さよなら、そしてこんにちは*荻原浩

  • 2007/11/28(水) 13:01:49


さよなら、そしてこんにちはさよなら、そしてこんにちは
(2007/10/20)
荻原 浩

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テレビ番組の健康コーナーを日々チェックしながら仕入れに追われる、スーパーの食品売場責任者。若い妻と愛娘にクリスマス・パーティをねだられる住職。プロフェッショナルの悲哀を描く著者独壇場の傑作集。


表題作のほか 「ビューティフルライフ」 「スーパーマンの憂鬱」 「美獣戦隊ナイトレンジャー」 「寿し辰のいちばん長い日」 「スローライフ」 「長福寺のメリークリスマス」

自分のため、家族のため、大切な人のために日々戦う(働く)人々がそれぞれの物語の主人公である。一生懸命になればなるほどその背中には悲哀が滲んだりもする。だが、「やーめた」と言って投げ出してしまえないところがまた彼らの性質でもあるようだ。
つい声援を送り、一緒になって嘆き、他人事のようにくすりと笑いを漏らしながらじんと切なくなる、そんな一冊である。

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イナカノコ*おおたうに

  • 2007/11/27(火) 17:10:12


イナカノコイナカノコ
(2007/02)
おおた うに

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短大生・佐和の住む田舎町に、いとこの海里が帰ってきた。美しくも獰猛な性格の彼女の帰郷に胸をざわめかせるのは、佐和だけではなかった。母や兄、そして佐和の彼氏・草-。人々の気持ちがすれ違うほど、想いは切なく募り…。


読み始めは、なんだかものすごく読みづらかった。ぽきぽきと文章が途切れ、放り出されているような感じとでも言えばいいだろうか。頭上を塞がれていて、どこかでいつか空が開けてくれるといいのに・・・と待ち焦がれるような心地にさせられもした。
それがいつのまにか、次第に心地好く感じられるようになったのはなぜだろう。イナカノコである佐和の穏やかだが主張のない生き方の喜びと哀しみ、東京に出て行った海里の激しい自己主張の奥に隠された真の想いの寂しさと孤独が、物語の中から漂いだしてきたからかもしれない。読み終えてみれば、胸の底に小石をぽとりと落とされたような一冊である。

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蛍坂*北森鴻

  • 2007/11/26(月) 17:18:17


螢坂螢坂
(2004/09/22)
北森 鴻

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カウンターでゆるり、と時が流れる。≪香菜里屋≫に今日もまた、事件がひとつ。
わだかまっていた謎が、旨いビールと粋な肴で柔らかくほぐされる。
それが当店の「陰謀」なんです。
「螢坂」
すべてを捨てて戦場カメラマンをめざした頃のあの坂道は、どこに消えたのだろうか。
「猫に恩返し」
世田谷線の線路に面して建てられた黒猫ゴン太の顕彰碑。その裏側に、女の顔が浮かぶという噂が……。
「雪待人」
3代続いた画材屋が、いよいよ店を畳むという。待ち続けた1枚の絵は、いつ完成するのだろう。
「双貌」
カウンターの向こうから見つめてくる男の姿が、記憶の底を刺激する。
「孤拳」
若くして逝った「脩兄ィ」の最期の願い幻の焼酎・孤拳を探し求めてドアを開けた、香菜里屋で明かされた衝撃の事実。


三軒茶屋の路地裏の知る人ぞ知るビアバー「香菜里屋」が舞台のシリーズ第二弾。
相変わらずに不思議に落ち着く店の雰囲気と、穏やかで客の悩みを自然に引き出してしまうマスターの工藤の人柄、そしてなにより彼の出す歯も舌も躰も心も喜ばす一皿の料理が魅力的である。
安楽椅子探偵ならぬカウンター探偵のような工藤は、きょうも誰かの悩みや心の引っ掛かりを解きほぐすのである。それは推理というよりも工藤の細やかな洞察力のなせる業なのかもしれない。常連客同士の踏み込みすぎず離れすぎない係わり合いもあたたかい。

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花の下にて春死なむ*北森鴻

  • 2007/11/25(日) 16:56:01


花の下にて春死なむ花の下にて春死なむ
(1998/11)
北森 鴻

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誰にでも秘密はある。
孤独死した俳人の窓辺の桜は、なぜ季節はずれの花をつけたのか。写真展のポスターは、なぜ一夜にしてすべて剥がされたのか。謎が語りかけるさまざまな生、さまざまな死。
ミステリの醍醐味を満喫させる鬼才の連作短編集。


表題作のほか「家族写真」 「終の棲み家」 「殺人者の赤い手」 「七皿は多すぎる」 「魚の交わり」

三軒茶屋の路地の先、袋小路の途中にある小さなビア・バー「香菜里屋」が舞台である。幾人かの常連客によって持ち込まれるさまざまな謎を、マスターの工藤哲也が独特の穏やかな人柄と鋭い推理によって解き明かすという趣向である。常連客たちは、工藤に話しを聞いてほしくてきょうも「香菜里屋」の焼き杉の扉を開けるのである。
そしてまた特筆すべきは工藤の出す料理の美味しそうなことである。ちょっとしたひと手間、ちょっとした工夫でまさにしあわせになれそうな一皿が目の前に出されるのである。アルコールが苦手なわたしも、探し当てて訪れてみたくなる店である。

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ハッピーエンドにさよならを*歌野晶午

  • 2007/11/23(金) 18:55:59


ハッピーエンドにさよならをハッピーエンドにさよならを
(2007/09)
歌野 晶午

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望みどおりの結末になることなんて、現実ではめったにないと思いませんか?

小説の企みに満ちた、アンチ・ハッピーエンド・ストーリー。
前人未到のミステリ四冠を達成した偉才が仕掛ける未曾有の殺意。


「おねえちゃん」「サクラチル」「天国の兄に一筆啓上」「消された15番」「死面」「防疫」「玉川上死」「殺人休暇」「永遠の契り」「In the lap of the mother」「尊厳、死」

装丁からしてなにやら悪意に満ちていて、読み始める前から先が思いやられるようである。読み始めてからはもちろん、黒い感情に取り巻かれ身動きできなくなる。それが一見明るく見えてしまったりもするから、これがまた厄介なのである。著者らしいどんでん返しや裏切り、ミスリードも盛りだくさんで、心して臨まないと何度もだまされることになるだろう。
読後、爽快感のかけらもない一冊であるが、それは決して退屈だからではない。

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鳴風荘事件*綾辻行人

  • 2007/11/22(木) 19:40:45


鳴風荘事件 殺人方程式II (講談社文庫)鳴風荘事件 殺人方程式II (講談社文庫)
(2006/03/15)
綾辻 行人

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奇天烈な洋館に集まった人々は目を疑った。六年前に殺された女流作家そっくりに、その妹が変貌していたのだ。そして姉の事件と同じ月蝕の晩、惨劇が彼女を襲う。"不思議な力"を持っているという黒髪を切られる手口も酷似してーー。必要な手掛かりをすべて提示して「読者へ挑戦」する新本格ミステリの白眉!


明日香井響と明日香井叶の一卵性双生児シリーズ第二弾。
叶の妻・深雪が十年前に埋めたタイムカプセルを掘り出す約束を果たしに当時の美術部顧問・青柳の自宅を訪れ、美術部の仲間たちと再会したところから事件は始まる。
物語ではその前に、叶と深雪のなれそめが明かされている。
鳴風荘の見取り図はじめ、各人のデータが随所に示され、ラストには「読者への挑戦」も用意されている。これぞ本格、というお膳立てである。
個人データを見た時点で、引っからずにはいられなかった人物が結局のところ犯人だったが、その動機にはまったく思い至らなかった。
この物語も舞台は館であるが、著者の館シリーズのようないかにもというようなおどろおどろしさはなく、軽やかとも言えるかもしれない。

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殺人方程式*綾辻行人

  • 2007/11/21(水) 07:28:37


殺人方程式―切断された死体の問題殺人方程式―切断された死体の問題
(1989/05)
綾辻 行人

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「く、く、首がない!」小心刑事・明日香井叶の眼前には、なんと、首と左腕が切断された死体が―!被害者は『御玉神照命会』の教主・貴伝名剛三。彼は本部ビル内で“密室”状態にあったが、何故か、死体が発見されたのは川を越えた対岸のマンションだった。しかも、前教主・貴伝名光子が謎の死を遂げた直後の惨劇。やがて息子の光彦に嫌疑が…叶の双子の兄・響が周到に練り上げられた完全犯罪に挑む。ミステリー界期待の大型新鋭が、空前のトリックと、強烈なドンデン返しで世に問う、堂々の本格推理登場。


双子の明日香井兄弟――刑事の弟・叶(きょう)と26歳でまだ大学生の兄・響(きょう)――のコンビ(?)シリーズ第一弾。
一卵性双生児であるにもかかわらず、まったく正確の違う饗と叶の物語に果たす役割がまず興味深い。キャラクターとは逆の役割を果たしているようにも見えるが、実際は叶が刑事で正解である気もする。
物語は冒頭から正体の判らない人物の目線で幕を開ける。そして、さほど難しくなさそうに思われる犯人探しにはどんでん返しが待っている。そうか、そうきたか、と思わせておいて、さらに別の答えが用意されていたのには参ってしまった。振り返ってみれば、「そういえば・・・」ということがあちこちに見られるのだが・・・。さらに、舞台選びもなんと絶妙なことか。

余談だが、町田が舞台の作品と出会う機会が多いように思う。小説にしやすい町なのだろうか?

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夜明けの縁をさ迷う人々*小川洋子

  • 2007/11/18(日) 17:10:25


夜明けの縁をさ迷う人々夜明けの縁をさ迷う人々
(2007/09)
小川 洋子

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風変わりな曲芸師と野球少年の友情、放浪の涙売りの恋、エレベーターで生まれたE.B.の生涯、作家だった祖父の形見をめぐる老嬢の話…。世界の片隅に息づく人々に灯りをともす9つの物語。『野生時代』掲載を単行本化。


「曲芸と野球」「教授宅の留守番」「イービーのかなわぬ望み」「お探しの物件」「涙売り」「パラソルチョコレート」「ラ・ヴェール嬢」「銀山の狩猟小屋」「再試合」

実にピンポイントな視点で対象を見つめる物語たちである。クラフトエヴィング商會が紡ぐ物語にも似た匂いを持つが、そこはやはり小川さん、もっともっと核心を突く冷たさに満ちている。しかも、その冷たさには比類ないほど熱い思いが籠められていたりするのである。読み始めると目が離せなくなる。

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ハル、ハル、ハル*古川日出男

  • 2007/11/16(金) 17:37:03


ハル、ハル、ハルハル、ハル、ハル
(2007/07)
古川 日出男

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この物語は全ての物語の続編だ。暴走する世界、疾走する少年と少女。3人のハルよ、世界を乗っ取れ! 乱暴で純粋な人間たちの圧倒的な現在を描いた、古川日出男の最高傑作。


表題作のほか、「スローモーション」「8ドッグズ」

二〇〇五年十一月から、著者は「完全に新しい階梯に入った」のだと、物語の最後に付された著者の言葉にある。その歩みに着いていくのはわたしにはなかなか大変なことであるようだ。
感覚的にはなにかが自分の裡に流れ込んでくるように思えるのだが、いざ頭で考えて言葉にしようとするとあっという間に形を失う。かのブルース・リーの言葉のようである。「考えるな。感じろ。」

ドロップス*永井するみ

  • 2007/11/15(木) 18:11:16


ドロップスドロップス
(2007/07/26)
永井 するみ

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愛したい。愛したい。愛させてほしい。三十代、女性。ないものねだり!?二度目の思春期!?愛したくて仕方がない女性たち。

二十代は「愛されたい」、三十代からは「愛したい」!
●誰が見ても幸せなはずの結婚生活を送るフリー編集者
●高校の同級生に言い寄られる、バツイチ子持ち美女
●奔放な恋愛をし続ける、シングルマザーのオペラ歌手
●かつての略奪愛を経て、夫と静かに暮らすホール経営者


フリー編集者の夏香を軸に、彼女の人間関係上にいる女性たちを描く連作集。
夏香が主になってはいるが、章ごとに語り手を替えてそれぞれの生活と胸のうちが語られる。
傍目からは決して判らない個々人の胸のうちが実にリアルに繊細に描かれている――というか描かれすぎていないせいで実にリアルである。感情の襞に埋もれそうになりながらも不意に顔をのぞかせるなにかがとてもよく伝わってくるのである。
読む人によっても、読むときの状態によっても印象がものすごく変わってきそうな物語のようにも思われる。わたしはラストに向かうに連れて涙が止まらなくなってしまった。

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予定日はジミー・ペイジ*角田光代

  • 2007/11/14(水) 18:23:27


予定日はジミー・ペイジ予定日はジミー・ペイジ
(2007/09/01)
角田 光代

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〈4月×日/性交した。夫はすぐに眠ったが私は眠れず、起きて服を着て、ベランダにいって煙草を吸った。日中は雨が降っていたのに夜空は晴れ渡っていて、濃紺の空には厚ぼったい雲までかかっている。いくつか星が見えた。すっと一筋、こぼれ落ちるみたいに星が流れた。/あ、流れ星、と思うのと、子どもができたかも、と思うのと、ほぼ同時だった。どちらにしても、願いごとをし忘れた。〉という書き出しから始まる本書は、天才ロックギタリストの誕生日に母親になる予定の〈私〉をめぐる、切ない「マタニティ日記」だ。
おめでたですよと医者に言われて、めでたいですかねえと訊き返してしまった〈私〉が、出産予定日の1月9日に向けて、不安や妄想の数々を乗り越えてゆく─。それはいつになく、いくつもの悩みと笑いや、いくつもの迷いと決定が詰まっている日々。
だめ妊婦、ばんざい! と応援したくなるほどリアルを描く、直木賞作家・角田光代待望の書き下ろし。唐仁原教久とのイラストコラボレーションも素敵な最新小説だ。新しい「妊娠文学」の誕生。


あとがきにもあるが、角田さんのエッセイなのか小説なのか判別しづらい作風(?)のせいで、かなり誤解を受け、出産祝いを受け取る羽目になったらしい。妊娠小説と聞いて、わたしもてっきりご本人が!と思ったものである。だが、事実ではないと判って読んでもつい、著者自身の妊娠生活を思い浮かべてしまいそうになるのである。まことに角田さんらしい妊娠生活なのである。
そもそもはじめは最終章だけがあったということだが、そこに至る道筋をこのダメ妊婦――とあえて言うが――と共に歩けてほんとうによかった。

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密室殺人ゲーム王手飛車取り*歌野晶午

  • 2007/11/14(水) 18:13:46


密室殺人ゲーム王手飛車取り密室殺人ゲーム王手飛車取り
(2007/01/12)
歌野 晶午

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「殺したい人間がいるから殺したのではなく、使いたいトリックがあるから殺してみた」(本文300ページより)

最初のアイデアは1988年ごろ芽生えました。あまりにふざけた話で、現実に発生しえないのはもちろん、小説にもできないと捨てていました。
ところが前世紀末あたりから、案外こういう事件が現実に起きたりして、起きそう、きっと起きるぞ、としだいに強く思うようになり、そして本作が生まれました。
さいわい、現実に追い越されずにすみましたが、未来永劫こういう事件が起きないことを切に願います。
                    ――歌野晶午


頭狂人、044APD、aXe、ザンギャ君、伴道全教授。いったい何のことだと思うだろうが、これが本作の登場人物たちの名である。インターネット上に集い、推理ゲームを愉しむものたちのハンドルネームなのである。だがちょっと違うのは、彼らが愉しんでいるのが単なる机上の推理ゲームではなく、実際に出題者が犯した殺人に関する問題を解き合っているということなのだった。
ひとことで言うと、とても歌野氏らしい一冊だった。
著者自身が述べておられるように、着想時には想像しにくかっただろうが、インターネットを介した犯罪が増加している昨今、まさにどこかで起きそうな事件であり、本作を読んだ不埒者が真似したりしなければいいとわたしも切に願うのである。
ラストの四竦みともいえる状況には、著者のそんな願いももしかするとこめられているのだろうか。

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1950年のバックトス*北村薫

  • 2007/11/12(月) 17:28:21


1950年のバックトス1950年のバックトス
(2007/08)
北村 薫

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一瞬が永遠なら、永遠もまた一瞬。過ぎて返らぬ思い出も、私の内に生きている。秘めた想いは、今も胸を熱くする。大切に抱えていた想いが、解き放たれるとき――男と女、友と友、親と子、人と人を繋ぐ人生の一瞬。「万華鏡」「百物語」「包丁」「昔町」「洒落小町」「林檎の香」など、謎に満ちた心の軌跡をこまやかに辿る二十三篇。


1995年から2007年までに発表された作品がまとめられている。
二十三の味の違うドロップスをひとつずつ取り出して味わうような愉しみである。甘いものあり、すっぱいものあり、ほろ苦かったり、ツンとしたり、じわっと沁みたり・・・いろんな風味。
中でも、表題作にはじんとさせられた。人の縁(えにし)とはまったくもって不思議なものである。
そしてなんと、最後の物語「ほたてステーキと鰻」では大学生になったさきちゃんと牧子さんのその後の様子もチラリとわかったりするのである。思ってもいなかったので、うれしくなってしまうのだった。

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あなたにもできる悪いこと*平安寿子

  • 2007/11/12(月) 11:05:05


あなたにもできる悪いことあなたにもできる悪いこと
(2006/08/01)
平 安寿子

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「あくまで内密に、そいつに天誅を加えたいわけですね」自称トラブル・コーディネーター、桧垣と里奈。人に言えない訳ありのお金、ちょこっと頂戴いたします。金のなる木がそこにあるなら、とりあえず揺すぶってみなければ!偽善も保身もかる~く笑う、平安寿子版・痛快悪漢小説(ピカレスク)の誕生。


「金が天下を回るから」「ユニオン」「我が善き心に栄えあれ」「神様によろしく」「あなたが選ぶその人は」「カエサルのものはカエサルに」

 財産を巡っていがみ合う家族。不倫と公費着服の事実を隠蔽したい教師。NGOを踏み台に野心を遂げようとする自称善意の実践者。宗教の教祖を操って私服を肥やそうとたくらむコンサルタント。票集めのために飛び交う裏金をかすめ取るのが生き甲斐の選挙参謀。
 桧垣と里奈は、欲の赴くままに進もうとする彼らの前に両手を広げて通せんぼし、飴玉一個程度の通行料を可愛く徴収してきたのだが、それらのネタを持ってきたのは里奈だった。(本文より)


友人時任の仕事を手伝い始めた初日に時任に逃げられ、どういうわけかその後秘書と称する無愛想な女・里奈と組む流れに・・・。スパイ大作戦の指令のように、電話一本たったひと言「いつものところに来て」、これで桧垣は呼び出され仕事を与えられるのだった。
出る金を極限まで制限し、細々とした稼ぎを懐に入れる生活を続けてきた桧垣は、法に触れるか触れないかのぎりぎりのところでその日その日を生きていた。持ち前の見てくれのよさと巧みなトークがそれを助けてくれるのだ。
巧みなんだか間抜けなんだか判断に困るような詐欺まがいの手口で小金を手に入れはするが、大悪事を働くわけではない。その辺りの立ち居地が痛快さをもたらしてくれるのだろう。我が身の分と世の中の仕組みとを結構わきまえた桧垣は、案外世渡り上手といってもいいのかもしれない。

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Rのつく月には気をつけよう*石持浅海

  • 2007/11/09(金) 18:25:04


Rのつく月には気をつけようRのつく月には気をつけよう
(2007/09)
石持 浅海

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湯浅夏美と長江高明、熊井渚は大学時代からの呑み仲間。毎回誰かが連れてくるゲストは、定番の飲み会にアクセントをつける格好のネタ元だ。酔いもまわったところで盛り上がるのは恋愛話で-。小粋なミステリー連作短編集。


表題作のほか「夢のかけら 麺のかけら」「火傷をしないように」「のんびりと時間をかけて」「身体によくても、ほどほどに」「悪魔のキス」「煙は美人の方へ」

美味しいお酒とそれに合う美味しい食べ物、そして学生時代からのつきあいの気心の知れた愉しい仲間との語らい。そしてそこには毎回違うゲストが迎えられるのである。登場する食べ物の描写に食欲をそそられ、それを美味しいお酒とともに口にするところでは思わずよだれを垂らしそうになるのである。たとえば牡蠣、たとえばチキンラーメン、そしてそば粉のパンケーキやチーズフォンデュやぎんなん。そして、ゲストの何気ないそぶりやひと言から問題点を嗅ぎつけ、引き出して、答えを与えてしまうのは悪魔の頭脳を持つといわれる長江である。二度も三度も美味しい気分を味わえる魅力的な一冊である。
著者のいたずらとも言えるラストの落ちは、途中何度か頭をよぎったのだが深く考えずに流してしまっていた。そうかそうか、やっぱりそうだったのか、とうれしくなったのだった。

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きみはポラリス*三浦しをん

  • 2007/11/09(金) 18:08:44


きみはポラリスきみはポラリス
(2007/05)
三浦 しをん

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これって恋or愛?いえ、これこそ恋愛そのもの。世間の注目も原稿の注文も「恋愛」のことばかり。なら、とことん書いてみようじゃないの!ということで生まれたただならぬ「恋愛短篇集」。初恋、禁忌、純愛、結婚、信仰、偏愛、同性愛…本気で恋し、だれかを愛したいなら読むしかない!われらの時代の聖典。


「永遠に完成しない二通の手紙」「裏切らないこと」「私たちがしたこと」「夜にあふれるもの」「骨片」「ペーパークラフト」「森を歩く」「優雅な生活」「春太の毎日」「冬の一等星」「永遠につづく手紙の最初の一文」という11の恋愛の形を描いた短編集。
恋愛が描かれながらこれほど甘くない物語も珍しいのではないだろうか。べたべたした感じもまったくなく、かえって冷たい手触りが感じられるようでもある。ときとして小川洋子さんの芯の芯をじっと見据えるような冷たさが感じられることもあった。それでいて、読後は重くなく、かえってさらりとした爽やかささえ感じられるのはどういうわけなのだろう。
著者らしい――かなり控えめではあるが――とも言える第一話と最終話でほかのさまざまな恋愛が挟まれるような姿になっているのも興味深い。

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恋はさじ加減*平安寿子

  • 2007/11/08(木) 18:36:41


恋はさじ加減恋はさじ加減
(2006/03/29)
平 安寿子

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おいしいと好きになるのか、好きだからおいしいのか-。ポテサラ、ハヤシライス、カレーうどんにバターご飯エトセトラ。食べ物をきっかけに始まる恋、こじれる恋を描く、スパイスたっぷり美味な6篇。


「野蛮人の食欲」「きみよ、幸せに」「泣くのは嫌い」「一番好きなもの」「とろける関係」「愛のいどころ」の六篇。
それぞれ食べ物に絡めて恋の駆け引きのあれこれが語られている。
焼き蛤、ポテトサラダ、たまねぎ、カレーうどん、バターご飯、梅酢むすび。特別高級でもなく珍しくもない食べ物が思ってもみないきっかけとなって、恋が芽生えたり、見失ったり、噛み合わなくなったり、離れ難くなったりするのである。食べ物の好みほど本質的でその人らしさを表わすものはないのかもしれない。物語りもさらりと書かれているようで、実はかなり本質に迫っているような気もするのである。

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センチメンタル・サバイバル*平安寿子

  • 2007/11/07(水) 18:09:07


センチメンタル・サバイバルセンチメンタル・サバイバル
(2006/01/19)
平 安寿子

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24歳・フリーター。恋も仕事も中途半端。仕切屋の叔母と宙ぶらりんなまま同居を始めた「るか」のサバイバルは始まったばかり。理想と現実のはざまで揺れ動くガールズライフを描く。『ウフ.』掲載を単行本化。


タイトルにある「サバイバル」。だが、るかからは一切そんな気配は感じられない。なりゆき任せ、その場しのぎで日々を楽に生きている24歳である。与えられた仕事だけはきちんとやり遂げるという責任感だけは持っているのだが・・・。そんなるかが、両親が蕎麦屋を開くために出雲に行ったのを機に、母の妹である龍子叔母の部屋に居候することになった。48歳独身の叔母との暮らしで理想と現実、本音と建前、人生における優先順位、等々・・・いままで見てこなかったあれこれを考えることになるのである。
21のテーマで語られる物語は、まさに実際にどこかでだれかが考えていそうなことであり、登場人物はそれぞれがみな読者であり身近な誰かであるともいえそうである。ぼーっとしていると周りから思われているるかだって、彼女なりにいろいろ考えているのだ。人生はサバイバルかもしれないが、小さなひとつひとつの積み重ねでもあるのだなぁとしみじみ思わされもする。

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結婚貧乏

  • 2007/11/05(月) 07:05:54


結婚貧乏 (幻冬舎文庫)結婚貧乏 (幻冬舎文庫)
(2005/06)
平 安寿子、春口 裕子 他

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将来有望な五歳下のプロ野球選手と結婚した実奈子。優しく病弱な大学病院の内科医とおだやかな結婚生活を送る美咲。結婚式のために節約を重ね、本番を一週間後に控えた千佳。貧乏で職業不明な風来坊と「結婚を前提」に同棲するうはね。―心も身体も生活も、全てが満たされる結婚生活なんてあるんだろうか?リアルで切実な「結婚」アンソロジー。


 「ロマンスの梯子」  平安寿子
 「玉の輿貧乏」  宇佐美游
 「オーダーメイドウェディング」  春口裕子
 「森を歩く」  三浦しをん
 「シンデレラのディナー」  内藤みか
 「次はあなたの番ね」  真野朋子
 「グッドマリアージュ」  森福都
 「花と蜜蜂」  松本侑子


結婚生活はおそらく人の数だけあるのだろう。結婚して夫婦になったとしても、夫と妻とで同じ結婚生活感を抱いているとは限らないのだし・・・。この本は、結婚にまつわるさまざまが、殊にマイナスイメージで捉えて並べられている。タイトルの「貧乏」は、まさに経済的な貧乏だけでなく心の貧乏まで含まれるのである。
わたし自身、結婚して貧乏になった実体験があるので、経済的な貧乏の描写には結構うなずくことが多かった。ただ、若かったのとがむしゃらだったので当時はまったくマイナス気分はなかったのだが、こうして文字にされてみるとなんと哀しげな生活だったのだろうといささかショックでもあった。まぁいまもたいして変わってはいないが・・・。
これから結婚しようという若い女性には夢を壊すようで不向きかな、とも思う。

にこにこ貧乏*山本一力

  • 2007/11/03(土) 16:47:18


にこにこ貧乏にこにこ貧乏
(2007/07)
山本 一力

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締切りに追われ、取材や講演旅行で日本中を東奔西走、子供たちの成長に目を細め、時には懐かしき高知の少年時代に思いを馳せる。カミさんとやんちゃな息子たちとの日々。人気時代小説作家がホンネで綴った痛快エッセイ集。


まずご家族――ことに奥様と――の中睦まじさが随所に感じられてほほえましい。著者の時代小説のあたたかくほのぼのするような雰囲気は、私生活の充実感からたちのぼってくるものなのだろうと思わせられる。そして、取材旅行先などさまざまな場所で出会う職人技のすばらしさにも触れることができて興味深い。

メビウスの殺人*我孫子武丸

  • 2007/11/02(金) 17:09:17


メビウスの殺人メビウスの殺人
(1993/05)
我孫子 武丸

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大東京を恐怖のどん底につき落とす連続殺人が発生。犯行は金槌によるメッタうちと絞殺が交互する。犯人は一人か、あるいは別人か。現場には常に謎の数字を記したメモが…。被害者たちを結ぶ“失われた環”を探せ。ご存知速水三兄妹がつきとめた驚愕の真相とは?奇想天外な推理の新旗手の長編第三作。


速水三兄妹シリーズ第三弾。
冒頭の登場人物紹介で連続殺人事件の犯人のひとりはすでに明かされている。そしてどうやらこの事件、ネット上で知り合ったふたりの人物がゲームとして始めたことらしい、ということも読者には早い段階で判るのである。いつ、どんな風に警察側が犯人の目星をつけるか、慎二といちおはどんな風に推理するのか、というのが興味深い。
2007年の現在でこそネットを介した犯罪は認知度も高く、捜査上も想像に難くないだろうと思うが、本作が書かれたのが1993年であることを考えれば、かなり突飛な着想だったのではないだろうか。
結末は、いささか辻褄あわせで拍子抜けしなくもなかったが、三兄妹や鬼島刑事、怪我で休職中にもかかわらず呼び出されて使われた木下刑事らとのやりとりは相変わらず面白かった。
鬼島と恭三には共に過ごす未来はあるのだろうか。

8の殺人*我孫子武丸

  • 2007/11/01(木) 17:12:35


8の殺人8の殺人
(1989/03)
我孫子 武丸

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文字通り8の形をした“8の字屋敷”。この奇妙な建物が殺意を育ててしまった。男は誰も入れるはずのない部屋から放たれたボウガンで殺され、女さ閉ざされたドアの内側に磔にされた!犯罪芸術をめざす犯人と速水三兄妹の華麗な頭脳合戦の果てに二重三重の逆転劇が待ちうける。新本格推理に若き旗手いま誕生。


著者デビュー作であり、速水三兄妹シリーズ第一弾である。
警視庁の警部補である長男・恭三が喫茶店を経営する次男・慎二と妹の一郎(いちお)の知恵を借りて事件を解決へと導く物語である。――と書くと、なにやらまっとうっぽいが、三兄妹のキャラクターがそれぞれなかなか味わい深いこともあり、登場する警察関係者のユニークさもあって、シリアスな事件場が妙にコミカルに仕立て上がっている。実に軽妙である。一作目から三兄妹の役どころがしっかり定まっているので、(二作目は先に読んでしまったが)次がたのしみなシリーズである。