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ラストドリーム*志水辰夫

  • 2009/07/30(木) 19:38:11

ラストドリーム (新潮文庫)ラストドリーム (新潮文庫)
(2007/08)
志水 辰夫

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真っ暗な穴のなかへ落ちてゆく夢を見た。青函トンネルを走る列車で目覚めた時、彼は自分自身を失っていた。あてどなき魂の旅が始まった。ライバルと競った若き時代。徒手空拳で海外事業に挑んだあの頃。少女にいざなわれた炭鉱町の最盛期。そして、妻と過ごしたかけがえのないとき―。時空を行きつ戻りつしながら、男は人生の意味を噛みしめる。大人のための、ほろ苦い長篇小説。


冒頭から穏やかならない。青函トンネルの中で目を覚ました主人公・長渕は、身分を示すものを何も身につけておらず、記憶を失くしているのだった。長渕の出所を探るサスペンスかと思いきや、物語は時間を行きつ戻りつしながら、彼の生き様を、仕事の面から、あるいは妻との関わりの面から描き出すのである。
寂れてしまった炭鉱の町・夕張を意識の底に敷き詰めたことで、懐かしさや寂寞感を漂わせ、ある種のファンタジーのように感じられることもある。さまざまな要素が盛り込まれていて、不思議な読後感の一冊である。

いまひとたびの*志水辰夫

  • 2006/05/11(木) 11:07:57

☆☆☆☆・



泣いた泣けた泣かされた・・・・・
ただ一直線に愛と死を謳いあげる
究極の9短編

向こう岸に歩み去ろうとするあの人。一瞬ふり返って交わす視線と視線。二人で持った心の軌跡が、稲妻のように脳裏を駆ける。もう一度、もう一度だけでも逢うことがかなうなら――。

現代のヒネクレ者・志水辰夫が、一切のケレンを振り払ってド真ん中に全力投球した九つの熱球、九つの感動!
  ――帯より


表題作のほか、赤いバス・七年のち・夏の終わりに・トンネルの向こうで・忘れ水の記・海の沈黙・ゆうあかり・嘘。

人生の終わりがうかがわれるようになり、具体的にもそこが視界に入ってくるようになったとき、人はそれからの時間をどう生きるのだろうか、ということをさまざまな形で見せられた心地がする。
人生を閉じてゆくのは、物語によっては自分であり また親しい人であり、送られる側の覚悟も見送る側の胸の痛みも切ないほど胸に迫ってきて涙がにじむのを止めることはできない。

意外なことに妻が先立つ物語はひとつもなく、これは思いのほか男性のほうが甘えん坊であることの証明のような気もするし 著者の願いによるものかもしれないとも思わされる。

これから未来をいくらでもその手で変えられる若い人たちには実感としてわからないかもしれないが、折り返し地点を過ぎた者には 決して他人事ではなく胸に迫るものがあるだろう。

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