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まゆみのマーチ 自選短篇集 女子編*重松清

  • 2011/11/09(水) 07:32:16

まゆみのマーチ―自選短編集・女子編 (新潮文庫)まゆみのマーチ―自選短編集・女子編 (新潮文庫)
(2011/08/28)
重松 清

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まゆみは、歌が大好きな女の子だった。小学校の授業中も歌を口ずさむ娘を、母は決して叱らなかった。だが、担任教師の指導がきっかけで、まゆみは学校に通えなくなってしまう。そのとき母が伝えたことは―表題作のほか、いじめに巻き込まれた少女の孤独な闘いを描く「ワニとハブとひょうたん池で」などを含む著者自身が選んだ重松清入門の一冊。新作「また次の春へ」を特別収録。


表題作のほか、「ワニとハブとひょうたん池で」 「セッちゃん」 「カーネーション」 「かさぶたまぶた」 「また次ぎの春へ――おまじない」

東日本大震災で親を亡くした子どもたちを支援するために編まれた一冊である。どの物語も、躓いたり、心のなかのなにかが欠けてしまったりした人が主人公である。動けずにじっとうずくまっているだけのときを過ぎ、いまという場所からそっと思い返すようなものが多いのは、著者の心に宿る希望の表れのようなものだろうか。ほんの何気ないひと言が突然胸に深く刺さってきたりもし、またさりげなくその傷に手を当てられているようなあたたかな心地にも包まれる。力を抜いて時の流れに身を任せるのがいちばんいいこともあるのだと思わされる一冊でもある。

エイジ*重松清

  • 2011/04/08(金) 17:19:28

エイジエイジ
(1999/01)
重松 清

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舞台は東京郊外のニュータウン。孤高の秀才・タモツくん、お調子者で悪ガキのツカちゃん、ちょっと気になる相沢志穂、シカトされるバスケ仲間・岡野、ぼくを好きな本条めぐみ、優しい家族に囲まれマジメなぼく…。そんな日常のなか、ぼくらの街で起こった連続通り魔事件の犯人は、クラスメートのタカやんだった。事件に揺れる中学校生活のなかでみつめる、ほんとうの自分とは?14歳、思春期に揺れるいまどきの「中学生」をリアルに描く90年代最後の少年文学。


町中を震撼させる連続通り魔事件の犯人が同級生だったら、14歳の少年たちはどれほどショックだろう。あまりにも重過ぎる気持ちをどこに持っていけばいいのか途方にくれることだろう。そしてさまざまな形になって外に表れるのだろう。被害者に寄り添って考える、クラスメイトである加害者の気持ちになって考える、考えないようにする、などなど。どれもきっと重過ぎるショックを必死に和らげようとする当然の反応なのだと思う。どれが良いとか悪いとかではない。そんな14歳たちの姿がとてもリアルに描かれていて胸を突かれる。センセーショナルに煽り立てるようには書かれていない。むしろ淡々と事実だけが書かれているのだが、それが却って真実味を帯びて苦しくなる。他人事と思って読み過ごすことのできない一冊である。

ステップ*重松清

  • 2009/09/23(水) 17:03:51

ステップステップ
(2009/03)
重松 清

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結婚三年目、妻が逝った。のこされた僕らの、新しい生活―泣いて笑って、少しずつ前へ。一緒に成長する「パパと娘」を、季節のうつろいとともに描きます。美紀は、どんどん大きくなる。


結婚三年目、三十歳で、一歳半の娘を残して妻・朋子が逝ってから、同じく三十歳の健一は、周りの助けを借りながら懸命にひとり娘・美紀を育てることになった。
一歳半から、小学校を卒業する十二歳までの、父と娘の物語である。
カラーの表紙絵を捲って物語を読み始め、途中何度も泣かされながら読み終えて巻末のモノクロのイラストを目にすると、なんともいえない感慨深さが胸に押し寄せてくる。寂しくて哀しくて、やさしくてあたたかい一冊である。

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サンタ・エクスプレス-季節風*冬-*重松清

  • 2009/03/21(土) 16:31:22

サンタ・エクスプレス―季節風 冬サンタ・エクスプレス―季節風 冬
(2008/12)
重松 清

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鈴の音ひびく冬が、いとおしい人の温もりを伝えてくれる。ものがたりの歳時記―「冬」の巻、12編。


表題作のほか、「あっつあつの、ほっくほく」 「コーヒーもう一杯」 「冬の散歩道」 「ネコはコタツで」 「ごまめ」 「火の用心」 「その年の初雪」 「一陽来復」 「じゅんちゃんの北斗七星」 「バレンタイン・デビュー」 「サクラ、イツカ、サク」

言うまでもなく舞台は冬。寒いというだけで、からだは縮こまりそうだが、ここには胸の中をあたためてくれる物語が並んでいる。
微笑ましかったり、少しばかり後悔したり、気に病んだり、不憫に思ったりと、テイストはさまざまなのだが、人が誰かのことを思いやる気持ちがどの物語にもあふれているのである。北風に凍えたからだもほっかほかになりそうである。

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少しだけ欠けた月-季節風*秋-*重松清

  • 2008/12/20(土) 13:46:49

少しだけ欠けた月―季節風 秋少しだけ欠けた月―季節風 秋
(2008/09)
重松 清

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静かな、静かな、ひとりぼっちの月。ぼくたちは明日から、もう家族じゃない。澄んだ光に満ちた秋が、かけがえのない時間を連れてくるものがたりの歳時記―「秋」の巻、12編。


表題作のほか、「オニババと三人の盗賊」 「サンマの煙」 「風速四十米」 「ヨコヅナ大ちゃん」 「キンモクセイ」 「よーい、どん!」 ウイニングボール」 「おばあちゃんのギンナン」 「秘密基地に午後七時」 「水飲み鳥、はばたく。」 「田中さんの休日」

秋の高く青い空をみあげたときの、胸の中を何かが突き抜けるような切なさ、物悲しさが、どの物語にも漂っているような気がする。
言いたいこと、言わなくてはならないこと、近いからこそ言えないこと、わかるからこそ言葉にならないこと。そんな、ほんの少しの後悔と心残りが物語り中に沁み渡っているようである。
それでも、物語の最後には、ぽっと明かりが灯ったようなあたたかさがあって、胸をじんわりとさせるのである。

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気をつけ、礼。*重松清

  • 2008/11/16(日) 16:39:21

気をつけ、礼。気をつけ、礼。
(2008/08)
重松 清

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センセ、オトナには、なして先生がおらんのでしょう。僕はあの頃の先生より歳をとった。それでも、先生はずっと僕の先生だった…。人生で最初に出会う大人、教師との、ほろ苦く、温かい思い出が蘇る感動短篇集。


表題作のほか、「白髪のニール」 「ドロップスは神さまの涙」 「マティスのビンタ」 「にんじん」 「泣くな赤鬼」

どの物語も、教師と生徒の関係を描いたものだが、その関係のありようはさまざまである。担任だったり、保健室の先生だったり、教科担当の先生だったり、部活の顧問だったり。また、リアルタイムだったり、過去を振り返っていたり、大人になって再会したり。状況もさまざまである。
ただ共通しているのは、そこに流れる明るいだけではない雰囲気である。それぞれに、なんらかの負の感情が流れる物語なのである。そして、その部分に揺さぶられるものがあるのも確かである。
人間の弱さや残酷さ、やりきれなさややさしさなど、さまざまな感情を刺激されるような気がする。
いちばん印象深かったのは「にんじん」だった。

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僕たちのミシシッピ・リバー-季節風*夏-*重松清

  • 2008/10/24(金) 18:13:42

僕たちのミシシッピ・リバー―季節風*夏僕たちのミシシッピ・リバー―季節風*夏
(2008/06)
重松 清

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誰より気が合う相棒の転校を前に、僕らは冒険に出かけた──憧れのあの2人組のように。友人を家族を恋人を"思う"12の夏の風景


表題作のほか、「親知らず」 「あじさい、揺れて」 「その次の雨の日のために」 「ささのは さらさら」 「風鈴」 「魔法使いの絵の具」 「終わりの後の始まりの前に」 「金魚」 「べっぴんさん」 「タカシ丸」 「虹色メガネ」

前作と同様、別れの物語が多い。前作の春ゆえの揺れ動く惑いの別れとはやはり少し趣を異にしていて、汗と涙と切なさの別れが多いように思われた。永遠の別れにも、友人との別れにも、そしていままでの自分との別れにも、そのときどきの季節の行事や風景がいつも深くかかわっている。おなじ季節がめぐりくるたびに、別れたものへの想いもまた新たになっていくのだろう。

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ブランケット・キャッツ*重松清

  • 2008/08/16(土) 16:35:16

ブランケット・キャッツブランケット・キャッツ
(2008/02/07)
重松 清

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馴染んだ毛布とともにレンタルされる猫たち。「いま」を生きる人の孤独と猫のしなやかさ。リストラされた父親が家族にささやかな夢として猫を借りてきた「我が家の夢のブランケット・キャット」など、直木賞作家が贈る7つの心温まる物語。asahi.com連載の単行本化。


「花粉症のブランケット・キャット」 「助手席に座るブランケット・キャット」 「尻尾のないブランケット・キャット」 「身代わりのブランケット・キャット」 「嫌われ者のブランケット・キャット」 「旅に出たブランケット・キャット」 「我が家の夢のブランケット・キャット」

二泊三日、生まれたときから馴染んだブランケットとともに貸し出される猫たちと、その借り手たちの物語。貸し出される猫も、借主もさまざま。そして、借りる理由もそれぞれである。にもかかわらず、これらの物語にはどこかおなじような匂いがする。淋しさ、やりきれなさ、心許なさ。そして、このままではいけないと思う気持ちが満ちているような気がする。
さまざまな人の二泊三日の飼い猫になる賢い猫たちは、そんな人間たちの弱さまでをも受け止めて、にゃぁというひと声で背中を押してくれるのかもしれない。猫たちがカウンセラーにも見えてしまう。

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くちぶえ番長*重松清

  • 2008/08/01(金) 17:25:58

くちぶえ番長 (新潮文庫 し 43-10)くちぶえ番長 (新潮文庫 し 43-10)
(2007/06)
重松 清

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小学四年生のツヨシのクラスに、一輪車とくちぶえの上手な女の子、マコトがやってきた。転校早々「わたし、この学校の番長になる!」と宣言したマコトに、みんなはびっくり。でも、小さい頃にお父さんを亡くしたマコトは、誰よりも強く、優しく、友だち思いで、頼りになるやつだったんだ――。サイコーの相棒になったマコトとツヨシが駆けぬけた一年間の、決して忘れられない友情物語。


大人になって作家になったツヨシが、故郷の家の物置でみつけた小学校四年生のころの『ひみつノート』。作家になったときのネタ帳として何でも書き留めていたノートだった。そこには、いつもマコトがいたのだった。
幼いころに父を亡くし、ほかの同級生よりもひと足先に大人になってしまったようなマコトの健気さと、それをしっかり理解できるほどには大人ではなく、かといってまったく無頓着でいられるほど子どもではないツヨシの心あたたまり、ちょっぴり切ない想いのやりとりの物語。
「泣きたいときには口笛を」というマコトの父の遺した言葉が、熱く哀しい。

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ツバメ記念日-季節風・春-*重松清

  • 2008/06/29(日) 13:48:38

ツバメ記念日―季節風*春ツバメ記念日―季節風*春
(2008/03)
重松 清

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記憶に刻まれた"春"は、何度でも人生をあたためる。憧れ、旅立ち、別れ、幼い日の母の面影──温かい涙あふれる12の春の物語


表題作のほか、「めぐりびな」 「球春」 「拝復、ポンカンにて」 「島小僧」 「よもぎ苦いか、しょっぱいか」 「ジーコロ」 「せいくらべ」 「霧を往け」 「お兄ちゃんの帰郷」 「目には青葉」

家族や故郷の存在のありがたさに改めて思いを馳せる物語である。その舞台の季節は春。別れと出会いが、余韻に浸るまもなく訪れる激動の季節ともいえる春が舞台だからこその、家族への思い、故郷への思いが、時に痛みや切なさを伴って描かれている。家族に、故郷に、しばし羽を休めた心と躰は、またあしたに向かって歩を進める力を蓄えているのだろう。
春という、不安定な季節を乗り越えたあとには、立ち向かうしかない夏が待っていようと、変わらない家族や故郷を知ったあとなら、立ち向かえるようになるのかもしれない。
痛くて切なくてじんと胸に沁みる一冊だった。

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カシオペアの丘で 上下*重松清

  • 2008/06/16(月) 07:26:00

カシオペアの丘で(上)カシオペアの丘で(上)
(2007/05/31)
重松 清

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カシオペアの丘で(下)カシオペアの丘で(下)
(2007/05/31)
重松 清

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帰ろう、俺たちの丘へ。
『流星ワゴン』『その日のまえに』、そして――魂を刻み込んだ、3年ぶりの長篇小説。

肺の腫瘍は、やはり悪性だった――。40歳を目前にして人生の「終わり」を突きつけられたその日、俊介はテレビ画面に、いまは遊園地になったふるさとの丘を見つける。封印していた記憶が突然甦る。僕は何かに導かれているのだろうか……(上巻)

大空に輝き続ける命の物語。
未来を見つめ、過去と向き合う。人生の締めくくりに俊介が伝えたものは――。

限られた生の時間のなかで、家族へのこす言葉を探すために、俊介はふるさとへ帰ってきた。幼なじみとの再会を果たし、過去の痛みを受けとめた俊介は、「王」と呼ばれた祖父とともに最後の旅に出る。(下巻)


北海道の真ん中・北都市で育った四人――シュン・トシ・ユウちゃん・ミッチョ――の幼なじみと彼らにまつわる人々の物語。
ゆるされない罪を背負ってしまった人、ゆるされたい自分をゆるせない人、ゆるしたい人、ゆるしている人・・・・・。ひとりで、ふたりで、背負ってしまった重荷は捨て去ることはできないが、あしたのために、そして相手のために、ひいては自分のために、軽くすることはできる。背負ってしまった不幸を嘆き悔やむだけでなく、少しでもあしたにつなげられるようにと思い巡らすそれぞれの姿が印象的である。
そのときどきの決断の仕方で、人はその真価を量られる。どんなに痛々しくても、そのときは逃げ腰に見えたとしても、だれかのために、あしたのために下された決断は芯の強いものなのだと思わされる。
救いのないと思われた物語も、ラストではだれもがそれなりにゆるされ、救われ、あしたに目を向けて歩きだそうとするのである。人はひとりでは生きていけない、ということを身にしみて感じる一冊でもある。

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青い鳥*重松清

  • 2008/05/14(水) 13:36:41

青い鳥青い鳥
(2007/07)
重松 清

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「よかった、間に合った――」

村内先生は中学の臨時講師。言葉がつっかえて、うまくしゃべれない。でも、先生は、授業よりも大切なことを教えてくれる…。いじめ、自殺、学級崩壊、虐待…。すべての孤独な魂にそっと寄り添う感動作。


表題作のほか、「ハンカチ」 「ひむりーる独唱」 「おまもり」 「静かな楽隊」 「拝啓ねずみ大王さま」 「進路は北へ」 「カッコウの卵」 という八つの物語。

連作の鍵は村内先生だが、主役は村内先生よりも村内先生が寄り添う生徒の方だろう。
か行とた行と濁音ではじまる言葉はスムーズに発語できずにつっかえてしまう村内先生。彼がひとつの中学にいるのは、ほんの短い間。事情がある先生の代わりに非常勤という形でやってくる。そして、ひとりぼっちの生徒に黙って寄り添い、見守って、凍った心を解きほぐしていくのである。先生が話すのはたいせつなことだけ。

どの物語も、どの生徒も、抱えきれないものをもてあましてどうすることもできずに、ひとりぼっちで淋しさに溺れそうなのに、精一杯突っ張っているのが見ていて辛い。村内先生が全面的に受け容れ、黙って寄り添っていてくれることで、少しずつ自分で自分を認められるようになり、強張りを解きほぐされていく様を見ていると、自分の中にまで村内先生の言葉が染み入ってくるようで涙が止まらなくなる。
そして、村内先生のあたたかさはもちろんなのだが、自校に彼を必要とする生徒がいることを受け止めて、その子のために彼を呼んでくれる学校のあたたかさもまた想うのである。
それでもなぜか、最後の物語のラストシーンでバスのリアウインドウから手をふる村内先生は、ほんとうにほんとうにうれしそうで、そしてたまらなく淋しそうに見えるのである。

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日曜日の夕刊*重松清

  • 2006/11/23(木) 13:37:36

☆☆☆☆・

日曜日の夕刊 日曜日の夕刊
重松 清 (1999/11)
毎日新聞社

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あなたのサンタが、きっといる
この町の春夏秋冬を 12の短編小説でラッピングした、微笑みの贈りもの

ひさびさに家族全員揃った日曜日の夕方、ちょっと照れくさくなったお父さんが、日曜日には夕刊がないことを知りつつ「えーと、夕刊は…」なんてつぶやいてしまう、そんな気持ちにささやかなエールを贈らせてもらいます。現実の夕刊が哀しいニュースで埋め尽くされているからこそ、小さな小さなおとぎ話を、12編。微笑んでいただくための短編集です。


「チマ男とガサ子」「カーネーション」「桜桃忌の恋人」「サマーキャンプへようこそ」「セプテンバー’81」「寂しき霜降り」「さかあがりの神様」「すし、食いねェ」「サンタにお願い」「後藤を待ちながら」「柑橘系パパ」「卒業ホームラン」

どの物語も、ちょっぴりほろ苦くて、哀しくて、情けなくて、照れくさくて、後悔ばかり。
だが最後には、ほのぼのと微笑が浮かんできて、胸の奥をじんわりあたためてくれる。

1999年出版。日々凄まじいスピードで変化しているように思える世の中も、さほど変わっていないのかもしれない、とも思わされる。それならばことさら急ぐこともないか。

四十回のまばたき*重松清

  • 2006/11/16(木) 17:43:55

☆☆☆・・

四十回のまばたき 四十回のまばたき
重松 清 (1993/12)
角川書店

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彼女は夢を見続ける。
その胎内に小さな生命を宿しながら。
毎年冬を迎えると、まるで冬眠するように眠り込んでしまう少女、耀子。彼女は、素姓のわからない子を宿しながらも少しもためらわずに危険な冬越えを決意する…。疼くような痛みと、滲むようないたわりに満ちた、ロマンティックな再生の物語。


結婚7年目の翻訳家の圭司と大手の広告代理店でデザイナーとして働く玲子の夫婦は、寒くなると「冬眠」する玲子の妹耀子を冬眠の間預かりながら暮らしていたが、事故で妻を亡くし、ほどなく事故のとき不倫相手と別れたばかりだった知らされ、圭司は混乱するが泣くことができない。そんなとき、平素から誰とでも寝る癖のある耀子と関係を持ってしまうが、その年の冬にはやってこないと思っていた耀子は変わらずにやってきて、しかも妊娠しているという。父親は誰だかわからないが。圭司を父親に指名し、妊娠期間と冬眠期間を二人で過ごすことになってしまう。

売れない翻訳家だった圭司が珍しく売れ、時を同じくして妻が亡くなり、義妹は子を孕む。そしてまた、翻訳した作品の作家が来日し、さまざまな事件を起こす。
自分の中でいつも完結していて恐ろしくバランスの良いと言われる圭司と、一見してバランスの悪い耀子や セイウチのような作家。両極のように見える彼らの誰もが 胸のなかに穴を抱えているのだという。その穴をどう扱うかがその人の生き方と言っても過言ではないほどに。圭司の泣けない辛さも、耀子の眠るしかない辛さも、見ていて切ない。
いなかった人がいるようになることを想うことで、未来に小さな光が見えているのが救いである。

「四十回のまばたき」とはアメリカの口語英語で「うたた寝」の意味である。
うたた寝すれば、目覚めたときには、たいがいの悲しみや後悔は多少なりとも薄れてくれるというおまじないのようなものなのだとか。
人の抱える穴が四十回のまばたきの間に少しでも小さく浅くなりますように。

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流星ワゴン*重松清

  • 2006/09/15(金) 17:13:04

☆☆☆☆・

流星ワゴン 流星ワゴン
重松 清 (2005/02)
講談社

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死んじゃってもいいかなあ、もう…。38歳・秋。その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。そして―自分と同い歳の父親に出逢った。時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。やり直しは、叶えられるのか―?「本の雑誌」年間ベスト1に輝いた傑作。


<死にたい>と思ったとき、最終電車が行ってしまった後の駅前に その車――ワインカラーの古いオデッセイ――は現れる。五年前の事故であっという間になくなった橋本さん父子が乗るオデッセイは、乗った人を大切なところまで連れて行ってくれるのだ。
現実は変えようもなく、過去の岐路に戻ったとしてもできることはたかが知れている。だが、知らずにただ通り過ぎるのとは明らかに違う何かが胸の中に生まれるのである。オデッセイから降りてからの現実が サイテー・サイアクだったとしても、心の持ちようがほんの少し変わっているかもしれないのだ。
38歳のカズと中二の息子のヒロ、カズと父親のチュウさん、そして 事故でなくなった橋本さんと健太くん、三組の父と息子の物語である。
親(父親)と息子とは なんと近くて遠い存在なのか、そしてなんと愛(ときには愛ゆえの憎しみ)にあふれた関係なのかと胸が熱く痛くなる。

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