福袋*角田光代

  • 2008/04/28(月) 17:06:40

福袋福袋
(2008/02/15)
角田光代

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人生に“当たり、ハズレ”なんてない!? 謎で不可解な届け物や依頼、または同僚や夫など身近な人の不可解さに出くわしたら、あなたならどうする? 8編の短篇をとおして、直木賞作家が開く、人生のブラックボックス。


表題作のほか、「箱おばさん」 「イギー・ポップを聴いていますか」 「白っていうより銀」 「フシギちゃん」 「母の遺言」 「カリソメ」 「犬」

なんとなくわくわくとした気分で買ってみるものの、開けてみればいつでもそんな気分に見合うものが現れるわけではない福袋。人生におけるそこはかとない期待と、その結果の怒りを露わにするほどではない失望が福袋に模して描かれていて絶妙である。
買う前にどんなに一生懸命に選んでみたとしても、開けてみるまでそのアタリハズレは判断がつかない。そしてまた、自分のものになってしまった福袋の中身とは、それなりに折り合いをつけて自分のものにしていくしかないのである。可笑味と哀し味が交じり合った著者らしい一冊である。

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街のアラベスク*阿刀田高

  • 2008/04/27(日) 16:52:44

街のアラベスク街のアラベスク
(2007/12)
阿刀田 高

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闇を縫う怪しい香り、ふと甦る背徳の思い出、生まれては消え、消えては浮かびあがってくるうたかたのような恋の記憶。井の頭公園、神楽坂、浅草、銀座、江戸川など、様々な貌を持つ12の街を舞台に描く、大人の恋の物語。


「黒地に赤く」 「ほくろ慕情」 「美しい人」 「暗闇坂」 「真面目な関係」 「左手のひらの記憶」 「喋らない女」 「六郷橋まで」 「銀座の敵」 「美人の住む町」 「公平さの研究」 「夜に飛ぶ」

ふとしたなにかに誘われるように過去のいつかに帰っていく思考。現在にさほどの憂いがあるわけではなく、過去を取り戻したいわけでもない。そんな大人の心の片隅をふわりと掠める甘いようなほろ苦いような通い合いの記憶が、街の思い出にからめて語られる大人の一冊である。

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八月の路上に捨てる*伊藤たかみ

  • 2008/04/24(木) 17:07:26

八月の路上に捨てる八月の路上に捨てる
(2006/08/26)
伊藤 たかみ

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暑い夏の一日。僕は30歳の誕生日を目前に離婚しようとしていた。愛していながらなぜずれてしまったのか。現代の若者の生活を覆う社会のひずみに目を向けながら、その生態を明るく軽やかに描く芥川賞受賞作!他一篇収録。


表題作のほか、「貝からみる風景」

あすにも離婚届を出そうとしている敦は、水城さんとふたりでトラックに乗り、缶飲料のルート配達をしている。離婚して子どもを育てている水城さんは総務に移るために敦と組んでトラックに乗るのはきょうが最後である。敦は何故だか水城さんには自分のことを飾らずに話せるのだった。
結局は、敦が離婚するに至る妻とのあれこれの物語なのだが、水城さんという第三者に話して聞かせるという形を取ることで生々しくなくなり、敦自身も客観的に眺められているようにみえて、それが新しい趣向でもある。
八月という夏のさなかに汗だくになって働きながら語られているのが、離婚という冷たい事実だというミスマッチが、なにやら真実味を帯びていて哀しくもなる。

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十二の嘘と十二の真実*あさのあつこ

  • 2008/04/22(火) 21:13:10

十二の嘘と十二の真実十二の嘘と十二の真実
(2007/10)
あさの あつこ

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美しい后と侍女ツル、王国に悲劇をもたらしたのは。物語は小さな街に住む謎の老女と交錯し…。中世の王国の物語と現代の恐怖譚のつづれ織り。怖いけれど哀しい、おぞましいけれど面白い異色作。


表題作のほか、「崖の上」

ツルという名を持つ女は、あるときは赤子のままで死に、ある国では后に侍女として仕え、あるときはひとり暮らしの老女として物語に現れる。
交互に語られる后の物語と老女の物語は、一見ときもところもまったく別の物語なのだが、いつしかするりと同化し、ひとつの物語になっていくような心地にさせられる。
まるで人間の内なる醜さ、弱さがツルの身を借りて人間自身を責めているようでもある。なんとも不思議な一冊だった。

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こころげそう――男女九人 お江戸の恋ものがたり*畠中恵

  • 2008/04/22(火) 07:08:30

こころげそう 男女九人 お江戸恋ものがたりこころげそう 男女九人 お江戸の恋ものがたり
(2008/01/22)
畠中 恵

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思いを伝えられぬまま亡くしてしまった、下っ引き宇多の幼なじみ・於ふじが幽霊になって帰ってきた。於ふじと千之助兄妹の死の真相を探るうち、9人の幼なじみたちそれぞれの恋や将来の悩みが絡み合ってきて…。


「恋はしがち」 「乞目」 「八卦置き」 「力味」 「こわる」 「幼なじみ」の六つの連作物語。

犬の仔のようにころげまわって遊んでいた幼なじみたち――宇多・千之助・弥太・重松・於ふじ・おまつ・お染・お品・お絹――は、それぞれに想いを胸に抱く年頃になっていた。しかしその想いは切ないほど複雑に絡まりあってもいるのだった。
千之助と於ふじの兄妹は同じ日に神田川で溺れ死に、下っ引きの宇多の想いは告げられぬまま宙に浮いてしまい落ち込んでいたが、ひと月ほどたって子どもたちに先立たれた由紀兵衛の長屋を訪れてみると、由紀兵衛は思いのほか元気なのだった。そのわけは・・・・・於ふじが幽霊となって夜ごと長屋に現れるようになったからなのだった。
そして、幼なじみたちに関わる気がかりが次から次へと起こり、宇多は江戸の町を駆け回り、頭をフル回転させて絡まった謎を解くのである。

何も考えずに一緒くたになって遊びまわっていたころと違い、年頃になった幼なじみたちの恋心があまりにも切ない。うまくいくもの、うまくいかぬもの、どちらにも切なさがあり、恋と友情の間で揺れる想いもあるのである。身近で起こる事件と九人の恋心が微妙に絡み合って、物語はますます面白くなるのだが・・・・・。

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ふたつめの月*近藤史恵

  • 2008/04/20(日) 20:18:43

ふたつめの月ふたつめの月
(2007/05)
近藤 史恵

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正社員に昇格したと思ったら、急に辞めさせられた久里子。赤坂老人との再会とともに、悲しい真相が明らかに。同時に、赤坂老人をめぐる不思議な事件に、久里子は巻き込まれていく…。読後感温かなミステリー。


『賢者はベンチで思索する』の続編。
やっと正社員になれて喜んでいたのに突然解雇を言渡され、しかも自主的に退社したことにされていることがわかって落ち込んでいた久里子は、アンとトモを散歩させている途中で偶然赤坂老人と再会した。以前のように赤坂に事情を話してみると、赤さかはやはり以前と同じように事の本質を明らかにするヒントを与えてくれたのだった。それをきっかけに、久里子はあれこれと赤坂に相談するようになるのだが・・・・・。

世間の常識からすれば必ずしも善人とは言い切れない赤坂の、懐の深さは相変わらず魅力的であり、久里子の人の好さや真面目さも変わらなくてほっとする。大怪我を追ったまままた姿を消した赤坂に、次に久里子が会えるのはいつどこでだろうか。そんな日がきっと必ず来ることを信じていたい。

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青葉の頃は終わった*近藤史恵

  • 2008/04/20(日) 13:56:23

青葉の頃は終わった (カッパ・ノベルス)青葉の頃は終わった (カッパ・ノベルス)
(2002/10)
近藤 史恵

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「ねえ、知ってる?瞳子が死んだんだって」瞳子は孤高の存在で、ガラス細工の天使のようだった。繊細で儚げで、他人を魅了する少女に見えた。彼女のことが、可愛らしくて、愛おしくて、腹立たしくて、憎らしくてたまらなかった。死後に届いたハガキには「私のことを殺さないで」とあった―。彼女の不在と、ぼくたちの季節の終焉。ほろ苦い青春ミステリー。


大学時代を共に過ごした彼らが瞳子の自殺を知ったのがこの物語の始まりである。彼らとは、弦、猛、法子、加代、サチ。卒業してそれぞれの道を歩きはじめて数年経ったところだった。
主役ともいえる瞳子だけが不在ななか、自殺の原因を知りたい思いから、それぞれがあのころの瞳子を語り、そして自分を語る中で瞳子を浮き彫りにしていくのが切なく哀しい。いくらなにを語ろうと思い出そうと、彼らは瞳子になにもしてやることはできないし、瞳子は彼らとのかかわり方を変えることはできないのだから。
人と人との関わりの神々しさと残酷さをまざまざと見せつけられたようでもあるが、なにをどう知ったとしても何も変わらないということがもやもやと不安な感じをも催させる一冊である。

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凍える島*近藤史恵

  • 2008/04/18(金) 18:40:07

凍える島 (創元推理文庫)凍える島 (創元推理文庫)
(1999/09)
近藤 史恵

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得意客ぐるみ慰安旅行としゃれこんだ喫茶店〈北斎屋〉の一行は、瀬戸内海の真ん中に浮かぶS島へ。かつて新興宗教の聖地だった島に、波瀾含みのメンバー構成の男女八人が降り立つ。退屈する間もなく起こった惨事にバカンス気分は霧消し、やがて第二の犠牲者が……。孤島テーマをモダンに演出し新境地を拓いた、第四回鮎川哲也賞受賞作。


孤島、深い霧、いわくありげな男女八人。舞台設定は見事に揃っている。むしろ揃いすぎているくらいで、これで連続殺人でも起これば笑ってしまいそうなほどである。しかし、それは現実に起こり、笑い事では済まされなくなるのである。
犯人探しとか、謎解きとかももちろんあるのだが、それ以上に、ひとりが殺されたあとに残された七人の人間模様が興味深い。ミステリでもあるが恋愛物語でもあるといえる。
物語の中にいる間じゅうなにか不安定でゆらゆら揺れるような心地になったのは、冒頭からつづく主人公でもあるあやめさんのとらえどころのない雰囲気ゆえだろうか。全体的に会話にもどことなく安定しない――重心がほんの少しだけずれているような――何かが感じられるような気がするのはおそらく意図するところなのだろう。それらが相まって、読むものをも不安にさせるのである。ほんの一週間足らずの出来事なのだが、途方もなく長く思われる。
そして、ラストのこの状況・・・・・。こんなにひっそりとした解決編が待っていようとはたぶん誰も思わなかった。

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黄昏ホテル

  • 2008/04/18(金) 07:28:05

黄昏ホテル黄昏ホテル
(2004/11)
篠田 真由美、浅暮 三文 他

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ホテルを舞台に20人の作家が描く物語
ホテル・サンシャイン…人はそれを「黄昏ホテル」と呼ぶ。人気を誇ったホテルも今は見る影もない。そのホテルのある時代、あるひと時の人間ドラマを、ホテルの風景とともに描く。アンソロジー巨編。


「暗い日曜日」  篠田真由美
「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」  早見裕司
「インヴィテイション」  浅暮蜜三文
「カンヅメ」  森奈津子
「夜の誘惑」  近藤史恵
「黄昏色の幻影」  小森健太朗
「神輿と黄金のパイン」  笠井潔
「タイヤキ」  田中哲弥
「HOME AND AWAY」  久美沙織
「一つだけのイアリング」  雅孝司
「素人カースケの赤毛連盟」  二階堂黎人
「鏡の中へ」  野崎六輔
「セイムタイム・ネクストイヤー」  加納朋子
「名前を変える魔法」  太田忠司
「あなたがほしい」  黒田研二
「トワイライト・ジャズ・バンド」  山田正紀
「悪い客」  牧野修
「オールド・ボーイ」  我孫子武丸
「ふたつのホテル」  田中啓文
「陽はまた昇る」  皆川博子


ホテル・サンシャイン、本当は「日の出ホテル」というのだが、いつしか人々に「黄昏ホテル」と呼ばれるようになった。その黄昏ホテルを舞台にした20の物語である。
こちらとあちらの境界が曖昧になる黄昏時が妙に似合うこのホテルでは、不思議なことがよく起きるのである。20の不思議な出来事は、それぞれ違うテイストなのだが、黄昏ホテルという舞台がそれらを丸ごと呑みこんで、さらに不思議さを成長させているような相乗効果がある。プロローグとエピローグが、さらに不思議さを増すのに効果的である。

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女王国の城*有栖川有栖

  • 2008/04/16(水) 07:31:10

女王国の城 (創元クライム・クラブ)女王国の城 (創元クライム・クラブ)
(2007/09)
有栖川 有栖

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江神を追い信州入りした英都大学推理研の面々は、女王が統べる「城」で連続殺人事件に遭遇する。囚われの身となった一行は脱出と真相究明を試みるが、その間にも事件は続発し…。待望のシリーズ書き下ろし第4長編。


実に十五年ぶりの学生アリス・江神二郎シリーズだそうである。しかも500ページを超える長編。
卒業できてもできなくてもこれ以上大学生ではいられなくなる江神が、はっきりした理由も告げずにいなくなった。どうやら木曽山中の不思議な町・神倉に行っているらしいと当たりをつけた推理研のメンバーは、江神を心配して神倉にのりこんだのだった。
神倉は、ペリパリという宇宙人を神として崇拝する宗教団体・人類協会の町であり、住民のほとんどは協会の関係者でもあり、町自体が協会の王国のような特異な場所なのである。江神に会うべく行動を起こしたアリスたちは、一度は協会の事情で拒絶されながらも「城」に入り江神と会うことができたのだったが、連続殺人事件が起こり、軟禁状態に置かれる。
十一年前の未解決の殺人事件や、町の唯一の宿泊施設・天の川旅館の女将の姪・晃子の駆け落ちなど、無関係と思われていた出来事をも次々とつなげて、江神は真相に迫っていく。
UFO、新興宗教、予言など現実離れした要素がふんだんに盛り込まれているのが事件をより複雑に見せ、読者を惑わせる効果をあげている。ばらばらと思われていた点が次々に繋がって、真相への線になっていく過程にわくわくさせられる。これだけの長編にもかかわらず、集中力を途切れさせない面白さである。

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ジバク*山田宗樹

  • 2008/04/12(土) 16:22:51

ジバクジバク
(2008/02/22)
山田 宗樹

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女は哀しくも恐ろしく、 男はどこまでも愚かだった。 押し寄せる衝撃と感動。 残酷なまでに転落し続ける人生を描く、書き下ろし長編小説。

外資系投資会社のファンドマネージャー、麻生貴志は42歳。年収2千万を稼ぎ、美しい妻・志緒理と1億4千万のマンションを購入する予定を立てていた。自らを“人生の勝ち組”と自認する貴志は、郷里で行われた同窓会でかつて憧れた女性ミチルに再会する。ミチルに振られた苦い過去を持つ貴志は、「現在の自分の力を誇示したい」という思いだけから、彼女にインサイダー行為を持ちかける。大金を手にしたミチルを見て、鋭い快感に似た征服感を味わう貴志。だがそれが、地獄への第一歩だった……不倫、脅迫、解雇、離婚。 勝ち組から滑り落ちた男は、 未公開株詐欺に手を染め、 保険金目的で殺されかけ、 事故で片脚を切断される。 それでも、かすかな光が残っていた――。


坂道を転げ落ちるように加速度的に転落していく人生が描かれているので、『嫌われ松子』の男性版、とも言われる本作であるが、暗さ・惨めさ・悲惨さで言えば、圧倒的に松子に軍配が上がるだろう。というのも、松子の転落が、男に頼ったがためという要素が強かったのに比べて、本作の麻生の場合は、すべて身から出た錆であるというのが大きいからではないだろうか。
それでも、はじめのほんの小さな躓きが、こうも加速度的な悪循環を引き起こすきっかけになるのだということは、面白いようによく判って、一気に読み終えた。
物語の筋には直接関係のない細部まで――たとえば、交通誘導員の仕事の難しさとか、人間が歩くことができる機能の複雑さなど――丁寧に書かれていて、それもとても興味深かった。

タイトルの「ジバク」は冒頭に登場する核爆弾としてのラジカセが象徴するように「自爆」であり、またプライドに囚われたゆえの「自縛」でもあるのだろう。

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所轄刑事・麻生龍太郎*柴田よしき

  • 2008/04/10(木) 10:42:00

所轄刑事・麻生龍太郎所轄刑事・麻生龍太郎
(2007/01/30)
柴田 よしき

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人情あふれる下町を奔走する新米刑事・麻生龍太郎。日の当たる道だけを歩んでいるように映る龍太郎だが、人には明かせない秘密があった…。ベストセラー「緑子」シリーズの人気キャラクターの過去が初めて明らかに。


「大根の花」 「赤い鉛筆」 「割れる爪」 「雪うさぎ」 「大きい靴」

所轄の新米刑事として地域の事件を地道に捜査する麻生龍太郎の物語である。すでにこの頃から独特の着眼点と推理力を持ち、刑事として出世しそうな気配を色濃く見せていたが、龍太郎には自信を持ちきれない違和感のようなものがいつでももやもやとしているのだった。
所轄所時代の物語ということで、山内練とのそもそもの出会いとなった事件の詳細がわかるのかという期待もあったのだが、山内の気配はまったくなく、扱われる事件そのものは、よくある(という表現が適切かどうかわからないが)種類の所轄所らしいものである。
麻生龍太郎の行く末を知ってしまっている読者にとって、所轄所時代の彼を見るのは切なさを伴うものでもあり、また懐かしさをも覚えさせられるものでもある気がする。

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月神(ダイアナ)の浅き夢*柴田よしき

  • 2008/04/09(水) 13:27:23

月神(ダイアナ)の浅き夢月神(ダイアナ)の浅き夢
(1998/02)
柴田 よしき

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若く独身の、それも美男子の刑事だけを狙ったらしい連続猟奇殺人事件が発生した。残虐にも手足、性器を切り取られ木に吊るされた刑事たち。犯人は誰か? 事件をひたむきに追う緑子…。過去の事件にたどりつく。


村上緑子シリーズ三作目。

不埒な連続殺人事件が起き、愛息子・達彦の平穏なしあわせのためには刑事を辞めるのがいちばんいいことなのではないかと煩悶していた緑子に本庁から協力要請がかかる。刑事としての最後の事件にするべく要請を受けた緑子だったが、次第に見えてきた糸口はとんでもなく根深く陰惨なものだった。ひとつ真実に近づくごとに、哀しく苦しすぎる事実がひとつ明らかになり、警察官という職業の底知れない恐ろしさをも痛感することになる。
この事件でもまた山内練にかかわらざるを得なくなる緑子だったが、彼の現在を単純に憎むだけではいられない思いをもさらに強くする緑子であった。
「もしも」を考えても仕方がないが、あのとき山内を誰かが信じていたら、現在(いま)は変わっていたのだろうか。山内の弱さを差し引いたとしても、あまりにも哀しい。
それもこれもすべてを呑みこみ乗り越えた上で、緑子の第二ステージがこれから始まるのだろう。

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主題歌*柴崎友香

  • 2008/04/07(月) 17:26:20

主題歌主題歌
(2008/03/04)
柴崎 友香

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この歌がここで歌われたことは消えてしまわない
聞こえてくる人の声、街の音 そして、誰かの心に響く歌がある
「女子好き」な女性たちのみずみずしい日常の物語
第137回芥川賞候補作(「主題歌」)
「愛ちゃんて、かわいいな。こないだの子とはえらい違いやわ」
「誰でもかわいいやなあ、小田ちゃんは」
「誰でもやないよ。いろんなかわいいがあるやん」
ただ、かわいい女の子やきれいな女優を見ていると、それだけで幸せな気持ちになるし、そのことについて話すのが楽しい。
同時収録:「六十の半分」「ブルー、イエロー、オレンジ、オレンジ、レッド」


相変わらず大阪の女の子を描いて絶妙な著者である。
気負いも背伸びもしない、等身大の女の子――もうすぐ三十歳に手が届きそうであろうとも――の日常を目の前で見ているようである。
ほんのちょっとしたことにしあわせを感じ、何気ないひとことに落ち込み、たのしいことを探して周りを見回す女の子。大勢の中にまぎれてしまいそうな彼女たちひとりひとりが、実にそのままに描かれていて、まるで自分も「女の子カフェ」に仲間入りしたような心持ちになってしまいそうである。

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彩乃ちゃんのお告げ*橋本紡

  • 2008/04/06(日) 17:10:36

彩乃ちゃんのお告げ彩乃ちゃんのお告げ
(2007/11/03)
橋本 紡

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風変わりな少女・彩乃ちゃんを預かることになった人々。素朴で真面目で礼儀正しい彼女には、不思議な能力があるというが…。小学5年生にして「教主さま」と呼ばれる少女と、迷える人々との、3つの奇跡の物語。


「夜散歩」 「石階段」 「夏花火」という彩乃ちゃん三話。

ある新興宗教の教祖である祖母の跡目争いという大人の都合で、あちこちの知らない人に預けられる小学五年にして教主さまの彩乃ちゃんの物語である。三話に共通して登場するのは彩乃ちゃんだけであり、主役は彩乃ちゃんであるはずなのだが、それぞれの物語のなかでの彩乃ちゃんは、あくまでも脇役で、それぞれの物語に登場する人たちに、ぴかっと光る道をほんの少し見せてあげる役割を果たすのである。
普通の女の子でありながら、不思議な力を持ち、一緒にいる人たちをほんの少ししあわせにして去っていく。それが不思議な力を持ったものの定めであるとはいえ、彩乃ちゃん自身の淋しさで胸がしんとしてしまう。しあわせであたたかく、とてつもなく淋しい一冊だった。

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タルト・タタンの夢*近藤史恵

  • 2008/04/06(日) 08:49:27

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)
(2007/10)
近藤 史恵

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下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。風変わりなシェフのつくる料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな名シェフは実は名探偵でもありました。常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか? 甲子園をめざしていた高校野球部の不祥事の真相は? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか?……絶品料理の数々と極上のミステリ7編をどうぞご堪能ください。


表題作のほか、「ロニョン・ド・ヴォーの決意」 「がレット・デ・ロワの秘密」 「オッソ・イラティをめぐる不和」 「理不尽な酔っぱらい」 「ぬけがらのカスレ」 「割り切れないチョコレート」

ビア・バーとビストロの違いはあるが、北森鴻氏の香菜里屋シリーズを思わせる設定である。
ビストロ・パ・マルでだされるのは、フレンチとは言っても肩肘張らない家庭料理のような品々で、客も気取らずに心ゆくまで料理を堪能できるのである。そこで料理にからめて語られる日常の謎を、口数が少なく愛想のないシェフの三舟が、料理を作ってみせることで解き明かすという趣向である。
客のひとりひとりを大切に思う、心のこもったおいしそうな料理とTPOをわきまえた心のこもった謎解きに、読者もひとときビストロ・パ・マルの客となって心地好さを味わえる一冊である。

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聖母(マドンナ)の深き淵*柴田よしき

  • 2008/04/05(土) 16:47:02

聖母(マドンナ)の深き淵聖母(マドンナ)の深き淵
(1996/05)
柴田 よしき

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惨殺されて廃工場に捨てられた主婦。男の肉体を持つ美女。消えた乳児。覚醒剤漬けの売春婦。元刑事の私立探偵と、悪徳弁護士と、悪魔のように頭のよいヤクザ…二歳たらずの男児を育てながら、複雑な事件に取り組む女刑事・緑子が、生命の危機にさらされながら迫った驚くべき真相とは。そして緑子は、母性や愛に対する人々の幻想の向こう側にぽっかりと開いた暗黒の淵を覗き込むこととなった―。新鋭女流作家による、まったく新しいタイプの本格的ハードボイルド警察小説。


村上緑子シリーズの二作目。
緑子は一作目で身篭った子どもを産んで母となり、新宿暑から移動になった辰巳署で変わらず刑事をしている。新宿暑よりも重犯罪が少なく定時で帰れることが多い辰巳署の環境に緑子はありがたささえ感じているのだった。
そんななかで、女性の感覚を持ちながら躰は男性というトランスジェンダーの磯島豊に出会ったことがきっかけとなり、次々といくつかの別々と思われていた事件が繋がっていく。
それぞれの事情を抱えたさまざまな人間たちの愛や欲望や身勝手さや哀しみが、どうしようもなく絡み合った事件が解き明かされていく様を見ていて、すっきりするというよりはやるせなさが押し寄せてくるようだった。
近づいてはいけないと判っていても、否応なく関わってしまう――引き寄せられてしまうといってもいいかもしれないが――ことがあるということも、緑子と山内をみていると思わずにはいられない。

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RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠*柴田よしき

  • 2008/04/02(水) 17:15:46

RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠
(1995/05)
柴田 よしき

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レイプビデオがからむ連続殺人事件を追う新宿署刑事課村上緑子。巨大な警察組織の中で、個を見失わず放縦に生きる緑子。セクハラ・不倫・性的倒錯。--ここに新しい警察小説が誕生した!


村上緑子(りこ)シリーズ一作目。
あまり好きではないどろどろのにおいがしてずっと敬遠していたのだが、開いてみることにした。
緑子の物語、と著者があとがきで書いているように、警察官であり、その前に女性である村上緑子というひとりの人間の生き様を描いた物語である。初めから緑子の生き方に共感できるものはそう多くはないと思われるが、わたしも例外ではなかった。どうしても共感はできないし、それは最後まで変わることはなかった。途中何度も、ただ事件を追う警察小説であってくれたらどれほどいいだろうか、と思ったりもしたが、もしそうだったとしたらこれほど哀しみを抉り出すような物語にはならなかったのだろうと思う。
緑子と親しくなりたいとは思わないが、嫌いにもなれない。不器用なほど正直すぎる緑子ゆえだろうか。

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やがて目覚めない朝が来る*大島真寿美

  • 2008/04/01(火) 17:15:40

やがて目覚めない朝が来るやがて目覚めない朝が来る
(2007/11)
大島 真寿美

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やさしく、うつくしい時間を、私たちは共にしている…。少女は魅力的な大人たちに囲まれて、大人になっていく。すべてを包み込んで穏やかに流れていく時間と人生のきらめきを描き出す、今、最注目の著者の最高傑作。


存在感のある大女優だったにもかかわらず若くして突然引退し、それきり人々の前に現れる事のなかった蕗さんを祖母に持つ有加が語る、蕗さんと蕗さんの生きてきた道程と彼女を取り巻き 崇拝し 見守りつづけた人々の物語である。
タイトルからも判るように、誰にも分け隔てなく訪れる「死」が描かれているのだが、それはとりもなおさず決して平らかなだけではない「生」の物語であることがとてもよくわかる。
重く大きなテーマを扱いながらも、馥郁とした薔薇の香りと清しい風に運ばれてきたような、さらさらとした質感を持つ物語である。

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