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ホテルカクタス*江國香織
- 2004/05/30(日) 20:38:22
☆☆☆・・
佐々木敦子さんの油絵による挿画と共に楽しむ一冊。
ある街の東の外れに、ふるいアパートがありました。
ふるい、くたびれたアパートです。
灰色の、石造りのその建物は、でも中に入るとひんやりとして、
とても気持ちがいいのでした。
ホテル・カクタス、というのが、このアパートの名前でした。
ホテルではなくアパートなのに、そういう名前なのでした。
(本文冒頭より)
このホテルカクタスには 帽子ときゅうりと(数字の)2 が住んでいるのです。この物語はホテルカクタスで出会ったこの三人の不思議な友情の物語なのかもしれません。でも違うかもしれない。ホテルカクタスそのものの物語なのかもしれません。
階段の空間の不思議さが見えてくるような挿画と一緒に ホテルカクタスのひんやりしたふるくくたびれた感じを一緒に味わっていただきたいと思います。
ドミノ*恩田陸
- 2004/05/29(土) 20:36:54
☆☆☆☆・
迫りくるタイムリミット もつれあう28のマトリクス
必死の思いでかけまわる人々が 入り乱れぶつかりあって
倒れ始めたドミノはもう、誰にも止められない!!
(帯より)
それはそれは大変なことが起こっている東京駅である。
笑いあり涙ありアクションありちょっぴり謎ありのドタバタコメディ。
本編に入る前に
――人生における偶然は、必然である――。
とあるのが この物語の全てを物語っていると言っても過言ではない。いや、人生をも物語っているとも言えるだろう。
自分とはかかわりのないどこか遠くで 一片の小さなドミノが倒れたらもう それが始まりなのだ。行き着くところまで行かないとドミノの駒は止まらないのである。始まりがいくら些細なことだったとしても。
二時間ドラマかなにかで観てみたい一冊である。
誰か作ってくれませんか?
キャベツの新生活*有吉玉青
- 2004/05/28(金) 20:35:44
語り女(め)たち*北村薫
- 2004/05/26(水) 20:34:24
象と耳鳴り*恩田陸
- 2004/05/25(火) 20:33:18
烙印*貫井徳郎
- 2004/05/23(日) 20:31:59
☆☆☆・・
烙印
愛し合っていた筈の妻が突然失踪し、投身自殺する
なぜ、どうして?
警察を辞め、単身真相究明に乗りだした主人公の前に、
暴力団の影が!!
(帯より)
暴力団がらみなのでもちろん暴力シーンはあるのだが、元々の謎解きの動機が純粋な愛だからか 殺伐とした印象はない。夜の世界で生きている人々の裡にある屈折した思いや一筋縄ではいかない様も謎解きを面白くしていると思う。
うぅむ、後東さんは 巻き込まないで欲しかったなぁ。
秋の花*北村薫
- 2004/05/22(土) 20:31:02
☆☆☆・・
『空飛ぶ馬』『夜の蝉』に続く 円紫さんと私シリーズ第三弾。
[私]が卒業した女子高で起きた事件(事故?)に関わる物語である。
ミステリィでは当たり前の人が死ぬということがこのシリーズには珍しい。なので シリーズの他の作品に比べて詩的に流れるような感じが薄かったように思う。円紫さんの謎解きも当然のことながらうきうきと微笑ましいものではなく真実を明るみに出すことよりも その後のことを深く思っている様子が見て取れる。
ただ どの作品を読んでも どんなことでも 知ろうと思えばヒントは辺りにころがっているのだということに気づかされる。わからないのは知ろうとしないからなのだ。きっと。
ただ これは単なる個人的なわがままなのだが 北村さんには人を殺して欲しくない。
パーフェクト・プラン*柳原慧
- 2004/05/21(金) 20:29:48
魔球*東野圭吾
- 2004/05/19(水) 20:28:27
☆☆☆☆・
魔球
ずば抜けた才能を持ち、無名の高校を春の選抜高校野球で準優勝に導いた須田武志にまつわる物語と 地元の有力企業 東西電気の物語とが 章ごとに交互に語られながら始まるが、やがて一本の物語になる。
武志の生い立ちからくる孤高さ、母と弟への熱い想いなどの描写も素晴らしい。そしてなにより あちこちに散らばる(散らばしているのは作者なのだが)要素を巧みに絡めて真実と言うたった一つの頂点に登りつめる過程が見事である。
魔球のような一冊だった。
九月の四分の一*大崎善生
- 2004/05/18(火) 20:26:47
レインレイン・ボウ*加納朋子
- 2004/05/17(月) 20:25:22
☆☆・・・
高校卒業から7年経って 当時のソフトボール部の仲間7人が久々に集まったのは同じソフトボール部員だった一人の通夜の席だった。
牧知寿子――通称チーズ――の突然の死によって集められた高校時代の部活仲間。7人それぞれが主人公となり、自分の選んだ道をそれぞれに歩いている現在を軸にして過去を絡めつつ語る7つの物語。そして最後には 最も親しかったにもかかわらず通夜にも告別式にも姿を見せなかった8人目の仲間を巡るひと騒動により思ってもいなかったチーズの秘密も明らかになる。
関わり方の度合いによって人の見方は千差万別だということ、ひと括りにされるものにもそれぞれの営みがあるということ、9人の元ソフトボール部員達の生き様には興味深いものもあるが 読後なんとなく満たされなさが残る。
puzzle*恩田陸
- 2004/05/15(土) 20:24:08
慟哭*貫井徳郎
- 2004/05/14(金) 20:23:26
神との対話*ニール・ドナルド・ウォルシュ
- 2004/05/13(木) 20:21:04
☆☆☆・・
谷川俊太郎さんが「心の最も深いところへ届いて感銘した本」と紹介していらしたのが読むきっかけになったもの。
サブタイトルは
――宇宙をみつける 自分をみつける――
何故自分の人生は上手く行かないのか?と神に真実を問うていた著者のもとに神が降りてきてこの本を書かせたという。
これまで考えられていたり 教えられたりしてきた「神」という概念を揺るがすものである。少なくとも私にとっては。
人は神が己を見るために創った者であり、予め何でもできるように創られているのだと言う。できないのは自分が選択しないだけなのだ、と。
普段から宗教観を胸に抱いて過ごしていない者には 一読では理解しがたいことが多く、考えてもよく解らないことも多いのだが、「そういえば」と納得のいくことも多いのである。
自分の中で発想の転換をするきっかけにできればいいと思う。言うは易く行うは難し、なのであるが。
地下街の雨*宮部みゆき
- 2004/05/12(水) 20:20:03
アヒルと鴨のコインロッカー*伊坂幸太郎
- 2004/05/11(火) 20:17:26
☆☆☆☆・
わたしは辞書を一ページも開かないうちに、
「(アヒルは外国から来たやつで、鴨はもとから日本にいるやつ)」
と答えた。そう聞いた覚えがあったのだ。
(本文より 註:( )内は英語で語られているという表記)
パズルのような組み立ての作品。
あっちの隅の一片、こっちの端の一片・・・と時間軸を行ったり来たりしながらピースをひとつずつ埋めていく。どこにどう繋がるのか初めは戸惑うが次第次第に現れる事実の部分が増えていき、次のピースへの期待が高まる。伊坂作品の特徴かもしれない。
哀しい物語である。成就するものが何もない。作品中のどこにも、ひとつも。
けれどなぜか読後感はやわらかい。なぜだろう。今はよくわからない。
人は 誰かの物語の途中から役を与えられた登場人物なのだ。自分ではない誰かの物語の登場人物の一人。物語はそれぞれにあり 複雑に絡み合って進行していく。毎日たった一人で何役もこなさなくてはならないのだ。上手くやれない役だってあって当然だよね、と思う。
号泣する準備はできていた*江國香織
- 2004/05/09(日) 20:14:48
宿命*東野圭吾
- 2004/05/08(土) 20:13:11
☆☆☆・・
犯人は誰か、どういうトリックか―手品を駆使したそういう謎もいいけれど
もっと別のタイプの意外性を創造したいと思いました。
このような題名をつけたのも、そういう意図のあらわれです。
そして今回いちばん気に入っている意外性は、ラストの一行にあります。
だからといって、それを先に読まないで下さいね。
(著者のことば)
東野さんのことばどおりの作品。
あぁ そうだったのか、と頷かされるラストである。
半ばくらいではもっとドロドロした糸(意図)を想像したりもしていたのだが 東野さんはそれほど人が悪くなかったようだ。
結局根本は何も解決されてはいないのだが なぜか未来は明るいような気がしてくるのは 晃彦の気持ちの変化ゆえだろう。
三月は深き紅の淵を*恩田陸
- 2004/05/07(金) 20:11:54
☆☆☆・・
『三月は深き紅の淵を』という謎の多い小説をめぐる四部作。
そもそもこの作中の『三月は深き紅の淵を』という小説が四部作なのであり その容れ物であるこの作品も四部作、という入れ子状態。
しかも入れ子状態はこれだけではなく 作品のあちこちに ちらりちらりと姿を見せるものがあるのである。恩田作品を多く読んだ方には思い当たる節が多々あり うぅぅんと唸らされることも多いだろう。
喩えて言うなら、やっとの思いで迷路を抜け出し 深呼吸して空を見上げようとしたら そこはそれまでよりももっと深い迷路の中だった。そしてまたやっとのことでそこを抜け出し ため息を吐きつつ背筋を伸ばそうとすると そこはまたそれまでよりもっともっと入り組んだ迷路の中だった。そしてまた・・・・・。という感じだろうか。愉しい。
メジロの来る庭*庄野潤三
- 2004/05/05(水) 20:10:08
Linemarkers*穂村弘
- 2004/05/04(火) 20:04:22
☆☆☆・・
――ラインマーカーズ――
歌が沢山入った本です。
大学生のときに初めてつくった歌からさっき台所でつくった歌まで。
全てのなかから四〇〇首を選んで一冊にまとめました。
甘い歌。
悲しい歌。
くすぐったい歌。
優しい歌。
痛い歌。
どこからでも開いて、眺めたり、口ずさんだり、忘れたり、
思い出したりして貰えると嬉しいです。
(あとがきより)
ラインマーカーで描かれた表紙からしてポップである。
けれども ポップであるということは 軽いということではない。
見つめる目 を持った方だと思う。
歌人でも俳人でも詩人でも 言葉を紡ぐ人たちに共通しているのは 見つめる目・感じる心・切り取る感覚が鋭くしかも優しい ということではないだろうかと思う。
[穂村先生]と呼ぶべきなのだろうけれど つい[ほむほむ]と呼びかけてしまいそうになる感じも怖いけれど嬉しい。
天の瞳 あすなろ編*灰谷健次郎
- 2004/05/03(月) 20:03:07
デジタル・ビスケット*荻原裕幸
- 2004/05/02(日) 20:01:51
☆☆☆・・
デジタル・ビスケット―荻原裕幸歌集
第一歌集『青年霊歌』 第二歌集『甘藍派宣言』
第三歌集『あるまじろん』 第四歌集『世紀末くん!』
に加えて未刊歌集『永遠青天症』を収録した歌集である。
今現在進行形で進んでいる催し【題詠マラソン2004】に投稿される荻原裕幸氏の短歌とこれらとは 少し作風が違うように私には思える。
この歌集に通底するのもは 「孤独」とか「淋しさ」というものだと思うのだが 投稿作品には それに包み込むような何かが加えられているように思える。短歌素人の私ですら「嗚呼!」とため息を漏らしてしまうのである。
かんたん短歌の作り方*枡野浩一
- 2004/05/01(土) 19:59:32
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