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やさしい訴え*小川洋子
- 2005/03/31(木) 14:24:54
☆☆☆・・
夫の浮気によって居場所を失った瑠璃子は母の持ち物である別荘へ家出をする。
そして、近所に住みチェンバロを作っている新田氏と出会い、静かに緩やかに(あるいは一瞬の内に激しく)惹かれてゆくのだが、彼にはともにチェンバロを作る共同作業者としての薫さんという大事な存在がいて、深くしっかりと結びついている。
ストーリーの骨組み自体はどうということもない珍しくもないものなのだが、小川洋子さんによって丁寧につけられた肉は、繊細で狂おしくもどかしく崇高で、時に神聖とも言えるものである。
人の一生に勝ち負けなど決められないが、敢えて言うならば、瑠璃子は恋では負けたのだろう。しかしこの別荘への家出が彼女が生きる上でなくてはならないことだったことを考えると、瑠璃子は自分には勝ったのかもしれない。
風景描写がとてもすばらしい。
時間が流れるのを感じなくなるくらい何も動かないところで何かを考えたり、何も考えなかったりしてみたいものだ。
銀の鍵*角田光代
- 2005/03/29(火) 14:23:14
☆☆☆・・
絵 100%ORANGE
この一冊は、アキ・カウリスマキ監督の
「過去のない男」の感想文です。 (あとがきより)
「過去のない男」という映画のなかでは、数人の悪意によって記憶を失った男が、人々の善意に運ばれるようにして日々を過ごしているのだとか。
銀の鍵の主人公は女の人だが、やはり名前も年齢も職業も住まいも、何もかもの記憶をもたない状態でいきなり読者の前に現れる。
「どうしたんだろう」「いったい誰なんだろう」という不安とともに読者は彼女とともに物語りの中を歩く。
それこそ、なんの見返りもないのに彼女をあたたかく迎え入れてくれる善意の人々に運ばれるようにして。
記憶がたとえすべて消えてなくなったとしても、心の奥から涌き出てくる感情は忘れようがないものなのだと、ほっとする思いだった。
季節の記憶*保坂和志
- 2005/03/29(火) 14:21:26
☆☆☆・・
「ともかく細部がいい。日常の会話の中に
骨の太い哲学が溶け込んでいる」 池澤夏樹氏
(帯より)
たしかに、池澤氏の言葉のとおり、なんでもない日常の細かな描写はとてもよく描かれていると思う。ゆらゆらと情景が浮かび立つように思える。
そして、登場人物たちのほとんどが、自分のことを「虎の威」を借りない「狐」として、ちゃんとあるがままに捉えていることにも好感が持てる。
しかし、以前の保坂作品の際にも書いたように、ときどき地の文があとからあとから繋がっていくのが どうにも好きになれない。
出発する時に予想していたのと微妙に着地点が変わっていくような気分になるのが、なんだか言い含められているように思えてしまうのだ。
それが作者の狙いなのだとしたら、何を狙っているのかちょっとわたしには解らない。
全体のトーンは好きなのだが。
パンプルムース!*江國香織
- 2005/03/28(月) 14:19:58
☆☆☆☆・
江國香織 文 いわさきちひろ 絵
江國香織さんのことばは
ほのかな明るさの中にちょっぴりのかなしさや棘を含み
いわさきちひろさんのふんわりとやさしい絵が
さらにイメージをかきたてる。
甘すぎない絵詩集とでも呼べばいいのだろうか。
いちばん好きだったのはこれ。
あたしのおおきさぶん
かさはおもいけど へいき
かたによりかからせて もつの
あめはつめたいけど へいき
どんなにふっても
あたしのうえには
あたしのおおきさぶん
ちょうどぴったり
しか ふあらない
かぜがふくと
あめがかおにあたるけど へいき
あたしのおおきさぶん
ちょうどぴったり
だから うけとめるの (本文より)
ちなみに、パンプルムースとは
フランス語でグレープフルーツのことなのだとか。
窓際の死神(アンクー)*柴田よしき
- 2005/03/28(月) 14:18:06
☆☆☆・・
「死」を想ったこと、ありますか?
目の前に現れた、黄泉の国への使者。
死と向き合ったたとき、
生きることの実感と歓びを知るのかもしれない。
おとぎばなしをモチーフに描く<寓話的ミステリー>
(帯より)
寿命を終えた魂を黄泉の国へ連れて行くのが仕事だと言う死神。
死を想うとき、人はその死神を自分の近くに引き寄せてしまうのだとか。
命とはなんと脆いものなのだろう。
多くの人は、明日も明後日も自分の命が続くことを疑わずに日々を暮らし、なんの躊躇いもなくひと月後一年後の約束を交わす。
しかし、目の前に現れた男が自分は死神だと名乗り、身近な人の死が近いことを告げられたとしたらどうだろう。
しかも、自分の決心ひとつで、死ぬはずの人と自分の運命が交換できるなどと言われたら...。
死神は、魂を黄泉に連れて行く存在なのだが、「死」を よりも、「生」を より意識させられる物語になっている。
神はサイコロを振らない*大石英司
- 2005/03/27(日) 14:16:44
☆☆☆・・
1994年8月12日、宮崎を飛び立ったYS402便が忽然と消息を絶った。
しかし、その後の捜索では機体の残骸さえ発見できなかった。
東大で量子力学の教授だった加藤が自論を発表したが、多方面からバッシングを受け、東大を追われ、名もない大学に身を置くことになった。
その論とは、「402便は量子の隙間に紛れ込み、時の狭間を漂っており、10年後の2004年8月12日に還ってくる」というものだった。そして、「3日後の8月15日には、402便の乗客乗員はみな再び消えてしまう」と。
2004年の8月12日、402便は無事な姿で羽田に着陸したのだった。
乗客乗員にとっては1994年はほんの昨日のことなのだが、「遺族」という名を与えられた家族たちにとっては長い長い10年だったのだ。
生還した乗客乗員たちにとっても悲喜こもごもの3日間がはじまる。
普通に宮崎から羽田に向かっているつもりだったのに、突然、ここは10年後で あと3日の命だ、と言われたら、どうしたらいいのだろう。
自分なら 告げられた事実を自分に納得させるだけで3日を費やしてしまうのではないだろうか。
しかし、彼等のほとんどはおそらく3日でできる最良のことをしたのではないだろうか。
それぞれの3日間を淡々と描くことで、事実と運命の如何ともし難さに悶え、人の気持ちのもつ熱にほろりとさせられる。
ユージニア*恩田陸
- 2005/03/24(木) 14:14:55
☆☆☆☆・
誰が世界を手にしたの?
遠い夏、白い百日紅の記憶。死の使いは、静かに町を滅ぼした。
知らなければならない。あの詩の意味を。あの夏のすべてを。
(帯より)
ねっとりと絡みつくような夏の日に 北陸のある街で起こった大量毒殺事件。
当時近所に住んでいた子どもが10年後にその事件について書いた本。
その本ができあがるまでにされた 関係者への取材の数々。
章ごとに語り手を替えてその事件のことが語られてゆく。
犯人は何のためにこんな残虐な大量殺人を犯したのか。
早い段階で誰もが真犯人に思い至る。
しかしその姿は厚い霧の向こう側にいるように、はっきりとは見えてこない。
ときに霧が薄れ、触れられそうになるのだが、すぐにまた深い霧に覆われ、手から逃げていってしまうのだ。
もどかしく、渇きさえ覚える。
結末まで霧は晴れ渡ることはない。
事件のあった物語中の街の人々にとっても、本を開いた読者にとっても、忘れられない尾を引く事件になるだろう。
家にいるのが何より好き*岸本葉子
- 2005/03/24(木) 14:12:00
花散る頃の殺人*乃南アサ
- 2005/03/23(水) 14:11:02
☆☆☆・・
警視庁機動捜査隊・音道貴子。32歳、バツイチの彼女の前に現れる、
病んだ都会の犯罪者と犠牲者たち――貴子のゴミを狙う変質者、
援助交際の女子高生を襲う連続暴行魔、
ホテルで怪死した熟年夫婦などの事件をめぐる、
女性刑事の捜査と日常を描く会心の連作!
(見返しより)
実は、6つの連作中で、事実としての殺人事件はひとつも起こっていないのである。
「殺人」という語が使われている表題作でもである。
しかし、人は死に、機動捜査隊員である音道貴子等は大晦日も元旦もなく忙しく走り回っているのだ。
それぞれの事件の真相と、男社会で生きる刑事としての貴子と、32歳の女性としての貴子の日常との絡まり具合が絶妙だと思う。
ロミオとロミオは永遠に*恩田陸
- 2005/03/23(水) 14:09:20
☆☆☆・・
日本人だけが地球に居残り、
膨大な化学物質や産業廃棄物の処理に従事する近未来。
それを指導するエリートへの近道は、
「大東京学園」の卒業総代になることであった。
しかし、過酷な入学試験レースをくぐりぬけたアキラとシゲルを
待ち受けていたのは、前世紀サブカルチャーの歪んだ遺物と、
閉ざされた未来への絶望が支配するキャンパスだった。
やがて、学園からの脱走に命を燃やす「新宿」クラスと接触したアキラは、
学園のさらなる秘密を目の当たりにする・・・・・。
ノスタルジーの作家・恩田陸が、郷愁と狂騒の20世紀に捧げるオマージュ。
(単行本裏表紙より)
これが高校生活か、と思うようなハチャメチャさである。
自分以外はすべて敵としてたったひとつの卒業総代の座を目指すのだから、これはもう闘いである。
ドラゴンボールの天下一武道会を思い出した。みな凄まじくタフなのである。
しかし、こんな過酷な学園にも、置かれた、あるいは選び取った環境を疑う者が現れる。それこそが閉ざされた世界に一条の光となるのである。
グローイング・ダウン:清水義範
- 2005/03/21(月) 14:07:33
夏と花火と私の死体*乙一
- 2005/03/17(木) 14:06:00
虚ろな感覚*北川歩実
- 2005/03/17(木) 14:04:24
☆☆☆・・
虚ろな感覚
ねじれる記憶、歪む現実・・・・・
巧緻なトリックと目眩く謎があながたの感覚を惑わせる
気鋭の感覚喪失ミステリー
(帯より)
CASE1~CASE7それぞれで
コミュニケーション感覚・現実感覚・肉体感覚・日常感覚・自己感覚・時間感覚・美的感覚 を喪失させられ、眩暈を起こしそうである。
登場人物が自覚している捩じれと自覚していない捩じれとが、足元の心もとなさに相乗効果となって迫ってくる。
感覚の捩じれから 通常の場所に戻ってもなお、どこかが捩じれているような錯覚に陥っている自分を発見し、もどかしい気分である。
製造迷夢*若竹七海
- 2005/03/16(水) 14:02:43
☆☆☆・・
製造迷夢
憎悪、殺意、怨念がものに宿る
人の心が読めるって しんどい!
過去透視能力のある少女と刑事のコンビが遭遇する奇妙な犯罪。
(帯より)
表題作の他、天国の花の香り・逃亡の街・光明凱歌・寵愛。
ものに宿る残留思念を触れることによって読み取る能力を持った少女 美潮と 眉に唾をつけながらも彼女に助けられている刑事 一条の関係が、一作ごとに少しずつ変わっていく様も これらの物語を連作としてより楽しませる要素になっているだろう。
一条刑事の上司、西村のキャラクターも結構気に入っている。
孤独か、それに等しいもの*大崎善生
- 2005/03/14(月) 14:01:00
むかし僕が死んだ家*東野圭吾
- 2005/03/13(日) 13:59:23
☆☆☆・・
「あたしには幼い頃の思い出が全然ないの」
恋人が失った記憶を取り戻すために、
“幻の家”を訪れた僕たちを恐るべき事実が待っていた。
「本当にこんな幽霊屋敷みたいなところに何かあるのかしら。
あったとしても、それを見つけられるかしら(中略)」
「一筋縄でいかないことは覚悟の上だよ」私は彼女の頭を指差して続けた。
「何しろ二十年ぶりに、そこの鍵をこじあけようというんだからね」
すると沙也加は自分の頭に手をやり、「錆びついてなければいいんだけれど」
と力なく笑った。
私は何気なくピアノを見た。一瞬人形と目が合い、どきりとした。(本文より)
(帯より)
小学校入学前の記憶が抜け落ちるようにばっさりと失われている元恋人の頼みで、失われた記憶を取り戻す旅に出る。
現在の彼女の悩みと失われた記憶とが哀しく重なり合う様が痛々しい。
知らないままのほうがいいと他人には思えることでも、知らないままでいることは自分が自分でないような心もとなさに苛まれることなのだろう。そうと解っていてもなお、哀しすぎる謎解きである。
夜明けまで1マイル*村山由佳
- 2005/03/13(日) 13:57:29
この人の閾(いき)*保坂和志
- 2005/03/11(金) 13:55:44
☆☆・・・
この人の閾(いき)
表題作の他、東京画・夏のおわりの林の中・夢のあと。
「遊びにおいでよ」――
時は静かに流れ、“日常”は輝いている!
芥川賞受賞作 (帯より)
はっきり言って、よくわからなかった。
文章は――特に『東京画』において――メリハリがなく冗長に思えるし、内容も、≪描かれている≫というよりは≪書かれている≫だけだという気がする。
私とは相性がよくなかったようだ。
海辺のカフカ 上下*村上春樹
- 2005/03/10(木) 13:53:50
☆☆☆☆・
[データ1]
15歳
彼は長身で、寡黙だった。金属を混ぜ込んだような強い筋肉を持ち、
世界でいちばんタフな15歳の少年になりたいと思っていた。
[データ2]
中野区
東京都中野区にもしある日、空から突然2000匹の生きた魚が
路上に落ちてきたら、人々は驚かないわけにはいかないだろう。
[データ3]
ネコ
多くのネコたちは名前を持たない。多くのネコたちは言葉を持たない。
しかしそこには言葉を持たず、名前を持たない悪夢がある。
[データ4]
図書館
古い図書館の書架には秘密が満ちている。
夜の風がはなみずきの枝を揺らせるとき、
いくつかの想いは静かにかたちをとり始める。
[データ5]
四国
県を越えて陸路で四国を移動するとき、
人々は深い森と山を越えることになる。
いちど道を見失うと、戻るのは困難だ。
十五歳になった僕は二度と戻らない旅に出た。
(帯より)
時間のループと空間のループが複雑に絡み合い交じり合っている。
15歳の少年カフカはどこか遠いところへ行こうとしながら、そのループの内側にいる。
行くべき場所、会うべき人、するべきことが初めから決まっているように。
彼は結局求めていたものを失うと同時に、それを手に入れたのだろう。
フランシスのいえで*ラッセル・ホーバン
- 2005/03/10(木) 13:51:54
☆☆☆☆・
フランシスのいえで
リリアン・ホーバン=え まつおか きょうこ=やく
くまの女の子フランシスが主人公の絵本です。
フランシスはとってもかわいい家出をします。
そしてその家出は、ものすご~く意味のある家出だったのでした。
フランシスは、とてもお姉さんらしくて
家族のみんなが大好きだけれど
まだ甘えたい女の子なのでした。
かわいいものの本*銀色夏生
- 2005/03/08(火) 13:50:14
妊娠カレンダー*小川洋子
- 2005/03/06(日) 13:48:21
☆☆☆・・
妊娠カレンダー
表題作の他、ドミトリイ、夕暮れの給食室と雨のプール。
タイトルから ほのぼのとしたものを想像して読み始めたのだが、ことごとく裏切られた。
内容は、ホラーと言ってもいいくらいだと思う。
どの作品も、話や時間の流れはゆるゆると静かで、表面だけ見ればとても穏やかなのだが、底には禍々しくどろどろしたなにかが流れている。
その「なにか」は何だろう、と考えてみたのだが、それはもしかすると「本心」に近い何かなのかもしれない、と思えてきた。
そうだとすると、ますます怖い。
クラウド・コレクター[手帖版]*クラフト・エヴィング商會
- 2005/03/06(日) 13:46:50
☆☆☆・・
雲をつかむような話 吉田浩美と吉田篤弘の手による
クラフト・エヴィング商會の先代である祖父が愛用していた
古い皮トランク。その底から古ぼけた手帳が出てきた。
そこには、不思議な国アゾットに関する、驚くべき旅行記が記されていた。
読み進むうちに、孫に当たる三代目は、奇妙な物の数々に出会うことになる。
得体の知れない機械、判読不能の書物やポスター、
奇妙な譜面や小箱、そして酒の空壜らしきもの。
壮大なスケールの冒険ファンタジー。
1995年単行本版に加筆し、イラスト満載の<手帖版>。
(文庫裏表紙より)
望永遠鏡のなかに見える背中を追いかけて始まった旅の日記である。
さまざまな符牒あり、さまざまな暗示あり、そしてそれぞれにさまざまな解釈がされてゆく。
解き明かされてゆくたびに、はっきりし、なおかつ形を失うかのような謎たちなのだが、いつもいつでも人はこれらの謎を解くことを求めずにはいられないのだろう。
最も近くて最も遠く、果てしなく遠いが隣り合わせにある何かに 人はいつかたどり着くことができるのだろうか。
アホウドリの糞でできた国*古田靖
- 2005/03/05(土) 13:44:57
Teen Age
- 2005/03/04(金) 13:43:30
☆☆☆・・
角田光代・瀬尾まいこ・藤野千夜・椰月美智子・野中ともそ・島本理生・川上弘美 の7人が描くティーン・エイジの物語。
十代は、
可笑しいことが
いっぱいあった。
そして、
ときどき焦って、
ふと痛みも知った。
誰もが胸の奥に
しまってある、
たいせつな通過点。 (帯より)
十代のときに経験することは、その他の年代で経験することよりも ギュッと濃縮されているような気がする。
「人」を創るエキスのようなものがたくさんあるのだろう。
この本は、そんな可笑しかったり、哀しかったり、満たされたかったり、はぐれたかったりするいろいろな十代に出会える一冊なのだ。
川上弘美さんの『一実ちゃんのこと』は
いつもの川上さんの不思議世界とはひと味違うが
それはそれは貴重な十代模様な気がする。
あしたはうんと遠くへいこう*角田光代
- 2005/03/03(木) 13:41:46
☆☆☆・・
今度こそ幸せになりたい
ある女の子のせつない恋愛生活15年を描く
角田光代はじめての恋愛小説
(帯より)
求めながらどんどん遠ざかってしまうような、どっぷりと浸かりながら頭の中はどんどん空っぽになっていくような。
追いかけて追いついて、求めて手に入れても なお満たされない想いがそこら中にはびこっているようだ。
「たすけて」とつぶやくことの中に逃げ込み、
「たすけて」と言ってしまうことを恐れ、
「たすけて」はもらえないのだと自分を納得させようとする。
だれも助けてくれない。
だれかにひっぱられるように見覚えのない場所へいってしまっても、
だれも帰り道を指し示してはくれない。
そんなことはわかっているが、
それでもやっぱり私はこの一言をつぶやかずにはいられないのだ。
だったらいくらでも言えばいい。
だれにも向かわないその一言を、口のなかで転がし続けていればいい。
という主人公・泉の思いが象徴的だ。
熱帯魚*吉田修一
- 2005/03/03(木) 13:38:54
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