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ライオンハート*恩田陸
- 2003/09/30(火) 17:25:16
☆☆☆・・
なんと表現すればいいのか。
着想にしてからが 尋常ではない。
なんと言っても スケールが壮大。
恩田さんの不思議世界に翻弄されてしまった。
愛の深さ なのだろうか。人の出会いの定めなのだろうか。
夢なのか 現なのか。
行っては戻り 戻っては一足飛びに時を進み そしてまたその時に舞い戻る。
いつも出会い 束の間の至福に浸り 引き裂かれ 出会いを渇望する。
思考は 唐草模様のように 絡まってしまう。
ライオンハート
いつか記憶からこぼれおちるとしても*江國香織
- 2003/09/27(土) 17:20:08
☆☆☆・・
同じ女子高に通う 女の子たちによって語られるハイティーンな季節。
学校にいる時の顔。友達と一緒の時の顔。家族といる時の顔。そのどれとも違う顔。
一人の少女は いろいろな顔を持ち、他の少女に対しても様々に評価をする。
そんなの当たり前じゃなぃ?という風に
きわどくすらあることを さらっと書いてくれちゃう江國さん。
彼女特有な ジェリィの海に浸かっているような時間の流れに蕩いながら
それでも ズキリと胸のどこかを刺された。
いつか記憶からこぼれおちるとしても
明日に手紙を*赤川次郎
- 2003/09/25(木) 17:21:31
☆☆☆・・
久々の赤川作品。
これでもかと言うほど 次から次へと事件が起き、巻き込まれ、翻弄される。
胸を塞ぐようなシリアスな事件がこれだけ一度に起きているにもかかわらず
重くならないのは 赤川さんの描く人物が 本質的に【善】な性質だからかもしれない。
悪役は悪役なりに だらしない奴はだらしない奴なりに みんな憎めないキャラクター達。
現実離れしている設定も多々あるが 「もしかしたら 有り得るかもねぇ」と
思わせてくれちゃうのが赤川流か。
どんな事態に巻き込まれても ひねくれることのない登場人物たちが好き。
明日に手紙を
催眠術師*清水義範
- 2003/09/19(金) 17:18:56
☆☆☆☆・
自分が 催眠術にかかっていない と自信を持って断言できなくなりそうだ。
催眠術 という言い方ではなくとも 巷は 巧みな心理操作で満ち溢れている。
自分だけは大丈夫 と言う人ほど 既にもうなんらかのコントロールを受けているのかもしれない。
自分とは何だろう。
精神を司るとはどういうことだろう。
ふと 背すじが寒くなるが 考えると自分が存在し得なくなりそうなので 考え過ぎないことにする。
催眠術師
11月そして12月*樋口有介
- 2003/09/17(水) 17:16:47
☆☆☆・・
晴川柿郎(シロウ)
高校を中退し、大検を受けて入った大学も中退し
自分が生きている意味を見つけられずに 居場所を探して 日々生きている 22歳。
11月のある夕方 【高田馬場一丁目公園】で 山口明夜と偶然出会った。
変わり映えのしない毎日が それから急に忙しくなった。
そんな11月そして12月の物語。
樋口さんの描く季節感や風景は 私をそのまま本の中に連れて行ってくれる。
時に情けなく 時に繊細で 時に独断的で たいていは頼りない柿郎と一緒に
いつのまにか 歩き回っている私を見つける。
それにしても 姉の喜衣をはじめとして 柿郎と明夜以外の人々の なんと自己中心的なことか。
現実に 隣にいたら 眩暈にかこつけて 思い切り足を踏んづけてやりたい。
11月そして12月
ラッシュライフ*伊坂幸太郎
- 2003/09/15(月) 17:15:59
☆☆☆☆・
交錯する十余の人生
併走する五つの物語
バラバラに進む五つのピースが
最後の一瞬で一枚の騙し絵に組み上がる
タイトルの【ラッシュ】は
lash でもあり lush でもあり rash でもあり rush でもある。
そして キーワードは【神さまのレシピ】
人生と言う一本の紐が あちこちに伸び 時に結び目を作り また伸びる。
伸びた先で また結び目を作り さらに伸び また結び目を作る。
何本もの紐が 結ばれ合い 小学校の校庭にあった 地球儀 という遊具のような形を成す。
バラバラだったものが いつしか ひとつの形に向かっているのに気づく時
神さまのレシピに 胸が震える。
ラッシュライフ
悪意*東野圭吾
- 2003/09/13(土) 17:13:01
☆☆☆☆☆
またまた すっかりやられました。東野マジック。
裏の裏の裏を読むつもりで 自分なりの推理を組み立てながら読むのですが
今回も 見事に何度も裏切られました。
この裏切られ感が強いほど 惹かれてしまうのですが。
裏表紙に書かれたあらすじはこんな風
人気作家が仕事場で絞殺された。
第一発見者はその妻と昔からの友人。
逮捕された犯人が決して語らない動機に
はたして「悪意」は存在するのか。
いやいや あらすじからは計り知れないほど 奥が深い。
悪意
図書室の海*恩田陸
- 2003/09/12(金) 17:10:56
☆☆☆・・
表題作を含む 10篇の短篇集。
遺伝子の隙間、記憶のひだには 何が埋もれているかわからない。
デジャ・ヴ とは 遺伝子の記憶なのだろうか。
終わりのない合わせ鏡を覗き込んでしまったような
いい加減に終わらせたいのに もうひとつ奥の鏡を覗き込んでしまうような
ちょっぴりぞくっと恐ろしい物語たち。
図書室の海
海泡(かいほう)*樋口有介
- 2003/09/10(水) 17:08:58
☆☆☆☆・
小笠原 という 東京都でありながら 船で二十六時間も隔てられている いわば閉ざされた空間。
いつも通りののんびりとした亜熱帯の風景、代わり映えのしない日常、不自由さ。
その中に外から持ち込まれた厄介事。
言ってしまえばそんな話なのだが それだけではない。
閉ざされた世界には 閉ざされているが故に抱える 憂鬱さがあり 諦めがある。
島の風景描写が語る 長閑さと倦怠と退廃、そして たくましさは 魅力に富んでいる。
目新しくはない事件が この島ならではのスパイスで 一風変わった風味になっている。
樋口有介氏には 一作読むごとに 惹かれてきている。
海泡
シナプスの入り江*清水義範
- 2003/09/08(月) 17:06:41
☆☆☆・・
著者のあとがきに
なるべく多くの読者に私が抱いたような不安を味わわせたい、
というたくらみを持って書いた。
それが多少なりともうまくいっていて、
読んだ人がふと自分の存在に不安を感じてくれれば嬉しい、
と あるが、まさに まんまと著者の術中に嵌ってしまった。
人間の脳の働きの摩訶不思議さ。
記憶の不確かさ。
記憶と存在の関連性。
いろんなことが 頭の中で渦巻いて メビウスの帯のようなシナプスの入江に
迷い込んでしまったようだ。
今 この私は 存在しているのだろうか。
シナプスの入江
重力ピエロ*伊坂幸太郎
- 2003/09/07(日) 14:27:33
☆☆☆☆・
春が二階から落ちてきた。 で 始まり
春が二階から落ちてきた。 で 終わる物語。
初めの 春は~~ では ん??????と思わせられ
最後の 春は~~ は涙の中で頷いていた。
読後感を どんな言葉で表わせばいいのか 正直言うと 迷っている。
ただ 暗く重いテーマに沿って物語が進んでいるにもかかわらず
あふれる涙は あたたかく 登場人物を包み込みたくなるような
反対に 包み込まれたくなるような 妙な満足感に包まれている。
本の帯に 大きく書かれた 担当者が思わず叫んだという一言
「小説、まだまだいけるじゃん!」*
まさにその通りを ぼそっとつぶやきたい気分。
ピエロは重力を忘れさせるために、メイクをし、玉に乗り、
空中ブランコで優雅に空を飛び、時には不恰好に転ぶ。
何かを忘れさせるためにだ。 (本文より)
重力ピエロ
リアルワールド*桐野夏生
- 2003/09/06(土) 14:23:48
☆☆☆・・
母を金属バットで殴り殺して逃げている 有名進学高3年の少年。
そして 彼の隣に住む 偏差値的にはたいしたことない私立女子高3年の少女と
その仲間たちの長い夏休み中の物語。
【リアル】って一体なんだろう?と考えさせられた。
合わせ鏡のように リアルの中にはまた別のリアルがあり
その奥には また違うリアルがあり...どこまでも限りがないような。
今時の高校生言葉には 失笑するしかないけれど
それはある種 擬態のひとつかもしれない。
人が いつでもどこでも 【ありのままの自分】でいられるならば
犯罪は 今よりも減るのかもしれない。
自分を作って生きる場が多すぎて(というかそれしかなくて)
そもそも自分とは何だったのかを 人は忘れてしまうのかもしれない。
印象に残ったのは テラウチ の言葉。
本物の「取り返しのつかないこと」というのは、永久に終わらなくて
ずっと心の中に滞って、そのうち心が食べ尽くされてしまう恐ろしいことだ。
リアルワールド
月の光*岩橋邦枝
- 2003/09/04(木) 14:22:26
☆☆☆・・
遠い幻のような
むかしの恋
夢想の恋人に
心ときめく今 (表紙帯より)
若い頃には 顧みなかった人間関係。
甘酸っぱい恋の記憶。
老いてゆくに従って その時とは違った様相で心に上ってくることがある。
躰の老い 必ずしも 心の老いにあらず。
そんなことを 改めて思う。
それが好いことなのか 厄介なことのか 今後 この身で確かめるしかないだろうけれど。
誰にでも訪れる 老い というものの 切なさを感じる。
月の光
予知夢*東野圭吾
- 2003/09/03(水) 14:21:05
☆☆☆・・
草薙刑事と湯川博士が謎を解明する短篇集
それぞれのタイトルが 示唆に富んでいる。
夢想る――ゆめみる
霊視る――みえる
騒霊ぐ――さわぐ
絞殺る――しめる
予知る――しる
オカルト的な謎に満ちた事件を解くカギを いとも容易く見つけてしまう湯川先生。
淡々としたキャラクターが 魅力的。
科学的に解けない謎はない・・・と思わせておいて
最後の最後に ぞくっとさせてくれるのも 東野さんならでは でしょうか。
けれど 東野さんは やはり長編で じっくり楽しむのが 私好みですね。
予知夢
花あらし*阿刀田高
- 2003/09/01(月) 14:19:51
☆☆☆・・
表題作を含む 12篇から成る短篇集。
不思議なことは 身のまわりに普通にあるのに
普段は気づかずにいるだけなのかもしれない、と思わせられる。
少しだけ 斜に構えてみただけで 見えてくるものは 全く違うのかもしれない。
なんでもないと思ったことが 実は不思議極まりないことだったり
不思議で仕方のないことが ほんの小さなヒントで なんでもないことになったり。
この世で真に奇妙なのは 人間の判断力の不確かさかも。
花あらし
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