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宇宙のみなしご*森絵都

  • 2004/02/29(日) 13:07:10

☆☆☆☆・


児童書です。

両親の仕事が忙しく 自分達で愉しみを見つけながら過ごしている中学生の年子の姉弟。
真夜中の屋根のぼりもそのひとつだった。
ふたりだけのひそかな楽しみだった屋根のぼりに 思いがけない仲間が加わり、そして...。

誰でもどんな人でも 子供でも大人でも しっかりしているように見えても 淋しがり屋に見えても、人というものは 一人では生きていけないものなのだ。
けれど いちばんしんどい時は 誰でも一人なのだ。
差し伸べられる手があったとしても 一人で乗り切らなければならないものなのだ。
そしてきっと いちばんしんどい時を懸命に一人で乗り切ろうとしている人のことは
ぎゅっと掌を握り締めて見つめていることしかできないのだ。

 →ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。
  ばらばらに生まれてばらばらに死んでいくみなしごだから。
  自分の力できらきら輝いていないと、
  宇宙の暗闇にのみこまれて消えちゃうんだよ。
←                          (本文より)

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冬のはなびら*伊集院静

  • 2004/02/28(土) 13:05:17

☆☆☆・・
冬のはなびら

短編集。

 誰の人生にも陽の当たる瞬間(とき)がある。   (帯より)

落ち着いた時が静かに流れるような物語全体の雰囲気である。
けれど 書かれていることは 熱の篭ったことだったりもする。
職人を目指す不器用を自認する若者、命を救うことに人生を賭ける消防士の恋、
年寄りばかりが住む南の小さな島の教会を自分の力で再建しようとする男。
そして 男たちを見守るあたたかいまなざし。
人生には どんな人の人生であっても 何かを貫く瞬間がきっとあるのだ。
早くても遅くてもいつか誰にでも。
そしてそれは 一人の力ではないのだ。
背後にあたたかなまなざしがあってこそなのだ。

球形の季節*恩田陸

  • 2004/02/27(金) 13:04:13

☆☆☆・・
球形の季節

三方を川に囲まれ 残りの一方を線路が走る東北のある町の物語。
4つの高校が居並ぶ如月山。そこに広まる奇妙な噂から始まった。

その土地にまつわる神話や言い伝え昔話といった 根拠がなさそうでありそうな不思議な話と 犯しがたい何か。
隣り合う現実と非現実の境が曖昧になる場所 そして時。
どこにでもありそうな風景が 一瞬にしてここではないどこか、行ったことがないのに何故か懐かしい場所。

大人になる過程で誰もが通り過ぎる自己と他者との混沌の象徴ではないかと思った。
その場所はきっと誰もの心の中に存在し 行っては帰ってきているのかもしれない。
行ったままになる人も時にはいる。それがいいのか悪いのかはわからない。

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幸福の軛*清水義範

  • 2004/02/25(水) 13:02:38

☆☆☆☆・


清水義範さん初の本格ミステリィ。
不登校の中学生が殺される事件に端を発した 被害者が中学生の連続殺人事件。
「愛されない不安」により壊れていく子供たちを救いたい一心で関わっていく
教育カウンセラー 中原。その目に、その心に映ったものは何だったのか。

陰湿に続けられるいじめと 危惧してはいても認めたくない気持ちが目を逸らす学校。
いじめる側の方が実は深く心を病んでいることが多いのだというのは うなずけることである。
そして 子供が病む原因のほとんどは 親の心の奥にあるのだ ということに 今更ながら納得しつつ 身が震える思いがした。
中原ほどカウンセラーに適した人物は他にはいないのではないかと思う。

途中まで読み進んで 嫌ぁな感じに取り憑かれた。その予感が当たってしまったのが哀しすぎる。

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光の帝国(常野物語)*恩田陸

  • 2004/02/23(月) 13:01:28

☆☆☆・・



不思議な能力を持つ人々が集って暮らしていたという東北の山奥にあったと言われる常野。
常野の一族を巡る オムニバス形式の連作短編集。

故あって常野を離ればらばらに普通の人たちに混じってひっそりと暮らすようになった彼らが 今再び常野に帰っていこうとしている。
[常野]という名の由来は 権力を持たず、群れず、常に在野の存在であれ。
という意味なのだとか。
穏やかで知的で 権力志向を持たず 争いを好まないず やさしい気配の常野の人々は これからこの世界を光で満たすために再びその地に帰っていこうとしているのだ。きっと。
不思議な力を持つ人が そこここに現われ 悲惨な場面もあるのだけれど 何故かやさしく守られているような安心感のうちに読み終えた。

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世界の中心で、愛を叫ぶ*片山恭一

  • 2004/02/22(日) 12:59:38

☆☆・・・


 好きな人を亡くすことは、なぜ辛いのだろうか。
 [喪失感]から始まる魂の彷徨の物語。
   (背表紙より)

大切な人の死を見送ること。一人あとに取り残されること。
しあわせな時を共に過ごすほどに それは 残された者の心に深い傷となる。
しかし 死は即ち無なのだろうか、と考える。
時を共に過ごしたこと お互いを大切に思い合ったこと、それらは死の前にあったことであり 一人の死後にも無に帰するわけではなく 在りつづけるのだ。

生きる、愛する、死ぬ、失う、傷つく、癒える、薄らぐ。
どれもが現実であり その瞬間には真実なのだ。
人は 真実の瞬間を繰り返しながら生きている。

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博士の愛した数式*小川洋子

  • 2004/02/21(土) 12:58:16

☆☆☆☆・



 世界は驚きと歓びに満ちていると、博士はたった一つの数式で示した
 記憶力を失った天才数学者、と私、阪神タイガースファンの10歳の息子
 せつなくて、知的な至高のラブ・ストーリー

                          (帯より)

ラブ・ストーリー と聞いて思い浮かべがちな恋愛小説とは趣を異にするものである。
ここに出てくる愛は 慈しみ思いやり護り育てられる愛 である。
何より深い愛は 博士の数に対する愛 かもしれない。

数学 と聞いただけで拒絶反応を示す私の脳も ここに出てくるやわらかくやさしく美しく 詩的でさえもある数の法則は 拒絶することなくするりと受け容れてしまった。

220 と 284 ののっぴきならない関係を一瞥で見抜く博士の数に対する愛は 比類なきものである。

220と284――どんな友愛関係にあるのかは 読んでみてのお楽しみ。

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まひるの月を追いかけて*恩田陸

  • 2004/02/20(金) 12:57:21

☆☆☆・・


舞台は古き都 奈良。
絡み合う人間関係と現実と夢の間を行きつ戻りつしながら始まった旅。

旅の果てが終わりなのか始まりなのかは読後も尚 私の中で定かではない。
旅を始めるきっかけ それを続ける意思。様々な点で現実感を伴わないが
それこそが現実であるという風にも思える。
誰かの掌の中の水晶玉のその中に入り込み 外側から見守られているような錯覚を覚えさせる街。
時間の流れが少しだけ変わっているような太古の匂いのする街。
そんな街 奈良を舞台にしてこその 時間の隙間に入り込んだような感覚がなんとも心地好い。

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沈黙の教室*折原一

  • 2004/02/18(水) 12:56:15

☆☆☆・・


連合赤軍事件の記憶も新しい1973年、その現場から程近いある中学の3年のクラスで【粛清】の名のもと 悪質な虐めが横行していた。
さらにその内容を詳しく記した【恐怖新聞】なるものの 無言の圧力は編集者の思いの外生徒達の心を抑圧していた。

加害者は容易に忘れるが 被害者は絶対に忘れない

という言葉の典型とも言えそうである。20年経っても尚 恨みは消えることはないのだ。
真の加害者は一体誰なのか 読み終えてみればなるほどと頷かされることもある。
しかし それほど深く反省しているようにはどうしても見えない。
これでいいのだろうか。この人物はこのままで。
あまりに多くの人生が狂わされたと言うのに。

軽い気持ちでしたこと――もしかすると加害者意識さえもなく――がやられた側には深い傷になることを 人はみな もっと自分に言い聞かせるべきだ。

東京小説

  • 2004/02/17(火) 12:55:17

☆☆☆・・


椎名誠、林真理子、藤野千夜、村松友視、盛田隆二が それぞれ
銀座、青山、下高井戸、深川、新宿を描く。

元々は フランスのオールトマン社の〈街の小説〉シリーズという
物語を秘めた街をひとつ選び そこに暮らす作家がその街を舞台にした小説を書き下ろす という企画のひとつとして始まったものらしい。
それが途中から 日本でも発表しようと言うことになり 同時進行することになったのだとか。


東京という街は 生きている――成長しているのか退廃しているのかはさておき――ということを再認識させられた。
東京という生命体は 核にそれぞれ異なったDNAを持つ数多の細胞が寄り集まって出来上がっているのだ と。
広くて狭い、狭いのにどこまでも広い。それが東京が人を惹きつける魅(魔)力なのかもしれない。

冷めない紅茶*小川洋子

  • 2004/02/16(月) 12:54:15

☆☆☆・・
冷めない紅茶

冷めない紅茶、ダイヴィング・プールの2編。

死 を見つめると見えてくる 生 がある。
生 を思う時 死 がより身近に思えることもある。

死 に向かう長い長い坂を一歩ずつ下る時
人は 金色の粉にまぶされた生 を見るのだろうか。

自分の薄い皮膚の下を流れる 生 の証と
生きている故に逃れられない残酷さとを
遠いような近いような 距離感のつかめなさで思う。

流れる砂*東直己

  • 2004/02/15(日) 12:52:45

☆☆☆・・


舞台は札幌。
とあるマンションの一室に住む男の行状に不審を抱いた管理人の調査依頼から物語りは始まる。
細々とでも真面目に懸命に生きる人間からみると 考えられないような
利己的な利権がらみの世の中のからくり。
怪しげな宗教団体も絡み付いて 汚辱にまみれた人と金のしがらみが暴かれていく。

世の中の裏側が たとえこの物語のようであっても――それはとてもありそうなことなのだが――でき得ることならば 一生気づかないまま死んでいきたいものである。
主人公の私立探偵 畝原の極身近に 信頼できる人々がいることが救いである。

黄色い目の魚*佐藤多佳子

  • 2004/02/12(木) 12:51:29

☆☆☆☆・


揺れる思春期・自分の内と外を築き上げる思春期。
そんな時の舟に乗り揺られている高校生の 村田みのり と 木島悟。
それぞれ と ふたり の物語。

大人の目にはどうでもいいことに映るのに たまらなく切ないこと とか
大勢の中で自分だけが浮いているような居心地の悪さ とか
only one でいたいのに one of them になってしまう情けなさ とか
ある人の前でだけ 消えてなくなりそうになる自分 とか。

不安定だけど限りなくパワーを秘めたあやうく確固とした思春期が
どのページにもある。

じゎりと沁み出すように涙が浮かんだ。

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アリス*中井拓志

  • 2004/02/10(火) 12:49:53

☆☆☆☆・


とにかく 何がなんだかわからない。
読んでいる最中も 読み終えた後も どことも知れぬ空間に裸で放り出されたような頼りなさ 心細さ のようなものに捕らえられ続けている。
それがすべて たった一人の生きているのかどうかさえも定かではない少女によって引き起こされたことなのだ。

文庫の要約の一部を__

 95年8月、東晃大学医学部の研究棟、通称「瞭命館」で60名を超す人間が
 同時に意識障害を起こす惨事が起こった。
 しかし、懸命の調査にもかかわらず、事故原因はつかめないままとなった。
 それから7年――。


比室アリス。それがその少女の名である。
脳の左半球が萎縮した少女。
その萎縮の影響で重篤な精神発達遅滞に陥った少女。
何も「観察」しない少女。
世界を「無視」した少女。
にもかかわらず、突発的に人を惹きつけて離さない異常な「笑顔」を放つ少女。

彼女は 【9.7次元を舞う無限の蝶を捕まえる】 という この世界に生きていると思い込んでいる我々には到底理解し得ない世界観を持っているのだ。

一生懸命理解しようとすればするほど 理解から遠のいていく気分に陥る。
理解できなくてもいい。言葉を使って互いに理解し合えるという幻想に囚われたまま この世界に生きていられるなら 私にはそれでいい。

鏡よ鏡*赤川次郎

  • 2004/02/09(月) 12:48:53

☆☆☆・・


スタイリストを目指して専門学校に通う18歳の少女が主人公。

昔の友人に久しぶりに出会ったことがきっかけで 様々なことに巻き込まれ
人生が思わぬほうに変わっていく。

普通の人生にはあり得ないようなことを目の前にしながらも
決して自分に嘘をつかず 正面を向いて生きている主人公に励まされる。

赤川作品は やはり安心して読める。

彼女の部屋*藤野千夜

  • 2004/02/07(土) 12:47:10

☆☆・・・


表題作を含む 6つの短編集。
どの作品も なにかしら【部屋】がモチーフになっている。

不思議物語だったり 哀しい物語だったり 切ない物語だったり
部屋は 人びとの様々な人生を見ている。

最後に何か結果が出る話ではなく さりとて 先を思い描けるものでもない。
あったことがあったように綴られているという感じ。
ひとつに区切りをつけてから次に進みたい性格の私には
なにやら消化不良のようなもの足りなさが後に残った。

逃避行*篠田節子

  • 2004/02/06(金) 12:46:08

☆☆☆・・


恐怖のあまり 衝動的に人の命を奪ってしまった 老いたゴールデンレトリバーと
家族の誰とも繋がっていない寂しさに悩む その犬の飼い主の50歳の女性
との 数ヶ月の逃避行の物語。

生き物を飼う上での覚悟とは?
報道のあり方とは?
家族のつながりとは?
善悪の基準とは?
本当のやさしさとは?
しあわせとは?

様々なことを問い掛けられる一冊だった。

時に 主人公に共鳴し、また時には 批判し 揺れながら読み終え
それでも どうすることがよかったのか という答えには辿り着けない。

椿山課長の七日間*浅田次郎

  • 2004/02/05(木) 12:44:29

☆☆☆・・


死後 人間は この世でも極楽でもない【中陰役所】なる場所で そのまま極楽へ行くか 現世での罪を反省して極楽へ行くか それ相応の理由によって現世に逆そうされれるかを審査される。
この物語は ここで 逆送を果たした三人の現世での行動のリポートである。
但し、生きていた頃とは真逆のキャラクターで蘇り 期限は死んだ時からきっちり七日間。
設定からして コメディタッチなのだが 心に染みるあれこれは やはり浅田流。

ほのぼのと温かい涙を流しつつ読了。
やっぱり正直に生きるのがいちばん!と肝に銘じる。

劫尽童女(こうじんどうじょ)*恩田陸

  • 2004/02/04(水) 12:43:19

☆☆☆・・



タイトルは 焼き尽くす少女 というような意味だろうか。

「焼き尽くせ」は
少女の父親が 秘密組織【ZOO】に狙われ 殺される時の 最後の言葉でもある。

サイコサスペンスホラー とでも呼べばいいのだろうか。
ともかく時代の何歩も先を行っているような物語である。
だが 荒唐無稽と笑って済ませてしまえるものでもないようなそら恐ろしさも感じる。

ヒトゲノム・クローン・核兵器・地雷など 物騒なものがたくさん出てくるが
そこに却って平和を希求するメッセージが込められているのではないだろうか。

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月の砂漠をさばさばと*北村薫

  • 2004/02/03(火) 12:41:38

☆☆☆・・



お話を作る仕事をしているお母さんと さきちゃんのお話。

さきちゃんが眠る前、ご飯を食べる時、学校から帰ってきた時。
いろんな場面で お母さんはお話をしてくれる。
さきちゃんが ふともらしたひと言から お話の世界が広がることもあり
お母さんが見たものから お話が始まることもある。

さきちゃんの感受性と お母さんのそれを大切に思うあたたかいまなざし。
ほんゎか きゅんっ とする 12の小さなものがたり。

おーなり由子さんの ふんゎりやさし気なイラストが 包み込まれるようであたたかい。

一味違った北村薫さん…なのかな。

タイトルはお母さんの歌うこの歌から
 月のー砂漠を
 さーばさばと
 さーばのーみそ煮が
 ゆーきました


今 心にゆとりがなくなりかけているかな?
と 感じている方にお薦め!

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プレゼント*若竹七海

  • 2004/02/02(月) 12:40:25

☆☆☆・・



さしたる望みもなく 転々と職を変えながら辛うじて生きている風情の葉村晶(はむらあきら)と 茫洋とした中年男にしか見えないが 冴えた推理力の持ち主である 警部補 小林舜太郎が関わる事件を 交互に並べた短編集。

フリーター葉村晶は 世間の大人から見ると いい加減を絵に描いたような娘である。
しかし短期間で転々と職を替えることが 様々な経験ができるというメリットになり にわか探偵もどきの推理の役に立っていることは否めない。
短期間しか働かない職場でも その時にはそれなりに一生懸命働いており 憎めない。
事件を呼ぶ人間というのは いるものだなぁ、などと 変なところに感心してしまう。

一方の 小林舜太郎警部補は とても優秀とは思えない外見を持ち 実は鋭い推理をするという ありがちなキャラクターなのだが 小市民的なところがやはり憎めない。

コメディタッチのミステリィ というところだろうか。気軽に楽しめた。

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殺人の門*東野圭吾

  • 2004/02/01(日) 12:38:43

☆☆☆・・・


幼い頃は裕福な家庭で育ちながら 次々と災難に見舞われ不幸になる主人公 田島和幸。
孤立することの多かった子供時代から なぜか唯一近くにいた同級生 倉持修。
二人を軸に 人が殺人という門をくぐるのはどんな時か?ということを考える。

人の心の中には 「あんな奴いなければいいのに」という
消極的な殺意(とも呼べないかもしれないもの)は 意外に多く存在するのではないか。
そして 「あんな奴死んでしまえばいいのに」から
「殺してやりたい」を経て 「あんな奴殺してやる」になり
実際に殺人者になってしまう というのが そこに辿り着く道筋なのだろう。

【殺人の門】はどこなのだろう。とふと思った。
「殺してやる」と具体的に思い浮かべた時、そここそが【門】の中に一歩踏み込んだところなのではないだろうか。

作品の主題からは大きく外れるかもしれないが
悪徳商法に騙されたくない方は これを読むと そのあくどい手口の一端をよく理解することができると思う。