バラバラの名前*清水義範

  • 2004/08/31(火) 14:35:30

☆☆☆・・


 大胆な模倣手法による、とんでもない小説集!!
 日々の生活、何気なくやり過ごす出来事も、
 ほんのちょこっと視点を変えるだけで、
 !! ? !? が見えてくる。

                           (帯より)


表題作は、迷宮構造をもつ文書館を備えた、中世北イタリアの僧院で「ヨハネの黙示録」に従った連続殺人事件が起こる、という『薔薇の名前』(エーコ著)のパスティーシュ(模倣)小説。表題作ほか7編。

ただ単純に可笑しいものあり、ピリッと捻りがあって痛快なものあり、ほほぅ..と着眼に関心させられるものあり。寛いだ心持ちで一気に読めてしまう一冊。文句のないエンターテインメントである。

閉鎖病棟*箒木蓬生

  • 2004/08/30(月) 14:29:08

☆☆☆☆・


 異常の烙印を捺され社会から肉親から隔絶されたまま
 流れ流れる果てしない時間が突如として破られた・・・
 とある精神病棟。殺人事件。熱い血と暑い涙。感涙を誘う長編

 澱んだ日常を切り裂いたナイフの主は、あくまで平静に、
 あくまで従容として裁きの日を待っていた。
 いったい何故?理由を知っていたのは二人の患者のみ。
 閉じだ空間のなかで彼らは考え、そして行動した・・・・・。

                           (帯より)


物語は それぞれ異なる時代に幾人かの人々の引き起こしてしまったやるせない罪の物語から始まる。
そして 精神病院の病棟へと舞台は移るのである。
外界からすっかり隔絶された閉鎖病棟ではなく 生活も外出もある程度自由である準開放病棟であっても、世間から――極端に言えば身内からさえも――ある意味では閉ざされた空間なのだ。そんな中でも 患者たちは退院の日を思い 懸命に暮らしているのである。
互いに必要とし 必要とされる、という気持ちは外の世界にいる者よりも もしかすると強いのかもしれない。そんな中で起こってしまった殺人事件なのである。しかし この殺人事件そのものがこの物語のハイライト というわけではない。起こってしまったこと事態は悲しむべき出来事であはあるが、そこに至る過程は涙を誘うものである。自分を捨てても大切なものを守ろうとするかけがえのない気持ちが溢れているのだ。声を荒げることもなく静かに穏やかにひたひたと。それは 困難な何かを乗り越えてきた故の静けさ穏やかさなのではないかと思われる。人を救うことは自らを救うことに通じるのだろう。

チルドレン*伊坂幸太郎

  • 2004/08/29(日) 14:27:58

☆☆☆☆・


 こういう奇跡もあるんじゃないか?
 まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。
 信じること、優しいこと、怒ること、それが報いられた瞬間の輝き。

 ばかばかしくて格好よい、ファニーな「五つの奇跡」の物語。

 短編集のふりをした長編小説です。
 帯のどこかに“短編集”とあっても信じないでください。
                    伊坂幸太郎

                           (帯より)


陣内と永瀬とその周りの人々とその周りで起こる事々の物語。
そもそも陣内と永瀬が知り合ったのは あるおかしな事件がきっかけだった。現在の陣内は 家庭裁判所の少年担当の調査官である。見かけはかなりレールを外れているが その実、結果オーライという意味で言うならば まっとうな調査官と言えなくもないのである。地球は自分を中心に回っている と公言しそうなほど周りのことなどお構いなしなのだが 時に見せるまっとうの中のまっとうさとでもいうべき振る舞いゆえに 憎めないやつなのである。いや、魅力的でさえある。
一方の永瀬はといえば 生まれた時から全盲であるにもかかわらず 世を拗ねたところもなく 冷静沈着で 視覚情報が得られない分 その他の感覚をフル回転させて その場の状況を判断し 推測する術を身につけている。目に映ることが如何にあてにならないかを静かに教えられるようである。陣内とはまったく違う魅力に溢れている。

何か特別なことをしているわけではないのだが 接する人々の心のどこかにいつの間にか働きかけて染み込んでしまい じんわりさせるものを きっと彼らは持っているのだろう。
泣きたくなるような 笑ってしまうような ほんのりと胸に温かみの残る一冊である。

きよしこ*重松清

  • 2004/08/28(土) 14:26:49

☆☆☆・・


 伝わるよ、きっと。
 大切なことを言えなかったすべての人に捧げる、珠玉の少年小説。

 少年はひとりぼっちだった。
 思ったことをなんでも話せる友だちが欲しかった。
 そんな友だちは夢の中の世界にしかいないことを知っていたから――
 きよしこに会いたかった。

                           (帯より)


吃音の少年の母親から届いた手紙に 直接返事を出すかわりに、「ぼく」が書いた何篇かの短いお話がこの一冊である。
誰もひとりぼっちなんかじゃない。だけど さびしいことかなしいことももある。
心から伝えようと思ったことは伝わるよ、きっと。でもそれは楽ちんじゃないこともある。苦しいこともあるんだ。
ということに 砂に水が染み込むように気づかせてくれる物語。
切ないけれど あたたかい。すべての君に届くといいな、と思う。

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FLY*新野剛志

  • 2004/08/27(金) 14:25:29

☆☆☆・・


 すべてはあの夏の「出会い」から始まった。
 
 恋人を目の前で殺された男が犯人を執念で探し続ける。
 15年の歳月の果てに判明する衝撃の真相!
 気鋭の乱歩賞作家が、心の絆の強さを問う、長篇ミステリー

                           (帯より)


第一章は1985年から始まった。しあわせの予感を無残に打ち砕く第一章の終わり。そして続く第二章は二年後の1987年。すべてが二年前のあの日から狂ってしまっていたのだとこの時点で判る。「復讐」以外の感情を自分の中から排除してしまったような向井広幸の姿がそこにあった。
単純に言ってしまえば 復讐劇なのである。しかし復讐者と被復讐者を取り巻く者たちの思惑、信頼、興味、苛立ち、その他 様々な感情が絡み合って 物語を複雑に魅力的にしている。結局 いちばんの悪者は誰だったのだろう。そして広幸は背中に羽を持つことができるのだろうか。

遭難者の夢*天童荒太

  • 2004/08/25(水) 14:24:06

☆☆☆☆・


――『家族狩り 第ニ部』

 あの日の光景をふり払おうと酒に溺れていた浚介は、
 さらなる痛みを味わう。
 游子は少女をめぐり、その父親と衝突する。
 亜衣は心の拠り所を失い、摂食障害から抜け出せずにいる。
 平穏な日々は既に終わりを告げていた。
 そして、麻生家の事件を捜査していた馬見原は、
 男がふたたび野に放たれたことを知る。
 自らの手で家庭を破壊した油井善博が――。
 過去と現在が火花を散らす第二部。

                       (文庫裏表紙より)


自分がどうやって生きていられるのかということを 真剣に突き詰めようとすればするほど 偽善と矛盾に苛まれることになる、ということを ほとんどの大人は気づいているにもかかわらず 気づかない振り 見ない振りをしているのが現状ではないだろうか。そんな偽善や矛盾に真っ向から目を合わせてしまった者の苦しみは 抜け出すことのできない無間地獄のようなものであろうことは 想像に難くない。そして そんな風に苦しむのはたいていの場合 純粋な若い者たちなのであり それ故苦しみはより深いものとなるのであろう。
世渡りが上手くなってしまった大人たちには そんな若者たちの心の叫びが もはや届かなくなっているのかもしれない。

浚介は どうもまた厄介な場所に近づいているようだし、馬見原は 何かに引っかかっているようだ。第三部での展開が気が重くも楽しみである。


 # 第一部 『幻世の祈り』 の覚え書きは 8/17に。

グラスホッパー*伊坂幸太郎

  • 2004/08/24(火) 14:22:43

☆☆☆・・



 コメディ?シリアス?サスペンス?オフビート?
 分類不能な「殺し屋小説」の誕生!

 「僕は、君のために結構頑張ってるんじゃないかな」(鈴木)
 「亡霊としての節度はないのか?」(鯨)
 「おまえさ、人としじみのどっちが偉いか知ってるか?」(蝉)

                           (帯より)


密集した場所で育つと『群集相』と呼ばれるタイプになるという。バッタは餌が足りなくなり、緑ではなく黒くなり 翅も長く凶暴になるのだそうだ。
「群集相は大移動して、あちこちのものを食い散らかす。仲間の死骸だって食う。同じトノサマバッタでも緑のやつとは大違いだ。人間もそうだ」
これがタイトル・グラスホッパー=バッタ の由来なのだろう。

非合法な会社の非人間的な社長とその息子が発端となり 何種類もの殺し屋が雇われ 殺し合う。誰のために?何のために?淡々と描かれる殺しの場面には気が塞がれるし 職業と割り切って殺しをする神経には慣れることなどできないが それぞれが胸の内に抱えるものは 他の人たちと何ら変わらないということに 安心もし恐れもする。

そしてこの作品にも伊坂作品のテーマとも言える「神様のレシピ」がまた出てくる。不幸な巡り合せ と思われたものも 実は大いなる力の采配かもしれないのである。なぜか吸い寄せられるようにその時その場にいるのだ。
上記の帯の惹句にもあるように コメディとかサスペンスとかという分類に属さない新しいタイプの作品と言えるのではないだろうか。

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フォー・ディア・ライフ*柴田よしき

  • 2004/08/23(月) 14:21:27

☆☆☆・・


 新宿の夜を走りつづけろ!眠れない男の 新・探偵物語

 無認可保育園の園長にして、ヤバイ仕事も引きうける私立探偵。
 ふたつの顔を持つ主人公が、裏社会に生きる男と女の
 欲望の海に立ち向かった!

 チンピラの少年をヤクザから救出しなければいけない!
 家出した女子中学生を探さなければいけない!!
 そして、24時間営業の無認可保育園を
 運営しなければいけない!!!
 愛すべき私立探偵、花咲慎一郎の大・大苦闘。

                           (帯より)

東直己の世界の新宿版風な一冊である。
主人公の園長探偵・花咲の裏社会の端っこにはいても自分に嘘はつかない(つけない?)姿勢が 裏社会に引きずり込まれないところでバランスを保っているのだ。
だらしないのかカッコイイのかよくわからない花咲のキャラクターが魅力である。

タイトルの fora dear life とは 「一生けんめい」「命からがら」などの意味があるそうだ。まさにタイトルどおりの物語である。

それにしても 柴田よしきさんという作家は とても幅広い作風を描き分けるかただと改めて感心する。

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天国はまだ遠く*瀬尾まいこ

  • 2004/08/22(日) 14:20:12

☆☆☆☆・


 誰も私を知らない遠い場所へ――そして、そこで終わりにする。
 ・・・・・はずだったけど、たどり着いた山奥の民宿で、
 自分の中の何かが変わった。
 私、もっともっと生きていけそうな気がする。

 ここにはたくさんの星、たくさんの木、山に海に風がある。
 でも、寂しかった。
 すてきなものがいくらたくさなっても、ここには自分の居場所がない。
 するべきことがここにはない。だから悲しかった。
 きっと私は、自分のいるべき場所から、うんと離れてしまったのだ。
 そう思うと、突然心細くなった。まだ、そんなことに気づかずにいたい。
 本当のことはわからずにいたい。だけど――。

                           (帯より)


仕事にも日常にも追いつめられ もう死ぬしかないとまで思いつめ、最期の場所を求めて北へ向かった 23歳の山田千鶴がこの物語の主人公。
日々に追われ一点しか見られなくなると往々にしてこういう状況に陥るものだということは とてもよく理解できる。その時その時は それがすべてであり そのために命を削っているのだと思う。死ぬ気になれば怖いものなど何もない どんなことでもできる、とはよく言われる言葉だが それまでと同じ生活の場にいるままでそれを要求されるのは 崖っぷちに立つ人の背中を押すことにも等しいことなのだろうと思う。酷なのだ。
そんな千鶴にとって [民宿たむら]のある木屋谷はまるでやさしく抱き止めてくれる天国のような場所だったのだ。でもいくらすばらしい場所でも ほんものの天国ではないそこには千鶴のいる場所はない、ということに気づいてしまった時 たぶん彼女は現実世界へと生き返ったのだ。
いつでも訪ねて行くことのできる天国を持てた千鶴は きっとこれからも何度も躓きながら上手くやっていけることだろう。

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Close to You*柴田よしき

  • 2004/08/21(土) 14:18:43

☆☆☆☆・


 誰かが俺たちを憎んでる

 マンションという「社会」の中で孤立するエリートの共働き夫婦。
 彼らを次々と襲う災厄――オヤジ狩り、放火、そして誘拐事件。
 日常にひそむ恐怖を描くミステリー

 あんたたちの考えはいつだってそうだ。
 楽をしている専業主婦連中の分まで
 たくさん税金を払っているんだから、
 自治会の総会に出たり、ゴミ出しの汚れを掃除したり
 そんなくだらないことはやっていられない。
 あんたらは、インテリの共稼ぎ夫婦という名前の特権階級で、
 それはつまり新しい形の寄生虫なんだよ、この社会のな。

                           (帯より)


人はひとりで生きているわけではないし 生きられるはずもない、ということを 誰しも頭では理解しているだろう。しかし理解することと感じること、そして実際の行動とは矛盾することも多いのである。一見非生産的で退屈そうな日常生活で足場を固めていないと 思わぬ罠に陥ることもあるのだ、ということを思い知らされる。
ミステリーは日常にいくらでもある。

13階段*高野和明

  • 2004/08/20(金) 14:17:28

☆☆☆☆・


 無実の死刑囚を救い出せ 期限は3ヵ月、報酬は1000万円

 喧嘩で人を殺し仮釈放中の青年と、
 犯罪者の矯正に絶望した刑務官。
 彼らに持ちかけられた仕事は、
 記憶を失った死刑囚の冤罪を晴らすことだった。

                           (帯より)

2001年度の江戸川乱歩賞を 選考委員の満場一致で受賞した作品。
「死刑」ということについて 改めて考えさせられる一冊だった。
そしてひとつの犯罪、とりわけ殺人事件は それが行われた瞬間から 犯人・被害者はもちろんのことその周囲にも強度も深度も濃度もさまざまな影響が及ぶのだということを やるせなさや憤りと共に考えさせられた。それは たとえ殺人を犯したものが罪を償って出てきたとしても いつまでも消えることのない影響力なのである。
さらに 「冤罪」ということについても 考えさせられる。人間の手は神の手ではない。完璧な自信の上に立って人が人を断罪することはできるのだろうか。些細なタイミングのずれが冤罪を生むかもしれないということは 忘れられてはいけないことだと強く思う。

数々の伏線、度重なるどんでん返し、心理の綾。著者の「この本を手に取ってくださった皆様方に、少しでも楽しんでいただければと祈るのみです。」という言葉のとおり 充分に楽しませてもらったし 考えさせてももらった。

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0 ゼロ*柴田よしき

  • 2004/08/19(木) 14:16:17

☆☆・・・
0(ゼロ)

 「口にダイナマイトをくわえさせて火をつけたら、
 こんな感じじゃないかね」
 東京都下で頭部を木端微塵に吹き飛ばされた死体が、
 相次いで発見された。
 不思議なことに、首から下には外傷がまったくない。
 この異様な連続殺人は人間の仕業か?それとも・・・
 10(テン)から0(ゼロ)へ。日常に溢れるカウントダウンの数々が、
 一転、驚天動地の恐怖を生み出す新感覚ホラー!

                        (文庫裏表紙より)

私は未読なのだが『指』という作品の続編――一年後――という設定らしい。
この世のものとは思えない不可解な存在の力によって次々に引き起こされる異様な殺人は読むだにおぞましいものである。その割にその狂ったような悪意の存在の意味とか意志とかがもうひとつ弱いような気がするのは 単に私がホラーがあまり好きになれないからかもしれない。

15秒*安東能明

  • 2004/08/18(水) 14:15:01

☆☆☆☆・


午前5時を期して 時間が15秒遅れた。
発端はたったそれだけのことだった。
それによって人が死ぬなどということは 誰が考え得ただろうか。しかし たしかにそのたった15秒によって何人もの人間が命を落としたのである。

そもそも時間とはどこで誰が決めるのか?
電話やテレビなどの時報もすべてが正確に一致しているわけではないと言う。時計を見せずに生活させると 人間は一日を25時間として動くようになるとも言われる。時間とは一体何なのだろう。
こんなにも不確かであるにもかかわらず 日常からなくすことのできない時間というものを 乗っ取ることができるとしたら 人はどうするだろうか。そして時間を乗っ取られたら世界はどうなってしまうのか。
限りなく荒唐無稽で観念的な「時間」というものが素材とされながら 鉄道・ケーブルテレビ・病院というきわめて日常的な場面として描かれているのが いっそう不気味さを掻き立てる。
足もとを掬われそうな一冊である。

幻夜の祈り*天童荒太

  • 2004/08/17(火) 14:13:27

☆☆☆☆・


――まぼろよのいのり、『家族狩り 第一部』

 『永遠の仔』から5年、沈黙はこの物語に結実した。
 「新・家族狩り」5部作、誕生!
 ――2003年4月。教師、刑事、児童相談所職員、
 3つの生が交錯し、悲劇のかなたに救済へ続く道が姿を現す――。
 人間の哀しさ、醜さ、気高さ、そのすべてを描く“魂”の物語!

                           

高校教師・巣藤浚介、刑事・馬見原光毅、児童相談センターの心理職員・氷崎游子。彼ら三人とその生活――特に仕事上――に交わってくる人々を通して 世の中の幸不幸・善悪に対する考えの不確かさを 霞の向こうから浮かび上がらせている。日増しに激化する事件や犯罪の根は 突き詰めていけば ひとつの命が人間として育まれてゆく場としての家族の在り様に辿り着くのではないのか。

文庫としては珍しい五部作の第一部として書かれた作品。
心に重く痛いが 読み進まずにいられない何かがある。
但し、パワーがあるときに読むことをお薦めする。

象牙色の眠り*柴田よしき

  • 2004/08/16(月) 14:12:19

☆☆☆・・


 猜疑・憎悪・復讐
 富豪・原家を舞台に次々と起こる不幸な殺人事件。
 危うい家族の絆。疑惑の崖に追いつめられた家政婦・工藤瑞江。
 原家の16歳の二男・祥と家政婦だけが知る衝撃の真実とは・・・。

                           (帯より)


複雑な関係の原一家の人々に 絆と呼べるようなものはなかったかわりに ことさら殺したいほどの憎悪もなかったように見える。そこで起こった一連の殺人 あるいは殺人未遂事件が 家政婦 瑞江の目を通して語られる。
信頼できるのは誰なのか。真実を話しているのは誰なのか。それぞれが勝手に自分に都合のいいように事実を脚色しているのではないかと 読み進むうちに疑心暗鬼に陥る。
結末は少々消化不良気味であるが 現実とは得てしてこんなものかもしれない。

Q & A*恩田陸

  • 2004/08/15(日) 14:11:13

☆☆☆☆・


住宅街の大規模ショッピングセンターで ある休日に起きた事故(事件?)についての [問いと答え]だけで作られた作品である。

選ばれた何人かに問い、答えを引き出すことによって 事故あるいは事件の見えないピースをひとつずつ埋めていく作業を 読者は見守っているのである。あるピースが収まる場所に嵌ることによって それまで意味をなさないように見えていた別のピースが突然意味を持つようになったり 見逃されそうな手掛かりからピースが嵌るべき場所を見つけ出したりしながら 真実にじわじわと近づいていく。
だが これが真実だ、というような解答は最後まで示されず 読者おのおのが 提示された問いと答えから推し量らなければならない。すっきりしないもどかしさも残るのである。
とにかく こんな趣向の作品は初めてで 胸がドキドキしたのだった。

晩鐘 上下*乃南アサ

  • 2004/08/14(土) 14:09:58

☆☆☆☆・



9日付で書いた『風紋』の続編。風紋の7年後である。

 かけがえのない人をもぎ取られた心の傷は癒えるのか。

 殺人事件が引き起こす悲劇の連鎖。

                          (帯より)


ぜひ 『風紋』をまず先に読んで欲しい。『風紋』なくしては『晩鐘』はありえないのだから。

7年経とうが 何年経とうが 失ったものは帰らない。命はもちろん 信頼・安心・団欒 その他のいろいろ。ひとつの犯行は明らかに目に見える あるいは目に見えないほど小さな波紋を起こしいつまでもどこまでも連鎖する。事件を知っている人にだけではなく まったく知らなかった幼い者たちにまで その忌まわしい連鎖は忍び寄り 羽交い絞めにするのである。むごい、理不尽だ、と憤ろうがどうしようが。

心の中にざらざらと小砂利が入り込みずんと重くなるような小説である。それでも ときには真裕子になり またときには建部になり、そして大輔になりして読み進んだ。上下巻併せて1200ページを越える作品は 私を放すことはなかった。

救いのない辛すぎる物語であるが、ただひとつの救いは 真裕子が建部によって救われかけている ということだろう。だがしかし、この物語には建部がいるが 実際に毎日のように起こっている事件の現場には 建部はいないのだ。

加害者以外はすべて被害者だという作者の言葉がいまさらながら 胸に重い。

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背く子*大道珠貴

  • 2004/08/12(木) 14:08:45

☆☆☆☆・


春日(かすが)という幼い――3歳から6歳まで――少女の心で語られる 胸を締めつけられるような物語である。

自己の基礎を築くべき幼児期に 不当な扱いを受けた時 幼い者はどうしたらいいのだろうか。春日はひたすら学習し その場面で自分はどうするのがいちばん波風が立たないかを考えるようになる。大人は 子どもを[子ども]としか意識せず、それぞれ個性を持った人格とは認識していないことが多い。子どもは 大人が思うよりずっと正確に周りの世界を認識しているというのに。そのギャップが理不尽で大きいほど 子どもにとっては生きにくいのではないだろうか。
春日は しかし、拗ねたりひねくれたり 恨んだりすることなく ただ物事の本質を学習していく。いじらしく切なく哀しい。そしてたくましくもある。
『背く子』というタイトルはどういう意味でつけられたのだろう、と考えてみる。春日は父にも母にも周りの理不尽な大人たちにも反抗するわけではなく その行動から自分なりの規範を作っているのだ。では 「背く」のは何に対してなのだろう。大人が勝手に作り上げた「子どもらしさ」というひと括りにされるものに対して背いているのではないかと 解釈した。あまり自信はないのだが。
自分が大人になったとき 春日は幼い者たちを どんな風に見つめるのかとても気になる。読み進むのが辛い一冊だった。

家守綺譚*梨木香歩

  • 2004/08/11(水) 14:07:19

☆☆☆☆・



 たとえばたとえば。サルスベリの木に惚れられたり。
 床の間の掛け軸から亡友の訪問を受けたり。
 飼い犬は河童と懇意になったり。
 白木蓮がタツノオトシゴを孕んだり。
 庭のはずれにマリア様がお出ましになったり。
 散りぎわの桜が暇乞いに来たり。
 と、いった次第の本書は、四季おりおりの天地自然の「気」たちと、
 文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる
 新米精神労働者の「私」と、
 庭つき池つき電燈つき二階家との、のびやかな交歓の記録である。

                           (帯より)

ついこのあいだ、ほんの百年すこしまえの物語。だそうである。
不可思議な世界に迷いこんだような心地になるが 人間界とその他の生き物の世界、あちらとこちら。そこには明確な隔たりなどないのではないかと思わされる。気にしないから気づかない。気づかないから目に映らないだけで 日常のそこここに あちらへとつながる道の入り口が開いているのではないか。気味が悪いと言い捨ててしまえばそれきりだが 自然界の一員として こんな毎日に抗わずに暮らすのも悪くはないのではないかと思ってみる。

川上弘美さんの不思議世界に通じるものがある。

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図書館の神様*瀬尾まいこ

  • 2004/08/10(火) 14:06:08

☆☆☆・・


 この出会いは、神様のはからいとしか思えない!
 
 思い描いていた未来をあきらめて赴任した高校で、
 驚いたことに〈私〉は文芸部の顧問になった。・・・・・
 「垣内君って、どうして文芸部なの?」
 「文学が好きだからです」
 「まさか」!
 ・・・・・清く正しくまっすぐな青春を送ってきた〈私〉には、
 思いがけないことばかり。
 
 不思議な出会いから、傷ついた心を回復していく再生の物語。

                           (帯より)


ひと言で言うならば 「正しさ」ということについて考えさせられる物語である。ただひたすらまっすぐにがむしゃらに正しいことが 人間として最良のこととは言い切れないということ。ときに「正しさ」は――狭量な正しさと言い換えてもいいかもしれないが――他人を 想像もできないほど傷つけてしまうものだということが 哀しく切ないほどよくわかる。
そんな哀しい「正しさ」で生きてきた主人公 早川清(きよ)にとって たった一人の文芸部員である 垣内君の存在は 神様にも値するものだったかもしれない。
清の「正しさ」は 垣内君との一年の間に 少しだけ容量の大きな遊びのある正しさに変化し始めたように思う。
「正しさ」を闇雲に振り回すことが 周りを正しいことに導くことにはならないという思いを 新たにした。自戒をこめて。

風紋 上下*乃南アサ

  • 2004/08/09(月) 14:04:59

☆☆☆☆・


 犯罪被害者に限定して言えば、事件の加害者となった
 人間以外はすべて、
 被害者になってしまうのではないかと、私はそんなふうに考えている。
 そして、その爆風とも言える影響が、果たしてどこまで広がるものか、
 どのように人の人生を狂わすものかを考えたかった。
                        ・・・・・乃南アサ



夫婦間・親子間に何も問題がないわけではないが それなりに普通のつもりで生活していた一家が 母が殺されるという絶対的に普通ではないひとつの事実によって人生を変えられていく。
そして人生を変えられるのは被害者の家族のみならず 加害者の家族もまた同じなのである。そしてその親族もまたその影響に呑み込まれていく。

捜査のあり方、報道のあり方、噂の無責任さ。また報道の受け止め方にまで思いを馳せた。
ひとつの事件は その事件の近くにいる人々にとって あまりにも大きな力となり 思わぬ遠いところまで波紋を広げるものであることを 改めて思わされた。
残された家族の――とりわけ当時高校2年生だった真裕子の――もどかしさは 想像し尽くせないものであろう。

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思いわずらうことなく愉しく生きよ*江國香織

  • 2004/08/08(日) 14:04:55

☆☆☆・・


 自分のしたことに後悔なんかしないわ。
 結婚して7年の麻子、結婚はしないけれど同棲中の治子、
 恋愛なんて信じていない育子。
 のびやかで凛とした三姉妹の物語。

 いまのところ、理解できる他人とのつながりは、
 友情と信頼、それに肉体関係だけ――三女・育子

 やり甲斐のある仕事と、愛し愛される男性。
 人生に、これ以上何が必要だろう――次女・治子

 そばにいるときよりも離れているときに、
 結婚はその効果を発揮する――長女・麻子

                           (帯より)


本を手にしてまず目を引かれたのは その題字である。

 [思]いわずらうことなく
 [愉]しくいきよ

[ ]で囲んだ文字の[心]のひと粒が涙になっているのだ。それを見ただけでもう タイトルとはうらはらな何かが感じとれる。

性格も考え方も暮らし方も違う三姉妹を描くことで ほんとうに描かれているのは家族のことなのかもしれない。
あたたかく守られていて いつでも帰りたい場所であるはずの家族の暮らす家。それは同時に 不自由で縛られていて逃れられない枷のような場所でもあるのだ。
家族の中だけで過ごす時期を過ぎ 他人と交わるようになって初めて 家族と言うものの特殊性、家族だからこそ共有できる何かに気づくことは多いのだと 改めて思わされた。

三姉妹の誰の暮らし振りにも共感することはできないが 彼女たちの抱える安心感と憂鬱は自分のものとして感じることができる。

虹を操る少年*東野圭吾

  • 2004/08/07(土) 14:00:56

☆☆☆・・


 君にもこの光は届いているか――。
 光の演奏―“光楽”―を通じて、
 子供たちにメッセージの発信をはじめた天才高校生・光瑠(ミツル)。
 その目的を探ろうと、大人たちの魔手が忍び寄るが・・・・・。

 実力派が放つ、傑作ファンタスティック・ミステリー!!

                           (帯より)


耳は音楽を楽しみ、口は食べものを楽しむが、目が純粋に楽しむものはなかった。絵画を鑑賞することなどは 純粋に目の楽しみではなく 積み重ねてきた記憶の琴線に触れて感動することなので 言ってみれば脳の楽しみなのだと言う。それなら目の楽しみとは何だろう?それが光楽なのである。
光を使って人の心に訴えかける方法を見つけ出した光瑠は遠大な構想を立てたのだった。

子どもたち、若者たちは 大人の作った型にはめられることに うんざりし、自分の中の満たされない思いに悶々としている。とは言っても 自ら行動を起こすだけのパワーは持ち合わせていず 誰かが号令をかけてくれるのを無意識の内に待っているのではないだろうか。そんな心の隙間に巧みに忍び込み虜にすることは 光瑠にとって容易いことだったのだろう。
昨今の新興宗教にのめり込む若者たちの姿を見ているような気がしないでもない。人間の弱さと強さを考えさせられるものでもある。

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天使の卵*村山由佳

  • 2004/08/06(金) 13:59:50

☆☆☆☆・


―エンジェルズ・エッグ―

あなたは運命の出会いというのを信じるだろうか。この物語の主人公
一本槍歩太は春まだ浅い池袋へ向かう西武線の中で まさに運命の出会いがあるということを信じたのである。「力いっぱい何があってもこのひとを守り抜きたい」という思いに駆り立てられたのだ。そして思いもかけないところで再び巡り会った彼女は・・・。


人は多かれ少なかれ何かに傷つき 消えないままの傷痕を隠して生きているのではないだろうか。そしてその傷ゆえ必要以上に前へ進むことを拒んでみたり しあわせを拒絶したりする。より大きな傷を負うことから無意識に逃げているのだろう。運良く乗り越えたと思っても 狙い澄ますように別の苦悩が待ち構えている。何故人には越えなければならないものがこんなにも多いのだろう と、茫然としてしまう。

緩やかな反転*新津きよみ

  • 2004/08/05(木) 13:58:36

☆☆☆☆・


ショックによって 魂が別の人間に宿ってしまう。
こんな設定の小説はいくつか知っているが この作品は ただ魂が入れ替わるだけではない。
過去に遡り記憶の不確かさ身勝手さに不意を突かれる。すべてを覚えているということは なんと残酷で容赦のないことなのか。

物語は終わっても まだ終われない家族がいる。これから野田一家はどうなっていくのだろう。野田光代は 野田光代に戻れるのだろうか。

キーワードは鏡。鏡にはきっと何かが宿っている。

禁じられた楽園*恩田陸

  • 2004/08/04(水) 13:57:31

☆☆☆☆・


端正な容貌と たぐい稀なる才能を持ち、人の目をいやがうえにも惹きつけながら 芯に冷たく昏いものを抱える烏山響一。和歌山県熊野のひと山丸ごとの彼の実家で行われているのは何なのか。


ひとコマずつ切り替えられる映像を見せられるように そしてその僅かな隙にサブリミナルのように何かが埋め込まれているかのように じわじわと引き寄せられるように物語の核芯部に近づいてしまう。言いようもなく不安な感じを掻き立てられるのである。頂上の見えないジェットコースターに乗せられいつ突き落とされるかと緊張を解けないような心地なのだ。
キーワードは【感応】だろうか。

ふたたびの虹*柴田よしき

  • 2004/08/02(月) 13:55:54

☆☆☆☆・


 旬の素材を扱う小粋な小料理屋「ばんざい屋」。
 オフィス街という土地柄、独身のサラリーマンやOLの
 密かな人気を呼んでいたが、
 女将の吉永には他人に明かせない過去があった・・・。

                           (とびらより)

京都のお惣菜=おばんざい を小粋な装いで味わわせてくれる店。常連が多いが 初めてでもひとりででもふらっと入れて気づまりでない店。そしてなにより 女将の気持ちのこもった料理と出すぎずさりげない気配りが 訪れる誰をもほっとした心地にしてくれる。

オムニバス形式で一話ごとに別の客のトラブルを解決することになるのだが それさえ 気張らず穏やかで ほっとさせるものなのである。
憩えるミステリィとでも言ったらいいのだろうか。まがまがしい事件がないのは北村薫作品と通ずるところがあるが 流れる雰囲気はがらりと違うものである。

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ゲームの名は誘拐*東野圭吾

  • 2004/08/01(日) 13:54:10

☆☆☆☆・



 前代未聞の誘拐小説!
 事件は犯人側からのみ描かれる。果たして警察は動いているのか?

                         (帯より)

 仕返しというふうに解釈しているんなら、それはちょっと心外だね。
 最初にいっただろ。これはゲームなんだ。
 おれはおたくの父親にゲームでの勝負を挑んでいる。
 どちらがゲームの達人かはっきりさせようということだ。

                        (本文より)


ひょんなことから始めることになった誘拐ゲーム。仕事上の鬱憤も晴らせ 思わぬ小遣い稼ぎにもなり しかも誇りをも満足させられるはずだった。ゲームを仕掛けたのは本当は誰だったのか。

インターネットを便利に利用し 尻尾を掴まれないかけ引きの妙を次から次と見せられ ページを繰るのももどかしいほど惹き込まれていく。予想する展開を裏付け あるいは裏切り 読者に気づかせることなく 水面下ではある思惑が進んでいる。こういう裏切りは大歓迎である。

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