ありふれた風景画*あさのあつこ

  • 2007/06/29(金) 18:30:01

☆☆☆☆・

ありふれた風景画 ありふれた風景画
あさの あつこ (2006/08)
文藝春秋

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十代って残酷な年代だ。出会いも別れも生々しく、儚い。ウリをやっていると噂される琉璃。美貌の持ち主で特異な能力をもつ周子。傷つき、もがきながら、生きる少女たちの一年間を描くみずみずしい青春小説。


高遠琉璃も綾目周子も多くの女子高校生とは少し違う。(どう違うかは読んでいただくとして)この年代にとってほかと異質であることは仲間と認められないということであり、琉璃も周子も生き難い日々を送っている。そんなときに二人は出会い、互いの中にまっすぐなものを見て惹かれていく。まるで磁石が引かれ合っているかのように、吸い寄せられるように。
言葉がなくても、そこに互いを感じられるだけで満ち足りるひととき。「綾目さんにだけは絶対に嘘をつかないと思います」という琉璃の想いがあまりにもまっすぐで泣ける。
そして、現実にはどうしても好きになれないカラスだが、タロウはカラス故にカッコよかった。

恍惚の人*有吉佐和子

  • 2007/06/29(金) 09:16:49

☆☆☆☆・

恍惚の人 恍惚の人
有吉 佐和子 (1986/08)
新潮社

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ヒトは20歳から老いはじめる。老いて病み、恍惚として人を識らず。『恍惚の人』が、純文学書下ろし特別作品として刊行されたのは、昭和47年である。発刊と同時に各界から大反響を呼び、本書の出現は、歴史的事件となった。


いまでこそ「認知症」として世間にもずいぶん認知されきており、介護者の言い尽くせぬ苦労に対する理解も進んできてはいるこの病であるが、昭和47年の本作出版当時 世間に与えた衝撃の大きさは想像に難くない。
だが、たとえ扱われ方が多少変わったとしても、根本的なところは何ひとつ解決されたわけではないことが気を重くさせる。人が人生の終幕に向かうとき、自分にとっても周りにとってもこれほど無残な時を通り過ぎなければならないとは一体どういう計らいなのだろう、と鬱々とした心地にもなる。
症状の出方も千差万別という認知症であるが、本作の茂造などはまだ序の口、というような体験談もあちこちで聞く。人生の最期くらい自分も周りも心穏やかに過ごすことができたら、と他人事ではなく切に思う。

金魚のうろこ*田辺聖子

  • 2007/06/27(水) 17:29:51

☆☆☆☆・

金魚のうろこ 金魚のうろこ
田辺 聖子 (1992/06)
集英社

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恋人・連美の新しいママに心ひかれるぼく。目からうろこが落ちるような体験をした…表題作。
現実的な年上の人。超ワガママな可愛い恋人…。
ぼくが積む、愛と人生のレッスン。7つの愛の短編集。


表題作のほか、「見さかいもなく」「魚座少年」「ぬるっ」「やさしくしないで」「カクテルのチェリーの味は」「愛のそば」

三十を少し過ぎた年頃でシングルの女性を主人公にした七つの物語である。
若い娘と違って、ある程度処世術も身につけ、自分というものの身の程を知った上で恋をする彼女たちは、マエムキでカッコよく そしてカナシイ。生きることの(男と女の)可笑しみをゆったりと味わうような粋が感じられる。

月光*誉田哲也

  • 2007/06/25(月) 12:52:43

☆☆☆☆・

月光 月光
誉田 哲也 (2006/11)
徳間書店

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夜の学園にピアノ・ソナタ第14番が流れたとき、罪は生まれた!
お姉ちゃんは殺された、同級生の男子に。偶然のバイク事故に見せかけて、殺されたんだ。美しくて、優しくて、心の真っ白な人だった。お姉ちゃんの死の真相は、あたしがはっきりさせる―。
姉の死の真相を知るため、同じ都立高校に進んだ結花。だがそこには、覗いてはならない姉のおぞましい秘密が-。学園の闇、罪と罰を描く書下ろし長篇。


ピアノ・ソナタ「月光」の静謐な調べにのせて読みすすむにはあまりにも醜く歪みひどくおぞましい一連の出来事である。
バイク事故――警察はそう判断した――で死んだ姉の死の真相を知りたいという妹・結花の一念がなければ、加害者――直接的にも間接的にも――たちですら自分がかかわった部分の断片しか知らず、本当に何が起こり、誰がどんな気持ちでいたのかさえ解き明かされることはなかったのだと思うと、捜査――特に少年犯罪の――の杜撰さと怖さとを思い知らされる。
結花は、ただ大好きな尊敬する姉の死の真相を知りたかっただけの妹は、この先決して忘れることのできない惨い真実を背負ってしまったが、負けずに自分の人生を生きて欲しいと願わずにはいられない。

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小川洋子対話集

  • 2007/06/22(金) 07:00:23

☆☆☆☆・

小川洋子対話集 小川洋子対話集
小川 洋子 (2007/01)
幻冬舎

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ひっそりと暮らす人びとへ――――。

田辺聖子*作家/日本 岸本佐知子*翻訳家/日本 リー・アン*作家/台湾 藤井省三*文学博士/日本 ジャクリーヌ・マールセン*作家/オランダ レベッカ・ブラウン*作家/アメリカ 柴田元幸*翻訳家/日本 佐野元春*音楽家/日本 江夏豊*野球家/日本 清水哲男*詩人/日本 五木寛之*作家/日本

心に残る言葉の詰まったとっておきの対話集。


さまざまな人びとと語ることによって、その人のこともわかるが、小川洋子さんご自身の人となりがとてもよくわかる対話集である。
そして、彼女の小説の成り立ちやそこにこめられたものがふわりと立ち上ってくるようでもある。言葉という道具を使い、小説という形を使って小川さんが目指すところに読者も少し近づけるような。彼女の作品に登場する動物の役割にもなるほどと思わされた。

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また会う日まで*柴崎友香

  • 2007/06/21(木) 19:18:40

☆☆☆☆・

また会う日まで また会う日まで
柴崎 友香 (2007/01)
河出書房新社

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好きなのに今は会えない人がいる……有麻は25歳OL。高校時代、修学旅行2日目の夜。同級生とのある記憶を確かめるため、約束もなしに上京。6日間の東京滞在で、有麻は会いたい人に会えるのか? とびきりの恋愛小説!


この内容紹介はちょっと違う気がするが、ゆるゆるだらだら(いい意味で)の柴崎節健在という感じで面白かった。
大阪の女の子の日常そのまんま、という柴崎作品だが、今回は少しばかり趣を変えて舞台は東京。
でも趣が違うのは実は登場する地名だけで、登場人物はほとんど大阪人であり、語られる言葉もほぼ大阪弁である。東京人としては、山手線からの眺めの描写とか、様々な箇所で東京の見え方を再認識させられもして、それがまた面白かった。
ただ単純に恋愛小説と括ってしまえないゆるゆるもやもやとしたなにか――進むべき道とか――を手探りする物語のようにも思える。
いつも携えているカメラを、撮りたいと思って向けるのだが そのときには何を撮りたかったのか見失ってしまう、という有麻の満たされない感じがすべてを表しているような気がする。

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まんまこと*畠中恵

  • 2007/06/20(水) 17:18:39

☆☆☆☆・

まんまこと まんまこと
畠中 恵 (2007/04/05)
文藝春秋

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「しゃばけ」シリーズがブレイク中の気鋭・畠中恵さんの新シリーズは『まんまこと』というタイトルです。意味は「真実。ほんとうのこと」。江戸は神田の古名主の玄関先に持ち込まれる騒動(いまでいう民事の範疇)を、やや頼りない跡とり息子・麻之助とふたりの悪友----男前でモテモテの清十郎、堅物の吉五郎が活躍し、絵解きします。この彼らがとても魅力的なのです。ついついお話の向こう側まで想像してしまうような強力なキャラクターたちです。女性陣も負けてはおりません。芯が強く、可憐な眦を決し、こうと決めたら動かない意気地のある女たちが生き生きと描かれています。
お腹の子の父は誰なのか? 万年青争いの真相は? ----切ない恋物語も織り交ぜられ、読者をつつみこむような畠中ワールドが存分に楽しめる一冊です。ふうわりと温かな読後感をぜひ味わってみてください。


表題作のほか、「柿の実を半分」「万年、青いやつ」「吾が子か、他の子か、誰の子か」「こけ未練」「静心なく」

新しいシリーズの主人公は、名主代理の麻之助をはじめ、しゃばけシリーズよりも少し年上の江戸の若者たちである。まだまだ遊んでいたいがそろそろ親の跡を継ぐことも考えなくてはならない年頃でもあり、お気楽な日々を送ってはいても、名主代理として納めるべきことはきちんと納めなければならない。そうやってであった――ときには自らが招きもするが――事件の顛末記である。
しかもただ事の顛末が語られているだけではなく、人情の機微も切ない胸の想いもミステリだってちゃんと盛り込まれているのだから、実に何通りにも愉しめるのである。

読みどころ満載のまんまことうぇぶも愉しい。

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玻璃(はり)の天*北村薫

  • 2007/06/19(火) 18:29:13

☆☆☆☆・

玻璃の天 玻璃の天
北村 薫 (2007/04)
文藝春秋

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ステンドグラスの天窓から墜落死した思想家。事故か、殺人か。英子の推理が辿りついた切ない真相とは-。昭和初期を舞台にした北村ワールド。表題作のほか「幻の橋」「想夫恋」を収録。


『街の灯』の続編。ベッキー(別宮)さんに再会できた。
時代は昭和初期。主人公は上流階級のお嬢様である花村英子。しかしほんとうの主役は花村家のお抱え運転手・ベッキーこと別宮みつ子だろう。
時代背景を巧みに生かし、現代が失ってしまった日本人のほんとうの意味での豊かさや奥ゆかしさを作品中に存分に満たして、趣きある一冊としても充分に愉しめる。そこに英子の周りに浮かび上がる日常の謎をベッキーさんが解き明かすというミステリ要素がプラスされるのだから堪えられない。
表題作はベッキーさんの胸の内を思うと切なくもあるが、それさえも凛として乗り越えてゆくベッキーさんなのだった。

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サイン会はいかが?*大崎梢

  • 2007/06/18(月) 17:36:11

☆☆☆☆・

サイン会はいかが?―成風堂書店事件メモ サイン会はいかが?―成風堂書店事件メモ
大崎 梢 (2007/04)
東京創元社

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同一書籍に四件の取り寄せ依頼。ところが連絡を入れると、四人が四人ともそんな注文はした覚えがないと・・・・・。(「取り寄せトラップ」)
「ファンの正体を見破れる店員のいる店でサイン会を開きたい」――若手ミステリ作家のちょっと変わった要望に、名乗りを上げた成風堂だが・・・・・。(「サイン会はいかが?」)
駅ビル内の書店・成風堂を舞台に、しっかりものの書店員・杏子と、勘の鋭いアルバイト・多絵のコンビが、書店に持ち込まれる様々な謎に取り組んでいく。
短編五本を収録した本格書店ミステリ、好評シリーズ第三弾!


上記に紹介したもののほか、「君と語る永遠」「バイト金森君の告白」「ヤギさんの忘れもの」

相変わらずに忙しそうな成風堂書店が舞台である。書店員さんたちの気苦労や心配り、体力勝負の職場風景を垣間見た心地であり、書店にいるときの自分がどんな客だっただろうか お仕事の妨げになっていなかっただろうか と思い返してみたりする。
杏子さんはいつもどおりにしっかりと仕事をこなし、多絵ちゃんはもうすっかり書店探偵として周りから期待され、しっかりそれに応えている。書店ならではの不可思議な謎が次々に目の前に現れるのだが、見事に答えを見つけ出し、事件解決のその後にまで思いをめぐらして解決するあたたかな心配りにとても好感が持てる。
じんとしたりほろりとさせられたり、先を知りたいが読み終えてしまいたくはない、いつまでも読みつづけたい一冊である。

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木製の王子*麻耶雄嵩

  • 2007/06/17(日) 16:40:57

☆☆☆☆・

木製の王子 木製の王子
麻耶 雄嵩 (2000/08)
講談社

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比叡山の山奥に隠棲する白樫家は、一点に収斂(しゅうれん)する家系図を持つ“閉じられた一族”。その奇矯な屋敷が雪で封印された夜、再び烏有(うゆう)は惨劇を見た。世界的な芸術家・宗尚(むねなお)の義理の娘、晃佳(あきか)の首がピアノの鍵盤の上に置かれていたのだ。関係者全員に当てはまる精緻なアリバイ。冷酷で壮絶な論理だけが真相を照らす!


名探偵・木更津も解にたどり着くことができないのでは・・・?と思わせられた物語だった。それは杞憂に終わったが、それでも流された血はかなりなものになってしまった。
作中何度も出てくるアリバイ崩しの思考過程はさながら時刻表トリックを解くかのように細かく、そのあまりの正確さゆえの不自然さをも白樫家が白樫家である所以として利用してしまう著者の着想には恐れ入る。
安城のこれからの人生が翳らないことを祈りたい。

鴉*麻耶雄嵩

  • 2007/06/14(木) 11:33:47

☆☆☆・・

鴉
麻耶 雄嵩 (1997/09)
幻冬舎

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瑠璃色の香気が立ち昇る、天才の所業。弟・襾鈴(アベル)の失踪と死の謎を追って、地図にない異郷の村に潜入した兄・珂允(カイン)。襲いかかる鴉の大群。四つの祭りと薪能の儀式。蔵の奥の人形。錬金術。嫉妬と憎悪と偽善。五行思想。足跡なき殺害現場。連続殺人。人殺しの手に現れるという奇妙な痣。盲点を衝く大トリック。村を支配する大鏡の正体。ふたたび襲う鴉。そして、メルカトル鮎。逆転と驚愕の大結末が待っている。


舞台は、地図にも載らず、現代から取り残されたようにひっそりと存在する村。そこは絶対神としての大鏡によって統べられている。しかし、単に長閑なだけではなかったのである。人の在るかぎりは・・・・・。
旧約聖書に由来すると思われる珂允(カイン)と襾鈴(アベル)の名に象徴される兄弟の確執が時代を超えて絡まりあっているのに気づいたとき、兄にとって謎は身の内にあったのだと思わされる。業の深い物語である。
メルカトルの現れ方がまた場にも物語にもまったく不似合いに見えるが、彼の出自はこんなところにあったのかと興味をそそられる。まったく不思議な存在である。

年に一度、の二人*永井するみ

  • 2007/06/12(火) 17:17:19

☆☆☆・・

年に一度、の二人 年に一度、の二人
永井 するみ (2007/03/07)
講談社

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来年の同じ日に、同じ場所で。男と女は再会の約束をした-。7年間、秘密の逢瀬を重ねる主婦の物語「シャドウ」、1年後の約束に思いを募らせるOLの姿を描く「コンスタレーション」など、全3編を収録。


上記のほか「グリーンダイアモンド」。連作短編集である。
それぞれの物語は、香港のハッピーバレー競馬場の同じ場所で10月の第三水曜日に会う、というキーワードでつながり、さらに最後の物語でそれぞれの登場人物たちにつながりができるという仕組みになっている。
いささかつながる必然性が弱いような気もするが、舞台になる「場」を思えばそれほど気にならないかもしれない。
どの物語のどの二人にも何の結論も出させずに物語りは終わっているのだが、ここで終わりではなく きっとこれからがあるのだろうと予感させるラストになっているので中途半端な感じはしない。

図書館危機*有川浩

  • 2007/06/11(月) 17:34:25

☆☆☆☆・

図書館危機 図書館危機
有川 浩 (2007/02)
メディアワークス

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王子様、ついに発覚! 山猿ヒロイン大混乱! 玄田のもとには揉め事相談、出るか伝家の宝刀・反則殺法! そして、山猿ヒロイン故郷へ帰る!? 終始喧嘩腰で「図書館戦争」シリーズ第3弾、またまた推参!


前作の終わり方があまりにも絶妙で、王子様の正体発覚後の郁は一体どうなってしまうのだろうとやきもきしながら図書館の順番待ちをしていたのだったが、ついに順番がめぐってきた。
頭の中が真っ白になり、堂上教官に対する数々の恥ずかしい行いを思い出しては固まる郁だったが、彼女の偉いのは 憧れの王子様だと判ったから堂上のことが好きなのか、それとはまったく切り離して考えても堂上のことが好きなのかを混乱する頭の中できっちり考えようとしているところだ。その精一杯の姿が健気で愛おしい。
しかし恋模様とは別に、郁の実家のある茨城ではとんでもない自体が進行しており、ついに表面化して図書特殊部隊(ライブラリー・タスクフォース)も出動することになるのである。その場面はあまりに壮絶で文字だけでも目を背けたくなるほどである。
そして玄田隊長が・・・・・。
その責任を取って稲峰基地司令が・・・・・。
ということで、あと一作つづくのだそうである。 たのしみ。

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痾(あ)*麻耶雄嵩

  • 2007/06/09(土) 16:40:15

☆☆☆・・

痾
麻耶 雄嵩 (1995/05)
講談社

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大破局(カタストロフィ)のショックで部分的記憶喪失に陥った如月烏有(きさらぎうゆう)は、寺社に繰り返し放火して回復を企る。だが焼け跡には必ず他殺死体が発見され、「次は何処に火をつけるつもりかい?」との脅迫状が舞い込む。誰が烏有を翻弄しているのか? 烏有に絡む銘探偵メルカトル鮎の真の狙いは? ミステリに遊戯(ゆげ)する若き鬼才の精華!


前作『夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)』を読んでいないのだが、その続編になる物語のようである。メルカトル鮎シリーズとでもいうのだろうか。
前作の恐ろしい体験の記憶を失くした如月烏有は、割り切れない気分のまま正社員に登用もされて日々を暮らしている。そんな中で起きる連続放火殺人事件である。この事件を通して烏有の記憶が戻るのか、と期待しながら読んだのだが、どうもそうではない。デビュー作で連続殺人の犠牲になったメルカトル鮎も登場するが――デビュー作と本作は時系列順ではなかったようだ――この銘探偵はどうも、自分では真相を見抜いていながら 警察に協力して事件を解決しようという気は持ち合わせていないようである。風貌だけでなく 一風変わった探偵である。
物語自体も少しばかり掴みどころがない感じである。

空白の意匠*松本清張

  • 2007/06/06(水) 17:06:10

☆☆☆・・

空白の意匠 ―松本清張短編全集〈10〉 空白の意匠 ―松本清張短編全集〈10〉
松本 清張 (2003/04/18)
光文社

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「空白の意匠」は、地方小新聞社の悲哀を描いて、かつて新聞社の広告部に籍を置いたことのある著者の実感のこもった力作である。第十巻には、このほか「潜在光景」「剥製」「駅路」「厭戦」「支払い過ぎた縁談」「愛と空白の共謀」「老春」など八編を収めた。


初版は1965年(昭和四十年)だが、収められた作品は昭和三十四年から六年にかけて書かれたものが多いようである。
暮らしのスピード感は現代とはかなり違ってはいるが、人間の想いというものはいつの時代も変わりようがないものなのだろう。
人が人の中で生きていくなかで遭遇する出来事にまつわる関係各人の思惑は、いま読んでも少しも古めかしくはない。

すっぴん素顔のこのまんま*渡辺一枝

  • 2007/06/05(火) 17:00:50

☆☆☆・・

すっぴん素顔のこのまんま―私の気持ちいい毎日 すっぴん素顔のこのまんま―私の気持ちいい毎日
渡辺 一枝 (1996/04)
ベストセラーズ

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彩りの食卓のこと、大好きな着物や歌舞伎鑑賞のこと、子どもや夫との大切な生活のこと、そしてこれからの夢等、さりげない日常をたおやかに綴る。年齢を重ねるのが楽しくなる魔法の本。


あとがきには「一九九六年 節分に」と書かれているから、十一年前の一冊である。著者五十歳。

ちょうどそのときの著者といまの自分が同じ年頃ということもあるかもしれないが、あちらこちらに見られる共通点を喜び、違いを興味深く思いながら読んだ。
ご自身を、間口が広くはないとおっしゃるが、日々を慈しみ大切に暮らしていらっしゃる様子が目に見えるようであこがれでもある。

翼ある闇*麻耶雄嵩

  • 2007/06/04(月) 17:01:17

☆☆☆☆・

翼ある闇―メルカトル鮎最後の事件 翼ある闇―メルカトル鮎最後の事件
麻耶 雄嵩 (1991/05)
講談社

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首なし死体、密室、蘇る死者、見立て殺人……。京都近郊に建つヨーロッパ中世の古城と見粉うばかりの館・蒼鴉城を「私」が訪れた時、惨劇はすでに始まっていた。2人の名探偵の火花散る対決の行方は。そして迎える壮絶な結末。島田荘司、綾辻行人、法月綸太郎、三氏の圧倒的賛辞を受けた著者のデビュー作。

魅力的な謎、破天荒なトリック、緻密な論理、奇矯な人物、衒学趣味、毒に満ちたユーモア、意外な解決…。およそ思い付く限りの本格ミステリのエッセンスが、この小説には濃密に詰め込まれている。


私立探偵・木更津が古城で起きる殺人事件の謎解きに馳せ参じる前半は、本格ミステリの王道をいく綾辻ワールドの踏襲か、と思いつつ読んだのだが、自らの推理に行き詰まりを感じた木更津が山に籠もるという唐突な展開の後、なんとメルカトル鮎の登場である。木更津に対抗するように自らの推理を披露したメルカトル鮎であり、真打登場か と思わせられたのだが、それも一瞬のこと。意外な展開が待っている。
死体はどんどん増えていき、期待は面白いように何度も裏切られるのだが、最後の最後に思ってもいなかったサプライズが待っているのだった。
読者も登場人物もミステリと信じて進んできたのに、ただひとりの人物にとってはこれはサスペンスだったのである。なんということだろう!

屋上がえり*石田千

  • 2007/06/01(金) 18:48:39

☆☆☆☆・

屋上がえり 屋上がえり
石田 千 (2006/11)
筑摩書房

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ナントカと煙は高いところが好き? 屋上を見つけると、とりあえずのぼってみたくなる。百貨店、病院、古書店、母校…。広々とした視界の中で湧き出る小さな想いを描き出す、不思議な味の一冊。


にぎやかな屋上、さみしい屋上、華やかな屋上、雑然とした屋上、哀しい屋上、広々とした屋上、見下ろされる屋上・・・・・。
ひと口に屋上と言っても、実にさまざまな表情があるものだと知らされる。屋上そのものの佇まいはもちろんのこと、そこからの眺めや周りの建物の看板や窓まどの様子など、著者の目が見たままが綴られているのだが、読者が目の前に見せられるのは、たしかに著者の体内を一巡して出てきた何かなのである。
そしておしまいの一節が印象深い。

初恋は、実らないからつまらない。失恋は、つぎのさよならの下ごしらえだから、さばさば乗り越えるのがおもしろい。
万物おしまいよりいづる。そういう国の、屋上にいる。

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