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Maze*恩田陸
- 2004/01/31(土) 08:18:51
☆☆☆・・
MAZE
神原恵弥(めぐみ)シリーズ(?)第一弾。
これに続くのが 以前感想を書いた『クレオパトラの夢』
どこをどうしたら こんなに壮大な計画を思いつくのだろうか?恩田さんは。
世界規模の背筋が凍るような計画を 七日間のバカンスもどきに描いてしまえるのも 作者の発想の大きさ――幅も奥行きも――なのだろうか。
目から鼻に抜けるような容姿端麗な中年男性であるのに 女言葉を違和感なく使う恵弥と まるで便利屋のようにこの物語に配されながら 切れのよさをいたるところで覗かせる満のキャラクターが この物語の恐ろしさを和らげているのだと思う。
それにしても この作品が刊行されたのは 2001年。
2004年の今 実際にないとは言い切れない薄ら寒さを感じるのは 私だけだろうか。
絶対音感*最相葉月
- 2004/01/30(金) 08:17:28
☆☆・・・
世間で言われている 絶対音感神話 は本当なのか?
絶対音感とは そもそも何なのか?
様々な角度から 何人もの音楽家の実体験から 検証し 見直している。
絶対音感は音楽家にとって必要不可欠なものなのだろうか?
そもそも絶対とは何に対する絶対なのか?
今まで深く考えもせずに曖昧な概念を持っていた【絶対音感】というものを
再認識させてくれる一冊である。
自分なりの結論としては
限られた絶対音感――表現としては矛盾しているが 読むと理解できる――を持つならば 幅のある【ダイタイ音感】を持ちたい、ということである。
他の数多の物事とたがわず 音楽に於いても 中心にあるのは 生身の【人間】なのである。
デッドエンドの思い出*よしもとばなな
- 2004/01/28(水) 08:15:45
☆☆☆・・
あとがきに 何ひとつ身に起きたことなど書いていないのに いちばん私小説らしい小説だ と書かれている。過去のつらかったことを全部清算しようとしたのか とも。
確かに出来事としては 辛いことばかり描かれているのだが
読者は一緒になって辛い気分にはならないと思う。少なくとも私はならなかった。
なぜかというと どの物語も 辛い気持ちが浄化され 少しずつ凹みが元に戻ってゆく話しだから だと思う。
以前にも他の作品の感想に書いたかもしれないが ばななさんの書く食べ物は
たとえそれが ご馳走でもなくありきたりなものだとしても とても温かく美味しそうである。そして それがものすごく魅力的なのだ。
自然の 宇宙の営みの 不思議だけれど当然の成り行きを 跳ね返すことなく自然に躰や心に受け容れていこう、と素直に思わされる ばなな風味な一冊だった。
嘘ばっか*佐野洋子
- 2004/01/27(火) 08:14:22
☆☆☆・・
嘘ばっか
26篇の 昔話、御伽噺、童話などのパロディ。
何百年も生き残ったおとぎばなしは、心の傷であったという事が、
大人になった私にようやくわかる。
と あとがきに書かれている。
こどもの頃 邪気もなく聴いたり読んだりしていたものも
経験を重ね大人になって真実を探れば
存外こんなものかもしれない。いや きっとこちらの方が事実に違いない。
と ブラックな納得の仕方をしてしまう邪気のある自分を見つけてしまった。
いいのやら 悪いのやら...まったくもぅ である。
冬のオペラ*北村薫
- 2004/01/26(月) 08:13:09
☆☆☆・・
冬のオペラ
冬になれば白に包まれる北の国から上京し 叔父の不動産会社で働く姫宮あゆみ。
その会社の二階に越してきた 名探偵 巫(かんなぎ)弓彦。
この二人が 名探偵と その記録係 という ホームズとワトスンばりの珍コンビとして 名探偵が解決するに値する事件を手がけていく物語。
と言うと 格好よさそうに聞こえるが 実は事件の依頼などほとんどなく
たまに関わり解決した事件も きちんと報酬を貰えたためしがない。
しかし 彼の名探偵振りは 本物で 事のあらましを聞いただけで 真実が見えてしまうのだ。
巫の掴み所のない けれどツボはしっかり抑えるという だらしないのか格好いいのかよく判らないキャラクターと 好奇心旺盛で なぜか巫を尊敬しているあゆみの一生懸命さのギャップも 魅力のひとつになっているのではないだろうか。
北村さんの作品に共通する品のよさは この作品の底にももちろん流れていて
表題作では 京都が舞台ということもあり 格調の高ささえ感じさせてくれる。
麦の海に沈む果実*恩田陸
- 2004/01/25(日) 08:11:38
☆☆☆・・
【三月以外に入ってくる者が 破滅をもたらす】と言い伝えられている
外界から閉ざされた不思議な学園の中で起こったことは
果たして夢なのだろうか 現実なのだろうか。
読み終えたあとも尚 不思議異空間から抜け出せずに
夢と現の間をふらふら彷徨っているような浮遊感が残る。
以下 序章から少しだけ抜き出してみる。
記憶というものはゆるやかな螺旋模様を描いている。
もうずいぶん歩いたなと思っていても、
すぐその足の下に古い時間が存在している。
身を乗り出して下に花を投げれば、
かつて自分が歩いた影の上に落とすことができるのだ。
ほら、記憶というものの不思議な構造が 目の前に浮かんだでしょう?
この物語に入り込むと 自分が今いるのは螺旋階段の上の方なのか下の方なのか
よく判らなくて眩暈を起こすかもしれない。
死の記憶*トーマス・H・クック
- 2004/01/22(木) 08:10:03
四日間の奇蹟*浅倉卓弥
- 2004/01/20(火) 08:08:46
ココデナイドコカ*島村洋子
- 2004/01/18(日) 08:07:35
いとしい*川上弘美
- 2004/01/17(土) 08:06:04
クライマーズ・ハイ*横山秀夫
- 2004/01/14(水) 08:04:57
☆☆☆☆・
ある因縁によって結ばれた 17年と言う時を隔てた二つの物語が 並行して語られていく。
ひとつは 日航ジャンボ機墜落のその時、墜落現場の地元群馬の地元新聞社。
もうひとつは 八ヶ岳の衝立岩。
ジャンボ機墜落の時 「日航全権デスク」として 事故後の報道に携わることになった 悠木。新聞記者としての誇りと派閥争いの醜悪さに翻弄され疲れきった時 選んだのは 「下りない」で続けることだった。
その17年後、「下りるために登る」と言い 専務の犬となって這い回ることをやめる決意をしながら倒れた安西の息子と登る衝立岩。
取材とは何か 報道とは何か?
記者の誇りとは?
大切な命とそうでない命とは?
親子とは?
たくさんの【?】を投げかけられた一冊である。
答えは それぞれが 生きているあいだ中考え続けなければいけないのかもしれない。
すいかの匂い*江國香織
- 2004/01/13(火) 08:02:49
約束の冬 上下*宮本輝
- 2004/01/11(日) 21:19:01
☆☆☆☆・
味わい深い一冊だった。
著者自身が あとがきで 自分のそばにいてくれたらいいと思える人物ばかりを描いたと言うだけあって 登場人物の一人一人が たいそう魅力的である。
キーワードは飛ぶ蜘蛛。
冬が来る前の 風のないうららかな日を選び 小さな蜘蛛たちは 自らの尻から細い糸を吐き出し それに掴まるようにして 微かな風に乗って空を飛ぶという。ほとんどは 糸が絡まり地に落ちるか 運良く舞い上がれても鳥に食べられてしまうが 運がいいものは 遥か2千キロ以上も飛ぶのだという。
蜘蛛が飛ぶ情景をそこここに散りばめながら 物語は進む。
いくつかの約束を果たそうとする者たちを巡って。
人は いつの日も 果たそうとして、あるいは果たせるはずがないのを知りながら 約束をしてしまうものではないだろうか。そして 良かれ悪しかれ その約束に縛られる。
10年前、引越してきたばかりの7歳年上の女性に 「10年後一緒に蜘蛛が飛ぶのを見よう」と手紙を渡した15歳の少年・見知らぬ少年から不意に手紙を渡された女性・少年の義理の父・少年の実の父の父・女性の幼なじみ。
それぞれが それぞれの約束を果たすために生きているのだ。
約束を果たそうとすることそのものが 生きる ということなのかもしれない。
クレオパトラの夢*恩田陸
- 2004/01/08(木) 21:17:42
薔薇盗人*浅田次郎
- 2004/01/06(火) 21:16:22
街の灯*北村薫
- 2004/01/04(日) 21:14:49
☆☆☆・・
北村薫さんのミステリィは【日常の謎】というジャンルに属すると言われる。
まさにその通り。まがまがしい殺人事件などが起こるわけではなく――今回一話の中では起こるが――日常 見過ごしがちないろいろに 主人公が疑問を抱き その謎を解く というパターンなのだ。
オムニバス形式のこの物語たち、時代は昭和初期、登場するのは よい暮らしをなさる上流の方々である。
下々のものである私にとっては 馴染みのない物言いやら暮らし振りやらで
なにやら少々退屈かしらん、と思いつつ読み進むと 別宮(べっく)みつ子という女性が その頃としてはたいそう珍しく 運転手兼お目付け役として登場する辺りから 俄然面白くなり 惹き込まれてしまった。
別宮(ベッキー) 一代記を読んでみたいほど 素晴らしい女性。憧れである。
空から来るもの*増田みず子
- 2004/01/01(木) 21:12:46
☆☆・・・ 空から来るもの
――体の中に他人がいる気がする――帯より
本当の自分というものがどのようなものなのか
ここは自分のいるべき場所なのか
というようなことに 確固とした自信を持てずにいるひとりの女の
あやふやで寂しく それでいて 時に猛るような気分のうねりを
宥めながら なんとかやり過ごす日々の情景。
彼女が以前読んだ小説に出てきたこととして書かれている
「地球の人間はもともとは遠い宇宙からやってきた宇宙人であるという」
宇宙船が難破して 母星に還れなくなった宇宙人が この地球で生き延びるために
姿を変えたのが今の人間なのだ。というところに なるほどと 思わせられてしまった。
空を見上げるとき なにかしら切なくなり ここでないどこかを夢見るのは
自分が その昔地球に遭難した宇宙人の遺伝子を受け継ぐ者だからなのだそうな。
断然違う、とは言い切れないかもしれない とは思いませんか?
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