じつは、わたくしこういうものです*クラフト・エヴィング商會

  • 2005/04/30(土) 20:42:51

☆☆☆☆・


18人の仕事師が、それぞれ自分の仕事についての想いを語る。
坂本真典さんの写真とともに愉しむ、大人の絵本風な一冊。

その職業とは、こんなもの。

月光密売人*秒針音楽師*果実鑑定士*三色巻紙配達人*時間管理人*チョッキ食堂*沈黙先生*選択士*地暦測量士*白シャツ工房*バリトン・カフェ*冷水塔守*ひらめきランプ交換人*二代目・アイロン・マスター*コルク・レスキュー隊*警鐘人*哲学的白紙商*シチュー当番

読んでいるうちに、ほんとうにどこかでひっそりとこんな仕事をしている人がいるかもしれない、という心持ちになってくる。どの仕事も、大げさでなく、ささやかにほのぼのとしているのが好い。そして、どの仕事師も、祖父母や両親がささやかに続けていた仕事振りを尊敬し、引き継いで続けているのが脈々と流れる誇りにつながっているように思えて胸に染みる。

巻末で、物語に登場した18人の仕事師のほんとうの名前や職業が明かされているのも不思議な面白さがある。小川洋子さんが、冷水塔守として登場しているのも興味深い。

大人の遊び心満載の一冊である。

私が殺した少女*原りょう

  • 2005/04/29(金) 20:41:16

☆☆☆・・
私が殺した少女

 私立探偵沢崎シリーズ 待望の長篇第二作!
 
 夏の初めの昼下り、西新宿のはずれにある自分の事務所を出て、
 豊島区目白の依頼人の邸宅へブルーバードを走らせた私は、
 不運にも誘拐事件に巻きこまれてしまった・・・・・。

                      (帯より)


語るのは私立探偵・沢崎。
仕事の依頼だと思って訪問した邸宅では、彼は身代金を奪いにやってきた誘拐犯人として 待ち構えられていたのだった。

ひょんなことから身代金を届ける役を負わされることになり、しかもそれに失敗した沢崎が この事件に関わりつづけたのは、身代金受け渡しに失敗したせいで、人質が殺されることになったのではないかと危惧したためである。

事件の始まりには興味をそそられるものがあったが、その後の展開は、予想を大きく裏切られることもなく、読んでいて緊迫感をあまり感じられなかった。
警察と私立探偵の確執や馴れ合い方もあっさりとしていて、いささか迫力不足の感は否めない。

ナナイロノコイ

  • 2005/04/28(木) 20:39:20

☆☆☆・・


江國香織・角田光代・井上荒野・谷村志穂・藤野千夜・ミーヨン・唯川恵
という7人による7つの恋愛小説。

主人公はどの物語でも女性なのだが、恋愛模様はさまざまである。
そして、ここに描かれている恋愛は、どれもみな甘ったるいものではなく、噛みしめたとたんにじわっと苦いものが滲み出るような恋愛模様なのだ。
恋愛と友情、男と女。正解などあるわけがない。

古道具 中野商店*川上弘美

  • 2005/04/27(水) 20:37:51

☆☆☆☆・


≪骨董ではなく古道具屋≫なのだという店主中野さん。
その姉のマサヨさん。そしてアルバイト店員のタケオと この物語の語り手であるヒトミ が主な登場人物。

中野商店の中は、置いてある古道具のせいなのか、そこにいる人たちのせいなのか、なんとはなくいい加減で曖昧で、外の世界からはほんの僅か揺らいで浮き上がっているような雰囲気である。
そこにいる誰もがきちんと毎日商売をし、生活をしていて、描かれていることはものすごく生活感の漂うことごとなのだが、なぜかそこからは生活感が感じられない。
それぞれがそれぞれに 生きることに不器用なせいだろうか。
何かが少しずつぎこちなくずれていて、それが妙にこちらを心地好くするのである。
世間一般にいう普通にしているヒトミとタケオの様子の方が、何かが違うように思えてしまうのはなぜだろう。

> more >>>

告白*町田康

  • 2005/04/25(月) 20:36:16

☆☆☆・・



 人はなぜ人を殺すのか
 河内音頭のスタンダードナンバー<河内十人斬り>をモチーフに、
 町田康が永遠のテーマに迫る渾身の長編小説!

                        (帯より)


676ページの大作である。
評判もずいぶんいいらしい。
でも、わたしはあまりのめり込めなかった。

主人公である熊太郎は極度に思弁的なその性癖ゆえに、子どもの頃から 心の奥で考えていることをそのまま言い表す言葉を持たずに育つ。よって、周囲の評価と自らの胸の裡とのギャップに悩み、それによって更に、物事を不必要に歪めて先読みするようになり、かえって何事も上手く行かぬようになる。

熊太郎の思弁性は 極端なものかもしれないが、多かれ少なかれ誰にでもある要素ではないだろうか、と思うとき、全面的に熊太郎に肩入れする気持ちにはなれないのである。ある場面では共感し同情的にもなるのだが。

> more >>>

もりのへなそうる*わたなべ しげお

  • 2005/04/23(土) 20:34:44

☆☆☆☆・


児童書です。
わたなべ しげお・さく やまわき ゆりこ・え

5歳のてつたと 3歳のみつや、そして探検していた森で赤と黄のしましまの大きな卵から孵った不思議な生きもの≪へなそうる≫のお話。

てつたとみつやの兄弟が へなそうるに出遭ってもちっとも怖がらなかったのに、へなそうるがカニやおたまじゃくしを怖がったり。
兄弟が自分達が持ってきたおにぎりやドーナツやチューインガムなどをへなそうるに分けてあげるところや、なんにも知らないへなそうるに 自分なりに知っていることを教えてあげる二人の様子はとても微笑ましくて 思わず笑みが浮かんでしまいます。

一日遊び終わって夕方になり、兄弟が家に帰るときに へなそうるが木の幹にからだを隠して淋しそうに見送る姿に鼻の奥がつんとします。

図書館の水脈*竹内真

  • 2005/04/22(金) 20:32:59

☆☆☆・・



村上春樹さんの『海辺のカフカ』のトリビュートとして書かれた作品なのだとか。

前半の構成も、『海辺のカフカ』と同じように、章ごとに交互に一人称を替えて進んでゆく。ただしこちらは、割と早い時期に双方が出会い 行動を共にするのだが。

『海辺のカフカ』を読んでいなければ 必ず読んでみたくなるだろうし、読んでいれば 一緒に旅を愉しめる。

他にもさまざまな本が紹介されていて、興味をそそられる。

水を伝って誰かと誰かが何かを感じあうように、本を読めば その中に流れる水脈から遠い誰かとつながれるかもしれない と、思わせられる。

> more >>>

しゃべれども しゃべれども*佐藤多佳子

  • 2005/04/22(金) 20:31:28

☆☆☆☆・


語り手は、若手落語家・今昔亭三つ葉(26歳)。
まだ二つ目で、自分も修行中の身であるのだが、ひょんなことから言葉で躓いている4人に落語を教えることになる。
従兄弟でテニスコーチの良、失恋を引き摺っている美女 十河、クラスで虐めに合っている村林、現役を退き解説者となるも回りの目が気になって当り障りのないことしかいえない湯河原が、その4人である。

頑ななまでの各人の心模様とその移り変わり、三つ葉の気持ちの変化する様子に 知らず知らず惹きこまれ寄り添ってしまう。
不器用な人たちの集まりなのだが じんわりとやさしくあたたかい。
世の中捨てたもんじゃない、と思わせてくれる一冊である。

> more >>>

1ポンドの悲しみ*石田衣良

  • 2005/04/20(水) 20:29:48

☆☆☆・・


 ふつうの恋のちいさな火花
 日常に舞い降りた一瞬のときめき10drops

                  (帯より)

30代の恋愛、しかも特別ではない普通の人たちの恋愛模様を描いた10の短編集。

恋愛にマニュアルはないので、どの恋愛もその二人にとっては独創的な唯一のものなのだ。
そんな星の数ほどもある恋愛模様の中から10のエピソードが選び出されたのがこの一冊だろう。
恋愛の教科書にはならないが、どの物語にもはっとさせられることがある。

初恋*中原みすず

  • 2005/04/20(水) 20:28:13

☆☆☆・・
初恋

 私は「府中三億円強奪事件」の実行犯だと思う。
 だと思う、というのは、
 私にもその意志があったかどうか定かではないからだ。
 ただ、どう言ったらいいのか・・・・・、
 時間を戻すことが不可能ならば、せめてこの物語を書くことで、
 私は私から開放されたいのかもしれない。

               (かんたんにまえがき より)


その事件を知っている人ならば、記憶からなくなることはおそらくないであろう 府中三億円事件の、実行犯になったという18歳の少女の物語る1960年代の終わりの数年のことである。

三億円事件の犯人のことは、これまでも様々に語られ、小説にもされてきたが、これほど切なく迷いのない動機を提示しているものはたぶん他にはないだろう。
時代の雰囲気と、物語の伏線と、曖昧な しかし熱いものに満たされる結末とが絡み合ってひとつの世界を作っているようだ。

> more >>>

車掌さんの恋*有吉玉青

  • 2005/04/19(火) 20:26:25

☆☆☆・・



表題作の他、中吊り泥棒・ボックス・シート・きせる姫・あみだなの上 の5編の短編集。

どの物語も主な舞台は電車の中。
自らは留まりながら、見ず知らずの人々とともに運ばれてゆく心もとなさのようなものが どこかに流れているような気がする。

この5編の物語を読んでいると、電車が人生そのもののようにも思えてくる。

> more >>>

これからはあるくのだ*角田光代

  • 2005/04/18(月) 20:24:48

☆☆☆・・


エッセイ集。

角田光代さんのいろいろな面を知ることができる。
にやりとしたり、ほほぅと感心したり、目を瞠ったり、頷いたり、少しだけ角田さんの目で周りを見回したような心地になれるかもしれない。

雪の夜話*浅倉卓弥

  • 2005/04/18(月) 20:23:20

☆☆☆・・


高校生の相模和樹は、雪の降る深夜、試験勉強に飽きて煙草を買いに出て 昔遊んだ公園で白ずくめの少女に出会う。
その後の8年で、彼は進学し就職し そして職を辞して故郷の町に帰って来る。そしてまた、雪の降る深夜 白い少女と再会するのだ。

白い少女の存在は、和樹が自分の存在を想うときなくてはならないものになる。しかし少女が誰なのか、彼の想像の外に実際に存在しているのかは、はっきりとはわからない。
だが、夜の闇にも白く光って見える 少女と会う公園の世界は、降る雪を見あげる時の自分の居場所が定まらない感じとあいまって、不思議な場所へと誘ってくれる。

命とは、一回限りのものではなく、さまざまな形を借り、そこを通り過ぎてゆくものなのだ、という生命感が新鮮でもあった。

> more >>>

時計坂の家*高楼方子

  • 2005/04/17(日) 20:21:39

☆☆☆☆・
時計坂の家

 千葉史子 絵
 
 何度体験しても、慣れるということのないできごとが
 あるとしたら、これもそのひとつだった。
 言いようのない不可思議さに、初めてのときと同じ眩暈を覚えるのだ。
 そしてやがて、目の前に、ぼんやり、ぼんやり、
 緑色の景色があらわれる。
 牡丹色の霞の中から、ふうわり、ふうわり、立ちあらわれてくるのだ。

                      (見返しより)


12歳の夏休み、母方の祖父の住む汀館でフー子に起こった不思議なできごとのお話。

押し寄せ流されてゆく現実の中に、ぽっかりと口を開けた魅惑的な異世界。
今はなき祖母の謎と、時計細工の技師であり魔術師でありPOM(ロォム)と呼ばれた謎のロシア人チェルヌイシェフに迫るほどに、解き明かされ また一層謎に包まれる裏庭のその場所。
生まれながらにして見られる者と、それをじぃっと見つめる者。
魅惑的な園の主としてふさわしいのは・・・。真実に気づくのは、フー子が汀館を離れたあとだったのだが、そのことはきっとたしかに彼女を強くしたことだろう。
千葉史子さんの挿絵が物語の世界へするりと自然に誘ってくれる。

> more >>>

星々の悲しみ*宮本輝

  • 2005/04/16(土) 20:19:58

☆☆☆・・
星々の悲しみ

表題作の他、西瓜トラック・北病棟・火・小旗・蝶・不良馬場。

 喫茶店の壁にかかっていた一枚の絵「星々の悲しみ」。
 この薄命の画家の作品を盗み出し、ひとり眺めいる若者を描く表題作のほか、
 不思議なエネルギーそもつ輝かしい闇の時代・青春のさなかに、
 生きているあかしを、はげしく求める群像を、
 深い洞察と巧みな物語展開で、みごとに描いた傑作短篇の数々。

                    (文庫裏表紙より)

何年か前に読んだのを忘れていて再読。

「星々の悲しみ」と題された絵に、題の意味は図りかねながらもなぜか惹きつけられてしまう若者に、洋々たる未来を持ちながら自分を掴みかねている若い時代ゆえの哀しみを重ねてしまう。
生きているということの可能性と、うらはらの儚さを思う。

銀の匙*中勘助

  • 2005/04/15(金) 20:17:50

☆☆☆・・


病弱であった故に伯母に下へも置かれぬほど大事にされた幼少時の日々のことが淡々とつづられている。

出版が1926年というから、かれこれもう80年も前のことであるのだが、まったく古びた様子はなく 古きよき日本を垣間見るようである。
時の流れのゆるやかさや、人の振る舞いの奥ゆかしさにほっとする心地がする。

黒い家*貴志祐介

  • 2005/04/13(水) 18:28:16

☆☆☆・・


 第4回 日本ホラー小説大賞受賞作
 人はここまで悪になりきれるのか?
 人間存在の深部を襲う戦慄の恐怖。
 巨大なモラルの崩壊に直面する日本。黒い家は来るべき破局の予兆なのか。
 人間心理の恐ろしさを極限まで描いたノンストップ巨編。
 「ホラー小説界にまたまた出現した今世紀最強の銃弾!

                    (帯より)


子どもは保険金欲しさに自殺を装わされて殺されたのか?
殺したのはなさぬ仲の父親?それとも・・・。
保険金支払い査定の現場で働く若槻が、ある日受けた一本の問い合わせの電話が、考えてみればこの物語のきっかけであった。

 「保険金いうのは、自殺した時でも出ますんか?」

そして、始まりはいつとも知れないのだ。

いつもの仕事の一環として関わったつもりが、実は巧みに利用されていたのではないかと気づくのは、もうほとんど事件が終わりかけているときだった。事件を起こした側と翻弄された側の双方の幼い頃の体験によるトラウマが複雑に絡み合い、緊張感を高めている。
荒唐無稽の怖さではなく、今にも身近に忍び寄ってきそうな温度のある怖さに震えながらページを捲った。

寡黙な死骸 みだらな弔い*小川洋子

  • 2005/04/12(火) 18:25:06

☆☆☆☆・・


11の物語の連作。

11枚の薄い紙を少しだけ重ね合わせて次々とつなぎ、最後を最初につなげて筒状にしたような一冊。
先に書いた『沈黙博物館』でもそうだったが、登場人物に名前が与えられていなくて、職名や立場上の名で呼ばれている。それが現実から浮遊した少しだけ異質な世界を描くのによく合っていると思う。
固有の名前で呼ばれない登場人物たちは、誰もみな、微かに淋しげで、僅かに輪郭がぼやけて透きとおりかけているような印象を与える。

沈黙博物館*小川洋子

  • 2005/04/12(火) 18:23:25

☆☆☆・・



 めぐる季節とともに深まる謎・・・・・
 形見たちが語る物語とは?頻発する殺人事件の犯人は?
 死の完結を永遠に阻止するために死者が遺した断片を求めて

 耳縮小用メス・・・シロイワバイソンの毛皮・・・
 年増の娼婦の避妊リング・・・切り取られた乳首・・・
 
 「形見じゃ」老婆は言った。

 「私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、
 最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ。
 これを展示、保存する博物館を作ってもらいたい」

                     (帯より)


博物館作りを依頼された博物館技師が、とある村に着き、
≪沈黙博物館≫という名の博物館を作り上げる物語である。
依頼主の老婆が彼に要求したのは、その村で死んだ人の形見の博物館を作ること。そして、今から先、この村で死んでゆく人の形見を収集すること。
形見は、何でもいいというわけではなく、自ずとそれと決まる、その人が生きたことを如実に物語るものでなければならない。そしてまた、形見を収集するためには手段を選ばない。

老婆が長年にわたり集めてきた形見の物語を文書化し、死者が出ればその形見を取りに赴き、厩舎を展示室に改装しながら、技師はその村で長く過ごし、今までいた場所から自分で思うよりずっとずっと遠くまできてしまっているようだ。
物言わぬ形見の品々は何よりも雄弁に死者たちそれぞれの人生を語り、博物館の関係者の誰もが雄弁な沈黙に呑み込まれているようである。
胸騒ぎさえも沈黙の中に封じこめてしまうような、ある種不穏な、けれど満ち足りた静けさが漂っている。

> more >>>

雪の絵*魚住陽子

  • 2005/04/09(土) 18:21:38

☆☆☆・・
雪の絵

表題作の他 別々の皿・秋の指輪・雨の中で最初に濡れる

子どものいない夫婦の少しずつずれていく心と食卓。
画家の父が画を描く間学校を休んで車で旅をする母と娘たち。
妊娠中絶後の埋められない心の傷を茨の実のように赤い珊瑚の指輪に託す女。
不思議な女から物を買い、その代わり何かを渡してしまう妻。

ごく普通の日常を描くように淡々と描かれているのは、実はどこか少し日常を外れた物語たちである。
登場人物の誰かの中に、ほんの少しの張りつめた気配があり、それが物語り全体を微かに緊張させているように思う。

おいしい話*赤木かん子・編

  • 2005/04/09(土) 18:19:37

☆☆☆・・


小中学生にも読書を・…という求めに応じて棚に並べられる本の少なさに困惑した編者・赤木かん子さんが
 切れ味のいい中・短編は、
 読みなれていない人でも読みきることができ、
 一生忘れられないほど強く、
 その人の魂をゆさぶる力も持っているものです。
 おもしろくて読みやすくてわかりやすい、
 そうして基本的で深い作品を選んだつもりですがいかがでしょうか。

                 (編者から皆様へより)
とおっしゃる通り、面白味と示唆に富んだ5つの物語である。

焼岳の月見――庄野英二
ソリマンのお姫さまの話――カレル・チャペック(中野好夫・訳)
ぶり大根――清水義範
夏の盃――波津彬子
食べる――池波正太郎

清水義範さんの『ぶり大根』などは、自分の身に照らして、情けなかったり可笑しかったり羨ましかったり、であった。
この題材でこれだけ気持ちのいい作品に仕立て上げられるのは清水さんゆえであろう。

自転車いっぱい花かごにして*渡辺一枝

  • 2005/04/08(金) 18:17:28

☆☆☆・・
自転車いっぱい花かごにして

生活の場近くにひっそりと咲く、旅の途中の車窓から眺めた、旅先の知らない土地を歩き回ってみつけた野の花たちのあれこれを、ご自分やご家族のことをさりげなく織り込みながら綴った一冊です。
もちろん主役は可憐な野の花たちなのだけれど、食べものや、なにより和名の色がとてもたくさんでてきていて、その微妙な色の表情の描かれ方をもじっくりと愉しんで読み終えました。

犯人に告ぐ*雫井脩介

  • 2005/04/07(木) 18:15:38

☆☆☆☆・

犯人に告ぐ 犯人に告ぐ
雫井 脩介 (2004/07)
双葉社

この商品の詳細を見る

 「犯人よ、今夜は震えて眠れ」
 連続児童殺人事件――
 姿見えぬ犯人に、警察はテレビ局と手を組んだ。
 史上初の、劇場型捜査が始まる!

 絶賛! 横山秀夫氏
 幹が太く、枝葉の繊細さが心に絡みつく警察小説だ。

 喝采! 福井春敏氏
 メディアという暴力装置と真っ向から取り組み、
 汚濁の中に一縷の希望を見出そうとする。
 この作品で著者は新たなステージに立った。

 一気読み! 伊坂幸太郎氏
 二章まで読み終えた僕は、最高だねこれは、と興奮し、
 つづきが気になるあまり、風呂場でも読んだのでした。

                      (帯より)


6年前の児童誘拐殺人事件で取り逃がし、未だに逮捕できずにいる≪ワシ≫のことを、忸怩たる思いで胸に置きつづけている 巻島が、連続して起きている児童殺人事件の犯人≪バッドマン≫を挙げる捜査の責任者に抜擢される。
警察の思惑やテレビ局の思惑、自分勝手な上司の思惑が絡み合って様々な展開を見せる。
巻島の開き直りとも見える執念と、それを支える少数の腹心たちの思い入れに胸が熱くなる。
津田や本田のサポートなしには事件解決はありえなかっただろう。
遺族会・テレビ局・視聴者、そして、身内である警察内部との軋轢を乗り越えて物語は息をもつかせずに結末へと向かう。

> more >>>

奇跡の人*真保裕一

  • 2005/04/04(月) 18:13:31

☆☆☆・・


 圧倒的な人間愛にあふれた生命の鼓動。
 交通事故。八年間にわたる入院生活。
 そして、全てを包み込んでくれた母の死。
 幾多の苦難を乗りこえて、克巳はゼロから出発する。
 空白の時間に埋もれたもう一人の自分を探すために。
 新生面を切り拓いた待望の特別書き下ろし最新作!

                      (帯より)


自分が間違いなく自分であると確信するためには、自分を取り巻く人々への揺るぎない信頼が不可欠なものなのだと、痛切に思った。
自分がただ一人そこに存在しても、それだけでは自分として成り立っていないのだと。

交通事故で絶望的な怪我を追い、奇跡的に生還したにもかかわらず、事故以前の記憶がまるっきり失われ――それは、その時点で一度死に、新たに生まれ変わったような状態だった――自分が本当は誰なのかを追い求める克巳を止めることは誰にもできないのだ。

事故以前の自分と、現在ある自分との板ばさみになって悩む彼を見ていると、そうまでして知る必要があるのか、と切なくなるが、周囲の態度に疑いを抱いてしまった彼は、突き進むしかなかったのだろう。

「奇跡の人」と呼ばれた彼は、最後にはもう一度「奇跡の人」と呼ばれる日のために闘うことになる。
それはしあわせなのだろうか。この物語で誰がしあわせになったのだろうか。

> more >>>

ことばの食卓*武田百合子

  • 2005/04/02(土) 18:08:11

☆☆☆・・
ことばの食卓

画・野中ユリ

題名の『ことばの食卓』から、なんとなくいろいろな食べもののことが書かれているのかと思って読み始めた。
もちろん食べもののことも書かれているが、それだけではない。
≪食卓≫というのは、人間が生きてゆくためになくてはならない≪食べる≫ということのためにある場所であり、どこよりも気取らずに過ごせる場所でもあるのだと思う。

14の小さな物語が、食卓にのせられ、強ばりのない語り口で語られるのに耳を澄ませると、こちらまでほっとからだの強ばりをほどいて寛げるような気がする。

対岸の彼女*角田光代

  • 2005/04/02(土) 18:05:31

☆☆☆☆・




 第132回 直木賞受賞
 大人になれば、自分で何かを選べるの?
 女の人を区別するのは女の人だ。
 既婚と未婚、働く女と家事をする女、子のいる女といない女。
 立場が違うということは、ときに女同士を決裂させる。

                      (帯より)


幼い頃から人の中で自分の位置を上手く築けなかった女たちの物語かもしれない。
公園でよその子供たちの輪に入っていけない3歳の娘に、自分の姿を重ねて憂鬱になる主婦・小夜子。
おおざっぱとも見えるやり方で持ちかけられた企画に次々と手を出しどれもこれも中途半端にしてしまう女企業家・葵。

現わし方こそ正反対といえるほど違っているが、根底にあるのは≪認められたい≫という気持ちなのではないだろうか。
無理をしないありのままの自分を認めてくれる人と出会いたい、という想い。

しかし、同じような想いを抱えている彼女たちに、初めはお互いのことがまったく理解できないのである。
孤独に悩む人たちには、往々にしてこんなことがあるのかもしれない、と思わされる。
認めて欲しいのに自分を開けないという矛盾にも悩むことになるのだ。

結末はハッピーエンドなのだが、だからといってすべてが解決されるわけではない。
切なさいっぱいのハッピーエンドなのである。

> more >>>