みみずくの夜メール*五木寛之

  • 2003/12/28(日) 08:32:29

☆☆☆・・   みみずくの夜メール

朝日新聞の朝刊に連載されていたエッセイをまとめた一冊。

 四〇年にわたるもの書き生活のなかで
 これほど自分の素顔をさらけだしたエッセイは
 なかった、と思う。
 (著者より)

という言葉のとおり 生活者としての五木寛之さんに会える気のするエッセイの数々だ。
身の置き所にちょっぴり困って はにかむように微笑む五木さんが ふとその辺りに立って
読みながら ふふふんと笑ったり じぃんとしたりする私を 眺めているような気になってしまう。

頑固で柔軟。天邪鬼で素直。大作家で普通の人。そんな五木さんを愉しめる(失礼)はず。

ゆっくりさよならをとなえる*川上弘美

  • 2003/12/28(日) 08:31:19

☆☆☆・・   ゆっくりさよならをとなえる

川上さんの身の丈のあれこれが綴られたエッセイ集。

日を追ってはいないが 日記のようにも読める。
その日常や ものごとの捉え方が 近しい感じがして 好感が持てる。
そして 食べ物に関する記述も多く出てくるのだが
どれも たいそう美味しそうに書かれていて 食べることを大事にする人なのだと
しあわせな心持ちになる。出てくるものが たとえ贅沢なものでなくとも。

ぺたぺたとビーチサンダルで 近所の路地を歩いていそうな川上さんの生活感覚が好もしい。

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アーモンド入りチョコレートのワルツ*森絵都

  • 2003/12/25(木) 08:30:08

☆☆☆・・   アーモンド入りチョコレートのワルツ
またもや児童書。
シューマン<子供の情景>
バッハ<ゴルドベルグ変奏曲>
サティ<童話音楽の献立表(メニュー)>
という 3つのピアノ曲の調べから生まれた3つの物語たち。

10代を始めたばかりの少年少女が 大人への階段を一段上るような
危なっかさや 不器用さや ほろ苦さが ピアノの調べから立ちのぼってくるような。
懐かしい匂いのするページたち。

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ショート・トリップ*森絵都

  • 2003/12/24(水) 08:29:03

☆☆☆・・   ショート・トリップ

またもや児童書です。

たくさんのショート・ショートたちに連れられて ほんの短い旅に発つような一冊。
ほんゎかするものあり、ブラックなものあり。
連れられて行く先もさまざま。

長崎訓子さんの挿絵も 小さな旅にぴったりです。

イヴの満月*澤田徳子

  • 2003/12/23(火) 08:27:41

☆☆☆・・   イヴの満月

児童書です。

タイトルや小見出しに惹かれて。
1) 夢をみては泣き、泣いては夢をみる
2) 鼻ピアスがやってくる
3) 今夜は満月なんだぜ
4) サンタクロースの心
5) すべてはそこから始まる

ちょっとした悪ふざけが元で 大事なママを死なせてしまったユウ。
ユウの心の闇に胸を痛める兄ケイ。

悲しくて 痛ましくて いじらしくて あたたかくて 感動的。
読後は 胸の中に あたたかなものが満ちてくる。

お風呂の中で読みながら 目の前がぼやけて霞んで しあわせ感に包まれた。

あるようなないような*川上弘美

  • 2003/12/23(火) 08:26:28

☆☆☆・・   あるようなないような

あるようなないような心持ち。
あってもいいけれどなくても構わないような事ごと。
そんなものが 力まず当たり前に自然に綴られている。

自分と極めて近しい価値観や視点を 著者に見つけ 嬉しくなったりもする。
SMAPの「夜空ノムコウ」に抱いた 居心地の悪さなど
よく言ってくれた と 拍手したいほどだった。
ただ 私は 良しとしきれず 今尚 抵抗し
――あれから僕達は何かを信じてこラれたかなぁ――
と 字余りにして歌うのだが。

青の炎*貴志祐介

  • 2003/12/20(土) 08:23:15

☆☆☆・・   青の炎

家族を護るため 最後まで護り切るために 完全殺人を目論む高校生の少年の物語。

理由はどうあれ 動機がどうあれ 越えてはいけない一線があることを 切なさと共に思い知らされる作品。

自分が手を染めたあらゆることは 様々に形を変えて 一つ残らず自分に帰って来るのだ。
この種の作品には 犯人側に罪があるのが明白でも つい 犯人側の思いに立ってしまいがちなものが多いが この作品では 何故か 少年の心に寄り添うことができずに読了した。

何故だろう?と考えを巡らしてみたが はっきりとした答えは見つけることができなかった。
ただ 【母と妹を護るため】という 動機と思考に なんとなく 綺麗事過ぎる欺瞞を感じたからかもしれない。

犯行前のシミュレーションでは 計り知れなかった重圧に苦しむ少年は それでもまだ 相当の罰を受けたとは言えないのだとも思う。

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永遠の出口*森絵都

  • 2003/12/18(木) 08:21:49

☆☆☆・・   永遠の出口

<永遠>という響きにめっぽう弱かった ひとりの少女の <永遠>の出口探しの物語。
と、ひと言で言ってしまえば そうなのだろう。

過ごした時代はまるで違うのに なぞったように自分と似ている中学生時代の風景。
通り過ぎてきた者だからこそ 「そぅそぅ そぅだったのょ」と頷くことのできる事ごと。
そして 私が そしてあなたが選ばなかった もう一本の道。
かつて子どもであった大人が、かつて同じことを願う子どもだった大人が
捨ててきてしまったものたち。なぜ捨てたのか いつ捨てたのか わからないうちに。
幼い者の脆弱さと捨てていないからこその無茶な強さ。
囁きのひとつひとつが 胸に痛い作品だった。

 正直、彼女は怖かった。
 けれど紫のラメで縁取られたその瞳は私だけを見つめ、
 その言葉は私だけにむけられていた。


鼻の奥がつんとして 胸の奥がずきんとした。

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サンタクロースの嘆き*赤川次郎

  • 2003/12/15(月) 08:20:45

☆☆☆・・   サンタクロースの嘆き

赤川作品の登場人物は それが犯罪者だとしても 【いい人】である場合が多いのだが
この作品には それに当てはまらない人物が 二人出てくる。

一章おきに 二つの違う話が進行してゆき 最後にひとつの物語になるのだが
それを繋げる役割をしているのが この【いい人】に当てはまらない二人なのだ。

舞台設定はあまり現実味があるとは言えない アニメっぽいとも言えるものだが
他の作品と同様 赤川さんの描く少女は なんとも魅力的だ。

深追い*横山秀夫

  • 2003/12/14(日) 08:19:20

☆☆☆・・   深追い

短編集
 |深追い
 |又聞き
 |引き継ぎ
 |訳あり
 |締め出し
 |仕返し
 |人ごと

 「愛」と「毒」に満ちた警察小説が書きたかった

と 著者自身が言っているように 警察という機構とその中で生きる警察官の話である。
あることに出遭った時の瞬時の判断力を問われる警察官。
非情であることを求められることの多い警察官。
そんな中で日々生きる警察官自身の「情」や「欲」を描いて見事である。

【組織ぐるみ】という単語がふと頭をかすめる。
民間人には想像もつかないほどの 保身意識がそこにあることも間違いないようだ。

不安な童話*恩田陸

  • 2003/12/12(金) 08:18:09

☆☆☆・・   不安な童話

各章につけられた 副題を眺めるだけで そこはかとない不安定さを感じさせる。
こんな具合。

|【第一章】遠い海への道のりは、ある日、突然に始まる

|【第二章】海に向かう道は、長くねじれている

|【第三章】すべての道が、海につながっているように見える

|【第四章】中には、海を見ずに終わるものもいる

|【第五章】海に続く道


一世を風靡し 刺殺という理由で 瞬く間に消え去った 美貌の画家にまるわる物語。
ある特殊な能力を持つ女性が 美人画家の生まれ変わりではないかと疑われる所から物語は始まる。

人の向こう側に 実際には見えないものを見てしまう不安をはじめとして
この作品には 読むものの不安を掻き立てる何かがある。
思い出しそうで思い出せないこと。そしてそれは なんとなく嫌な予感のすることなのだ。
スッキリしたいと思わせながら どんどん不安に引きずり込まれてしまう。

記憶・潜在意識・刷り込み
キーワードは そんなところだろうか。

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第三の時効*横山秀夫

  • 2003/12/11(木) 08:16:45

☆☆☆・・   

6篇の中篇から成る。
・沈黙のアリバイ
・第三の時効
・囚人のジレンマ
・密室の抜け穴
・ペルソナの微笑
・モノクロームの反転

タイトルを見渡しただけで 早くも興味津々。

アリバイ崩し 謎解きはもちろんのこと
警察内部、ことに捜査一課 強行班内部の熾烈な手柄争奪戦を描いて見事である。
しかも 競い合う者同士の 一筋縄では行かない個性――人としても犯人を追うものとしても――
の魅力には 抗いがたいものがある。
捜査の仕方然り、部下の扱い方然り、被害者との接し方然り、犯人の落とし方然り、である。

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模倣犯 上下*宮部みゆき

  • 2003/12/08(月) 08:15:11

☆☆☆☆☆   模倣犯〈下〉

なぜ【模倣犯】なのか?最後の最後でやっと答えが判った。
それが、それこそが、その言葉こそが 真犯人の鎧の裂け目だった。
なんと象徴的なタイトルだろう。

とてもフィクションとは思えない 細部まで練り上げられた人物像。
けれど それとは裏腹に フィクションだと思えばこそ向き合える数々の場面。

どの登場人物もが それぞれに重要な役割を成し、なくてはならない人物として描かれている。
その時文章に登場していなくても どこかで確実に生きて(死んでいる場合もあるが)いることを疑わせないのだ。
著者の 人は どんな人もその人であるというそれだけで重要なのだ という思いを見る気がする。

そして 被害者の一人 古川鞠子の祖父 有馬義男。この物語の中で 彼の果たす役割はとても大きい。
彼がいなければ 真犯人の書くシナリオは 少なからず違ったものになっただろう。
著者が 最後に彼に真犯人に向けてこう語らせたのも その存在の大きさ故ではなかっただろうか。
私の胸に じんじんと沁み入ってきたように 真犯人の胸にも沁みただろうか。沁みて欲しい。

「~~~。本当のことっていうのはな、XX。
 あんたがどんなに遠くまで捨てにいっても、
 必ずちゃんと帰り道を見つけて、
 あんたのところに帰ってくるものなんだよ」

とるにたらないものもの*江國香織

  • 2003/12/02(火) 08:14:03

☆☆☆・・   とるにたらないものもの

なんとなく感じていても わざわざ言葉にしてみることのなかったものやことたち。
そんな もゎもゎした感じに 言葉を与えて目の前に差し出してもらったような。

ひとつひとつは 改めて言葉にしたり形を与えたり知ったりしなくても 一向に困らないし 役に立ったりすることもないものごとなのだけれど つい「うふふ」と懐かしさに頬を緩めてしまったりするのだ。

たとえばそれは ケーキが好きなわけ…とか
固ゆで卵に対する憧れ…とか ね。

あぁ、私だけじゃなかったのね。という感じ。

私たちの毎日は とるにたらないたくさんのものやことからできているのだと
とてもやさしい気持ちで思わせてくれる一冊。

みどりいろの文字が 目にもやさしくて。

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真相*横山秀夫

  • 2003/12/01(月) 08:12:57

☆☆☆☆・   真相

真相・18番ホール・不眠・花輪の海・他人の家
からなる 中編集。

どの作品にも 人間の気持ちというものの 脆さ 身勝手さが 解り過ぎるほどに描かれている。
自己中心的な心の動き。そして それを非難し蔑む気持ち。
両方を併せ持つのが 人間と言うものだろう。
おそらく 誰でもが経験したことがあるだろうと思われる心の揺れを
見事に目の前に広げて見せてくれる。
泣かせる作家である。