コンビニ・ララバイ*池永陽

  • 2006/09/30(土) 17:15:19

☆☆☆・・

コンビニ・ララバイ コンビニ・ララバイ
池永 陽 (2002/06)
集英社

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お人好しで商売気のない店長と、訳ありの店員さんにお客さん。みんな何かを抱えて生きている。何かを求めてやってくる。それぞれのはぐれた愛が切なくて、まぶしくて──小さなコンビニの物語。


登場人物は、一人息子を轢逃げで亡くし、ショックを受けた妻といつも一緒にいたいと、チェーン店ではない小さなコンビニ「ミユキマート」をはじめたが、ほどなく妻をも交通事故で失い、やり切れぬまま無気力にコンビニの店主でいつづける幹郎。その代わりに店を取り仕切る 妻・有紀美の友人でもあった治子。そしてコンビニにやってくる客たち。
そんな 有紀美曰く「賑やかだけど乾いている」コンビニに集まる人たちとちっぽけなコンビニ店主・幹郎の「乾いていない」七つの連作。
以前は妻に苦労もかけたが、失ってからその大切さを痛感している幹郎の力の抜け具合と、彼のことを想う気持ちのやり場を 店を守ることに見つけている治子のしっかり者具合が、切なくもありコミカルでもあってコンビの味を出している。
甘いところはたくさんあるのかもしれないが、読んでいてほっとする物語だった。大切なものを大切だと認めるのには、遅すぎることなどないのだと、それを認めるところから何かが始まるのだと思わせてくれる。
幹郎にも新しいあすが始まりますように。そしてそれでも「賑やかでちょっぴりあたたかな湿り気のある」ミユキマートでありつづけてくれますように。

段ボールハウスガール*萱野葵

  • 2006/09/29(金) 18:25:43

☆☆・・・

段ボールハウスガール 段ボールハウスガール
萱野 葵 (1999/07)
新潮社

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ふとした事件がきっかけで労働意欲を捨ててしまったOL。勤めを辞め、ガスも電気も水道も止められて、アパートも追い出され、わずかな手持ちの金も底をついてしまう…。無気力で無責任で世間に悪態ばかりついているヤな女。でも、ちょっとイイ女かも…。救いようのないクズ女を描く表題作の他、あの手この手で生活保護をかちとろうとするこれまた最低の女を描く、「ダイナマイト・ビンボー」を収録。書き下ろしビンボー話2編。


杏(あん)は、OLをしながら爪に火を灯すようにして貯めた200万円を盗まれた。しばらくして捕まった犯人は、二十代の妻子持ちの男だった。それ以来、杏は、部屋には帰らず公園や図書館で過ごすようになるのだった。

犯人に対する憤りの気持ちはわからなくはない。空しさもわかる。気力が一気に萎えるのもわかる。だが、そこから先の気持ちの動きがわたしには理解できない。だから読むのにただ疲れた。これのどこがイイ女なのか...。

四人の食卓*赤瀬川隼

  • 2006/09/27(水) 07:01:44

☆☆☆・・

四人の食卓 四人の食卓
赤瀬川 隼 (1995/08)
集英社

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父と息子の二人だけだった暮しが、何の手続きもなく、いきなり、そして自然に、四人の家庭生活に変っているような思いに一瞬とらわれた…。人生の節目節目に誰しもが抱く恋愛感情。表題作を含む11の短編。


表題作のほか、「秋を呼ぶ風」「夏になれば」「人ちがい」「翠玉のありか」「初夏の名残」「ケンブリッジ幻影」「闇の女神」「短冊」「見栄っぱり」「ミミの忘れ物」

人生の節目のふとした隙間に忍び入るように芽生えるときめきが11の物語になっている。主人公にとっては ひととき桜の季節のような儚い高揚感に包まれ 幸福かもしれないが、その陰にはには必ず、裏切りや嘘や隠し事があるということが、素直に一時の満開を喜べない心地にさせる。なんとはなしに居心地のよくない物語たちだった。

おいしいコーヒーのいれ方 ⅠⅡⅢ*村山由佳

  • 2006/09/26(火) 11:23:43

☆☆☆・・

キスまでの距離―おいしいコーヒーのいれ方〈1〉 キスまでの距離―おいしいコーヒーのいれ方〈1〉
村山 由佳 (1999/06)
集英社

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僕らの夏―おいしいコーヒーのいれ方〈2〉 僕らの夏―おいしいコーヒーのいれ方〈2〉
村山 由佳 (2000/06)
集英社

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彼女の朝―おいしいコーヒーのいれ方〈3〉 彼女の朝―おいしいコーヒーのいれ方〈3〉
村山 由佳 (2001/06)
集英社

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高校3年生になる春、父の転勤のため、いとこ姉弟と同居するはめになった勝利。そんな彼を驚かせたのは、久しぶりに会う5歳年上のかれんの美しい変貌ぶりだった。しかも彼女は、彼の高校の新任美術教師。同じ屋根の下で暮らすうち、勝利はかれんの秘密を知り、その哀しい想いに気づいてしまう。守ってあげたい!いつしかひとりの女性としてかれんを意識しはじめる勝利。ピュアで真摯な恋の行方は。


上記は<Ⅰ>の内容紹介。今現在<Ⅹ>まで出版されている。
イラストは志田正重さん。
三巻目までしか読んでいないが、おそらく十巻目まで勝利とかれんのもどかしいような恋愛模様が描かれているのだろうと思う。ラブコミックスのような さらさらきらきらと光がこぼれるような若い恋愛物語なので、三巻目まで読んで、いささかお腹いっぱい感が__。なのでここまでにしておこう。
若い人はのめり込んで読めるかもしれない。

びっくり館の殺人*綾辻行人

  • 2006/09/24(日) 17:07:35

☆☆☆・・

びっくり館の殺人 びっくり館の殺人
綾辻 行人 (2006/03)
講談社

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とある古書店で、たまたま手に取った1冊の推理小説。読みすすめるうち、謎の建築家・中村青司の名前が目に飛び込む。その瞬間、三知也の心に呼び起こされる遠い日の思い出……。三知也が小学校6年生のとき、近所に「びっくり館」と呼ばれる屋敷があった。いろいろなあやしいうわさがささやかれるその屋敷には、白髪の老主人と内気な少年トシオ、それからちょっと風変わりな人形リリカがいた。クリスマスの夜、「びっくり館」に招待された三知也たちは、<リリカの部屋>で発生した奇怪な密室殺人の第一発見者に! あれから10年以上がすぎた今もなお、事件の犯人はつかまっていないというのだが……!?


「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」と銘打たれた ミステリーランドのなかの一冊。
読者の多くは少年少女なのだろう。が、これはれっきとした「館シリーズ」の第八作でもある。ということは、館は当然 かの中村清司の手によるものである。
十年以上も昔のびっくり感と呼ばれていた古屋敷邸で起こった事件とその頃の出来事を、当時 殺人事件の第一発見者のひとりとなった三知也が思い出し、阪神淡路大震災を生き延びた 当のびっくり館を訪ねるという趣向である。
ラスト近くなってはじめて、殺人事件発見当時に何があったかが語られ、驚愕するのだが、あのラストは何なのだろう。トシオはともかく、あおいはどうなってしまったのだろう。なんだかキツネにつままれたようだった。

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キップをなくして*池澤夏樹

  • 2006/09/23(土) 21:41:08

☆☆☆☆・

キップをなくして キップをなくして
池澤 夏樹 (2005/07/30)
角川書店

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「キップをなくしたら、駅から出られない。キミはこれからわたしたちと一緒に駅で暮らすのよ、ずっと」「ずっと?」キミは今日から、駅の子になる。学校も家もないけれど、仲間がいるから大丈夫。電車は乗りたい放題、時間だって止められるんだ!子供たちの冒険、心躍る鉄道ファンタジー。


イタルはひとりで銀座の切手屋さんに行くところだった。もうすぐコレクションが完成するのだ。何度も来ているからもう迷うこともない、と思っていたら、ポケットに入れたはずのキップがどこにも見当たらない。そのとき、フタバコさんに声をかけられ、着いていった先は東京駅の詰め所と呼ばれる部屋だった。そしてそこには、イタルと同じようにキップをなくして駅から出られなくなった子どもたちが「駅の子」として暮らしていたのだった。

心躍るのはもちろんだが、それだけではなくとてもいろいろなことを考えさせられる一冊だった。ただ単に鉄道ファンタジーと名づけてしまうにはあまりにも盛りだくさんなのである。ほんとうの自由とは?とか、どう生きる?とか、教訓的なことはさまざまあるが、そんな風に構えなくても、わくわくと愉しく 胸がキュンとして ほろりと切なくなる物語なのだ。
子どもだったら 誰でも一度は「駅の子」になってみたいんじゃないだろうか。

ピリオド*乃南アサ

  • 2006/09/23(土) 13:50:28

☆☆☆☆・

ピリオド ピリオド
乃南 アサ (1999/05)
双葉社

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離婚して一人暮らしを続けるフリーカメラマン宇津木葉子のもとに、大学受験を迎えた甥の彰彦とその妹理菜がころがりこんできた。そんな時、不倫相手である杉浦の妻が殺されて…。日常に倦んだ心のカタルシスになる静かな物語。


急に代役を頼まれたカメラマンとしての取材旅行先の津軽で、葉子は取り残されたような長屋を目にする。そのうちの一軒は 人の住む家とは呼べないくらい打ち壊されて無残な姿を晒していた。タクシーの運転手に聞くと、そこは 連続殺人を犯した少年が暮らした場所だったということだった。物語はそんな衝撃的なエピソードを序章として始まる。

家、家族、そして家族の中の一人一人、人間としての一人の物語なのかもしれない。どう生きるか、人とどう関わって生きるか、そしてどう終わらせるかの。

出ていく者は、いつも勝手だ。勝手に未来を思い描き、新しい世界に身を投げ入れて、無我夢中で泳ぎきることしか考えない。後に何を残し、自分が誰に、どんな後ろ姿を見せているかなど、考える余裕もありはしない。


という一節が、家族として 人として、送り送られることの哀しさと切なさをよく現していて考えさせられる。

海の仙人*絲山秋子

  • 2006/09/21(木) 17:20:22

☆☆☆☆・

海の仙人 海の仙人
絲山 秋子 (2004/08/28)
新潮社

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碧い海が美しい敦賀の街。ひっそり暮らす男のもとに神様がやって来た―。
「ファンタジーか」
「いかにも、俺様はファンタジーだ」
「何しに来た」
「居候に来た、別に悪さはしない」
心やさしい男と女と神様。話題の新鋭、初の長編。


白いローブ姿でいままで何もなかったところからふっと姿を現すファンタジー。見えない人にはまったく見えないが、見える人にはある種デジャヴのように まさに当たり前のようにファンタジーとして見えるらしい。神様のようだがこれといって何かをしてくれるわけでもないし、現れてほしいときに現れてくれるわけでもない。ただなんとなく一緒にいて飲み、食い、眠り、話すだけなのだ。それでもいなくなると、ふと会いたくなったりもする。なにがファンタジーなのかと思い、彼こそファンタジーではないか、とも思う。
対して、人のほうはまさに<人>である。傷ついた心を抱え、傷ついた想いを抱え、どうにもならない毎日をどうにもならないままに送っている。そんな人と人の間で、ファンタジーが小さなかすがいになってもいるような気がする。

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火のみち 上・下*乃南アサ

  • 2006/09/21(木) 13:05:38

☆☆☆☆・

火のみち (上) 火のみち (上)
乃南 アサ (2004/08/04)
講談社

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罪の、意味がわからない。
たった1人の妹を守るために、人を殺した男。心を焦がす、怒りと憎しみを、「土の冷たさ」だけが鎮めた。
時間が止まった刑務所の10年。自由。希望。命の実感。そのすべてを奪われ、赦されることもない男がたどる、壮絶な人生。


火のみち (下) 火のみち (下)
乃南 アサ (2004/08/04)
講談社

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奇跡を生むのは、炎。
空洞が埋まらない心。それが欲したのは、「天空の色」。触れたい、手に入れたい。男は魔力に取り込まれる。
古(いにしえ)の焼物・汝窯(じょよう)。奇跡のような色。いっさいの感情も、作為もゆるさない、「完全」。その奇跡を再現することが、自分の運命だと信じた。


昭和8年、大阪で生まれ、満州で終戦を迎えた一人の男の壮絶な一生の物語。
上巻では、戦争中に父と兄を亡くし、終戦後日本へ引き上げてくる船の中で幼い妹を亡くし、一家を養うために身を賭して働きに行く姉を見送り、病弱な母を看取り、ついには売られようとする幼い妹のために人を殺した南部次郎の、刑務所での十年の日々と出所して曲がりなりにも世間で生きていけるようになるまでを軸に、下巻では、雨上がりの青空の色だという中国の古の焼き物「汝窯」にのめりこんでいく次郎の姿を軸に、彼と否応なくかかわっていく人々の姿が描かれている。
時代背景や出来事は現実そのままに この物語の背景として語られ、まさに南部次郎という男が苦悩しながらそこに生きているかのような現実感を読者に与えている。誰をも心の底から信じずに生きてきた男の心底からの叫びが最後の最後に胸に痛い。

みどりの月*角田光代

  • 2006/09/19(火) 17:28:10

☆☆☆・・

みどりの月 みどりの月
角田 光代 (2003/05)
集英社

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恋人のキタザワに誘われ、同居することになった南。ところが、そのマンションにはキタザワの遠い親戚マリコとその恋人サトシが住んでいた…。成り行きまかせで始まった男女四人の奇妙な共同生活を描く表題作ほか、別れの予感を抱えた若い夫婦があてのないアジア放浪に出る「かかとのしたの空」を収録。今を生きる若者たちを包む、明るい孤独とやるせない心をうつしだす作品集。


「いろんな気持ちが本当の気持ち」と題する解説は 長嶋有さん。
この解説が絶妙で、たとえば

角田さんの作品の主人公はイライラしていることが多い。


というはじまりからしてもう うなるしかない。角田さんの描き出す物語の雰囲気を言葉にするとこれしかない、というような胸のすく感じなのである。

『みどりの月』のキタザワと南とマリコがそのまま場所を変えて『かかとのしたの空』のキヨハルと私とオレンジ色のスカートの女になって登場したのかと思えてしまうようなことも、どこにいても誰と何をしていても代わり映えのしない見通しのつかなさや投げ遣り感を煽っているようで、やりきれない。だが、そのやりきれなさは、目を覆ってうずくまるようなやりきれなさではなく、ふっと笑っちゃうようなやりきれなさなのがケセラセラな感じで好い。

あの頃ぼくらはアホでした*東野圭吾

  • 2006/09/18(月) 17:25:26

☆☆☆・・

あの頃ぼくらはアホでした あの頃ぼくらはアホでした
東野 圭吾 (1998/05)
集英社

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ワルの巣窟、悪名とどろくオソロシイ学校で学級委員をやっていた“命がけ”の中学時代。
日本で最初に学園紛争が起こり、制服が廃止されたという「有名校」での熱血高校時代。
花の体育会系&“似非理系”だった大学時代・・・・・あの頃みんながアホでした!
怪獣少年だった小学生時代から、大学を出て就職するまでを赤裸々に(?!)つづる、傑作青春記。
新生「ガメラ」の監督、金子修介氏との巻末特別対談つき。


著者とは同級生なので、過ごした地域や性別の違いでほとんど知らないこともありはするが、時代背景や時代の匂いのようなものがとてもよくわかり、よけいに惹き込まれながら読んだ。
我中学も 東野氏の中学ほどではないが荒れた学校で、入学前から恐れつつ進学したものだった。3年生の下駄箱の辺りにはいつも煙草の煙が立ち込めていたし、傘立に入れた傘など頻繁になくなり、卒業式には、機動隊が学校を遠巻きにし、式後に校舎の窓という窓が割られ心当たりのある先生方も報復を恐れて非難していたりはしたようだが、中にいれば毎日はそれなりに平和で、いつも戦々恐々としていたわけではなかった。だから、東野氏の中学時代のエピソードも実感を持ってうなずけるのだった。自分の中学高校時代の同級生の男子たちのことを思い浮かべながら、そうだったのか、と納得しながら読む部分も多く、懐かしさに浸れた一冊だった。

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ある閉ざされた雪の山荘で*東野圭吾

  • 2006/09/18(月) 10:52:21

☆☆☆☆・

ある閉ざされた雪の山荘で ある閉ざされた雪の山荘で
東野 圭吾 (1996/01)
講談社

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1度限りの大トリック!
たった1度の大トリック!劇中の殺人は真実か?
俳優志願の男女7人、殺人劇の恐怖の結末。

早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、オーディションに合格した男女7名。これから舞台稽古が始まる。豪雪に襲われ孤立した山荘での殺人劇だ。だが、1人また1人と現実に仲間が消えていくにつれ、彼らの間に疑惑が生まれた。はたしてこれは本当に芝居なのか?驚愕の終幕が読者を待っている!


脚本家東郷の芝居のオーディションに合格した7人の俳優たちにある日手紙が届く。乗鞍のとある山荘に全員集合するように、というものだった。誰にも告げず、必ず全員が指定された時間までに集まるように、と。彼らはバンを借りて全員一緒に山荘にやってくる。だが、いると思っていた東郷は現れず、管理人も自宅に帰ってしまう。折りしも届いた速達には、そこを豪雪に閉ざされ 電話も不通になった山荘と思って各自が芝居をするように、と書かれていた。
そして、まず一人目が殺され、現場には、ヘッドホンのコードで絞殺された死体がここにあるつもり、というメモが残されている。

芝居の稽古だと疑いもなく思っていた当初から、なんとなく不安になり、互いに疑心暗鬼に陥りつつも 東郷の思惑であることを完全に否定もできずに揺れ動く過程が見事に描かれている。
しかも、実際には豪雪に閉じ込められているわけでもなんでもない山荘をたった一通の速達で見事に陸の孤島化してしまう技も絶妙である。登場人物が俳優という設定にしたからこそのトリックでもあるが、その設定からしてもお見事である。

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一瞬の風になれ*佐藤多佳子

  • 2006/09/17(日) 17:16:23

☆☆☆☆・

一瞬の風になれ 第一部  --イチニツイテ-- 一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--
佐藤 多佳子 (2006/08/26)
講談社

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第一部――イチニツイテ――

青春小説の旗手、4年ぶり待望の書き下ろし長編小説
「速くなる」
ただそれだけを目指して走る。
白い広い何もない、虚空に向かって…………。
全3巻 3ヵ月連続刊行開始!!

春野台高校陸上部。とくに強豪でもないこの部に入部した2人のスプリンター。ひたすらに走る、そのことが次第に2人を変え、そして、部を変える。「おまえらがマジで競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」思わず胸が熱くなる、とびきりの陸上青春小説、誕生。


サッカー一家の一員として、天賦の才を持つ兄を尊敬しながらも常に劣等感を抱き、それでも懸命にサッカーを続けてきた神谷新二。天性のスプリンターであり、中学では記録も残しているにもかかわらず あっさりと陸上をやめ、しかし、高校で新二とともにまた陸上部に入った一ノ瀬連。ふたりと、彼らを取り巻く物語である。
語るのは新二。家族のなかの――特に兄と――自分について、陸上について、走るということについて、そして連との関わりにおける自分について。ときに眩しく 爽やかで、ときに痛い。青春の宝物のような出会いの数々がきらめいている。そのことをまだ自覚していない新二の若さも輝かしい。
3ヵ月連続刊行!! ということだが、第二部が待ち遠しい。
連が語る、なんていうことになったりするのだろうか。まったく別の風景が広がりそうでそれもいいかな、と思う。

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素晴らしい一日*平安寿子

  • 2006/09/16(土) 16:56:20

☆☆☆・・

素晴らしい一日 素晴らしい一日
平 安寿子 (2005/02)
文藝春秋

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恋人に逃げられ、勤務先は倒産。ドツボにはまった三十歳の幸恵は、昔付き合った男に貸した金を取り立てるところから人生を立て直そうと考えたが…(「素晴らしい一日」)。卓抜なユーモア感覚が絶賛されたオール読物新人賞受賞作を含め、憂きことばかりの人の世を、もがきながら生きる人間像を軽やかに讃える傑作六編。


表題作のほか「アドリブ・ナイト」「オンリー・ユー」「おいしい水の隠し場所」「誰かが誰かを愛してる」「商店街のかぐや姫」
あとがきで著者自身が書いているように

クスッと笑えてちょっぴり身につまされるビタースィートな大人のコメディー。


である。
当人たちはいたって真面目にやっている事々が、傍から見るとばかげて見えたり クスリと可笑しかったり。でもなんだかまったくの他人事にも思えずにホロリとさせられたりもする。そして目元がじんわりとあたたかくなったりもするのである。何気ないのに結構いい話なのである。

流星ワゴン*重松清

  • 2006/09/15(金) 17:13:04

☆☆☆☆・

流星ワゴン 流星ワゴン
重松 清 (2005/02)
講談社

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死んじゃってもいいかなあ、もう…。38歳・秋。その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。そして―自分と同い歳の父親に出逢った。時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。やり直しは、叶えられるのか―?「本の雑誌」年間ベスト1に輝いた傑作。


<死にたい>と思ったとき、最終電車が行ってしまった後の駅前に その車――ワインカラーの古いオデッセイ――は現れる。五年前の事故であっという間になくなった橋本さん父子が乗るオデッセイは、乗った人を大切なところまで連れて行ってくれるのだ。
現実は変えようもなく、過去の岐路に戻ったとしてもできることはたかが知れている。だが、知らずにただ通り過ぎるのとは明らかに違う何かが胸の中に生まれるのである。オデッセイから降りてからの現実が サイテー・サイアクだったとしても、心の持ちようがほんの少し変わっているかもしれないのだ。
38歳のカズと中二の息子のヒロ、カズと父親のチュウさん、そして 事故でなくなった橋本さんと健太くん、三組の父と息子の物語である。
親(父親)と息子とは なんと近くて遠い存在なのか、そしてなんと愛(ときには愛ゆえの憎しみ)にあふれた関係なのかと胸が熱く痛くなる。

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笑う霊長類*清水義範

  • 2006/09/14(木) 17:14:07

☆☆☆・・

笑う霊長類 笑う霊長類
清水 義範 (2003/02)
文藝春秋

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ニンゲンたちのおかしな行動心理がいっぱい
こんな時代だからこそ笑ってください!

ついに殺人事件まで起きてしまう肩凝りの辛さを克明に描く「肩凝り」、類人猿ボノボの群れに生まれたオス・ピカルの愛の遍歴「ボノボ紫猿源氏」、道を全然知らないタクシーに乗ってしまった方向音痴の焦り「タクシー」…など、思わずうなずいてしまう全6篇。


上記のほか「旅情」「一般視聴者」「Rの時代」

どれも実際にありそうで、しかもいつ自分が当事者になってしまうかもしれないという危惧もあり、だからこそクスリと可笑しい。
失笑だったり、苦笑いだったり、同士を得た共感の笑いだったり。自分はそこまでは・・・という安心の笑いだったり。

おとぎ話の忘れ物*小川洋子・樋上公実子

  • 2006/09/13(水) 17:20:28

☆☆☆・・

おとぎ話の忘れ物 おとぎ話の忘れ物
小川 洋子、樋上 公実子 他 (2006/04)
ホーム社

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忘れられたおとぎ話の中で、オオカミは腹を裂かれ、少女は行き先を見失う。画家・樋上公実子のイラストをモチーフに、作家・小川洋子が紡ぎだした残酷で可憐な物語。書き下ろし競作集。


曽祖父の時代には「白鳥屋」という飴屋だったのを、旅好きな祖父が「スワンキャンディー」と改号し、旅先で集めてきた「忘れられたおとぎ話」を丁寧に製本したものを所蔵する「忘れ物図書室」を店の奥に作ったのだった。
<湖の雫>と名づけられた色とりどりのコロンとしたキャンディーを舐めながら ゆったりとひとりの時間を過ごせる図書室は、口伝えに評判を呼び、なかなかの人気となったのだった。
ここで語られているのは、そのおとぎ話のなかからいくつかである。
樋上公実子さんの描く絵のなかの少女は何も見ていないような どこか遠くを見ているような瞳をしており、なんともエロティックな雰囲気と様子であり、小川洋子さんのグロテスクとも言える恐ろしい物語と溶け合って 独特の雰囲気を醸しだしている。

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ヘヴンリーブルー*村山由佳

  • 2006/09/12(火) 17:38:04

☆☆☆・・

ヘヴンリー・ブルー ヘヴンリー・ブルー
村山 由佳 (2006/08/25)
集英社

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19歳の歩太と27歳の春妃のせつなく激しい恋を描いた『天使の卵』から12年。そして『天使の梯子』から2年。29歳の妹・夏姫が回想するエモーショナルな懺悔。哀しくて、エロティックな青春の詩。

『天使の卵』では、どんなに熱い想いを歩太に抱いても報われなかった夏姫の恋。思いがけず姉・春妃に向けた恨みの言葉。狂おしい熱情と悔恨と懺悔。夏姫のモノローグで綴るせつない4つの短編。


『天使の卵』『天使の梯子』の行間を振り返って描いたような物語。
前2作を読んでいないと詳しい事情がつかみきれないところもあるかもしれない。3作でひとつの物語として読んだほうがいいかもしれない。
そういう意味では少しばかり物足りない一冊だったとも言える。

子盗り*海月ルイ

  • 2006/09/12(火) 17:17:57

☆☆☆☆・

子盗り 子盗り
海月 ルイ (2002/05)
文藝春秋

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子供に恵まれず追いつめられた夫婦が産院に忍び込み新生児を奪って逃げた。望んでも産めない女、子供を奪われた女、母親に執着する女、3人の女達の情念が交錯する―。サントリーミステリー大賞・読者賞ダブル受賞作。


ミステリーというよりも、心の闇やいまだなくならない因習の問題作として読んだ。
なんとしても家系を絶やしてはならぬという旧家にありがちな不文律が、「家」という極狭い社会の中で「絶対」として迫ってくる圧倒的な威圧感は、一歩外側から見れば とるにたりないある種笑い話のようなものなのだが、内側にいる人たちにとって それが絶対である以上逃れることはできないのである。その不条理があまりにも哀しい。
誰が悪いわけではなく、絡め取られてしまったのだろう。それでもラストにはいくばくかの光が見えるが、そこへ行き着くまでが哀しすぎる。
 

イッツ・オンリー・トーク* 絲山秋子

  • 2006/09/10(日) 17:29:31

☆☆☆・・

イッツ・オンリー・トーク イッツ・オンリー・トーク
絲山 秋子 (2004/02/10)
文藝春秋

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引越しの朝、男に振られた。東京・蒲田―下町でも山の手でもない、なぜか肌にしっくりなじむ町。元ヒモが居候、語り合うは鬱病のヤクザに痴漢のkさん。いろいろあるけど、逃げない、媚びない、イジケない、それが「私」、蒲田流。おかしくて、じんわり心に沁みる傑作短篇集。第96回文学界新人賞受賞。十年に一度の逸材、鮮やかなデビュー作。


表題作のほか、第七障害。

自分も躁鬱を患い一年間の入院のあと 貯金を食いつぶしながら直感で蒲田に部屋を借りた橘優子は、引越しの朝あっけなく男に振られた。それでも引越し作業をするうちにそんなことも忘れ、いろんな想いや物事や人を背負いこみ 荷を降ろしながら生きてゆく。
何とはなしに物悲しくて うっすらとしたおかしみもあり、やっぱりやるせない人生物語。

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空耳アワワ*阿川佐和子

  • 2006/09/10(日) 17:18:19

☆☆☆・・

空耳アワワ 空耳アワワ
阿川 佐和子 (2005/03/25)
中央公論新社

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オンナの現実胸に秘め、懲りないアガワが今日も行く。合言葉は「ごめんあそばせ」。そんなことだってあんなことだって包み隠さず書きますわよ。読めば元気がでる痛快エッセイ好評パート2。


1998年3月から12月まで、婦人公論で連載されたエッセイ『ああだこうだ』全82編のうちの後半の42編を収録したものだそうである。ちなみに前半の42編は未読だが、『トゲトゲの気持ち』に収録されている。

女とオバサンとエイジングを基本テーマにして...とあとがきにあるように、女として年を重ねてこられた著者の身の回りのあれこれが痛快に語られていて、ほぼ同世代のわたしとしては、うなずきながら、あるいはまだまだこれほどではないぞ とほっとしながら 楽しいひとときを過ごさせていただいた。

盗まれて*今邑彩

  • 2006/09/09(土) 17:24:51

☆☆☆・・

盗まれて 盗まれて
今邑 彩 (1995/03)
中央公論社

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私の殺意 届いてますか

突然かかってきた一本の電話。うっかり開封してしまった他人あての封書。著者の短編ミステリーの中から、電話や手紙が重要な小道具になっているものを集めた。表題作ほか7編を収録。


どの物語も、重要な鍵となる小道具に 電話か手紙が使われている。面と向かって告げられる言葉とは一味違った受け止められ方で 受け手の胸にとどまるメッセージ、それが電話であり、さらにその趣が色濃く現れるのが手紙だろう。電話や手紙がなくてはこの物語たちは成り立たないとも言えるだろう。
恐ろしく、切なく、哀しい物語たち。

福音の少年*あさのあつこ

  • 2006/09/08(金) 18:25:10

☆☆☆・・

福音の少年 福音の少年
あさの あつこ (2005/07/20)
角川書店

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「私のこと、あなたにだけは忘れてほしくない」

十六歳の永見明帆は、同級生の藍子とつきあっていても冷えた感情を自覚するだけ。唯一、彼が心に留める存在は藍子と同じアパートに住む彼女の幼なじみ、柏木陽だった。藍子の様子がおかしい?そう気づいたある日、母親とけんかした陽が突然泊めてくれ、と訪ねてくる。その夜半、陽のアパートが火事で全焼、藍子も焼死体で発見される。だが、それは単なる事故ではなかった。真相を探り始めた彼らに近づく、謎の存在。自分の心の奥底にある負の部分に搦め捕られそうになる、二人の少年。十代という若さにこそ存在する心の闇を昇華した、著者渾身の問題作。
  ――帯より


東京からやってきて、夜の闇の中で アサヒ・コーポの焼け跡に立つ男と二人の少年とが出会うところから物語は始まる。男は誰で 何のためにその場所へきたのか、そして少年たちは・・・。

少年たちの裡に秘めるものの言いようもない重さに、普通ではない能力――たとえば恩田陸の常野の人々のような、あるいはこの著者の白兎のような――を持つ者たちなのかと思ったりもしたのだが、そうではなく、十代のちょっと鋭い若者特有のものだと後になってわかる。それにしては、特定の種類の人にしか興味を示さない程度は尋常ではないようにも思うのだが。
居場所を探る少年たちやアサヒ・コーポとともに滅んだ少女の、そして 残された命がいくばくもない男の、抱える闇が 彼らを導き引き合わせたのだろうか。
タイトルの「福音」とは何を意味するのだろう。読み解くのがなかなか難しい物語でもある。

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十四番目の月*海月ルイ

  • 2006/09/06(水) 17:19:34

☆☆☆・・

十四番目の月 十四番目の月
海月 ルイ (2005/03)
文藝春秋

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主婦・桑島樹奈はスーパーで買い物中に二歳の娘・美有を誘拐される。身代金を要求され、様々な場所を引き回されたあげくに、京都シャングリラホテルで二千万円を奪われた。離婚して三歳の息子を育てているピアニスト・奈津子は、現場で演奏をしていたことから事件と関わりを持つ。果たして犯人はどうやって金を奪ったのか?そして、その動機は。


ユーミンが好きなのでタイトルに惹かれて読んでみた。
誘拐事件の背景をさまざま思い巡らしながら読み進んだが、読むほどに誘拐された女児・美有の母・樹奈の性質の欠落部分が明らかになってきて、この辺りにきっかけがあるのでは、と思わされる。
誘拐事件では、身代金の受け渡し時に最も緊張感が高まるのが普通だが、その点 この犯人は いとも鮮やかに警察の目を出し抜いたのが興味深かった。
ただ、謎解き部分は少し淡々としすぎているような気がしなくもない。
樹奈の性質を考えると、復讐になったのかどうかさえ怪しく思われもする。

ゴールデンタイム*山田宗樹

  • 2006/09/05(火) 17:23:32

☆☆☆・・

ゴールデンタイム―続・嫌われ松子の一生 ゴールデンタイム―続・嫌われ松子の一生
山田 宗樹 (2006/05)
幻冬舎

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歩き続けていく。
素晴らしい明日があることを信じて――。

伯母である川尻松子の惨殺死から四年。松子の甥・川尻笙は、大学は卒業したが就職をすることもなく、将来への不安を抱きながら、東京でその日暮らしの生活を送っていた。しかし偶然知り合ったユリとミックの舞台演劇に対する熱い思いに触れ、笙も芝居の魅力へ強く惹かれていく。一方、自らの夢だった医師への道を着実に歩んでいた笙の元恋人・明日香は、同級生であり恋人の輝樹からプロポーズされ、学生結婚への決意を固め始めていた。だが両者が人生の意味を考えた時、思わぬ出来事が二人の未来を変えていく・・・・・。

松子の‶生"を受け継ぐ二人の青春を爽やかに描き、熱く心を揺さぶる青春小説の大傑作、誕生!
  ――帯より


東京でその日暮らしをする笙と、佐賀で医大生としてがんばっている明日香の日々が、章ごとに繰り返され、最後に四年ぶりに二人が顔を合わせ、別れてそれぞれの道を再び歩き出す。
松子伯母さんの生涯があまりに波乱万丈で圧倒的だったこともあり、まだ若い笙と明日香の人生の悩みは それぞれに真剣で壮絶なのだが、あまりにも普通に見えてしまうのは仕方がないことなのだろう。
続・嫌われ松子の一生、とするにはあまりに普通の青春物語な気がしなくもない。

愚行録*貫井徳郎

  • 2006/09/03(日) 14:12:21

☆☆☆☆・

愚行録 愚行録
貫井 徳郎 (2006/03/22)
東京創元社

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ほら、人間という生き物は、こんなにも愚かで、哀しい。

数多のエピソードを通して浮かび上がる、人間たちの愚行のカタログ
『慟哭』『プリズム』に続く、第三の衝撃
  ――帯より


冒頭に新聞記事の抜粋。

3歳女児衰弱死
   母親逮捕、育児放棄の疑い


3歳の女児を衰弱死させたとして、警視庁は24日、母親の田中光子容疑者(35)を保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕した。母親には虐待の一つであるネグレクト(養育の怠慢・拒否)の疑いがある。死亡時の女児の体重は1歳児並だった。警視庁は虐待が長期にわたっていたとみて調べている。   (34面に関係記事)



氷川台駅から程近い住宅で田高という一家四人が惨殺されるという事件が起きた。その後、ルポライターらしい男が被害者と縁のあった人々を訪れ 被害者について彼らが話したことが書き連ねられている。そしてその間には、兄に向かって語る妹の過去の哀しい話が挿入されている。
冒頭の新聞記事と一家四人惨殺事件との関連は? 挿入される兄と妹は誰? といやがうえにも興味は高まる。そして、被害者の人となりを語る人々の胸の裡の小さな棘も垣間見え、物語の行方がますます気になるのである。
恩田陸の『Q & A』を思わせるような 広い裾野からある一点を目指して登りつめるような緊張感と期待感が最後の最後まで持続して愉しめたのだが、結末の哀しさには胸が塞がれる。

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あめふらし*長野まゆみ

  • 2006/09/02(土) 21:11:55

☆☆☆・・

あめふらし あめふらし
長野 まゆみ (2006/06)
文藝春秋

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ウヅマキ商会を営む橘河にタマシイを拾われた岬。「きみが生きているのは、おれがタマシイを掴まえているから。しばらくおれのところで働いてもらう」 しかし、仕事の背後に怪しい気配が…。極上の和風幻想譚。


初めから終わりまで、なにもかもが普通で、普通なのにどこか一筋ずれたパラレルワールドのような場所に迷い込んだような心許なさ 心細さを感じさせられる物語である。起こる出来事、出会う人々が、すべてはじめから出会うべくしてであったというのか、求めるからこそ出会ったというような趣で、一種不気味ともいえる世界を彷徨うことさえ あとから思えば必然のような心地になるのである。この世ならぬものに惑わされているようななんとも不安定な心地なのだが、最後はたどり着くべき場所にきちんとたどり着いているのが不思議である。これぞ長野まゆみの世界、という感じ。

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「青春小説」*清水義範

  • 2006/09/02(土) 09:19:47

☆☆☆・・

青春小説 青春小説
清水 義範 (1992/06)
講談社

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タイムスリップした過去は、あの三億円事件の直前だった。犯人からカローラを奪うことは可能か?レトロも魅力の「三億の郷愁」に、作家になる覚悟を決めて上京した青年のドタバタを描いて懐かしい「灰色のノートからⅠⅡ」と新たに書き下ろした「作品から見る私の少年・青年時代」を加えたい色小説集。  ――文庫裏表紙より


最初の「三億の郷愁」とそのあとに続く作品とは一見何のつながりもないようだが、≪昭和40年代≫というその時代を過ごしてきた人々にとってはえも言われぬ懐かしさを憶える 時代が動くときの空気感が共通している。
三億円事件を題材にした小説は数多くあるが、これほどありそうもなく しかし、これならば、と思わせる話もないかもしれない とふと思う。
そして「灰色のノート」では、フィクションであると断りながらも、著者の若かりしころのあれこれが かの時代を背景にしてほのみえて興味深かった。

解決まではあと6人*岡嶋二人

  • 2006/09/01(金) 17:19:11

☆☆☆・・

解決まではあと6人―5W1H殺人事件 解決まではあと6人―5W1H殺人事件
岡嶋 二人 (1994/07)
講談社

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次々と興信所を訪れては、およそ事件とは思われない奇妙な依頼をしていく謎の女・平林貴子。いったい、彼女の本当の目的は何なのか? やがて、それぞれの調査報告が、ひとつの輪のように繋がって隠された大事件の全容が明らかになっていく。斬新なスタイルで、読者に挑戦する華麗なるメドレー・ミステリー。  ――文庫裏表紙より


サブタイトルは5W1H殺人事件。
WHO?――カメラの持ち主を探してほしい。
WHERE?――Vではじまる単語二つが書かれた緑色のマッチの喫茶店を探してほしい。
WHY?――車の後部シートがはずされた理由を調べてほしい。
HOW?――テープに録音された雑音としか思えない音の中に隠されたものを解読してほしい。
WHEN?――宇野茂男を岡本の空き地へ呼び出して「吉池礼司はいつ戻るのか」と訊いてほしい。
WHAT?――謎解き。

平林貴子と名乗る謎の女の依頼にまず興味を惹かれる。一見大したことのない事柄のようなこともあるのに、連絡先も依頼の理由も何も明かさないのである。彼女は最終的に何を知りたいのだろう、と勘繰りたくなるのである。しかも、何軒もの興信所にばらばらに違う依頼をするわけも不明なまま物語は進むのである。一軒の興信所が調べ上げた事柄だけでは事件の真相に近づくことはできず、ばらばらに暴かれた真実を繋ぎ合せる手や目や頭がなければ 何も形にならないのである。それは刑事の役目である。だが・・・・・。
思ってもいなかった結末に、気が滅入る。