追憶のかけら*貫井徳郎

  • 2004/09/30(木) 19:59:19

☆☆☆☆・


 最愛の妻を事故で亡くした大学講師。
 失意の底にある彼をさらに翻弄する何者かの悪意。
 長編ミステリアスロマン

 戦後間もなく自殺した作家の未発表手記。
 そこに秘められた「謎」とは――?
 二転三転する物語は、感動の結末へ!

                           (帯より)


恨み あるいは悪意だけで こんなにも手の込んだ復讐をすることができるものなのか、と暗い気持ちになる。
仕掛けは、掴んだかと思うとはぐらかされ、近づいたかと思うとするりと遠のき、読む者に歯噛みさせる。読み進んでも読み進んでも どこか落ち着けない心地なのである。その落ち着かなさの一因は 探偵役である主人公 松嶋の自信のなさ丸出しのキャラクターによるところが多いのだが、このキャラクターだからこその この物語なのである。
だがしかし、やっとの思いでたどり着いたところに もはや最愛の妻は居ないのである。

> more >>>

短歌を楽しむ*栗木京子

  • 2004/09/29(水) 19:57:12

☆☆☆・・


 観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生

 短歌は、身近で親しみやすい表現手段です。この本では、
 その面白さや伝統のもつ奥深さを発見していくことをめざします。
 短歌の材料はどこにもころがっています。
 あとは心に響くきらめきをキャッチするだけです。
 この本を読んでいくと、いつのまにかページの余白に
 自分の歌を書きつけたくなっているでしょう。

                         (裏表紙より)

岩波ジュニア新書の一冊。
ジュニア向けに平易な言い回しでわかりやすく解説されており初心者にも親しみやすかった。
まずは、作って愉しもう!と思えたことがいちばんの収穫かもしれない。

話を聞かない男、地図が読めない女*アラン・ピーズ+バーバラ・ピーズ

  • 2004/09/28(火) 19:55:11

☆☆☆・・


一時爆発的に話題になった一冊なので 読まれた方も多いと思う。
男の脳と女の脳は そもそもまったくの別物であり、同じ能力を期待する方が間違っているのだという。男女雇用機会均等法などというのは だから 数合わせであって実情に見合ったものではない。
この男脳と女脳の働き方の違いを知って、「そうか、そういうわけだったのか」と腑に落ちることが多かった。
相手の考えていることが判らずに苛立つときにはこの一冊が関係修復の一助になることだろう。

間に《男脳・女脳テスト》という 3択30問のテストもあり、自分の脳が男っぽいか女っぽいかの判定ができるのも興味深い。
0~180が男脳、150~300が女脳、150~180はどちらにも偏らず融通がきくタイプということである。
ちなみに私の得点は 80だった。

蹴りたい背中*綿矢りさ

  • 2004/09/27(月) 19:52:46

☆☆☆・・


 愛しいよりも、いじめたいよりも もっと乱暴な、この気持ち
 
 高校に入ったばかりの“にな川”と“ハツ”はクラスの余り者同士。
 臆病ゆえに孤独な二人の関係のゆくえは・・・・・

                           (帯より)


ハツの気持ちが痛いほどよく解る。
近くにいて同じ空気を共有しているはずなのに、自分の中のどこかの歯車がカチリと嵌ってしまった瞬間に 誰もが、何もかもがものすごく遠くなるのだ。ふぅーーっと、それは見事に。そして自分は周りからは見えているにもかかわらず そこにいなくなる。
おそらく 程度の差こそあれ 誰もが似たような感じをもったことがあるのではないだろうか。
時代を隔てて振り返れば どうということもなく、対処の仕方もわかるようなことでも 渦中にいる時には世界はそれですべてなのだ。未だ渦中にいるともいえそうな年頃の著者が、これほど客観的に突き放して描けるものかと感心する。

印象深かったフレーズ。

 こんなにきれいに、空が、空気が青く染められている場所に
 一緒にいるのに、全然分かり合えていないんだ。

> more >>>

群青の夜の羽毛布*山本文緒

  • 2004/09/26(日) 19:50:46

☆☆・・・
群青の夜の羽毛布

 家族っていったい何でしょうね?
 たまたま血が繋がっているだけで、
 どうしていっしょに暮らしているんでしょう。
 ――丘の上の一軒家に住む女三人。家族とも他人ともうまく
 関係を結べずに大人になった長女と、その恋人をめぐって、
 母娘の憎悪、心の奥底に潜めた暗闇が浮かび上がる・・・・・。
 恋愛の先にある幸福を模索した、傑作長編小説。

                       (文庫裏表紙より)


カウンセリングを受けているらしい告白の場面から物語ははじまる。これはいったい誰の告白なのだろう?と思わせておいて、一見無関係なように母と姉妹の日常の物語が始まる。
人間関係がうまく結べない人が昔に比べると増えているような気がする。さとるを見ていると その苦しさにこちらが苦しくなる。自分のこととして読む人も多いのではないかと思わされる。いったい何が悪かったのだろう、どうすればよかったのだろう。
この疑問は、さとるのことに留まらず 物語自体への問いかけともなる。彼女たちが歪みはじめたそもそもの原因は いつの何だったのだろう。胸の奥深くを鷲掴みにされるような怖さがある。

アルキメデスは手を汚さない*小峰元

  • 2004/09/24(金) 19:48:50

☆☆・・・
アルキメデスは手を汚さない

昭和48年度江戸川乱歩賞受賞作品。

東野圭吾さんが初めて読んだミステリーだというので読んでみた。なるほど、この場面があそこのヒントになったのだな、という風に読めて愉しかった。主人公は高校生たちである。昭和48年の高校生といえば まさに自分と同年代なのだが、私はこんなにはっきりと何かを考えていなかったような気がする。しかももっと護られた子どもだっただろう。この高校生の考えたトリックは、考え抜かれているようでいて偶然に期待するところもあるような気はする。事の重大さを自覚している気配があまりしないせいだろうか。
手を汚さずに物事を成そうとするのがそもそもの間違いなのだという落ちも ちょっとこじつけっぽく感じられてしまうのは 素直さが足りないからだろうか。

夜のピクニック*恩田陸

  • 2004/09/23(木) 19:46:49

☆☆☆☆・


 夜を徹して八十キロを歩き通すという、
 高校生活最後の一大イベント「歩行祭」
 
 生徒たちは、親しい友人とよもやま話をしたり、
 想い人への気持ちを打ち明けあったりして一夜を過ごす。
 そんななか、貴子は一つの賭けを胸に秘めていた。
 三年間わだかまった想いを清算するために――。
 今まで誰にも話したことのない、とある秘密。
 折りしも、行事の直前には、アメリカへ転校した
 かつてのクラスメイトから、奇妙な葉書が舞い込んでいた。
 去来する思い出、予期せぬ闖入者、積み重なる疲労。
 気ばかり焦り、何もできないままゴールは迫る――。

 でも、あの一夜の出来事は、紛れもない奇蹟だった。
 ノスタルジーの魔術師が贈る、永遠普遍の青春小説

                           (帯より)


『図書室の海』で予告がなされていた「歩行祭」の一夜の物語である。
普段体験することのない肉体の疲労感と精神の高揚感のなか、それぞれが自分なりの決着をつけようと臨んでいるのが まさに高校生 という感じで羨ましくもある。通常ならば見せない顔を見せ、虚飾を取り去ったところに残るものは このあとの人生に於いても大切なものになることだろう。
物語の筋とは直接関係はないが、《 何かをしてあげる プラスのやさしさと、何もしないでいてあげるマイナスのやさしさ 》という言葉が心に残った。
ただ歩き通すだけ というシンプルな行事の持つ意味はとてもとても奥の深いものなのだ。

> more >>>

硝子のハンマー*貴志祐介

  • 2004/09/22(水) 19:45:01

☆☆☆☆・


 見えない殺人者の、底知れぬ悪意。
 異能の防犯探偵が挑む、究極の密室トリック。

 日曜の昼下り、株式上場を目前に、出社を余儀なくされた
 介護会社の役員たち。
 エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、有人のフロア。
 厳重なセキュリティ網を破り、自室で社長は撲殺された。
 凶器は。殺害方法は。すべてが不明のまま、逮捕されたのは、
 続き扉の向こうで仮眠をとっていた専務・久永だった。
 青砥純子は、弁護を担当することになった久永の無実を信じ、
 密室の謎を解くべく、防犯コンサルタント榎本径を訪れるが――。

                           (帯より)


幾重にも護られた密室。万全のセキュリティ。ほんの一握りの限られた人々以外、蟻の入り込む隙もなさそうに見える社長室である。だが、防犯コンサルタント・榎本は 忍び込みの技術を活かして次々とセキュリティを掻い潜る方法を見つけ出す。
読みながら 何度犯人に近づいたと思わされたことだろう。喜々として次の章に進むと そこに待っているのは推理や証拠の不備だったりするのだ。何度も推理の山を登り崩され、意外なところに辿り着く。
最後の最後にタイトルの意味がわかるのである。

まだ遠い光*天童荒太

  • 2004/09/21(火) 19:41:18

☆☆☆☆・


――『家族狩り第五部』

 浚介は游子の病室を訪れた。
 二つの心は、次第に寄り添ってゆく。
 山賀と大野は、哀しみを抱えた家の扉を叩く。
 ふたりの耳は、ただひとつの言葉を求めている。
 冬島母子をめぐり争い続けてきた、馬見原と油井。
 彼らの互いへの憎しみは、いま臨界点を迎えている――。
 悲劇によって結ばれた人びとは、奔流のなかで、
 自らの生に目覚めてゆく。
 永遠に語り継がれる傑作、第五部=完結篇。

                       (文庫裏表紙より)


考え方の論理性と行動の非論理性が ここまでかけ離れてしまうとは。信じることは素晴らしいことだが、時に恐ろし過ぎることである。彼ら――敢えて名前は書かずにおくが――は狂っていたのだろうか。狂っていたのだ、として片付けてしまうことは容易いが、そう決め付けられない何かが 彼らの論理の中にはある。きっと誰もが我が身を省みてうなだれざるを得ない何かが。
少なくとも 亜衣を目覚めさせたのは彼らの行動があったからである。是とするわけには到底いかないが。

さまざまに考えさせられる小説だった。根本的なところは何も解決していないのだが、行く手にかすかな光が見え隠れしている。それが何よりの救いである。
暗闇にひとり取り残された亜衣の想いが胸を突く。

 かすかな光が見えた。二つ、三つと、光の点が視界に入り、
 さらに輝く光が見えた。
 なぜだろう、とても遠いところで輝いているのに、
 この光が自分への〈贈り物〉のように感じられた。



 # 第四部『 巡礼者たち』の覚え書きは9/16に。

鳥人計画*東野圭吾

  • 2004/09/20(月) 18:27:09

☆☆☆☆・



 「鳥人」として名を馳せ、日本ジャンプ界を担う
 エース・楡井が毒殺された。
 捜査が難航する中、警察に届いた一通の手紙。それは
 楡井のコーチ・峰岸が犯人であることを告げる「密告状」だった。
 警察に逮捕された峰岸は、留置場の中で推理する。
 「計画は完璧だった。警察は完全に欺いたつもりだったのに。
 俺を密告したのは誰なんだ?」
 警察の操作と峰岸の推理が進むうちに、
 恐るべき「計画」の存在が浮かび上がる……。
 精緻極まる伏線、二転三転する物語。
 犯人が「密告者=探偵」を推理する、東野ミステリの傑作。

                       (文庫裏表紙より)


東野圭吾という作家は まったく油断がならない。読者の推理をことごとく裏切ってくれるのだから。「犯人がわかった」と思っても 最後まで気を抜いてはいけない。必ず騙されるのである。それが愉しい。ぞくぞくする。

そして、専門分野を詳しく取材し、データを駆使して読者を納得させ また、煙に巻くのが東野流とも言えるのではないかと思っているのだが、この作品で その傾向が確固としたものになったのではないだろうか。以後の方向性を確かなものにした一冊と言えるのではないだろうか。

> more >>>

銀の皿に金の林檎を*大道珠貴

  • 2004/09/19(日) 18:25:30

☆☆☆・・


お菓子の町でもある観光名所のなかにある町に住んでいる主人公・夏海。
彼女の16歳・21歳・26歳・31歳の生き様が そのまま章を成している。

間違ってもお薦めできる生き方とは言えない日々を送っている夏海なのであるが、そこに何か人間の本質に近いものを見てしまった気がして少したじろぐ。
健全とは言いたくないが 表に現われない深いところから立ち昇る健康な匂いがちらりと鼻先を掠めるので 疎みきれずに着いて行ってしまいそうになる。

うつしいろのゆめ*松久淳+田中渉

  • 2004/09/18(土) 18:23:07

☆☆☆・・


『天国の本屋』シリーズ第2弾!!
 恋はスローなほうがいい。

 「ふーん、きれいな色ですもんね」
 イズミは風に揺られる花を見て言った。
 「ああ、とても美しい。しかしな、この青はすぐに失われてしまう」
 「そうなんですか?」イズミは長一郎の横顔を見た。
 「だから昔の人は、うつろいやすく消えてしまうという意味を、
 そのはかなく美しい青に込めて、うつし色と呼んだのだ」

                           (帯より)


天国はただ死後の世界というだけではなく、人の寿命=100年に満たずに亡くなった人が 100歳まで過ごす場所なのだ、という設定は 第一弾そのままである。
人は 自分では気づかぬまま 大きな役割を果たしていることがあるのかもしれない。この物語の主人公イズミが まさにそんな人なのだ。手垢がついた言葉かもしれないが 癒しというものなのだろう。
物語の筋自体は切ないのだが 何かほっと肩の荷を下ろした心持ちになる。

沈むさかな*式田ティエン

  • 2004/09/17(金) 18:20:55

☆☆☆・・


第一回『このミステリーがすごい!』大賞【優秀賞】作品。

 急死した父親がある企業スキャンダルの
 当事者であったことから、地元から離れた場所で
 アルバイトをしていた17歳の高校生・カズのところへ、
 幼なじみの英介が訪ねてくる。彼はカズの父親の死には裏があり、
 その謎を解く鍵が海岸沿いに建つクラブにあることを教えてくれる。
 カズはクラブで働き、真相を探ることを決意する。
 だが、糸口さえ見えないままに事件は起き、
 英介が命を落としてしまう。
 ――スクーバ・ダイビングの描写も素晴らしい
 海辺を舞台にしたサスペンス。

                        (カバー裏より)


ミステリーというよりは 青春小説を読んでいる気分で読み通したような気がする。17歳の主人公の存在証明の物語と言えなくもない。
だが、ごく身のまわりの狭い範囲のこと と見せておいて 物語は米軍をも巻き込んだとんでもなく大掛かりな事件へと発展するのである。
しかし 物語の最後はちゃんと 主人公カズの存在証明にもなっているのだ。

物語の主人公は 17歳の矢野和泉=現在はカズ なのだが カズが一人称で物語を語ることはなく、常にどこかからカズのことを見ている誰かが カズを「きみ」として語るのである。この誰かは 物語の登場人物ではない。おそらくもっと大きな何かなのだろう。

米軍と日本企業がつるんで企てたのであろう事件は真相を究明されることなく終わっているのだが それでも世間の目には真相は明らかに見えることだろう。企業も人も 自らを偽る姿ばかりが哀しく印象に残った。

巡礼者たち*天童荒太

  • 2004/09/16(木) 18:18:33

☆☆☆☆・


――『家族狩り 第四部』

 孤立無援で事件を追う馬見原は、四国に向かった。
 捜査のために休暇を取ったのだ。
 彼はそこで痛ましい事実に辿りつく。
 夫に同行した佐和子は、巡礼を続けるものの姿に
 心を大きく動かされていた。
 一方、東京では、玲子のことを心配する游子と、
 逃避行を続ける駒田の間に、新たな緊張が走っていた。
 さまざまな鎖から身を解き放ち、
 自らの手に人生を取り戻そうとする人びと。
 緊迫の第四部。

                       (文庫裏表紙より)


心はそれぞれに 少しずつ拠り所を見つけ 解きほぐされ始めているように見える。だが、それとは裏腹に事件は哀しい真相に近づきつつあるようだ。
壊されたものは何で、失ったものは何なのだろう。
物語の先にあるのが光なのか それとも気配さえ殺すような闇なのか、最後の第五章を開くのが怖い。



  # 第三部『 贈られた手』の覚え書きは9/6に。

巡礼者たち*天童荒太

  • 2004/09/16(木) 18:18:33

☆☆☆☆・


――『家族狩り 第四部』

 孤立無援で事件を追う馬見原は、四国に向かった。
 捜査のために休暇を取ったのだ。
 彼はそこで痛ましい事実に辿りつく。
 夫に同行した佐和子は、巡礼を続けるものの姿に
 心を大きく動かされていた。
 一方、東京では、玲子のことを心配する游子と、
 逃避行を続ける駒田の間に、新たな緊張が走っていた。
 さまざまな鎖から身を解き放ち、
 自らの手に人生を取り戻そうとする人びと。
 緊迫の第四部。

                       (文庫裏表紙より)


心はそれぞれに 少しずつ拠り所を見つけ 解きほぐされ始めているように見える。だが、それとは裏腹に事件は哀しい真相に近づきつつあるようだ。
壊されたものは何で、失ったものは何なのだろう。
物語の先にあるのが光なのか それとも気配さえ殺すような闇なのか、最後の第五章を開くのが怖い。



  # 第三部『 贈られた手』の覚え書きは9/6に。

偶然の祝福*小川洋子

  • 2004/09/15(水) 18:16:52

☆☆☆・・



赤ん坊の息子とラブラドールのアポロと小説家の「私」を取り巻くあれこれである。
一瞬、エッセイかと思うように物語ははじめられる。しかし 読み進むうちに 不思議物語に吸い込まれてゆく。時計を巻き戻したり進めたりしながらも 筋は乱れることなくひとつに縒り合わされているように思える。それが エッセイに見える理由のひとつかもしれない。
不思議で やさしく 魅力的な物語たちである。

> more >>>

オー、マイ、ガアッ!*浅田次郎

  • 2004/09/14(火) 18:13:57

☆☆☆・・


 クスブリ人生、一発逆転。
 舞台はラスベガス。取り戻すのは己の(ほこ)り!
 浅田次郎のパワー全開、笑いと涙のテンコ盛り!

 日本史上最大のお気楽男、
 ファッション・メーカーの共同経営者にだまされ
 彼女にも逃げられた正真正銘のバカ、大前剛47歳。
 元スーパー・キャリア・ウーマン、
 現ラスベガス・ブールヴァードのコール・ガール、
 肉体以外のすべてを捨てた梶野理沙32歳。
 ベトナム戦争末期の鬼軍曹も、いまはただの飲んだくれ、
 エリートの妻に捨てられたジョン・キングスレイ――
 が、スロット・マシンで史上最高のジャック・ポットを出しちまった!
 だが・・・・・。
 謎の老婆に若き石油王、元マフィア父子にヒットマンetc。
 爆笑のうちに、人生はルーレットのごとく回転し、そして!
 著者会心の、勇気百倍正調喜劇。

                           (帯より)


まことに可笑しくも哀しいドタバタ喜劇である。登場人物の名前を一見しただけでも充分に予測できるのだが。
だが 無防備にげらげらと笑い転げていると 物語のあちこちに人生訓とも言うべきものが――決して説教臭くはないのだが――散りばめられていることに気づく。それに気づいて 今度はなにやらしんみりとした心持ちになるのである。
ラスベガス...行ってみたくなった。

放課後*東野圭吾

  • 2004/09/11(土) 18:12:17

☆☆☆・・
放課後

著者デビュー作にして、昭和60年の第31回江戸川乱歩賞受賞作である。

当然のことながら 舞台は20年近くも昔である。しかも女子高。登場するのは 女子高生と教師たちである。にもかかわらず、現代の女子高を舞台にしていると言われても 違和感なく肯けることに まず驚く。

近作に比べると 洗練されていない感も否めないが、幾重にも張り巡らされた伏線や 読者の好奇心を次章に繋ぐ手法は デビュー作から確立されていたことが判る。

> more >>>

蛇にピアス*金原ひとみ

  • 2004/09/10(金) 18:10:52

☆☆・・・


身体改造――舌ピアス・スプリットタン――にのめり込むのは 見た目で判断する世の中を「近づくな!」とこちらからシャットアウトしたり、自身のからだを使って「これだけのことができる」ことを証明して見せたいからではないだろうか、というようなことを 芥川賞受賞時のインタビューで著者自身が語ったそうである。

自分達を認めない世の中の影になりたいと思う反面、認められたい 認めさせてやりたいと過激な行動に出ることの矛盾と葛藤。
そんなものを描きたかったのだろうか。

正直言って 私にはこの小説から何を読み取ればいいのかがわからなかった。

> more >>>

君の名残を*浅倉卓弥

  • 2004/09/09(木) 18:08:09

☆☆☆☆・


第一回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した『四日間の奇蹟』に次ぐ第二作。

本を開いて目次をひと目見て「あ、失敗したかな?」と思った。各章のタイトルが 歴史小説のそれだったからである。歴史は苦手なのだ。しかし 読み始めて見ると舞台は何の変哲もない現代だった。そして主役たちは普通の高校生。
それが次の章に移るなり 時はいきなり 源平合戦の時代に巻き戻されてしまうのである。どうしたことなのか。これからどうなるのか。訝りつつ読み進むうち 少しずつからくりが解ってくる。あまりに壮大な思惑による時の歪みだったのだ。すべてが歴史があるべき様に進むために巧まれたことだったのだ。そう判った時 背筋がぞくぞくする心地がした。
「デジャヴ」というのは もしかすると こんな時の歪みによるものなのかもしれないと ふと思った。

> more >>>

贈られた手*天童荒太

  • 2004/09/06(月) 18:06:00

☆☆☆☆・


――『家族狩り 第三部』

 ピエロ。浚介は、生徒たちからそう呼ばれていたのだという。
 ふたつの事件を経て、虚無に閉ざされていた彼の心に
 変化が訪れていた。
 ピエロ。馬見原は今そう見えるだろう。
 冬島母子を全身全霊で守っているにもかかわらず、
 妻や娘との関係は歪んだままだから。
 また一つ家族が失われ、悲しみの残響が世界を満たす。
 愛という言葉の持つさまざまな貌(かお)と、
 かすかに見える希望を描く、第三部。

                       (文庫裏表紙より)


またひとつ無理心中に見える一家惨殺事件が起こる。そしてその周りには 浚介がおり 馬見原がおり 亜衣もいる。
あることから逃げ出さずに立ち向かおうとすると もう一方のあることが壊れそうになる。今、たった今この時に 本当に考えなければならないことは何なのか? 手を伸ばせば届く身の回りのことなのか、それとも雲を掴むような遠い所のことなのか。両方を一度に胸に抱くことは不可能なことなのか。

浚介は、教師になりたての頃 たった半年教えたことのある元生徒と出会うことで 闇の中にひとすじの光を見た心地なのではないだろうか。僅かでも明日につながる何かを感じられることが これほどほっとさせるものだと 改めて感慨深い。
救いのない沼の底にいながら 第一部・第二部とは ほんの少しだけ光の色が違っている第三部だと思う。第四部では もっと明るく温かい色味を感じられることを願う。



  # 第二部『遭難者の夢』の覚え書きは8/25に。

ダックスフントのワープ*藤原伊織

  • 2004/09/05(日) 18:04:08

☆☆☆・・




利発で難しい言葉を使いたがる癖のある自閉傾向の10歳の少女マリの家庭教師として――標準的な家庭教師10人分ほどの報酬で――雇われている心理学科の学生である「僕」が 彼女にしている授業は [話をすること]である。今は老いたダックスフントの物語を話しているところだ。
マリは「僕」の話を自分なりに噛みしめて理解しているように見える。そこに何か意味を見出そうとするように ときに 自分の身に引き比べたり 遠いこととして眺めているように。それでも「僕」の家庭教師としての仕事の効果は出ていたように思える。

マリと「僕」とのやりとりは 10歳の少女と大学生の青年との会話、というよりも 哲学者同士の会話、とでもいう雰囲気に包まれている。人生を悟っているのか あるいは逆に人生を諦めているように見える。しかし 外側を包む雰囲気とはうらはらに 本当はキラキラと生きたいのだと思う。弾むように生き生きと。
なのに_____。

> more >>>

きょうのできごと*柴崎友香

  • 2004/09/04(土) 18:02:17

☆☆☆・・


三月二十四日と三月二十五日のいろんな時間を行ったり来たりしながら その中のある時一ヶ所に集まっていたあの人やこの人を一人称にして語られる出来事。
きょうという日の出来事が 違う時間違う人の目を通すといろんな風に見えるのがちょっと不思議な感じがする。起こったことはひとつだけなのに。その場では目立たず脇役だった人も ひとりになると主役になるし、別の人の目で語られると 判らなかったことに解答が与えられたりもする。
なんてことのない足掛け二日の奥行きが ぐんぐん深くなってゆくようだ。

High and dry(はつ恋)*よしもとばなな

  • 2004/09/03(金) 17:59:32

☆☆☆・・


 生まれて初めて、ひとを「好き」になった瞬間を、覚えていますか?
 14歳の少女が恋をした。
 ばななワールドの新たなる幕開け、心温まる永遠のファンタジー。

                           (帯より)


誰かを好きになること。それはもしかすると 同じキラキラを同時に見つけてしまうようなことなのかもしれない。「あっ!?」と思った瞬間 時が止まり、いたずらを見つかった子どものように「しまった!!」と思ってももう遅いのだ。そして ある者はせっかちに、またある者はじっくりと キラキラの在処を見定めてゆくのだ。この物語の二人、夕子とキュウくんは ちょっとずつ近づいて ちょっとずつ仲良くなっていった。とてもしあわせなやり方で。
目に見えないもののほんとうの力を信じることができるということ、そしてそれを否定されないということの あたたかさや安心な感じが とても嬉しい一冊だった。
カラフルでポップなカバーは、見ただけで元気になれそうだし それを外すと 装丁が春の雨ふりの牧場みたいで とてもやさし気できゅんとなる。

謎物語*北村薫

  • 2004/09/02(木) 17:57:46

☆☆☆・・


-----あるいは物語の謎-----

 校庭で遊んでいて、「動詞は活用する」ことにふと気づき、
 新鮮な驚きを覚えた小学生が、長じて作家・北村薫になりました。
 けっしておしゃべりではないのに話し上手。
 そんな北村さんが、落語の話、夢の話、手品の話、
 さまざまな話題を織り交ぜながら、
 本格推理小説の尽きない魅力と、
 宿命的に背負うその危うさとについて語り、
 「しかし友よ、それは冒す値打ちのある冒険なのだ」と謳う――
 この本をこれから読む読者(あなた)は、とびきりの幸せ者です。
                          宮部みゆき

                           (帯より)

さすが北村さん、お子さんの頃から 目のつけどころが違いますね。
帯の宮部みゆきさんのおっしゃるおしゃべりでないのに話し上手という言葉に深く肯いた。きっと 北村さんの頭の中には 思いがけず発見したことのあれこれを 誰かに話したい、聞いてもらいたい というわくわくした少年のような昂ぶりが詰っているのではないだろうか。そんな気がする。素敵である。

第七回の冒頭のこんな文章には失礼ながら少し笑ってしまった。
 昨今では、人の死なないミステリ、特に日常性の中の謎、
 などといったタイプの作品に出会うと、もうそれだけでうんざりする
 ――ことが多い。

私の 北村作品のいちばん好きなところがまさにこの 人の死なない日常性の謎なのだから。うんざり、などとおっしゃらずに これからもこの線でいっていただきたいものである。

素に近い北村さんの横顔を垣間見られたような気がして 嬉しかった。

裸*大道珠貴

  • 2004/09/01(水) 17:55:46

☆☆☆・・


 最近、これほど笑いをこらえながら読んだ小説はなかった。
 …(中略)新世代の作家の魅力が横溢した快作だと思う。五木寛之
 (第三十回九州芸術祭文学賞受賞作「裸」選評より抜粋)

 裸・・・・・・・・・・・・
  伯母は「あんたも若いころから身体をいとったほうがよかよ」
  と助言してくださりもする――。九州芸術祭文学賞受賞作

 スッポン・・・・・・・・・・・・
  イナカノババサンは、女であったが、おじさんかおばさんか
  わからない顔をしていた。
  ふるさとを出て十三年、これからも帰る予定はない――。

 ゆううつな苺・・・・・・・・・・・・
  「ちょっと顔見せりぃってば」母はドアをどんとたたいた。
  ――このひとに新しい男でもできたらいいのに、と心底、思った。

                           (帯より)


「育った環境」ということについて思わずにいられない物語たちである。
たとえそれを嫌ったとしても いくら遠く離れていたとしても そこに懐かしさを覚えてしまうのである。歯がゆいくらいに。
それはどこか 幼子が就眠儀式として手放せずにいる よれよれくたくたのタオルを連想させる。決してシャキッと清潔なわけではなく むしろちょっぴり薄汚れていてすえたにおいさえしそうなタオル。他人にとってはくずのようでも 自分にとってはかけがえのないもの。イヤだイヤだと振り払っても いつの間にかどっぷりとその中に浸っていることに気づいて茫然としながらも陶然となるような。大道作品にはそんな気配が漂っている。