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きみの知らないところで世界は動く*片山恭一
- 2003/11/30(日) 08:11:05
☆☆・・・ きみの知らないところで世界は動く
ぼくとカヲルとジーコの少年時代の3年間。
ぼくとカヲルの恋愛に ちょっと不思議な自己世界を持つジーコが絡む青春小説
かと思わせる導入部を裏切る形で 途中から 自分を見つけられない若者たちの話に。
必然性など求めることは 無意味なのかもしれないけれど
カヲルの病気もジーコの死も その意味が うまく胸に沁みてこない。
心に残った一言は 物語の終わり近くでカヲルが呟く台詞。
「ほんとうはもう治ってるの」
「治ろうと思えば、いつでも治ることができるの。
でも病気が治ったからといって、幸せにはなれないもの」
黒と茶の幻想*恩田陸
- 2003/11/28(金) 08:08:17
☆☆☆☆・ 黒と茶の幻想
目の前に、こんなにも雄大な森がひろがっているというのに、
あたしは見えない森のことを考えていたのだ。
どこか狭い場所で眠っている巨大な森のことを。
学生時代の同級生だった利枝子、彰彦、蒔生、節子。
卒業から十数年を経て、4人はY島へ旅をする。
太古の森林の中で、心中に去来するのは閉ざされた『過去』の闇。
旅の終わりまでに謎の織りなす綾は解けるのか・・・・・? (帯より)
利枝子・彰彦・蒔生・節子 それぞれがひとつの章を成す。
日常を離れ、利害関係を離れた太古の森に分け入った時
それぞれの胸に甦ったものは 過去に閉じ込めて置き去りにしてきたものだった。
意識的にか無意識にか記憶の扉に鍵をかけたまま 目を逸らしつづけてきたもの。
神秘の森は その扉の鍵を開けたのだ。
淡々としながらも 惹きつけて止まない人物描写。
それぞれが なんと人間的であり魅力的なことか。
生きてゆく上での真理 とでも言えるような表現が 少しの気負いもなく
極ごく自然にそこここに散りばめられているのもさすがである。
619頁 という大作にもかかわらず ずんずん惹き込まれるままに あっという間に読み終えてしまった。
13ヵ月と13週と13日と満月の夜*アレックス・シアラー
- 2003/11/25(火) 07:51:50
☆☆☆・・ 13ヵ月と13週と13日と満月の夜
ティーンエィジャー向けのお話しなのかもしれませんが
タイトルが魅力的で手に取ったもの。
主人公は12歳の赤毛でそばかすのおしゃべりな女の子。
その身に 信じられないような奇想天外な事が起こる。
10代向けには いろいろ教訓も織り込まれていると言えよう。
読後感は 胸の中に暖かいものが流れる感じ。
我が子たちの胸に その若い躰や健康や 家庭に 当然のように戻れることに感謝する気持ちが流れることを願う。
バカの壁*養老猛司
- 2003/11/24(月) 07:49:43
☆☆☆・・ バカの壁
【バカの壁】とはどんな壁か?
それは 脳に入ろうとする情報の前に 自ら築き上げている【知ろうとしない壁】のことである。
巷で一般的と思われていることも いつのまにか誰かに都合よく歪められたものであるかもしれず
確固たる風に見えていることも 視点を少しずらして見ると 全く逆のことだったり。
人間として生きていく上で 何が本当に大事なことかを考え直すきっかけになる一冊ではないだろうか。
目次を見るだけで 興味をそそられる。一例をあげると
「話せばわかる」は大嘘
「わかっている」という怖さ
感情の係数
脳内の「リンゴ活動」
忘れられた無意識
人間の常識
陰の季節*横山秀夫
- 2003/11/23(日) 07:48:23
☆☆☆・・ 陰の季節
警察を 内部の目で書いた作品。
しかも ポストや利権を巡るさまざまな駆け引きや葛藤を書いているのが興味をそそられる。
警察という閉ざされた【村】の中で職務に燃える警察官がいる一方
何とかして這い上がろうとする肩書き至上主義者が存在し
そこまで極端でなくとも 出世のために何がしかを犠牲にせざるを得ない苦悩も描かれている。
どこの社会でも 登りつめる為の争いは同じかもしれないが
舞台が市民の安全を守るべき警察署の内側だということが 興味深い。
ある場面 あるいは言葉によって 仕掛けの謎が閃く所は 何度読んでもドキッとする。
プラナリア*山本文緒
- 2003/11/22(土) 07:47:53
☆☆☆・・ プラナリア
「プラナリア」 「ネイキッド」 「どこかではないここ」
「囚われ人のジレンマ」 「あいあるあした」 の5編からなる。
人生の途中で メインストリートをはずれ 横道に入り込んでしまったような
憂鬱と倦怠感を抱えた女性が それぞれの物語に登場する。
身近にいたら 逃げ出したいような嫌な人物だったりするのだが
不思議と 心底憎めず 気持ちを寄り添わせてしまったりもする。
取り立てて【コレ】を語る、という気負いなく日常を語る著者の柔らかな文章のせいもあり
するりと気持ち好く読み進めてしまうが 考え始めると 底なし沼にはまるかもしれない。
六の宮の姫君*北村薫
- 2003/11/17(月) 07:45:46
☆☆☆・・ 六の宮の姫君
大学4年生の《私》は、出版社でアルバイトをしながら卒論に取り組む。
テーマは「芥川龍之介」。
大作家から芥川の謎めいた言を聞かされ、調べを進めていくのだが・・・・・・ (帯より)
出版社のアルバイターとして訪れた大作家からもたらされたひと言。
芥川が自らの作品『六の宮の姫君』について語ったという言葉。
《あれは玉突きだね。……いや、というよりはキャッチボールだ》
の謎を解き明かすべく 主人公が文献に当たり 想像を巡らす物語。
落語家で大学の先輩でもある 春桜亭円紫さんからのヒントも絶妙で どきどきしてしまう。
謎解きを円紫さんに任せず 主人公の《私》にさせたことで 読者も一緒に謎を解き明かしているようなスリルを味わえるのではないだろうか。
芥川龍之介・菊池寛他 その時代の作家達に興味のある人には 別の興味も盛りだくさんである。
まどろむ夜のUFO*角田光代
- 2003/11/16(日) 07:43:17
☆☆☆・・ まどろむ夜のUFO
異次元の世界に魅かれる若人たちの 幸福なコミューンを描く
(帯より)
ごく普通の日常を過ごしながら ここでないどこかに思いを馳せる若者たち。
あるかもしれないし ないかもしれない場所に 魅せられ そこに何かを求める。
現実から逃げているわけでもなく 未来に失望しているわけでもない。
ほんの 些細なきっかけで ひょいっと捻じれたリボンの裏側に出てしまうかもしれない
異次元の世界と表裏一体の所に 誰でもがいるのではないかと思わせられる。
リボンの裏側を歩き出したことに 気づいていないだけで もうすでに ここは昨日までのこことは違う場所なのかもしれない ・・・なんて。
プラネタリウムのふたご*いしいしんじ
- 2003/11/15(土) 07:41:42
☆☆☆・・ プラネタリウムのふたご
どこか遠いある村の プラネタリウムで生まれた 双子の男の子の物語。
ひとりはプラネタリウムの解説員になり もうひとりは ふとしたはずみから手品師になる。
遠く離れた場所で さまざまな出来事に出会う二人。
ちょっと不思議で ちょっぴり怖く わくわくどきどきして ほゎんとあったかくなる。
そんなお話し。
みみをすます*谷川俊太郎
- 2003/11/14(金) 07:40:15
☆☆☆☆・ みみをすます
すべてひらかなで書かれた詩集。
「みみをすます」「えをかく」「ぼく」「あなた」「そのおとこ」「じゅうにつき」
むずかしい言葉など ひとつも出てこない。
図書館の児童書のコーナーに置かれているくらいなので 小さい子どもにも理解できる。
それでいて あぁ この深さはなんということだろう。宇宙の真理とでもいう風な。
ひとたび触れると これ以外でなどあり得ない と思わせられてしまう。
言葉に決して溺れることなく 過不足なく伝えることが これほどまでに気持ちの好いものだということに 改めて感嘆。
明日という過去に*連城三紀彦
- 2003/11/09(日) 07:38:49
☆☆☆・・ 明日という過去に
一言でいってしまうと 往復書簡という形を取った女のたたかい。
終始 柔らかで穏やかな言葉遣いで綴られた二人(一時的には三人)の女の手紙のやり取りなのだが
その内容たるや 四次元方程式にもにた男女の関係の中での静かで激しい闘いそのものなのだ。
真実らしく語られた手紙の内容が「嘘でした」のひと言で何度覆されることか。
結局何が言いたいのか 最後までよく判らないままだった気もするし
途中 これもまた嘘なのぉ~ と笑い出したくなってしまうことがなくもないが
結局 女なんて いや人間なんて 薄い一枚の仮面の下に 何を仕舞いこんでいるか想像もつかない ということなのだろう。と 筆者が見たら溜息をつくかもしれない自分なりの納得の仕方で読了(笑
人間の幸福*宮本輝
- 2003/11/08(土) 07:37:24
☆☆☆・・ 人間の幸福
昼間の道端、金属バットで主婦が撲殺された。
それまで 悪意のないありきたりな日常を繰り返していた近所の住人達に起こったことは?
犯人探しがメインではなく 犯人がわかるまでの人々の心の中の渦巻きが興味深い。
明確な悪意を持っていない人間達同士が どうして互いに傷つけ合うのか。
ささやかな幸せを守ることに汲々とするあまり 他者に対して狭量になっていくのは何故なのか。
幸福とは一体何なのだろう。
サンタクロースのせいにしよう*若竹七海
- 2003/11/06(木) 07:36:15
☆☆☆・・ サンタクロースのせいにしよう
真っ青な表紙に白と赤の文字&素朴なサンタの顔・・・という見かけと タイトルに惹かれて手にした一冊。
劇画タッチのオムニバス 7編。
普通に考えるとあり得なさそうな人物設定や状況設定なのに
なぜか許せてしまうのは 登場人物たちに悪意がないからかもしれない。
謎解きのキーパーソンは 彦坂夏見。彼女だけが ハチャメチャ騒動を外側から眺めている。
絡まった謎がスルリと解ける時の 発想の逆転にうなずかされる。
OUT*桐野夏生
- 2003/11/04(火) 07:34:57
☆☆☆・・ OUT 上 講談社文庫 き 32-3
弁当工場の夜勤パートの主婦が夫を殺す。
パート仲間が彼女を庇ってしたことは...
どこまでも救いがなく 鬱々と暗い話である。
舞台が夜勤という 闇の中であるということさえ 象徴的に思える。
人が人としてあるまじきある境界を越える時。それはどういう時なのだろう。
満たされぬものを抱えた独りの人間が それを越えるのは 案外あっけないものなのかもしれない。
隣に住んでいても 全くおかしくないような、もっと言ってしまえば
自分かもしれないような主婦達が抱える 心の闇。
読み進むに連れ 逃れられなくなり 引き込まれながらも 暗澹たる気分にさせられる。
透明な一日*北川歩実
- 2003/11/01(土) 07:33:02
☆☆☆・・ 透明な一日
多重の謎と驚愕の真相。これぞミステリの醍醐味
(帯より)
交通事故で 事故以降のことをほんの短期間しか覚えていられないという 前向性健忘症になった脳科学者 竹島。
彼にとって それからの日々は 毎日が同じ一日の繰り返しだった。
竹島の娘千鶴と 不思議な因縁で結ばれた婚約者幸春、竹島を取り巻く人々 の妄想としか思えない推理から 見えてきたものは 誰もが思いも寄らないものだった。
親子とは何だろう。いちばん不幸せなのは誰だったのだろう。
真実を全て知ることが 果たしていちばんいいことなのだろうか。
疑問は次々に湧いてくる。
物語の終わり 竹島に訪れた新しい一日。この先に僅かでも光があることを願う。
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