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日曜日たち*吉田修一
- 2005/02/28(月) 13:37:25
☆☆☆・・
きっといつかは忘れてしまう、
なのに忘れようとするほど忘れられない。
ありふれていて特別な、それぞれの日曜日――。
東京ひとり暮らしの男女5人、それぞれの物語に
同時代の<生=リアル>を映す、長篇最高傑作!
(帯より)
・日曜日のエレベーター
・日曜日の被害者
・日曜日の新郎たち
・日曜日の運勢
・日曜日たち
たのしいことばかりではないが、かと言って嫌なことばかりだったわけではない。
東京で暮らす5人の男女は、それぞれのしあわせや悔しさ、哀しみ、ささやかな喜びを胸に秘めて、その日その日を送っているのだ。
5つの物語の接点となっている、母を訪ねて九州から出てきた幼い兄弟に働きかける時、彼らの日常がなぜか光に照らされたように見える。
この兄弟が、東京で倦んでいる者たちの中を貫くようにして通り過ぎてゆくのだ。
表題作『日曜日たち』が、最後に気持ちを明るくしてくれた。
素敵*大道珠貴
- 2005/02/27(日) 13:35:49
ゴールド・フィッシュ*森絵都
- 2005/02/27(日) 13:34:13
破裂*久坂部羊
- 2005/02/26(土) 13:32:15
問題な日本語*北原保雄
- 2005/02/23(水) 13:30:22
麦ふみクーツェ*いしいしんじ
- 2005/02/22(火) 13:28:46
☆☆☆・・
とある港町で、数学者の父とティンパニストの祖父と暮らす≪ぼく――ニックネームは、ねこ≫をとりまく物語。
とん、たたん
たたん、とん
と聞こえるのは、クーツェが黄色い土煙を上げて麦を踏む音。
ぼくの夢の中でとか、耳の奥から、胸の深いところから ことあるごとにその音は聞こえるのだ。
何か大切なことを伝えるかのように、いまさら伝えることなど何もないかのように。
物語の中に出てくる村や町は、目の前にあるかのように想像できるのだが、一方でとてもとても遠い気がする。
いしい作品の醸し出す懐かしい不思議さは、手が届きそうで永遠に触れられなさそうなところかもしれない。
この物語のキーワードは≪音≫
ないがしろにされていい音は きっとひとつもないのだろう。
鬼子母神*安東能明
- 2005/02/20(日) 13:27:05
哀愁的東京*重松清
- 2005/02/18(金) 13:25:33
水滴*目取真俊
- 2005/02/16(水) 13:23:44
春になったら莓を摘みに*梨木香歩
- 2005/02/15(火) 13:21:09
☆☆☆☆・
著者が学生時代をすごした英国の下宿。
かつてそこには、児童文学者ベティ・モーガン・ボーエンこと
女主人ウェスト夫人とさまざまな人種や考え方の住人たちとの、
騒動だらけでとびきり素敵な日々があった・・・・・。
夫人の「理解はできないが受け容れる」徹底した博愛精神と
時代に左右されない手仕事や暮らしぶりは、
生きる上で大事なことを、そっと心に落としてくれる。
(帯より)
上記のとおり、梨木香歩さんのエッセイです。
彼女の著書の底流に流れるもののことが、とてもよくわかったような気がします。
ウェスト夫人からの手紙がまた、とてもとても素晴らしいのです。
「理解はできないが受け容れる」こと。
たったそれだけのことができるなら、世界に争いなどひとつもなくなるのでしょう。何ら特別なこととしてではなく、日常で自然にそれをしているウェスト夫人との出会いは、著者の骨の一部にたしかになっていることでしょう。
大密室
- 2005/02/14(月) 13:19:32
来なけりゃいいのに*乃南アサ
- 2005/02/12(土) 13:18:09
世界の終わり、あるいは始まり*歌野晶午
- 2005/02/12(土) 13:16:24
☆☆☆☆・
事の発端は近所で起きた小学生の誘拐殺人事件。
その後、続けて小学校低学年の男子を狙う誘拐事件が起こる。
共通しているのは、小額の身代金要求、犯人からの連絡は一度だけ、特定の拳銃で殺害されていること。
顔見知りのあの子が誘拐されたと知った時、
驚いたり悲しんだり哀れんだりする一方で、
わが子が狙われなくてよかったと胸をなでおろしたのは
私だけではあるまい。 (本文より)
最初の被害者、江幡雄介君の近所に住む富樫修が抱いた思いは、おそらく誰もが抱く思いとそう遠くはないだろう。
しかし、間もなく そんなことは言っていられなくなってしまうのである。
現実と、富樫の頭の中の想像とシミュレーションとが、絡み合いながら物語りは進行してゆく。
もうすべてがおしまいか、と読者の緊張が高まると、富樫の想像あるいはシミュレーションが途切れ、いまだ何も解決され(あるいは露見し)ていない現実に立ち戻るのである。
引き上げられ緊張を強いられ、最高潮に達しそうになると 掴まれていた力を抜かれ 緊張が緩む。そんなことがくり返され結末へと導かれるのである。
ただ、その結末が、何の解決にもなっていないのが気にかかる。
単に読解力がないからかもしれないが。
蟹塚縁起*梨木香歩
- 2005/02/11(金) 13:14:54
あかるい箱*江國香織
- 2005/02/11(金) 13:12:57
リズム*森絵都
- 2005/02/10(木) 13:11:12
密やかな結晶*小川洋子
- 2005/02/10(木) 13:05:32
☆☆☆☆・
密やかな結晶
舞台はとある島。
そこではある日突然、さまざまなものが消滅する。
なんの脈絡もなく消滅したそれらを
人びとは悲しむことも嘆くこともなく受け入れ捨ててゆく。
物そのものだけでなく、その物の記憶までも捨ててしまうのだ。
そして、何も失うことのない人たちは、秘密警察による記憶狩りによって、見つけ出されてどこかわからないところへと連れ去られ、戻っては来ない。
とても哀しく恐ろしいことが起こっているにもかかわらず、島の人びとは静かで受動的である。そんなになにもかも受け入れなくてもいいのに、とつい思ってしまうほど。
そして、本のこちら側で、坂道を転げ落ちるように消滅がどんどん進むのをみていると、とるにたりないいろいろなものたちのひとつひとつが 圧倒的に大切さを増してくるように感じられてくる。
滴り落ちる時計たちの波紋*平野啓一郎
- 2005/02/08(火) 13:04:06
イン・ザ・プール*奥田英朗
- 2005/02/07(月) 13:01:41
☆☆☆☆・
祝・直木賞!!
「空中ブランコ」の伊良部は、この本から始まった。
日本文学に、新しい必笑のキャラクターが登場!
(帯より)
伊良部のキャラクターは『空中ブランコ』のところで書いたとおり、とても信頼できるとか頼りになるとかいうレベルではない。
はっきり言えば、お近づきになりたくないタイプなのである。
にもかかわらず、一度その診察室である薄暗い地下の一室の扉を開けたものは、彼の醸し出す不思議な何かに捕らわれ、彼の常識を外れた行動にあっけにとられつつ巻き込まれているうちに、いつのまにか悩みが消えているのだ。
名医なのかただのろくでなしなのか。
大人になりきることがほんとうにしあわせなことなのかを考えさせられる一冊でもある。
誘拐ラプソディー*荻原浩
- 2005/02/06(日) 13:00:38
迷宮遡行*貫井徳郎
- 2005/02/05(土) 12:58:15
岸辺のふたり*マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
- 2005/02/05(土) 12:55:30
☆☆☆☆・
あなたの大切な人は、
いま、どこにいますか。
別れからはじまる
小さなものがたり・・・・・
(見返しより)
うちだ ややこさんの訳による絵本。
セピアトーンのさらりとしたタッチの絵と必要以上に語らないことばとが、想いを遠く深くまで広げさせる。
アニメーションにもなり上映されている。
http://www.crest-inter.co.jp/kishibe/
ブラフマンの埋葬*小川洋子
- 2005/02/03(木) 12:53:31
☆☆☆☆・
夏のはじめの日に僕の元にやってきたブラフマンとすごしたひとつの季節の物語。
僕 とは、≪創作者の家≫という 自由に創作活動をするために 創作者たちに開放された場所の管理人である。
そしてブラフマンは小さな愛すべき動物なのだが、何の動物なのかは特定されていない。というよりも、私たちが知っている何の動物でもなく、どの動物でもあるのかもしれない。ともかく、そのことを追求することは大切なことではないのだ。
ブラフマンと僕とがすごした夏のはじめから夏のおわりまでの日々は、とてもぎっしりと詰っていて、隅から隅まで具がたっぷり入っているような充実感で溢れていた。
だがそれは、唐突に終わりを迎える。
小さなブラフマンを入れるための石棺は、必要充分で何ひとつ余計なものはないのだった。
涙が出るほど哀しいのだが、なんと満ち足りていることだろう。自分のからだと大切なほんの少しのものがちょどよく収まる石棺。そして、大切な人たちの心の中に、そっとぬくもりを残すのだ。ブラフマンはいなくなったわけではない。
さんじらこ*芦原すなお
- 2005/02/03(木) 12:51:46
☆☆☆・・
妻に突然、逆三行半を突きつけられた、樫森泰助47歳。
企業戦士の友の死、初恋の人との再会、離れ行く娘の心。
そして次々と不思議な事が・・・・・。
男泰助、行きつく先に待つものは?
(帯より)
「さんじらこ」とは主人公、樫森泰助の生まれ故郷の四国のある地方の方言だそうである。意味は「散らかし放題」といったところ。
47歳で、妻に捨てられ、親友に先立たれた泰助の身に起こる不思議で感動的でしんみりさせられる出来事のあれこれの物語である。
情けなくも歯がゆい泰助の背後に、彼をいとおしむ作者のまなざしが見え隠れしているのが、可笑しくもあり嬉しくもある。
起こったことも 成り行きも 結果も、すべてが泰助の人徳のなせる業なのである。
夏の庭*湯本香樹実
- 2005/02/01(火) 12:49:15
☆☆☆☆・
十二歳の少年たちの忘れがたい夏を描き、
世界の十数カ国で話題を呼んだ作品。
児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞、
ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、
ミルドレッド・バチェルダー文学賞等受賞。
(見返しより)
おばあさんのお葬式から帰ってきた友人の話を聞いて、死んだ人を見てみたいと思った少年たち。
ちょうど近所に住んでいる「もうじき死ぬんじゃないか」と噂されているひとり暮らしのおじいさんを見張ることにしたのだった。
興味本位で見張りはじめた少年たちと、面白半分に見張られているおじいさん。双方の気持ちの動きがじわりじわりと移り変わってゆく様がじんとさせる。
おじいさんの庭での彼らのひと夏は、彼らの血となり肉となっていつまでも彼ら自身を形づくることになるのだろう。
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