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λに歯がない*森博嗣

  • 2008/01/31(木) 18:20:43

λに歯がない (講談社ノベルス)λに歯がない (講談社ノベルス)
(2006/09/06)
森 博嗣

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密室状態の研究所で発見された身元不明の4人の銃殺体。それぞれのポケットには「λに歯がない」と記されたカード。そして死体には…歯がなかった。4人の被害者の関係、「φ」からはじまる一連の事件との関連、犯人の脱出経路―すべて不明。事件を推理する西之園萌絵は、自ら封印していた過去と対峙することになる。ますます快調Gシリーズ第5弾。


このシリーズで初めて犀川先生が謎解きに有効な考えを提示したのが目新しかったくらいだろうか。真賀田四季に至る道筋はまだまだ全く見えてもこないし、密室殺人事件の方もまだ解決されるべき余地を残している。シリーズ最後の一作ではすっきりすることができるのだろうか。次作では何かはっきりするだろうかと期待しても、さらなる謎が現れるばかりでもどかしいことこの上ない。

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ほかに踊りを知らない。*川上弘美

  • 2008/01/30(水) 17:19:51

東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))
(2007/11/17)
川上 弘美

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七月某日 雨
ひさしぶりに、俳句をつくってみる。
破調の句である。
「ごきぶり憎し 噴きつけても 噴きつけても」

三月某日 晴
電車に乗る。隣に座っている人が、熱心にメールを打っている。つい、のぞきこむ。「愛されることへの覚悟が、私にはないのかもしれません」という文章だった。びっくりして、思わずじっとその人の横顔を見る。不思議そうに見返される。そんなにびっくりすることも、ないのかな。思い悩む。やっぱりびっくりしたほうがいいんじゃないのかな。思いなおす。
(本文より)

たんたんと、ちょっとシュールに、日々は流れゆく――。
ウソじゃないよ、五分の四はホントだよ。カワカミさんの日記、続いてます。

2004年~2007年分を収録した『東京日記』第2弾。


『卵一個ぶんのお祝い。』につづく川上さんの五分の四はほんとうの日記である。
子どもたちのことも少しだけ知ることができて、ふむふむ川上さんを母に持つ子どもらしいぞ、とにんまりしたり。遠い遠い関係の親戚の叔母さんの行動様式に、なぜか川上チックなところを発見してしまったり。感覚的にとても近しく思えるいろいろをうなずきつつ読み、行動的にあまりにも隔たったあれこれを驚きつつもほんの少しのあこがれを抱きながら愉しんだ。
また三年後・・・ということになるのだろうか。たのしみである。

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鏡の中は日曜日*殊能将之

  • 2008/01/30(水) 12:44:22

鏡の中は日曜日 (講談社ノベルス)鏡の中は日曜日 (講談社ノベルス)
(2001/12)
殊能 将之

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かくて閉幕――名探偵、最後の事件!
歪(いびつ)な館、梵貝荘(ぼんばいそう)の惨劇。名探偵の死にざま。

鎌倉に建つ梵貝荘は法螺(ほら)貝を意味する歪な館。主は魔王と呼ばれる異端の仏文学者。一家の死が刻印された不穏な舞台で、深夜に招待客の弁護士が刺殺され、現場となった異形の階段には1万円札がばらまかれていた。眩暈と浮遊感に溢れ周到な仕掛けに満ちた世界に、あの名探偵が挑む。隙なく完璧な本格ミステリ!


名探偵・石動(いするぎ)が、十四年前の梵貝荘事件の再調査を依頼され、調べるうちに次々と新事実が明らかになるという物語なのだが、描かれ方が実に込み入っている。
冒頭にある人物紹介には、十四年前の事件当夜梵貝荘にいた人々のものしかないのも混乱を助長する。読みながら頭の中に作り上げた人物のイメージを、幾たび消しては描き直さなければならなかったことだろうか。著者の作品は初読だったので、素直に読み始めたのでなおさらだったかもしれないが、それにしても見事にやられたものである。

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Bランクの恋人*平安寿子

  • 2008/01/28(月) 06:55:35

Bランクの恋人Bランクの恋人
(2005/10/16)
平 安寿子

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この世の中、愛にもいろいろありまして─恋人、夫婦、親子など様々な「愛しあう人達」の姿をユーモラスに描く、注目作家の短編集!


表題作のほか、「アイラブユーならお任せを」 「サイド・バイ・サイド」 「はずれっ子コレクター」 「ハッピーな遺伝子」 「利息つきの愛」 「サンクス・フォー・ザ・メモリー」

さまざまな愛の姿がユーモラスに描かれているのだが、決して笑って流してしまうだけのものではなかった。どの物語にも、タイトルから想い描く以上の重みというか味わい深さがあって、閉じていた目を開かされるような心地さえすることがあった。期待以上の一冊だった。

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東京居酒屋探訪*大道珠貴

  • 2008/01/26(土) 09:14:45

東京居酒屋探訪東京居酒屋探訪
(2006/09/21)
大道 珠貴

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酒を飲みに行って、つれづれなるままに書く。
自らの過去や制作上の秘密を酔いにまかせて赤裸々に告白する
生まれ故郷・博多でのこと、高校のときのデートの話、日々の生活……
いろいろな町の居酒屋で肴を食べ酒を飲みつつ書いた、待望の初エッセイ集
王子の名店で心地よさに浸る/千駄木・よみせ通りのくりから焼き/銀座の夜のそば居酒屋/都電に乗って三ノ輪の商店街へ/早稲田のおでん屋で青年とふれあう/駒込・六義園脇の絶品“上海チキン”/魚、魚、魚で漁師料理の三浦半島/木造の情緒あふれる神田の人気店/緊張感あふれる五反田の老舗洋食店体験/大人の町・新橋の美味と出逢う/春の宵、鎌倉の生しらすに舌鼓/ヨコハマの豚と「エンドレス・ラブ」/梅雨の高円寺、43度の古酒で暴走/吉祥寺・汗だく焼き鳥ナイト/秋のはじめの小旅行(北品川編)/薬草酒片手に西麻布で未知の味/港町・横須賀で、2週間ぶりの酒/パリの都で「末期の眼」/演歌の似あう町・築地で/桜吹雪舞う赤羽の夜、しみじみと/白金フレンチで最後の晩餐


単なる居酒屋紹介ではなく、過去現在未来取り混ぜた著者の生の声が飾ることなく綴られているのも興味深い。また取り上げられた食べ物たちの評され方に著者の独特のものさしが生きているのも面白い。

国境事変*誉田哲也

  • 2008/01/25(金) 18:28:15

国境事変国境事変
(2007/11)
誉田 哲也

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何者かが密かに上陸し、不穏な空気漂う長崎県対馬。東京・新宿の片隅で発生した在日朝鮮人殺人事件。捜査を巡り、対立する警視庁捜査一課と公安外事二課。己れの「信じるもの」を追い求め、男たちは国境の島へ向かった…。


「ジウ」のシリーズと系列を同じくする物語である。「ジウ」ほど生々しい暴力シーンは多くないが、北朝鮮が絡んだ事案であるだけに小説の世界の絵空事とは言い切れないという意味での生々しさはある。事実だといわれてもさほど不自然には感じないだろうと思われて、空恐ろしくさえある。
「ジウ」でも公安嫌いのはぐれ狼だった東弘樹が登場し、公安嫌いもはぐれ狼ぶりも相変わらずだが、公安警察官でありながらその体質に馴染みきれない川尻との間に束の間でも何かが通い合ったようにみえたのはわたしだけではないだろう。
事案の薄ら寒さを生身の人間の熱がほんの少しだけ救ってくれたような気がする。

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片眼の猿*道尾秀介

  • 2008/01/22(火) 19:36:11

片眼の猿 One‐eyed monkeys片眼の猿 One‐eyed monkeys
(2007/02/24)
道尾 秀介

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俺は私立探偵。ちょっとした特技のため、この業界では有名人だ。今はある産業スパイについての仕事をしているが、気付けば俺は、とんでもない現場を目撃してしまっていた…。サプライズマジシャンの大技・小技が冴えわたる!


映像では不可能な小説ならではの著者の企みにまんまと引っかかってしまった。ヒントはあちこちに散りばめられていたのに・・・。
物語の核となる事件自体は、さほど捻りもなくドタバタ劇とも言えるような場面もあったりで、難しいことはないのだが、登場の場面からひと癖もふた癖もある登場人物たちの描かれ方に愛が感じられて心地好い。
後半で、ひとつひとつ種明かしされていくたび『そうか、なるほどそうだったのか」といちいち納得させられるのも愉しかった。

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ηなのに夢のよう*森博嗣

  • 2008/01/22(火) 07:31:34

ηなのに夢のよう (講談社ノベルス)ηなのに夢のよう (講談社ノベルス)
(2007/01/12)
森 博嗣

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地上12メートルの松の枝に首吊り死体が!
遺されていたのは「ηなのに夢のよう」と書かれたメッセージ。
不可思議な場所での「η」の首吊り自殺が相つぐなか、
西之園萌絵は、両親を失った10年まえの
飛行機事故の原因を知らされる。
「φ」「θ」「τ」「ε」「λ」と続いてきた一連の事件と
天才・真賀田四季との関連は証明されるのか?
Gシリーズの転換点、森ミステリィ最高潮!


Gシリーズ第六弾。
『λに歯がない』を抜かしてしまったことに「η」を読み終えてから気づいた。
だが、本作もまだ目的地からは程遠い旅の途中の感じである。たどり着きたいのはどこなのだろう。真賀田四季?だとしたら、結末などないのではないだろうかという思いも頭をよぎる。深い深い森の奥にずんずんと迷い入ってしまう心地でもある。

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狐闇*北森鴻

  • 2008/01/21(月) 13:54:22

狐闇狐闇
(2002/06)
北森 鴻

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「魔鏡」……か。
幻のコレクションを巡り、暗躍する古美術商たち。贋作作りの疑いをかけられ、苦境に立つ旗師・陶子。1枚の鏡に隠された謎。

「眼が開きやがったか」芦辺が無造作にいった。
「……眼……ですか」
「やれ古陶が専門だとか、浮世絵なら誰にも目利きは負けねえだとか、くちばしの青い連中が囀(さえず)っちゃあいるが、そんなものは正真の目利きでもなんでもねえ。この世界で本当に適用するのは、良い物と悪い物を見極める眼、ただそれ1つッきりしかねえのさ」――(本文より)


冬狐堂を名乗る古物商・宇佐見陶子のシリーズ二作目。
常連客からの依頼で競り落とした青銅鏡がなぜか三角縁神獣鏡に摩り替わっていたことから事件の波に呑まれていく。蓮丈那智フィールドファイルⅡとも連動しており、同じ時間軸を進む事件に別の角度からアクセスした物語でもあり、それぞれ独立しているのだが、両者を併せて初めて納得できることもたくさんあるのである。
蓮丈那智も香菜里屋も登場し、実際に存在する世界をのぞいているような錯覚さえ抱かされる。
しかし物語りのスケールは壮大であり隠密的であり、歴史を覆す可能性をも秘めて恐ろしくもある。歴史は苦手なので、実際にどれほど現実性があるのかは判断することができないが、想像力をかきたてられるのは事実である。

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εに誓って*森博嗣

  • 2008/01/19(土) 16:35:10

εに誓って (講談社ノベルス)εに誓って (講談社ノベルス)
(2006/05/10)
森 博嗣

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山吹早月と加部谷恵美が乗車していた東京発中部国際空港行きの高速バスがジャックされた。犯人グループは、都市部に爆弾を仕掛けたという声明を出していた。乗客名簿には《εに誓って》という名前の謎の団体客が。《φは壊れたね》から続く不可思議な事件の連鎖を解く鍵を西之園萌絵らは見出すことができるのか?最高潮Gシリーズ第4弾。


山吹早月と加部谷恵美が乗った高速バスがジャックされるといういやがうえにも緊張感が高まる展開の今作である。いちはやく警察関係者から情報を仕入れた探偵・赤柳初朗が山吹の部屋にいる海月のもとに知らせに行き、西之園萌絵も加わってもどかしい一夜を過ごすのである。バスジャック犯は組織立っているようで犯人も至極丁寧であり、乗客たち――インターネットのサイト「εに誓って」の元に集まった人たちらしい――もとても落ち着いていて加部谷は少し訝しく思ったりもしている。
携帯電話の使用は禁止されていないので、折に触れてバスの中の二人と萌絵たちとがやり取りすることもでき、それがよけいに錯覚を深めることにもなったのだろう。とにかく大掛かりな仕掛けに見事引っかかってしまった。トンネル内での犯人の呼びかけの場面まで、錯覚にまったく気づかずにいたのである。やられた、という感じ。森ミステリには珍しい趣向かもしれない。

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不思議の足跡*日本推理作家協会編

  • 2008/01/18(金) 17:00:08

不思議の足跡  最新ベスト・ミステリー (カッパ・ノベルス)不思議の足跡 最新ベスト・ミステリー (カッパ・ノベルス)
(2007/10/20)
日本推理作家協会

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短編集は売れない?          日本推理作家協会常任理事 福井晴敏  

 小説短編集は売れないと言われる。複数作家によるアンソロジーとなると、さらに敬遠されがちになるのが実情だ。かく言う筆者も、どうせ読むならドシンと重たい長編を、と思ってしまう。
 が、ご存知だろうか? 世に傑作と謳われる映画の多くは、短編小説を原作としている事実を。発想と構成という点において、作り手が投入するエネルギーは長編も短編も変わらないのだということを。本書に収録された玉編の中に、十年後の伝説が潜んでいる可能性は十分にある。決めるのは時間、確かめるのはあなただ。


  伊坂幸太郎 「吹雪に死神」
  石持浅海  「酬い」
  恩田 陸  「あなたの善良なる教え子より」
  鯨 統一郎 「ナスカの地上絵の秘密」
  桜庭一樹  「暴君」
  柴田よしき 「隠されていたもの」
  朱川湊人  「東京しあわせクラブ」
  高橋克彦  「とまどい」
  畠中 恵  「八百万」
  平山夢明  「オペラントの肖像」
  松尾由美  「ロボットと俳句の問題」
  道尾秀介  「箱詰めの文字」
  宮部みゆき 「チヨ子」
  山田正紀  「悪魔の辞典」
  米澤穂信  「Do you love me?」


不思議がたくさん詰まった一冊である。
ひと口に不思議といってもさまざまな色や手触りや形があるものだと改めて思わされるラインナップでもある。この世ならぬ不思議、視点による不思議、不気味さを内包する不思議・・・などなど。
不思議の森を探検するような読書のひとときだった。

触神仏――蓮丈那智フィールドファイルⅡ*北森鴻

  • 2008/01/16(水) 17:42:41

触身仏―蓮丈那智フィールドファイル〈2〉触身仏―蓮丈那智フィールドファイル〈2〉
(2002/08)
北森 鴻

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異端にして孤高の民俗学者・蓮丈那智の元に「『特殊な形状の神』を調査して欲しい」との手紙が届いた。神とは「即身仏」のことらしい。類例のない情報に興味を示し、現地に赴いた那智と助手の三国だが、村での調査を終えたのち、手紙の差し出し人が謎の失踪を遂げてしまう―(表題作)。日本人の根底にある原風景を掘り起こす「本格民俗学ミステリ」。待望の第二弾。


表題作のほか、「秘供養(ひくよう)」 「大黒闇(だいこくやみ)」 「死満瓊(しのみつるたま)」 「御蔭講(おかげこう)」

異端にして孤高、しかも美形の民俗学者・蓮丈那智のもとには相変わらず興味深げで怪しげな事案が舞い込んでくる。助手の内藤三國の反応もいつもどおりであり、すっかりパターン化しているのだが、そこがまたこのシリーズの魅力にもなっている。「ミクニ、しっかり!」とさまざまな意味をこめて応援したくなるのである。
教務課の狐目の男の正体(?)も判明し――相変わらず名前がないのは理由があるのだろうか――親しみ深くなり、――ミクニにとってはいいのか悪いのか判らないが――頼り甲斐さえ感じられるようになった。
この一冊で蓮丈那智は幾度か災難に遭い入院するのだが、痛々しさも弱々しさも微塵も感じさせず、アンドロイド説に一票を投じたくなりもする。まったくどういう人なのだろう。それがいちばんの謎かもしれない。

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俺が俺に殺されて*蒼井上鷹

  • 2008/01/16(水) 07:18:55

俺が俺に殺されて (ノン・ノベル 830)俺が俺に殺されて (ノン・ノベル 830)
(2007/06/01)
蒼井 上鷹

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俺は絞殺された。よりによって世界で一番嫌いな男、バイト先のバーのマスター・別所にだ。だが、なぜか俺の魂は昇天せず、よりによって別所の体に飛び込んでしまった。俺は自分を殺した罪で捕まってしまう!?そんな不条理な!俺の死体を呆然と見つめる俺。しかしその頃、俺を追い込むもう一つの殺人が起きていた。その容疑者が別所なのだ。別所のアリバイを証明すれば俺は殺人で捕まってしまうし、結局真犯人を見つける以外には窮地を脱する道はない。果たして俺は俺を救えるのか?「小説推理」新人賞受賞の新鋭が挑む、傑作絶対絶命・無理難題ミステリ。


殺されたとたん、その殺人者本人で世の中で最も嫌いな男の躰に魂が乗り移ってしまったとしたら・・・・・、という荒唐無稽さは著者らしい。だが、事件に関する謎解きがすべて見かけは別所 魂は英次である「俺」の想像なので、ミステリとしてはすっきりと腑に落ちない気がしなくもない。真相はもっと別のところにあるのかもしれないと勘繰ってしまいもするのである。

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HEARTBLUE*小路幸也

  • 2008/01/14(月) 18:47:07

HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア 40)HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア 40)
(2007/12)
小路 幸也

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ある虹の朝、ニューヨーク市警の失踪人課の男のもとへ、一人の少年が訪ねてきて言った。「ペギーがいなくなったんだ」と。彼の捜す少女は、一年ほど前から様子がおかしかったというのだが―一方、男の知り合いであるCGデザイナーの日本人の青年も、ふとしたきっかけからある少女の行方を追い始める。二人がそれぞれ動いた末に明らかになった真実とは―想いあう気持ちがみちびいた、哀しい現実に胸が締めつけられる、小路幸也待望の書き下ろし長編。


真面目な失踪人課の警察官であるダニエル・ワットマンを主人公とする「man in blue」と、CGデザイナー巡矢(めぐりや)を主人公とする「man on the street」が交互に描かれ、ラストに向かってひとつに収束していく。彼らは偶然――とは言い切れないのかもしれないが――別の方向から同じひとつのことを追い、迫り、辿り着いてしまったのである。
登場人物たちの背負っているものがあまりにも重く、またたどり着いた真実は哀しく切ないが、そこに至るまでにかかわった人々との関係を思うと胸に温かいものが流れる。

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τになるまで待って*森博嗣

  • 2008/01/13(日) 17:14:16

τになるまで待って (講談社ノベルス)τになるまで待って (講談社ノベルス)
(2005/09/06)
森 博嗣

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森林の中に佇立する《伽羅離館》。超能力者神居静哉の別荘であるこの洋館を、7名の人物が訪れた。雷鳴、閉ざされた扉、つながらない電話、晩餐の後に起きる密室殺人。被害者が殺される直前に聴いていたラジオドラマは『τになるまで待って』。ミステリーに森ミステリィが挑む、絶好調Gシリーズ第3弾!!


Gシリーズ第三弾。
シリーズの中盤に位置する本作は、中継ぎのような趣である。これ一冊では消化不良を起こす読者も少なくないのではないだろうか。人里離れた館の密室で殺人事件が起き、トリックは犀川によってあっけなく解かれるが、犯人はまだ特定されていないのだから・・・・・。
謎の宗教団体MNIや真賀田四季の影が、シリーズの回を追うごとに色濃くなってはくるのだが、どこでどう繋がってくるのかもいまのところまだはっきりしない。
著者の作品は、全体として「森ワールド」とも呼ぶべきもので、もしかするとすべてが何かしらの繋がりを持っているのではないかと思わせられもする。
それにしても、萌絵ちゃんの叔母・佐々木睦子さんもなかなか見過ごせない人物かもしれない。

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θは遊んでくれたよ*森博嗣

  • 2008/01/12(土) 10:02:05

Θ(シータ)は遊んでくれたよ (講談社ノベルス)Θ(シータ)は遊んでくれたよ (講談社ノベルス)
(2005/05/10)
森 博嗣

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飛び降り自殺とされた男性死体の額には「θ」と描かれていた。半月後には手のひらに同じマークのある女性の死体が。さらに、その後発見された複数の転落死体に印されていた「θ」。自殺?連続殺人?「θ」の意味するものは?N大病院に勤める旧友、反町愛から事件の情報を得た西之園萌絵らの推理は…。好調Gシリーズ第2弾。


Gシリーズ第二弾。
「θ」でなければならない必然性がいまひとつな気はするが、キャラクターが粒ぞろいなので読み物としては面白い。
犀川先生は、彼を主に描いたS&Mシリーズでもあの掴みどころのなさなので、脇役に過ぎないこのシリーズではなおさらよく判らない人物になっている。このシリーズから読み始めた読者は、きっと犀川先生を好きになれないだろう。
萌絵ちゃんも、大人になったこともありなにかをふっきってなにかを諦め、違う段階に進んだ感があり、当然犀川先生との関係も別次元に移行した感じである。あまり面白くないなぁ・・・。
今作で興味深いのはやはり海月君。彼がしゃべるとき、物語は動く。目が離せないのである。

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天才探偵Sen―公園七不思議*大崎梢

  • 2008/01/11(金) 07:04:33

天才探偵sen公園七不思議 (ポプラポケット文庫 63-1)天才探偵sen公園七不思議 (ポプラポケット文庫 63-1)
(2007/11)
大崎 梢

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テストはいつも満点。成績は学年一。診断テストも決まってトップ。他人はぼくのことを天才という。みんなにいわれてしかたなく探偵することになったけど、ぼくが本気になったら解けない謎はない!

<人物紹介>
渋井千:さつき小始まって以来の天才六年生。弱点は大人のきれいな女の人。
香奈:千の幼なじみ。おしゃべり大好きしっかり者。
信太郎:千の幼なじみ。王子さまのような見た目で気が弱い。
マナミ:香奈を姉のようにしたう、五年生。
敦也:マナミの兄。腕力じまんで妹想い。
万希先生:保健室の先生。千のあこがれの人。
美幌沢和人:フリーライター。


小学生三人組の探偵ごっこなのだが、少し違うのは、リーダー格の千が天才的な頭脳を持っていること――ちょっとコナンっぽい。ゆえに、探偵ごっことはいえ実にしっかり手順を追って、想像力と推理力を働かせて謎を解いてしまうのである。
万希先生にメロメロなのを隠しもせずににやけてしまうところがまた完璧すぎる冷たい天才少年ではなく好感が持てたりもする。
著者初の児童書ということで、千君たちと同年代の少年少女の人気者になりそうである。

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凶笑面――蓮丈那智フィールドファイルⅠ*北森鴻

  • 2008/01/10(木) 18:28:37

凶笑面―蓮丈那智フィールドファイル〈1〉 (新潮文庫)凶笑面―蓮丈那智フィールドファイル〈1〉 (新潮文庫)
(2003/01)
北森 鴻

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“異端の民俗学者”蓮丈那智。彼女の研究室に一通の調査依頼が届いた。ある寒村で死者が相次いでいるという。それも禍々しい笑いを浮かべた木造りの「面」を、村人が手に入れてから―(表題作)。暗き伝承は時を超えて甦り、封じられた怨念は新たな供物を求めて浮遊する…。那智の端正な顔立ちが妖しさを増す時、怪事件の全貌が明らかになる。本邦初、民俗学ミステリー。全五編。


表題作のほか、「鬼封会(きふうえ)」 「不帰屋(かえらずのや)」 「双死神(そうししん)」 「邪宗仏(じゃしゅうぶつ)」

美貌と才能を併せ持つ異端の民俗学者・蓮丈那智シリーズの一作目である。
どの物語も民俗学的にもミステリ的にも興味深いものであり、故に蓮丈那智を惹きつけ、助手である内藤三國を悩ませるのである。絶対的な存在である蓮丈那智と彼女に信頼されているのだからもちろん有能なのだろうが、どこか三枚目的な要素のある内藤三國のコンビが絶妙である。内藤三國あってこその蓮丈那智である、といってしまっては言いすぎだろうか。
「双死神」では思いがけず、あの三軒茶屋の路地の奥のビアバーも登場し、あぁ蓮丈那智もここにきたのだと思わずうれしくなってしまった。

法月綸太郎氏の解説で興味深いつながりが示されているので、そちらもぜひたどってみたい。

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殺戮にいたる病*我孫子武丸

  • 2008/01/08(火) 20:59:53

殺戮にいたる病 (講談社ノベルス)殺戮にいたる病 (講談社ノベルス)
(1994/08)
我孫子 武丸

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惨殺、そして凌辱――。何ものかに憑き動かされるように次々と猟奇殺人を重ねていった男の名前は蒲生稔! 冒頭の“エピローグ”で示される事実が、最終章であっと驚く意外な変容を遂げる。異常犯罪者の心の軌跡をたどりながら、想像力の欠如した現代人の病巣を抉る、衝撃のサイコ・ホラー。


まず目を瞠るのは、エピローグが冒頭に配されていることである。一連の猟奇殺人の犯人・蒲生稔が逮捕される場面である。
そう、犯人は冒頭で明らかにされているのである。その後に、逮捕に至るおぞましすぎる経緯がつづくのである。あまりにも凄絶な描写は途中で読むのをやめようかと思ったほどである。
しかし最後の最後、一瞬にして事件は違う様相を見せるのである。それまで見せられてきたおぞましさをさらに超えた目を覆いたくなるような結末である。

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マザコン*角田光代

  • 2008/01/08(火) 07:28:50

マザコンマザコン
(2007/11)
角田 光代

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母と子の関係は唯一のもの。だれもがマザコンなのかもしれない。母と娘、母と息子、父と娘、夫と妻、恋人同士、それぞれの関係の微妙な変化…。淡くもあり濃密でもある人とのかかわりを切なく描く作品集。


表題作のほか、「空を蹴る」 「雨をわたる」 「鳥を運ぶ」 「パセリと温泉」 「ふたり暮らし」 「クライ、ベイビイ、クライ」 「初恋ツアー」

地位、環境、性別、性格、などなど・・・、どれほど違っていようと誰にでも必ず母はいる。そして母がいる限り誰もが母を意識することなく生きることはできないのだろう。良くも悪くも。そんな母と子を子の側から語った物語たちである。
ときに辛辣に、ときにほのぼのと、懐かしさや後悔や哀れみや尊敬を抱え込み、母は生きている限り身の内のどこかに在りつづけるものなのだ、という圧倒的な存在感を思わされずにはいられない。

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親不孝通りラプソディー*北森鴻

  • 2008/01/06(日) 16:57:33

親不孝通りラプソディー親不孝通りラプソディー
(2006/10/17)
北森 鴻

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一九八五年、博多の町を騒がすコンビ、鴨志田鉄樹(通称テッキ=俺)と根岸球太(通称キュータ=オレ)の二人。美人局に引っかかったキュータは、地元信金の裏金を奪う計画をテッキに持ちかける。キュータの友人が、警察の射撃訓練場で拾った弾丸を現場に残し、捜査の矛先を鈍らせる計画であった。無謀な計画をテッキに断られたキュータは、山沢組の下っ端で、組内で不始末をしでかした鈴木恭二(キョウジ)と組んで強盗を決行。首尾よく一億二千万円を手にするが、そこから歯車が狂い始めた。残された弾丸があぶり出す警察の裏事情、一連の計画の裏で糸を引く謎の人物、金を狙う山沢組、さらに脱北者グループも絡んで博多は危機のてんこ盛り。テッキとキュータに明日はあるのか―?1985年の博多を舞台に、危険と謎が絡み合うCRIME MYSTERY。


なんというか、疲れました。些かハンパな高校生コンビ+αが意図したりしなかったりで巻き起こすうねりにあっちもこっちも呑み込まれつつ流れていくような物語である。
友情物語でもなく――ときどき絆が感じられもするが、純然たるバイオレンスでもなく、ミステリと言ってしまっていいのかは判断に悩む。結局彼らのしたことは闇に葬られてしまったわけだし・・・・・。男の子はこういうむちゃくちゃ物語、好きなのでしょうか。
博多が舞台で博多弁が飛び交うところはいい味を出していると思うが、高校生である彼らにとっても博多という街にとっても、とてつもなく不幸な物語な気がするのはわたしだけだろうか。

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すずめのほっぺはなに色ですか?*阿川佐和子 編

  • 2008/01/04(金) 10:20:04

教えて!gooの本 すずめのほっぺはなに色ですか? 阿川佐和子編????教えて!gooの本教えて!gooの本 すずめのほっぺはなに色ですか? 阿川佐和子編????教えて!gooの本
(2006/06/15)
阿川 佐和子

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ポータルサイトの人気コーナー、質問総数約200万件から25の面白Q&Aを厳選。阿川さんに全部ぶつけてみました。「ふむふむ、へえ」のアガワ超絶見解が続出! Q 電車の乗務員が仕事中どうしても便所にいきたくなったら?/Q いつまで「おねえさん」?いつから「おばさん」?/Q プラトニックでも不倫ですか?/Q 「美人は3日で飽きる」と申しますが、本当でしょうか?/Q 男の人にお金を払ってもらう時、どこにいたらいい?/奈良時代の日本人と私は「話し言葉」で会話できますか?/Q 「自分探し」で、見つかった人いますか?/Q 飛行機の座席でB列F列がないのはなぜ?


「教えて!goo」のQ&Aを通して阿川さんの一面を知る一冊、といった趣である。
Q&A自体は、「教えて!goo」のサイト内ですでに完結しているので、その内容を肴にした気楽なおしゃべりとでもいった雰囲気である。
要所要所に差し挟まれたフジモトマサル氏による四コマ漫画が、ずばり的を射ていて痛快である。

φは壊れたね*森博嗣

  • 2008/01/03(木) 16:51:01

φは壊れたね (講談社文庫 も 28-34)φは壊れたね (講談社文庫 も 28-34)
(2007/11)
森 博嗣

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おもちゃ箱のように過剰に装飾されたマンションの一室に芸大生の宙吊り死体が!
現場は密室状態。死体発見の一部始終は、室内に仕掛けられたビデオで録画されていた。
タイトルは『φは壊れたね』。
D2大学院生、西之園萌絵が学生たちと事件の謎を追及する。


Gシリーズの一作目。
著者のシリーズ物は読み始めるのに多少パワーがいるので、しばらくご無沙汰していたのだが、やっとGシリーズに取り掛かってみることに。
まず感慨深いのは、あの萌絵ちゃんが大学院生になってすっかり大人になっていること。犀川先生とのその後はどうなっているのかにも興味は向くのだが、それほど進展があった様子もなく、今作で犀川先生は電話の応対のみの登場であり、ちょっぴり物足りなくもある。そもそも、萌絵ちゃんも登場はするものの、警察と学生たちとの橋渡し的な役割でしかなく、大学生時代の奔放な活躍が見られなかったのも残念。
事件自体は、現場の状況の特異性には目を引かれるが、面白みはいまひとつといったところ。
いちばんの注目は、海月くんだろうか。

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天使の耳*東野圭吾

  • 2008/01/01(火) 16:33:12

天使の耳 (講談社文庫)天使の耳 (講談社文庫)
(1995/07)
東野 圭吾

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深夜の交差点で衝突事故が発生。信号を無視したのはどちらの車か。死んだドライバーの妹が同乗していたが、少女は目が不自由だった。しかし、彼女は交通警察官も経験したことがないような驚くべき方法で兄の正当性を証明した。日常起こりうる交通事故がもたらす人々の運命の急転を活写した連作ミステリー。


表題作のほか、「分離帯」 「危険な若葉」 「通りゃんせ」 「捨てないで」 「鏡の中で」という六つの交通事故がらみの連作短編集。
六つの交通事故に共通しているのは、その原因が、ともすると誰でもが軽い気持ちでやってしまいそうなことだという点である。路上駐車だったり、空き缶のポイ捨てだったり、無理な横断だったり・・・・・。そしてそれを犯した本人は、たいていの場合その瞬間に自分のしたことなど忘れてしまっているのである。だからこそ、被害者の憎しみもやり場を失くしていや増すのかもしれない。
本作は、『交通警察の夜』として1991年に出版されたものが改題されているのだが、携帯電話が登場しないくらいで、そのほかはまったく古びていない。しかも、著者特有の捻れや、(読者にとって)いい意味での裏切りが盛り込まれていて嬉しくもある。

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