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すべての雲は銀の。。。*村山由佳
- 2004/04/29(木) 19:42:45
☆☆☆☆・
タイトルは英語の格言
"Every cloud has silver lining."
(どんな不幸にもいい面はある)
からつけられている。
登場人物は誰も彼も 何かしらどこかしら哀しい。
しかし 作中でも語られているように 幸福や不幸はその人だけにしかわからないもので、どんなに周りから不幸に見えようと 本人が幸福だと思えばそれは幸福なのだし 逆もまた真なのである。
哀しくて仕方がないのにじんわりと安らかな気持ちにさせられるのは何故だろう。きっとそれは 物語の舞台となっている「かむなび」に流れている真摯さと、自分を自分として認められることの充実と責任からくるものなのだろう。人の気持ちのあたたかさほど冷たい胸を温めてくれるものはない。
失はれる物語*乙一
- 2004/04/28(水) 19:41:24
☆☆☆・・
きみの音楽が、独房にいる私の唯一の窓
透きとおった水のような6篇の物語――
(帯より)
この作品はライトノベルとして発表されたものを 一般向け小説としての装幀に作り直したものだそうである。
ライトノベルというものの存在を 私はこの作品のあとがきで初めて知ったのだが、[漫画やアニメ風の絵を表紙に持つような挿絵つきの本]のことらしい。もしもこういう形で出版されることがなければ 私はこの作品に おそらく出会わなかったことだろう。
ライトノベルとして発表されたものを見ていないので断言することはできないが 個人的には 挿絵なし文章のみの方が創造力を掻き立てられ、魅力が増すのではないだろうか、と思う。どの作品も映像が浮かんでくるような物語だった。きゅっと胸をしめつける切なさをも含んで。
王国-その2*よしもとばなな
- 2004/04/22(木) 19:40:02
草にすわる*白石一文
- 2004/04/21(水) 19:38:14
青卵 -Seiran*東直子
- 2004/04/20(火) 19:36:17
☆☆☆☆・
青卵―東直子歌集
思いつめると眠ってしまう癖がある。
眠ると、淡い夢をみる。
うたた寝の夢の中で会った人と、一度だけ言葉を交わした人は、似ている。
どちらもきちんと思い出せない。
けれどもたしかに身体の奥にひそんでいる。
夢は現実にまざりこみ、現実が夢を抱いたまま動き出す。
ずっとあとにおこることを夢にみることがある。
あいまいで、でたらめで、ときに、とてもはっきりと、正確に。
そうだった、わたしはここに来た、と思う。
(あとがきより)
とても読みやすい言葉で書かれた短歌たち。
東さんが わたしはここに来た、と思われるように
わたしは この情景を知っている、と思う。
この気持ちはわたしのものだ、と思う。
そうして東直子さんと寄り添ったような心持ちになる。
好きだ、と思う。
天の瞳 成長編 ⅠⅡ*灰谷健次郎
- 2004/04/19(月) 19:35:09
☆☆☆☆・
倫太郎たちは 中学生時代の真っ只中に。
対立する非行グループの乱闘騒ぎやあんちゃんの入院、と次から次へと心を痛める出来事が待ち受けている。その時その場で 出来事と向き合って解決策を探る倫太郎たち四人組と大人も含めたまわりの人びと。
成長編の最後では 中学の問題に声を上げる人たちも出てきたり 信頼できる人との新しい出会いもあり、先が見えないながらも進展を予感させるものがある。起こったことを他人事にせず自分のこととして一生懸命に考える、そして自分にできることを少しずつ行動に移していく。言うは易し行うは難し、だが すべてはそこから始まるのだとも言えそうである。
つくづく 人は一人で生きているのではない、ということを思わせられるのである。
天の瞳 少年編 ⅠⅡ*灰谷健次郎
- 2004/04/18(日) 19:33:51
天の瞳 幼年編 ⅠⅡ*灰谷健次郎
- 2004/04/14(水) 19:31:56
☆☆☆☆・
可能性のかたまりが、ここにひかり輝いている。
破天荒な行動力、自由闊達な心が生み出した倫太郎の魅力を描く。
(帯より)
小瀬倫太郎と彼を取り巻く人びととの 長い長い時間を描いた大河小説。
まずは 保育園入園から小学校高学年までの 幼年編。
倫太郎の生きる力の源はなんだろう――と考えてみる。
初めて出会った大人の彼に向かう心積もりが 天性のものを認め伸ばしてこうなったのだろう。
子供を産み育てるとき こうありたい、というあれこれが この作品にはいたるところに散りばめられている。それは自分の身に引き比べると 痛いことでもある。
自分を飾らないこと、自分に正直であること、物事を広く見ること、目を逸らさないこと。
たくさんの大切なことを胸の中に投げてくれる作品である。
この先 少年編・成長編・あすなろ編 と 読み進めていきたい。
看守眼*横山秀夫
- 2004/04/13(火) 19:30:57
短歌という爆弾*穂村弘
- 2004/04/12(月) 19:29:25
LAST*石田衣良
- 2004/04/11(日) 19:27:48
グロテスク*桐野夏生
- 2004/04/09(金) 19:26:16
☆☆☆・・
光り輝く、夜の私を見てくれ。
堕落ではなく、解放。敗北ではなく、上昇。
昼の鎧が夜風にひらめくコートに変わる時、
和恵は誰よりも自由になる。
一流企業に勤めるOLが、夜の街に立つようになった理由は何だったのか。
(帯より)
帯の惹句は作品のほんの一部分を現わしているに過ぎない。
「グロテスク」このタイトルから想像できるとおりのグロテスクな最期を女たちは何故選ぶのだろう。女たちだけではないかもしれない。男たちもまた、であろう。
生きると言うことは それほど日々闘わねばならないことなのだろうか。自分よりも優れる者と、自分より劣る者と、他者と闘う自分自身と。
負の相乗効果というものは きっと存在するのだろう。この本から それはゆらゆらと立ち上ってくるようだ。なんともやりきれない読後感である。
ニシノユキヒコの恋と冒険*川上弘美
- 2004/04/06(火) 19:24:28
☆☆☆・・
女には一も二もなく優しい。姿よしセックスよし。
女に関して懲りることを知らない。
だけど最後には必ず去られてしまう・・・とめどないこの世に、
真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、
交情あった十人の女が思い語る。
はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる。
著者初の連作集。 (帯より)
いろいろな場面でいろいろな年齢のニシノユキヒコが女の人に優しくしている。
優しくされている。なめらかにとらえどころのない様子で。
いつも、いつもいつも 本当のところでは女の人を愛せないのをわかっていて それでも愛そうとする。世界はとめどない。ニシノユキヒコに関わった女の人たちはみな 不幸そうには見えないが 哀しそうな困った様子に見える。
次から次へと恋人を取り替え女を抱くニシノユキヒコ。
なんということもなくニシノのなめらかさに抱かれてしまう女たち。
共感はできず、嫌悪感さえ持ちそうな状況であるわけなのだが とろとろとした生温かい何かが流れているためにそれができない。心外である。川上マジックかもしれない。
可哀想なニシノユキヒコ。可哀想な彼に関わった女の人たち。
幻夜*東野圭吾
- 2004/04/04(日) 19:22:53
☆☆☆☆・
彼女は一体誰なのだ。
あの大震災の朝以来、俺と苦難を共にしてきた女。
(帯より)
なんと理不尽な結末であることか!
だが人の世の現実はこんなものなのかもしれないとも思う。
それにしても 嗚呼・・・と言いたい気分。
構成はと言えば 524ページという分量を感じさせない見事さで 次は?次は?とぐいぐい惹き込まれる展開である。
ピラミッドの頂点を語るのに 四方の隅から少しずつ積み上げていくような感じとでも言えばいいのだろうか。包囲網をじりじりと狭め獲物を追い込んでいく狩人のような興奮と言うのだろうか。
あぁ、今から何もかも暴かれるぞ!と固唾を飲んで目を見開いていたところへ この結末である。
少しばかり消化不良感で地団太踏みたい心持ちにさせられる。
それが狙いですか?東野さ~ん。
月の扉*石持浅海
- 2004/04/02(金) 19:21:39
☆☆☆・・
国際会議を控え厳戒態勢下にある那覇空港でハイジャック事件が起きる。
犯人グループの要求は「無実の罪で那覇警察に留置されている師匠を空港の滑走路に連れてくる」こと。
現代社会に適応できずに虐めにあったり不登校になったりする子供たちに 短期間のキャンプで生活を共にすることで 自分を取り戻させ元の社会に戻れるようにしてしまう師匠。しかも彼はなんの損得勘定も持たず 自分がしたいから子供たちと遊び、話し、生活を共にしているだけだというのだ。そして今の社会は そんな人からも悪意の芽を無理矢理に感じ取ってしまうのだ。自分本位の悪意の芽を。
計算上可能な限り長い間月が地球に隠れている皆既月食の晩、死なずに再生の世界へ行く扉を開くことができるという師匠の言葉を心底信じた者たちの哀しさがそこにはある。
常識で考えればあり得るはずのないことなのかもしれないが この師匠の無欲の生き様を見ていると あちらの世界に上手く行けますように と思わず知らず祈っている自分を見つける。人はみな 信じるものを欲しがる弱いものなのだと思い知る。
見えないドアと鶴の空*白石一文
- 2004/04/01(木) 19:19:05
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