笑酔亭梅寿謎解噺2-ハナシにならん!*田中啓文

  • 2007/04/29(日) 17:02:56

☆☆☆☆・

ハナシにならん!―笑酔亭梅寿謎解噺〈2〉 ハナシにならん!―笑酔亭梅寿謎解噺〈2〉
田中 啓文 (2006/08)
集英社

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上方落語をなめたらあかん! 舌好調第2弾!!
落語家笑酔亭梅寿に弟子入りした金髪トサカ頭の不良少年竜二。どつかれ、けなされ、江戸落語や漫才にこけにされ、時には事件に巻き込まれながら、成長していく。青春落語ミステリ、待望の第2弾。


「蛇含草」「天神山」「ちりとてちん」「道具屋」「猿後家」「抜け雀」「親子茶屋」という七つの噺に乗せたミステリ。
前作でどうにか名前をもらった竜二、笑酔亭梅駆(ばいく)という落語家としての日々のあれこれである。相変わらず梅寿師匠のはちゃめちゃ振りは健在だが、胸の奥の深い想いは滲み出てくる。
笑酔亭一門の危機に当たっても切り抜け方が並ではない。梅寿に寄せる竜二の、そして竜二を想う梅寿の愛ゆえだろう。
もっともっとその後が知りたい。

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わたしを離さないで*カズオ・イシグロ

  • 2007/04/27(金) 07:12:04

☆☆☆☆・

わたしを離さないで わたしを離さないで
カズオ イシグロ (2006/04/22)
早川書房

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自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの仲間も提供者だ。共に青春 の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。キャシーは病室のベッドに座り、あるいは病院へ車を走らせながら、施設での奇 妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして、キャシーと愛する人々 がたどった数奇で皮肉な運命に……。彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく――英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作『日の名残り』を凌駕する評されたイシグロ文学の最高到達点


現在31歳のキャシーの思い出語りの形で書かれた物語である。
少しも扇情的でなく淡々と描かれた どこにでもある学園生活のあれこれのなかから、僅かずつ常とは違う何かが立ち上ってきて身を震わせる。真実を追求したいような、それだけはしてはいけないような、もどかしさと恐れとの狭間で身動きが取れなくなるようである。
次第に明らかになってくる真実はやり切れなさを伴うものであり、あながち荒唐無稽とも言えないのが空恐ろしくさえ思われる。彼らの役割を思い、幼いころの無邪気な学園生活を思い起こすとき、やるせなさと哀しみと無力感に包まれるしかない。

バガージマヌパナス*池上永一

  • 2007/04/25(水) 07:06:40

☆☆☆・・

バガージマヌパナス バガージマヌパナス
池上 永一 (1994/12)
新潮社

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第6回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
なまけ者、でも誰よりも島を愛する元気な美少女綾乃が神様のお告げを受け、ユタになるまでをユーモアあふれる文章に描き、明朗闊達な快作と絶賛された、新しい沖縄物語。


タイトルはヤマトコトバにすれば「我が島の話」だろうか。
生まれつき霊感が強い綾乃はある日「ユタになれ」という神様のお告げを受ける。だが、怠け者の彼女は面倒なことは避け、のらりくらりと言い逃れていたのだった。そんな折、神様に導かれて亡くなった魂の行く末の一端を覗き見ることになった綾乃は、拝みの大切さに目覚め、自分の成すべきことを自覚し、ユタになる決意を固めるのだった。
19歳の綾乃のいちばんの友は 96歳のオージャーガンマー(大謝家の次女)。年齢を超えた少女たちのあたたかさに満ちた関係も微笑ましく切ない。
行きずりの観光客でも 楽園を求めた移住者でもなく、沖縄の島から一歩も外へ出たことのない島人の目で描かれた南の楽園のほんとうの姿なのかもしれない。

パズル崩壊*法月綸太郎

  • 2007/04/22(日) 20:40:03

☆☆☆・・

パズル崩壊―WHODUNIT SURVIVAL 1992‐95 パズル崩壊―WHODUNIT SURVIVAL 1992‐95
法月 綸太郎 (1996/06)
集英社

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探偵法月が登場しない初の短編集。単行本未収録作品のみによって構成された完全なフー・ダニット物(犯人当て)の物語群が、本格ミステリーの形式に亀裂を走らせる。「重ねて二つ」「トランスミッション」等8編収録。


犯人探し、という点においては早い時点から容易に推測できる話が多かったように思うが、その解き明かし方はさまざまで、それがタイトルに繋がったのだろうか、と思う。一見繋がりそうもない、遠く離れたピースが隣同士にぴたりと当てはまるときに感じる達成感のようなものを覚える作品でもある。

おやすみ、夢なき子*赤川次郎

  • 2007/04/21(土) 16:32:03

☆☆☆・・

おやすみ、夢なき子 おやすみ、夢なき子
赤川 次郎 (1999/10)
講談社

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少女は夢を見たことがなかった。
朋余(ともよ)から夢を奪った恐ろしいものは何?28年ぶりに発見された幼なじみの死体……。それは連続殺人事件の幕開けだった。

子供のころ夢を見た記憶がない主婦・田所朋余は28年ぶりに死体で発見された友人の秘密を調べ始める。次々と起こる殺人事件は失った“夢”の代償なのか……!?


なんと凄惨で痛ましい事件――そして事件にさえもされていない事――の数々なのだろう。そして、思わず目を覆いたくなるような、胸の深いところからため息をつきたくなるようなやるせなさなのだろう。それに立ち向かっていく女性たちのなんと強く前向きなことだろう。
赤川作品で扱われる題材は、けっして爽やかで明るいものばかりではなく、凄惨で酷すぎるものも多いのだが、なぜか読後感は重くない。登場する女性たちの多くが逆境にあって芯の強さを見せ 前向きに立ち向かう姿に読者の方が希望を与えられるからかもしれない。それに比べて男性人はいつもいささかだらしなく情けない。この物語でも「名士」と呼ばれるいい年の男たちのなんと身勝手で情けないことか。女性たちの姿がなおさら潔く見える。

殺してしまえば判らない*射逆裕二

  • 2007/04/20(金) 17:04:42

☆☆☆☆・

殺してしまえば判らない 殺してしまえば判らない
射逆 裕二 (2006/03)
角川書店

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首藤彪三十四歳、現在無職。妻の彩理は、東伊豆の自宅の書斎出入口で血まみれとなって死んでいた。確たる物証もないまま、妻は自殺として処理される。彪は失意のあまり東伊豆を離れるが、彩理の死の真相を究明するために再びそこで暮らす決意をする。だが、引っ越してきた直後、周囲で発生する陰惨な事件やトラブルに巻き込まれてしまう。その渦中で知り合いとなってしまった奇妙な女装マニアの中年男・狐久保朝志。外見に似合わず頭脳明晰、観察力抜群な彼の活躍で、彪の周囲で起こる事件は次々と解決していき、さらには妻の死の真相まで知ることとなるのだが…。予測不能な展開と軽妙な文体、そしてアクの強い探偵の鮮やかすぎる推理で、読者を超絶&挑発の迷宮へと誘う本格ミステリ。斯界を震撼させる女装探偵・狐久保朝志初登場。横溝正史ミステリ大賞作家が放つ超絶&挑発しまくりの本格迷宮推理。


ちょっぴりわざとらしい引っ掛け――というかその理由――がなくもなかったが、物語の展開が気になって途中でやめられない気分にさせてくれる一冊だった。
怪しい女装男で元検事の狐久保のキャラがおぞましくも場を和ませていて結構好きである。

はじめての文学:村上春樹*村上春樹

  • 2007/04/19(木) 17:16:04

☆☆☆・・

はじめての文学 村上春樹 はじめての文学 村上春樹
村上 春樹 (2006/12/06)
文藝春秋

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小説の面白さ、楽しさを味わうために、著者自身が用意したスペシャル・アンソロジー。はじめてのひとも、春樹ファンも欠かせない一冊。「シドニーのグリーン・ストリート」「かえるくん、東京を救う」など全17編を収録。


村上春樹に初めて接する若い人たちに向けて著者自身の手によって選ばれた短編・掌編の数々である。
「かえるくんのいる場所」と題されたいわゆるあとがきには、それぞれの作品が生まれた背景のようなものにも触れられていて興味深い。
わたしがいちばん好きだったのは「沈黙」という人間関係の不条理、いじめ、処世術といったキーワードで語られる物語だった。著者の言葉によると、ご自身の作品の中ではいささか特殊だという。ご自身の体験を下敷きにして生まれた物語なのだとか。沈黙の意味が重い。
バラエティに富んだ作品たちなので、まさに「はじめての村上春樹」にはうってつけではないだろうか。

本格推理9―死角を旅するものたち*編集長 鮎川哲也

  • 2007/04/19(木) 07:21:10

☆☆☆☆・

本格推理〈9〉死角を旅する者たち 本格推理〈9〉死角を旅する者たち
鮎川 哲也 (1996/12)
光文社

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本格推理界に挑戦する、新たな12人が集まった!彼らは独創的なトリックで、読者を迷宮へと誘いこむ。あなたは、巧妙に仕掛けられた事件の謎を解くことができるだろうか?鮎川編集長みずからが、数百編の応募作から選んだ秀作が、1ダース。さらに鮎川氏が本格推理を熱く語ったオリジナル対談も併録する。つまり、本書が面白くないわけがない。


  武井学 「ある山荘にて」
  吉田豊 「ある山荘にて」
  紫希岬真緒 「初雪の舞う頃」
  新麻聡 「十円銅貨」
  吉野桜子 「無欲な泥棒―関ミス連始末記」
  柄刀一 「白銀荘のグリフィン」
  上野晃裕 「女を探せ」
  山本甲士 「小指は語りき」
  八木健威 「森の記憶」
  増本宣久 「密室、ひとり言」
  雨宮蠍人 「それは海からやって来る」
  五月たぬき 「五行相克の殺人」


なかには、ほぼ読みはじめるとすぐにトリックが判ってしまう作品もあったが、大体において粒ぞろい、と言ってもいいだろうと思う。
特に吉野桜子さん――元々吉野さん(現:光原百合さん)を読みたくて借りたので身びいきはあると思うが――の作品のリズム感とテンポのよさは群を抜いているように思う。若々しい初々しさにもあふれていてとてもよかった。

5*佐藤正午

  • 2007/04/17(火) 13:44:11

☆☆☆☆・

5 5
佐藤 正午 (2007/01)
角川書店

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『ジャンプ』から七年。著者会心の最高傑作。
結婚八年目の記念日にもらったチケットでバリ島に訪れた中夫婦。倦怠期を迎えた二人だったが、ある出来事をきっかけに、愛の記憶を取り戻す事になるが・・・。


登場人物が好きか嫌いかで言うと、圧倒的に嫌いな人物が多かった。感情移入できる人物は皆無といってもいいほどである。にもかかわらず、作品自体にはどういうわけかいつのまにか惹き込まれている。不思議な感覚だった。
擦り切れそうな現実のなかに降って湧いたような石橋の不思議な力による変化。それによって、「愛」とか「記憶」だとかのことを否応なく考えさせられる。
読みながら、自分が憤っているのか傾倒しているのか、はたまた呑み込まれているのか よく判らなくなるような一冊だった。

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風精(ゼフィルス)の棲む場所*柴田よしき

  • 2007/04/15(日) 21:04:14

☆☆☆・・

風精(ゼフィルス)の棲む場所 風精(ゼフィルス)の棲む場所
柴田 よしき (2001/07)
原書房

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浅間寺竜之介はサスケとともに、京都北山をさらに分け入った“地図にない村”へやって来た。村で行なわれる奉納の舞をぜひ見て欲しいということだった。舞手はすべて若い女性で、祭りの前日に、近親を集めて最後の稽古舞が披露された。悲劇は舞の終幕とともに始まった。舞手のひとりが、衆人環視の下、しかもわずかな時間の隙に、刃物で胸を一突きにされて殺されたのだ。「どう考えても犯人がいないんです」竜之介はやがて、ある可能性に気付くが…。美しくも切ない痛み、「消えた乙女の伝説」、そしてゼフィルスの棲む場所とは…。狂おしいほどの哀惜を封じ込めた本格長編ミステリ。


ミステリ作家浅間寺竜之介は、ファンと名乗る十七歳の少女・西風美夢からファンレターならぬファンメールをもらい、その後ときどきメールでやり取りをするようになった。そしてあるとき、北山の山奥の村で行われる奉納の舞を踊るので見に来て欲しいというメールを受け取り、飼い犬のサスケとともに風神村へと赴いたのだが・・・・・。
時代の流れから取り残されたような山奥の村やそこに暮らす人々のたたずまいが、幻を見ているような雰囲気を醸しだす不思議なミステリ、と思って読んでいたのだが、ただのミステリでは終わらず、ラストで一転、ゼフィルスの舞の衣装のように 幻視を目の当たりにしたかのような不思議さで幕を閉じたのだった。

笑酔亭梅寿謎解噺*田中啓文

  • 2007/04/14(土) 22:11:36

☆☆☆☆・

笑酔亭梅寿謎解噺 笑酔亭梅寿謎解噺
田中 啓文 (2004/12)
集英社

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不良少年&老噺家、笑いと涙の落語ミステリー!
無理やり落語家に弟子入りさせられた、不良少年の竜二。師匠にどつかれ、兄弟子には嫌がらせを受ける毎日。逃げる機会をうかがっていた竜二だったが、そんな中、事件が…。本格落語ミステリー。


「たちきり線香」「らくだ」「時うどん」「平林」「住吉駕籠」「子は鎹」「千両みかん」という七つの連作短編集。

登場人物のキャラがどれも濃い。それなのに、相乗効果とでも言うのか 引き立てあって独特の世界を作っているから不思議である。
そして独特といえば、上方落語界という独特な場が舞台になっており、古き良き――良きというのは火の粉が降りかからないところにいるから言えることかもしれないが――芸人の世界とその生き様がイヤというほど展開されている。
短編それぞれのタイトルでも判るように、物語そのものが落語の外題であり、謎解きのヒントも噺のなかから拾うのである。各章の初めには――データを示すのが著者のお好みなのかどうかはわからないが――その章の噺に関する解説が置かれ、読み終えたときには読者もいっぱしの落語通になった心地である。
物語り全体がまさに人情噺といった感の一冊だった。

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図書館戦争*有川浩

  • 2007/04/13(金) 19:09:57

☆☆☆☆・

図書館戦争 図書館戦争
有川 浩 (2006/02)
メディアワークス

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───公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として『メディア良化法』が成立・施行された現代。
超法規的検閲に対抗するため、立てよ図書館!狩られる本を、明日を守れ!
敵は合法国家機関。
相手にとって不足なし。
正義の味方、図書館を駆ける!

笠原郁、熱血バカ。
堂上篤、怒れるチビ。
小牧幹久、笑う正論。
手塚光、頑な少年。
柴崎麻子、情報屋。
玄田竜介、喧嘩屋中年。

この六名が戦う『図書館戦争』、近日開戦!


図書館が舞台なのに「戦争」である。一体どういうこと?「戦争」は比喩?と思いながら読み始めたのだが、「戦争」はまさに人の命を奪うこともある「戦争」だった。
だが、本筋は戦争物語ではない(もちろん本を守るために「戦う」という意味では戦争物語だが)。輝ける青春物語、もっと言えば 不器用な恋の物語なのである。そしてコメディでもある。実写化したら面白そう。

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死神*清水義範

  • 2007/04/12(木) 18:17:59

☆☆☆・・

死神 死神
清水 義範 (1998/03)
ベネッセコーポレーション

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ご臨終からはじまるドラマ。国際的なスター、ベストセラー作家、天才漫才師と相次ぐ突然の死…。二流の役者夫婦が、偶然、臨終に立ち会ったことから向いてきた役者としての「運」。そこから見えてくる「死者を語る人」「死者に集る人」「死者が祟る人」。世紀末の日本人の死生観を凝縮した書き下ろし長篇小説。有名人の死・お葬式をめぐるブラック・ユーモア。


主人公は世間から忘れられようとしている俳優の斎藤昌平。妻で 同じような境遇の女優・御蔵寿々子と二人、病気で入院している先輩大物俳優の見舞いに――義理を果たすために――行ったところが、まさに臨終のときに立ち会うことになってしまったのだった。そしてそれから彼らに起こったことは・・・・・。

人が死ぬということ、そしてその人の死によってその後に起こる事ごとについて、生前それほど近しくもなかった俳優だの芸能レポーターだのを通して語られていて、そんなことまでも自分の利にしようとする人間のしたたかさ滑稽さに苦笑が浮かんだりもするのだが、死者を送るということに関して考えさせられもする一冊である。

蝉しぐれ*藤沢周平

  • 2007/04/12(木) 13:07:33

☆☆☆☆・

蝉しぐれ 蝉しぐれ
藤沢 周平 (1988/05)
文藝春秋

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清流とゆたかな木立にかこまれた城下組屋敷。普請組跡とり牧文四郎は剣の修業に余念ない。淡い恋、友情、そして非運と忍苦。苛烈な運命に翻弄されつつ成長してゆく少年藩士の姿を、精気溢れる文章で描きだす待望久しい長篇傑作!


主人公は牧文四郎、冒頭では15歳である。友情・淡い恋心・剣の修練・藩内の抗争・父との別れ、等々・・・。藩士としての生き様が淡々と綴られている。胸が焼け付くことも、煮えくり返ることも、凍りつくことも多々あったと思われるが、うろたえず たじろがずその時どきに精一杯冷静に対処する文四郎の姿に胸を打たれる。
時代が違うといってしまえばそれまでだが、最近読んだ『赤い指』の14歳の直巳とつい引き比べて嘆息してしまう。平均寿命が延び、「大人度は昔の七掛け」などと言われているが、文四郎だけでなく この物語に登場する若者たちの責任感と潔さを現代人も見習うべきではないかと思う。

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ぽっぺん*石田千

  • 2007/04/11(水) 13:48:10

☆☆☆☆・

ぽっぺん ぽっぺん
石田 千 (2007/01/30)
新潮社

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うれしかった言葉。その場しのぎについた嘘。こどものころ見えた光景。おとなになってわかった優しさ…。ひとつ読んで、ぽこん。ふたつ読んで、ぺこん。ちょっと古風で、あたらしい、不思議なエッセイ集。


紹介文の「ちょっと古風で、あたらしい」というのが、これほどお似合いのエッセイストさんもいないのでは・・・と思う。
背伸びせず、飾らず、身の丈で そしてご自身の目線で物事をとらえ、視線をめぐらせてゆく様がとても心地好い。気さくでありながら 必要以上にこちら側に踏み込んでこない。距離感をきちんとわきまえた方なのだろうというのが感じられるのも心地好さの一因かもしれない。
土鍋をもっともっと活用したくなった。

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みずうみ*いしいしんじ

  • 2007/04/09(月) 17:13:50

☆☆☆☆・

みずうみ みずうみ
いしい しんじ (2007/03/16)
河出書房新社

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ひとつだけ、教えてくれ。今日は、何月、何日だ――伸び縮みする時間の中で、みずうみは渦巻き、そして落ちていく。『ポーの話』から2年、待望にして著者最高の最新長篇小説!


著者が訪れた場所、著者の身に起こったことに触発されて生まれた物語だと どこかで読んだ憶えがある。初めて具体的な場所の名が書かれた作品でもある。しかしやはり、根底に流れるものは「いしいしんじ」の命なのである。
直前に読んだ『千年樹』荻原浩 著と底を流れるもののありようがあまりにも似ていて、まったく別の作品であるにもかかわらず 常に両方の物語の間をゆらゆらと揺れているような心地で読んだ。それぞれの著者にとっては不本意なことかもしれないが、奥深いところで両者が共鳴しているようで、それぞれの不思議体験が増幅されるようなますます不思議な心持ちである。
『みずうみ』のキーワードはもちろん「水」であり「布」であろう。そしてさらに言えば「時間」であり「場所」でもあるのだろう。そして「エントロピー」。繰り返される命、というものを強く思わされる一冊でもあった。

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千年樹*荻原浩

  • 2007/04/08(日) 14:08:38

☆☆☆☆・

千年樹 千年樹
荻原 浩 (2007/03)
集英社

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木はすべてを見ていた。
ある町に、千年の時を生き続ける一本のくすの巨樹があった。千年という長い時間を生き続ける一本の巨樹の生と、その脇で繰り返される人間達の生と死のドラマが、時代を超えて交錯する。


不思議な感覚に包まれる物語である。
主役は樹齢千年と言われる「くす」の巨樹。だがもちろん、主役の「くす」はただそこにあるだけであり、物語として描かれているのは その木の周りで 時代を超えて人を替えて行われる人々の営みなのである。いつの時代にも繰り返される愚かしさや身勝手さをくすの樹はすべて見せられ、時どきの人々の喜びや悲しみ、憂いや恨みを吸い取ってどんどん枝葉を繁らせているようにも思える。
長大なスパンの定点観測のようでもあり、人間の小ささを嗤う大きな何者かの目のようでもある。ふといま自分が立っている足元をみつめてしまうような一冊だった。

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赤い指*東野圭吾

  • 2007/04/06(金) 18:12:51

☆☆☆☆・

赤い指 赤い指
東野 圭吾 (2006/07/25)
講談社

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直木賞受賞後第一作。構想6年の後に書きあげられた書き下ろし長編小説、ついに登場!
身内の起こした殺人事件に直面した家族の、醜く、愚かな嘘に練馬署の名刑事、加賀恭一郎が立ち向かう。ひとつの事件を中心に描き出されるさまざまな親子像。東野圭吾にしか書き得ない、「家族」の物語。
『放課後』でのデビューから数えてちょうど60冊目にあたる記念碑的作品。

犯罪を越えたその先に、本当の闇がある。二日間の悪夢と、孤独な愛情の物語。


介護、嫁姑、いじめ、親子関係、家族のあり方、などなど・・・。実にさまざまな問題要素を含みつつも ひとつの犯罪を告発する物語になっていて見事である。
読みながら さまざまな視点から考えさせられ、読後も胸に残る複数の重さがある。誰もが通らなくてはならない、あるいは多くの人が体験せざるを得ないであろう事々に直面した当事者の心理の揺れや動きが 直に伝わってくるようで震えそうになるほどでもある。
いくつかの作品に登場してきた加賀恭一郎が、またもや見事に絡んでいるのも見所だろう。

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橋を渡るとき*光原百合

  • 2007/04/05(木) 13:21:50

☆☆☆☆・

橋を渡るとき 橋を渡るとき
光原 百合 (2007/02)
岩崎書店

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心優しく、どこまでもピュアなミステリー
劇団に所属する兄貴は、ハタ迷惑な情熱野郎だ。その兄貴が引きおこす、悲しくもせつない愛の告発を描いた「兄貴の純情」や、温かく穏やかなレンジャーの深森護が織りあげる“心優しい真実”を若杉翠の手だすけで解きあかす「時計を忘れて森へいこう」や、表題作の「橋を渡るとき」などを収録。


『十八の夏』のなかから「兄貴の純情」、『時計を忘れて森へいこう』のなかから「時計を忘れて森へいこう」、そしてアンソロジー『紅迷宮』に収録された「橋を渡るとき」が一冊にまとめられている。
どれもが、若く未熟ながらも思いやりあふれる主人公のやさしさが心地好い物語で、読んでいて躰の力がふっと抜けるようである。

中庭の出来事*恩田陸

  • 2007/04/02(月) 17:12:09

☆☆☆☆・

中庭の出来事 中庭の出来事
恩田 陸 (2006/11/29)
新潮社

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瀟洒なホテルの中庭。こぢんまりとしたパーティの席上で、気鋭の脚本家が不可解な死を遂げた。周りにいたのは、次の芝居のヒロイン候補たち。自殺? それとも他殺? 芝居とミステリが融合した、謎が謎を呼ぶ物語のロンド。


また恩田さんに惑わされてしまった、というのが素直な感想である。
実際のところ物語はいくつ入れ子になっていたのだろう。劇中劇を観ていると思っていると、ふとこれは現実では?と思わされたり、その逆もあったりで、自分の立ち位置が危うくなる心地を何度も味わわされ、何とかして真実を見抜こうと一枚一枚皮を剥いて核心に近づこうとすると、ぽんと外側に投げ出されるのである。
そして、今度こそ真実が目の前で明かされるのだと、観客のひとりになりきってわくわくしていると、あのラストである。
演ずるものの性とでもいうものをそのままそっくり見せられたような思いでもある。
たまたまエイプリルフールに読み始めたのだが、ぴったりだったとも言えるかもしれない。

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