鬼*今邑彩

  • 2008/03/31(月) 17:15:17

鬼
(2008/02)
今邑 彩

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「みっちゃんに会った」と言い残して死んだ友人達。そんなはずない。だって、みっちゃんは…。言葉にできない不安感。おさまりのつかない気持ち悪さ。表題作を含む、誰をも奇妙な世界に誘い込む8編を収録した短編集。


表題作のほか、「カラス、なぜ鳴く」 「たつまさんがころした」 「シクラメンの家」 「黒髪」 「悪夢」 「メイ先生の薔薇」 「セイレーン」

普段何気なく歩いている道からほんの少し逸れただけで見ず知らずの風景に取り囲まれる心地になることがある。本作はそんな居心地の悪さと心許なさに薄ら寒さを覚える物語たちでいっぱいである。
しかも、ものすごく近いところにいつの間にか「死」が寄り添っていて、後ろからすっと腕を掴まれるようなうそ寒さをも感じるのである。

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支那そば館の謎*北森鴻

  • 2008/03/30(日) 16:58:12

支那そば館の謎支那そば館の謎
(2003/07/18)
北森 鴻

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元広域窃盗犯にして寺男の有馬次郎と、穏やかな相貌と鋭い観察眼をあわせもつ住職の二人が、みやこ新聞の自称「エース記者」折原けいや、京都府警の碇屋警部と共に難事件の謎に迫る! 京の風情と人情と、密やかな悪意と。傑作本格推理!
誰も知らないミステリアス京都をご案内します。


表題作のほか、「不動明王の憂鬱」 「異教徒の晩餐」 「鮎躍る夜に」 「不如意の人」 「居酒屋 十兵衛」

一度も捕まった事のない元広域窃盗犯・有馬次郎が探偵役のシリーズである。泥棒に肩入れするのもなんだが、有馬次郎の冷静さと勘のよさは魅力的である。のどかな寺男としての「僕」と、かつての裏稼業の思考回路である「俺」との外からはうかがい知れないスイッチの切り替えが、なんともいえず小気味よい。そして、大悲閣の住職の含蓄のあるひとことサジェスチョンがなんとも味わい深いのである。
コメディタッチながら、しっかりとミステリであり、人情物語でもあり、おいしい料理をも味わえる――文字でだけだが――お得な一冊である。

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図書館革命*有川浩

  • 2008/03/29(土) 08:54:57

図書館革命図書館革命
(2007/11)
有川 浩

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年始、原子力発電所を襲った国際テロ。それが図書隊史上最大の作戦の始まりだった。遂にメディア良化法が最大の禁忌に手をかける。図書隊は良化法の横暴を阻止できるのか…。『図書館戦争』シリーズ、堂々の完結編。


これも完結してしまいましたねぇ。ずっと一緒に突っ走ってきた気分なので、なんだか祭りのあとの心地。
表現の自由を守るべくメディア良化委員会の暴挙を阻止しようと闘う図書特殊部隊(ライブラリー・タスクフォース)の活躍と、一話目から遅々として進まない堂上と郁の関係を二本の柱として物語りは進む。まったく違うこの二本の柱なのだが、どちらかに重心が傾くこともなく、まことに上手い具合にひとつの物語になっているところがさすがである。
堂上と郁に関しては、一話目から結末は読者誰もが想定済みだったと思うが、それを裏切らなかった著者に拍手を送りたい。ただ、個人的には、エピローグの手前までで充分だったのではないかという気もする。あとがきに書かれている著者の最初の意図のままの方が余韻を愉しめたのではないかとも思うのである。

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夕子ちゃんの近道*長嶋有

  • 2008/03/28(金) 07:06:06

夕子ちゃんの近道夕子ちゃんの近道
(2006/04/27)
長嶋 有

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アンティーク店フラココ屋の二階で居候暮らしをはじめた「僕」。どうにも捉えどころのない彼と、のんきでしたたかな店長、大家の八木さん、その二人の孫娘、朝子ちゃんと夕子ちゃん、初代居候の瑞枝さん、相撲好きのフランソワーズら、フラココ屋周辺の面々。その繋がりは、淡彩をかさねるようにして、しだいに深まってゆく。だがやがて、めいめいがめいめい勝手に旅立つときがやってきて―。誰もが必要とする人生の一休みの時間。7つの連作短篇。


物語り全体に漂う なにか寂しげで地面からほんの少し浮かんだままのような心もとなさは、フラココ屋のアルバイトで二階に居候している「僕」がどこの誰ともわからないことがいちばんの理由だろう。いつでもどこへでも行ってしまえる不安定さを、しかしフラココ屋の店長は危ぶむでもなく大事な仕事を任せているのが不思議でもあるが当然であるようにも思えてしまう。
フラココ屋というちっとも儲かっているようには見えない古道具屋が、普通に暮らしながらもそれぞれに寂しさを抱えている登場人物たちをゆるく束ねていて、安心させられる。
タムラフキコさんの装画が物語の雰囲気をとてもよく表わしていると思う。
切なく寂しく、それでいてほっとあたたかくなるような一冊である。

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まあ、そこへお坐り*山藤章二

  • 2008/03/26(水) 17:43:05

まあ、そこへお坐りまあ、そこへお坐り
(2003/08/08)
山藤 章二

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当代一の「戯れ絵師」は,気は弱いのに頑固でパソコン嫌い.年をとるに従って,あまりに早すぎる日本の変化に違和感を覚えるようになり,「ずれ爺」と自称している.芸能,スポーツ,人情,流行語,言葉遣いから政治まで,「なんだかよくわからないけど世の中ヘンだぞ」と感じている読者に贈る辛口エッセイ75話.


八年前の一冊である。世界情勢も国内情勢ももちろんそのときとはずいぶん違っているのだが、それだからこその面白味もあるように思われる。まさにそのときに読めば、そのときなりの辛口な切り口を愉しむことができたのだろうと思うが、出版時からすれば「未来」という立場から眺めたからこそ判る、八年前のあれこれの著者流の斬り方がまことに当を得ていて驚かされる。

香菜里屋を知っていますか*北森鴻

  • 2008/03/25(火) 22:01:51

香菜里屋を知っていますか香菜里屋を知っていますか
(2007/11/29)
北森 鴻

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ビア・バー香菜里屋は、工藤マスターの料理とともに事件の謎が解決する店。常連たちが語る言葉から、突然たたまれた香菜里屋と、その名の由来、そして若かりし頃の工藤の過去の秘密が明かされる。シリーズ完結編。


表題作のほか、「ラストマティーニ」 「プレジール」 「背表紙の友」 「終幕の風景」

完結編だなんて信じたくない気持ちである。工藤が出す料理をもう味わうことができないなんて、ぽつりぽつりと語る工藤流の謎解きをもう聞くことができないなんて。そして、一癖も二癖もありながら味のある常連客たちの集いの仲間に入ったような心地を味わうことが叶わなくなるなんて。
それでも香菜里屋は店をたたみ、工藤の行方は遥として知れないのである。
連作のラストに配された表題作では、雅蘭堂の越名集治も、冬狐堂の宇佐見陶子も、東敬大学の蓮丈那智もが登場し、香菜里屋の最後の謎を解くのである。
それでもやはり、香菜里屋はなくなり、工藤はいなくなってしまったのである。
いつか常連客の誰かが、どこか遠い土地でふらっと入ったビアバーで、工藤と師匠である親父の娘・香菜に会うことがあるだろうか。そんな日が来るといいのに、と切に思う。

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二の悲劇*法月綸太郎

  • 2008/03/25(火) 09:23:27

二の悲劇二の悲劇
(1994/07)
法月 綸太郎

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東京世田谷でOLが殺されて顔を焼かれ、ルームメイトが重要参考人として手配された。事件は三角関係のもつれによる単純な怨恨殺人と見られたが、ただ一点、被害者の呑み込んでいた小さな鍵が謎とされた…。作家にして探偵の法月綸太郎に出馬が要請された矢先、容疑者の死体が京都蹴上の浄水場で発見され、惨劇の舞台は一転、西へ飛んだ。自殺か、他殺か。失われた日記に記された、京都=東京を結ぶ愛と殺意の構図とは。


高校の同級生で大親友でもあった葛見百合子と清原奈津美の間になにがあったのだろうか。殺人の加害者と被害者という状況に置かれたふたりの、そこにたどり着くまでの経緯に興味をそそられる前半である。そして彼女たちの日常の様子に挟み込まれるように配置された、「きみ」という二人称で誰かに語りかけるような部分がなぞめいていてもどかしく、読者に先を急がせる。
何重かになった混乱を掻い潜って、やっとのことで真相にたどり着いたかと思うと、それを覆す事実が現れ、何度も目を眩まされてほんとうに真相に行き着いたときには、「やはり」という思いと「何故?」という思いが複雑に絡まりあった心地にさせられた。
ミステリとしては、充分に愉しめたのだが、若い娘たちにとっては、初めのほんの些細な歯車のかけ違いが引き起こした結果があまりにも哀しすぎる。

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この町の誰かが*ヒラリー・ウォー

  • 2008/03/22(土) 22:10:51

この町の誰かが (創元推理文庫)この町の誰かが (創元推理文庫)
(1999/09)
ヒラリー ウォー

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クロックフォード―どこにでもありそうな平和で平凡な町。だが、ひとりの少女が殺されたとき、この町の知られざる素顔があらわになる。怒りと悲しみ、疑惑と中傷に焦燥する捜査班。だが、局面を一転させる手がかりはすでに目の前に…!警察小説の巨匠がドキュメンタリー・タッチで描き出す『アメリカの悲劇』の構図。MWAグランドマスター賞受賞第一作。


冒頭から、クロックフォードの住民たちが誰かのインタビューに答える様子が描かれている。インタビュアーが誰なのか、何の目的なのかは明かされていないので、読者は興味をそそられる。恩田陸氏の『Q&A』を思い出させられる。
忌まわしい事件が起きたときに、人々がいかに我が身を第一に考えるかが露骨にわかってしまって哀しくもなるが、当然のこととも思えるのである。それによって第二の犠牲者が出てしまうのは人々の想定外で、そのときになって自分がどれほど酷なことをしたかに気づくのである。
そんな心理描写も興味深く、そしてなによりも、ところどころで自分の言葉をさしはさみ、インタビューの内容をまとめている人物とその目的に思いが及んだときには背筋が寒くなるのである。

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深夜バス78回転の問題

  • 2008/03/21(金) 17:16:01

深夜バス78回転の問題―本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫 ほ 31-6)深夜バス78回転の問題―本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫 ほ 31-6)
(2008/01)
横山 秀夫

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真夜中のバスに隠された殺人事件の真相、78回転のレコードが知るお笑いコンビの突然死、走る目覚まし時計・・・本格ミステリ作家クラブが厳選したアンソロジー。


  

小説
   眼前の密室 ・・・ 横山秀夫
   Y駅発深夜バス ・・・ 青木知己
   廃墟と青空 ・・・ 鳥飼否宇
   盗まれた手紙 ・・・ 法月綸太郎
   78回転の密室 ・・・ 芦辺拓
   顔のない敵 ・・・ 石持浅海
   イエローロード ・・・ 柄刀一
   霧ヶ峰涼の屈辱 ・・・ 東川篤哉
   筆合戦 ・・・ 高橋克彦
   憑代忌 ・・・ 北森鴻
   走る目覚まし時計の問題 ・・・ 松尾由実

評論
   『ブラッディ・マーダー』/推理小説はクリスティに始まり、後期クイーン・ボルヘス・エーコ・オースターをどう読むかまで ・・・ 波多野健


どの作品も、著者それぞれのエッセンスと言っても過言ではないものであり、次々に違うテイストのミステリを愉しむことができて、贅沢の極みである。

親不孝通りディテクティブ*北森鴻

  • 2008/03/19(水) 17:26:08

親不孝通りディテクティブ親不孝通りディテクティブ
(2001/02)
北森 鴻

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高校時代の「鴨ネギコンビ」、博多っ子のテッキとキュータ。ぴったり息の合った二人だが、なぜだかヤバイ事件に首を突っ込む羽目になるんだなあ…。ちょっぴりセンチメンタルなハードボイルド・ストーリー6編を収録。


表題作のほか、「セヴンス・ヘヴン」 「地下街のロビンソン」 「夏のおでかけ」 「ハードラック・ナイト」 「センチメンタル・ドライバー」

俺・鴨志田鉄樹とオレ・根岸球太が交互に語る物語であり、交互に語ることで彼らのキャラクターが互いに際立せ合っている。
後に書かれた『親不孝通りラプソディー』は1985年、彼らの高校時代の物語で、あまりにもハチャメチャ過ぎて疲れ気味だったが、本作はもっとずっと落ち着いて愉しめる。とは言っても、キュータのおっちょこちょいぶりは相変わらずで、被らなくてもいい被害に遭ったりもするのだが、それはそれで適度なスパイスになっている。
そう考えると、若い頃の無茶苦茶あってこその現在の彼ら、ということにもなるのだろうか。

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深淵のガランス*北森鴻

  • 2008/03/18(火) 17:25:49

深淵のガランス深淵のガランス
(2006/03)
北森 鴻

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花師と絵画修復師、二つの顔を持つ男・佐月恭壱。画壇の大家・長谷川宗司の孫娘から、曰くつきの傑作の修復を依頼された佐月は、パリの町並の下に隠されていた別の絵に気が付くが…。


表題作のほか、「血色夢」

花師にしろ絵画修復師にしろ、仕事師というのはなんと因果なものであろうか。己に与えられた仕事の真の芯まで知り尽くさずにはおられない業とでもいうようなものにまといつかれているようである。それでも、手を引くことができないばかりか、突き詰めなければ己の心が許さないのである。それが善であれ悪であれ。
絵画という一見明らかなものにも、隠された裏の意図や作為がこれほどまでに塗り込められているということにも驚かされ、また、修復作業の大胆さと繊細さ、裏に隠されたそれぞれの思惑にも興味は尽きない。

#ガランスとは赤(茜色)のこと

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本当のうそ

  • 2008/03/16(日) 16:38:57

本当のうそ本当のうそ
(2007/12/18)
石田 衣良 他

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石田衣良、谷村志穂、神崎京介、大道珠貴など、様々なジャンルの小説家12名が、「嘘」をテーマに書いた短編を集めたアンソロジー。苦く切ない物語からはっとする作品まで、色々な「嘘」を楽しめる。


  

   アイスドール ・・・ 石田衣良
   ジェリー・フィッシュの夜 ・・・ 谷村志穂
   たわむれ ・・・ 神崎京介
   最初でも最期でもなく ・・・ 大道珠貴
   イヤリング ・・・ 吉田篤弘
   去勢 ・・・ 日向蓬
   舌のさきで ・・・ 山本幸久
   ダッチオーブン ・・・ 井上荒野
   プロパー・タイム ・・・ 山之口洋
   雨、やみて ・・・ 橋本紡
   母の恋 ・・・ 大島真寿美
   赤と透明 ・・・ 甘糟りり子


リアルっぽいもの、ファンタジックなもの、ほのぼのするもの、ちょっぴりコワイもの。うそにも、しかも本当のうそにもさまざまあるものである。どのうそもそれぞれの著者の持ち味を表わしていて興味深い。
いちばん好きだったのは、吉田篤弘さんのうそ。こんなうそならば永遠にうそのままがしあわせかもしれない。

セ・シ・ボン*平安寿子

  • 2008/03/16(日) 13:44:31

セ・シ・ボンセ・シ・ボン
(2008/01)
平 安寿子

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生き迷っていた若いタイコが、留学先のパリで出会った風変わりな人物、おかしな出来事…。笑って、あきれて、やがてしみじみとする、調子っぱずれの留学物語。「webちくま」の好評連載に加筆し、単行本化。


著者が26歳のとき三ヶ月間過ごしたパリの思い出エッセイ。
パリ留学時代の思い出、と聞いておそらくだれもが思い浮かべるような華やかできらびやかな思い出ではないのが、著者らしいとも言えるかもしれない。なにも見つからず、そこにいながら常に傍観者でしかない自分をパリにまで行って再発見し焦燥感に駆られる。そのときにはなにも得たものはないと思えた三ヶ月のパリ暮らし。しかし、そろそろ55歳になろうかという年齢になって振り返ってみると、そこには確かに自分が生きた証があったのだった。後悔でもただの感傷でもなく、心豊になれる思い出の旅のような読後感である。

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ダイイング・アイ*東野圭吾

  • 2008/03/15(土) 08:59:26

ダイイング・アイダイイング・アイ
(2007/11/20)
東野 圭吾

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誰もが少しずつ嘘をつき、
誰かを陥れようとしている。

記憶を一部喪失した雨村慎介は、自分が交通事故を起こした過去を知らされる。
なぜ、そんな重要なことを忘れてしまったのだろう。
事故の状況を調べる慎介だが、以前の自分が何を考えて行動していたのか、思い出せない。
しかも、関係者が徐々に怪しい動きを見せ始める……。

俺をみつめるマネキンの眼。
そいつは、確かに生きていた。


これまでの東野作品にはなかったホラー色とでもいうような色味の物語である。ただ、ホラーであると言い切ってしまえないのは、交通死亡事故というそもそもの事の起こりと対処の仕方、その後の被害者(家族)と加害者の気持ちの温度差などの描かれ方に人間ドラマの要素が織り込まれているからかもしれない。
最後まで読んで、プロローグの事故の描写の意味とタイトルの意味が腑に落ちる。ある意味執念の物語でもある。

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闇色(あんしょく)のソプラノ*北森鴻

  • 2008/03/14(金) 12:58:19

闇色のソプラノ闇色のソプラノ
(1998/09)
北森 鴻

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夭折した童謡詩人・樹来たか子の「秋ノ声」に魅せられたものは、何故破滅の匂いのする真実に近付かなければならないのか。神無き地遠誉野を舞台に、戦慄の殺人事件。驚愕のトリック。不思議な擬音の正体は!?そして幽明境を異にした奇跡とは!?ミステリ界注目の大型新鋭が放つ書下ろし長編本格推理。


大学生の桂城真夜子は、友人以上恋人未満の男友達・洲内一馬のアパートで偶然見つけた「JANARIYA-SHU」という手製の同人誌に掲載されていた樹来(きらい)たか子の童謡詩に魅せられ、卒論のテーマにすることした。まさにこのことが、秘められた謎の箱の蓋を開くきっかけとなって物語が流れ始めるのである。
樹来たか子の早すぎる死の真実を解き明かすことはもちろん、ある種の不思議な場所である東京の西の端に位置する遠誉野(とよの)市に吸い寄せられるように集まり、絡み合う人間関係を解き明かすことにも興味は向かうのである。偶然のように起こる事件としてのあの点も、またあの点も、いずれは面となるべくして配されたひとつひとつの点であったのだ。偶然を装った必然の巧みさには舌を巻くばかりである。

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ぶぶ漬け伝説の謎*北森鴻

  • 2008/03/12(水) 17:31:41

ぶぶ漬け伝説の謎 裏京都ミステリー (裏京都ミステリー)ぶぶ漬け伝説の謎 裏京都ミステリー (裏京都ミステリー)
(2006/04/20)
北森 鴻

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知る人ぞ知る裏(マイナー)な名刹・大悲閣千光寺に、今日も珍妙な事件が持ち込まれる。元裏世界の住人にして寺男の有馬次郎とマイナー新聞の自称「エース記者」折原けい、自称「裏京都案内人」のスチャラカ作家・ムンちゃんが、難事件の謎を追う!?誰も知らないミステリアス京都と、古都ならではの謎解きの妙味、たっぷりとご堪能ください。


表題作のほか、「狐狸夢」 「悪縁断ち」 「冬の刺客」 「興ざめた馬を見よ」 「白味噌伝説の謎」という六つのコメディタッチの連作ミステリ。
大悲閣の寺男――かつては京都の町を荒らした泥棒だったという――有馬次郎の元には、昔の稼業故かどうかは判らないが面倒ごとがたびたび舞い込む。持ってくるのは、新聞記者の折原けいやスチャラカ作家のムンちゃんこと水森堅――よく知っている方を連想させられますね――であり、有馬自身はいい加減うんざりなのだが、謎解きに繰り出すことになるのである。
そんなこんなな裏(マイナー)京都にまつわる六つの謎解きの物語である。
有馬が顔を出す店の出すお酒や料理が垂涎物なのは著者らしいし、大悲閣の住職の的を射た渋いひとこともピリリと引き締めるのに役立っている。

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演じられた白い夜*近藤史恵

  • 2008/03/11(火) 16:58:18

演じられた白い夜演じられた白い夜
(1998/10)
近藤 史恵

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本格推理劇の稽古のために山奥のペンションに集まった俳優たち。ほとんどみな一面識もなく、芝居経験のないものすらいる。主催者は演出家・神内匠。台本はその日の練習分しか渡されないというが、そうすることで、自分の役の心理をしっかり追って、芝居のクオリティを高めてほしいという。とうとう台本に殺人事件が登場した翌日、被害者役の女優が首を吊った。悩みを抱えていたらしい彼女の死は自殺として片づけられたが、数日後、二番目の被害者役の人間も死体となって発見され…。


演出家・神内匠の書いた台本と、現実の出来事とが交互に書かれている。読者は、たったいま読んだ台本を追いかけるように現実に起こる事件を目の当たりにする心地になるのである。
予言なのか、模倣なのか、あるいは利用されているのか。そして犯人はいったいだれなのか・・・・・。
台本と現実とは、似てはいても微妙にずれてもおり、理由の判らないもどかしさと苛立ちに突き動かされるような一冊である。

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茶色い部屋の謎*清水義範

  • 2008/03/11(火) 07:04:49

茶色い部屋の謎茶色い部屋の謎
(1997/03)
清水 義範

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しがない物書き・神童天才が招かれたパーティで、殺人が!パーティ主催者の成り金・八田虎造が殴殺されたのだ。凶器は大学ノート!?そして鳩の死骸と枕を並べていた。招待客の探偵―金野大地(金田一?)や麻古みす(ミス・マープル?)たちは、ああだ、こうだと推理をするが…迷探偵が多すぎる!!(表題作)奇才の自撰作12編を収録したミステリー&ホラー傑作集。


表題作のほか、「また盗まれた手紙」 「浮かばれない男たち」 「幽霊探偵と全裸美女」 「誘拐屋繁盛記」 「八倍ズームの証言」 「ベッドサイド・ストーリー‶お電話ください‶」 「分別ゴミ」 「領収証ください」 「トンネル」 「バイライフ」 「やっとかめ探偵団のバス・ツアー」

まさに、著者らしさがちりばめられたような一冊である。
種明かし風のものあり、思いつき風のものあり、回顧談風のものあり、とうれしくなってしまう。
あの作家も、この作家も、多作の秘密はこんなことだったのか! と納得(?)したり。
清水さん初心者が最初に読むのにうってつけの一冊かもしれない。

きまぐれ砂絵*都筑道夫

  • 2008/03/09(日) 16:30:16

きまぐれ砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ (光文社時代小説文庫)きまぐれ砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ (光文社時代小説文庫)
(1996/04)
都筑 道夫

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内容(「BOOK」データベースより)
江戸は神田橋本町・なめくじ長屋に住む砂絵かきのセンセーのもうひとつの特技。それは長屋の大道芸人たちを手足に、鋭い推理で難事件を見事に解決、礼金をせしめること。そのセンセーが、花見の席で人殺しの下手人に。大変だ。時代小説と推理小説の醍醐味を同時に堪能できる人気シリーズ、待望の第六弾は全篇落語仕立て。


  

第一席 ●長屋の花見
第二席 ●舟徳
第三席 ●高田の馬場
第四席 ●野ざらし
第五席 ●擬宝珠(ぎぼし)
第六席 ●夢金


一話一話が落語に材をとって物語られている。落語好きにはさぞ堪えられないだろうと思うが、落語に通じていないわたしのような者が読んでも充分に愉しめる。江戸の風物や人々の様子の活気や賑わいが目に見えるようでもある。庶民の愉しみ方が現代よりも粋だったようにも思える。
そしてそれだけではなく、しっかりとミステリにもなっているのである。落語とミステリはなるほど相性がいいのかもしれない。

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眠る馬*雨宮町子

  • 2008/03/07(金) 17:33:16

眠る馬眠る馬
(1999/06)
雨宮 町子

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サラブレッド誘拐!方法は?目的は?競馬界を舞台に交錯する、大学紛争での惨劇、日本中を震撼させたあの迷宮入り事件、さらにはIRAの影…。人気ジョッキーが探り当てた驚愕の真実とは。空前絶後の一大ミステリ。


どういうわけか集中力がつづかずに、ストーリーが上滑りして通り過ぎていったような感じである。
登場人物のキャラクターが頭のなかに描ききれず、特に主人公で語り手で、探偵役でもあるジョッキーの有田の人となりを上手く想い描くことができなかったのがいちばんの理由かもしれない。
だれもが知っている昭和のあの大事件までをも関連づける必要があったのかどうかということにも首を捻ってしまう。
読み手の状態によるものかもしれないが、いささか散漫な印象で読み終えた。

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賢者はベンチで思索する*近藤史恵

  • 2008/03/05(水) 13:32:31

賢者はベンチで思索する賢者はベンチで思索する
(2005/05/26)
近藤 史恵

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ファミリーレストラン「ロンド」を舞台に展開する謎の事件。不可思議な老人は21歳の女の子の人生にとって、とてもたいせつなものを与えてくれた。それは常識によらず、人を信じる力。犬と老人と21歳の女の子が挑むミステリー。


ファミリーレストラン「ロンド」でアルバイトする21歳の七瀬久里子は、自分の現状をどうにかしなければ、と悶々としながらも、日々の仕事を自分なりに精一杯こなし、お客さんに喜んでもらうことを自分の喜びだとも感じていた。そんな折、いつも午後の空いた時間に、同じ席でコーヒーを飲んでいる国枝老人と公園で出会う。そのときの国枝は、店に来るときの年寄り然とした様子とは少しばかり感じが違っていて、久里子は親しく話すようになったのだった。
国枝老人を探偵役にした物語なのだが、ただそれだけではなく、国枝の素性や、久里子の弟の問題などさまざまな要素が盛り込まれていて奥深いものになっている。国枝が謎解きのあたたかみも好ましい。
そして、寂しいまま終わるのかと思ったラストの場面に鼻の奥がつんとした。

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人柱はミイラと出会う*石持浅海

  • 2008/03/04(火) 17:32:48

人柱はミイラと出会う人柱はミイラと出会う
(2007/05)
石持 浅海

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建築物を造る際、安全を祈念して人間を生きたまま閉じ込める「人柱」や、お歯黒、参勤交代など、留学生リリー・メイスが目にした、奇っ怪な風習と事件の真相。少し変わった日本で展開する非「日常」の連作ミステリ。


表題作のほか、「黒衣は議場から消える」 「お歯黒は独身に似合わない」 「厄年は怪我に注意」 「鷹は大空に舞う」 「ミョウガは心に効くクスリ」 「参勤交代は知事の務め」

ごく普通の現代日本が舞台になっているにもかかわらず、話題にされるのはタイトルから判るとおり、お歯黒や参勤交代である。しかも、探偵役の東郷直海の仕事は人柱だという。どこかずれている。しかしそれが物語のなかの日本のスタンダードであるところに可笑し味がある。
そんな少しばかりずれた設定なのだが、そのほかの暮らしや事件、そしてその謎解きはいたって真面目なのである。留学生・リリーの疑問はそのまま読者の疑問となり、東郷の説明はとても親切である。設定がよく活かされていて、興味深く愉しい一冊だった。

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ゴールデン・スランバー*伊坂幸太郎

  • 2008/03/03(月) 17:16:41

ゴールデンスランバーゴールデンスランバー
(2007/11/29)
伊坂 幸太郎

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仙台での凱旋パレード中、突如爆発が起こり、新首相が死亡した。同じ頃、元宅配ドライバーの青柳は、旧友に「大きな謀略に巻き込まれているから逃げろ」と促される。折しも現れた警官は、あっさりと拳銃を発砲した。どうやら、首相暗殺犯の濡れ衣を着せられているようだ。この巨大な陰謀から、果たして逃げ切ることはできるのか?


物語の導入部は、まるで人間の思考をそのまま映しているかのようなスリルのあるものだった。時系列などあっという間に飛び越え、二十年前に戻ってみたり、現在に帰って来たり。あるキーワードに刺激されてさまざまな時期のさまざまな記憶が押し寄せるように一遍に甦ったり。理屈で説明はつけられないが、本人の頭のなかだけでは明確な繋がりを持っているものとしてそれらは在るのである。
学生時代のこと、宅配便の配達員時代のこと、恋人とのこと、とさまざまなエピソードが幾人もの関係者の目線で描かれ、それがまた青柳雅晴というひとりの人間を形作っていくような気がする。
真犯人や、真の意図は結局最後まで判然としないのだが、それこそが真犯人を表わしているようにも思えて憂鬱になる。
何も解決していないなか、青柳雅晴の未来にはなにが待っているのだろう。

マスコミの攻撃的なインタビューに答える青柳の父がカッコよすぎで泣けた。
そして、逃げながらもたくさんの応援者を得た青柳雅晴のカッコよさも格別である。
ラストに押してもらった「たいへんよくできました」の判子は、なによりのはなむけであろう。

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おいしい話

  • 2008/03/01(土) 16:43:17

おいしい話―料理小説傑作選 (徳間文庫 ゆ 4-6)おいしい話―料理小説傑作選 (徳間文庫 ゆ 4-6)
(2007/01/06)
小川 洋子

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今宵は言葉の名シェフたちによる
とびきりの美味をご堪能くださいませ。

<本日の特別料理>
小川洋子・阿刀田高・清水義範・田中小実昌・井上荒野・小林信彦・森瑤子・辺見庸・金井美恵子・田中啓文・吉行淳之介・田辺聖子(コース順)


「おいしい話」というタイトルで思い浮かべたのとは少しばかり違う作品たちだった。おいしさの中味が違うのである。異質と言ってよいものさえある。おいしい話でどうしてここまでグロテスクな、と驚くようなものまで・・・。
一筋縄ではいかない「おいしさ」である。