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あんのまごころ お勝手のあん*柴田よしき

  • 2022/01/13(木) 18:36:36


品川宿の宿屋「紅屋」では、おやすが見習いから、台所付きの女中として正式に雇われることとなり、わずかばかりだがお給金ももらえるようになった。
最近は煮物も教えてもらえるようになり、また「十草屋」に嫁いだ仲良しのお小夜さまが、みずから料理して旦那さまに食べてもらえる献立など、毎日料理のことを考えている。
そんななか、おしげさんからおちよの腹にやや子がいることを聞いていたおやすは、日に日に元気がなくなっていくおちよの本音に気づきはじめて──。
大好評「お勝手のあん」シリーズ、待望の第四弾!


二作目・三作目を飛ばして四作目を読んだので、時折事情が呑み込めないこともあったが、おやすの成長と、新しい料理ができる過程は、充分に愉しめる。おやすの周りでは、さまざまな厄介事が起こるが、おやすの人柄や、紅屋の人たちとの気持ちの通い合いが、ひとつずつ解決してくれる。最後はどうなるかと思ったが、命だけは何とか無事だったので、紅屋の再建もきっと何とかなるだろう。一人前の女料理人になる道が、どんどん開けることを祈りたくなるシリーズである。

風味さんのカメラ日和*柴田よしき

  • 2017/12/02(土) 07:53:27

風味さんのカメラ日和 (文春文庫)
柴田 よしき
文藝春秋 (2017-08-04)
売り上げランキング: 204,752

あなたのワケあり写真は、あなたの心の有りようを写している――。

東京を離れ洋菓子店を営む実家に戻った風味は、幼馴染の頼みでカメラ講座に通うことに。
いつも写真がボケてしまう老人、寂しくない写真を撮りたい中年女性などが集うなか、講師の知念大輔は、カメラマンを挫折した天然なイケメン。
だが、彼はレンズを通して受講生の心を癒していく。
カメラ撮影用語解説もついた文庫書き下ろし。


写真好きな著者ならではの物語である。プリントされたり、パソコン画面に映し出されたりした写真から、撮った人の心のうちに凝った思いを解きほぐし、前向きにさせるのは、蛍山市の無料の初心者向けカメラ講座の講師・知念大輔である。心に響く写真を撮るのに、売れっ子にはなれず、甥の伝手でこの講師の職を得たという、なんとも頼りない感じなのだが、カメラや写真撮影に関するアドバイスは的確で、読んでいてそうだったのかと納得させられることもある。お役立ち情報付きの軽いミステリ、といった感じだろうか。いままで大雑把に撮っていた写真を、もっと丁寧に撮ってみたいと思わされる一冊でもある。

さまよえる古道具屋の物語*柴田よしき

  • 2017/04/12(水) 09:47:34

さまよえる古道具屋の物語
柴田 よしき
新潮社
売り上げランキング: 136,239

やがて買い主は、店主が選んだ品物に、人生を支配されていく――。その店は、人生の岐路に立った時に現れる。さかさまの絵本、底のないポケットがついたエプロン、持てないバケツ……。古道具屋は、役に立たない物ばかりを、時間も空間も超えて客に売りつけ、翻弄する。不可思議な店主の望みとは何なのか。未来は拓かれるのか? 買い主達がその店に集結する時、裁きは下され、約束が産まれる。


その人が必要とするときにだけ忽然と現れ、自分の意志とは無関係にある品物を買うように仕向けられる、年齢性別不詳の店主がいる不思議な古道具屋が物語の核である。品物を買った人たちは、腑に落ちないながらも手放すことはせず、何らかの形で自分の人生の一要素にしていく。ある時はしあわせのお守りであり、またある時は不幸に陥れる呪いが宿るものともなる。それらの品物に宿る思いと、買い手たちの抱える懊悩が互いに引き寄せあって、それぞれの人生を翻弄する。言霊があるように、人のあまりにもつよすぎる思念は、思いもよらない作用を及ぼすことがあるのかもしれないと、ふと考えてしまう一冊である。

青光の街 ブルーライト・タウン*柴田よしき

  • 2017/01/18(水) 18:39:14

青光の街(ブルーライト・タウン) (ハヤカワ・ミステリワールド)
柴田 よしき
早川書房
売り上げランキング: 23,575

撲殺されたOL、刺殺された出版社社員、絞殺された中学生……接点のない被害者たちのそばに置かれていたクリスマスの青い電飾。無差別殺人? 愉快犯? それとも秘められた動機が?――青い電飾が遺体のそばに撒かれる連続殺人事件が東京を震撼させていた。そんな折、作家兼ブルーライト探偵社の所長の草壁ユナに旧友・秋子から助けを求めるメールが届く。秋子の家を訪ねると、彼女を拉致した犯人からメッセージが。一方、探偵社で依頼を受けた有名人の婚約者の身辺調査が連続殺人と奇妙な繋がりを見せ……いくつもの事件が描く複雑な陰影すべての推理が重なり合う時、ユナの前に驚愕の真実が現れる! 作家にしてブルーライト探偵社の所長の草壁ユナ、最初の事件。読み出したら止まらない! 予測不能のノンストップ・サスペンス


ブルーライト探偵社でいちばん役立たずなのは自分だと常々思っている所長の草壁ユナ(本職は作家であり、探偵ではない)が探偵役である。本職の探偵の助けも多分に借りているが、友人から届いた助けを求めるメールをきっかけに、彼女を救うための調査に乗り出すのである。最近連続して起きている青い電飾がばらまかれた殺人事件とも絡み合って、思わぬ真実が暴かれていく。折々に差し挟まれた「青い町」という素人の短編小説が二重構造の中に迷い込んだようでくらくらさせられる。最初の事件と内容紹介にあるので、シリーズ化されるのだろうか。ブルーライト探偵社から目が離せなくなりそうな一冊である。

あおぞら町春子さんの冒険と推理*柴田よしき

  • 2016/12/10(土) 07:51:35

あおぞら町 春子さんの冒険と推理
柴田 よしき
原書房
売り上げランキング: 209,304

春子は、ゴミ置き場に花を捨てに来た男性に声を掛け、その花を譲り受けた。数日後に再び花を捨てに来たのを見て、春子はあることの重大な意味に気づいたのだが……。
春子と拓郎(プロ野球選手)が織りなす事件と日常と花々の連作集。


野球と植物と料理が好きな著者ならではの物語である。二軍の野球選手・拓郎と妻の春子の日常をベースに、暮らしている町の日常に起こる謎を想像力と観察力を駆使して解き明かしていく春子さんの探偵ぶりが、爽やかで可愛らしい。拓郎の今後の活躍も気になるし、家族の形も見守りたい一冊である。

自滅*柴田よしき

  • 2015/03/06(金) 18:15:54

自滅自滅
(2014/12/25)
柴田 よしき

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女性たちがからめとられた、日常の中にふと生まれる恐怖を静謐な筆致で描く極上のサスペンス・ホラー短編集。せつなさに心揺さぶられる5つの物語。


「薫衣草(ラベンダー)」 「雪を待つ」 「隠されていたもの」 「ランチタイム」 「自滅」

珍しくホラーなテイストの短編集である。ごくごく普通に日常的に描かれている物事が、ある一点を境にぐらりと揺らぎ、途端に背筋が凍りつく心地になる。だがそれは、誰の中にもある要素がたまたま主人公の女性に現れたことのようにも思われる。そのことに気づいたときに再びぞっとする思いに駆られもするのである。恐ろしいが最後まで見届けずにはいられない魅力のある一冊である。

風のベーコンサンド*柴田よしき

  • 2015/02/05(木) 17:03:16

風のベーコンサンド 高原カフェ日誌風のベーコンサンド 高原カフェ日誌
(2014/12/10)
柴田 よしき

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美味しい料理は奇跡を起こす―四季折々の恵みと紡ぐ6つの物語。


「風音」 「夕立」 「豊穣」 「夢鬼」 「融雪」 「花歌」

夫のモラハラによって自律神経を病み、家を出てカフェスクールで修業したのち、百合が原高原の空きペンションを買ってカフェを開いた奈穂の物語である。なんといっても魅力的なのは、カフェで出される料理の数々。そしてその素材になる百合が原の食材の数々である。牛乳、卵、パン、ベーコン、野菜やハーブ。そして、外からやってきた危なっかしいカフェ初心者の奈穂を陰になり日向になって支え見守り続けてくれる周りの人たちのあたたかさも心に沁みる。物語の展開は、ある程度予想がつくものではあるが、それでもなお、心が豊かになるような読書タイムを与えてくれる一冊である。

ぼくとユーレイの占いな日々*柴田よしき

  • 2013/04/03(水) 07:42:57

ぼくとユーレイの占いな日々 (石狩くんと株式会社魔泉洞) (創元推理文庫)ぼくとユーレイの占いな日々 (石狩くんと株式会社魔泉洞) (創元推理文庫)
(2013/02/21)
柴田 よしき

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徹夜のアルバイトを終えた石狩くんが出逢った。冗談みたいな厚化粧の女。彼の過去の行動を当てる彼女は大人気占い師、摩耶優麗だった!石狩くんはある事件をきっかけに優麗が率いる占いの館・魔泉洞に就職してしまう。次々に持ち込まれる不思議な事件を鮮やかに解くユーレイの名推理と、超個性的な面々に振りまわされる石狩くんの受難の日々を描いた、ユーモアミステリ短編集。


「時をかける熟女」 「まぼろしのパンフレンド」 「謎の転倒犬」 「狙われた学割」 「七セットふたたび」

以前ミステリーズに掲載されたものに書き下ろし一篇を加えた一冊、ということである。
卒業に必要な単位は取れたものの、就活にてこずる大学四年生の石狩くんが、ひょんなことからアルバイトとして雇われることになった占いの館・魔泉洞での、社長で人気霊媒師である摩耶優麗(まや ゆうれ)との一風変わった毎日の物語である。ユーレイ(優麗)の占いの真偽はともかくとして、ほんの小さなヒントから真実を引き出す観察力と推理力は見事であり、石狩くんは探偵としての彼女のアシスタントのようである。事件の謎は解けたものの、優麗自身やその他もろもろにはまだまだ謎の部分が多く、それらが明らかにされることはあるのだろうか、とちょっぴり気になる一冊である。

夢より短い旅の果て*柴田よしき

  • 2012/08/15(水) 17:01:58

夢より短い旅の果て夢より短い旅の果て
(2012/06/30)
柴田 よしき

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四十九院(つるしいん)香澄は“その道では有名な”鉄道旅同好会に入会した。鉄道に興味はなかったが、彼女には同好会に絶対に入らなければいけない理由があった。急行能登、飯田線、沖縄都市モノレールゆいレールに、こどもの国、越後湯沢、雨晴、日光…。一つの線路、一つの駅に集う多くの人々、様々な人生と交錯する中、彼女自身も自分のレールを敷きはじめていく。ありふれた日常をちょっぴり変える、珠玉の鉄道ロマン。


鉄道ロマンとはいうものの、ミステリか?と思わせる要素もあり、ただ大学の同好会の一員として鉄道の旅を愉しむのとはひと味違った緊張感があるのが、旅の愉しさをより好いものにするスパイスになっている。著者の鉄道への愛が登場人物それぞれを通してページのこちら側にも伝わってくるし、鉄道の愛好者でなくともこの路線に乗って、この駅で降りてみたいという気にさせる一冊でもある。列車や旅先での出会いは、都心の雑踏での出会いとは全く違う親近感を伴っており、それがまたいっそう旅を素晴らしいものにしているのだろう。主人公・香澄のこれからの旅を応援したくなる一冊でもある。

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クロス・ファイヤー*柴田よしき

  • 2012/04/02(月) 16:59:58

クロス・ファイヤークロス・ファイヤー
(2012/02/17)
柴田よしき

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天才ピッチャーでスターの麻由とくらべたら、わたしは等級の劣る地味な星。でもそんなわたしの方が、素質が上だなんて…。日本プロ野球のチームに、女性選手が入団。東京レオパーズ所属の楠田栞は、左腕でアンダースローの中継ぎ投手。客寄せパンダと陰で囁かれつつも、同僚で親友の早蕨麻由と励まし合いながら、プレイに、恋に、奮闘中。プロ野球は、才能と運、その両方を掴んだ者だけが成功できる過酷な世界。時にはくじけそうになりながらも、女であることも「幸運」のひとつなのだと、栞は自らに言い聞かせている。そんなある日、栞は臨時投手コーチの雲野と出会う。雲野は言う。おまえの恵まれた体と素質を活かせ、一流になれ、と。そして、とある目標のための特別指導が始まった…。


大のプロ野球好きで知られている著者のプロ野球物語である。ただひと味違うのは、主役が女子選手だということである。レオパーズに入団した早蕨麻由と楠田栞にスポットライトが当てられている。プロ野球の物語でありながら、生き生きとした女性のお仕事物語でもあるところが本作のいちばんの魅力だろう。タイプの違う二人の女性を登場させることで、それぞれの違った悩みや葛藤を浮かび上がらせ、客寄せパンダ的存在としてのジレンマや、野球選手としての体力のことや、恋愛の悩みまで、ひとりの女性としての揺れや悩みがリアルに描かれていて、彼女たちが実際存在するかのような錯覚さえ抱かされる。そして、球界の改革という将来的なことまで背負うことの覚悟を突きつけられたときの、それでも揺れる乙女心も女性作家ならではの細やかで著者自身が見つめているようなやさしさを感じさせられる。いまは夢物語だが、夢ではなくなる日が来るかもしれないという期待を抱かされる一冊でもある。

輝跡*柴田よしき

  • 2011/08/10(水) 06:59:57

輝跡 (100周年書き下ろし)輝跡 (100周年書き下ろし)
(2010/09/29)
柴田 よしき

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野球の才能に恵まれ、中学生で「怪物」と呼ばれた北澤宏太。家庭の事情で一度はあきらめた夢を追い、プロ野球選手になった彼を取り巻く女たち。故郷の元恋人、妻となった女子アナ、ファン、愛人…。女性の視点からプロ野球を描く切なさあふれる物語。


プロ野球好きで知られている著者ならではの切り口である。ひとりの野球選手を、彼の周りの女性たちを描くことで浮かび上がらせている。ただ、核となる野球選手・北澤宏太のことがわたしには最後までよく判らなかった。生真面目で不器用で朴訥、実力はあるのにもうひとつ運に恵まれなかった、だが最後まで野球はあきらめない男。自分の頭の中にあるそんな人物像に当てはめようとすると微妙に裏切られるのである。それでこそ生身の人間、と言えるのかもしれないが。そして彼に関わる女性たちの人生もまさにそれぞれで、生々しい現実感にあふれていて興味深い。彼女たちにもそれぞれの価値観があり、北澤というひとりの男とまったく違う関わり方をしているのである。人生なにが起こるかわからない、と痛切に思わされる。すっきりはしないが、現実を教えられたような一冊である。

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紫のアリス*柴田よしき

  • 2010/07/29(木) 13:54:03

紫のアリス (文春文庫)紫のアリス (文春文庫)
(2000/11)
柴田 よしき

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不倫を清算し会社を辞めた紗季は、夜の公園で男の死体と「不思議の国のアリス」のウサギを見る。果たして幻覚か?引越したマンションで、隣人の老婦人のお節介に悩む紗季に元不倫相手が自殺したという知らせが。一方「アリス」をモチーフにした奇妙なメッセージによって、十五年前のある事件の記憶が蘇る。


  第一章  三月ウサギ
  第二章  奇妙な帽子屋
  第三章  お茶会の午後
  第四章  悲劇
  第五章  白い薔薇・赤い薔薇
  第六章  思い出の隙間
  第七章  鏡の中へ
  第八章  紫のアリス
  エピローグ  鏡の国のアリスへ


子どものためのおとぎ話と思っていたら、本来の姿は大人に向けての思わせぶりな物語だった、という風な背筋がゾクッとするような趣もある。どこから迷いこんだのか、いつから迷いこんでいたのか、夢なのか現なのか手探りするもどかしさの中を読み進む。ひとつ光が見え、真実を掴んだと思うと、するすると手を逃れて真実と思われたものは遠ざかっていき、迷いさまよいながら何度も裏切られる。最後の最後に本物の出口だと思ったものさえ、まやかしなのかもしれないのである。迷いつづける一冊だった。

桃色東京塔*柴田よしき

  • 2010/07/06(火) 10:39:48

桃色東京塔桃色東京塔
(2010/05)
柴田 よしき

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警視庁捜査一課勤務の刑事・黒田岳彦は、ある事件の捜査でI県警上野山署捜査課係長・小倉日菜子と出会う。過疎の村で働く日菜子は警官の夫を職務中に亡くしている未亡人で、東京に対して複雑な思いを抱いていた。捜査が進むなか岳彦と日菜子は少しずつ心を通わせてゆくが、あらたに起きるさまざまな事件が、ふたりの距離を微妙に変えていって…。異色の連作短編集。


表題作のほか、「朱鷺の夢」 「渡れない橋」 「ひそやかな場所」 「猫町の午後」 「夢の中の黄金」 「輝く街」 「再生の朝」

過疎の村で刑事として働く日菜子と警視庁の刑事である岳彦の物語である。事件を通して少しずつ関係性を変えていくふたりに、光あふれる東京という街に対するそれぞれの思いが象徴的に使われている。主人公ふたりが刑事なので当然物語は警察小説でもあり、殺人事件の謎解きも充分愉しめる。刑事も刑事である前にひとりの人間なのだということを、改めてあたたかく思わせてくれる一冊だった。ラストの日菜子の決断も応援したくなる。

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竜の涙――ばんざい屋の夜*柴田よしき

  • 2010/06/08(火) 19:49:48

竜の涙 ばんざい屋の夜竜の涙 ばんざい屋の夜
(2010/02/09)
柴田 よしき

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東京丸の内、古びた雑居ビルの「ばんざい屋」に一人の男が訪ねてくる。
ばんざい屋と立ち退き交渉をするためだった。一等地にある古いビルは建て替えられることになっていた。ばんざい屋の女将・吉永は、立ち退くか、高額なテナント料を払い新しくなるビルにはいるか決断しかねていた。そんななか、常連客・進藤が女性の客を連れてきた。一見、洗練されたキャリアウーマン風、だが、疲れていた。その女性・川上有美が「竜の涙」という奇妙な言葉を発した。死んだ祖母が、これさえ飲めば、医者も薬もいらなかったという。客の誰もが不思議がるなかで、女将が推理した「竜の涙」の正体とは? そして、有美が心に秘めた想いとは?


表題作のほか、「霧のおりてゆくところ」 「気の弱い脅迫者」 「届かなかったもの」 「氷雨と大根」 「お願いクッキー」

京のおばんざい、というよりももはや女将のおばんざいと言ってもいいような気持ちの篭った料理の数々が並ぶ、ばんざい屋が舞台である。そして、女将の吉永が、常連客の話の中にでてくる引っかかりを彼女なりに解きほぐしてみせ、客たちをほっとさせるのである。禍々しい事件など一切起こらないが、いわゆる安楽椅子探偵物語といったところだろう。どうしても北森鴻氏の香菜里屋シリーズを思い出さずにはいられないが、本作も同じように店に集う人々をしあわせな心地にしてくれる。カウンターの端に客のひとりとして座り、おいしい料理に舌鼓を打ちながら、菊とはなしに女将とほかの客の話を聞いているような心地にさせてくれる一冊である。

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いつか響く足音*柴田よしき

  • 2010/02/18(木) 19:34:00

いつか響く足音いつか響く足音
(2009/11/20)
柴田 よしき

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「家族」のかたちが見えればいいのに。壊れはじめたら、すぐに分かるから。借金まみれのキャバクラ嬢。猫の集会を探し求めるカメラマン。夫が死んだ日のことを忘れられない未亡人…ひとりぼっちの人生がはじまった、それぞれの分岐点。著者会心の傑作連作集。


表題作のほか、「最後のブルガリ」 「黒猫と団子」 「遠い遠い隣町」 「闇の集会」 「戦いは始まる」 「エピローグ」という連作短編集。

高度成長期に建てられた郊外のニュータウン。いまは寂れて四角い箱が無機質に並ぶ、かつての夢のなれの果てのような場所で、家族の温もりにはぐれた人々がそれぞれに懸命に明日をさがして生きているのだった。寂しいから人懐っこい。面倒だがありがたい。六つの物語を束ねるエピローグには、何かを失ったからこそ身につけられた強さのようなものが感じられた。

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