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まちまちな街々 ニッポン見聞録*清水義範
- 2020/04/05(日) 16:44:07
泥江龍彦(職業・作家)は、ある日、いいことを思いついた。それは、K書店を騙くらかして取材旅行にいく―つまり、ひとのお金でタダ旅行をするという企画だったのだ。かくして、泥江とその妻は、二人三脚の旅に出るが、世の中そんなに甘くはない!?抱腹絶倒の珍道中、漫遊記。
相変わらずの清水節である。いい加減な顔をして、至極まじめ。まじめなふりをして、いい加減である。夫婦の会話や、行動に、思わずふふふっと笑ってしまったりしながら、結構きっちりと勘所はおさえられていて、勉強にもなるのである。その辺りに手を抜かないのは、著者のまじめさだろう。同行する妻の役割も大きい気がする。ときにわき道にそれそうな夫を本筋に引き戻し、ときに気ままに次の行動を決める。まさに二人三脚の珍道中なのである。ほほえましい。愉しく読める旅行案内と言った一冊である。
夫婦で行く東南アジアの国々*清水義範
- 2018/12/27(木) 16:56:26
集英社 (2018-01-19)
売り上げランキング: 219,400
熟年夫婦の旅行の楽しみ方を知り尽くしている清水夫妻。舞台は、大人気の東南アジア! 歴史あり、夫婦のほんわかエピソードなど、根強い人気を誇る旅エッセイシリーズ最新作。
これはもう純然たる旅行記である。著者流の捻った視点からの感想などを期待したのだが、それはなく、真っ直ぐな旅行記である。東南アジアの国々のさまざまな場所でさまざまな文化に触れ、それが紹介されているのだが、なんと最も印象に残ったのは、食べるものが口に合わなかったということである。自分もアジア系の料理が得意ではないので、苦笑しつつ読んだ。期待とはいささか違った一冊だった。
朦朧戦記*清水義範
- 2015/03/14(土) 07:20:57
![]() | 朦朧戦記 (2015/02/20) 清水 義範 商品詳細を見る |
長生きするだけが能じゃない! 超高齢化社会に活を入れる「老楽」小説。 思い残さず、生きようじゃないか。 ホームで無為な余生をおくる老人たちがある日突然、覚醒した。退屈しのぎに始めたクイズ大会が次第にエスカレート。あの頃の恋愛、戦争、革命を夢見て、性も闘争本能も解放して突っ走る彼らを、もはや誰も止められない。どうなる日本……ユーモア小説の雄、破茶滅茶な展開で加齢なる復活!?
復活お待ちしていました。しかもこんな加齢なる復活、笑っちゃいます。だがしかし、ただ無条件に笑ってばかりいられない超高齢化社会の現実の一端を見せられたようにも思え、お年寄り、意気軒昂で結構、と思う反面、やるせなく切ない思いに苛まれるのも事実なのである。可笑しい中にも、いささかひりっとする一冊でもある。
いやでも楽しめる算数*清水義範
- 2014/11/07(金) 17:12:06
![]() | いやでも楽しめる算数 (2001/08/21) 清水 義範 商品詳細を見る |
算数をめぐってハカセとサイバラがバトルを展開。円の面積から掛け算・割り算、電卓パズル、人類の三大数学者まで、異色爆笑知的入門エッセイ。『小説現代』連載の「お嫌いでしょうが算数」を単行本化。
実際算数は嫌いだった。高校生くらいになると、どうしてあんなに嫌いだったのか、とも思うようになったが、どういうわけか端から毛嫌いして頭が受け付けなかったような気がする。それでも九九はしっかり覚えているのが不思議である。いまでも大好きというわけではないが、算数的なものの考え方の合理性に納得できることがままあり、いつの間にか拒否感はなくなった(あくまでも「算数」の話しである)。本書を読んで、急に算数嫌いの人が算数大好きにはならないだろうが、いままでとりあえずおいておいたあれこれの、謎解きができてちょっぴりすっきりするような一冊である。
迷宮*清水義範
- 2012/04/22(日) 16:50:56
![]() | 迷宮 (1999/06) 清水 義範 商品詳細を見る |
一人暮らしの24歳OLが、自宅マンションで殺された。事件は被害者の性器が切除され、アイスクリームの中に埋められていたことで世間を震撼させる…。この猟奇殺人をめぐる週刊誌報道、取材記録、供述調書、手記、手紙、そしてモデル小説―。ひとつの事実をめぐるさまざまな言葉は、果たして真相を明らかにすることに成功するのか。ことば、言葉、コトバに溢れる現代社会の病的日常を照らし出すスリリングな問題小説。
まさにスリリングな物語である。記憶喪失にかかったと思われる男が、治療と称してある猟奇的な犯罪にまつわるさまざまな文章を読まされる場面が物語の大半を占めるのだが、何のために治療者は男にこの文章を読ませるのか、男は一体だれなのか、そしてそもそも治療者はだれなのか、という疑問がどんどん湧き起こり、犯罪の異様さと相まって読者を迷宮へと誘いこむのである。治療するものとされる者の果たしてどちらが正気なのか、読むほどに判らなくなり、居心地の悪い読後感の一冊でもある。
永遠のジャック&ベティ*清水義範
- 2010/12/17(金) 09:30:25
![]() | 永遠のジャック&ベティ (1988/10) 清水 義範 商品詳細を見る |
英語教科書でおなじみのジャックとベティが50歳で再会したとき、いかなる会話が交されたか?珍無類の苦い爆笑、知的きわまるバカバカしさで全く新しい小説の楽しみを創りあげた奇才の粒ぞろいの短篇集。ワープロやTVコマーシャル、洋画に時代劇……身近な世界が突然笑いの舞台に。(解説・鶴見俊輔)
表題作のほか、「ワープロ爺さん」 「冴子」 「インパクトの瞬間」 「四畳半調理の拘泥」 「ナサニエルとフローレッタ」 「大江戸花見侍」 「栄光の一日」
著者なのでわかってはいることなのだが、どれもこれも失笑・苦笑のツボに見事にはまる。着眼点が人並みならないのはもちろん、その一点からのふくらませ方がこれまた人並みではないのである。可笑しいったらない一冊である。
川のある街--伊勢湾台風物語--*清水義範
- 2010/01/22(金) 17:04:02
![]() | 川のある街 伊勢湾台風物語 (2009/11/12) 清水 義範 商品詳細を見る |
名古屋市出身の作家・清水義範氏が伊勢湾台風の体験を基に書いた、中日新聞好評連載小説を単行本化。
名古屋市中心部を流れる堀川を主な舞台に、庶民の暮らし、伊勢湾台風との闘いを人間味あふれるタッチで描いています。主人公は小学4年生の丹羽正太、同級生伊藤良一とそれぞれの家族、担任教師池上玲子、消防署員猪飼真一ら街に暮らす人々。名古屋市出身の清水さんの体験が基になっているだけに、当時の生活感や価値観がたくみに著されています。名古屋弁がふんだんに用いられているほか、名古屋空襲、名古屋城再建の話も盛り込まれています。
名古屋出身の写真家・浅井慎平氏が、名古屋開府四百年を記念して映画を作る際、タイトル案を考えたことで、原作も、と乞われて書いたという経緯があるそうである。
現在の堀川をなんとか綺麗にしようと市役所の職員が地元の老人たちに助言を求める冒頭の場面から、昭和34年の伊勢湾台風の前後まで一気に時を遡り、通りぬけた台風の凄まじさと人の温もりを描いて、最後にまた元の場面に戻ったときには、言い知れぬ感慨に包まれた。街を愛する心、その街に住む人々を愛する心があたたかい一冊である。
12皿の特別料理*清水義範
- 2009/09/08(火) 16:36:34
![]() | 12皿の特別料理 (1997/02) 清水 義範 商品詳細を見る |
12の料理にひめられた思い出。あなたにはそんな一品料理、いくつありますか?つくって、食べて、読んで美味しい料理小説集。
「おにぎり」 「ぶり大根」 「ドーナツ」 「鱈のプロバンス風」 「きんぴら」 「鯛素麺」 「チキンの魔女風」 「カレー」 「パエーリヤ」 「そば」 「八宝菜」 「ぬか漬け」
取り上げられている料理の多彩さにも驚くが、その切り取られ方も、深くうなずいてしまうものやら、突拍子もなく感じられるものまで、著者ならではで面白い。ひとつの同じ名前を持った料理が、必ずしも同じ物ではないこと、そして、その料理にまつわる思い出は、それこそ人の数ほどあるということに改めて気づかされるという点でも興味深い一冊だった。
銀河がこのようにあるために*清水義範
- 2009/09/06(日) 17:31:00
![]() | 銀河がこのようにあるために (2000/12) 清水 義範 商品詳細を見る |
西暦2099年、宇宙物理学の権威である難波羅眠博士は、月面の天文台で、あるはずのない太陽系第十惑星を観測、その背後の宇宙がビクリとよじれるのを目撃した。いっぽう脳科学者の沢口は、人間の自我のありかを追究していたが、恋人・寧美とのあいだに生まれようとしている息子は、世界中で新たに誕生しはじめた、自我をもたない子どもであった。従来の科学理論を根底からくつがえす異常現象の数々に、無自我病児たちとの関連を見いだした沢口であったが、世界の天文台は、さらに驚くべき観測データを報告してきた…ガリレオ、ニュートン、アインシュタイン、そして―二一世紀の銀河を軽やかに創造する、清水義範流 “宇宙論”。
どうすればこんな着想ができるのだろう。スケールが大きすぎて、頭がくらくらする心地である。
いまから100年ほどの未来が舞台である。地球環境は変化し、人間の暮らし方も様変わりしている。それでも宇宙は厳然と存在し、時間は過去から未来に向かって流れ続けている、というのは、人間の脳が誤って認識していることかもしれない、というのだから、立っている地平が揺らぐどころか、引っくり返るようである。それでも、荒唐無稽と笑い飛ばしてしまえない何かを感じるのはわたしだけだろうか。
河馬の夢*清水義範
- 2009/07/28(火) 16:39:24
![]() | 河馬の夢 (新潮文庫) (1994/09) 清水 義範 商品詳細を見る |
近所に救急車が来たりすると、一番に飛び出してくる、面倒見のいい出しゃばりのおっちゃんたちを描く表題作。
TVクイズ番組の取材スタッフのアブナイ内幕「世界の国からこんにちは」。
ラジオ電話相談室の回答者を恐怖の質問が襲う「こだま電話相談室」。
一名古屋じんの独断と偏見で書く「大胆不敵東京案内」。
――鋭い観察眼と究極のユーモアを武器に、必ず誰をも笑わせる爆笑小説8連発。
上記に紹介されているほかに、「帰国子女京都観光ガイド」 「急がば回れ」 「読者のお便り」 「アホダラ教」
どの作品も、着眼点が著者ならではであり、その絶妙さに思わずクスリと笑ってしまう。
そんなばかな、というものもあれば、思わず頷かされてしまうものもあり、ところどころにブラック感も漂っていたりして、まったくもって面白い一冊である。
いい奴じゃん*清水義範
- 2009/06/10(水) 17:02:12
![]() | いい奴じゃん (2008/10/25) 清水 義範 商品詳細を見る |
日本一アンラッキーな男・鮎太に襲いかかる不幸の連続! 25歳で人生が決まってたまるか。鮎太は、オネエ言葉の大道寺、ナマ脚自慢のナオたちとともに、幸せになることに図々しく生きていく。清水流ロスジェネ応援小説!
著者曰く、明朗青春小説である。
なぜか運が悪い主人公・鮎太であるが、本人は、他人から言われるほど運が悪いとは思っていない。いつも前向きで、そのときどきを一生懸命に生きている。そして、困っている人を見ると放っておけない男気もあり、彼に話を聞いてもらって元気を取り戻す人も多い。一見、不運をバネにしてのし上がるわらしべ長者的物語にも見えないこともないが、いささか違うのは、鮎太はいつも全力を出し切って毎日を生きている、ということだろう。運も実力のうち、という言葉を改めて思わされる一冊でもあった。
家族の時代*清水義範
- 2009/04/12(日) 11:26:11
![]() | 家族の時代 (1995/05) 清水 義範 商品詳細を見る |
49年連れ添った両親が離婚を宣言。が、これからも生活は今までどおりだという。息子、娘たちは理由がさっぱりわからず、それぞれの家族を含めて、大騒ぎに。どうやら、長年世話になった家族同然の女性に遺産を分けるためらしいが…。それぞれの思惑と愛情が交錯して、意外な結末にたどり着く。読売新聞夕刊に連載したユーモアあふれ暖かみのある家庭小説。
会社を長男に譲り渡し、子どもたちもみな結婚して独立し、隠居生活をしている両親。それぞれ結婚し、配偶者や子どもたちとの生活に追われ、両親や兄弟たちとも疎遠になっていく子世代。そんなところに、父が母と離婚するという青天の霹靂のような宣言をする。
家族とはなにか、ということを嫌でも考えなければならない自体になって、それぞれがあれこれと思いをめぐらせるのである。そんな場合、両親のことも大事なのはもちろんだが、なにより自分たち家族を中心に物事を考えてしまったりもするのである。突拍子もない宣言にあたふたする家族たちが、人間味あふれていて面白い。
みんな家族*清水義範
- 2009/03/29(日) 20:42:28
![]() | みんな家族 (文春文庫) (2004/08) 清水 義範 商品詳細を見る |
激動の昭和を「普通の人々」は、こんなにも逞しく生きてきた。二・二六事件の迫る冬、少女は花占いに夢をはせ、優しかったあの子は南方の戦いで死に、焼け野原に立って一儲け企む奴もいた。懐かしい路地裏の匂い漂う清水版昭和史。
百瀬家と豊川家の歴史として書かれているのだが、そのまま昭和史と言っても差し支えないと思う。時代の変化に翻弄されながら生き抜いていく様は、まさに歴史を目の当たりにしているようで、読み応えがある。
そして、「やっとかめシリーズ」の波川まつ尾婆ちゃんのことや、「新築物語--または、泥江龍彦はいかにして借地に家を建て替えたか--」の背景などがよくわかって、とても興味深い。
本作は小説であって、著者の自分史ではない(ことになっていると思う)ので、脚色されていることもあろうかとは思うが、それでも、いまここに在る著者の来し方を覗き見ることができたようで嬉しくもある。
愛と日本語の惑乱*清水義範
- 2009/03/13(金) 19:25:54
![]() | 愛と日本語の惑乱 (2008/11/15) 清水 義範 商品詳細を見る |
愛は言葉か、言葉が愛か?
恋多き大女優と同棲するコピーライターが、失われつつある愛に惑乱して、奇妙な言語障害に陥っていく爆笑長編小説。
愛の反乱が、言葉の氾濫を生み、大失恋が言語中枢を破壊する----若者言葉やカタカナ言葉の流行、「日本語の乱れ」に駄洒落地獄、さらに、言葉はどこで生まれるかという脳の問題まで、言葉と日本語をめぐる話題が縦横無尽に交錯する。
「日本語の惑乱」ならば、容易に内容を想像することができる。だが、それに「愛と」がついただけで、果たしてどんな物語が展開されているのか、読んでみるまで判らなくなるのである。
そして実際に読んでみれば、これはもう「愛と日本語の惑乱」以外の何ものでもないと納得するしかない。
40代のコピーライター・野田敦――大物美人女優とつきあっている――の愛の問題と、日本語の用法の問題が、はじめは並行して、次第に絡み合い、最後には入り乱れて語られているのである。
日本語をめぐるあれこれには、さもありなんと思わせられることも多く、このテーマについてだけが語られていても興味深いものになるだろうと思うのだが、そこにごく個人的な愛情問題を絡めてくるのが著者流であろう。硬軟織り交ぜて、絶妙な一冊である。
どうころんでも社会科*清水義範
- 2009/02/22(日) 16:38:24
![]() | どうころんでも社会科 (1998/11) 清水 義範西原 理恵子 商品詳細を見る |
痛快エッセイ
社会科は暗記ではなくて、人間が躍動するガクモンだ!
ご存じ清水ハカセの名講義に、西原セイトのスルドイ突っこみ、冴えわたる。
不朽のロングセラー「理科」シリーズにつづく「社会科」シリーズ第1弾!
あなたの「歴史」「地理」を楽しくする、おもしろくてためになる絶好読みもの。
「理科」シリーズは未読だが、読みたくなってしまった。
まずタイトルが秀逸。ちょっと考えてみればまったくそのとおりなので感心してしまった。社会というのは、私たちが生活している身の回りのことなのだから・・・。
そして、知多半島に行ってみたくなる一冊でもある。
挿絵を西原理恵子が描いていて、それも人気なのだそうだが、私にはなくてもよかったかな、という気がする。
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