメンバーのなんといい奴等なことか。それぞれまったく違う個性を持ちながら、走るというただそれだけで結びついた仲間たち。春高陸上部が日本中でいちばんの陸上部だと思わせられるほどである。マイペースは相変わらずだが、陸上部員の一人として 明らかに変わってきている連と、彼を羨み尊敬し ときに悔しがりながら、なくてはならないものとして意識している新二の関係も絶妙である。
なのにどうしてこんなときに、健ちゃんが...。
第三部が待ち遠しい。
一瞬の風になれ*佐藤多佳子
- 2006/09/17(日) 17:16:23
☆☆☆☆・ 青春小説の旗手、4年ぶり待望の書き下ろし長編小説 一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--
佐藤 多佳子 (2006/08/26)
講談社
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第一部――イチニツイテ――
「速くなる」
ただそれだけを目指して走る。
白い広い何もない、虚空に向かって…………。
全3巻 3ヵ月連続刊行開始!!
春野台高校陸上部。とくに強豪でもないこの部に入部した2人のスプリンター。ひたすらに走る、そのことが次第に2人を変え、そして、部を変える。「おまえらがマジで競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」思わず胸が熱くなる、とびきりの陸上青春小説、誕生。
サッカー一家の一員として、天賦の才を持つ兄を尊敬しながらも常に劣等感を抱き、それでも懸命にサッカーを続けてきた神谷新二。天性のスプリンターであり、中学では記録も残しているにもかかわらず あっさりと陸上をやめ、しかし、高校で新二とともにまた陸上部に入った一ノ瀬連。ふたりと、彼らを取り巻く物語である。
語るのは新二。家族のなかの――特に兄と――自分について、陸上について、走るということについて、そして連との関わりにおける自分について。ときに眩しく 爽やかで、ときに痛い。青春の宝物のような出会いの数々がきらめいている。そのことをまだ自覚していない新二の若さも輝かしい。
3ヵ月連続刊行!! ということだが、第二部が待ち遠しい。
連が語る、なんていうことになったりするのだろうか。まったく別の風景が広がりそうでそれもいいかな、と思う。
九月の雨*佐藤多佳子
- 2005/06/03(金) 21:40:27
しゃべれども しゃべれども*佐藤多佳子
- 2005/04/22(金) 20:31:28
サマータイム*佐藤多佳子
- 2004/12/08(水) 08:03:12
☆☆☆☆・
佳奈が十二で、ぼくが十一だった夏。
どしゃ降りの雨のプール、じたばたもがくような、
不思議な泳ぎをする彼に、ぼくは出会った。
左腕と父親を失った代わりに、大人びた雰囲気を身につけた彼。
そして、ぼくと佳奈。たがいに感電する、不思議な図形。
友情じゃなく、もっと特別ななにか。
ひりひりとして、でも眩しい、あの夏。
他者という世界を、素手で発見する一瞬のきらめき。
鮮烈なデビュー作。
(文庫裏表紙より)
時間を進んだり戻ったりしながら、語り手を変えて語られる、佳奈と進と広一と彼らを取り巻く事々、そして彼らの裡に大切にされているもののこと。
見た目の綺麗さに一瞬惹きつけられ惑わされることは よくあることだろう。けれど、一瞬の見た目では判らない本質の美しさをきちんと認めて大切にできるというのは とても素晴らしいことだと思う。
佐藤多佳子さんが描く人物はみな、ないがしろにしてはいけないものを きちんと大切にする確かな心を持っていると思う。
せつなく、ほろ苦く、じんとあたたかく、哀しく、しあわせな 彼らにとってのひとつの時代の物語なのだと思う。
解説で森絵都さんが手放しで推薦しているのもほほえましく嬉しい。
神様がくれた指*佐藤多佳子
- 2004/06/25(金) 08:32:14
☆☆☆☆・
見失っていた。本当に手に入れたいものを。
出所したばかりのスリは家に戻れなかった。
オケラになった占い師は途方にくれていた。
なにかに導かれるように、二人はひとつ屋根の下で暮らし始めた。
スリが手を伸ばそうとし、
占い師の抜き取ったタロットカードと交錯した、そのとき
二人は身も心も引き裂く嵐に巻き込まれていた。
ストリーテラーの名品(マスターピース)。
(帯より)
職業的箱師(電車専門のスリ)の辻牧夫が出所し、親代わりの一家の元へ帰ろうとする正にその途中で スリの被害に遭う という形で出会ってしまった少年スリグループ。動けないほどの怪我を負わされた辻を助けた占い師の昼間薫。因縁と言うのはこういうことだとわかるのは ずっと後になってからである。
辻と昼間。お互い素性のよく判らないもの同士の感情の流れがあたたかい。必要最小限の交流が最大の宝になる。
そしてまた 辻と親代わり 家族同然の早田一家、スリ仲間(?)一家と通い合うものもあたたかい。
辻にしても昼間にしても 世間的には まっとうな生き方から外れた 言うならば落ちこぼれと呼ばれるような人間なのだが その人生はまだまだ熱い。
黄色い目の魚*佐藤多佳子
- 2004/02/12(木) 12:51:29
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