Q.O.L*小路幸也

  • 2004/11/30(火) 22:36:51

☆☆☆☆・


Q.O.Lとは
QUARITY OF LIFE であり、また
QUEST OF LOVE であるらしい。

ひょんな偶然から一緒に暮らすようになった三人。三崎龍哉・酒井光平・千田くるみ。
それぞれに他人には言えない体験を胸の奥深くに押し隠しながら、輝いて生きている。出会ったことも、その後に起こるすべてのことも、きっと神様が決めたことだろう。
芯のない人間であればとっくに生きることを諦めてしまいそうな体験をしているにもかかわらず、捻じ曲がらず真直ぐに前を見ている ≪生きる姿勢≫とでもいうものが、彼らの印象を心地好いものにしているのだろう。

 人生なんか生きるか死ぬかどちらかを選べばいいだけ
 なんて言ったのは誰だったかな。
 選べる奴はまだ幸せな方で、
 選べないで死んじゃう奴だっている。
 だから、生きるか死ぬかなんて悩んでないで生きていけばいい。
 どんなことがあったって、生きている間にしかわからないことがある。


という龍哉の想いや、
豊次さんが青春時代を思い出して語ったという

 あの頃は、デコボコしていた時代だ。
 だから若者はあっちにぶつかりこっちにぶつかりして走っていた。
 今は、何もかもが真っ平らな時代ですなぁ。
 真っ平らだから、何もかも見通せると思い込んでしまう。
 でも、その真っ平らな地平線の先は見えないはずなのに、
 気づかないヤツが多いんでしょうな。


ということばにうなづかされる。

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夏の名残の薔薇*恩田陸

  • 2004/11/28(日) 22:33:40

☆☆☆・・



 山奥のクラシックなホテルで、毎秋開かれる豪華なパーティ。
 その年、不吉な前兆とともに、次々と変死事件が起こった。
 果たして犯人は・・・・。
 巧妙な仕掛けで読者に挑戦する渾身の一作

 この殺人事件は真実か幻か!?


                        (帯より)


頭の中に浮かんだ映像をそのまま文章にした 映画のシナリオのような文章が、物語の間に差し挟まれている。
読み慣れないうちは 意味するところがよくわからなかったのだが、読み進むうちに それが もやもやとした予感を誘う効果があるように思われてきた。

そのシナリオは、実際にはなかった去年の約束を さもあったように思い込ませて女と出奔するというものなのだが、思い込まされようとしている間の女の捉えどころのない不安定感が、物語の本筋への不安感との相乗効果をあげているようなのだ。

このホテルでの数日間に起こったことと起こらなかったこと。

この場所では 同じ人びとによる いくつものまったく別の時間が流れているようにも見える。

どれが実際に起こったことなのか、都合のいいように改ざんされた記憶なのか。
真実は読者の数だけあるのかもしれない。

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半島*松浦寿輝

  • 2004/11/27(土) 22:32:50

☆☆☆・・


 “裏切りの桃源郷”に漂着した中年男がひとり。
 自由も再生もすべては幻か――

                          (帯より)
 
 中年という人生の一時期をめぐる寓話
 青春期に始めたことを曲がりなりにも一通りやり終えたとき、
 達成感とは別のある虚しさに襲われて、
 ふと後ろを振り返っては溜息をつき、
 また前に向き直って足が竦むのを感じ、
 この先いったいどうしたらいいものかと
 途方に暮れる年齢があるものだ。
 ・・・・・わたしはこれを、自分の人生のある危機
 ――複数の危機――を乗り越えるために書いたのだと思う。

                  (「あとがき」より)


瀬戸内海に面する架空の街・S市の、南に突き出した小さな半島が舞台である。
大学を退職し迫村がふと昔を思い出して訪れ、しばしの住処とするところから物語ははじまる。

S市の中心部と繋がる橋を渡ってしまえば、半島はあるところから時間が止まったような佇まいをみせる。一見するとうらぶれた静か過ぎるほどの場所である。
しかし知るほどに 混沌に迷いこんだような 不可思議な心持ちにさせられるのである。
それは喩えて言うならば、遊園地のお化け屋敷のような平面では捉えられないような不思議さのようなものであろうか。

この半島で迫村が経験したこと自体が、現実のことなのか それとも 人生の一時期――進むことも戻ることもできず、足もとが心もとなくなるような――の拠り所をどこに求めていいのか戸惑う不安定な心持ちが描き出した幻想なのか、それさえも判然としなくて 幾重にも不可思議さが重なったような一冊だった。

火の粉*雫井脩介

  • 2004/11/23(火) 22:26:42

☆☆☆☆・


 有罪か?無罪か?手に汗握る犯罪小説の最高傑作!
 自白した被告人に無罪判決を下した元裁判官へ
 今、「火の粉」が降りかかる。
 あの男は、殺人鬼だったのか?

 「お隣りさん、本当にいい人ね」
 
 元裁判官で、現在は大学教授を務める梶間勲の隣家に、
 かつて無罪判決を下した男・武内真伍が越してきた。
 愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い・・・・・
 武内は溢れんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴んでいく。

 「なんか、いい人すぎない?」

                           (帯より)

裁くのも裁かれるのもどちらも人である。
裁く側が裁かれる側のことを何もかも調べ尽くすことはおそらく不可能に近いだろう。見落としていること、通り過ぎてしまうことも当然あるはずである。
そんな隙間に重大なものが潜んでいたとしたら・・・。

本能が知らせる虫が好かない感じ、疑惑とも呼べない薄っすらとした不信、疑心暗鬼、疑うことに対する躊躇。
さまざまな要因が絡み合い じりじりと追いつめられ、家族がばらばらになりかけ、崖っぷちにまで追いやられていく過程は、軌道修正しようにもできずに どんどん深みに嵌っていくようでもどかしく恐ろしい。

不変の風上などはどこにもない。
という 判決後の勲の想いに 深くうなずいた。

血の味*沢木耕太郎

  • 2004/11/20(土) 22:24:55

☆☆☆・・


中学三年生の時に人を殺した少年が主人公。
優等生として過ごした少年院を出てから勉強を重ね、現在は 公認会計士として働いている。
妻と娘は彼のもとを出て都心にある実家に帰ったばかりだ。
家庭裁判所から帰る電車の中、地下から地上へと出ると目も眩むほどのまぶしい夕日が窓から差し込んでくる。そして それが 彼が長い間押し込めてきた記憶の蓋が開けられる鍵になったのだった。

あとがきの著者のことばによると、9割は15年前から10年前に書き上げ、残りは書けずに放ってあったと言う。それが 他の作品を書いている時に 今までに書かれていた9割に本当に書かれていたことが何か、残りの1割で何を書くべきかを悟り、1ヶ月ほどで書き上げたのだという。
物語の中でも 謎は謎として解き明かされない部分も多く、どうしてももどかしい感じが残るのだが、これを書き上げたことで軽くなったという著者の心のありようもまた 私にはよく読み解けなくて 高まった感情をどこに着地させればいいのかいささか迷うのである。

ブルータワー*石田衣良

  • 2004/11/19(金) 22:22:09

☆☆☆☆・



 この塔は倒させない!
 3年ぶり待望の長篇!
 世界を救うのは、夢みる力!魂の冒険と愛の発見の物語。
 石田衣良の新たな挑戦――
 心ゆすぶられるヒューマン・ファンタジー!

 ●今、SFやファンタジーなど想像力に傾斜した小説は
  商売にならないといわれている。天邪鬼なぼくは、
  今こそファンタジーを始める時期だと思う。
  小説は無責任だから自由だ。
  ただの空想だから世界を揺り動かすことがある。
  この物語は平凡な一人の男が、天を衝く塔を崩壊から救う。
  高さ2キロメートルの塔が幾多の危機を越え、
  雲を分け聳え続けるのだ。
  『ブルータワー』へようこそ!
  夢みる力が決して失われることのない世界へ。(著者のことば)


                        (帯より)


あの9・11を目の当たりにして 書かずにいられなかった、とあとがきに書かれているとおり、天に聳える塔の存亡に関わる物語である。
しかしここで言う<塔>とは 単なる高い建物としての<塔>とは 大分様子が違う。
現代と200年後を結ぶ救世主とも言うべき主人公・瀬野周司の魂と一緒に想像力を200年後に飛ばしながら読者は読み進むことになる。
だが、想像力はあっという間に壁に突き当たる。そこでは、想像を絶することが起こっているのだ。

 人の価値を決めるのは、生まれた標高でも
 居住空間の広さでもない。
 結局はすべてを奪われ裸にされたとき、
 自分からすすんでなにをするかなのだ。

 全力で誰かのために働くことが、実は自分自身を救うことなんだ


という瀬野の想いが胸にせまる。

己の利益のために戦争を続ける人々、立場を利用し 自己の利権ばかりを追い求める人々にぜひ読んでいただきたい一冊である。

だが、そんな人々――夢みる力や想像力を持っているとは思えない――はこれを読んでも ただの脳腫瘍患者の妄想だと 笑い飛ばすのかもしれないが。

ひとつ気になったのは、瀬野のかつての部下であり現上司で妻の美紀の不倫相手・萩原に<オギワラ>とルビが振られていること。
単なるプリントミスかと思い読み進めると、200年後のセノ・シューの幼なじみとして オギワラ・トウイチという人物が出てきて、はて?と戸惑う。単純なミス?

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34丁目の奇跡*ヴァレンタイン・デイビス

  • 2004/11/17(水) 22:20:25

☆☆☆☆・


          片岡しのぶ=訳

     ミスター・クリス・クリングル、

          いったい、あなたは・・・・・!?


                        表紙裏より


まず映画として作られ、そのあとで小説として出版されたものとのこと。

サンタクロースを信じるかどうか、というのは だれもが通る 夢と現実とのぶつかり合いなのではないだろうか。
サンタクロースはいないのだ、と自分を納得させるところに 現実を生きる大人としてのスタートラインがあるのだと 誤解している人も多いだろう。

けれども この物語を読めば 信じつづけること、夢みつづけることを諦めなくても 現実を生きる大人になれることを 疑わなくなること請け合いである。
いや、信じつづけ、夢みつづけるからこそ 人はみなしあわせに生きてゆけるのだと 自信を持って言えるようになるだろう。

 「クリスマスは<心>ですよ」
という クリスのことばが胸に沁みる。

別れの後の静かな午後*大崎善生

  • 2004/11/16(火) 22:14:57

☆☆☆・・


  ・サッポロの光
  ・球運、北へ
  ・別れの後の静かな午後
  ・空っぽのバケツ
  ・ディスカスの記憶
  ・悲しまない時計        の6つの短編


どの物語でも、人と人のうえに同じように変わらずに流れつづける時間のやさしさを感じさせられる。
ことに、表題作でもある「別れの後の静かな午後」では、別れ別れになった二人に思いもかけない長い長い静かな午後の時が流れつづけている。

激しく流れる時間も、停滞するかに見える緩やかな時間も、その時その人々にとって必要な時の形なのだと静かに想う。

間宮兄弟*江國香織

  • 2004/11/15(月) 22:13:01

☆☆☆☆・



酒造メーカーに勤める35歳の兄・明信と、小学校職員(庁務手)の32歳の弟徹信の物語。

周りから見れば、目立たず垢抜けなくて 自分から親しくなりたいとは思わないような二人である。地味に地道に自分のやるべきことを一生懸命にやっている彼らである。
二人暮しの彼らの家の中では、それぞれにカラーがありそれぞれの持つ役割がある。そしてなにより 親思いだし 兄弟思いである。

外からは何の楽しみもない人間たちのように見られがちだが、実は彼らには多くの趣味があり、休日も飽くことなく愉しんでいるのである。

そんな彼らがひょんなことから 巻き込んだ人々。そんな彼らになにやら訳もわからず巻き込まれた人々。彼らは この人々の心中にも わずかずつ染み込んでいったのだ。自分たちは報われない人間関係としか思っていないとしても。

よくぞ 間宮兄弟のことを書いてくれた、と手を叩きたくなる気持ちになる。
人生に輝かしいことなどもしかすると一度もないかもしれないような、まさに自分のようなきわめて平凡な人の毎日だって 自分で思うよりは捨てたものでもないんじゃないか、とちょっぴりほろりとなるのだった。

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ニュースキャスター*筑紫哲也

  • 2004/11/14(日) 22:11:15

☆☆☆・・


 初めて現場から語る「ニュースキャスター論」。
 かつて新聞、雑誌の記者・編集者であった著者が、
 テレビのニュース報道という未知の世界に飛び込み、
 そこで何を見、何を考え、何に苦悩してきたか。
 「ニュース23」の創設から現在にいたる経緯を、
 自らの体験を軸に書き綴った迫真のノンフィクション。
 数々の事件、自己、災害、政局・・・。
 激動する時代と斬り結びながら、一般の視聴者には
 知ることのできないテレビニュース報道の舞台裏を活写する。
 そして、ニュースキャスターとは一体、何者なのか!?

                       (文庫見返しより)


報道の形、ということを思わずにはいられなかった。
新聞 対 テレビ はもちろんのこと、テレビの中にも 当然ながら さまざまな伝え方があるのだ。同じ素材でも 切り込み方・味付けによって 見る側には全く別のものになってしまう恐れもあるのだ、と 改めて番組作りの難しさをも思わされた。

そんな中にあって、同じ報道番組のキャスターを10年以上の長きに渡って務めるというのは 並大抵のことではないだろうと容易に察せられる。
ご本人は謙遜して書いておられるが、それは筑紫哲也という人が ご自分の立ち位置を常に明確にしておられるゆえだろう。

それにしても、生放送の報道番組の綱渡り感を毎日しのぐというのは どれほど神経をすり減らすことだろうか・・・と想像すると気が遠くなる。

トリツカレ男*いしいしんじ

  • 2004/11/13(土) 22:09:20

☆☆☆・・




町の人々に<トリツカレ男>と呼ばれている ジュゼッペのお話。

ともかく 次から次へといろいろなものにトリツカレてゆくのだ。
オペラだったり、サングラス集めだったり、昆虫採集だったり、三段跳びだったり、それにトリツカレている間は それを極めるのだが、一旦トリツカレるものが替わるとさっぱりと憑物が落ちたように興味を無くすのだ。

ペチカ という少女に出会うまでは。

ハツカネズミにトリツカレていたときに出会った 人間の言葉のわかるハツカネズミがある時ジュゼッペに向かって言った

 「そりゃもちろん、だいたいが時間のむだ、物笑いのたね、
 役立たずのごみでおわっちまうだろうけれど、でも、
 きみが本気をつづけるなら、いずれなにかちょっとしたことで、
 むくわれることはあるんだと思う」


というひと言が、心に残る。本気をつづけることなのだ。なにごとも。
むだに見えても まったくのむだ なんてものはきっと何ひとつないのだ。
ジュゼッペとペチカがどうかしあわせにトリツカレますように。

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まぶた*小川洋子

  • 2004/11/12(金) 22:07:38

☆☆☆・・


・飛行機で眠るのは難しい
・中国野菜の育て方
・まぶた
・お料理教室
・匂いの収集
・バックストローク
・詩人の卵巣
・リンデンバウム通りの双子      という8つの短編集


目次ページに並ぶタイトルを初めに見たときは エッセイかと思い、読みはじめてみて、あぁ やはりエッセイだったのだ、と思った。

・・・のも束の間、物語はいつのまにか不思議な世界へとつづいていた。

はっきりと覚醒している時に聞けば なにやら妖しく恐ろしい話でも、夢うつつの世界をさまよいながら聞くと 至極当然、何の不思議もなくすんなりと納得してしまうようなことはないだろうか。
これは そんな種類の物語たちである。
ぼんやりとした不安や妖しさ 恐ろしさが潜んでいるにもかかわらず、夢うつつの世界をさまよった後 目を覚ましてみると あたたかい余韻だけが残っている・・・というような。
でも、冷静に考えると どれも物凄く怖い話なのである。

量刑*夏樹静子

  • 2004/11/10(水) 22:05:14

☆☆☆☆・


 裁判長を苦悩させる誘拐事件!

 発端は交通事故・・・
 「被害者が救われない裁判」に挑む、ミステリー大作1300枚

                           (帯より)


偶然起こってしまった交通事故。そしてそこから派生してゆく 殺人 そして死体遺棄。被害者は母と幼い子、そして母の胎内には6ヶ月の児が。被告人 上村岬に 母子を救助する意志はあったのか?妊娠には気づいていたのか?

量刑に厳しいと評判の神谷を裁判長とし、弁護側不利との心証とともに裁判は進むのだが。水面下ではある事件が起こり進んでいるのだった。

人が人を裁くということの不確かさ、量刑を決めることの重大性と 決める側の立場としての苦悩を思うと なんともいえない割り切れなさと胸の重さを感じずにはいられない。

〈裁判長〉と〈父親〉という二つの立場の間で 神谷の苦悩は計り知れないものだったであろう。

ウランバーナの森*奥田英朗

  • 2004/11/05(金) 22:03:07

☆☆☆・・


1979年の軽井沢の夏の出来事の物語である。
主人公は世界に影響を与えたリバプール出身の4人組の一人だったジョン。
こう書くと 誰でもがあの有名なジョンを思い浮かべることと思うのだが、物語の最後には こう但し書きがされている。
 *この作品はフィクションであり、実在する人物
   (あるいはかつて実在した人物)とは一切関係がありません。


タイトルのウランバーナとは、サンスクリット語で苦しみという意味で、これが盂蘭盆会(うらぼんえ)と言われているのだという。
まさに、1979年の軽井沢でジョンが過ごしたお盆に起こった出来事が描かれているのがこの物語なのだ。

いくら断り書きがされていても どうしてもあのジョンを思い浮かべずにはいられなかったのだが それを別にしたとしても 充分不思議な そして癒される話だと思う。アネモネ医院で 私もマッサージを受けたいくらいだ。

そして二人だけになった*森博嗣

  • 2004/11/03(水) 22:01:02

☆☆☆・・


 全長4000メートル、世界最大級の海峡大橋を支える
 巨大なコンクリート塊“アンカレイジ”。
 その内部の《バルブ》と呼ばれる空間に、
 科学者、医者など6名が集まった。
 通信システムが破壊され、「完全密室」と化した
 《バルブ》内で起こる連続殺人!
 最後に残ったのは、盲目の天才科学者と彼のアシスタントだった。

                       (文庫裏表紙より)


未来に視点を定めた壮大な計画を利用した殺人事件、と疑わずに読み進んだのだが 実は。
謎解きミステリとしては ルール違反と言えるのかもしれないが、それを考慮しても尚 惹かれる不可思議な――極論するとファンタジィとも言えるような――恐ろしさを内包する物語だと思う。
登場人物は 実際のところ本当は何人だったのか。

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マドンナ*奥田英朗

  • 2004/11/02(火) 21:59:14

☆☆☆☆・


表題作のほか ダンス・総務は女房・ボス・パティオ の5つの短編集。

どの物語も主人公は中間管理職である課長である。上と下に挟まれて企業内でも一番苦労が多いと言われるポジションである。何かと闘う日々を過ごしているのであろうと思われる。そして さぞお疲れのことだろう。
そんなお疲れの、しかし 企業戦士とも言うべき中年課長さんたちの日常の些細な心の針の振れを描いて見事だと思う。ともすれば敬遠されがちな‘オジサン’たちに愛おしささえ覚えてしまう。まんざらでもないぞ‘オジサン’と。

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邪魔*奥田英朗

  • 2004/11/01(月) 21:57:01

☆☆☆☆・



 狂おしいまでの孤独と自由。
 奥田英朗は、やっぱり凄い。

 始まりは、小さな放火事件にすぎなかった。
 似たような人々が肩を寄せ合って暮らす都下の町。
 手に入れたささやかな幸福を守るためなら、どんなことだってやる――

 ついてねえな。
 ・・・・・ついてないどころじゃねえだろう。
 ――渡辺裕輔・17歳・高校生

 夫など帰ってこなければいい。
 いっそ事故で死んでくれてもいい。
 そう考える自分を、少しも悪いとは思わない。
 ――及川恭子・34歳・主婦

 自分の感情がわからない。
 怒りでも、悲しみでもない。それはもしかしたら、
 生きていることの違和感かもしれない。
 ――九野薫・36歳・刑事

                           (帯より)


東京都下の町・本城市に暮らす、裕輔・恭子・九野を軸に、ある放火事件が引き起こした事の顛末の物語である。
傍では何とでも言える。渦中にあっては、常識とか筋道立った考えとかいうものは 何の支えにも解決にもならないのだ、ということが ひしひしと伝わってくる。裕輔の、恭子の、九野の歩きだしてしまった道は、正しいとか間違っているとか以前の 選びようのない道だったのかもしれない。その時、その人にとっては。人が道を踏み外す時の心理が 必然すぎて怖い。

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