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ピエロで行こう*中園直樹

  • 2004/03/29(月) 14:16:25

☆・・・・


 愛する人の心が癒えた時、本当の勇気が試される。
 淋しさに胸をしめつけられる、切なすぎるストーリーが誕生しました。
                                  (帯より)

やくざにレイプされ 自分を見失って心を偽りつづけていた自殺願望の少女を 自殺未遂を繰り返した末 自分を見つめ 認めることで立ち直った主人公が癒そうとする物語。
だが・・・彼女が癒され 自分を取り戻した時に彼の身に起こったことは...

以前の中園作品の時にも書いたが 若者の自殺を食い止めたいと切望して書かれているとは 私にはどうしても思えない。何故だろう、かえって暗く気分が沈みこむのは。
自殺願望がないから、と言われてしまえばそうなのかもしれないが。私にとって読後 後味のよい作品ではない。

美しき凶器*東野圭吾

  • 2004/03/28(日) 14:14:47

☆☆・・・
美しき凶器

美しき凶器とはどんなものだろう。その疑問には著者の言葉が答えてくれている。

 美しい女の定義は、いろいろあると思う。
 いろいろあっていいと思う。
 僕は世界陸上やオリンピックなどを見て、
 鍛えあげられた肉体を駆使し、それぞれの競技に挑む女子選手たちの姿を美しいと感じた。
 その結果この作品のアイデアを思いついたわけだが、
 小説にするとなると、彼女たちの美しさを賞賛してばかりもいられないのが、ちょっとつらい。
                             (著者のことば)

運動選手の肉体改造にまつわる事件である。
人並みはずれた運動能力を持つ娘は 結局何に突き動かされて犯行を繰り返したのだろう。
復讐心?それとも愛?
彼女は女性としての心の動きをまったく描かれないまま復習殺人を繰り返す凶器としてのみ描かれている。
それが彼女が凶器であることを際立たせてもいるのかもしれないが 物足りなくもある。
そして 美しき凶器はひとつとは限らない とも著者は言いたかったのかもしれない。

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夜の蝉*北村薫

  • 2004/03/27(土) 14:13:50

☆☆☆・・


「わたしと円紫さん」シリーズ第2弾。立て続けに読んでしまった。

今回も 朧夜の底・六月の花嫁・夜の蝉 という3編のオムニバス。

表題作 夜の蝉 では 突込みどころのないほど完璧に美しい5歳年上の姉との間に幼い頃からずっと引かれていた一線が崩された。
語り手の「わたし」も大人の女に少しだけ近づきつつある風情が清潔な色っぽさを感じさせたりもする。あくまでも清潔に。
主役であり語り手でありながら作品中に名前すら出てこない「わたし」に 私は大いに愛しさを覚える。若さゆえの硬さ 純粋さ ちょっとしたひねくれ方などが なんとも可愛らしいのだ。

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空飛ぶ馬*北村薫

  • 2004/03/26(金) 14:12:47

☆☆☆・・


その後シリーズとなった「わたしと円紫さん」の出会いの巻き。

織部の霊・砂糖合戦・胡桃の中の鳥・赤頭巾・空飛ぶ馬 という5編のオムニバス。
まがまがしい殺人などとは遠く隔たった日常の不思議をさらりと解き明かす円紫さんは 初出から痛快である。洞察力と発想の柔軟性のなせる技であろう。
やはり全編に流れる空気は「詩」である。女子大生である「わたし」と友人達との飾らない会話でさえ 悠々と流れる大河に身を任すように詩的で心地好い。

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上と外*恩田陸

  • 2004/03/25(木) 14:10:56

☆☆☆☆・
上と外

 両親の離婚で、別れて暮らす元家族が年に一度、集う夏休み。
 中学生の楢崎練は小学生の妹、母とともに、考古学者の父がいる
 中央アメリカのG国までやってきた。
 ジャングルと遺跡と軍事政権の国。
 そこで四人を待っていたのは<軍事クーデター>だった。
 離れ離れになる親子、二度と会えないかもしれない兄と妹!
 密林の中の謎の遺跡と神秘の儀式。
 絶え間なく二人を襲う絶体絶命のピンチ。
 ノンストップの面白さで息もつかせぬ1350枚、恩田陸の最長編小説。

                    (帯より)

マヤ文明を土台に語られる長編。
なんとも言えないスケールの壮大さなのだが その根底にとうとうと流れるのは
下町の小さな町工場で働く祖父の天性の広い視野と柔軟性だったりする。
フィクションでしかあり得ない様々な出来事が ここでもやはり「人」「真心」に救われるのである。
ひとりひとりが「人」であり「命の単位」なのだ。一単位がしっかりその役割を果たさなければ何事も成し得ないのだ。なおかつ 一単位のみでは何も成り立たないのだということを 感動と共に思い知らされる。

人類は果たして本当に進歩に向かっているのだろうか?
そんな疑問さえ抱いてしまう作品である。

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刹那の魔女の冒険*関田涙

  • 2004/03/23(火) 14:08:57

☆☆☆・・


 雪の別荘での死体移動の謎!
 奇妙な時計塔の中で殺人犯が消えた謎!
 学園祭のお化け屋敷内で起きた殺人事件の、
 誰もが思いも寄らなかった脅威のトリック!
 さらに虚構と現実が交錯し導かれる衝撃のラスト。
 まったく異なる二通りの読み方ができるという仕掛けもあり。
 おまけに“名前当てパズル”も付いてます!

                        (裏表紙より)

「一体なんて本なんだ!」
と 思わず言いたくなるような一冊。
普通に初めから最後まで読み通す読み方と 指示に従って飛ばし読みする読み方が用意されている。しかも 途中で答えを先に知りたい読者のために 読むべき場所の指示まである。パズルもあるし。初体験なことばかりで 正直なところまだ目が回っている。

ホームページをビルダーなどに頼らず 腕一本で作る方には解るかもしれない
などと まるっきり解らない私は思ったりする。
現実と虚構とが複雑に入れ子状態になっている様は ホームページ作成時の階層の把握の仕方と似ているのではないかと想像してみる。
訳がわからないことにちっとも変わりはない。

物語の語り手の「僕」
誠だとばかり思って読み進めていたのだが いつからすりかわっていたのだろう。
そういえば いつからか「姉のヴィッキー」が「うちのヴィッキー」になっていて 「あれ?」と思った気もするなぁ。

とにかく この不思議さは 体験してみなければわかっていただけないだろう ということだけは判る。

月に吠えろ!*鯨統一郎

  • 2004/03/22(月) 14:07:38

☆☆☆・・


登場人物の顔ぶれがまず壮観である。
語り手である「わたし」が室生犀星、探偵役が萩原朔太郎。
他にも山村暮鳥、北原白秋がほぼ常連。
一話ごとに 今では著名な詩人・文人たちが大勢登場する。

表題でおおよその見当はつくと思うが 萩原朔太郎の『月に吠える』に載せられた詩の裏舞台を描いたものである。ミステリィにことよせたお遊びとも言えよう。

朔太郎観が 少し変わるかもしれない。

口笛吹いて*重松清

  • 2004/03/21(日) 14:06:29

☆☆☆・・


二十六年前に別れた少年時代のヒーローとの切なく苦い再会を描いた表題作を含む 5編の小説集。

どの作品の主人公も 自分とその生き様に自信を失いかけたり そんな人を身近に見ていたたまれない気持ちになったりしている。
人生に勝ったとか負けたとか だいたいそんなことはどうして言い切れるのだろうか。
勝ったと見えて実はむなしさばかりの人生。負けっぱなしに見えても本人にとっては充実している人生。どちらがいいかなんてその本人以外に解りようもない。
ただ言えるのは 万全の自信を持ちつづけて生きている人なんてきっと一人もいないのだろうということだ。
じわんと滲む涙が切ない。

影踏み*横山秀夫

  • 2004/03/19(金) 14:05:30

☆☆☆☆・


深夜寝静まった民家に忍び込み現金を盗み出す泥棒のことを警察用語で「ノビ」という。
ノビの真壁=ノビカベ がこの物語の主人公。
15年前のある事件を境に 真壁は法を捨てた。

死んだ時から真壁修一の頭の中に住み続ける双子の弟啓二。
その啓二の他人には聞こえない声に助けられながらさまざまな謎を明らかにするために走り回る真壁。

真壁にとって啓二の存在とは何だったのだろうか。きっと影だったのだ。
人は誰も自分の影を踏まれまいとして生きているのかもしれない。
日陰に入って見えなくなったように思えても 一歩日の中に出て行けば どこまでも着いてくる影。逃れることのできない自分の影を踏まれないようにして生き延びなければならないのだ。きっと。

それにしても 警察と昔気質の腕一本で稼ぐ泥棒たちの関係たるや ホームズとルパン、銭形警部とルパンⅢ世 のごときあたたかき信頼関係――と言ってしまっては身も蓋もないが――で結ばれているようで 羨ましくさえ思えてしまうのはなぜだろう。

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誰か*宮部みゆき

  • 2004/03/18(木) 14:04:20

☆☆☆・・



ある財閥の会長の極個人的な運転手だった男が自転車に轢かれて亡くなった。
事故ではなく企まれたことだと主張する二人の娘は 犯人探しの助けにしようと 父の思い出を本にしようとする。本の編集者として選ばれたのは 会長の娘婿。

一人の人間の一生とは 傍から見るだけでは計り知れないことが山のように積もっている。事の重大さの大小はあっても 誰もが何かを背負って生きているのだ。押し潰されそうになりながら しかし押し潰されるわけにはいかずに 宥めながら 闘いながら。

何不足ない幸福の中にいるように見える娘婿――この物語の語り手的存在でもあり探偵役?でもある――にも心には他人には見えない翳りはある。そしてそれが 幸福すぎる彼に反感を抱かせずに物語を委ねられる理由でもあるように思う。

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樹上のゆりかご*荻原規子

  • 2004/03/15(月) 14:03:05

☆☆☆☆・


中学で5本の指に入る生徒が集まる進学に実績のある高校が舞台の物語。
高校と言うのは世間の荒波に向かっては閉じられた場所である。
しかしその内側には侵しがたい世界――宇宙と言ってもいいかもしれない――があるのだという気がする。

高校時代を生きるものたちは 命を燃やして時代を生きているというのを
ひしひしと感じさせられた。一生の内の最も素晴らしい季節のひとつが高校時代なのだと実感する。

愛とは赦すことであり ときには狂うことであったりもする。
彼らは全身全霊で自分を生きているように見える。
自分自身に嘘をつかないという 登場人物たちの生き方が
読後 胸の一隅に爽やかさを残す。

盤上の敵*北村薫

  • 2004/03/14(日) 14:02:06

☆☆☆・・


チェスの勝負の実況中継を思わせる淡々と運ばれていく。
想像するのもおぞましいような事々だというのに。
怒り狂い打ちひしがれて叫びまわってしかるべきことが
息を呑む音さえも響き渡りそうなほど静かに語られている。

途中一瞬 追ってきた筋を裏切られたような 突然迷子になったような感覚に陥る個所があったが それがまた他の北村作品同様 見事な組み立てによるものだった。さすが。
物語が終わってさえなお いくつもいくつも解決されねばならない問題が立ちはだかっている。
言ってみれば 問題の根本は何ひとつとして解決されてはいない というのも痛々しい。

オルゴール*中園直樹

  • 2004/03/13(土) 13:47:53

☆☆・・・

あとがきで著者自身が言っているように
いじめで辛い思いをしたり 自ら命を絶ったりする若者がこれ以上いなくなるようことを祈ってこの小説は書かれたものらしい。著者自身も自殺未遂者なのだとか。
中高生に読んで感動して考えて欲しいと思っているそうだ。

たしかに主な登場人物の二人の少年のかかわり方とか気持ちのやり取りなどは
真心からのものと思え 感動的ではあると思う。
でも 自殺を食い止めようとする目的で書いたものならば もっと別の書き方はなかったのだろうか、と訝しんでしまったりするのも本当の気持ちなのだ。
私が幸いにも今まで死にたいとまで思いつめたことがないので 解らないだけなのかもしれない。それならそれで構わないとも思う。
これを読んで自殺を思いとどまろうとする人がいるとは とにかく私には思えなかった。

死ぬまでにしたい10のこと

  • 2004/03/13(土) 13:46:41

☆☆☆・・


齋藤薫さん・角田光代さん・MAYA MAXXさん・横森理香さん・倉田真由美さん
八塩圭子さん・酒井順子さん・しまおまほさん・谷村志穂さん・室井佑月さん
による それぞれの10のこと。
映画『死ぬまでにしたい10のこと』を倣った企画。

自分を残したい人、消したい人。
死ぬことを公言する人、秘密にする人。
基本的には余命2ヶ月 と宣告された場合を想定しての10のことなのだが
「死」に面と向かう時 その人の「生」に対する思いがはっきりと見えてくる気がする。

齋藤薫さんの 死を目の前にしたときに人に優しくなれる人になる
というのが とてもくっきりと印象に残った。

あなたに似た家族*沖藤典子

  • 2004/03/11(木) 13:45:38

☆☆☆・・


結婚・父、母・老い・女の思い、男の思い という
四つの章の中にいくつかの家族の物語が織り込まれている。

反発もあるかもしれない。共感もあるかもしれない。
自分と似た家族模様を織りなす部分もあるかもしれない。
だがしかし それはあくまでも「似ている」というだけで
それぞれの家族が それぞれの悩みや問題を抱えて包んで
生きているのだろうと思う。
似ている家族でも 導き出す結論は同じではないはずなのだ。
それは 個々の人間についても言えることだと思うけれど。

ZERO*麻生幾

  • 2004/03/10(水) 13:43:51

☆☆☆・・


 これが公安警察、驚愕の真実だ!
 常に厚いベールに包まれる全国公安警察の頂点に君臨する組織<ZERO>。
 その存在は国家機密であり、名称を警察内部で口にすることさえ許されない――。
                (帯より)

巻頭に全国公安へのZEROの指導・関係の略図、中国共産党の関係略図などが載せられている。
そのあとに 主要登場人物の一覧。
これらを見ただけで これから読もうとするものの難しさや複雑さは容易に予想ができる。

公安の実情など一般国民には知る由もないので ここに書かれていることがどれほど真実に近いのかは判りようもない。だがのほほんと毎日を暮らす人々の裏で 国を守るために命がけで行われていることがあるのだということを 考えさせられるものではある。
真に忠誠を誓うのは誰か?
己の命を捨ててまで守り通さねばならないものとは?
何を信じ何を疑うのか?
国家を信じていいのか?それとも信じるべきは自分自身だけなのか?

読むだけで体力を消耗するような過酷な作品だったが
最後に頼るものはやはり人間の誇りと真心だったということが唯一疲労を癒してくれた。

光ってみえるもの、あれは*川上弘美

  • 2004/03/01(月) 13:41:36

☆☆☆☆・


祖母匡子さん 一度も結婚したことのない母愛子さんと暮らす
高校生の江戸翠クンが語る。
父親はいない。遺伝子学上の父はたびたび江戸家に姿を現わす大鳥さん。

出生にまつわる環境こそちょっと変わってはいるものの
普通の高校生活を送る翠クンやその友人達。
普通に生きていくことが もしかするといちばん難しいことなのかもしれないなんて
具体的に言葉にして思考に上らせるわけではないけれど
喧騒の中 ふっとひときわ孤独を感じるように、興奮のさなかに時間のズレに入り込んでしまうような感覚に襲われるように 「どうして生きているんだろう?」なんていうことを思ったりしてしまうのだ。

登場する大人達は なにかいい加減なようでいて それなりの何かを持っているような気がする。自分なりのある軸に従って。
人は 何かから解放されるために日々もがき、しかし 何かに縛られることを望んでいるようにも見える。