よろづ春夏冬中*長野まゆみ

  • 2006/04/30(日) 17:14:34

☆☆☆・・



春夏冬中は≪あきないちゅう≫
タイトルからも装丁からも なにやら不思議な雰囲気が漂っているので、勝手に不思議なものにまつわる物語なのだろうと思って手にしたのだが、ほとんど当たってはいなかった。
不思議な力を裡に持った人は出てきて、物語に面白味と深みを加えているのは――数少ない長野まゆみ体験から考えても――著者らしいと思われるのだが、物語の根底に流れているのは紛いようもなくBLの匂いなのだった。(勝手に想像した自分の責任なのだが)かなり当てが外れた感は否めない。

感じて。息づかいを。*川上弘美 選

  • 2006/04/29(土) 17:10:34

☆☆☆・・



恋愛小説アンソロジー
川上弘美 選/日本ペンクラブ 編

恋愛のはじまりに、恋愛のさなかに、恋愛の果てに、人がどんなふうに感じ、どんなふうにねじれ、どんなふうに解放され、どんなふうに変化し、どんなふうにとどまるかを、これらの短篇は語る。/そこには恋愛のエキスのようなものが、幾滴も、しみこんでいる。(「選者あとがき」より)
恋愛の渦中にある人間の息づかいが聞こえてくる名作八篇を、川上弘美が独自の視点で厳選。
  ――文庫裏表紙より


  『満開の桜の下』・・・・・坂口安吾
  『武蔵丸』・・・・・東谷長吉
  『花のお遍路』・・・・・野坂昭如
  『とかげ』・・・・・よしもとばなな
  『山桑』・・・・・伊藤比呂美
  『少年と犬』・・・・・H・エリスン 伊藤典夫 訳
  『可哀相』・・・・・川上弘美
  『悲しいだけ』・・・・・藤枝静男


恋愛小説にありがちな甘さという点では恋愛小説らしくない恋愛小説とも言えそうなのだが、選者・川上弘美さんがあとがきでお書きのように 恋愛のさなかに人々の上に起こる甘いだけでは決してないあれこれが描かれているのである。象徴的であり官能的であるとも言える。川上弘美選、というのが頷ける。

声の網*星新一

  • 2006/04/28(金) 19:03:48

☆☆☆☆・



電話に聞けば、完璧な商品説明にセールストーク、お金の払込に秘密の相談、ジュークボックスに診療サービス、なんでもできる。便利な便利な電話網。
ある日、メロン・マンション一階の民芸品店に電話があった。「お知らせする。まもなく、そちらの店に強盗が入る・・・・・」そしてそのとおりに、強盗は訪れた!
12の物語で明かされる電話の秘密とは?
解説・恩田陸
  ――文庫裏表紙より


第六住宅地区のA号ビル、通称メロン・マンションの一階から十二階までの住人を一章ごとに主役にして物語りは進んでゆく。主役は電話(網で人を操るコンピューター)。
世界中に電話網が張り巡らされ、技術を持つ人ならわずかの操作で個人情報を思うままに知り得る時代が描かれている。
もうこれは唸るしかない! 恐るべし作家の空想! 恐るべし星新一!
いま新しくかかれた物語だとしたら、まったく驚くことはないのだが、なにしろ初出は1970年だという。いまから35年以上も昔なのだ。それなのに21世紀の現代をこれほどまでに想い描いていたとは。

悪党たちは千里を走る*貫井徳郎

  • 2006/04/27(木) 18:38:37

☆☆☆☆・



真面目に生きることが嫌になった3人が企てる、「人道的かつ絶対安全な」誘拐――?

『慟哭』の著者がユーモアとスピードたっぷりにおくる、誘拐ミステリの新境地!

「おまえがそんな極悪人とは知らなかったぞ。
 言うに事欠いて誘拐だと?
 いたいけな子供をさらって
 親を脅迫しようって言うのか。
 そりゃお前、
 世の中で一番卑劣な犯罪じゃないか」――本文より
  ――帯より


けちな詐欺師の高杉と弟分の園部は、いかがわしい商売で儲けた成金・金本に徳川埋蔵金を売りつけようとして カラーコピーのリトグラフを売りつけたところだったご同業の三上菜摘子に邪魔されたのだった。
高杉たちが次の仕事――犬の誘拐――の段取りのために成城の渋井邸の近くをうろついていると、またまた菜摘子に出くわし、成り行きで一緒に仕事をすることになる。
渋井家の様子を探っていたはずの高杉はしかし、渋井の息子の巧に気づかれ、懐かれてしまい、あろうことか巧に自分を誘拐して身代金を山分けしようと持ちかけられ 話に乗ってしまうのだ。
そんなとき、巧がほんとうに誘拐されたのだ。犯人は?目的は?高杉たちは翻弄されることになる。

美人で東大出だがかわいくない菜摘子、頭は空っぽだが高杉に心酔している薗部、そして 普段はだらしがないがいざというときには決断する男である高杉、さらに美形で頭もいいが小学生の癖に生意気な巧。どのキャラもはまっていて、そのやり取りだけで笑ってしまう。
初めは、すべて巧が仕組んだことか?と思ってしまった。それほど巧が周到だということでもあるのだろう。
つい数日前まではお互いに見ず知らずだった高杉たちと巧に通うものがあたたかい。
ただ、あの犯人だとすると誘拐の動機としては弱い気がしなくもないが。

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ドストエフスキーの青空*宮尾節子

  • 2006/04/27(木) 17:13:43

☆☆☆☆・



ポエトリージャパン主催のPoembarでのつながりの宮尾節子さんの詩集。
愁いていて、悲しみ哀しんでいて、そしてくっきりと未来を見ている。
愛おしみ、育み、見守り、そして恋している。
言葉で何ができて何ができないかをいつでも探しているような連なり。
言葉という形になったからこそ胸に染み入ってくるものがたくさんある。

紙魚家崩壊*北村薫

  • 2006/04/25(火) 17:46:57

☆☆☆・・



待望のミステリ短編集!
優美なたくらみにみちた
九つの謎
  ――帯より


表題作のほか、溶けていく・死と密室・白い朝・サイコロ、コロコロ・おにぎり、ぎりぎり・蝶・俺の席・新釈おとぎばなし。
謎というには禍々しくなく、相変わらずに日常の謎的な謎あり、少し趣を異にした夢物語っぽい謎あり、そして 「カチカチ山」の新しい謎解きありで、九回おいしい短編集である。
表題作の『紙魚家崩壊』など 偏執的とも言える本好き(除く図書館派)には身につまされるのではないだろうか。

葦と百合*奥泉光

  • 2006/04/24(月) 19:39:19

☆☆☆・・



ブナの原生林奥深く、物語の発生する気配がある。
ひとつの謎の種子が虚構の大地に舞い降りる。近代小説のあらゆる夢をはらんだその種子は発芽し、やがて錯綜し繁茂する浪漫の森林となる。水底に沈む谷間の村。消えたコミューン。伝説のキリシタン集落。失踪した青春の恋人。予期せぬ殺人事件。謎を追うものは、物語の放つ霊気を膚に感じ、遠い音楽を耳に聴きながら、いつしか深い森に迷い込む。リアルな認識と知性の証である葦の森。遥かな憧憬の象徴である百合の森。その中心の場所、もっとも緑の闇の濃い処、夢の密かに生まれる場所に彼が到達するとき、永遠に女性的なるものが光のなかに姿を顕にし、すべての虚構の秘密が解き明かされるだろう。
  ――裏表紙より


大学時代の恩師雛本教授の夢叶った温泉別荘に招待された式根・中山・佐川、そしてぼくは山形県の飯豊(いいで)温泉へと向かった。途中、≪葦の会≫というコミューンに知り合いを訪ねると言う式根氏だけが他の三人と一旦別れて鬼音(おんね)へ向かう。
鬼音で式根氏は岩館という家に世話になることになるのだが、その家やその辺り一帯には不思議な伝説があり、≪葦の会≫も無関係ではなく、式根氏も呑み込まれてゆくのだった。
だが、読み進むうちに 幾重にも重なった時間と嘘と幻惑や幻覚に眩暈がする心地で いま立っている場所を見失い、夢だと知るゆえに無謀にも禁断の地に踏み込んでしまった夢中夢の世界で 帰り道を失ったようなもどかしさと孤絶感に取り憑かれるのである。

現実入門*穂村弘

  • 2006/04/21(金) 17:39:06

☆☆☆☆・



ほんとうにみんなこんなことを?


現実生活が大の苦手の著者が、編集者のサクマさんのキラキラした瞳にだまされて(?)40年余りの人生で経験したことのない現実に挑戦して それについて原稿を書くことになったのだった。
献血だとか、占いだとか、はとバスだとか、健康ランドだとか、初めてのことにおっかなびっくり挑戦してみる著者と、なにやら嬉しそうなサクマさん。
そして、度々現われる著者の空想(というか妄想)に 何度もくすりと笑わせられる。

でもこれって、結婚にいたるまでの準備&デート報告&おのろけ?と思ってしまったのはわたしだけだろうか。
運転免許証を確認してみたらほんとうに天使だったかな?

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最後の恋

  • 2006/04/21(金) 07:16:04

☆☆☆・・



それは、人生に一度だけ訪れる奇跡。

こんなに誰かを好きになるのは、この恋で最後かもしれない。

どんな結果に終わろうと、永遠に輝きを失わない恋がある。
“最後の恋”をテーマに、人気女性作家が個性と情熱で磨き上げた、宝石のような8つの物語。

ホームページ「YEBISU BAR」「Yahoo!Books」で話題を呼んだ、おとなのための上質な恋愛アンソロジー、登場。
  ――帯より


  『春太の毎日』 三浦しをん
  『ヒトリシズカ』  谷村志穂
  『海辺食堂の姉妹』  阿川佐和子
  『スケジュール』  沢村凛
  『LAST LOVE』  柴田よしき
  『わたしは鏡』  松尾由美
  『キープ』  乃南アサ
  『おかえりなさい』  角田光代

テーマは“最後の恋”なのだが、それぞれの個性が少しずつ違った解釈を与えて物語にしているところがまた興味深い。
それでも、≪最後の≫という言葉を冠せられるものの大切さが伝わってきてじんわりさせられる。
いちばん好きだったのは、柴田よしきさんの『LAST LOVE』。
ガチガチに凍った氷が触れた指のところからじんわりと融けてゆくような感覚が心地好かった。

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まほろ駅前多田便利軒*三浦しをん

  • 2006/04/20(木) 12:41:31

☆☆☆☆・



「犯罪に加担しているやつを見かけたら、おまえどうする」
「放っとく」

東京の外れに位置する“まほろ市”。この街の駅前でひっそり営まれる便利屋稼業。今日の依頼人はなにをもちこんでくるのか。

お困りの節はお電話ください。
多田・行天コンビが迅速に解決いたします。

ペットの世話・塾の送り迎え代行・納屋の整理・恋人のふりetc.――
そんな仕事のはずだった。

痛快でやがて熱く胸に迫る“あなたの街の”便利屋物語
  ――帯より


「多田便利軒」である。
もともとは多田が一人で細々と、けれど着実に信用を得て営んでいたのだった。
そんなある日、仕事先の家の前のバス停でその男・行天に出会ってしまったのだ。
行天は多田の高校の同級生だったが ほとんど誰とも口を利かない変わったやつだったのだ。
泊まるところがないという行天を成り行きで泊めてやったのがそもそもの始まりだった。以後、仲がいいのか悪いのか判らないこのコンビは、なんとなく一緒に便利屋稼業を続けていく。

行天にとてつもないさみしさを感じながら読み進んだのだが、実は芯のところで凍えるようにさみしいのは多田の方だったのかもしれない。
いままでも、いまも、これからも、見かけは円満とは言えない関係のまま 彼らはお互いを深く必要とし、さらりと欠けた部分を埋めあいながら生きていくのだろう。

ところで、読む前に「まほろ市」という名前から漠然と奥多摩辺りを想像していたのだが、読んでみればこれはもう間違えようもなく町田ですね。JR八王子線と私鉄のハコキューが交わるところ。多田便利軒、探してみたくなります。

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激流*柴田よしき

  • 2006/04/19(水) 17:38:35

☆☆☆☆・



「わたしを憶えていますか?」
澄み切った音色でフルートを吹いていた少女は、修学旅行中、消息を絶った。
二十年後、同級生達に突然届いたメール。
少女は生きていたのか――!?

「今」を生きるすべての人に贈る、渾身のサスペンス・ミステリー!

京都。修学旅行でグループ行動をしている、東京から来た七名の中学三年生。
知恩院に向かうバスで、その中の一人の女生徒、小野寺冬葉が失踪し、消息を絶った――。
二十年後。三十五歳となり、それぞれの毎日を懸命に生きるグループのメンバーに、過去の亡霊が甦る。
「わたしを憶えていますか?」
突然、送られてきた冬葉からのメール。
運命に導かれて再会した同級生たち。彼らに次々と降りかかる不可解な事件。
冬葉は生きているのか?
そして、彼女の送るメッセージの意味とは・・・・・?
  ――帯より


修学旅行中に冬葉がいなくなってから、同じ班のメンバーだったサンクマ・ナガチ・美弥・ハギコー・おタカ・サバ は、一人でいなくなってしまった冬葉に気づかなかったことで周りにあれこれと言われたことや、気づけなかった自分自身に傷ついていた。それから二十年、思い出す頻度は減っていても完全に忘れることはできずに それぞれの人生を生きていた。
冬葉と名乗る人物からのメールは彼らの心を揺さぶり、否応なく二十年前の記憶を辿ることになる。

メールが送られてきたのと前後するように、彼らの周りではさまざまな事件が起き、心身ともに翻弄される彼らの様子が ひとりずつ主役を替えて描かれ、その情報がみんなに共有されるたびに 気味悪さや不可解さも共有されていくのが、中学の同級生という特別な仲間意識を窺わせて効果的である。
メールの送り主の意図探しが犯人探しと同意ではないところが、この物語が心の物語だということを表わしているような気がする。
メールの送信者はただ、凪いでいるように見える湖に小石を落としただけなのだ。そしてそのあとに起きた数々の事件は小石が作った波紋に過ぎないのだ。
だが、小石もそれを落とした本人も想像できないほど波紋の力が大きく、一部が激流になってしまったのだ。
みんなの元に帰りたいという冬葉の想いが、二十年かけて彼らを呼び寄せたようだ。

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約三十の嘘*土田英生

  • 2006/04/16(日) 17:38:20

☆☆☆・・



複雑な成り立ち方をした一冊である。
そもそもは、1996年に劇作家で演出家でもある著者が自らの劇団のために書いた脚本であり、のちに 大幅な書き直しをして映画化された。映画は著者が日本を離れている間に著者の手が触れることなく制作された。そして、その映画を観た著者が、それをベースにして小説として書いたのがこの『約三十の嘘』という一冊なのだそうである。
劇も映画も観ていないのでどこがどう違っていて何が変わらないのかが判らないのが残念でもある。

三年前までグループで巧妙な詐欺を働いていたが、仲間の裏切りなどをきっかけとして別々の道を歩いていた詐欺たちが、久々に集まり 仕事をすることになったところから物語ははじまる。大阪からトワイライトエクスプレスで札幌へと向かい、北海道のあちこちで仕事をするという計画であった。
三年前と、いまこの時の 出来事や人間関係の微妙なずれや、そもそも登場人物のひとりひとりが詐欺師という嘘つきを商売にしている人たちだということで発言の信憑性まで疑われてきて興味深い。
事件が起こりはするが、ミステリという感じではなく、人間の心の物語なのだろうと思う。
他人に吐く嘘よりも、自分自身に吐く嘘の方が始末に終えないものなのだろうなぁ。

そして名探偵は生まれた*歌野晶午

  • 2006/04/16(日) 13:33:21

☆☆☆・・



表題作のほか、生存者、一名・館という名の楽園で。
『生存者、一名』は以前読んだ『絶海』にも収録されていたのでもう驚かなかったが、今回の三作中でもやはりこれがいちばん意表をついているといえるだろう。
『館という名の楽園で』は館の当主・冬木にとってはこれ以上望むべくもないしあわせだったのかもしれないが、招待された昔の仲間たちにとってはやりきれないことこの上ない結末である。

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空ばかり見ていた*吉田篤弘

  • 2006/04/13(木) 20:51:55

☆☆☆☆・



12の連作短編集。
ホクトはフランスへ渡りパントマイムの修行をしていたが、父の具合が悪くなり亡くなると そのままフランスへは帰らず 家業の床屋を継いだのだった。
ある日商店街の和菓子家・布袋家が研修旅行で行ったパリのお土産に、いつもホクトが話していたマアトという繊細な菓子をもってきた。無造作に新聞紙に包まれていたマアトは粉々に崩れてみる影もなかったのだが、その新聞紙に目を止めたホクトは深刻な表情になっていた。そしてそのあと、休業の貼り紙を残してホクトは姿を消したのだった。

はじまりの章で姿を消してしまうホクトは、次の章から 過去へ戻ったり時間を進めたりしながらいろいろな場所に移動床屋として姿を現わし、どの場所でもホクトでしかありえない雰囲気を漂わせ 人々と関わっている。
読み進むうちに時間をも空間をも旅しているような不思議な心地にさせられる。吉田篤弘さんの物語はどれもそうなのだが。
そしてなぜだか、安野光雅さんの『旅の絵本』に流れる空気を思い出した。

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耳すます部屋*折原一

  • 2006/04/12(水) 17:58:14

☆☆☆・・



わたしのあの子に何をしたの?
執拗な電話が女を追いつめる。
叙述ミステリの名手、10年の軌跡、10の短篇。
  ――帯より


表題作のほか、五重像・のぞいた顔・真夏の誘拐者・肝だめし・眠れない夜のために・Mの犯罪・誤解・鬼・目撃者。

どれも読者の思い込みと錯覚を利用した映像化に不向きな物語である。
どの物語もたいていどこかで「あれ?」とほんの微かに引っ掛かりを覚えるのだが、そこで読み流してしまうともうあとは著者の策略に引きずられてしまう。結末がわかったときに、「あぁ、やっぱりあのときのあれは...」と納得させられる。
どの物語も、背筋をぞくりとさせられ、早く真実を知りたくなる。

月の見える窓*新野剛志

  • 2006/04/11(火) 20:51:54

☆☆☆・・



「あんたの計画は最悪だ」
江戸川乱歩作家が抉る、人間の心の闇
「兄さん、本気でやるの?」

一人の女が幼い息子を残して消えた。
失踪の鍵を握る男の子供が誘拐される。

交錯する失踪と誘拐――

心の全てが見えた時
真相が
明らかになる。
欠けていた月が
やがて満ちるように・・・・・
  ――帯より


ある事情によってキャバクラのスカウトマンをやっている多田晶彦は、スカウトマンになりたての義弟の健二とともに新宿でこれという女の子を物色する毎日を過ごしていた。
そんなとき、健二がスカウトした麻衣が幼い息子を残して姿を消した。状況が不自然だったために 晶彦と健二のふたりは麻衣を探し始めたのだが、その途中、麻衣の得意客のひとり・江畑の息子の誘拐事件に出くわす。

ひとつひとつは別の事件、そして要素がバラバラに現われ、微かに繋がり、そしてひとつに収束される。何かが別の何かと繋がる前のきっかけを見つけるたびにぞくりとし、そしてやりきれなくなる。
正しいこととはなんだろう。
信じるとはなんだろう。

ふにゅう*川端裕人

  • 2006/04/10(月) 11:54:08

☆☆☆・・



ふにゅう~ と、いきなり言われても。
重松清氏、困惑、爆笑そして感動!!
たった一度でもいい。かわいい愛娘に、〈ふにゅう〉をやってみたい・・・・・。
滑稽だけどピュアな、新しい父親の肖像!

仕事に燃えるママの代わりに、育児に奮闘する洋介。息子を見る妻の眼差しに嫉妬を覚えつつも、平静を装う匡史。血が大の苦手なのに、立会い出産に望むハルキ。事情はそれぞれ違うけど、子供を愛する気持ちは、みな同じ――頑張るパパの“超現実”を描いたユーモア溢れる小説集。
  ――帯より


父と幼子の五つの物語。
現実問題として、いまの日本では、両親が揃っているのに父親が主に育児をすることを選択する家庭は まだごく稀、あるいは皆無に近いだろうと思われるが、この五つの物語の父親たちは望むと望まざるとに関わらず主夫として育児に関わることになり、そしてそのことを良しとしているのである。どころか、積極的に楽しみ、この場にいない妻=母親を呪いながらも満ち足りた時間を過ごしているのである。子育てに関われる時間を大切に思う父親たちと、それを見る世間の目とのギャップもさもありなんと頷かされる。育児に関して母親が特別なのは、産むという役割と母乳を与えることができる――それとて全員ができるわけではないが――ということだけではないのだろうかと思わされもする。

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聖者は海に還る*山田宗樹

  • 2006/04/09(日) 17:18:38

☆☆☆☆・



とても面白かった。惹き込まれるように読んでしまった。
題材は人の心を癒し導くカウンセラーという 現代になって益々望まれ欠くことのできない存在である。

19年前のある日、カウンセラーの別宮の元をひとりの母親が訪れた。十一歳の息子が、猫を殺しナイフで腹を裂いて内蔵を引きずり出すことをくり返すので、何とか止めさせてもとの素直な息子に戻してはもらえないだろうか、というのが相談の内容だった。そしてそれから少年とのセッション(カウンセリング)がはじまったのだった。

そして現在、中高一貫の進学校・陵光学院の中学部三年B組で、ある日生徒が担任教師を銃で撃ち、自らもその場で自殺するというショッキングな事件が起こる。生徒や教師たちの事件後の精神状態を慮って校長はスクールカウンセラーを置くことにした。比留間亮というそのカウンセラーは着実に生徒のみならず教師たちの心をも癒し、みなに慕われてゆくのだったが。

はじめのうちは少年の治療の様子と、陵光学院の様子が交互に描かれ、どこでどう関連しているのかと興味をそそられるのだが、あるとき、ぴったりと符牒が合うようにひとつに繋がり、ぞくりとさせられる。そしてその後の切なさは言いようがない。
人の心を扱う難しさと、そもそも人の心自体の難しさを思い知らされるようである。待っている律と拓郎と生まれてくる赤ん坊のところに、いつか彼が戻ってくることを祈らずにいられない。

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楽園のしっぽ*村山由佳

  • 2006/04/08(土) 17:13:11

☆☆☆・・



季節の約束ごと、肩書きなど無縁の動物たち。
大自然に囲まれた農場暮らしは、人を謙虚に、自由にしてくれる!
楽園の土の上から寄せられる、優しくつよいメッセージ、全50篇。

土と風と太陽、そして愛する動物たち

しっぽのある仲間、ない仲間、
そしてそれをとりまくすべての命にとって、
ここが楽園でありますように――

房総の丘の上、馬と犬と猫、鶏、うさぎに囲まれた自給自足の生活。
「憧れの田舎暮らし」を実現させて十余年、
自然と向き合う日々は・・・・・じつは結構ツライ。
容赦ない気候、終わりなき農作業、作物の病害虫、人の都合などお構いなしの動物たち。でも生きものとして真っ当に日々を過ごせる、ここが私にとっての「楽園」なのだ――。
  ――帯より


「主人」という呼ばれ方を好まないため「相方」と呼ばれているしっぽのない仲間や種類も大きさもさまざまなしっぽのある仲間たちとの関係、そして 抗うことのできない なにか大きなもの としての自然との関係が、辛いこと愉しいこといろいろ含めてしあわせで仕方がないという感じで描かれていて、読み手までも満ち足りた心地にしてくれる。
著者自身の手に成る 巻頭の「楽園アルバム」に登場する動物たちの写真からさえもその信頼関係が滲み出しているようだ。

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白夜行*東野圭吾

  • 2006/04/07(金) 20:40:36

☆☆☆☆・



偽りの昼に太陽はない。
さすらう魂の大叙事詩。

精密機械を思わせる完成度だった。虚無に満ちた白夜を往く二人の背中は、哀切でさえある。この作品は到達点ではなく、新しい出発点であろう。ミステリーにおける物語の可能性の、新しい地平を拓く、その第一歩を確実に刻んだ、記念すべき大作である。     北方謙三

引かれた設計図は巧妙にして精緻。端正な筆致で削り出された部材は硬質で渇いている。しかし――恰も寄せ木細工のように丁寧かつ正確に組み上げられた名匠の仕事の行間からは、切なくも豊潤な物語が屹立するのだ。傑作である。     京極夏彦
  ――帯より


再読。
ドラマが始まったころに予約したのがやっといま手元に。
細かいところは大分忘れていたので、新鮮な気分で読めたこともあるし、大局がわかっているために、初読時に見えなかったものが見えてきたりもして 味わいもまたひとあじ違っていたように思われる。
初読時よりも雪穂に不気味さを感じたし、亮次に哀しさを感じた。
ドラマは観ていないので良し悪しは言えないが、主人公役のふたりのイメージを重ねることはどうしてもできなかった。

だがやはり、笹垣刑事がラスト近くで言っているように、初動捜査で思い込みに縛られていなければ、その後の不幸は回避されただろうことはもちろん、雪穂と亮次のふたりにとっても違う未来が開けたのかもしれないと思うと、切なくもなるのである。ずしんと重い読後感は初読のときと変わらない。

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龍は眠る*宮部みゆき

  • 2006/04/05(水) 17:47:33

☆☆☆・・



 ・・・・・実はわたくしも、一度だけ、スプーンを曲げたことがあります。給食の時間に、うっかり足元に落としてしまって、拾いあげたら九〇度くらい曲がってしまっていたのです。びっくりして、何度かわざと落としてみましたが、二度と同じようにはなりませんでした。今考えても、あれだけは不思議です。(中略)
 昭和四十九年といえば、オイルショックの翌年、物不足パニック後遺症もさめやらず、太平の夢を破られて、終末論が盛んだった時代です。超能力という「万能の夢」がもてはやされるには、ぴったりの舞台背景がそろっていたのでしょう。
 そして、世紀末の十年に突入した現在の状況には、当時とよく似たものが感じられます。空前の新興宗教ブームなども、案外、スプーン曲げ騒動と根っこはひとつであるかもしれません。・・・・・(著者「あとがき」より)
――見返しより


雑誌記者の高坂昭吾が、ある不機嫌を抱え込んで実家から車で帰る途中の夜に一人のヒッチハイクの少年を拾ったのがそもそもの始まりだった。少年の名は稲村慎司。
そしてちょうどそのとき、行方不明になった小学生の男の子の捜索に行き遭ったのだった。
信じられないことに、慎司は事件の顛末を言い当て、高坂に頼ってきたのだった。

少年が本物のサイキックかどうかを、高坂自身が信じきれないということで、ラスト直前まで確認されないので余計に興味をそそられる。
そしてそれ以外にも、結婚式直前で破談になった元恋人・小枝子のこと、編集部のカコのこと、慎司の仲間の織田のこと、その友人で声を失っている七恵のこと、といくつもの興味の柱があって そのどれもが活き活きと惹きつけるである。
高坂のスタンスもなかなか魅力的である。

奥様はネットワーカ*森博嗣

  • 2006/04/02(日) 17:12:40

☆☆☆・・



小説とも劇画ともひとあじ違う、新しい形といえるかもしれない。
コジマケン氏のイラストが随所にかなり大胆に主張しているし、登場人物もイラストによって 視覚的にイメージが固定される。

主な登場人物は6人。
某国立大学工学部科学工学科の秘書、スージィこと内野智佳、28歳。
同科学工学科の助手、ホリこと堀江尚志、26歳。
同化学工学科教授、イエダこと家田恒雄、57歳。
同化学工学科助教授、サトルこと遠藤学、38歳。
同情報工学科助教授、サエグサこと三枝洋侑、34歳。
同化学工学科図書室の司書、ルナこと鈴木奈留子、25歳。

この6人が、入れ替わり立ち替わり語り手になることで、起こった事件に形を与えていこうとしている。
そして、6人の語り以外に差し挟まれる短い呟きのようなもの。ときとして主体を変えているようにも見え、犯人の裡なる言葉――別人格として?――のようでもある。これが不気味なのだ。
話の筋としては、別段どうということもなかったが、新しい試みとして愉しんだ。

ネットの中の詩人たち 4*島秀生 編・著

  • 2006/04/02(日) 09:36:33

☆☆☆☆・



それぞれの愛。それぞれの心。


ネット詩誌「MY DEAR」のサイト掲示板で発表された作品から選ばれたものに、未発表の新作などを加えたものである。
作者の年齢構成は、10代2人、20代5人、30代4人、40代7人、50代2人の合計20人。

それぞれが、それぞれの境遇・立場から、自らの心情を、ときに高らかに、ときに静かに、熱を込めて あるいは淡々と謳いあげている。
言葉がどれほど心を解き放てるものであるかということが、ときとして胸を痛くするくらい伝わってくる。

ネットのお友だちの しずくさんが、雨音あまねさんとして参加されています。

鬼哭*乃南アサ

  • 2006/04/01(土) 20:32:04

☆☆☆・・



新直木賞作家の衝撃作!
これは殺人事件の被害者の死に至るわずか3分間の物語である。
  ――帯より


的場が気がついたとき、一瞬自分がどこにいてどうなっているのか思い出せなかった。酔って足を縺れさせ倒れたのだろうか。不自然に捻じ曲がった体勢で見上げる天井は、見慣れた実家のもので、自分は20年来の付き合いで唯一信頼できるといっていいほどの真垣と二人きりで飲んでいたはずだった。
次第に思い出してくると、自分は真垣にナイフで背中を突かれ、首を切られたのだった。
そして、高校受験のための家庭教師として行った、真垣徹の家で初めて彼に会ったときからいままでのことをくっきりと思い出しているのだった。心臓が動くのを止め、血液がすべて流れ出たあとも意識だけが真垣と自分のことを思い出しつづけ、的場は動かない躰で泣くことも身悶えることもできずに苦しむのだが、それはたった3分間のことなのだった。

結局、真垣がどうして的場を殺そうと思ったのか、いつから実行に移そうと思っていたのか、など 事件の成り立ちや核心にはまったく触れられていない。ただ、殺されて死んでゆく男の最期の3分間が描かれているのだ。そしてそれだけで、無神経な気持ちの押し付けや思い込みがどれほど人の神経を逆撫でしていたかということに思い至り愕然とするのである。的場にとっては唐突なことが、真垣にとっては悩みに悩んだ末のことだったのだろうから。

月への梯子*樋口有介

  • 2006/04/01(土) 19:44:14

☆☆☆・・



「知る」ことで、あなたは不幸になった。
真実を知ることは哀しみの始まり。なのになぜ、ひとは身を切られる痛みの中で、それを求めずにいられないのか。

ボクさんは四十代独身のアパート大家。少しとろいけれど、ご近所や店子の皆に愛されて幸福に暮らしている。
ある日、入居者の女が殺された。屋根の修理で梯子に上り、窓から死体を発見したボクさんは地面に落下。
病院で目覚めると、アパートの住人全員が失踪していた。
やがて彼は、自分を取り巻くものが善意だけではなかったことを知る。

ひとは、何を以って幸福になるのか。
「知る」ことの哀しみが胸に迫る書き下ろし長篇。渾身のミステリー!
  ――帯より


ボクさんは、多少知恵が遅れているが、アパートの住人たちと良好な関係を築き、日々感謝と愛に囲まれて平穏に暮らしていた。ある日壁塗りをしていて、窓から住人の一人の蓉子が殺されているのを発見し、梯子から転げ落ちて病院に運ばれる。
四日間の意識不明のあと目覚めてからのボクさんは、周りがいままでより明るくなったように感じ、頭も冴えていることに気づくのだった。
帯の惹句にもあるように、世の中が善意だけでなかったことはボクさんに哀しみを与えたかもしれないが、それ以上に余りある真心も知ることになったので、哀しいままではなかったのだとも思う。
そしてどんでん返しとも言えるラストへとつながるのだが、きっとこれはどんでん返しでも何でもなくて、約ひと月の間、ボクさんはボクさんの時間を、そしてボクさんのベッドの傍らで見守る人たちはその人たちの時間を過ごしていたのだ。そう思いたい。ボクさんはきっと、あたたかいものを心に持って旅立っていったのだ。