愛を想う*東直子

  • 2004/10/30(土) 20:31:42

☆☆☆☆・


東直子さんの短歌と 木内達郎さんの絵のコラボレーション。

 ことばで書かれたこころと
 こころで描かれた風景を
 そして
 ことばのまわりに漂う物語を
 あなたのことばで感じ取っていただければ
 とてもうれしいです。

と、東直子さんのあとがきの結びに書かれている。

ほんとうに、ことばで書かれたこころと こころで描かれた風景が、着かず離れずの関係で並び立っているのが心を和ませてくれる。

いちばん好きだった一首はこれでした。

 ひさしぶりのさよならですねゆく街のゆくさきざきで君がゆれてた

読むたびに違う表情で語りかけてくるような一冊でした。

虹色のヴァイオリン*赤川次郎

  • 2004/10/28(木) 20:30:18

☆☆☆・・


 新しい高齢者用住宅の準備計画(R・P(レインボー・プロジェクト))
 の中心人物として活気ある毎日を送る爽香。
 しかし、兄、充夫の借金癖には悩まされ続けていた。
 一方、河村の愛人・志乃の隣室に引っ越してきた
 “佐藤”という男は、一見善良そうだが!?
 また、爽香の秘書・麻生が車で怪我させてしまった少女が
 突然映画デビューして!?
 事件に仕事に息つく間もない爽香が大活躍の
 大好評シリーズ第17弾!

                       (文庫裏表紙より)


杉原爽香が15歳の時に始まり、毎年一話、ひとつずつ歳を重ねた爽香を主人公に物語が進み、17回目=17年目を迎え、杉原爽香31歳の物語である。
相変わらず あちこちに気を配り、自分はあとまわしの爽香がここにいる。性格というのは 歳を重ねても容易に直るものではないということを目の当たりにさせてくれる。そこが爽香の長所でもあるのだが。
登場人物もそれぞれに歴史を重ね立場も気持ちも少しずつ変わっている。が、あたたかく流れるものはいつも変わらずに物語りの底流を流れていて 安心させてくれるのだ。
ただ、河村刑事には 布子先生だけをいつまでも大切にしていて欲しかったな。ちょっとがっかり。

陽だまりの迷宮*青井夏海

  • 2004/10/26(火) 20:28:53

☆☆☆・・


 生夫(いくお)は小学校三年生、姉九人・兄一人の
 十一人きょうだいの末っ子だ。
 病気で学校を休みがちの彼のまわりに起きる日常の謎・謎・謎――
 消えてしまった鉄道模型に、繰り返される無言電話、
 玄関に置いていかれた象の絵本・・・・・。
 でも大丈夫、いつも最後には下宿人のヨモギさんが現われて
 見事解決してくれるのだから。
 子どもの頃の懐かしさと切なさを、ほのぼのとした筆致で描く
 連作ミステリー、書き下ろしで登場!

                       (文庫裏表紙より)


十一人きょうだいの内、4人は父の連れ子、4人は母の連れ子、あとの3人は両親の子、という複雑な環境にいる生夫の目で語られる。
病弱な生夫の日常にポツリポツリと現われる事件は 事件とも言えないものかもしれないが それでも謎を抱えた生夫は 家族のことを想い 彼なりにあれこれと考えをめぐらすのである。しかし 所詮小学三年生の生夫のこと、考えつくことはたかが知れている。そんなところに現われて造作もなく謎を解いてくれるヨモギさんは 生夫にとってヒーローにも近いものだったのだろう。長じても懐かしく思い出すほどなのだから。
けれど、ヨモギさんは本当に下宿人のヨモギさんなのだろうか。それすらもミステリになっているのだ。じわりと瞼が熱い。

日の砦*黒井千次

  • 2004/10/24(日) 20:27:28

☆☆☆・・


 結婚する息子、老いていく夫婦、勤め始めて帰りが遅くなる娘、
 郊外で暮す男の日常と、穏やかな日々の底にひそむ
 正体の掴めぬ不安に迫る連作小説。
 定年後、家族の心を乱すものは…。

                           (帯より)


定年を迎え、都心へばかり向かう自分から 住まいとする郊外の些細なことに目を向ける自分となった高太郎。その目に映るものは 穏やかな日々の中にそこはかとない違和感や不安を抱かせる。
変わったのは自分なのか それとも周りなのか。しあわせなさみしさを感じさせられる些細な物語たちである。

卒業*重松清

  • 2004/10/22(金) 20:26:01

☆☆☆・・


 前を向いて、歩いていこう。
 親から教わったこと。子どもに伝えたいこと。そして、
 友よ――私たちは、あと何度「卒業」のときを迎えるのだろう。
 悲しみを乗りこえて旅立つために、渾身の四編。

 親友の忘れ形見の少女が、ある日、僕を訪ねてきた。
 26歳で自ら命を絶った友と、40歳になった僕。
 「あのひとのこと、教えて」と訴える
 中学2年生の少女の手首には、リストカットの傷跡が……。
 表題作ほか、それぞれの「卒業」に臨む4組の家族の物語。

 人生は思いどおりにはいかないけれど、
 さあ、前を向いて、歩いていこう――。

                           (帯より)


表題作のほか、まゆみのマーチ・あおげば尊し・追伸。

どの物語にも 身近な人の死が描かれている。人の死が生きている者に及ぼす影響は 人と人との関係の数だけあるのだろう。死んでゆく者は 好むと好まざるとに関わらず遺してゆく者の胸に何かを蒔いてゆく。先に逝った者と後に遺された者は否応なくいつかどこかで折り合いをつけ遠ざからなければならないのだろうか。
人の死から派生するさまざまなことから 一歩抜け出せたとき、そこにはやっと未来に向けられる目が開かれるのだろう。

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百万の手*畠中恵

  • 2004/10/20(水) 20:23:29

☆☆☆・・


 音村夏貴は時々過呼吸の発作に見舞われる中学生。
 親友正哉の家が火事になり、彼が焼死した。
 両親を助けようと夏貴の目の前で燃えさかる火のなかに
 飛び込んでいったのだ。不審火だった。
 嘆き悲しむ夏貴の耳に親友の声が聞こえてきた。
 彼の遺した携帯から。
 そして画面には死んだはずの彼の顔が・・・・・。
 不審火の真相を調べてほしいと彼は言う。
 家のなかに火の気はなかったし、消火活動も終盤に近づいて、
 なお激しく燃え上がった不可解な火事だった。
 放火なのか?なぜ正也と彼の両親は
 死ななければならなかったのか?
 携帯から語りかける友人との二人三脚で、 
 夏貴が探り出した驚愕の真相は・・・・・?
 畠中恵、初の現代小説。ファンタスティック・ミステリ!

                         (見返しより)


読み始めたときには これほど大きなテーマが隠されているとは思いもしなかった。このテーマについて それほど深く掘り下げられているわけではないが 可能性の種を手にした時の人間の心の有り様は 理解できないものではないので、もしかすると現実に在ってもおかしくはないことなのかもしれない、とさえ思われてくる。軽々には論じられないテーマである。

そんな重いテーマとは別に 夏貴と正哉の信頼関係には胸があたためられる。中学生だからこその信頼関係と言えるかもしれない。
そして 夏貴にとっては突然現われた感の否めない 母の婚約者 東の存在が この物語を大きく救っているのだと思う。

空中ブランコ*奥田英朗

  • 2004/10/18(月) 20:17:55

☆☆☆・・



表題作の他、ハリネズミ・義父のヅラ・ホットコーナー・女流作家という5つの物語の連作。

伊良部総合病院の跡取息子で精神科医の 伊良部一郎の診察室のドアを叩いた5人をめぐる物語である。
大学の同期の鼻つまみ者であり、訪れる患者たちからも 疎ましげな目を向けられる伊良部なのだが、どういうわけかこの診察室のドアを開けた途端 誰もが自分のペースを失い伊良部のペースに嵌ってしまうのである。
大人として また精神科医として信用できるのかどうなのか 訝っている間になぜか患者の抱えていた問題は解決されている。伊良部のおかげなのか?
どこをとっても魅力的とは言いかねる伊良部の魅力に嵌ったかもしれない。

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幽霊人命救助隊*高野和明

  • 2004/10/16(土) 20:13:20

☆☆☆・・


 自殺者の命を救え!
 浮かばれない霊たちが、天国行きと引き替えに人命救助隊を結成、
 地上に舞い降りた。 救うべきは、100人の命――

 夕方までは死なないでください。
 僕たちが必ず助けてあげます。
 
 『13階段』の作者が贈る、怒涛の人命救助エンタテインメント!

                           (帯より)


大学受験に失敗した 裕一、ヤクザの親分 八木、零細企業の経営者 市川、アンニュイな若い女 美晴、という いずれも訳あって自ら命を絶った4人が主人公である。無駄な死に方をしたために、いまだ天国へいけずにいるところに 神が降りてきて 49日の間に自殺者を100人救えば天国逝きを約束する、と言われ 地上に降ろされるのである。
設定は間違いなくコメディなのである。が、読み進むと決して笑ってはいられなくなりのだ。哀しすぎる。今、という時代の病巣をこれでもかと見せつけられるようであり、無力感にも捕らわれる。
じんわりさせられる物語でもある。

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私が語りはじめた彼は*三浦しをん

  • 2004/10/13(水) 20:10:53

☆☆☆・・


 胸は痛む。幸せなときもそうでないときも。

 卓抜という言葉は、この作品のためにあるといっていい。
 「ミステリ+心理小説+現代小説」という
 アクロバティックな芸を見せる、そのうまさ(中略)。
 どこでもいい、適当に開いて一、二頁読んで欲しい。
 胸を突く文章に必ず会える。          
              金原瑞人(「波」6月号)

                           (帯より)

村川 という古代中国の歴史を研究する大学教授がいる。愛の形が定型ではないというだけで取り立てて変わったところのない男である。
この物語は 彼をとりまく人々によって語られる6つの短編の連作という形を取っている。彼のことを語っているにもかかわらず、見えてくるのは 彼を取り巻く人々の愛の姿なのではないだろうか。納得できず哀しく、それなのに帰る道を探しているように切ない。しかし結局は それぞれの場所へと帰ってゆくのである。

どんどん橋、落ちた*綾辻行人

  • 2004/10/11(月) 20:08:37

☆☆☆・・


 究極のフーダニットか、袋小路への道標か。
 ミステリ作家・綾辻行人のもとに持ち込まれる難事件の数々!
 落ちた[どんどん橋]の向こう側で、 
 殺人はいかにして行われたのか?(表題作)
 “明るく平和な”あの一家を次々と不幸が襲い、
 ついに最悪の犠牲者が・・・・・ (「伊園家の崩壊」)。 
 ほか、全五編。
 本格ミステリの現在と未来を問う、
 超難問“犯人当て小説”傑作集!

                                      帯より

 著者のことば
 収録された五つの中短編はどれも、
 いわゆる“犯人当て小説”の部類に入るものです。
 五つのうち四つには「挑戦状」も付いていますが、
 はっきり云って、一筋縄ではいかない作品ばかりです。
 「こんなのあり?」とお怒りになる方もおられるかもしれませんが、
 はい、こんなのも、このような“書き方”ならばありでしょう。
 しかしもちろん、
 「これぞ本格ミステリの真髄」などというような代物では、
 これらは決してありません。くれぐれも早合点されませんように。

                         (表紙裏より)


犯人当て小説、という点では上記のとおりであり、それぞれにアンフェアになるギリギリのところで愉しませてくれるのだが、それ以上に 五編の犯人当て小説が盛り込まれたこの一冊の構成の妙に惹きつけられる。
綾辻行人とは 本当は誰なのだろう・・・?  なんて。

レクイエム*篠田節子

  • 2004/10/09(土) 20:06:33

☆☆☆・・


 もう、どのくらい経つのだろう ここへ迷いこんでから

 篠田節子が魅せる都市の夢幻、「あちら側」の世界への六つの扉

                           (帯より)


何の特別なこともない日々の生活。疑いもなく当たり前に一日一日を過ごしている人々。しかし、薄い膜一枚隔てた向こう側には 別の世界があるのかもしれない。この物語の登場人物たちは 何気ない日々のどこかで待ち受けていたそんな世界の入り口を 知らずにくぐってしまったのかもしれない。
それとも、《この世界》と思っているこここそが あちら側なのかもしれない。

次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?*柴崎友香

  • 2004/10/07(木) 20:04:45

☆☆☆・・



表題作と「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」の二編。

登場するのは大阪の若者たち。従って話し言葉は大阪弁である。
この二つの物語では これが必須なのだろうと思わされる。東京言葉では表わせないであろう 時計の針がゆっくり回るような空気感である。

次の町に着いてしまえば、人は何かやることがあるのだ。何かをするためにその町へと出かけてゆくのである。しかし、次の町へ行くまでの移動の道のりはときに遥かに遠く、町に居る時間よりもずっと長いかもしれない。
次の町までどんな歌をうたうかが、人がどう生きるか ということなのかもしれない。
私は 次の町まで、どんな歌をうたおうか。

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出口のない海*横山秀夫

  • 2004/10/05(火) 20:03:00

☆☆☆・・


大学で野球に燃える若者たちにも否応なく戦争の火の粉がかかりはじめ、それぞれに戦地へと送られてゆく時代。
鳴り物入りで入部した並木は 肩を痛めて周囲の期待を裏切るという立場に悶々としながら 魔球を編み出す夢を捨てずにいた。そんな彼が就いた任務とは・・・。

戦争――しかも 公言せずとも負けることを誰もが感じている――という極限状態で尚、向かう夢を持てることのしあわせと それが実現できないことを悟ってしまうことの不幸せをしみじみと感じさせられて切なく哀しい。
 俺はとうとう死ぬことを目的に生きることができなかった。
 人が生きてゆくには夢が必要だ。
 俺は死ぬことを夢に生きることができなかった。

という 並木が沖田に宛てた手紙のことばが いつまでも頭の中で渦巻いている。

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海猫*谷村志穂

  • 2004/10/03(日) 20:01:08

☆☆☆・・



 許されぬ恋に自らを投じた母。
 残された影を抱いて育つふたりの娘。
 北の風土を背景に、谷村志穂が全身全霊を込めて描く、
 大河小説。

 義弟との愛にすべてをかけた、母=薫。
 痛みを胸に抱きながらも、恋に目覚めてゆく、
 ふたりの娘=美輝、美哉。
 光を探し、海鳥は凍てつく空をさまよう。
 風雪に逆らうかのように、ひとは恋という炎にその身を焦がす。
 函館、南茅部、札幌、
 女たちが心の軋むほどに求めた、運命の人は――。
 谷村志穂の新生を告げる長編小説。

                           (帯より)


昭和三十二年の函館から物語ははじまる。ロシア人との混血の父を持つことの意味は、時代背景を思えば 今とはまったく別のことであっただろう。しかもその父も今は亡くなっているとなれば 余計にその娘が背負うものは大きかったことだろう。舞台が現代ではなかったゆえの悲劇は確かにあったのだと思う。しかし、ただそれだけではないような深く冷たい哀しさを 薫には感じてしまうのだ。輪廻のような逃れられない何かを。

そんな薫が嫁ぐのは、弟のものを何でも奪ってしまう、と言われる邦一だった。自分ではそのわけは判らないのだが、物語を通して邦一は奪いつづけ、そして同時に奪われつづけているような気がする。いちばん可哀想なのは彼だったかもしれない。

ともあれ、誰もが 海がすべて繋がっているようにひとと繋がっていることを想ったとき、それぞれに自分を引き受け 頼るべきものに頼って満ち足りてゆくのである。

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