サワコの和*阿川佐和子

  • 2007/09/30(日) 16:38:43


サワコの和サワコの和
(2004/03)
阿川 佐和子

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最近、「ニッポン」が愛しくて。まったく日本には腹が立つ。なのに歳を重ねるにつれて、じわじわ好きになる。なぜだろう?そんな埒のあかない「愛」を綴る、アガワの最新エッセイ集。
口癖、占い好き、富士山信仰、季節の先取り、結婚式、根回し会食、年中行事、ユーミンの歌詞、着物、招福信仰、貞操観念、武士道・・・・・などなど。


文句をつけつつ、若いころの自分を振り返りつつ、そして外国や外国人と比べながら、日本のよさをじわじわ感じている様子が伝わってきて、読んでいるこちらもいつしか和み、思わず日本を見直してしまう一冊である。

ピース*樋口有介

  • 2007/09/29(土) 17:09:58


ピースピース
(2006/08)
樋口 有介

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連続バラバラ殺人事件に翻弄される警察。犯行現場の田舎町に「平和」な日々は戻るのか。いくつかの「断片」から浮かび上がる犯人とは。「ピース」が解明されたとき、すべてが繋がった……。


連続バラバラ殺人の犯人が、「ピース」に拘って死体をバラバラに切り刻んだのかどうかは判らないが、実によくできた物語だと思う。
定年まであと二年というノンキャリアの老刑事・坂森の捜査は、決して垢抜けているわけではないのだが、長年の経験とそこから来るのであろう勘とで、ほかの捜査員が見逃した――あるいは目をつけもしなかった――情報から犯人に近づく要素を見つけ出すのである。華々しくはないが、縁の下の力持ち的な坂森の働きはさすがと言える。
そして・・・。とうとう犯人が特定されてからの物語の動きはものすごくスピーディで、いやでも鼓動が高まるのである。しかも、これですべてが終わったかと思わされたその後に、最後の最後に置かれたこの静けさはどうだろう。思わずぞくりとしてしまった。

緑の模様画*高楼方子

  • 2007/09/28(金) 13:01:26


緑の模様画 (福音館創作童話シリーズ)緑の模様画 (福音館創作童話シリーズ)
(2007/07)
高楼 方子

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海の見える坂の街。三つ葉のクローバーのように心を結び合う、まゆ子・アミ・テト。彼女たちが出会ういくつもの物語の網目には、小さな危機もひそんでいた…。少女たちがつむいでゆく、きらきらとした日々のタペストリー。


「小公女」の物語を縦糸にして、まゆ子・テト・アミという現在を生きる三人の少女、その母たち、寮の調理人のおばあさんである森さんが少女時代の仲良し三人組、そしてその中のひとりの兄・透さん。さまざまな人たちと、さまざまな時とが横糸になって織り成される一枚のタペストリーのような物語。
少女たちの出会いの不思議から始まり、一緒に過ごす愉しさ、不思議な出来事、ちょっぴりのスリル。
どの時代にもきらきら光る日々を生きている少女たちがいて、毎日が物語だったのだろうことを思い出させてくれるような一冊だった。
森さんにはいまの透さんと会わせてあげたかったような気がするけれど、これからはきっと毬子さんとふたり透さんの思い出を語らうのだろう。
塔の家が生まれ変わるところもいつか見てみたい。

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朝顔はまだ咲かない*柴田よしき

  • 2007/09/26(水) 17:18:20


朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記
(2007/08)
柴田 よしき

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高校一年のときから、ひきこもりになったあたし、鏡田小夏。あたしを訪ねてくるのは、親友の秋だけ。秋は、奔放なイマドキの女の子。
今日も、恋の一部始終を報告にやってくる。そう、ひきこもりのあたしにだって、恋にも将来についても悩みはある。

そんな二人の女の子が遭遇した、七つの出来事を描く青春ミステリ。


サブタイトルは、小夏と秋の絵日記。
表題作のほか、「ひまわりの誘惑」「黒い傘、白い傘」「さくら、さくら」「見えない人」「窓を閉めて」「新学期――エピローグ――」という七つの連作短編集。

ひきこもりにはひきこもりの数だけひきこもり方がある。小夏がネットであちこちのひきこもりの人のブログや記事を読んで判ったことである。だからと言って、自分がひきこもり生活からどうしたら抜け出せるのかという答えはまったく見つからないのだ。
それでも、秋という親友が外の世界との架け橋になってくれているので、世の中の事情から取り残されずに済んでいる、と小夏は思っていて、他愛無いことで喧嘩をしたりもするが、秋にはいつも感謝している。そんな二人が出会ったちょっと不思議な出来事の謎を解いていきながら、小夏は少しずつ長い夏休みの終わりに向かっていくのだった。
秋の小夏に対する自然さに小夏はどれほど救われていることだろう。そして、秋以外の人たちも小夏を特別扱いすることなく接しているのがほっとさせられる。それでも小夏は悩み、抜け出すために苦しんでいるのだから・・・。
乗り越えるのは、やはり自分の力と気持ちでなければならないのだと気づかされもする。長かったトンネルの先に光が見えるようなラスト、小夏も秋も応援したくなる。

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やっとかめ探偵団*清水義範

  • 2007/09/25(火) 18:21:54


やっとかめ探偵団 (光文社文庫)やっとかめ探偵団 (光文社文庫)
(1988/05)
清水 義範

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名古屋で駄菓子屋「ことぶき屋」を営む波川まつ尾(74歳)。さっぱりとした性格と頭のよさを慕って、連日婆チャンたちが訪れ、名古屋弁の花が咲く。ある日、近所の寝たきり爺さんが何者かに殺された!大変だぎゃあ!まつ尾を中心に婆チャンたちは情報収集へ…。吉川英治文学新人賞受賞後、初の書下ろし新シリーズ第1弾。


ことぶき屋の波川まつ尾婆ちゃん初め、ここに集まってくる名古屋市中川区のお婆ちゃんたちのこのバイタリティには、なまじっかな若者なら確実に負けるだろう。なんの特別なことをしているつもりもなくて、これほど見事に役割分担をして探偵役をこなしてしまうのである。お見事、というしかない。
ことぶき屋の常連さんやご近所さんに、まつ尾婆ちゃんのファンがいるというのも大いにうなずける。わたしももはやすっかりファンになってしまったひとりである。

ちんぷんかん*畠中恵

  • 2007/09/24(月) 16:55:24


ちんぷんかんちんぷんかん
(2007/06)
畠中 恵

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若だんなと鳴家の三途の川縁冒険譚に、若き日のおっかさんの恋物語、兄・松之助の縁談に気になるあのキャラも再登場で、本作も面白さ盛りだくさん!

大好評「しゃばけ」シリーズ第六弾!


表題作のほか、「鬼と小鬼」「男ぶり」「今昔」「はるがいくよ」

今回はもう冒頭から三途の川を渡りかける勢いの若だんなである。ひ弱な若だんなの面目躍如(!)とでも言ってしまいたいくらいのものである。回を重ねるごとに、健康体になるどころかどんどんひどいことになっているような気がするのは多分わたしだけではないだろう。
やっとこちら側に戻ってきたと喜んだのも束の間、なにやら浮かない様子の若だんななのであった・・・・・。
今作の若だんなの悩みのテーマは「別れ」だろうか。さみしさや切なさをいままでに増して強く感じているのは、ずいぶんと大人になったせいかもしれない。しかもいままでは、兄やたちの自分に対する気持ちをありがたく思いながらもどこか鬱陶しく思うこともあったのに、大切な人を失う悲しみを自分の悲しみ・切なさとして捉えることができたのである。またひとつ懐が深くなった若だんなである。
初めて聞く 若だんなの母・おたえと父・藤兵衛の馴初めもほほえましい。

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ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!*深水黎一郎

  • 2007/09/22(土) 16:56:37


ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !
(2007/04/06)
深水 黎一郎

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「あなたが犯人!」。
あり得ないと思えた企みの完遂に向かい、すべての進行が周到に準備される。この被害者を殺した犯人は、ぼくだった。これから読まれる人すべてが、この驚きを味わうはず。誰もが気づかなかった方法。このジャンルの、文句なくナンバーワン。――(島田荘司)

新聞に連載小説を発表している私のもとに1通の手紙が届く。その手紙には、ミステリー界最後の不可能トリックを用いた<意外な犯人>モノの小説案を高値で買ってくれと書かれていた。差出人が「命と引き換えにしても惜しくない」と切実に訴える、究極のトリックとは?読後に驚愕必至のメフィスト賞受賞作!


実際に新聞連載小説という形でこの作品を読んだとしたら、更に衝撃的だったことだろう。
こんな形で読者が犯人というトリックを成立させてしまうなんて。確かに特殊なシチュエィションではあるが、まったく不可能だと言い切れないところが憎いところである。
自分宛に届いた贈り物の箱を開け、わくわくしながら中身を眺めていたはずが、そんな自分さえもがより大きな箱の中身だったことに遅ればせながら気づかされたような、なんともいえない不思議な気分である。

午前零時

  • 2007/09/21(金) 17:15:14


午前零時午前零時
(2007/06)
鈴木 光司

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今夜、運命は変わる、変えられる。豪華執筆陣が、イタズラな世界の24時×13夜を描いた掌編小説集。

長針と短針が交わる真夜中の1秒間、運命へのカウントダウンが始まった――鈴木光司、坂東眞砂子、朱川湊人、恩田陸、貫井徳郎、高野和明、岩井志麻子、近藤史恵、馳星周、浅暮三文、桜庭一樹、仁木英之、石田衣良――大注目の新鋭から超人気作家まで、13人の豪華執筆陣が描く、悲劇のようで奇跡のようなミッドナイト・ストーリー。


  「ハンター」 鈴木光司
  「冷たい手」 坂東眞砂子
  「夜、飛ぶもの」 朱川湊人
  「卒業」 恩田陸
  「分相応」 貫井徳郎
  「ゼロ」 高野和明
  「死神に名を贈られる午前零時」 岩井志麻子
  「箱の部屋」 近藤史恵
  「午前零時のサラ」 馳星周
  「悪魔の背中」 浅暮三文
  「1,2,3、悠久!」 桜庭一樹
  「ラッキーストリング」 仁木英之
  「真夜中の一秒後」 石田衣良


実にさまざまな午前零時があるものである。日付が変わる瞬間の午前零時という瞬間は、ほかのどの時間とも違う特別なものを含んでいるような気がする。
恩田陸さんの「卒業」は既読だが、これはこのなかでは飛びぬけて異質である。ちょっと苦手。
午前零時を越えるがすこしだけ怖くなりそうなちょっぴり不思議な物語たちである。

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ソウルケイジ*誉田哲也

  • 2007/09/20(木) 17:25:48


ソウルケイジソウルケイジ
(2007/03/20)
誉田 哲也

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まもってやれるだろうか。この俺に。

多摩川土手に乗り捨てられたワンボックス・カーから、血塗れの左手首が発見された! 姫川玲子たち捜査一課殺人犯捜査係の刑事たちは、所轄と組んで捜査にあたる。しかし、手首の持ち主と思しき男の周辺を調べていくうちに、つぎつぎと意外な事実が浮かび上がって……。

進境著しい俊英・誉田哲也が渾身の力をこめて描く、丹念に積み上げられた捜査小説にして、胸をうつ犯罪小説の白眉!


『ストロベリーナイト』に次ぐ 警視庁捜査一課の主任警部補・姫川玲子シリーズ。
乗り捨てられた車から発見された左手首から事件は始まり、その段階では思ってもみなかった深さと範囲にどんどん広がっていく。ひとつ手がかりを見つけるたびに、ひとつ角を曲がるように見知らぬ風景が目の前に広がるようである。次は、誰が何を探し当ててくるか、読者は固唾を呑んで待ち構えるのである。だが、最後にたどり着いたのはあまりにも哀しい父性の塊であった。
ラストで姫川が天敵のように毛嫌いしている日下と話し、わずか数ミリではあるが憎めなくなっているのがなにやらうれしい。彼らにまた会えるといいと思う。

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がらくた*江國香織

  • 2007/09/19(水) 08:53:58


がらくたがらくた
(2007/05)
江國 香織

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完璧な恋愛小説。
あなたを、あなただけを待っている――

 風が樹の葉を揺らしている。金色の粒子になってそこらじゅうに満ちている光。目を閉じて、耳を澄ませ、私は夫を感じようとしてみる。耳のうしろに、首すじに、左の太腿のあたりに。息をすいこみ、その息を吐きだす。
 大丈夫。夫の言うのが聞こえる気がした。そばにいるから大丈夫――。
                                       柊子  45歳

 今夜キスをしようと決めていた。近づいて、ほんのすこし唇を合わせるだけ。もちろん一瞬で、すぐに離す。ちょっとしたいたずら。えへへ。それから子供ぶってそんな風に笑えばいい。小学生のころ、男の子たちにそんなキスは何度もした。
                                       美海  15歳

二人の女性を主人公に語られる、愛と家族と時間の物語


章ごとに語り手を柊子・美海と換えて語られる。
登場人物の誰もが幸福そうに描かれているのだが、わたしには誰ひとりとして幸福そうに見えない。求める気持ちが強すぎて突き放してしまうような、話したいことがたくさんありすぎて何も言えなくなってしまうような、なにかアンバランスな居心地の悪さがいつもつきまとっているような気がしてしまう。
ただ、物語に終始流れている手触りの冷たさのようなものは嫌いではない。

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シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2007/09/17(月) 17:04:39


シー・ラブズ・ユー―東京バンドワゴンシー・ラブズ・ユー―東京バンドワゴン
(2007/05)
小路 幸也

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四世代のワケあり大家族が営む古書店「東京バンドワゴン」。赤ちゃん置き去り騒動、売った本を一冊ずつ買っていくおじいさん…。古本と共に舞い込んだおかしな謎をラブ&ピースに解決する、涙と笑いの下町ホームドラマ。


東京バンドワゴンという古書店を営む堀田家の物語の第二弾。
冬から秋までの一年を、ひとつの季節がひとつの章として描かれている。
前作で登場人物を把握しているので、すっと物語に入り込めたせいか、登場人物ひとりひとりに更に愛着が湧いて、堀田家の人びとに一層寄り添って読むことができた。はらはらしたり、どきどきしたり、じんとしたり、サチの目になって愉しんだ。
存在感が薄いと作中で言われている紺も、存外しっかりと堀田家の要になっているのに安心したり、いい加減の代名詞のように言われる我南人が意外とあちこち重要な局面で役に立っているのがうれしくもあった。

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夢を与える*綿矢りさ

  • 2007/09/17(月) 06:50:48


夢を与える夢を与える
(2007/02/08)
綿矢 りさ

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チャイルドモデルから芸能界へ。幼い頃からテレビの中で生きてきた美しくすこやかな少女・夕子。ある出来事をきっかけに、彼女はブレイクするが…。成長する少女の心とからだに流れる18年の時間を描く待望の長篇小説。


この平坦さは著者の意図するところなのだろうか。小説というよりも、ドキュメンタリーを読んでいるような、ただ起こったことが淡々と並べられているような印象である。誰の心の中にも深く入り込まずに、上っ面だけをさらっと撫でて通り過ぎたようで、著者が何に(誰に)焦点を当てたかったのかがよく判らなかった。

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サニーサイドエッグ*荻原浩

  • 2007/09/15(土) 16:43:31


サニーサイドエッグ (創元クライム・クラブ)サニーサイドエッグ (創元クライム・クラブ)
(2007/08)
荻原 浩

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私は最上俊平、私立探偵である。ペット専門の探偵ではないのだ。ある日、若く美しい女性が事務所を訪れてきた。ペット捜しなら、もう――「うちの猫を捜してほしいんです」はい喜んで。1カ月ぶりの仕事ではないか。しかもそうこうするうち、「ブロンドで青い目の若い」秘書まで雇えることに。え、な、なんだこいつは!? おまけに猫捜しも、ただの猫捜しではなくなっていくのだった……あの名作『ハードボイルド・エッグ』続編!


ハードボイルドを気取っているが、どこかハードになりきれない――というよりもダメダメな――最上俊平がいい味を出している。自分で道を切り開いているというよりも、どういうわけかいつも誰かに助けられて乗り切ってしまうところが、情けなくもあって愛着が湧くのである。「運も実力のうち」などと言うから、最上俊平、もしかするとほんとうに優秀な探偵なのかもしれない。

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季節のしっぽ*武田花

  • 2007/09/09(日) 13:17:09


季節のしっぽ季節のしっぽ
(1998/04)
武田 花

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鰻をもっともっと食べたくなるのはやっぱり夏だし、霧は春から初夏にかけての海がいいし、クリスマスになれば必ず思い起こす事があるし・・・私も季節のしっぽみたいなものを見たり感じたり食べたりしては、うちの猫が何を喜んでいるんだか、しっぽをゆっくり振っているように、無いしっぽを振っていたみたいだ。


切り取られている風景の一枚一枚が、すすっと自然にそこにいる猫の佇まいが、そこに向けられている著者のまなざしが想われるような一冊である。
そして、被写体の選び方とか言葉の選び方などに、たしかにあのご両親の娘さんなのだということが嬉しくなってしまうくらいありありと伝わってくる。

私は作中の人物である*清水義範

  • 2007/09/08(土) 16:27:08

私(わたし)は作中の人物である私(わたし)は作中の人物である
(1993/07)
清水 義範

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小説の中の私とは一体誰のことなのか?異色の表題作のほか、「魚の名前」「とねちり」「全国まずいものマップ」等、待望の傑作短篇集。


まず著者がいちばん愉しんだのだろう。にんまりしながら書いている姿が思わず思い浮かぶほどである。多分にお遊び的というか、実験的なあれこれが詰まっている一冊である。表題作など、考え出したら切がなくなってしまう。

エスケイプ/アブセント* 絲山秋子

  • 2007/09/07(金) 18:27:15

エスケイプ/アブセントエスケイプ/アブセント
(2006/12)
絲山 秋子

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闘争と潜伏にあけくれ、20年を棒に振った「おれ」。だが人生は、まだたっぷりと残っている。旅先の京都で始まった、長屋の教会での居候暮らし。あやしげな西洋坊主バンジャマンと、遅れすぎた活動家だった「おれ」。そして不在の「あいつ」。あきらめを、祈りにかえて生きるのだ。―いつわりと挫折の日々にこそ宿る人生の真実を描く傑作小説。


40歳になり、9・11の映像を目の当たりにして、自分の活動家人生は何だったのだろうと虚無感を覚えて西へと旅立った江崎正臣。そして正臣の胸に不在として存在しつづける「あいつ」。背を向け合うようでいて同じ風景を見ているようなふたつの物語である。
投げやりで自虐的で甘っちょろいような主人公の語り口に反して、胸にずんと響くものがある一冊でもあった。

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片耳うさぎ*大崎梢

  • 2007/09/07(金) 10:33:12


片耳うさぎ片耳うさぎ
(2007/08)
大崎 梢

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奈都は小学校6年生。引っ越してきた父の実家は、古くて大きなお屋敷で、しかも不吉な言い伝えがあるという。弱った奈都が頼ったのは、ひとりの謎めいた女子中学生だった…。優しい読後感が嬉しいミステリー長編。


父の仕事が上手くいかずに住んでいた家を追い出されるようにして父の実家である田舎のお屋敷に引っ越してきた蔵波奈都(なつ)。ただでさえ心細いのに、今度は母までもが実家の母(奈都の祖母)が具合が悪いからと泊りがけでお見舞いに行ってしまった。大きなお屋敷でひとりぼっちになることを思って授業にも身が入らない奈都に、隣の席の一色祐太は「姉ちゃんに相談してみれば?」と言う。そして紹介された中学生の美少女・さゆりが、母が帰るまで蔵波家に泊り込んでくれることになったのだが・・・。

とびきりの美少女ながらちょっと不思議なところのあるさゆりに引っ張られるようにして、蔵波家の中を探検して歩く奈都だったが、知らず知らずに蔵波家の謎の核心部分に近づいていく。幼いときの夢うつつの記憶が、なにやら恐ろしそうな謎解きにやわらかな光を与えているのが印象深い。
奈都という存在がなければもしかすると永遠に解かれずにいたかもしれない蔵波家の謎は、人びとの胸のわだかまりをも溶かして、奈都を本当の意味で蔵波屋敷の子どもにしたのだろう。
さゆりと奈都の冒険物語に次はあるだろうか。

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回転木馬*柴田よしき

  • 2007/09/06(木) 17:19:28

☆☆☆☆・

回転木馬 回転木馬
柴田 よしき (2007/03/13)
祥伝社

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謎の失踪を遂げた夫・貴之のあとを継ぎ、探偵となった下澤唯。十年の月日を経て偶然彼を目撃した唯は、佐渡出身の渋川さわ子という関係者がいたことを突き止めた。だが、さわ子はすでに死去し、貴之はさわ子の娘・雪と一緒にいるらしいことだけ判明した。夫は唯を本当に裏切っているのか?細い糸をたぐり追跡を続ける唯は、さわ子の友人だった佐野明子のもとを訪れた。彼女はさわ子から、死の間際に雪と貴之のことを記した手紙を預かっていたのだ。明子も死の床についていたが、唯の事情を知った彼女から、手紙の内容を明かされる。どうやら貴之と雪は、人に知られてはならない事情を抱えているらしい。失踪前日に起きたホームレスの不審死と関係が?手紙を手がかりに、信州・蓼科へ向かった唯。だがそこには、貴之の目元を残す美少女―小松崎ゆいが待っていた…。著者渾身の感動のミステリー。


『観覧車』の続編である。『観覧車』は夫・貴之の失踪の理由が解明されないまま、夫の仕事である探偵を続ける妻・唯の出会う事件に焦点が当てられていたが、今作では、貴之失踪の謎を解き明かす中で唯が出会った人びととの関わりに焦点が当てられている。
貴之の失踪の謎に迫り、やっと手の届くところまでたどり着いた唯の、「もうこれでいい」という想いに 十一年という年月の重みを感じさせられ、そのときの心持がよくわかるような気がする。
夫の帰りを待ち続けた長い間、変わらなかったものは電話番号と自らの名前。ラストの場面に年月分のこわばりが解けるようである。

やっとかめ探偵団と鬼の栖*清水義範

  • 2007/09/05(水) 12:43:47

☆☆☆☆・

やっとかめ探偵団と鬼の栖 やっとかめ探偵団と鬼の栖
清水 義範 (2002/08)
実業之日本社

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親子3人の失踪事件発生。一家の幼児は両親から虐待されていたらしい…。大人になりきれない人間と、人生経験豊かな名古屋の婆ちゃん探偵・波川まつ尾が対決する! 「やっとかめ探偵団と唐人お吉」も収録。


これはもうお婆ちゃんたちでなければ、しかも名古屋のお婆ちゃんたちでなければ成り立たない物語かもしれない。文字だけでも名古屋弁のビミョーなニュアンスが伝わってきて、読んでいるときに話しかけられるとつい口をついて出そうになるほどである。
そんなお婆ちゃんたちの探偵活動における役割分担も、いつのまにか結構しっかりと決まっていて、どのお婆ちゃんも生き生きしているのがうれしい。
そして、主人公の波川まつ尾の推理は、いつも些細なヒントから展開し、当事者のことを思いやる気持ちがこめられていて胸が温かくなるのである。
やっとかめ探偵団、末永く活躍してほしいものである。

ドラマチック チルドレン*乃南アサ

  • 2007/09/02(日) 20:09:55

☆☆☆☆・

ドラマチック・チルドレン (新潮文庫) ドラマチック・チルドレン (新潮文庫)
乃南 アサ (1999/04)
新潮社

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富山市郊外にある『ピースフルハウス・はぐれ雲』。さまざまな問題を抱えた子どもを預かり、共同生活を通じて立ち直らせるための施設だ。ある日、主宰者の川又夫妻は中学3年の恵を迎え入れた。登校拒否、無断外泊、シンナーなどひと通り経験ずみの彼女は、古株の非行少女とすぐに激突。『はぐれ』には緊迫した空気が流れて…。悩み苦しむ少年少女の心理を作家の目で追う感動の記録。


著者初のノンフィクションだそうである。
ノンフィクション風の小説なのだとばかり思って読んでいたのだが、あとがきを読んでまさにノンフィクションであることを知り、現実のなんとドラマチックなことか・・・との思いを新たにせずにはいられなかった。
人生における出会いの妙が、人をこれほどにも変えるものかという驚きもあり、他人の子どもとここまで真正面から向き合おうとする川又夫妻には頭が下がる。親としても考えさせられることが多い一冊である。

やっとかめ探偵団と殺人魔*清水義範

  • 2007/09/01(土) 13:33:05

☆☆☆☆・

やっとかめ探偵団と殺人魔 やっとかめ探偵団と殺人魔
清水 義範 (1996/03)
光文社

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“見知らぬ男が、見知らぬ家で自殺する”―名古屋は中川区の一角で、どえりゃー事件が発生した。たちまち、波川まつ尾(74歳)が営む駄菓子屋には、情報屋・婆ちゃんたちが押し寄せ、蜂の巣をつついたよう。さらに、恐怖の連続殺人魔が出現。まつ尾をリーダーとする姥桜探偵団は、町内探索に飛びだした…。名古屋を知るための生きた教材。清水ワールドの原点。


このシリーズははじめて読んだのだが、実に名古屋人・清水義範ここにあり、という名古屋パワー全開の作品である。面白い。
だが、ただ面白いばかりではない。登場するお婆ちゃんたちのキャラクターがそれぞれ味があり、みんな生き生きしているのである。年寄りだからってくったりなどしていない。却って若者よりもパワフルに生きている。情報網は細かいし、世情にも長けていて、その上年の功で人の心の機微もよく判る。一遍に名古屋贔屓になってしまう一冊である。