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観覧車*柴田よしき

  • 2005/06/30(木) 21:34:19

☆☆☆・・
観覧車―恋愛ミステリー

 あたしはまだ、壊されたくない。
 彼があたしを愛してくれたという、この時間を・・・・・

 失踪した夫を待ち続ける女探偵・下澤唯。
 依頼人たちの絶望に哀しみ、希望に癒される――。
 感動を呼ぶ珠玉の恋愛ミステリー
      (帯より)


七年前、結婚して一年しか経っていない私立探偵の夫・貴之が 突然帰らなくなった。
彼が帰ってきたときに探偵事務所の看板が下りていることのないように、と残された妻・唯は 自分が探偵になったのだった。

表題作を含む七つの物語が連作になっている。
どの物語でも、唯が探偵として依頼人と関わりながら謎を解いていくのだが、最後には夫のことを、夫と自分とのことを想うのである。

唯の大学の同期で 貴之の剣道の後輩でもあり 現在は刑事の兵頭風太、同業者の探偵仲間の川崎多美子らの存在が頼もしくほほえましくもある。

あとがきで著者が語るように、唯の夫貴之失踪の謎を解く新たな作品の構想があるという。たのしみである。

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十一月の扉*高楼方子

  • 2005/06/30(木) 13:09:45

☆☆☆☆・




児童書です。

ある日、爽子(そうこ)が弟と一緒にのぞいていた双眼鏡に 不意に現われ束の間で消えた家。
 すっと伸びた深緑色の、モミの木のような数本の木立の
 あいだからのぞく、 赤茶色の屋根の白い家。

見た途端に惹きつけられて翌日探し当てたのが≪十一月荘≫だった。
ある事情と、爽子の強い願いでそこで暮らすことになった二ヶ月間の爽子の物語と、爽子が創った物語。

中学二年の爽子の 冒険とも言えるひとり暮らしの二ヶ月間に起こったこと、想ったことは爽子にとってかけがえのないことばかりだった。

クラスメートに物足りなさを感じ、家族 特に母に少しばかりの疎ましさを感じ、そんな自分を恥ずかしく思う少女の季節。
そんな季節に出会った≪十一月荘≫やそこに集う人々との交わりは、爽子にいままでとは違った世界をみせてくれたのだった。

≪十一月荘≫で暮らす現実のなかに、爽子が創る『ドードー森の物語』が織り込まれ、しかも 物語と現実が微妙にシンクロしていたりして、なにやら爽子の想像の世界に迷いこんだような心地になる一冊。
もしかしたら、双眼鏡でこの家を見たときからが夢だったのかしら…なんて。

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ザ・ベストミステリーズ2004

  • 2005/06/29(水) 17:05:54

☆☆☆・・


 ミステリートップ20
 プロが選んだ最高傑作選!

 本書は、2003年に小説誌等に発表された数多くの短篇ミステリーの中から、
 日本推理作家協会が最も優れた20篇を厳選した、決定版アンソロジーです。
 推理小説界の2003年の概説、ミステリー各賞の歴代受賞リストもついた、
 50年を越える歴史を誇る唯一無二の推理年鑑です。

                            (帯より)


掲載作家のラインナップは
伊坂幸太郎・朱川湊人・小川勝己・青木知己・小貫風樹
畠中恵・法月綸太郎・逢坂剛・有栖川有栖・篠田節子
歌野晶午・柄刀一・石田衣良・折原一・獅子宮俊彦
北森鴻・井上夢人・田中啓文・横山秀夫・松尾由美

伊坂幸太郎さんの『死神の精度』に惹かれて手にした。
伊坂作品のキーワードである≪神様のレシピ≫がこんな形で現われるとは。さすが、期待を裏切らない。

風味や彩り、味付けをさまざまに変えて、盛りだくさんに愉しめる一冊だった。

月曜日の水玉模様*加納朋子

  • 2005/06/27(月) 13:05:21

☆☆☆・・



月曜日の水玉模様
火曜日の頭痛発熱
水曜日の探偵志願
木曜日の迷子案内
金曜日の目撃証人
土曜日の嫁菜寿司
日曜日の雨天決行

タイトルに曜日が埋め込まれている連作短篇ミステリ。
そして、最初の月曜日の章で、主人公の片桐陶子は、曜日ごとにネクタイを替える萩広海と出会うのである。もちろん月曜日のネクタイは水玉模様。

ミステリと言っても、禍々しい殺人事件が起こるようなものではなく、陶子と萩広海がいわば探偵役となって、日常のちょっとした謎を解き明かすのである。場面のテンポもよく、登場人物のキャラクターも魅力的でコメディ風味でもあるが、謎解きはちゃんとミステリである。

よくみると、タイトルにもちょっとした仕掛けがあることに気づく。

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ハミザベス*栗田有起

  • 2005/06/26(日) 16:40:04

☆☆☆・・


表題作のほか、豆姉妹。

死んだと聞かされていた父親が遺言を遺して亡くなり、母は現金を、まちるはマンションをもらうことになった。
そしてなんと、父と一緒に暮らしていた同い年のあかつきさんから譲り受けたハムスターと一緒に暮らすことになったのだった。
そのハムスターにつけた名前がタイトルのハミザベスである。

豆姉妹にも共通するが、普通ってなんだろう、という思いになる。
これらの作品に出てくる人びとの境遇はおそらく一般的な大多数ではないだろう。それでもそれはその人たちにとっては普通の暮らしなのだ。
ときに逸れることがあってもねじれずに歩いている姿には胸を打つものがある。
人と人とのかかわりがあたたかい。

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蒲公英草紙(常野物語)*恩田陸

  • 2005/06/26(日) 09:56:12

☆☆☆・・



特別な力を持ち、権力を望まず、群れず、人の役に立つ生き方を守りつづける一族・常野の物語。

生きている人を≪しまう≫力を持つ、春田一家と東北の名家・槙村家とのつながりによってもたらされる事々の物語である。

少女のころの峰子が父親からもらい、「蒲公英草紙」と名づけた よもぎ色の帳面に書き綴られたこと、を思い出している という体裁を取っている。

峰子の父は、槙村家のかかりつけの医者であり、そんな関係から牧村家の病弱なお嬢さま・聡子様のお相手として 峰子に声がかかったところから物語ははじまる。

静かで荒々しい物語である。
常野の人たちが裡に抱える力の強さと、外見の静かさとが、この物語の底に常に流れ、雰囲気を作っている。

『光の帝国 常野物語』を読んでいてもいなくても愉しめる一冊である。

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book baton に答えてみました

  • 2005/06/26(日) 09:38:57

本を読む女。改訂版のざれこさんが回してくださった ≪book baton≫に答えてみました。

質問パターンはいくつかあるようですけれど
わたしは パターン2に答えます。


a お気に入りのテキストサイト(ブログ)

  cap verses / そよ日暮らし
   
   soyo さんが主催する、四行詩のシリトリのサイトです。


b 今読んでいる本

  恩田陸さんの『蒲公英草紙』を読みおわり
  栗田有起さんの『ハミザベス』を読みはじめたところです。


c 好きな作家

  恩田陸・東野圭吾・横山秀夫・江國香織・川上弘美・伊坂幸太郎・
  石田衣良・森絵都・若竹七海・・・・・
  たくさんいすぎて書ききれません。


d よく読むまたは、思い入れのある本

  
  『ひとりのはらに』
  
  質問a の soyoさんこと斉藤そよさんの言葉と
  写真家の若林浩樹さんのニセコの草花の写真との
  コラボレーション作品。
  ページを繰るごとに、ニセコの野原をお散歩している心地になれます。


e この本は手放せません!

  上記の『ひとりのはらに』と
  やはり 【そよ日暮らし】のサイトから生まれた
  シリトリ投稿作品をまとめた一冊
  『そよ日暮らし 2』
  オンデマンド出版です。


f 次にバトンを渡すヒト3名

  バトンはどなたにも渡しませんけれど
  もしご興味のある方がいらしたら、答えてみてください。


バトンを回してくださった ざれこさん、ありがとうございました。

遠くからの声(往復書簡)

  • 2005/06/25(土) 13:40:24

☆☆☆・・


佐伯一麦さんと古井由吉さんの往復書簡。

佐伯一麦さんの『鉄塔家族』を読んだ後だったので、とても近しい感じがした。
あれは、フィクションでありながらノンフィクションの部分も持ち合わせた小説だったのだということがわかった。

佐伯さんがノルウェーに滞在した一年間とその後しばらくの手紙のやり取りである。
静かで奥深い会話が心地好い。

ミステリ十二か月*北村薫

  • 2005/06/23(木) 17:25:50

☆☆☆・・


 毎日がミステリきぶん
 子どもの頃感じた素朴な驚き、忘れていませんか?
 北村薫が選んだ50冊
 そこに、あなたが出会えて良かったと思える本が必ずあります
 
 有栖川有栖氏との熱血対談と、
 大野隆司氏の彩色版画を収録
       (帯より)


読売新聞の夕刊に連載されていたものがまとめられた一冊。
『詩歌の待ち伏せ』でも感じたが、北村薫さんの本が好きでたまらない様がこぼれだしている。
書かれようはとても穏やかなのだが、裡に熱が篭っているのがわかるようである。ときに、辛口なのも愛ゆえだろう。

版画家大野隆司さんの円形の版画挿絵がまたいい。
その回のテーマに沿っていることはもちろん、円の中には大野隆司風の別の謎まで隠されていて、何倍にも愉しめる。

最後に載せられている有栖川有栖さんとの対談も、味わい深い。

さっそく何冊か図書館に予約を入れた。

象の消滅*村上春樹

  • 2005/06/22(水) 17:29:49

☆☆☆・・


短篇選集 1980~1991

 ニューヨークが選んだ村上春樹の初期短篇17篇。
 英語版と同じ作品構成で贈る
 Collected short stories of Haruki Murakami

 これら17の短篇は、わたしが当初期待していた通りのものとなった。
 作家として多くの引き出しを持つ、驚異的なハルキの才能は、
 国境を越えても揺るぎない。
               ゲイリー・L・フィスケットジョン
               (クノップフ社副社長/編集次長)

                         (カバーより)


原書のような体裁に透明のカバーが掛けられ、そこに日本語版のタイトルその他が載っている。ニューヨークの書店に並んだものを手に取ったような気分に少しだけさせられる。
英訳されたものばかり、という思いがあるせいなのか、どの短篇も翻訳調の語り口がちょっぴり鼻についた。わたしが翻訳物が苦手なせいもあるかもしれないが。

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ぼくのミステリな日常*若竹七海

  • 2005/06/20(月) 20:06:48

☆☆☆☆・
ぼくのミステリな日常

中堅どころの建設コンサルタント会社のOLで、仕事もあまり面白くないので そろそろ辞めようかと思っていた 若竹七海が、社内報の編集を任されたところから物語ははじまる。
毎月何か短篇でも載せてくれ、という依頼を受け、小説などを書いている先輩に頼むが、引き受けてもらえず、知り合いを紹介される。
その人が社内報向けに短篇を書いてくれる条件が、匿名にすること。
編集長・若竹七海自身も、短篇連載が完了するまで匿名作家の正体を知らされていないのである。

毎月の社内報の目次ページからはじまる月ごとの短篇は、実はひと連なりの事件になっているのであった。
なぜ匿名なのか? なぜ社内報なのか? 
最後になって、どんどん謎が解かれてゆくのが小気味よい。
しかも物語り終了後までまだある謎は続いているのである。

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小説以外*恩田陸

  • 2005/06/20(月) 07:09:54

☆☆☆・・



 今年最も本屋さんに愛された作家は、いかにして誕生したか?
 デビューから14年分のエッセイを集大成。初めて明かす、創作の舞台裏。

 世の中には、二種類の人間がいる。物語を愛する人(読書家)と、
 物語に愛された人(小説家)。稀に両者を兼ね備えた人間が産まれるが、
 年間2000枚の原稿を書き、200冊の本を読む恩田陸はその典型と言えるだろう。
 あらゆるジャンルで活躍する現代の語り部は、どんな本を読み、
 どんなふうに原稿を書いてきたのか?
 デビューから14年分のエッセイを集大成し、作家・恩田陸の秘密に迫る。
 文字通り「小説以外」のすべてが分る、ファン必携、恩田陸解体全書。

                            (帯より)


まさに帯の惹句のとおり、恩田陸さんの歩んできた道程を知ることのできる一冊である。
とは言っても、やはり筆名・恩田陸 としての歩みであって、筆名以外の素の姿 というわけではない。
小説家の書くエッセイにはあまり惹かれないのだが、恩田さんもやはり小説のほうが数段面白い。

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おはなしの日*安達千夏

  • 2005/06/18(土) 11:33:42

☆☆☆☆・


 なぜ母に疎まれるのか。
 雑木林や山の斜面で、不安を抱えたまま日暮れまで冒険していたあの頃・・・。
 
 少女の日の孤独と悲しみを記憶の再生の中にうつしだす作品集。

 

 もっとも危険な場所だった家庭から逃れ、光射す世界を求める少女と少年
          ・・・・・「遠くからくる光」

 人は家や家族にどのような期待を寄せるのか。
 老人ホームで働く現在と、少女時代を交錯させて描く
          ・・・・・「おはなしの日」

 夫と初めて里帰りする車中で、母となった私によみがえる、
 殴られない子になりたいと考えていた頃の記憶
          ・・・・・「草の名を」

                            (帯より)


読み進むうちにどんどん胸が重く苦しくなる作品である。
外で何があろうと、そこだけではありのままの姿で安らげるはずの家が、家こそがどこよりも帰りたくない場所だなんて。
何より大切に思ってくれるはずの生みの親が、もっとも恐れるべき人だなんて。

同じような境遇に置かれたこどもたちや、そうして育ってきたおとなたちが、哀しい連鎖を自らの手で断ち切ってくれますように、と祈らずにはいられない。

ボクの町*乃南アサ

  • 2005/06/17(金) 17:19:38

☆☆☆・・


失恋の腹いせ気分で警察学校に入り、運転でいう仮免のような「卒業配置」で警視庁城西警察署で現場実習している 高木聖大が主人公。

これといった志を持たずに警官になった聖大が、霞台駅前交番でおまわりさんとして過ごす日々が綴られている。
交番のおまわりさんの毎日がこんなにも煩雑で苦労が多いとは知らなかった。事実、見習いおまわりさんである聖大も目を回している。
個性ではなく制服で見られることへのとまどいなど 初めて目の当たりにする日常とは異質の体験や一点へ向かう仲間意識など、一般企業に就職した者には想像もつかないことばかりである。

普段「おまわりさん」としかみていなかった警察官の心の中を少しだけ覗くことができたような気にさせてくれる。おまわりさんガンバレ、と言いたくなる。

しかし、聖大。
霞台を「ボクの町」と思い始めたのはいいが、そのきっかけもやはり恋だとは...。

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モラルの罠*夏樹静子

  • 2005/06/16(木) 17:45:55

☆☆☆・・
モラルの罠

表題作のほか、システムの穴・偶発・痛み・贈り物。

誰でもが突然危険な目に遭う可能性が日常的になっている現代、まさにいつ自分の身に降りかかるか判らない事件を描いた短編集。
いまやいつ誰に企まれ陥れられるか判らない、という危機感を抱かされる一冊である。
そして、人は誰でもちょっとしたずれで被害者にも犯人にもなり得るのだということが いまさらのように恐ろしくもある。

今夜は眠れない*宮部みゆき

  • 2005/06/15(水) 17:19:15

☆☆☆・・
今夜は眠れない

6月3日に書いた『夢にも思わない』はこの作品の続編になる。

中学一年生の緒方雅男の母にまつわる事件である。
降って湧いたような5億円の遺贈話から誘拐事件へと発展する物語は、最後に思ってもみないところに着地する。
緒方君の相棒である島崎君の冷静さと推理の巧みさはこのときからもう既に際立っていたのだ。

ルパンの消息*横山秀夫

  • 2005/06/15(水) 10:10:08

☆☆☆・・



 「昭和」という時代が匂いたつ社会派ミステリーの傑作!

 平成2年12月、警視庁にもたらされた一本のたれ込み情報。
 15年前に自殺として処理された女性教師の墜落死は、
 実は殺人事件だった――しかも犯人は、教え子の男子高校生3人だという。
 時効まで24時間。事件解明に総力を挙げる捜査陣は、
 女性教師の死と絡み合う15年前の「ルパン作戦」に遡っていく。
 「ルパン作戦」――3人のツッパリ高校生が決行した破天荒な
 期末テスト奪取計画には、時を超えた驚愕の結末が待っていた・・・・・。

 昭和の日本を震撼させた「三億円事件」までをも取り込んだ複眼的ミステリーは、
 まさに横山秀夫の原点、人気絶頂の著者がデビュー前に書いた
 “幻の処女作”が、15年の時を経て、ついにベールを脱いだ!

                         (単行本裏表紙より)


この作品の単行本化は 時効の15年とシンクロするように決められたのだろうか。
15年前と現在とが並行するように物語は進められてゆく。
そしてその15年前に起こった三億円事件までもが伏線として絶妙に絡められているのである。
それこそが主線と言ってもいいかもしれないのであるが...。
登場人物のそれぞれが――捜査陣としてであれ、事件の関係者としてであれ――霞むことなく役割を果たし、たどり着くべき結論にたどり着いたという感じである。
警察の内部事情を描かせて絶妙な著者の本領はすでにデビュー前から発揮されていたといえよう。

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スティル・ライフ*池澤夏樹

  • 2005/06/13(月) 17:14:28

☆☆☆・・
スティル・ライフ

 新芥川賞作家登場
 静かに、叙情をたたえてしなやかに――清新な文体で、
 時空間を漂うように語りかける不思議な味。
 ニュー・ノヴェルの誕生
     (帯より)


表題作のほか ヤー・チャイカ。

1988年の出版であるが、充分に現代にも通用する。
大事を大事ともせずに淡々と静かに受け止めやり過ごす落ち着きを備えた雰囲気である。
表題作のタイトルがまさに物語の雰囲気を現わしているようだ。

4TEEN*石田衣良

  • 2005/06/13(月) 11:28:28

☆☆☆・・


 14歳は、空だって飛べる。
 スカイラインを切り取る超高層マンション、
 路地に並ぶ長屋ともんじゃ焼きの店。
 〈きのう〉と〈あした〉が共存するこの町、月島で、
 ぼくたちは、恋をし、傷つき、旅にでかけ、死と出会い、
 そしてほんの少しだけ大人になっていく――。
 14歳の4人組が一年間に出会った8つの物語を鮮やかに描いて、
 〈いま〉を浮き彫りにする青春ストーリー。
  (帯より)


まだまだ子どもで、それなのに大人の世界にどの時期よりも強く憧れる14歳の少年たちの物語である。
14歳とは、未来はいくらでも広がっていて、けれど自分がいる未来をまだ上手く思い描くことはできず、大人と子どもの境界を行きつ戻りつ揺れながら一日一日を目一杯に過ごす年頃ではないだろうか。

純真で、優しく、率直で残酷で、臆病なくせに好奇心のかたまりである14歳という一年間が、なんと過不足なく描かれていることだろう。
読者は(特に昔少年だった)あっというまに14歳の日々に引き戻されること請け合いである。

そしてまた、町の描写も見事である。
月島が、銀座が、新宿が生きているのだ。まさにいま、4人の少年が自転車で走り回っているような気がするほどに。

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悪いうさぎ*若竹七海

  • 2005/06/12(日) 13:59:36

☆☆☆・・
悪いうさぎ

葉村晶シリーズ。
物語の主役 契約探偵の葉村晶が、家出した女子高生を連れ戻せ、という依頼を受けたところから騒動は始まる。

女子高生の居場所へ乗り込んで連れ戻そうとして脇腹を指され、運良く命を落とさなかったくらいの傷を負う。
その後、その女子高生の友人が行方不明になり...と偶然とは思えないできごとが次から次へと起こる。

いままでの作品での物事に動じず、ちょっぴり少年チックな葉村晶像が崩された作品でもある。やはり 女の子なのである。
しかし葉村晶、打たれ強いというか、へこたれかけても立ち直りが早い。そこが魅力でもあるのだが、全身の力を抜ききってもたれかからせてあげたいと思ってしまう。ああ、あれが勘違いじゃなければよかったのに、と きっと読んだ人は思うだろう。

それにしても、タイトルの≪悪いうさぎ≫。
胸が悪くなる。

鉄塔家族*佐伯一麦

  • 2005/06/10(金) 09:59:38

☆☆☆・・


デジタル放送に移行されるのを機にあたらしく建設される鉄塔の麓に暮らす作家の夫と草木染めをする妻とその周りの人々の日々の風景が綴られた一冊。

草木や花や鳥、季節の移ろいと共に暮らす穏やかさがそこここに満ち溢れていて、読者をも安らかな心地にさせてくれる。
登場人物それぞれは、病や老親のことや夫婦間のことや 様々な悩み苦しみを抱え、波乱万丈ともいえる人生を生きているのだが、この鉄塔を望む棲家に在るとき、穏やかさがひたひたと周りを取り囲むようなのだ。
なだらかな安らぎの一冊である。

ウール100%*フジモトマサル

  • 2005/06/05(日) 21:47:31

☆☆☆・・


まんが絵本。
主人公はひつじのドリー。

人間社会の一員として、ドリーたちひつじも普通に暮らしているという設定からしてほのぼの。
ちょっぴり天然ちゃんっぽいドリーの行動が、ほんわかしていてほっとさせられる。
ピリリとブラックな笑いも織り込まれていてただほんわかするだけではないところがあとを引きそう。

黒笑小説*東野圭吾

  • 2005/06/04(土) 21:45:52

☆☆☆・・


 偉そうな顔をしていても、作家だって俗物根性丸出し!
 
 俗物作家東野がヤケクソで描く文壇事情など13の黒い笑い

                      (帯より)


出版社の賞の選考会を待つ作家と編集者の表情と腹の中の落差が、部外者には笑えるが、当事者には泣けるだろう。
小説家の辛さをこんな風に書けるというのは、ご自身が切羽詰っていないからか、あるいは実際にヤケクソか、どちらかだろう。切羽詰っていたら、この一冊を世に出す余裕はないだろうが。

清水義範さんを思わせるような捻りの効いたブラックなユーモアがさすがである。

いのちのハードル*木藤潮香

  • 2005/06/04(土) 21:43:55

☆☆☆☆・
いのちのハードル―「1リットルの涙」母の手記

15歳のときに、脊髄小脳変性症という反射的に身体のバランスをとり、すばやい滑らかな運動をするのに必要な小脳・脳幹・脊髄の神経細胞が変化し、ついに消えていってしまう原因不明の難病に冒され、25歳という若さでこの世を去ってしまった、木藤亜也さんの母、木藤潮香さんの手記である。

病気を宣告されてからなくなるまでの10年間、筆舌に尽くせないさまざまなことがあったはずだが、笑顔を絶やさず前を向いて、自分にできることを考える亜也さんの姿を、全面的に支えてこられた母・潮香さんとご家族のみなさんの諦めない姿に言葉にできないほどの感銘を受けた。

いのちのハードル。
高さは人によってそれぞれだろうが、いつも精一杯の力で臨まなくてはならない、と改めて思う。

夢にも思わない*宮部みゆき

  • 2005/06/03(金) 21:42:09

☆☆☆・・
夢にも思わない

下町の白河庭園で催される虫聞きの会で起こった殺人事件にまつわる物語。
探偵役になるのは中学一年生の少年たち。

ミステリなのだが青春ドラマのようでもある。
13歳という若い季節の友情と恋模様にいつの時代にも変わらない初々しさを感じる。

探偵役の二人――僕=緒方と友人の島崎くん――のコンビがなんともいえず好い感じなのだ。

九月の雨*佐藤多佳子

  • 2005/06/03(金) 21:40:27

☆☆☆・・


四季のピアニストたち・下
上は『サマータイム』

広一と母と佳奈と進のその後の物語。

登場人物のそれぞれがみなどこか意地っ張りで、純粋なのにそれを真っ直ぐに表わせずにいるようだ。
そんな人間は、そしてまた同じ種類の人間を呼び寄せるものなのだろう。
厭いながらも実はいつも求めているというのは、果たしてしあわせなのだろうか。

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ルチアさん*高楼方子

  • 2005/06/02(木) 21:38:40

☆☆☆・・


 もうずいぶん昔のことです。あるところに〈たそがれ屋敷〉と
 よばれている一軒の家があり、奥さまと、ふたりの娘と、
 ふたりのお手伝いさんが暮らしていました。

 謎が時間を超えて継がれていく風変わりなものがたり。

 なぜ、ルチアさんって光っているの?
 ふたりの少女の家にやってきた、あたらしいお手伝いのルチアさん。
 ふたりの目にだけ、その姿がぼうっと光かがやいてうつるそのわけは

                     (帯より)


キラキラ輝くどこかのことを強く想うと、人はここ と どこか の両方に生きられるかもしれない、とルチアさんの特別をわかった人たちは思う。
スゥとルゥルゥの父やピピン叔父さんや そしてルチアさんも、ここに生きているのと同じように、水色のきれいな実のなる木があるキラキラ輝く場所にも生きているのだろう。
いつも弾むように活き活きと働き、愚痴や不平や人の悪口を言わずに、好き嫌いもなく光っている。

ここではないどこかを強く想う心は人に何をするのだろう。
人はその想いでそこへ行くことができるのだろうか。
40年ほど後のスゥとルゥルゥの姿がその答えのようにも思える。

明日の記憶*荻原浩

  • 2005/06/02(木) 21:36:44

☆☆☆☆・




 「誰だっけ。ほら、あの人」
 最近、こんなせりふが多くなった。


から物語ははじまる。
主人公は、五十歳になったばかりで、若年性アルツハイマーに冒された佐伯。

一日といわずにいままで疑わなかった記憶が頭に突然白紙を差し入れられたように真っ白になり崩れてゆくのは、どんな気分のものなのだろう。想像はおそらく現実には追いつけないだろう。
諦めかけながら、自分を奮い立たせ、また落ち込みそれでも少しでも記憶を留める努力をする佐伯の姿が、他人事ではなくわたし自身の明日の危うさを思わせる。
読んでいるこちらが苦しくなるような一冊だった。

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月魚*三浦しをん

  • 2005/06/02(木) 21:34:54

☆☆☆☆・


古書店「無窮堂」の若き三代目・本田真志喜と幼いころその父と共に無窮堂に出入りし、ある事件の後立ち去った瀬名垣太一の物語である。

罪と罰を描いた作品 といわれるが、この罪とは何を指すのだろうか。見抜くことのできる目を持ってしまった瀬名垣の罪なのか、それとも・・・。
夜の池とそこに棲む主に模した妖しく艶めかしい気配も想像を掻き立ててやまないのである。

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