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夜をゆく飛行機*角田光代

  • 2006/08/31(木) 17:53:41

☆☆☆☆・

夜をゆく飛行機 夜をゆく飛行機
角田 光代 (2006/07)
中央公論新社

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どうしようもなく、家族は家族。うとましいけど憎めない、古ぼけてるから懐かしい、変わらぬようで変わりゆく谷島酒店一家のアルバム。直木賞受賞後、初の長篇。


商店街で昔ながらの谷島酒屋を営む両親と三人の姉・有子(ありこ)・寿子(ことこ)・素子(もとこ)と暮らす 十七歳の里々子(りりこ)が語る谷島家の日々の物語。
次女の寿子があるとき雑誌に応募した小説のようなエッセイのような 谷島家の日常をそのまま書いたようなものが受賞し、さらにその後 もっと権威のあるS賞も受賞してしまうところから、一家のそれぞれも 谷島家自体もが そのありようを少しずつ変えていく様子を里々子の目を通して観ているようである。
十七歳という年齢ゆえに見えるものもたぶんあり、それは有子の見るものとも寿子のみるものとも素子の見るものとも違っているのかもしれない。小説という形になって切り取られた あの日の谷島家は、いまの谷島家とはまったく別の家族のようでもあり、里々子が成長したように家族の形も成長したのだとも言えるように思う。切り取られることによって際立った谷島家は あの日の谷島家として、これからもきっと切り取られずに流れるように谷島家は姿を変えても谷島家なのだろう。

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東京下町殺人暮色*宮部みゆき

  • 2006/08/31(木) 17:33:16

☆☆☆・・

東京下町殺人暮色 東京下町殺人暮色
宮部 みゆき (1994/10)
光文社

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13歳の八木沢順が、刑事である父の道雄と生活を始めたのは、ウォーターフロントとして注目を集めている、隅田川と荒川にはさまれた東京の下町だった。
そのころ町内では、“ある家で人殺しがあった”という噂で持ち切りだった。はたして荒川でバラバラ死体の一部が発見されて・・・・・。現代社会の奇怪な深淵をさわやかな筆致で抉る、宮部作品の傑作、ついに文庫化!
  ――文庫裏表紙より


幼い子どもと母親が、川面に浮かぶ川鵜の数を数えているのどかな風景から物語ははじまるのだが、そのとき、彼らの目に入ったのはバラバラにされた死体の一部であり、物語は一転して禍々しい事件に染められていく。
ほどなく、別のバラバラ死体が見つかり、警察に挑戦状めいた手紙が送りつけられ、順の父の八木沢も事件にかかりきりになる。そんな折も折、八木沢の自宅に同じような体裁の告発状が届けられ、中学一年の順も友人で町会長の息子・慎吾と独自の捜査に乗り出すのだが。
守るもの、闘うものを勘違いしているとしか思えない犯人の思考だが、そうしたくなる心情は――もともとの殺人犯たちを見ると――わからないではない。それでもやはり、その間違いは、大きな間違いの第一歩なのだ。
順の家の年取った家政婦のハナの存在や ひと言が、言いえて妙であり、ピリッとスパイスになっている。順と慎吾のものの考え方も――犯人たちとは正反対に――とても好感が持てる。

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今夜もベルが鳴る*乃南アサ

  • 2006/08/30(水) 17:28:03

☆☆☆・・

今夜もベルが鳴る 今夜もベルが鳴る
乃南 アサ (1990/08)
祥伝社

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友人主催のパーティーで、ゆかりは岩谷と知り合った。落ち着いた物腰に、ゆかりはひどく惹かれた。二日後、岩谷から電話がかかり、ゆかりの中で恋の炎が燃え上がった。だが、それが恐怖の始まりだった。電話は毎夜かかってきたが、話すにつれて、彼女の心に恐ろしい疑惑が頭をもたげ始める。岩谷とは何者なのか!?
直木賞受賞の女流が鮮烈に描く、サスペンスの傑作!
  ――文庫裏表紙より


学生時代からの長いつき合いの吉岡に招かれていった彼の家のパーティーで ゆかりは岩谷と出会う。落ち着いていて穏やかでなんとなく見えない壁を感じさせる岩谷に、ゆかりは惹かれる。岩谷は、毎夜電話はくれるのだが、なかなかふたりで会おうとしない。かと思えば、あっさり会うことをOKすることもある。そして、会っているときには、彼のことをわかったように思えるのに、電話で話すとまったく違う一面を見せ、ゆかりは岩谷のことがどんどんわからなくなっていく。そしてある日、留守電に入っていた二回のメッセージを続けて聞いたとき、ゆかりはあることに思い当たる。

ひとりの人のことをほんとうにわかることはできないのかもしれない。だが、話すたびに印象が変わり 輪郭がはっきりしたかと思うとまたおぼろげになるなどということは それほど多くはないだろう。岩谷の本質が掴みきれないことに苛立ちを覚え 不安になるゆかりの心はよくわかる。そしてあることに思い至ったとき、身震いするほどの恐ろしさを感じるのである。この物語の場合、その人物が悪意を抱いているわけではないことが やるせなくもあり、恐ろしさを倍化させもする。

顔に降りかかる雨*桐野夏生

  • 2006/08/29(火) 17:07:14

☆☆☆☆・

顔に降りかかる雨 顔に降りかかる雨
桐野 夏生 (1996/07)
講談社

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親友のノンフィクションライター宇佐川耀子が、一億円を持って消えた。 大金を預けた成瀬時男は、暴力団上層部につながる暗い過去を持っている。 あらぬ疑いを受けた私(村野ミロ)は、成瀬と協力して解明に乗り出す。 二転三転する事件の真相は?女流ハードボイルド作家誕生の'93年度江戸川乱歩賞受賞作!  ――文庫裏表紙より


素材は紛れもなくハードボイルドだが、味付けには実にさまざまな調味料が使われていて、男性の書くハードボイルドとはひと味もふた味も違っている。
暴力団がかかわってくるのは当たり前としても、死体写真同好者、壁崩壊後のベルリン、ネオナチ、中古外車のディーラー、ノンフィクションライター志望の押しかけ助手、などなどが、ときにヒントとなり、またときには迷路の扉となって惑わせ、読者を物語りに惹き込んでゆく。
かなり早い段階で ある理由によってかなり強く疑った人物は、その後 何度も上書きされる状況によって 疑いの濃度を薄めていったが、最後の最後で、あぁ こういう筋書きだったのか、と腑に落ちるのである。
村野ミロの父で、調査探偵を引退した村野善三が、わずかしか登場しないがいい味を出している。

さくら草*永井するみ

  • 2006/08/28(月) 19:42:46

☆☆☆☆・

さくら草 さくら草
永井 するみ (2006/05/27)
東京創元社

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プリムローズ殺人事件――
殺害された少女たちが身にまとっていたのは、ローティーンに絶大な人気を誇るジュニアブランド、プリムローズの服だった。
清純で高級感のあるデザインは、プリムローズを身につけた少女の写真を売買する男たちをも生み出す。
亡くなった少女たちに果たして何が?

ブランドを守ろうとするゼネラルマネージャー、女性刑事、そして少女の母親、事件に揺り動かされる女たちを描く、著者渾身の長編ミステリ。


少女向けブランド・プリムローズの服を着た少女が連続して殺された。 当初は、プリムローズの服を着ている少女を好む≪プリロリ≫とよばれるロリータ男が犯人ではないかと目されるが、プリムローズを取り巻く人々にも疑いがないわけではないのだった。 そして、俵坂と理恵の刑事コンビが捜査を続けていくうちに ある関連性が浮かび上がる。

他との差別化を計ったジュニアブランド・プリムローズの服に 着る者として、娘に着せる親として、服を作るものとして、ブランドを守る者として、たくさんの女たち 娘たちが溺れていく様子が、どこか新興宗教にのめりこむ者たちと似ているのが恐ろしくもある。
そして、その服をデザインする者と、ブランドを確固たるものにしようと心血を注ぐ者の熱さの違いがもたらすジレンマ、恋心、思いのほかの世間の注目、商戦などが、巧に織り合わされて描き出されていて見事である。

ほどけるとける*大島真寿美

  • 2006/08/27(日) 17:13:45

☆☆☆・・

ほどけるとける ほどけるとける
大島 真寿美 (2006/07)
角川書店

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平和な気持ちになりたくて、女の子特有の仲良しごっこの世界を抜け出した18歳の美和。夢も希望も自信も失って、祖父が経営する銭湯でバイトをしながら、どうにも先が見えない日々を過ごしていたのだが…。あなたの疲れた心を、そうっとあたためる、やわらかな成長の物語。


思うところがあって高校を中退したはずだったのに、いまとなっては何で辞めたのかもわからなくなり、何をしたいのか どこへ行きたいのか どうすればそれが見つかるのかも皆目見当もつかず、祖父が経営する大和湯の受付で流されるように日々を送る美和が語る 大和湯に来る客や業者たち 中学生の弟とのとりとめのない交流記である。 だが、そんなとりとめのなさのなかにも美和の心にとまるあれこれがあり、少しずつ何かを蓄えて前に進んでゆく美和を見ていると、じんわりと あたたかさが胸に広がるのである。

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ドラママチ*角田光代

  • 2006/08/26(土) 17:34:19

☆☆☆・・

ドラママチ ドラママチ
角田 光代 (2006/06)
文藝春秋

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女が求めているのはドラマなのだ! 妊娠、恋愛、プロポーズ…。女はいつも何かを待っている。中央線沿線の「マチ」を舞台に、小さな変化を「待つ」ヒロインたちの8つの物語。『オール読物』掲載を単行本化。


表題作のほか、コドモマチ・ヤルキマチ・ワタシマチ・ツウカマチ・ゴールマチ・ワカレマチ・ショウカマチ。
≪待つ女性≫の物語というよりも、≪心ならずも待つことになってしまった女性≫の物語たちである。 だれもがわくわくと待っているわけではなく、いきがかり上仕方なく あるいはいつのまにかなんとなく何かを待つことになっていた、というような なんとはなしに気だるい感じの≪待つ≫なのである。
そして、みな一様に満たされないものを抱え、身近の あるいはたまたま目の先にいる誰かを――胸の中やときには声に出して――罵ることで紛らわせたりもしているのである。
ちっとも未来が明るくないような鬱陶しさなのだが、どこかに何かしらほのぼのとした救いもまたあるのである。 『ドラママチ』の大家のおばあさんの逸話がほろりとさせる。

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風に舞いあがるビニールシート*森絵都

  • 2006/08/23(水) 18:28:02

☆☆☆・・

風に舞いあがるビニールシート 風に舞いあがるビニールシート
森 絵都 (2006/05)
文藝春秋

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愛しぬくことも愛されぬくこともできなかった日々を、今日も思っている。
大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語

-----

クリスマスも恋人も携帯電話も存在しない、ひどくかぎられた空間。
それでいてとても冴え冴とした、居心地のよいところ。
思えば遠いところまで来てしまったものだ。私も。この男も。(「器を探して」)

自分だけの価値観を守って、お金よりも大事なものを持って生きている――。
あたたかくて強くて、生きる力を与えてくれる、森絵都の短篇世界。
  ――帯より


表題作のほか、器を探して・犬の散歩・守護神・鐘の音・ジェネレーションX。
森絵都作品としては、ずいぶん異色だが、どの物語も主人公の一生懸命さがまっすぐに胸に届いて好ましい。
価値観はそれぞれ違っても、人が大切にするものに向かい合って打ち込む姿には どこかしら共通の清々しさがあって、羨ましくすらある。

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キサトア*小路幸也

  • 2006/08/22(火) 16:59:05

☆☆☆☆・

キサトア キサトア
小路 幸也 (2006/06)
理論社

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少年アーチはふたごの妹と父親の4人家族。病気で色の識別ができないが、物づくりが得意。海辺の町に越してきて5年、家族は平和に暮していた。やがてアーチはコンクールに挑むことに…。風がはこんでくる、爽やかな物語。


父・フウガさんは≪風のエキスパート≫。 荒ぶる風に困らされていた海辺の町で仕事をしたことがきっかけで 息子のアーチとその双子の妹たち・キサとトアとともにこの町に住むようになったのは五年前のことだった。 家は元診療所だった建物で、同じ場所で日の出と日の入りを見ることができるのだった。 それは、日の出とともに起きて日の入りとともに眠るキサと、日の入りとともに起きて日の出とともに眠りに就くトアにとってもとてもいいと思えたからだった。
物語は、アーチの目から見た家族や友人たち、町やそこに暮らす人々の事々である。 町に根ざして 安定した暮らしをしているのに、なぜかどこか旅の途中のような感じにさせられるところは いしいしんじ作品のようでもある。

町のお年よりリュウズさんがアーチに言ったこんな言葉が胸に残る。

「この世界は、皆がそう望めば素晴らしいものになるんだと、皆に思い出させてくれ。 その才能で、この町から、多くの幸せや希望をあちこちに運ぶ架け橋になってくれ。」
その名前の通りにな。

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猫島ハウスの騒動*若竹七海

  • 2006/08/21(月) 17:31:16

☆☆☆・・

猫島ハウスの騒動 猫島ハウスの騒動
若竹 七海 (2006/07/21)
光文社

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奇妙な事件に奇矯な人々、そして猫・猫・猫・・・・・
ユーモアとシニカルを絶妙にブレンド。
コージー・ミステリの名手、若竹七海の真骨頂!!

葉崎半島の先、三十人ほどの人間と百匹を超える猫が暮らす通称・猫島。 民宿・猫島ハウスの娘・杉浦響子は夏休みを迎え、家業の手伝いに精を出す日々を送っている。 そんなある日、ナンパにいそしむ響子の同級生・菅野虎鉄が見つけてしまったのはナイフの突き立った猫の死体、いや、はく製だった!? 奇妙な「猫とナイフ」事件の三日後、マリンバイクで海の上を暴走中の男に人間が降ってきて衝突した、という不可解な通報が! 降ってきた男は「猫とナイフ」事件にかかわりがあるようだが・・・・・。 のどかな「猫の楽園」でいったい何が!? 真夏の猫島を暴風雨と大騒動が直撃する!


葉崎シリーズ最新刊。 事件を捜査するのはお馴染み駒持警部。
舞台は、人間よりも猫のほうが幅を利かせているような猫の楽園・猫島。
虎鉄が浜で怪しい猫のぬいぐるみを見つけたのがすべての事件のはじまりだった。 覚せい剤アレルギーの駒持警部はやたらと派手にくしゃみをしているし、響子の大叔父がかかわったという 十八年前の三億円事件までなにやら関係がありそうなのである。
新米警官の七瀬晃が、自覚しているかどうかはさておき、結果的には大活躍しているのが、なにやら微笑ましく好感が持てる。
猫も含めると登場人物(猫)のなんと多い物語であることか。
それにしても、響子と虎鉄の間に、修学旅行でいったい何があったのかが気になる。

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少年アリス*長野まゆみ

  • 2006/08/18(金) 19:08:01

☆☆☆・・

少年アリス 少年アリス
長野 まゆみ (1992/07)
河出書房新社

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兄に借りた色鉛筆を教室に忘れてきた蜜蜂は、友人のアリスと犬の耳丸を連れ、夜の学校に忍び込む。 誰もいない筈の理科室で不思議な授業を覗き見た彼は、教師に獲えられてしまう・・・・・。 文藝賞を受賞した群青天鵞絨色のメルヘン。  ――文庫裏表紙より


巻末の高山宏氏の解説によると、著者は幼い頃から自分の好きな言葉を書き留めることが好きで、好きな言葉で埋まった自分だけの辞書を持っているのだという。 この物語にも、そんな著者の好きな言葉がほろほろほろほろといたるところに散りばめられている。 更に想像するに、言葉だけではなくおそらくアイテムにも同じことが言えるのだと思わせられる。
たしかに見かけはメルヘンなのだが、内容はとても深いものがある。 少年がはじめて他者を意識し、それによって自己を見つめなおす時期の うしろめたいようなさみしいような そしていくらか誇らしいような 複雑な想いが絶妙に描かれている。 巣立ちの物語と言ってもいいのかもしれない。 そこにでてくる象徴的なものが「鳥」だというのも絶妙である。

よもつひらさか*今邑彩

  • 2006/08/17(木) 18:34:51

☆☆☆・・

よもつひらさか よもつひらさか
今邑 彩 (1999/05)
集英社

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死者と語り、異界を覗き、あり得ぬ過去を生き、まだ見ぬ未来を曲げる――この世とあの世の境目“よもつひらさか”に、今邑さんの繊細な指が紡ぎ出したガラス糸の織物のような十二の佳篇。
触れれば心が、ひやりと切れる・・・・・。  宮部みゆき

古事記に登場する坂と同名の坂。 そこには不気味な言い伝えが・・・・・。
表題作他、奇妙な味わいに満ちた全12編を収録。
  ――帯より


表題作のほか、見知らぬあなた・ささやく鏡・茉莉花・時を重ねて・ハーフ・アンド・ハーフ・双頭の影・家に着くまで・穴二つ・遠い窓・生まれ変わり。
ストーカーや、ネットの匿名性 性別詐称などがいまほど問題視されていなかった1999年の作品である。 にもかかわらず、それらの恐ろしさ、おぞましさを著者はすでに予見していたのだろうと思われる作品が数編あり、そのおぞましさは嘆かわしいことに当時もいまも変わらない。
そして、こうしたサイバー犯罪のような現代的な恐ろしさとはまったく趣を異にする 古典的とも言える恐ろしさも描かれている。 表題作などがその典型だろう。 古くからの言い伝えの芯には身の毛もよだつ真実が隠されていることがあるのかもしれない、と思わされてなおさらぞくりとする心地がする。

ほうかご探偵隊*倉知淳

  • 2006/08/16(水) 17:32:44

☆☆☆☆・

ほうかご探偵隊 ほうかご探偵隊
倉知 淳 (2004/11)
講談社

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僕のクラスで連続消失事件が発生。僕は四番目の被害者に!といっても、なくなったのはもう授業でも使わないたて笛の一部。なぜこんなものが!?棟方くんの絵、ニワトリ、巨大な招き猫型募金箱、そしてたて笛が一日おきに姿を消すという奇妙な事件が五年三組にだけ起こっている。ニワトリなんか密室からの消失だ。この不可思議な事件を解決してみないかと江戸川乱歩好きの龍之介くんに誘われ、僕らは探偵活動を始めることにした。僕がちょっと気になっている女子も加わり事件を調べていくのだが…。そこにニワトリ惨殺目撃証言が!町内で起きた宝石泥棒との関連は?龍之介くんの名推理がすべてを明らかにする。


かつて子どもだったあなたと少年少女のための ミステリーランドからの一冊。
語り手は僕・藤原高時。 五年三組で続けて起こっている不要品消失事件の四番目の被害者になってしまい、クラスメイトの龍之介や吉野明里、成見沢めぐみたちと捜査に乗り出したのだった。
休み時間や放課後に小さな手がかりから犯人の動機や犯行の方法を推理し、聞き込みをして情報を集めたり、現場検証をして証拠品を探したり。 なんだかわくわくとたのしくすらあったのだが、二番目に消失したニワトリが殺されたことがわかって事件はにわかに物騒なものになる。
僕はマイペースな龍之介くんにくっついてわけもわからずうろうろしていることが多いのだが、龍之介君にはどうやら何かが判っているようだ。
龍之介くんは、小柄でリスのようなくりっとした目をした怪人二十面相好きな少年で、東京に住む叔父さん(お父さんの弟)に憧れている。 その叔父さんというのは、特に決まった仕事はしていないみたいで 面白いことが何より好きな人らしい。 それってあのものすごくよく知っているキャラのあの人ですよね。 龍之介くんの名字だけどこにも出てこなかったのは そういうわけだったのだ!

水の繭*大島真寿美

  • 2006/08/16(水) 07:18:30

☆☆☆・・

水の繭 水の繭
大島 真寿美 (2002/07)
角川書店

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人間は、こんなにもひとりぽっちでこんなにもやわらかい
ちぢこまった心が優しく息を吹き返す――
かつてなくみずみずしい物語の語り手が誕生した!!

母と兄、そして父までも、わたしをおいていなくなった。 もう家族じゃない――。
とめどない孤独をぬぐいきれず、気だるい日常を送っていたとうこのもとに、ある日ひょこり転がりこんできた従妹の瑠璃。 心にぽっかり穴を抱えながらも、とらわれない豊かな個性をもった人たちとのめぐりあい、つながりあいを通じて、かじかんだ気持ちがしだいにほころんでいく、少女とひと夏の物語。
  ――帯より


子どもの頃 両親が離婚し、母は 双子の兄・りくだけを連れて出て行った。 それから10年、父もあっけなく亡くなり、とうこはただただ茫然とするほか何もできずに日々を送っているのだった。 そんなとき、元々家出癖があり、行方知れずだった従妹の瑠璃が現われ、とうこの暮らしに騒々しいが活き活きとした風が送り込まれる。 
自分だけをおいてみんなどこかへ行ってしまう、というたまらない孤独感に閉じ篭められていたとうこだったが、ひとつひとつ事を起こしていくうちに、長年 冷たく凝り固まっていたものが少しずつほどけていくのを感じるのだった。

とうこと瑠璃、そして りく。 みんながひどく孤独で、でもその孤独感の現わし方がそれぞれ異なっている。 一見、たのしげな瑠璃が、もしかするといちばん孤独なのかもしれない、とも思える。 手を伸ばせばお互いの手に触れられる距離にいながら、手を伸ばすことを怖れ 躊躇っていては いつまでもひとりぽっちなのだろう。

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壺中の天国*倉知淳

  • 2006/08/15(火) 17:37:33

☆☆☆・・

壺中の天国 壺中の天国
倉知 淳 (2000/09)
角川書店

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第1回 本格ミステリ大賞受賞
本格ミステリ作家クラブが選んだベスト1<2000年>
家庭諧謔探偵小説 圧巻の書き下ろし1050枚

彼は一人だ。
世界中が彼を置き去りにして動いている。
彼は四人の人を殺した――。
静かな地方都市で起きる連続通り魔殺人。 犯行ごとにバラ撒かれる自称「犯人」からの怪文書。 果たして犯人の真の目的は――。 互いに無関係の被害者達を結ぶ、ミッシング・リングは存在するのか?
  ――帯より


短大時代の恋人の子どもをひとりで産み、故郷・稲岡市の父親の元に帰ってきて、クリーニング屋で配達の仕事をしている知子が語る 知子の周りの日常のさまざまな出来事。 連続殺人となる通り魔事件の被害者となる人たちの 殺されるまでのそれぞれの日常。 そして怪しげなフィギュアを作る正体不明の誰かの様子。 この三つのパートが交互に繰り返されて 稲岡市が 通り魔殺人事件一色になる様子が描かれる。
被害者とよく似たフィギュアを作る怪しげな人物な一体誰なのだろうか。 それが犯人なのだろうか...。 知子の家にかつて居候していて 現在はこの事件を追っている記者の水島や 知子の友人で定職を持たず 家で絵画教室を開いている正太郎の推理などから 知子や父も犯人像を思い描いたりするのだったが。

知子や正太郎や娘の実歩は言うまでもなく、クリーニング屋の夫婦とか 近所のおばさんとか いわば脇役の人々のキャラクターがみな丁寧に描かれていて それが稲岡という市の深みになっているような気がする。 正太郎の発言には、事件に関係のないところでも頷かされることが多かった。

空は、今日も、青いか?*石田衣良

  • 2006/08/13(日) 17:00:39

☆☆☆・・

空は、今日も、青いか? 空は、今日も、青いか?
石田 衣良 (2006/03/16)
日本経済新聞社

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階層社会、少子化、テロ、転職時代の風がどんなに冷たくても、ぼくらは一度きりの「今」を生きるんだ。道に迷ったあなたに贈る、やさしく、力強いメッセージ。「R25」と日経夕刊の好評連載がまとめて読める!

石田衣良、待望の初エッセイ。


初エッセイだったんですね。 ちょっと意外でした。
大上段に構えた物言いではなく、隣のお兄さんがちょっとひと言アドバイスしてくれるような、親しみやすいエッセイだったように思う。 それでいて、経済界やIT業界に対しては、結構はっきり異論も唱えている。 
章の区切りごとに差し挟まれている空の写真がとても好い。

駅までの道をおしえて*伊集院静

  • 2006/08/12(土) 16:56:21

☆☆☆・・

駅までの道をおしえて 駅までの道をおしえて
伊集院 静 (2004/10/25)
講談社

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君が待っている、その駅はどこにあるの。夏の微笑と、祈りをのせて電車は走る。かけがえのない時間に逢える短編集。
友だち以上の、君と見ていた夏の海とまぼろし。夏の宵、長嶋監督がくれた真っ白な贈り物。古都の冬、生体肝移植に見た夫婦の絆。二度と逢えなくとも、想い続ける人たちの物語。


表題作のほか、シカーダの夏・バラの木・冬のけむり・2ポンドの贈り物・渡月橋・花守・チョウさんのカーネーション。
どの物語でも、人は何かを 誰かを――来ないかもしれないのに――待っている。 そして、人の心に、野球があたたかみとして宿っている。 野球を愛した人、野球を愛した人を愛した人、野球に救われたたくさんの心たち。 読後にほんのりとあたたかい灯が胸の奥にともるような物語である。

朱色の研究*有栖川有栖

  • 2006/08/11(金) 19:09:00

☆☆☆・・

朱色の研究 朱色の研究
有栖川 有栖 (1997/11)
角川書店

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それは、眩暈の夕焼けから始まった・・・・・。
臨床犯罪学者・火村英生が、2年前の未解決事件調査を開始したとたん、新たなる殺人が――。
奇抜なトリックと巧みな構成で読者を翻弄する本格推理638枚!!
  ――帯より


火村英生と有栖川有栖が活躍するシリーズ。
火村先生が講座の教え子に頼まれて、2年前の未解決事件を調べ始めたとたん、その事件と無関係とは思えない新たな事件に巻き込まれる(というか呼び出される)。 押し殺した声の電話に呼び出されて 指定された場所へ行くと、そこには死体があったのだった。 しかもその死体は、2年前の事件の関係者のものだったのだ。

ひとつトリックを解き明かしても安閑とはしていられない。 幾重にも張り巡らされた関門を突破しなければ事件の真相にはたどり着けないのだ。 しかし、火村先生は ほんの小さな引っ掛かりをも見逃さないのである。 引き立て役に徹してはいるが、有栖川有栖とのコンビであることによって 火村先生の推理に火がつくのだろう。 
タイトルは、あとがきにもあるように ドイルの『緋色の研究』のもじりだが、装丁とともに 世界の終わりのような朱色の夕焼けを見事に象徴していると思う。

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文章探偵*草上仁

  • 2006/08/09(水) 19:47:47

☆☆☆・・

文章探偵 文章探偵
草上 仁 (2006/05)
早川書房

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中堅ミステリ作家・左創作は、文章からそれを書いた人間をプロファイルする文章探偵である。彼は、審査を務める新人賞に応募された作品の中に、自分が講師をしている創作講座の生徒のものらしき作品を発見する。しかしその作品内容に酷似した殺人事件が起こり、左は文章プロファイリングを開始する。真実を述べているのは誰なのか?謎が謎を呼ぶ、不可解な展開!妙手、草上仁がしかける本格ミステリ。


着想と趣向に惹かれて手にした一冊。
文章の書き方、単語の選び方、漢字と送り仮名、誤字、言葉の誤用、ワープロの入力法、推測変換の仕方。 そんな個人が普段意識せずに書き出す文章から 細かいことを推測してゆくのが文章探偵である。 物語は、文章探偵である中堅作家・左創作が語り手となって進む。
『ザ・ノベル講座』の受講生の提出作品を手がかりに 執筆者を推理するくだりなどは なかなか興味深く、自分の書き癖と併せて愉しんだ。 ストーリーもまあ愉しめたのだが、やはり少なからず反則なのでは?という感は否めなくて、その分興が削がれた気はする。

唇のあとに続くすべてのこと*永井するみ

  • 2006/08/08(火) 19:36:23

☆☆☆・・

唇のあとに続くすべてのこと 唇のあとに続くすべてのこと
永井 するみ (2003/01/21)
光文社

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結婚前、不倫関係にあった上司の葬儀に出たことがきっかけで再会した、かつての同僚と逢瀬を重ねる菜津。その上司の死について、他殺の可能性があると警察が尋ねてきたとき、平穏な日常が姿を変え始める…。恋愛サスペンス。


こういう不倫はとても後味が悪くてやはり厭わしい。 菜津は、職場の尊敬する大先輩・岸を 煩わしいことを心配せずに気楽に大人の付き合いができる男として選び、岸が自分に予想外の執着を見せるやいなや うんざりして結婚に逃げたのだ。 それなのに、そのときの大人としての自分の責任は棚に上げて、また新しい恋などはじめている。 まるでどうにもならないことのように。 菜津と良平のひとり娘・梨沙を除いて、登場人物の誰ひとりとして好きになれなかった。

40 フォーティー 翼ふたたび*石田衣良

  • 2006/08/07(月) 18:10:40

☆☆☆☆・

40 翼ふたたび 40 翼ふたたび
石田 衣良 (2006/02)
講談社

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40歳から始めよう。
人気作家が初めて描く同世代のドラマ。
著者、会心の長編小説が誕生!

人生の半分が終わってしまった。 それも、いいほうの半分が。
投げやりに始めたプロデュース業で、さまざまな同世代の依頼人に出会い変身する吉松喜一、40歳。
生きることの困難と、その先の希望を見つめた感動作!
  ――帯より


大手の代理店を辞め、先輩の興した会社に入るも肌が合わず、“40歳から始めよう”を合言葉に 一匹狼でプロデュース業をはじめたはいいが、事務所も間借り状態。 少しでも知名度を上げようとかき始めたブログを更新する毎日だった。 たまに飛び込んでくる仕事は、ブログを見た人たちからの プロデュースとは関係のない雑多な仕事だけ。 暇を持てあましていることもあり 仕方なしにそれらの依頼を引き受けているうちに、喜一自身が少しずつ変わってくる。 そして最後には、新雑誌のお披露目イベントのプレゼンに勝ち残り、登場人物が勢ぞろいしてイベントを行ってしまうのである。
物語の筋の流れは、くさい青春ドラマっぽいと言えなくもないのだが、分別盛りの40歳の男たちが悩み涙する姿に爽やかさすら覚えるのである。

まだ青春のさなかにある人間はいうかもしれない。夢も希望もない人生なんて生きる意味がない。だが、それが違うのである。ほんとうは自分のものではない夢や希望によって傷つけられている人間がいかに多いことか。本心では望んでいないものが得られない。そんなバカげた理由で不幸になっている者も、この世界には無数にいるのだ。
余計な荷物を全部捨ててしまっても、人生には残るものがある。それは気持ちよく晴れた空や、吹き寄せる風や、大切な人のひと言といった、ごくあたりまえのかんたんなことばかりだ。そうした「かんたん」を頼りに生きていけば、幸せは誰にでも手の届くところにあるはずだ。


という喜一がブログに書いた一文が印象的だった。

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押入れのちよ*荻原浩

  • 2006/08/06(日) 20:54:46

☆☆☆・・

押入れのちよ 押入れのちよ
荻原 浩 (2006/05/19)
新潮社

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今ならこの物件、かわいい女の子(14歳・明治生まれ)がついてきます…。幽霊とサラリーマンの奇妙な同居を描いた表題作ほか、「木下闇」「殺意のレシピ」「介護の鬼」など全9話を収録した、ぞくりと切ない傑作短編集。


表題作のほか、お母さまのロシアのスープ・コール・老猫・殺意のレシピ・介護の鬼・予期せぬ訪問者・木下闇・しんちゃんの自転車。
どの物語にも、なにかしら普通に生きていては出会えない何者かが現われる。 心の中の鬼だったり、恐怖だったり、出来心だったり、幽霊だったり。
そして、生きている者の方が幽霊よりも断然恐ろしい と思わされてしまうのが切なくもある。
表題作『押入れのちよ』でも、ちよは何も悪さをしないが、その力を一瞬でも利用しようとする生きた人間の欲はどうだろう。 ほんとうに恐ろしいものは何かを考えさせられる一冊だった。

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夜の公園*川上弘美

  • 2006/08/06(日) 09:01:01

☆☆☆☆・

夜の公園 夜の公園
川上 弘美 (2006/04/22)
中央公論新社

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わたしいま、しあわせなのかな――寄り添っているのに、届かないのはなぜ。恋愛の現実に深く分け入る、川上弘美の新たなる傑作長篇。


章ごとに語り手を替えて進められる物語。 
リリ、幸夫、春名、暁、リリ、幸夫、春名、暁、と繰り返されて 最後はリリで終わる。
リリと幸夫は 夫婦。 リリと春名は親友同士。 リリは暁とつきあい、春名は幸夫とつきあい、そして春名は暁の兄 悟ともつきあっている。
とても狭い範囲で関係線が絡まりそうに交錯していて眩暈がしそうになる。

不倫話は基本的に嫌い。 それを正当化する話はもっと嫌い。 なはずなのだが、この物語はなんだかとても心地好かった。 なぜだろう。
誰かひとりが悪者にされたりしていないからだろうか。 それぞれがみんな丁寧に描かれているからだろうか。 生活にかかわる細かなところが触れられそうなほどそのままに描かれているからだろうか。 たとえば夕飯の献立とか、夜の公園の人々の様子とか。
不倫なんてしたこともないが、リリの心の動きがなぜか実感を伴って理解できてしまって、自分こそがリリではないかと思えたり。
ぽつり と、ただ誰かの名前を思い浮かべて、どんな感情をそこにのせたらいいのか戸惑う様は、もうそこではそれしかないというくらいにぴったりで、ため息が出てしまう。

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袋小路の男*絲山秋子

  • 2006/08/05(土) 17:43:22

☆☆☆・・

袋小路の男 袋小路の男
絲山 秋子 (2004/10/28)
講談社

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第30回 川端康成文学賞受賞
指一本触れないまま、「あなた」を想い続けた12年間。
<現代の純愛小説>と絶賛された表題作、
「アーリオ オーリオ」他一篇収録。
注目の新鋭が贈る傑作短篇集。
  ――帯より


これをただ純愛物語と言ってしまっていいのかどうかわからない。 「純愛物語」という語からわたしが連想するものとは 少なくともかなり違う道筋の上にある。 これを恋愛といっていいのかさえ疑わしいのではないかと思うくらいである。 本人たちが恋愛だと思っているならばどんなものでも恋愛なのだろうと思うが、この物語のふたりは 自分たちが恋愛をしているとは思っていないだろう。 それでもこの離れられなさは見事としか言えない。 清々しい心地がするほどである。 進展のないのが運命のような、それでも切りようのない極太の赤い糸で結ばれているふたりに幸あれ。

『アーリオ オーリオ』がどうしてここに置かれたのか、よく判らないが、語り手の中年の独身男で 人間関係を上手く構築できない哲は、やはり言ってみれば 袋小路から抜け出せない男、ということだろうか。 一歩間違えると怪しい人になってしまいそうなぎりぎりのところで好感の持てるキャラクターだった。

女たちは二度遊ぶ*吉田修一

  • 2006/08/03(木) 18:29:22

☆☆☆・・

女たちは二度遊ぶ 女たちは二度遊ぶ
吉田 修一 (2006/03/25)
角川書店

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甘く、時に苦く哀しい、美しい女たち、11人のショートストーリー。 女の生態と男の心理をリアルに描く、著者会心のイレブン・ストーリーズ。
ルーズな女、がらっぱちな女、気前のいい女、よく泣く女、美人なのに、外見とはかけ離れた木造ボロアパートに住む女……。甘く、時に苦く哀しい、美しい女たち、11人のショートストーリー。気鋭による傑作短篇集。

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本当になんにもしない女だった。炊事、洗濯、掃除はおろか、こちらが注意しないと、三日も風呂に入らないほどだった―。(本文より)


どしゃぶりの女・公衆電話の女・自己破産の女・殺したい女・夢の女・平日公休の女・泣かない女・最初の妻・CMの女・十一人目の女・ゴシップ雑誌を読む女。

さまざまなタイプの女が主役の物語である。 女が主役ではあるのだが、どの物語の女も男の目というフィルターを通してみた女であるのが 少し不満と言えば言えなくもない。 しかも、女のごく近くにいる男、としての男の目を通しているのである。 女の側にもきっと言い分があるだろう。
女の物語とは言え、これは即ち男の物語でもあるのではないか。 女をこういう風に見る男の__。

十夜

  • 2006/08/03(木) 13:12:34

☆☆☆・・

十夜 十夜
ランダムハウス講談社 (2006/01/27)
ランダムハウス講談社

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十人の作家が最も好きな短篇小説を一篇ずつ選びました。
本文は、とっておきの一篇について書かれたエッセーのあとに、
選ばれた短篇が続く構成になっています。
「小説現代」の特集「短篇小説を読む醍醐味、今すぐ読みたいベスト16作品」(二〇〇五年五月号)に
掲載されたエッセーを基に、小社で原稿を加え、再編集いたしました。
ご協力いただいた「小説現代」編集部、
転載を許諾いただいたエッセーと短篇の著者ならびに
著作権継承者の方々に心より感謝申し上げます。


ラインナップを並べてみると
 川端康成『夏の靴』――エッセー「異様に美しい白」夏樹のぶ子
 志賀直哉『剃刀』――エッセー「読み手を圧迫する簡素な言葉」角田光代
 伊坂幸太郎『イン』――エッセー「短篇のはじまり―伊坂幸太郎氏の作品から」伊集院静
 井伏鱒二『鯉』――エッセー「鯉について」町田康
 内田百『東京日記(抄)』――エッセー「不思議の力」黒井千次
 ジェームズ・サーバー『ウォルター・ミティの秘められた生活』――エッセー「訳題と原題」北村薫
 飯沢匡『座頭H』――エッセー「深層心理を尋ねて」阿刀田高
 菊池寛『入れ札』――エッセー「風格を備えた、味わい深い傑作」伊藤桂一
 サキ『開いた窓』――エッセー「洗練された教養と自虐的ユ-モア」恩田陸
 野口冨士男『相生橋煙雨』――エッセー「霧の雨に開かれたまなざし」堀江敏幸

どの作家がどの短篇を選んでいるかで、選んだ作家自身の内面を垣間見た心地がして興味深い。 普段の作風から頷ける面も多々あって、こんなところから影響を受けていたのか、と改めて納得したりもする。
恩田陸さんがお選びの『開いた窓』のように、すでにその短篇を一場面として使っている小説を読んでいれば、なおさら興味は増すのである。

ママの狙撃銃*荻原浩

  • 2006/08/02(水) 12:48:55

☆☆☆☆・

ママの狙撃銃 ママの狙撃銃
荻原 浩 (2006/03)
双葉社

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世界の平和より、今夜のおかず
福田曜子はふたりの子をもつ主婦。
夫の孝平は中堅企業のサラリーマン。
ふたりは、ごくふつうの恋をし、ごくふつうの結婚をしました。
ただひとつ違っていたのは・・・・・

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「立射に関して言えば、男より女の方が有利なんだ。骨盤が大きくて、高い位置にあるからね。女はみんな銃座を持って生まれてくるんだ。左のひじを腰の骨に乗せるようにして撃ってごらん。どんな男にも真似のできない射撃ができるから」 (本文より)
  ――帯より


なんて突拍子もない設定なのか。 こんなことが突拍子もないことでない時代になったら恐ろしくて生きていられなくなるかもしれない。 それなのになんと普通でささやかな暮らし、ささやかな悩み、なのだろう。 そのギャップに鳥肌が立つ。
郊外にやっと家を買った福田家の、夫や子どもや庭の日当たりに悩むホームドラマとしての一面と、妻である曜子の置かれた特殊な立場ゆえの過激な物語とが、違和感なく(?)表裏一体になっているのは見事と言っていいのだろうか。
平凡なごく普通のささやかな暮らしを望んでいる曜子には、二度と心の底からの安息は訪れないだろう。 それは血のなせる技なのだろうか。 あまりにも切なく哀しい。

それにしても、荻原浩=オバサン説(なんてあるのかどうか知らないが)、またもや信じたくなりそうである。 女性の特性を描いて見事すぎるのである。 日常の細かい仕草の描写は 自分がオバサンでなければ知りえないのでは?と思わされるほど、くすりと笑ってしまう真実味があるのだから。 

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