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春、戻る*瀬尾まいこ
- 2014/03/13(木) 10:37:24
![]() | 春、戻る (2014/02/05) 瀬尾 まいこ 商品詳細を見る |
結婚を控えたある日、私の前に兄と名乗る青年が現れた。明らかに年下の「お兄さん」は、私の結婚にあれこれ口出しを始めて・・・。
人生で一番大切なことを教えてくれる、ハートフルウェディングコメディ。
一体誰なんだ!?ひとまわりも年下の見知らぬ「おにいちゃん」は。現実にこんなことがあったら、不気味で恐ろしくて警察に駆け込むか、部屋に引き篭もりたくなりそうだが、「おにいちゃん」の人柄故か、なんとなく彼のペースに載せられているうちに、親しみさえ感じるようになってくるのである。結婚相手の山田さんが、不審がらずに「おにいちゃん」の存在を受け入れているのも一見不思議だが、それも山田さんの人柄の魅力になってくる。初めは、天国の父親の想いが形になったのか、などと思いもしたのだが、そんな空想物語ではなく、もっと現実的な存在だったので、「おにいちゃん」の実態が明らかになったときには、なおさら胸が暖かいもので満たされたのだった。著者らしいぽかぽかする一冊である。
あと少し、もう少し*瀬尾まいこ
- 2012/11/26(月) 19:37:54
![]() | あと少し、もう少し (2012/10/22) 瀬尾 まいこ 商品詳細を見る |
中学校最後の駅伝だから、絶対に負けられない。襷を繋いで、ゴールまであと少し! 走るのは好きか? そう聞かれたら答えはノーだ。でも、駅伝は好きか?そう聞かれると、答えはイエスになる──。応援の声に背中を押され、力を振りしぼった。あと少し、もう少しみんなと走りたいから。寄せ集めのメンバーと頼りない先生のもとで、駅伝にのぞむ中学生たちの最後の熱い夏を描く、心洗われる清々しい青春小説。
駅伝小説はいくつか読んだが、これは、それらとは少しばかり趣が違っている。1区から6区まで、その区間を走る選手の視点で、練習開始から駅伝本番までが描かれており、物語自体が襷リレーになっているのである。同じ状況も、視点によって微妙に違う景色になる。そしてそれが新鮮であり、ときにもどかしい心持ちにもさせるのである。見えているようで見えていない自分のこと。それでいてわかりすぎるほどわかっているのも自分のことである。中学生らしい葛藤の中で、急ごしらえの顧問である、美術の上原先生の存在が何とものどかで場違いにも見える。だが、そこはさすが教師なのである。上原先生がいなかったら、このチームはきっと成り立っていなかっただろう。こういう存在、憧れるなぁ。爽やかで、カッコ悪くて、熱くて、愛おしい一冊である。
僕らのごはんは明日で待ってる*瀬尾まいこ
- 2012/05/17(木) 16:48:57
![]() | 僕らのご飯は明日で待ってる (2012/04/25) 瀬尾まいこ 商品詳細を見る |
体育祭の競技“米袋ジャンプ”をきっかけに付き合うことになった葉山と上村。大学に行っても淡々とした関係の二人だが、一つだけ信じられることがあった。それは、互いが互いを必要としていること。でも人生は、いつも思わぬ方向に進んでいき…。読んだあと、必ず笑顔になれる、著者の魅力がぎゅっと詰まった優しい恋の物語。
高校時代は屈託の塊。暗くて孤独で誰からも嫌われていた葉山。そんな彼を中学時代からひそかに好きだった上村。つきあうようになった二人だが、情熱的な恋人同士とは程遠い淡々とした関係が続き…。
失ってみて初めて気づくことがあり、離れてみてやっと解る大切さがある。回り道をしたとしても、それに気づいた二人には、きっとしあわせな明日が積み重なっていくことだろう。いまを大切にしたいと思わせてくれる一冊である。
おしまいのデート*瀬尾まいこ
- 2011/04/01(金) 17:09:02
![]() | おしまいのデート (2011/01/26) 瀬尾 まいこ 商品詳細を見る |
いろんな形の「デート」、あります。
祖父と孫、元不良と老教師、特に仲良くもない同じクラスの男子同士、協力して一緒に公園で犬を飼うOLと男子学生。何気ないのに温かい人と人のつながりを軽やかに描く、5編収録の作品集。
表題作のほか、「ランクアップ丼」 「ファーストラブ」 「ドッグシェア」 「デートまでの道のり」
ほんとうにいろいろなデートがあるものである。男女だけでなく、祖父と孫、元教師と教え子、級友同士、見知らぬ他人。それぞれに胸の中があたたかくなるようであり、ちらりと切なく鼻の奥がつんとするような物語である。「ランクアップ丼」がわたしはいちばん好きだった。やさしい気持ちになれる一冊。
僕の明日を照らして*瀬尾まいこ
- 2010/07/06(火) 20:26:59
![]() | 僕の明日を照らして (2010/02/10) 瀬尾まいこ 商品詳細を見る |
隼太は中学2年生、陸上部。ずっとシングルマザーの息子だったが、進級した春に名前が変わり、ひとりの夜は優ちゃんといっしょの夜に変わった。優しくてかっこいい優ちゃんを隼太は大好きだったが、しかし、優ちゃんはときどきキレて隼太を殴る……。でも絶対に優ちゃんを失いたくない。隼太の闘いが始まる。
隼太は明るい明日を見つけることが出来るのか。思わず応援したくなる、隼太の目覚めと成長の物語。
衝撃的なはじまりである。誰かが誰かに暴行を受けた直後のようである。少し読むと、殴られたのは隼太という中学二年の少年で、殴ったのは母の夫になった優ちゃんだということが判る。そう、DVなのである。だが、少し違うのは、隼太が殴られても優ちゃんを必要とし、縮こまらずに一緒に治そうとあれこれ手立てを講じるところである。優ちゃんもキレていないときには心から反省し、どうにかしなければならないと思っている。殴られる者と殴る者双方が、互いに互いを必要とし愛しているのである。しかもその事実を隼太の実の母はなにも知らない。学校での生活と家での毎日が並行して描かれ、隼太の強さと弱さが浮き彫りにされる。いいようもなく胸が痛む一冊であるが、同時にあたたかさも覚えるのである。いつの日か、なにもかもを乗り越えて三人でしあわせに暮らせる日がきますように、と応援したくなる。
戸村飯店青春100連発*瀬尾まいこ
- 2008/08/06(水) 17:32:37
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大阪の下町にある中華料理店・戸村飯店。この店の息子たちは、性格も外見も正反対で仲が悪い。高3の長男・ヘイスケは、昔から要領が良く、頭もいいイケメン。しかし地元の空気が苦手で、高校卒業後は東京の専門学校に通う準備をしていた。一方、高2の次男・コウスケは勉強が苦手。単純でやや短気だが、誰からも愛される明朗快活な野球部員。近所に住む同級生・岡野に思いを寄せながら、卒業後は店を継ぐつもりでいた。
春になり、東京に出てきたヘイスケは、カフェでバイトをしながら新生活をはじめる。一方コウスケは、最後の高校生活を謳歌するため、部活引退後も合唱祭の指揮者に立候補したり、岡野のことを考えたり、忙しい日々を送っていた。ところが冬のある日、コウスケの人生を左右する大問題が現れて……。
人の気持ちにじんとして泣かされ、大阪のコテコテのギャグに笑って泣かされた一冊だった。
一歳違いの兄弟・ヘイスケとコウスケは、何かにつけて正反対のように思われていたが、コウスケが語る兄と、ヘイスケが語る弟とを並べてみると、どうもそうばかりも言えないように思われる。いちばん身近で永遠のライバルである男兄弟の距離感が絶妙で胸がいっぱいになる。
戸村飯店の常連客たちや、コウスケのクラスメイト、ヘイスケのバイト先の店長など、周りの登場人物たちにも魅力的な人が多くて、彼らのことももっと知りたくなるほどである。
戸村兄弟のこれからももっと知りたい。
見えない誰かと*瀬尾まいこ
- 2007/01/31(水) 17:20:02
☆☆☆・・ 「以前の私は人見知りが激しく、他人と打ち解(と)けるのに とても時間がかかった。社会に出てからも、わざわざ親しくもない人と一緒に何かするくらいなら、一人でいたいというつまらない人間だった。でも、……」 見えない誰かと
瀬尾 まいこ (2006/12)
祥伝社
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誰かとつながる。それは幸せなことだ……
待望の初エッセイ!
「はじまりやきっかけはめちゃくちゃであっても、いくつかの時間を一緒に過ごすと、何らかの気持ちが芽生(めば)えるんだなあって思う。(中略)気持ちが形を変えていったんだって思う。いつもいい方向に動くとは限らないけど、接した分、やっぱり何かは変わっていく」
「私のそのときの毎日を 楽しくしてくれている人は、確実にいる」
タイトルは『見えない誰かと』だが、著者と実際に関わりをもった「見える」人たちとのことが書かれているエッセイ。
どれほど教師になりたかったか、そして教師になれたいま どれほど愉しんで毎日を送っているか、が滲み出すように伝わってくる。生きた人間と関わるのだから、いいことばかりではなく、うんざりすることもたくさんあるだろうことは、さらりと書かれた文章の端々からもうかがえるのだが、それでもなお 生徒たちとともに毎日を過ごすことを愉しんでいる様子がわかって頼もしくさえ思える。
そして、マイナスで始められることがあっても、必ず最後はプラスで終わっているところに、著者の素晴らしさがうかがえる。
『図書館の神様』の垣内君にはモデルがいて、実物の方がずっと素敵!というのにも唸らされた。お会いしてみたい。
「見える」人たちとの素晴らしい出会いとつながりは、「見えない誰か」とも どこかで何らかの形でつながっていることの素晴らしさを思わせてもくれる。
温室デイズ*瀬尾まいこ
- 2006/10/10(火) 17:28:54
☆☆☆☆・ トイレでタバコが発見される。遅刻の人数が増える。これらの始まりの合図に教師たちはまだ気づかない。私たちの学校が崩壊しつつあることを。私には一体何が出来るのだろうか……。ひりひりと痛くて、じんじんと心に沁みる、とびきりの青春小説。 教室に行きたくない。そういう私に別室登校が認められ、学校に行きたくなくなれば、次のものが用意される。教室でまともに戦うみちるには、誰も手を差し伸べないけれど、逃げさえすればどこまでも面倒見てもらえる。教室で戦うのは、ドロップアウトするよりも何倍もつらいのに。 温室デイズ
瀬尾 まいこ (2006/07)
角川書店
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戦うのは、逃げるよりもつらいけど。
まだ、あの場所でがんばれる。
ふたりの少女が起こした、小さな優しい奇跡。
荒れた小学校を、卒業を目の前にして何とか自分たちで立て直したと思ったのに、中学もさらに質の悪い荒みようで、何とかしようと思い切った発言をしたみちるはすぐさま陰湿ないじめの対象にされてしまう。
みちるの友だちの優子ちゃん、自ら優秀なパシリと宣言する斉藤君、思惑外れでスクールサポーターになってしまった吉川先生、みちるの幼馴染でやくざの親を持つ瞬らを取り巻く「温室」の日々の物語。
いじめ・暴力・授業放棄、などなど...。これでもかというほど荒れた中学の様子が描かれる。それなのにタイトルは『温室デイズ』である。
学校という 外から見れば、ぬくぬくと守られたぬるま湯の中のような場所。だが、その温室の中はあるものにとっては過酷ともいえるほど暑すぎ、枯れないように生き抜いていくだけで並々ならぬエネルギーを奪い取られるのかもしれない。みんながみんな温室に守られているわけではないのだ。温室にいるからこそ歪められ、それでも逃れられずにもがいているものもあるのだ。
教室から逃げ出した優子の胸の中のこんなつぶやきに心が痛い。
強運の持ち主*瀬尾まいこ
- 2006/06/19(月) 17:29:08
☆☆☆・・ 元OLの占い師、ルイーズ吉田は大忙し! 強運の持ち主
瀬尾 まいこ (2006/05)
文芸春秋
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「がんばって。きっといいことがあるわ」
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直感だろうと占い本通りだろうとかまわない。
でも、どんなつまらない相談事でも、
人生にかかわる一大事でも
同じように真剣に占わないといけない。
当たる当たらないは問題じゃなく、
相手が納得する答えを出さないといけない。(本文より) ――帯より
OL時代の上司や職場の人間関係に疲れ、ひとりでできる仕事を、と思って占い師になったルイーズ吉田こと 吉田幸子。ジュリエ青柳主催のジュリエ数術研究所の扉を叩くと一日目は研修、二日目は先輩占い師の助手、そしてなんと三日目からは一人前の占い師としてひとりで仕事をすることに。
なんだかいい加減なようだが、ルイーズは営業職のOLとしての経験を生かして それなりに真剣に相談者に向かっているのだった。
相談にきたカップルの男性に類を見ない強運を見出し、あらゆる手を使って自分の方を振り向かせ同棲してしまったりもするのである。そうやって手に入れた通彦がなにやらぼーっとしていて強運を発揮しそうもないところが また和ませてくれる。
通彦はもちろん、師匠のジュリエ青柳や 終わりが見えてしまう武田平介、アシスタントの竹子さん、とルイーズの周りを固める登場人物たちのキャラクターがみんな好ましい。
優しい音楽*瀬尾まいこ
- 2005/05/21(土) 21:24:32
幸福な食卓*瀬尾まいこ
- 2005/01/12(水) 08:53:10
天国はまだ遠く*瀬尾まいこ
- 2004/08/22(日) 14:20:12
☆☆☆☆・
誰も私を知らない遠い場所へ――そして、そこで終わりにする。
・・・・・はずだったけど、たどり着いた山奥の民宿で、
自分の中の何かが変わった。
私、もっともっと生きていけそうな気がする。
ここにはたくさんの星、たくさんの木、山に海に風がある。
でも、寂しかった。
すてきなものがいくらたくさなっても、ここには自分の居場所がない。
するべきことがここにはない。だから悲しかった。
きっと私は、自分のいるべき場所から、うんと離れてしまったのだ。
そう思うと、突然心細くなった。まだ、そんなことに気づかずにいたい。
本当のことはわからずにいたい。だけど――。
(帯より)
仕事にも日常にも追いつめられ もう死ぬしかないとまで思いつめ、最期の場所を求めて北へ向かった 23歳の山田千鶴がこの物語の主人公。
日々に追われ一点しか見られなくなると往々にしてこういう状況に陥るものだということは とてもよく理解できる。その時その時は それがすべてであり そのために命を削っているのだと思う。死ぬ気になれば怖いものなど何もない どんなことでもできる、とはよく言われる言葉だが それまでと同じ生活の場にいるままでそれを要求されるのは 崖っぷちに立つ人の背中を押すことにも等しいことなのだろうと思う。酷なのだ。
そんな千鶴にとって [民宿たむら]のある木屋谷はまるでやさしく抱き止めてくれる天国のような場所だったのだ。でもいくらすばらしい場所でも ほんものの天国ではないそこには千鶴のいる場所はない、ということに気づいてしまった時 たぶん彼女は現実世界へと生き返ったのだ。
いつでも訪ねて行くことのできる天国を持てた千鶴は きっとこれからも何度も躓きながら上手くやっていけることだろう。
図書館の神様*瀬尾まいこ
- 2004/08/10(火) 14:06:08
☆☆☆・・
この出会いは、神様のはからいとしか思えない!
思い描いていた未来をあきらめて赴任した高校で、
驚いたことに〈私〉は文芸部の顧問になった。・・・・・
「垣内君って、どうして文芸部なの?」
「文学が好きだからです」
「まさか」!
・・・・・清く正しくまっすぐな青春を送ってきた〈私〉には、
思いがけないことばかり。
不思議な出会いから、傷ついた心を回復していく再生の物語。
(帯より)
ひと言で言うならば 「正しさ」ということについて考えさせられる物語である。ただひたすらまっすぐにがむしゃらに正しいことが 人間として最良のこととは言い切れないということ。ときに「正しさ」は――狭量な正しさと言い換えてもいいかもしれないが――他人を 想像もできないほど傷つけてしまうものだということが 哀しく切ないほどよくわかる。
そんな哀しい「正しさ」で生きてきた主人公 早川清(きよ)にとって たった一人の文芸部員である 垣内君の存在は 神様にも値するものだったかもしれない。
清の「正しさ」は 垣内君との一年の間に 少しだけ容量の大きな遊びのある正しさに変化し始めたように思う。
「正しさ」を闇雲に振り回すことが 周りを正しいことに導くことにはならないという思いを 新たにした。自戒をこめて。
卵の緒*瀬尾まいこ
- 2004/06/14(月) 08:19:39
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