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月と菓子パン*石田千
- 2007/02/28(水) 17:13:13
☆☆☆☆・ 気がつけば30代の半ば、東京での一人暮らし。通勤の途中で出会う、町に生きる人、季節にやってくる渡り鳥、四季をめぐって咲き競う花。誰もが見ているはずの日常の、ほんのひとときを綴る、新東京点描エッセイ。 月と菓子パン
石田 千 (2004/04/24)
晶文社
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角田光代さんの『酔って言いたい夜もある』で対談されていたので興味を持って借りた一冊。
なにげない日常のひとコマを さりげないまなざしで切り取ったエッセイのひとつひとつと、山本容子さんの表紙絵が寄り添うようによく似合っている。
忙しい日々を過ごし、つい早足で急ぎたくなる 自分が住む町の小路のそこここに、流さない視線をしばし遊ばせて作者が目にしたあれこれがやさしい。
たまにしか食べられない上等なものではなく、いつでもそこにある黄色いクリームの菓子パンのような、どこか懐かしく しっくり身に馴染むエッセイである。
ゆれる*西川美和
- 2007/02/27(火) 17:19:20
☆☆☆・・ 東京でカメラマンとして活躍する弟。実家に残り、家業と父親の世話に明け暮れる兄。対照的な兄弟、だが二人は互いを尊敬していた、あの事件が起こるまでは…。 ゆれる
西川 美和 (2006/06)
ポプラ社
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監督デビュー作『蛇イチゴ』で映画賞を総ナメにした俊英・西川美和が4年ぶりに挑んだ完全オリジナル作品を、自らが小説化。
ひとつの章が ひとりの人物の「かたり」という形式で、数人の関係者の視点から描かれている。
智恵子が釣り橋から転落死したことが事件としてあるのだが、事件そのものを描いた物語ではなく、ごく近い血縁関係のありようが描かれた物語である。
父と息子、兄と弟、という近すぎる関係性のなかで少しずつ育っていたひずみが、あるきっかけを捉えて発露する。そののちの物語でもある。
人間関係の揺れ、歪な心の揺れ、自分という者の存在意義の揺れ、さまざまな揺れが釣り橋の揺れの危うさに見事に象徴され、そこで終わりとも始まりとも言える事件が起こったことが、ますます象徴めいている。
ぼくのメジャースプーン*辻村深月
- 2007/02/26(月) 09:15:56
☆☆☆☆・ 「ぼく」は小学四年生。不思議な力を持っている。忌まわしいあの事件が起きたのは、今から三ヵ月前。「ぼく」の小学校で飼っていたうさぎが、何者かによって殺された……。大好きだったうさぎたちの無残な死体を目撃してしまった「ぼく」の幼なじみ・ふみちゃんは、ショックのあまりに全ての感情を封じ込めたまま、今もなお登校拒否を続けている。笑わないあの子を助け出したい「ぼく」は、自分と同じ力を持つ「先生」のもとへと通い、うさぎ殺しの犯人に与える罰の重さを計り始める。「ぼく」が最後に選んだ答え、そして正義の行方とは!? ぼくのメジャースプーン
辻村 深月 (2006/04/07)
講談社
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エピローグを除き、一貫して小学四年生の「ぼく」の視点で描かれた物語。小学二年生は二年生なりの 四年生は四年生なりの 損得勘定や人間関係の歪み、小動物に向かう悪意、ネット上に流れる心ない情報、PTSD・・・と、心が重くなるような要素が詰め込まれているのだが、「ぼく」は、それに対していま自分にできる限りのことを考え、傷ついた幼馴染のふみちゃんを救おうとする。
教室では目立つ存在ではない「ぼく」はしかし、自分の頭できちんと物事を考えられる少年であるのが好ましく、また 彼を導く秋山先生も、彼を子ども扱いせずにきちんと向かい合える大人であるのに好感がもてる。
罪と罰、人が人を裁くということ、人が人を思いやるということを、「ぼく」と秋山先生とのやり取りを通じて考えさせられる一冊だった。
ねむい幸福*有吉玉青
- 2007/02/24(土) 19:34:36
☆☆☆・・ 突然、妻が家出した。行き先も家出の理由もわからない。ただ毎日、電話だけはかけてくる。話すのはたわいもないことばかり。彼女が何を考えているのか、そして何を求めているのか、わからないことだらけだ。いや、もしかすると自分は、妻の何もわかっていなかったのではないか…。 ねむい幸福
有吉 玉青 (2000/06)
幻冬舎
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求めれば求めるほどすれ違う男女の心の孤独を描いた傑作長編小説。
絵に描いたような幸福の中にあるかのように見えた淳夫と君香だったが、ある日些細な諍いをきっかけに君香が家を出た。
男と女の物事の捉え方の違いをまざまざと見せつけられるようなあれこれが、次から次へと描かれる。すれ違っているというほど明らかな差異ではないのだが、なにかどこかが噛み合わない。そのことはなんとなく判るのだが、軌道修正しようとするとなお離れていき、相手のことがどんどん解らなくなるだけでなく、自分のあり方にまで自信が持てなくなってくる。
そんな夫婦に、家具付き 庭付きのモデルルームをそのまま買い取った住まいが象徴的である。
幻の少女*安東能明
- 2007/02/23(金) 07:11:58
☆☆☆☆・ 社長が心中事件を起こした日、突然記憶喪失になった営業部部長。彼は次期社長の一番手と目されていた。限界状況に置かれた人間を新進気鋭の作家が鋭く抉る。記憶が溶けていく恐怖をリアルに描いた問題作。 幻の少女
安東 能明 (2003/08)
双葉社
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冒頭からショッキングな場面。燃え上がる車の中にいるのは誰なのか?少女を助け出したのは誰なのか?そして銀のライターは?
火傷を負い、5月15日早朝、記憶を失くして家の前に座り込んでいた松永秀夫。冒頭で少女を助け出したのは彼なのか?車に火をつけたのも彼なのか?
松永自身の記憶が消失しているので、真実がわからないもどかしさの中物語は進む。そして、もうひとつのもどかしさは、虚血性の痴呆と診断された松永の症状ゆえの掴みどころのなさ、心許なさである。真相に迫りそうでいて、あっという間に逆戻りして白紙に戻ってしまうようなことが繰り返され、読者のもどかしさは募り、先を急ぎたくなる。
そして真相は・・・・・。
冒頭のシーンではサスペンスにも思われる物語が一転ミステリになる。途中から想像はできたが、それでも凍りつくような想いがした。
ダナエ*藤原伊織
- 2007/02/21(水) 19:34:10
☆☆☆・・ 個展に出品された肖像画に何者かがナイフを突き立て、硫酸をかけた。 ダナエ
藤原 伊織 (2007/01)
文藝春秋
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その事実を知った画家がとった行動とは?(『ダナエ』)
男たちと、女たちの痛切な悲哀を描いた、心揺さぶられる待望の最新作品集!
表題作のほか、「まぼろしの虹」「水母」
ギリシャ神話のダナエになぞらえた復讐劇なのか。切り裂かれ硫酸をかけられた肖像画の作者・宇佐美がたどりついた真相は・・・・・。
男たちと 女たちの、と帯にはあるが、親と子の捩れた絆、というか抗えない運命の物語であるようにも思える。
表題作以外の二作品の底にも親子の捩れた関係性が窺える。
10センチの空*浅倉三文
- 2007/02/21(水) 09:27:49
☆☆☆☆・ 大人になる。そうなのだ。空を飛ぶ仲間の合言葉。空を飛ぶための呪文。「大人になっても僕は空を飛ぶことを忘れません。そして大人になっても僕は空を飛ぶ仲間のことを忘れません…。」 ほろ苦くも切ない青春ファンタジー。 10センチの空
浅暮 三文 (2003/12/17)
徳間書店
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大学四年生の川原敏也は、卒業後何をしたいのか判らず就職活動にも身が入らない夏をすごしていた。そして、頭の上に何か重いものが乗っていて浮き上がれずにいるというもどかしい夢を再三みるようになっていた。
そんなとき、夏野めぐみがパーソナリティを務めるラジオ番組を聴いているときに突然過去にタイムスリップしてしまう。
空を飛びたいと心底願う仲間に自分の飛ぶ力を半分 分け与えられるのだという。敏也も幼い日に出会った少年からその力をもらい、10センチだけ空を飛べるようになったのだった。
新しい世界に飛び出していこうとするときに、心に重く凝った過去の悔い。夢は、なんとかして重荷から抜け出して前へ進もうとする敏也のもがき故だったのだろう。
大人になるために、子どもの心で約束を果たそうとする敏也の想いが温かな涙を誘う一冊。読み終えて、ほんの少し軽くなった心地がする。
ジェシカが駆け抜けた七年間について*歌野晶午
- 2007/02/20(火) 17:21:12
☆☆☆・・ カントクに選手生命を台無しにされたと、失意のうちに自殺したアユミ。ジェシカは自分のことのように胸を痛め、カントクを憎んだ。―それから七年、ジェシカは導かれるように、そこへやって来た。目の前には背中を向けてカントクが立っている。ジェシカは側にあった砲丸に手を添える。目を閉じるとアユミの面影が浮かび上がる―。死んだ彼女のためにしてやれることといえば、もうこれしかないのだ。 ジェシカが駆け抜けた七年間について
歌野 晶午 (2004/02/06)
原書房
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著者お得意の手法、と言っていいだろう。『葉桜の季節に君を想うということ』と着想は似ていなくもない。
なので、『葉桜――』を読んでいる読者には、エチオピア暦を日常の暦として使っているジェシカが主人公になっている時点で、ある程度先が読めてしまうのが残念と言えば残念かもしれない。
だが、歌野さんのこの一筋縄ではいかなさは やはりいい。
二枚舌は極楽へ行く*蒼井上鷹
- 2007/02/19(月) 17:13:46
☆☆☆☆・ 「オレの愛する妻を殺した犯人がここにいる。犯人には密かに毒を盛った。自白すれば解毒剤をやる」「え、え、まさかオレを疑ってないよね…え、苦しい、ウソ、まじ!?」袋小路に入った主人公と、思わず一緒になって手に汗にぎる「野菜ジュースにソースを二滴」ほか、短編掌編合わせて12編の傑作コージーミステリー。「情けない男の滑稽さを書かせたらピカイチ」と、デビュー単行本が各紙誌で取り上げられ、ノリにノッている著者が贈ります。話題になった、あの各編ごとの「参考文献」も健在。また、それぞれの作品間にビミョーな繋がりを仕掛けてあります。そちらも併せてお見破りを。 二枚舌は極楽へ行く
蒼井 上鷹 (2006/10)
双葉社
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上記内容紹介にもあるように、各編にほんの少しのリンクがちりばめられており、これが最後にどういう風にかまとまるのだろうと思っていたら、別にどうにもまとまらず、だが それでもなんとなく実生活上の偶然のリンクのように愉しめた(偶然というには故意に過ぎるが)。
各作品の最後に上げられている参考文献も――わたしの無知故だろうが――これのどこを参考に?と思うようなものばかりなのだが、この繋がり具合をしっかり把握できている人はいるのだろうか。
物語自体は、掌編も短編もピリッとブラックなスパイスが効いていて、ただでは終わらせないぞ、という著者の企み心が見えるようで好感。
少しずつ、著者と波長があってきたかも。
酔って言いたい夜もある*角田光代
- 2007/02/19(月) 06:52:34
☆☆☆・・ 富士の樹海だってバナナがなっていれば生き延びていける。魚喃キリコ、栗田有起、石田千、長島有里枝と飲んで語った対談集。角田光代のランチ写真日記、女同士で行きたい居酒屋情報も収録。 酔って言いたい夜もある
角田 光代 (2005/08/23)
太田出版
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人見知りで話すのが苦手だから作家になったのに、なってみたら小説を書く仕事には「話す」ことが意外と多く含まれていた、と角田さん。
対談も苦手分野だが、お酒の力を借りればいくらかはスムーズになる、ということで、アルコールありのランチをしながらの対談である。
なるべく仕事のことは抜きで普通の話をしたい、という目論見で始まった対談。恋愛の話、夢の話、結婚の話、お酒の話、と大いに盛り上がっている様子が伝わってくる。
今回は、同年代の女性4人だったが、中央線沿線つながりで 川上弘美さんとも対談していただきたかったなぁ。
月光ゲーム*有栖川有栖
- 2007/02/18(日) 13:55:06
☆☆☆・・ 月光ゲーム―Yの悲劇’88
有栖川 有栖 (1989/01)
東京創元社
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学生アリス/江神二郎シリーズ第一弾。
バイトで資金を作り、夏休みを利用してキャンプをしようと英都大学ミステリ研の仲間たちと登った山が、突然噴火し、下山路を断たれたところに更に殺人事件が起こる。
そこには、同じ場所でキャンプしていて仲間になっていた学生たちしかいない。いったいこのなかの誰が犯人なのか。
噴火の恐怖と、得体の知れぬ殺人犯とともに過ごす疑心暗鬼とで彼らは疲れはピークに達する。
いわゆる密室殺人事件である。火山の突然の噴火という自然の驚異が緊張感をいや増し、満月に近い月夜がミステリアスな雰囲気をより高めてる。
江神さんの飄々とした雰囲気はこんな場合にあっても崩れず、最後に謎解きをして見せるときでさえも乱れることがない。
殺人事件そのものは、あの状況でなければ起こらなかったかもしれないものであり、真犯人の遇し方もあれしかなかったのだろう。若さゆえの哀しい事件でもあった。
幸せまでもう一歩*岸本葉子
- 2007/02/15(木) 20:34:03
☆☆☆・・ 禍を転じて福となす? 「おうち」も「そと」も危険がいっぱい。自分の身は自分で守りたいもの。どんな災難も、幸福にかえてみせましょう。『パーソン』『読売新聞』等の雑誌、新聞に掲載されたものを単行本化。 幸せまでもう一歩
岸本 葉子 (2003/03)
中央公論新社
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エッセイ。
「中途半端なお年頃・・・?」と自らのことをおっしゃる岸本葉子さんの日々のあれこれが綴られている。興味のあること、こだわっていること、いまになって知ったこと、これからのこと。
立場は違えど、うんうん、とうなずかされることがたくさんあり、興味深い一冊だった。
九杯目には早すぎる*蒼井上鷹
- 2007/02/14(水) 18:33:54
☆☆☆・・ 休日に上司と遭遇、無理やりに酒を付き合わされていたら、上司にも自分にもまるで予期せぬ事態が―第26回小説推理新人賞受賞作『キリング・タイム』を始め、第58回日本推理作家協会賞・短編部門の候補作に選ばれた『大松鮨の奇妙な客』など、ユーモラスな空気の中でミステリーの醍醐味を味わえる作品の数々。小気味のよい短編集をご堪能あれ。 九杯目には早すぎる
蒼井 上鷹 (2005/11)
双葉社
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上記に紹介されているほか、「においます?」「私はこうしてデビューした」「清潔で明るい食卓」「タン・バタン!」「最後のメッセージ」「見えない線」
ミステリらしく人は死ぬのだが、殺人事件をシリアスにせず、ユーモラスとも言える味付けで見せてくれる物語たちである。とはいえ、根幹はしっかりミステリであり、トリックに唸らせられるものもある。
つい気になって手にしてしまう作家なのだが、なんとなく相性はイマイチ。わたしにとっては読後感がもうひとつすっきりしない感じなのである。
配達あかずきん*大崎梢
- 2007/02/14(水) 07:12:15
☆☆☆☆・ 「いいよんさんわん」―近所に住む老人に頼まれたという謎の探求書リスト。 配達あかずきん
大崎 梢 (2006/05/20)
東京創元社
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コミック『あさきゆめみし』を購入後、失踪した母の行方を探しに来た女性。
配達したばかりの雑誌に挟まれていた盗撮写真…。
駅ビル内の書店・成風堂を舞台に、しっかり者の書店員・杏子と、勘の良いアルバイト店員・多絵のコンビが、さまざまな謎に取り組んでいく。初の本格書店ミステリ、第一弾。
図書館に予約を入れて約半年、やっと順番が回ってきました。長かった__。
成風堂書店シリーズ第一弾。
巻末に収録されている書店員さんたちの対談を読んでも判るが、書店の仕事がかなりリアルに描かれているようである。客としてしか書店を知らない者には想像を超えるご苦労もたくさんあるようだ。そして、この物語は、そんな苦労の重さもさりげなく知らしめつつ、あくまでも軽やかに語られている。
本大好き書店員の杏子とある点を除いてたいそう優秀な大学生アルバイトの多絵は、一作目からしてすでに名コンビぶりを見せてくれている。そして、この二人だけでなく、登場人物がみな親しみやすく愛すべき人物たちで、知っている誰彼に当てはめてみたくなるようなのである。
タイトルにもなっている「配達あかずきん」のヒロちゃんの愛すべき思い入れの深さとか、出版社の営業・島村さんの本とその読み手への愛など。きゅんとしてしまうのである。
この本のページを繰るとき、いつでもどこでも しあわせな時間を過ごせること請け合いである。
本格ミステリ06*本格ミステリ作家クラブ・編
- 2007/02/13(火) 13:57:40
☆☆☆・・ 本格ミステリ作家クラブがおくる、本格短編ベスト・セレクション。本格の「今」が分かる、2005年の選りすぐりの本格ミステリ短編13本と評論1本を収録する。 序 本格ミステリ〈06〉2006年本格短編ベスト・セレクション
本格ミステリ作家クラブ (2006/05/10)
講談社
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本格ミステリ作家クラブ会長 北村薫
小説
『霧が峰涼の逆襲』 東川篤哉
『コインロッカーから始まる物語』 黒田研二
『杉玉のゆらゆら』 霞流一
『太陽殿のイシス(ゴーレムの檻 現代版)』 柄刀一
『この世でいちばん珍しい水死人』 佳多山大地
『流れ星のつくり方』 道尾秀介
『黄鶏帖の名跡』 森福都
『J・サーバーを読んでいた男』 浅暮三文
『砕けちる褐色』 田中啓文
『陰樹の森で』 石持浅海
『刀盗人』 岩井三四二
『最後のメッセージ』 蒼井上鷹
『シェイク・ハーフ』 米沢穂信
評論
『「攻殻機動隊」とエラリイ・クイーン』 小森健太郎
連作の一部やシリーズ物の一部を成すものが多く取り上げられている一冊だった。
一作ずつ振り返ってみると、どの物語も完成度が高いのだが、全体を考えたときにいささか物足りない気分になるのは、そのせいかもしれない。
シリーズのほかの作品を読んでいれば、別の愉しみも味わえたかもしれない。
出られない五人*蒼井上鷹
- 2007/02/11(日) 16:32:52
☆☆☆・・ 地下の密室にワケあり5人 出られない五人―酩酊作家R・Hを巡るミステリー
蒼井 上鷹 (2006/09)
祥伝社
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死体、闖入者(ちんにゅうしゃ)、そして謎のガシャポン…。
やっぱり警察呼ぼうぜ
厭(イヤ)です
『小説推理新人賞』受賞の新鋭が贈る、新感覚ミステリー
東京郊外のビル地下にあるバー〈ざばずば(the bar's bar)〉に集う男女5人。脳溢血(のういっけつ)で急逝(きゅうせい)した愛すべき酔いどれ作家・アール柱野を偲び、彼の馴染(なじ)みの店で一晩語り明かそうという趣旨(しゅし)の会合だった。だが、突如(とつじょ)身元不明の死体が目の前に転がり出たところから、5人に疑心暗鬼(ぎしんあんき)が生じる。殺人犯がこの中にいる!? 翌朝まで鍵をかけられ外に出られぬ密室の中、緊張感は高まっていく。しかし5人には、それぞれ、出るに出られぬ「理由」があったのだ……。ミステリ界期待の大型新人が放つ傑作長編!
[著者のことば]
登場人物たちの秘密と誤解、それにちょっとした偶然が重なって、事件はとんでもない方向へ転がっていきます。
その夜、酒場〈ざばずば〉で何があったかのか。すべてを知るのは、読者(あなた)だけです。
設定は面白い。だが、設定の面白さに、それぞれの細かい事情が着いて行ききれなかった感がある。
閉じ込められた五人それぞれの事情が傍から見るとまるで切羽詰っていなくて苦笑を誘うところはいいのだが、詰め切れていないように思えて、少し残念な気がする。
安達ヶ原の鬼密室*歌野晶午
- 2007/02/10(土) 17:05:56
☆☆☆・・ 太平洋戦争中、疎開先で家出した梶原兵吾少年は疲れ果て倒れたところをある屋敷に運び込まれる。その夜、少年は窓から忍び入る“鬼”に遭遇してしまう。翌日から、虎の像の口にくわえられた死体をはじめ、屋敷内には七人もの死体が残された。五十年の時を経て、「直観」探偵・八神一彦が真相を解明する。 安達ヶ原の鬼密室
歌野 晶午 (2003/03)
講談社
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『こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん』
『The Ripper with Edouard――メキシコ湾岸の切り裂き魔』
という何の関係もないような話に前後を囲まれて、『安達ヶ原の鬼密室』はある。
前半部分を読んだだけでは、何のためにここにこの二話が置かれているのかさっぱり判らず、単に短編集なのかと思わされる。だが、最後まで読むとそうではなかったことが判るのである。
主幹部分の『安達ヶ原の鬼密室』は終戦直前に起きた奇怪な大量死事件の謎を、五十年後にひょんなことから解き明かすことになるのだが、探偵・八神一彦の事件に臨む姿勢が一風変わっている。推理が嫌いで、まず想像によってストーリーを作り上げ、あとから理由をつけようというのである。だが、半世紀も前の 記録も関係者の記憶もおぼろげな事件の謎に鮮やかなストーリーを与えた手腕はまったくもって見事としか言いようがない。
日暮らし 上下*宮部みゆき
- 2007/02/09(金) 12:47:12
☆☆☆☆・ 待望の最新時代小説、たっぷり上下巻で登場。 日暮らし 上
宮部 みゆき (2004/12/22)
講談社
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宮部 みゆき (2004/12/22)
講談社
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多くの者の運命を大きく変えた女・葵が殺された。
殺したのはーー本当にあいつなのか?
ぼんくら同心・平四郎、超美形少年・弓之助が、
ついに湊屋の真実に迫る!(上)
進化する宮部みゆきが描く、感動の結末!
すべてを闇に葬り去られるのか。
「湊屋の人々の数奇な運命と、人間の業の深さを前に、
懊悩しつつも謎に迫る平四郎と弓之助。
本当に真実のこと」がついに現れる!(下)
いつも暇そうな同心・平四郎の暢気ながら人の情けの機微をわきまえた心の配り様と、その甥で人形のような美形の弓之助の十三歳とは思えない聡さと気配り、そして弓之助の友だちでもあり 岡っ引き・政五郎の息子のおでこ(三太郎)の賢さが、江戸の人々の謎と心の闇を解きほぐす。
湊屋のお家騒動に絡んであちこちに飛び散り広がった人間模様や暗い謎、殺人事件の真犯人探しなどの過程はもちろん愉しめるのだが、それ以上に、江戸の風物や、人々の暮らし、人と人との人情味あふれる関わりなどが興味深い。
あまりに美しい弓之助とおでこのこれからの活躍もまだまだ見つづけたい。
あとを惹く物語である。
5年目の魔女*乃南アサ
- 2007/02/07(水) 17:29:42
☆☆☆・・ 先輩の夫である上司の新田と親友の貴世美が不倫。景子はそれを知らされた瞬間、奇妙な不安を覚えた。親友ながら貴世美には得体の知れない“恐さ”があったのだ。案の定、他ならぬ新田は離婚後、悲惨な事故で亡くなってしまい、景子も会社をやめざるを得なくなる。それから5年、景子は着実に自分の道を歩きながらも、未だに貴世美の記憶に捉われている。ケジメをつける為に彼女は貴世美の消息を調べ始めるが、あるとき、どこからともなく、3回鳴って切れる無言電話がかかりはじめる。それで景子は1つの歌を思い出した…。 この季節、自分が暮らす部屋にどれくらいの陽が射し込むものか、町田景子は会社をやめてから初めて知った。 5年目の魔女
乃南 アサ (1992/03)
有楽出版社
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――書き出しの一文
仕事仲間でもあり、親友だとも思っていた貴世美から、先輩の夫であり上司である新田との関係を打ち明けられたときから運命は思っても見ない方向に動き始めた。
景子は、居心地の悪さに 半ば追い出されるようにして会社を辞め、新しい職について充実した日々を送っていたのだが、五年後にそれはやってきたのだった・・・・・。
「魔女」とはいったい誰のことだろう。前半は当然のように貴世美のこととして読んでいたのだが、ある時点から、起こったことの意味が それまでと様相を変える。ある意味、女性は誰もが魔女であるとも言えるのかもしれない。
物語は終わっても、彼女たちの闘いはまだまだこれからが本番なのかもしれないと思うと、背筋が寒くなる思いである。
白のミステリー*女性ミステリー作家傑作選
- 2007/02/06(火) 19:56:16
☆☆☆☆・ 小池真理子、山崎洋子、宮部みゆき、新津きよみ、乃南アサ、黒崎緑、今邑彩、関口芙沙恵、篠田節子、若竹七海、加納朋子、桐野夏生、近藤史恵、柴田よしき、永井するみ、15人の女性作家によるミステリー・アンソロジー。 『四度目の夏』 小池真理子 『わたしが会った殺人鬼』 山崎洋子 『弓子の後悔』 宮部みゆき 『傷自慢』 新津きよみ 『津軽に舞い翔んだ女』 乃南アサ 『海の誘い』 黒崎緑 『疵』 今邑彩 『殺意の花』 関口芙沙恵 『やどかり』 篠田節子 『暗闇の猫はみんな黒猫』 若竹七海 『フリージング・サマー』 加納朋子 『黒い犬』 桐野夏生 『過去の絵』 近藤史恵 『貴船菊の白』 柴田よしき 『プレゼント』 永井するみ 白のミステリー―女性ミステリー作家傑作選
山前 譲 (1997/12)
光文社
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どうしようもない田舎道だった。
心臓を患う継母と、息子夫婦の財産をめぐる闘いの物語。
自らの手を汚したくはないが 継母の死を強く願う夫婦が落ちた悪循環の落とし穴は、当人たちにとっては死活問題かもしれないが、苦笑を誘われる。そしてそれ以上のしたたかさで継母は・・・・・。
あ、ごめんなさい、お邪魔じゃなかったかしら。こんな夜遅くに。
一人暮らしの独身女性ばかりを連続して狙う殺人鬼が誰だか知っているという隣人の女性が部屋に相談にやってきて・・・・・。
じわりぞくりと恐怖がにじり寄ってくるような物語。
クラス会の通知は、大きな郵便受けの底に、二通のダイレクト・メールの下に半ば隠れるようにしてへばりついていた。
久々のクラス会で再会したかつての恋人は、人気シナリオライターになっており、しかも目立たなかったクラスメートと結婚していた。
身勝手な望は叶うべくもないという物語。
本宮結花から電話があったとき、本宮麻子は来年早々に出る本の仕上げにかかっていた。
亡き親の替わりに我子のように育ててきた甥の妻・結花に、甥の背中の傷のことを訊ねられて・・・・・。
縁を切ることはできても、血のつながりを断ち切ることはできない。哀しい母子の運命は安らぐことはない。
バスは、雪道を北へと向かっていた。
占い師に運命の出会いがあると言われて、津軽までやってきた文女が巻き込まれた事件の真相は・・・・・。
想像以上に言葉が通じない津軽で、不用意に返事を返してしまったばかりに巻き込まれた不思議な失踪事件。謎が解かれてみればやるせなささえ覚えてしまう。
沖縄の海で、ぼくは人魚に出会った。
半ば無理やりに友人の身代わりとして参加したダイビング・ツアー。インストラクターは人魚のように美しい人だった。
ぼくは、珊瑚に書かれた「ユミ」という落書きを見つける。海をこよなく愛するインストラクターのユミさんがそんなことをするとは信じられないのだが、彼女は謝るばかりである。
海の好きな彼女の選択は彼女のこれからの人生にどう影響するのだろうか。
札幌駅の南口を出ると、池上妙子は思わずオフホワイトのコートの襟を片手で掻き寄せた。
結婚を目前にした婚約者が札幌のホテルの一室で自殺した。遺された妙子のもとに、「彼は殺されたのだ」というはがきが届き、妙子は札幌へ行く。
犯人に行き着くか、と思ったと同時に、とんでもない事実に気づかされる。
玉井警部補は、捜査室の窓際に立って、暮れていく秩父盆地を眺めていた。
画家兄弟・英寿と真人と 朱子の物語。英寿崖から突き落とそうとした真人を止めようとして、思わず彼を突き落としてしまった朱子を取り調べた玉井の腑に落ちない思いが辿り着いた真実とは・・・・・。
情念の恐ろしさが燃えるような山躑躅に象徴される物語。
切れ長で重たそうな瞼をした少女の目には、年に似合わぬ哀愁があった。
教育センターで研修中の哲史は、万引きで連れてこられた中学生の少女の境遇を哀れに思い、何とかしてやりたいと思っただけだったのだが・・・・・。
確信犯なのか、それとも純粋なのか。抜け出そうともがくほどに取り込まれるあり地獄のような恐ろしさ。
二週間ぶりの快晴だった。
放送部員の僕らは、同級生の身に起こった事故に関する証言をビデオに録り集め、学校に送った。限りなく疑わしいゆかりをきちんと罰して欲しかったから。
疑わしいということと、罪を犯したということの距離を考えさせられる物語。
とろけそうに暑い夏。氷漬けにして、冷凍庫に入れた。
従姉妹の真弓ちゃんがニューヨークに行っている間、わたしは真弓ちゃんの部屋で留守番をしている。ある日そこに、いつか公園で会った「変な子」や手紙をつけた伝書鳩がやってきて・・・・・。
悲しさがあふれているが、愛にも満ちている 加納さんらしい物語。
有理と書いてユウリと読む。
母の結婚式に出席するためにベルリンから帰国したユウリは、閉じ込めていた過去の記憶を少しずつ思い出す。明らかになった事実は・・・・・。
父に選ばれなかった子どもとして、自分を卑下していたユウリだったが、思い出した記憶の断片をつなぎ合わせて現れたのは、まったく別の姿をしていた。
部屋で本を読んでいると、ユキちゃんが誘いにきた。
芸術大学の学生・牧が描いた絵は、叔父である画家の未発表の遺作と酷似していた。
恋と芸術性の狭間で揺れた心がとってしまった行動は、恋しい人の心をも凍りつかせてしまったのか。
紅葉のてんぷら、と書かれた紙の貼り紙に、私は思わず足を止めた。
警察を退職した私は、15年前に不倫相手の教え子を殺して自殺した男の妻に、彼の命日に亡くなった場所で出会った。
15年目の理由。それでも自由になれない、なりたくない本心を描いて見事である。
「すみません。遠倉さん」アルバイトスチュワーデスの道田が、カーテンの間から顔を覗かせた。
三十路を過ぎたスチュワーデスの遠倉麻子は、鬱屈した思いを 後輩の堀のクレジットカードを盗り、買い物をすることで発散しようとしたのだが・・・・・。
鬱屈した思いで眺めると、なにもかもが歪んで見えてしまうのか。哀しすぎる女の物語。
タイトルと著者のあとに、書き出しの文章を載せてみた。
読み応えありの一冊だった。
ゆめつげ*畠中恵
- 2007/02/05(月) 13:18:21
☆☆☆・・ 江戸は上野の端にある小さな神社の神官兄弟、弓月と信行。のんびり屋の兄としっかり者の弟という、世間ではよくある組み合わせの兄弟だが、兄・弓月には「夢告」の能力があった。 ゆめつげ
畠中 恵 (2004/10)
角川書店
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ただ、弓月の「夢告」は、いなくなった猫を探してほしいと頼まれれば、とっくに死んで骨になった猫を見つけるという具合で、まったく役に立たないしろもの。そんなある日、地震で迷子になった大店の一人息子の行方を占ってほしいとの依頼が舞い込んだ。
屋根の修繕費にでもなればと、目先の礼金に目がくらみ、弟をお供にしぶしぶ出かけてしまったのが運のつき、事態は思いもよらぬ方向に転がりに転がって…。
ちゃんと迷子の行方は知れるのか!?そして、果たして無事に帰れるのか!?
大江戸・不思議・騒動記。
小さくて貧しい 清鏡神社の兄弟神官・弓月と信行が、期せずして巻き込まれた子ども探し騒動。だが、巻き込んだ方は充分に意図的だったのである。江戸末期の不安定な世情故の生々しい物語。
・・・ではあるのだが、弓月のどこか茫洋としたキャラクターが、上手い具合に緊迫感をそいでいて、なかなかである。
当たらないとか、役に立たないとか、散々な言われようの弓月の「夢告」なのだが、それも弓月のやさしさ故であることにも惹かれる。いつまでもこのままでいて欲しいものである。
七つの黒い夢
- 2007/02/04(日) 14:01:37
☆☆☆・・ 天使のように美しい顔をした私の息子。幼稚園児の彼が無邪気に描く絵には、想像を絶するパワーがあった。そしてある日―。乙一の傑作「この子の絵は未完成」をはじめ、恩田陸、北村薫、岩井志麻子ら、新感覚小説の旗手七人によるアンソロジー。ささやかな違和感と奇妙な感触が積み重なり、遂に現実が崩壊する瞬間を描いたダーク・ファンタジー七篇。静かな恐怖を湛えたオリジナル文庫。 『この子の絵は未完成』 乙一 七つの黒い夢
桜坂 洋、岩井 志麻子 他 (2006/02)
新潮社
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『赤い毬』 恩田陸
『百物語』 北村薫
『天使のレシート』 誉田哲也
『桟敷がたり』 西澤保彦
『10月はSPAMで満ちている』 桜坂洋
『哭く姉と嘲う弟』 岩下志麻子
普通の人々が、普通だと思っている世界のほんのちょっとした隙間に入り込んでしまったような不思議な感覚の物語たちである。
見かけは黒くもなんともないのだが、夢から醒めて思い返してみると背筋がすぅっと寒くなるような。
川に死体のある風景*e-NOVELS編
- 2007/02/03(土) 16:51:07
☆☆☆・・ 六つの川面に浮かぶ死体、描かれる風景。実力派作家6名が「川と死体」を題材に競い合う!美しく、トリッキーなミステリ・アンソロジー。 『玉川上死』 歌野晶午 川に死体のある風景
綾辻 行人、有栖川 有栖 他 (2006/05/27)
東京創元社
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『水底の連鎖』 黒田研二
『捜索者』 大倉崇裕
『この世でいちばん珍しい水死人』 佳多山大地
『悪霊憑き』 綾辻行人
『桜川のオフィーリア』 有栖川有栖
六人六様、それぞれに違うテイストで愉しませてもらった。
歌野氏は最初からいきなり直球か!と思わせて、実は見事な変化球で決めて見せてくれた。
有栖川作品には、江神二郎も登場し、不謹慎かもしれないが、死体のある川の風景がなによりも美しかった。
元々が「ミステリーズ」に連載されたものなので、それぞれの作品のあとに作者あとがきがあり、綾辻氏の載らなかった物語にも興味をそそられる。
白の鳥と黒の鳥*いしいしんじ
- 2007/02/01(木) 20:06:37
☆☆☆・・ なつかしくて斬新で暖かい。極上の短篇小説集を読む喜び。 白の鳥と黒の鳥
いしい しんじ (2005/02)
角川書店
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物語の曲芸師いしいしんじが一篇一篇、魅惑的に語り進める、短篇小説の楽しさがぎゅっと詰まった珠玉の一冊です。
読後感を言葉にするのがむずかしい一冊である。ほのぼのとした物語かと思うと、いつのまにかどこかで分かれ道に迷い込んだかのようにシュールな結末に辿り着いていたりする。安閑としていてはいけないぞ、と警告されているようでもある。
まるで表紙の白黒の絵のような物語たちである。
白い鳥は白い背景では視えず、黒い鳥は黒い背景では視えない。そしてその逆ではくっきりと視え過ぎてしまうのである。ちょっと怖い。
みぃつけた*畠中恵・柴田ゆう
- 2007/02/01(木) 13:35:45
☆☆☆☆・ ひとりぼっちで寂しく寝込む幼い一太郎が見つけた「お友だち」は、古いお家に住み着いている小さな小さな小鬼たち。ちゃんと仲良くなれるかな? みぃつけた
畠中 恵 (2006/11/29)
新潮社
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「しゃばけ」シリーズから飛び出した、ビジュアル・ストーリーブック。
文・畠中恵 絵・柴田ゆう
もう文句なく可愛い!
『しゃばけ』シリーズの若だんな一太郎が5歳のときの物語である。
まだ兄やたちもいないころ、離れでひとり寝かされて退屈していたひ弱な一太郎のいちばんはじめのお友だちのお話。
お友だちとは、もちろん鳴家(やなり)たちのことである。
このころからすでに「いちばん」が大好きな鳴家なのだった。
ページを繰りながら、ついにこにこしてしまう。
推理小説*秦建日子
- 2007/02/01(木) 13:25:59
☆☆☆・・ 会社員、高校生、編集者…面識のない人々が相次いで惨殺された。事件をつなぐのは「アンフェアなのは、誰か」と書かれた本の栞のみ。そんな中、出版社に届けられた原稿には事件の詳細と殺人予告、そして「事件を防ぎたければ、この小説の続きを落札せよ」という要求が書かれていた…再注目作家、驚愕のデビュー作。 推理小説
秦 建日子 (2005/12/21)
河出書房新社
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ドラマ「アンフェア」の原作。といっても、ドラマは観ていないので比べようがないのだが。
一見何の脈絡も感じられない二件の殺人事件の現場に残された「アンフェアなのは、誰か」と書かれた手作りの本の栞。この栞の言葉が、この物語の中に誰かアンフェアな人物がいるはずだ、という先入観を生む。するとたちまち、登場人物の誰もが怪しく見えてくる。
作中作『推理小説』を書いているのはいったい誰なのか?
犯人を名乗る「T.H」とは?
読みなれたミステリとは一風変わった構成に、一瞬 着いていけないものを感じそうになるのだが、何なのかわからないが 不思議な魅力に引っ張られてぐんぐん読んでしまった。
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