探偵は今夜も憂鬱*樋口有介

  • 2007/12/30(日) 16:37:23

探偵は今夜も憂鬱探偵は今夜も憂鬱
(1996/03)
樋口 有介

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愡れた女の数だけ無理難題を背負い込む男・柚木草平は、時に探偵の依頼もこなす元刑事のルポライター。エステクラブを経営するマダム、トップ女優、雑貨ショップの美人オーナー…。謎には強いが、女にゃからきし弱いハードボイルド探偵が解きあかす「憂鬱な事件」三話を収録。超人気シリーズ第三弾。


「雨の憂鬱」 「風の憂鬱」 「光の憂鬱」の三話。
相も変わらず柚木の懐は薄ら寒く、どうしようもなくなりそうになるとどこからか事件の話が舞い込むことになっているようである。今回の三話もいずれもそんな間がいいのか悪いのかわからないタイミングで舞い込んだ依頼である。
それにしても、柚木の周りに現れる女性たちはどうしてこう誰も彼も美しいのだろうか。しかも、その誰もがかなり高いレベルにいるのである。それで憂鬱などと言っていてはいつか柚木に天罰が下るだろう――もう下っている結果がいまの状態かもしれないが・・・。
気乗り薄な気分で臨む割には、捜査は地道にきっちりと行うところは元警察官の血だろうか。捜査結果を解決への閃きに結びつける能力も、派手さはないがなかなかのものである。
その上柚木、女性にだけでなく男性にまでモテるということが判明。ぅぅむ。

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ラブコメ*松久淳+田中渉

  • 2007/12/28(金) 17:14:55

ラブコメラブコメ
(2004/06/16)
松久 淳、田中 渉 他

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松田真紀恵(人形町の花屋店長・25才)は恋をする暇もなかった。朝5時起きで花市場に仕入れに行き、気がつけば夜の9時。店の片づけのあと自分で夕食の支度をしてお風呂に入る頃には、もう起床時間まで5時間しかない。遊びに行くことはもちろん、流行りのドラマを見ることもできず(でも時間があっても見ない)、友達と長電話することはおろか(そもそも電話の平均通話時間は用件のみの約20秒)、ペディキュアはいうに及ばずマニキュアを塗る時間もない。そんなわけで、性格はきついわ、男っぽい言葉遣いながらものすごい美人なのに、もう1年11か月も恋をしていない。ところが、恋の神様のいたずらというべきか、ある日突然、元カレと20年彼女を慕い続けた幼なじみがあらわれて…。

新大橋で号泣したことそれぞれ1回。幸せのブーケをつくること3回。フリオ・イグレシアスの曲連続80回。「愛のカセットテープ」片面残り時間5秒。脳内除夜の鐘108回。コソコソ筆談やりとり22回。電話を待つこと144時間。浅草花やしき園内ヘリコプター爆走7周。上野動物園内モノレール泣きながら3往復。本気でキスしたいと思ったこと、1回。死ぬほど笑いあえたこと、1回。ドキドキ×うるうる×キュンと切なく圧倒的にハッピーな結末が束になってやってくる。目眩むラブコメ大作戦。


真紀恵と幼馴染の美晴の恋物語なのだが、いまは脚本家である美晴が、真紀恵と自分をモデルにして書いたアニメの制作と平行して進んでいくので、真紀恵と美晴の過去と現在のような感じでもある。
読み始めは、コメディ全快でひとりツッコミがいたるところに入ったり、あちこちでボケたりと、文字として読むには疲れることこの上なかったのだが、意外とすぐに気にならなくなった。それでもやはり、小説を読んでいるというよりは、コミックか何かを読んでいるような気分――それが狙いなのかもしれないが――は終始感じられ、少し頭を切り替える必要はあったかもしれない。
不器用な二人の恋物語はもちろん、真紀恵の父や美晴の友人、真紀恵の花屋のアルバイトの涼子、それぞれの行きつけの店のオーナーたちという主人公以外の登場人物もキャラクターがしっかりしていて絶妙な味つけをしている。

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ボトルネック*米澤穂信

  • 2007/12/26(水) 19:46:39

ボトルネックボトルネック
(2006/08/30)
米澤 穂信

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懐かしくなんかない。爽やかでもない。
若さとは、かくも冷徹に痛ましい。
ただ美しく清々しい青春など、どこにもありはしない。
青春ミステリの旗手、最新書き下ろし長編。

恋人を弔うため東尋坊に来ていた僕は、強い眩暈に襲われ、そのまま崖下へ落ちてしまった。―はずだった。ところが、気づけば見慣れた金沢の街中にいる。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。どうやらここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。


高校一年の嵯峨野リョウは東尋坊にきていた。二年前、中学二年のときに突風に煽られ崖から落ちて死んだ諏訪ノゾミを弔うためである。そこへ母からメールが入った。大学受験に失敗し、自分探しの旅に出て事故を起こし意識不明だった兄が死んだという報せだった。
ノゾミに野の花を手向けたとき突然めまいに襲われ、目を覚ますとそこは金沢の自宅近くの浅野川の河川敷だった。
自宅には、生まれなかったはずの長女・サキがいた。どうやらここは、サキが生まれてリョウが生まれなかった世界のようだった。

リョウが元いた世界では、ノゾミは事故で亡くなり、両親は不仲で兄は死に、いいことなどなにもなかった。それに比べてサキのいる世界では、両親は和解して仲良くなり、兄も大学生になり、なによりノゾミが能天気といえるほど明るく生きているのである。リョウのいる世界とサキのいる世界、悪いことはすべてリョウのいる世界で起こり、サキのいる世界はサキの機転と想像力とでよい方へと動いているのである。好転している世界を目の当たりにしても、リョウにはそこに居場所はなく、そこでは彼のことを知る人は誰もいないのだ。リョウの無力感を思うと躰中が強張る心地がする。
そしてラスト・・・・・。せっかく元の世界に戻れたのに、追い討ちをかけるような母からのメールである。救いようもなく重い気持ちにさせられる。リョウに救いの手が差し伸べられることはあるのだろうか。あまりにもやりきれない。

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くうねるところすむところ*平安寿子

  • 2007/12/25(火) 17:27:14

くうねるところすむところくうねるところすむところ
(2005/05/25)
平 安寿子

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30歳にして人生どん詰まりの梨央。一目惚れしたとび職を追いかけて飛び込んだ工務店では、亭主に逃げられた女社長がぶち切れ寸前。なにがなんだか大混乱。それでも家は建てなきゃいけない。だって、お仕事なんだもん。


山根梨央・30歳。求人誌ハイヤードリーム社の副編集長という肩書きがあるとはいえ、山と詰まれた雑用をこなすだけのような日々と編集長との関係に嫌気が差し、ひとり酔っ払って建築現場の足場に上がったところで急に酔いが醒めて腰を抜かした。降りられずに困っているところを助けてくれたトビの田所徹男にメロメロになった梨央は、なんとか徹男に近づこうと頭をフル回転させるのだった。そしてあれこれあったのち、なんと梨央はハイヤードリーム社を辞め、徹男が仕事を請け負っている鍵山工務店に就職することに・・・・・。

テンポよくとんとんと物語りは進み、日々を倦んでいたはずの梨央の恋ゆえの変わりようも、あまりにも判りやすくて、メロメロになるほどに微笑ましくなる。30歳にして初恋乙女のようなのである。これほど手放しで人を好きになれる梨央がうらやましいくらいである。
そして、やはりこの恋ゆえに踏み込むことになった建築現場という未知の世界。施主との関係、職人同士の関係、さまざまな理不尽などは、建築業界に携わらないかぎり判らないことであり、そんな意味でも興味深い。
まるっきりの素人だった梨央に、次第に家というものへの愛が芽生えてくるのがこちら側にも伝わってきて胸をじんとさせる。
建築業界とも徹男とも、焦らず急がずよりよいあしたを築いていってほしいものである。

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いつか陽のあたる場所で*乃南アサ

  • 2007/12/24(月) 17:05:47

いつか陽のあたる場所でいつか陽のあたる場所で
(2007/08)
乃南 アサ

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ご近所の噂話にビクリとし、警官の姿を見てはドキリとする。
ワケあって下町は谷中で新生活を始めた芭子と綾香。
二人に降りかかる霧はいつの日か晴れるのだろうか。
熱烈な支持を集めた新シリーズ、単行本でいよいよ登場!


内容紹介にある「ワケ」とは、実は芭子と綾香が刑務所仲間だったということである。ホストに入れあげ、昏睡強盗を繰り返した芭子は、家族にも縁を切られ必要以上にビクビクと日陰を選ぶようにして暮らし、度重なる夫のDVが生まれたばかりのわが子に及びそうになり、思わず首を絞めて殺してしまった綾香は、明るくエネルギッシュに前向きに生きている。それでも、何のこだわりもなく話せるお互いはお互いにとってかけがえのない存在である。
近所のトラブルメーカーの老人夫婦、芭子の雇い主のマッサージ治療院の院長、綾香の職場の若い先輩パン職人、そしてなんと『ボクの町』『駆け込み交番』でお馴染みの高木聖大も交番の新入り巡査として登場するのである。彼らとのかかわりもハラハラドキドキさせられもして興味深い。
いつか陽のあたる場所でふたりが屈託なく笑える日はくるのだろうか。胸の中の闇がなくなることはないだろうが、少しでも前向きに生きられるようになることを祈らずにいられない。

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警官倶楽部*大倉崇裕

  • 2007/12/23(日) 16:52:11


警官倶楽部警官倶楽部
(2007/02/09)
大倉 崇裕

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二人の制服警官が悪徳宗教団体の裏金運搬車を襲撃! しかし、彼らは本物の警官ではなかった。鑑識、盗聴、銃撃など、本職顔負けの技を持つ警察愛好家サークルの一員だったのだ。ただ警察が好きなだけの善良なオタクたちがなぜ強盗を!? 現金奪取は成功するが、直後に仲間の息子が誘拐される。カルト教団の逆襲と闇金組織の暗躍、そして謎の誘拐犯……。事態は混迷を深め、騒動は思惑を超えて拡大した! 本格ミステリ界注目の気鋭が描くノンストップ・エンターテインメント快作誕生!
<本格ミステリの「巧(たく)み」とマニアの融合
ミステリ書評家・村上貴史(むらかみたかし)>
警官倶楽部奴等は単なるコスプレ野郎ではない。鑑識、尾行、銃撃戦など、各分野の達人からなるスーパー素人(しろうと)集団なのだ。
警官倶楽部による悪徳宗教団体からの現金奪取を契機に、事件が事件を呼び、闘(たたか)うべき相手は次々に増え、倶楽部も続々と専門家を投入し、騒動は雪だるま式に膨(ふく)れあがる……。本書は、自らもコロンボや怪獣のマニアとしてその心理を十二分に理解する大倉崇裕(おおくらたかひろ)が、本格ミステリ作家ならではの巧(たく)みな手綱(たづな)さばきで個性的な面々を突っ走らせたスピーディーで愉快で痛快なクライム・コメディだ。マニアが放つ熱い刺激に身悶(みもだ)えせよ!


マニアのパワーここにあり! というにふさわしい一冊である。普段はそれぞれに一般市民として仕事もしながら生活している人々が、一度警察オタクとして集合するとこうも強力なパワーを発揮するのかと目を瞠らされる。単独ではできないことをそれぞれの得意分野をフルに活かして結束すればもはや怖いものなしである。だがしかし、そんな彼らでも苦戦を強いられることがあったのだ。武器であるはずのマニアゆえの友情や恩義、信頼関係が思わぬ弱みになったりもするのである。痛快ドタバタ劇でありながら、ほろりとさせられもする物語である。

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青いリボン*大島真寿美

  • 2007/12/21(金) 17:17:41


青いリボン青いリボン
(2006/11)
大島 真寿美

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依子の両親は家庭内別居中。さらに、母親の長期出張が決まり、依子は親友・梢の家に下宿することに……。大家族の梢の家は、核家族の依子にとってはまるで外国。女子高生同士の友情と信頼の中に、家族とはなにかを問う、ふしぎな浮遊感ただようお話。


主人公は高校二年生の依子。小さい頃から家庭内別居状態の両親の間で育ってきたために、一家団欒を味わうこともなくある意味自分を抑えて生きてきた。父の転勤と母の上海出張を機に友人の梢の家の居候となってみて、我が家と梢一家の違いに目が眩むような日々を過ごす依子だった。
学校では学校の顔しか知らず、級友たちそれぞれにもそれぞれ違った家庭があるのだと改めて感じ、違う家庭にも違うなりの悩みがあるのだということにも気づくのだった。
ひんやりするようであたたかく、あたたかいようでときにきりっと冷たい不思議な感触の一冊だった。

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ツール& ストール*大倉崇裕

  • 2007/12/21(金) 13:04:06


ツール&ストールツール&ストール
(2002/08)
大倉 崇裕

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ある朝、殺人容疑をかけられた友人が飛び込んできて目が覚めた白戸君―「ツール&ストール」別の日は、怪我をした友人から突然頼まれた、怪しげな深夜のバイトに出掛け―「サインペインター」それなのにいつでも金欠君、預金残高51円の通帳を握りしめた横で銃声が!?―「セイフティゾーン」そんななか、やりくりして買ったばかりの携帯に、不穏な間違い電話―「トラブルシューター」同じ過ちは繰り返さないぞと心に誓いながらも、やっぱり万引き犯と間違えられる―「ショップリフター」さまざま事件に巻き込まれる、日本一運の悪いお人好し―白戸修・23歳やっぱり中野は鬼門なのか!?小説推理新人賞受賞作の表題作を含むユニークな「日常の軽犯罪」ミステリ5編を収録。


日本一、いや世界一のお人好し探偵といってもどこからも文句は出ないであろう白戸修君がこの物語の主人公である。一応彼がどの物語の中でも謎を解くのだから、白戸君のことを「探偵」と呼んで問題ないはずなのだが、どうしても被害者に見えてしまうのが哀しいところである。だが、そのお人好しのおかげで事件の謎の解決の糸口がつかめるのも確かなので、いいのか悪いのか・・・。
ともかく、愛すべきお人好しの白戸修君は きょうも厄介ごとに巻き込まれるのである。これからどんな情けないことに巻き込まれるのか、もっともっと見てみたいものである。

ちなみに、スリの世界では
ツールは、実際に掏り取る人間
ストールは、ツールが掏り取りやすいように煙幕を張る人間のことらしい。

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月の涙とアルゼンチン*竹内佐知子

  • 2007/12/19(水) 17:15:23


月の涙とアルゼンチン―南米移住悲喜劇を越えて月の涙とアルゼンチン―南米移住悲喜劇を越えて
(2004/04)
竹内 佐知子

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日本から最も遠い国、南米アルゼンチンへ旅と自由を愛する家族が移住した。首都ブエノスアイレスで異邦人が織りなすドタバタな日常、そして、突然の悲劇…。現地の食と音楽、生活文化をふんだんに盛り込んだ南米移住顛末記。


佐知子さんが裕二さんと出会った1985年、その後こんな未来が待ち受けていようとは彼らだけでなく誰も思わなかっただろう。生きることを全身全霊で愉しんだ裕二さんと、彼の大きさに包まれ守られて共に過ごし、世界を広げてこられた佐知子さん。おふたりが共に生きた二十年足らずの月日のなかには、なんと数え切れないほどの運命的な出会いと教示があったことだろう。扉を閉ざしたままでいたら見ることのできなかった景色を、ひとつまたひとつ扉を開けて目にしてきたことだろう。突然の裕二さんの死という悲劇に遭っても、その扉を閉ざさず さらに新しい扉を開き続ける佐知子さんに声援を送りたい心地である。
アルゼンチンでの人々の暮らしぶりにも興味を誘われる。

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カレンダーボーイ*小路幸也

  • 2007/12/18(火) 18:23:45


カレンダーボーイカレンダーボーイ
(2007/11)
小路 幸也

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3億円をふんだくれ!1968年、三億円強奪事件をきっかけに亡くなったクラスのアイドル里美ちゃん。寝て起きたら過去と現代を行き来する<ぼく>らは、彼女を救えるのか?


2006年、大学の事務局長の安斎武と同じ大学の教授の三都充は48歳。ある日二人は、1968年の同じ日に(頭の中身だけ)戻っていた。こうして彼らは、目覚めるたびに2006年の現在と1968年とを行き来するようになったのだった。
心と躰は小学五年生で、頭の中身だけが48歳という違和感になんとか慣れ、突然自分たちが置かれた状況を利用して、クラスメイトの里美ちゃんを助けるために知恵をめぐらすタケ(安斎)とイッチ(三都)。1968年に起こった三億円事件や、2006年で起こっている大学の理事長の不正も絡み、物語はただならぬ様相を呈してくる。
三億円を盗むことや里美ちゃん一家を救う場面は、あっけないくらいさらりとしか描かれていないが、そこに行き着くまでの想いの熱さと、成し遂げたあとの世界の切なさがなんとも言えない。結果としてはよかったのだろうが、ふたりにとってはあまりに切ないラストである。

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いっぺんさん*朱川湊人

  • 2007/12/17(月) 17:26:13


いっぺんさん (いっぺんさん)いっぺんさん (いっぺんさん)
(2007/08/17)
朱川 湊人

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いっぺんしか願いを叶えない神様を探しに友人と山に向った少年は神様を見つけることができるのか、
そして、その後友人に起きた悲しい出来事に対してとった少年の行動とは……。
感動の作品「いっぺんさん」はじめ、鳥のおみくじの手伝いをする少年と鳥使いの老人、
ヤマガラのチュンスケとの交流を描く「小さなふしぎ」、田舎に帰った作家が海岸で出会った女の因縁話「磯幽霊」など、
ノスタルジーと恐怖が融和した朱川ワールド八編。


表題作のほか、「コドモノクニ」 「小さなふしぎ」 「逆井水」 「蛇霊憑き」 「山から来るもの」 「磯幽霊」 「八十八姫」

ノスタルジーと恐怖の融和。まさに内容紹介にあるとおりの物語たちである。恐怖の淵から身を乗り出していて 何者かに引きずり込まれるような、底知れない恐ろしさをも感じさせられる。帰ってこない子ども、幸せとは程遠い結末。しかしラストへと向かうまでの物語は決して特別なものではなく、懐かしさすら覚えるような景色を見せるのだ。だからこそよけいに背筋が寒くなるのかもしれない。
読んだ者の心の隙間に入り込み、うしろめたさを隠そうとすると柔らかいところに刺さってくるような、不思議な怖さの一冊である。

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つくもがみ貸します*畠中恵

  • 2007/12/16(日) 08:52:14


つくもがみ貸しますつくもがみ貸します
(2007/09)
畠中 恵

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江戸の片隅、姉弟二人が切り盛りする「出雲屋」。鍋、釜、布団、何でも貸し出す店ですが、中にはちょっと妙な品も混じっているようで……妖怪たちが引き起こす騒動の数々、ほろりと切なく、ふんわり暖かい連作集。


妖が登場する物語、とはいっても「しゃばけ」シリーズとは違って出てくるのは付喪神だけである。さながら付喪神のオンパレードとでもいう風情で、さまざまなものに宿った付喪神たちの会話がたのしくもある。彼らは人間とは会話をしないという決まりを自らのうちに作り、出雲屋の姉弟とも言葉を交わしこそしないのだが、彼らに有用な情報はちゃんと届くように気を配っており、その関係の絶妙さはもどかしくもあるが微笑ましい。
お紅と清次の姉弟の微妙な関係の落ち着きどころや、軽いミステリ仕立ての出来事の行方と相まって、いくつもの愉しみを味わえる一冊である。

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秋の大三角*吉野万理子

  • 2007/12/14(金) 18:09:42


秋の大三角秋の大三角
(2005/12/15)
吉野 万理子

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根岸線に現れる「キス魔」という痴漢は憧れの先輩の彼氏だった!でもその怪しい男の正体は―。横浜を舞台に女子校生たちの不思議な経験を描いた学園ファンタジー。第1回新潮エンターテインメント新人賞。


横浜・元町にある中高一貫の女子校に通う中学二年の里沙が主人公。殺人的な朝のラッシュの電車内で痴漢にあったところを絶妙に助けられて以来、里沙は高校二年の真央先輩に憧れるようになった。ある日、彼女たちの間で噂になり始めていた「根岸線のキス魔」のことで知っていることがあったら教えて欲しいと真央先輩に頼まれ、里沙と真央の距離は少しだけ近づくのだった。そして近づいてみると、真央先輩にはたくさんの謎があったのだ。
女子校特有の空気感や横浜という街の独特の雰囲気がとてもよく描かれていて、そこで生きている少女たちの姿も現実感を持って伝わってくる。普通に考えればありえなそうな設定も、過去と未来が入り混じる横浜という場所だからか、さほど違和感なくすんなりと受け入れられ、少女たちの切なさばかりが際立って感じられるように思う。なにかを信じられることのあたたかさや安心感に満たされるような一冊である。

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グラデーション*永井するみ

  • 2007/12/13(木) 17:05:36


グラデーショングラデーション
(2007/10/20)
永井 するみ

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一つ一つ、迷ったらいい。歩き続けていれば、日々は色濃くなってゆくものだから。14歳の少女が、友人、家族、憧れの人との関係のなかで、一つずつ自分の感情を増やしてゆく――。進学や恋愛、就職の悩み……誰にでも訪れる当たり前のような出来事を、自分らしく受け止め、大人の入り口に立つ23歳になるまでを丁寧に辿る。いつかの自分を投影するような、心地よい等身大の成長小説。


真紀は、好きな男の子やアイドルの話題できゃーきゃー盛り上がる同級生のなかにいて、少しばかり居心地の悪さをおぼえる十四歳だった。高校・大学と進んでも、いつも自分の居場所が定まらないような自信のなさや迷いを抱えているのだった。
そんな真紀を遠く近く支えてくれた友人たちや出会った人たちとのかかわりのなかで、真紀は彼女なりに少しずつ成長していくのだった。

主人公の真紀は、華やかなわけでも目立つわけでもないどこにでもいそうな普通の女の子である。迷い、他人をうらやみ、自分を卑下する、どちらかといえば目立たないタイプの女の子。そんな真紀だからこそ、読者はどこかに自分のかけらを重ね合わせ、真紀と一緒に悩み考え、真紀と一緒に喜びながらページを繰るのだろう。そして、真紀を応援しながらこっそりと自分をも応援しているのだ。だから真紀にはしあわせな大人になってほしいのである。

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渋谷に里帰り*山本幸久

  • 2007/12/12(水) 17:06:38


渋谷に里帰り渋谷に里帰り
(2007/10)
山本 幸久

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渋谷は生まれてから小学6年生まで過ごしていた町。でも通っていた小学校は、すでに廃校。同級生の家を訪ねたが、そこは6階建てのビルになっている。しばらく散策するが、どうも過去との結びつきが見えずに、焦りすら感じる……。ウェブサイトの好評連載(2006年4月~2007年4月)を単行本化。


小学校六年まで過ごしたが、親の意向で祖父が興した「ミネザキパン」を畳み、渋谷を捨てて以来、峰崎稔にとって渋谷は鬼門だった。そんな彼が、寿退社する先輩社員・坂岡千秋の仕事を引き継ぐことになった。なんと彼女の担当は渋谷だったのだった。
覇気がない、感情表現が上手くない、やる気がない、いい加減、と評されている峰崎だったが、二十年ぶりの渋谷で、かつての同級生に会ったりすでに廃校になった小学校を見たりしながら、チアキさんに連れまわされて仕事をするうちに、少しずつなにかが変わっていくのだった。

峰崎が渋谷を鬼門にする理由が、小学生時代の経緯なので少し弱い気もするし、峰崎のグダグダさに比して周囲の好感度が低くないのも不思議な気はするが、お話としてはありそうな話であり、軽くさらっと読める一冊ではあるが、語りつくされていない感があるのも否めない。もしかすると続編を考えているからなのだろうか。

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ホテルジューシー*坂木司

  • 2007/12/12(水) 13:07:01


ホテルジューシーホテルジューシー
(2007/09)
坂木 司

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大家族の長女に生まれた柿生浩美=ヒロちゃんは、直情で有能な働きモノ。だがこの夏のバイト先、ホテルジューシーはいつもと相当勝手が違う。昼夜二重人格の“オーナー代理”はじめあやしげな同僚達や、ワケありのお客さんたちに翻弄される日々。怒りつつもけなげに奮闘するヒロちゃんにさらなる災難が…。注目の覆面作家がおくる、ひと夏の青春&ミステリ。


『シンデレラ・ティース』の姉妹作品。サキちゃんが苦手な歯医者さんでアルバイトしているそのとき、沖縄のホテルでアルバイトしていた友だちのヒロちゃんが本作の主人公である。
装丁からしてポークの缶詰である。まさにホテルジューシー――ジューシーは沖縄料理の炊き込みご飯や雑炊のことらしいが。
オーナー代理、お掃除係のクメばあとセンばあ、賄いの比嘉さん、そしてさまざまなお客さんたち。ひと癖もふた癖もある彼らとかかわり過ごすうちに、ヒロちゃんも少しずつ沖縄のときの流れに馴染んでいき、ひとつずつ人間というもののあれこれを学んでいくのだった。
夏休みがおわりに近づき、ヒロちゃんがホテルジューシーを離れなければならない日が近づいてくると、読者まで一緒になって離れがたい心持ちにさせられてしまう。それくらい心地好いホテルジューシーなのだった。

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ROUTE 134*吉野万理子

  • 2007/12/09(日) 20:43:03


ROUTE134ROUTE134
(2007/08/30)
吉野 万理子

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東京で業務委託の編集者をしている33歳の青山悠里(ゆり)は、担当しているイラストレーターのモンキー間中の引越し先の葉山へ打ち合わせのためにやってきた。実は葉山は悠里が小学校五年から中学三年までを過ごした場所だった。しかも忘れたいのに忘れられない出来事のあった・・・・・。
国道134号線沿いに感じのいいカフェを見つけ、近づいてみると「ROUTE 134」という店名だったので思わず入ってしまう。悠里は中学のころ杉山清貴のファンだったのだ。するとあろうことかその店のマスターはかつての同級生で、いちばん会いたくなかった夕樹だったのだ。
現在のROUTE 134で繰り広がられる人間関係と、そのなかに在って悠里がときにたち戻ってしまう過去の出来事とが交錯しながら物語りは進み、悠里の屈託のわけがなかなか明かされないのでもどかしさを感じるころにぽつりぽつりと中学時代のことが語られ、彼女の屈託が腑に落ちるのである。
飾り気のないさらりとした言葉で書かれた物語は、必要以上の装飾がない分ストレートに胸に響き、悠里やROUTE 134に集う人々の心に自然と読者を寄り添わせる。ただひとり、夕樹だけが最後の最後まで想いを外に漏らさないのだが、最後にその言葉が聞けてよかった。
大人も子どもも、ここぞというときにはきっちりと言葉にして主張しなければいけないのだなぁと、このひとつの物語のなかのいろいろな人から教わったような心地がする。

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ロック母*角田光代

  • 2007/12/09(日) 11:34:39


ロック母ロック母
(2007/06)
角田 光代

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【川端康成文学賞】身重で帰ってきた娘を迎えたのは、毎日ニルヴァーナを大音量で聞く母だった…。「ロック母」ほか、ぐれた娘が家に火を放って逃亡する「ゆうべの神様」など1992年から2006年に書かれた短編小説全7編を収録。


表題作のほか 「ゆうべの神様」 「緑の鼠の糞」 「爆竹夜」 「カノジョ」 「父のボール」 「イリの結婚式」

角田さんお得意の雑多で猥雑なアジアの一画の描写が盛りだくさんである。臨場感あふれるその感じは、実際に自分の足で歩き回らなければ描けないであろうにおいに満ちている。そして、日本が舞台の物語にもその同じにおいがわたしには感じられる。日々に倦み、過去を憎み、歪んだ何かをもてあますように生きている人々は、どこにいても同じにおいを発するのかもしれない。
まっすぐだから歪まされてしまうのか、はたまたもともとの歪みが進路を曲げるのか。よく判らないが、ともかく歪んだ人々の物語である。

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刺青(タトゥー)白書*樋口有介

  • 2007/12/06(木) 18:33:38


刺青(タトゥー)白書刺青(タトゥー)白書
(2007/02/21)
樋口 有介

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女子大生・三浦鈴女は、中学時代の同級生が相ついで殺害されたことに衝撃を受ける。彼女たちは二人とも、右肩に刺青痕があった。刺青同様に二人が消したかった過去とは何か。第一の、アイドル殺害事件のレポートを依頼された柚木草平は、鈴女たちの中学時代に事件の発端があるとみて関連性を調べ始めた――。鈴女の青春と、柚木のシニカルな優しさを描いた傑作、初文庫化で登場。


柚木草平シリーズとしては、番外編ともいえる一作のようである。柚木を一人称とする章と、鈴女の目を通して描かれる章とが交互に配置され、最後にひとつにより合わさっていく。
マイペースの典型ともいえる鈴女と、殺害されるかつての同級生たち、中学時代のいじめによる自殺事件・・・。人の心に刻み付けられた傷は、ある日ほんの些細なきっかけで破裂することがあるのだと、真犯人がわかったときにはやりきれなさでいっぱいになる。登場人物の多くは21歳という若者たちなのだが、彼らに若々しさを感じられないのはなぜだろう。抱えてしまったものの重さなのだろうか。

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桜宵*北森鴻

  • 2007/12/04(火) 17:12:49


桜宵桜宵
(2003/04)
北森 鴻

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今夜も《香菜里屋》で、ひとつ謎が明かされた。

旨いビールに、しゃれた酒肴。
そして何よりこの店には、事件を読み解く心がある。


事件のきっかけは不意に訪れる。

「桜宵」
一度訪ねてみてください。わたしがあなたに贈る最後のプレゼントです。

「犬のお告げ」
《悪魔のリストランテ》と異名をとる、リストラ要員選びのホームパーティを開いているそうだ。

「旅人の真実」
あの金色のカクテルに固執するお客は、あれから来ましたか。

「約束」
たった一つの旅の思い出、それがこの店なんですよ。


上記のほかに「十五周年」

三軒茶屋の裏路地にあるビアバー「香菜里屋」シリーズ第三弾。
もうすっかり自分までこの店の常連になった心地である。美味しい料理から立ち上る湯気の温かさに触れられさえするかのように親しく感じられてしまう。
だが今作は、いままでの二作よりも人間の裏側の昏い部分が多く描かれていたように思う。工藤が謎を解き明かすときに言いよどむ場面も多かった気がするのである。

池尻大橋の「バー香月」の香月と工藤のかかわりは今作でも明かされなかったが、いつか知ることができるのだろうか。

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オトナの片思い

  • 2007/12/03(月) 17:16:30


オトナの片思いオトナの片思い
(2007/08)
石田 衣良

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誰かに恋したら、次にどうすればよかったんだっけ…。今時の大人たちの、愛しくて、切なくて、すごく気になる片思いのカタチ。今をときめく男女11人の実力派作家たちが紡ぎ出す、珠玉の恋愛アンソロジー。


  「フィンガーボウル」  石田衣良
  「リリー」  栗田有起
  「からし」  伊藤たかみ
  「やさしい背中」  山田あかね
  「Enak!」  三崎亜記
  「小さな誇り」  大島真寿美
  「ゆっくりさよなら」  大崎知仁
  「鋳物の鍋」  橋本紡
  「他人の島」  井上荒野
  「真心」  佐藤正午
  「わか葉の恋」  角田光代


決して「大人の恋」ではない。あくまでも「オトナの片思い」が描かれた作品集である。それがなにより好もしい。
少女の恋と想いはそれほど異なることはないかもしれない。けれどその表わし方がまさしくオトナな片思いの物語たちである。切なくもしあわせで、明日を生きる力の源になるような、温かく熱く大きな片思いの詰まった一冊である。

正義のミカタ*本多孝好

  • 2007/12/03(月) 13:13:22


正義のミカタ―I’m a loser正義のミカタ―I’m a loser
(2007/05)
本多 孝好

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いじめられっ子の亮太は自分を変えようと「正義の味方研究部」に入部する。果たして亮太は変われるのか。いじめ、リストラ、格差。こんな社会で生きていかなきゃならない、将来が少し不安なあなたに贈る、書き下ろし青春小説。


筋金入りのいじめられっ子・蓮見亮太が、いままでの同級生など一人もいないだろうと選んだ大学に入学してまもなく、高校時代の宿敵とも言えるいじめっ子・畠田と出会ってしまい、案の定いじめの標的にされそうになる。そこに現れたのが、ボクシングでインターハイ三連覇の実力の持ち主・桐生友一だった。そして、友一に連れられて行った「正義の味方研究部」が亮太の学生生活を変えることになるのだが・・・・・。

痛快青春小説かと思いきや、そんな単純な物語ではなかった。前半部分はある意味 正義の味方の痛快物語とも言えて小気味よくさえあるのだが、後半ではその「正義」に身をおくことにことばに表わしようのない居心地の悪さを感じ始める亮太なのだった。
「正義の味方研究部」としての正義、ひとりひとりの胸の中の正義、それをどう現すか または現さずにいるか。読者は亮太と共に、さまざまな不公平や不満感、正義のあり方を感じながら過ごすのである。
筋金入りのいじめられっ子だった亮太がそこから抜け出せたわけではないが、ラストではなぜか一回り大きくなったように見えるのである。

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名探偵の奇跡

  • 2007/12/01(土) 16:49:38


名探偵の奇跡  最新ベスト・ミステリー (カッパ・ノベルス)名探偵の奇跡 最新ベスト・ミステリー (カッパ・ノベルス)
(2007/09/21)
日本推理作家協会

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2004~06年に発表された短編ミステリーを厳選し、テーマ別に編纂したベスト・アンソロジー。3カ月連続刊行の第1弾、テーマは「名探偵」。赤川次郎ほか、人気作家そろい踏み。名探偵の活躍がこの1冊に。


  赤川次郎  「地獄へご案内」
  芦辺拓  「裁判員法廷二〇〇九」
  有栖川有栖  「あるいは四風荘殺人事件」
  泡坂妻夫  「願かけて」
  大沢在昌  「雷鳴」
  北森鴻  「棄神祭」
  坂木司  「先生と僕」
  柄刀一  「デューラーの瞳」
  西澤保彦  「変奏曲<白い密室>」
  法月綸太郎  「四色問題」
  柳広司  「カランポーの悪魔」
  横山秀夫  「永遠の時効」


実際の登場人物はいわゆる探偵ばかりではないが、広い意味での名探偵勢ぞろいである。さまざまな名探偵がいて、さまざまな方法で謎を解明するのだが、どの名探偵にも共通して言えるのは、着眼点の鋭さと視点の柔軟さであろう。小さなことも見逃さず、何事にも囚われない姿勢こそが犯罪の尻尾をつかむのである。
この名探偵たちが同じ事件に出会ったとしたら、解決への道は名探偵の数だけあるのだろうか。見てみたい気がする。