モップの精は深夜に現れる*近藤史恵

  • 2008/05/30(金) 17:09:02

モップの精は深夜に現れる (ジョイ・ノベルス)モップの精は深夜に現れる (ジョイ・ノベルス)
(2005/02)
近藤 史恵

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部下や自分の娘とのコミュニケーションに悩む中年課長、取引先の仕事や自分の容姿にためいきをつく女性ライター、同じ事務所でつきあっていた男に二股をかけられたモデル、こんな彼らが遭遇した不可解な事件の謎を女清掃人探偵キリコが解明する本格ミステリー。そして彼女自身の家でもまた頭を悩ます出来事が…。


キリコシリーズ二作目。
「悪い芽」 「鍵のない扉」 「オーバー・ザ・レインボウ」 「きみに会いたいと思うこと」

初めの三作は、キリコが清掃員として出向くさまざまな会社で起こった事件を、少しばかりシンクロしたそこの社員と一緒に解決する物語。最後の一作は、シリーズ一作目につづくキリコ自身の物語である。二作目を先に読んでしまったので、ぜひ一作目も読まねば。

モップかけがいちばん好き、という少女のようにも見えるキリコは、清掃員としては少しばかり奇抜な服装をしているが、言葉遣いや考え方はしっかりしていて、掃除もとても手早く丁寧。
そんなキリコに気づいたその会社の社員と言葉を交わすうちに、そこで起こった事件のことを一緒に考えることになる。キリコは、清掃員でなければ気づかないような謎解きの鍵を見つけ出し、事件解決に一役買うのだが、決して表舞台には出ないのである。
だれもがどんな暮らしをしている女の子なんだろう、と思ったところで最後の物語で私生活が明らかにされる。そこでも彼女は一生懸命に動いているのだった。
いつまでもずっと物語のなかにいつづけたいと思わせられるような、居心地のいい一冊だった。

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静かな爆弾*吉田修一

  • 2008/05/29(木) 17:25:18

静かな爆弾静かな爆弾
(2008/02)
吉田 修一

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テレビ局に勤める早川俊平は、ある日公園で耳の不自由な女性と出会う。取材で人の声を集める俊平と、音のない世界で暮らす彼女。2人はやがて恋に落ちるが…。恋愛小説の新境地を切り開く意欲作。


勢いに任せて言葉を迸らせ、後付けで意味を与えるような――言ってみればごく一般的な――日々を過ごしていた主人公・俊平は、音のない世界にいる女性・響子と出会って、「伝える」ということの意味を改めて考えるようになる。喧騒のむなしさや、音がなくても伝わる大切なことなども。
ある日ふたりして買い物をし、俊平のマンションに帰るとき、あとを着いてきた野良猫の仔にハムを与える響子を見て、一瞬偽善を感じた俊平だったが、響子が母から聞かされた話――「いつ神様に出くわすかわからないから、用心、用心」――を聞いて、角度を変えてみると違って見えることに気づかされる。
バーミヤンの仏像破壊事件の報道という仕事を抱えて目の回るような日々を過ごす俊平にとって、響子の存在は、あるいはふいに出会った神様なのかもしれない。

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アンダーリポート*佐藤正午

  • 2008/05/29(木) 14:14:12

アンダーリポートアンダーリポート
(2007/12)
佐藤 正午

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15年前。駐車場に横たわる撲殺死体。第一発見者である古堀の隣室に住む男だった。事件当時4歳だった被害者の娘との再会が、古堀の古い記憶を揺さぶり始める…。衝撃の傑作長編小説。


物語のほとんどが、検察事務官として堅実な人生を歩む古掘の15年前の出来事に対する回想や記憶の確認と、それを基に事実を組み立てることによって真実を構築することでできている。
それは、いまさら誰かの罪を暴き立てて罰を与えようというわけでもなく、自分自身を納得させようとする作業のように見える。そのせいか、物語の雰囲気はとても静かである。殺人事件、しかも交換殺人などという物騒な事件を扱っているにもかかわらず。
一方の当事者、村里悦子(現、九木悦子)にとっては親切で信頼できる隣人であり、もう一方の当事者、旭真理子にとっては姪の恋人というだけの関わりの古堀を、これほどこの事件に深入りさせることになったのは何なのだろうか。その辺りはよく判らないが、静かな情熱とでもいうようなものが彼からこちらに向かって流れ込んでくるような気がする。
長い物語の最後にたどり着くと、そこがまさに物語のはじまりだというのが印象的でもある。
よく知っているミステリとはひと味違った染み込むような物語である。

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傘の自由化は可能か*大崎善生

  • 2008/05/27(火) 17:02:55

傘の自由化は可能か傘の自由化は可能か
(2006/11)
大崎 善生

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駅やコンビニ、飲み屋などに、使いたい人がいつでも使用できる「自由な傘」を置いておく―一人の青年が夢見た理想的な共有システムは実現することができるのだろうか?ベストセラー『パイロットフィッシュ』『アジアンタムブルー』の世界へと通じる、ナイーヴで静謐な日々の思索をつづった、爽快エッセイ集。


ヨーロッパの空、記憶の湖、言葉の宇宙、世界の端で、という四つの括りのなかに盛りだくさんなあれこれが詰まったエッセイ集。
著者のいまがあるわけが垣間見られて興味深い。作品に流れるやさしさと切なさの理由のほんの一端に触れることができたようでうれしくもある。

流星の絆*東野圭吾

  • 2008/05/25(日) 18:04:33

流星の絆流星の絆
(2008/03/05)
東野 圭吾

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全ての東野作品を凌ぐ現代エンタメ最高峰!
殺された両親の仇討ちを流星のもと誓った功一、泰輔、静奈の兄妹。
十四年後、泰輔が事件当日目撃した男に、功一が仕掛ける復讐計画。
誤算は、静奈の恋心だった。


文句なく大満足の東野作品である。
深夜、両親に内緒で家を抜け出し、ペルセウス座流星群を観にいった幼い兄弟三人が帰ってきて見つけたのは、殺された両親の無残な姿だった。
施設で過ごし、大人になった彼らは、兄・功一がプランを立て、弟・泰輔と妹・静奈が実行役として詐欺を働いていた。そのターゲットのひとり・戸神行也と接触するうちに、彼の父親が、十四年前の事件の夜泰輔が、自宅の裏口から逃げていくのを見た人物であることに気づき、計画を犯人逮捕にシフトするのだったが・・・・・。

両親を無残に失った三兄弟の結びつきの強さは並の兄弟の比ではなく、両親を殺した犯人に対する憎しみも尋常ではなかった。それが、犯人と思われる人物の元に彼らを導いたのだろう。しかし、ただの復習劇で物語は終わらなかった。真犯人の心情、関係者の思惑、想定外の恋心など、生身の人間だからこその感情が、物語を意外な方向に進ませるのである。事件にまつわる「人の心」が物語の核だとも言えるのではないだろうか。途中でやめられない一冊だった。

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カルトローレ*長野まゆみ

  • 2008/05/23(金) 17:12:20

カルトローレカルトローレ
(2008/04)
長野 まゆみ

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謎の航海日誌カルトローレ。キビ色の沙地の白い家で暮す私の仕事は、「船」にあった109冊の日誌を解読することだった…。作家生活20周年の新境地が白い世界に拓かれる記念碑的作品。


過去なのか未来なのか、どこの国のどこの場所なのか、特定することはとても難しく、そして特定することに意味はない。
「船」を降りて適応化のために、沙獏のとある自治区で航海日誌の解読という仕事を与えられたタフィの語る物語。夢のなかの出来事のような、はるか昔の昔語りを聞かされているような、それでいてなにか未来の鍵を握る大切なことを仄めかされているような、不思議な心地のする物語である。
著者の言葉の選び方や、文字の表記の仕方にたいするこだわりや丁寧さが、物語の雰囲気をいっそう懐かしさあふれるものにし、それでいて焦がれるように追い求めさせもするのである。
ひとりのエトランゼとして、物語のなかに紛れ込んだような心地にしてくれる一冊である。

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恋のかたち、愛のいろ

  • 2008/05/20(火) 17:03:19

恋のかたち、愛のいろ恋のかたち、愛のいろ
(2008/02/19)
唯川恵、小手鞠るい、畠中恵、原田マハ、ヴァシィ章絵、朝倉かすみ、角田光代

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切ない雫のブルー、激しく燃える炎の赤、暖かくまるいオレンジ、残酷で尖った黒、無垢のまま溶けゆく雪の白……
恋愛には、ひとつひとつに、それぞれの色と形がある……。
人気女性作家7人による、珠玉の恋愛小説アンソロジー。


「ごめん。」 ・・・ 唯川恵、「星月夜」 ・・・ 小手鞠るい、「苺が赤くなったら」 ・・・ 畠中恵、「ブルースマンに花束を」 ・・・ 原田マハ、「号泣男と腹ペコ女」 ・・・ ヴァシィ章絵、「掛け星」 ・・・ 朝倉かすみ、「地上発、宇宙経由」 ・・・ 角田光代

いろんないろやかたちの恋模様である。どの物語にもどこかに光るものがあり、好きな色がある。
角田さんのうまさには、やはり、と思い、現代ものの畠中さんにはすこしどきりとさせられる。
初読みだったが、ヴァシィ章絵さんの社宅を舞台にした物語も好きだった。

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白蛇教異端審問*桐野夏生

  • 2008/05/18(日) 17:00:46

白蛇教異端審問白蛇教異端審問
(2005/01)
桐野 夏生

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デビュー以来、枠にとらわれない問題作を発表し、周囲の軋轢と闘い続けてきた作家の10年間の軌跡。『朝日新聞』『オール読物』等に発表したエッセイをまとめる。ショートストーリー8篇も併録。


著者初のエッセイ集 + ショートストーリー。
ショート・コラム、日記、エッセイ、書評・映画評、ショートストーリー、白蛇教異端審問から成る。
桐野夏生たからばことでもいった趣である。
作品を生み出す苦悩、作家であるということから派生するあれこれについて、作家であるからこそ受ける攻撃と反撃について、などなど・・・・・。著者の生きる姿勢の一端がうかがえて興味深い。
だがやはり、エッセイよりもショートストーリーの方に魅力が感じられる。

あなたがパラダイス*平安寿子

  • 2008/05/15(木) 17:12:46

あなたがパラダイスあなたがパラダイス
(2007/02)
平 安寿子

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若い時より純情に、無邪気に、そして情熱的に…。人生を生き抜いたごほうびの場所では、まだまだいける恋心が健在だった。3人の中高年女性、夫と家族と恋人による、ユーモアたっぷりのアンチエイジング小説。


「おっとどっこい」 「ついに、その日が」 「こんなはずでは」 「まだまだ、いけます」

更年期、そしてジュリーを鍵とする連作物語。
若いころにはまさか自分の身に降って湧くとは思いもしなかった更年期という鬱陶しさ。女性なら程度の差こそあれ、だれにも平等にやってくるその時期をどう過ごすかが、敦子、まどか、千里という三人の女性を主人公にして語られる。
そこに、親の介護の問題も絡んできたりと、ともすると重くなりがちなテーマを救うのは、なんと更年期の女性たちと同年代のジュリー(沢田研二)なのである。彼がいまも音楽活動を続けていることを、しかも現在の彼自身のありようをファンの前にそのまま見せて、積み重ねた年齢にふさわしいやり方で活動していることを初めて知った。更年期に鬱々とする女性たちの物語で、ほんとうにすばらしい鍵となっていると思う。

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青い鳥*重松清

  • 2008/05/14(水) 13:36:41

青い鳥青い鳥
(2007/07)
重松 清

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「よかった、間に合った――」

村内先生は中学の臨時講師。言葉がつっかえて、うまくしゃべれない。でも、先生は、授業よりも大切なことを教えてくれる…。いじめ、自殺、学級崩壊、虐待…。すべての孤独な魂にそっと寄り添う感動作。


表題作のほか、「ハンカチ」 「ひむりーる独唱」 「おまもり」 「静かな楽隊」 「拝啓ねずみ大王さま」 「進路は北へ」 「カッコウの卵」 という八つの物語。

連作の鍵は村内先生だが、主役は村内先生よりも村内先生が寄り添う生徒の方だろう。
か行とた行と濁音ではじまる言葉はスムーズに発語できずにつっかえてしまう村内先生。彼がひとつの中学にいるのは、ほんの短い間。事情がある先生の代わりに非常勤という形でやってくる。そして、ひとりぼっちの生徒に黙って寄り添い、見守って、凍った心を解きほぐしていくのである。先生が話すのはたいせつなことだけ。

どの物語も、どの生徒も、抱えきれないものをもてあましてどうすることもできずに、ひとりぼっちで淋しさに溺れそうなのに、精一杯突っ張っているのが見ていて辛い。村内先生が全面的に受け容れ、黙って寄り添っていてくれることで、少しずつ自分で自分を認められるようになり、強張りを解きほぐされていく様を見ていると、自分の中にまで村内先生の言葉が染み入ってくるようで涙が止まらなくなる。
そして、村内先生のあたたかさはもちろんなのだが、自校に彼を必要とする生徒がいることを受け止めて、その子のために彼を呼んでくれる学校のあたたかさもまた想うのである。
それでもなぜか、最後の物語のラストシーンでバスのリアウインドウから手をふる村内先生は、ほんとうにほんとうにうれしそうで、そしてたまらなく淋しそうに見えるのである。

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鼓笛隊の襲来*三崎亜記

  • 2008/05/12(月) 17:01:55

鼓笛隊の襲来鼓笛隊の襲来
(2008/03/20)
三崎亜記

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戦後最大規模の鼓笛隊が襲い来る夜を、義母と過ごすことになった園子の一家。避難もせず、防音スタジオもないが、無事に乗り切れるか。表題作ほか、鮮やかで不安定な世界を描く短編集。書き下ろし1編を含む全9編。


表題作のほか、「彼女の痕跡展」 「覆面社員」 「象さんすべり台のある街」 「突起型選択装置(ボタン)」 「「欠陥」住宅」 「遠距離・恋愛」 「校庭」 「同じ夜空を見上げて」

三崎さんである。設定、前提条件からまず尋常ではない。しかし、大分慣れたので、大方すんなりと物語に入り込めるようになった。
それでもそれぞれの物語には、不思議があふれていて、だからこそ本質が露わになったりすることがあり、ドキリとさせられ興味深い。
なんの疑いも持たずにのうのうと暮らすわたしたちが失いかけているものを思い出させ、完全に失くしてしまうのを踏みとどまらせてくれるような一冊である。

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いのちのパレード*恩田陸

  • 2008/05/12(月) 14:04:32

いのちのパレードいのちのパレード
(2007/12/14)
恩田 陸

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<あの黒い表紙、強烈な帯コピー、シンプルかつ洗練されたデザイン。手に取った時の、嬉しいような怖いようなおののきを今でも覚えている。(中略)かつて「幻想と怪奇」というジャンルのくくりでお馴染みであった、奇妙でイマジネーション豊かな短編群には、今なお影響を受け続けている。あの異色作家短篇集のような無国籍で不思議な短編集を作りたい、という思いつきから連載をさせてもらった>(あとがきより)。

恩田ワールドの原点<異色作家短編集>への熱きオマージュ。ホラー、SF、ミステリ、ファンタジー……クレイジーで壮大なイマジネーションが跋扈する、幻惑的で摩訶不思議な作品集。


表題作のほか、「観光旅行」 「スペインの苔」 「蝶遣いと春、そして夏」 「橋」 「蛇と虹」 「夕飯は七時」 「隙間」 「当籖者」 「かたつむり注意報」 「あなたの善良なる教え子より」 「エンドマークまでご一緒に」 「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」 「SUGOROKU」 「夜想曲」

風味は違うが、それぞれに一風変わった底知れない不気味さを秘めた著者らしい物語たちである。
自分たちが生きているいまこの世界の常識を当てはめて結論を出すことのできない理不尽さやもどかしさがどの物語にも満ちていて、ときに背筋を冷たいものが這い上がってくるような心地にさせられ、またときにはその世界から帰って来たくないような夢心地――かすかな不安は常につきまとうが――を味わわせてくれる。
癖になりそうな一冊である。

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阪急電車*有川浩

  • 2008/05/10(土) 17:00:53

阪急電車阪急電車
(2008/01)
有川 浩

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恋の始まり、別れの兆し、そして途中下車……関西のローカル線を舞台に繰り広げられる、片道わずか15分の胸キュン物語。大ベストセ ラー『図書館戦争』シリーズの著者による傑作の連作集。


たった八駅しかない阪急今津線を主人公とした物語。
宝塚駅→宝塚南口駅→逆瀬川駅→小林駅→仁川駅→甲東園駅→門戸厄神駅→西宮北口駅。
そして、また折り返して宝塚駅まで。往復しても30分ほどの連作ドラマである。

恋のはじまり、別れるための闘い、決別への踏ん切り、などなど・・・・・。通りすがりならばこそのちょっとしたお節介がささやかに繋がり、誰かの人生に影響を与え、また与えられる。ときにほのぼのと、ときに苦く、またときにはじんと胸に熱いものがこみあげるような心地の好い一冊である。
もっともっといつまでも行ったり来たりしていたくなること必至。

有川さんのお住まいは、小林駅・・・だろうか。

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風花*川上弘美

  • 2008/05/09(金) 17:12:23

風花風花
(2008/04/02)
川上 弘美

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日下のゆりは33歳。システムエンジニアの夫の卓哉と結婚して7年。平穏な日々が、夫に恋人がいるという一本の電話で破られる・・・。何気ない日常の中で、色あせてゆく愛を描く長編恋愛小説。


川上さんらしくありながらも、不思議世界に遊ぶ川上さんではないような物語である。
結婚七年目の卓哉とのゆり。卓哉の背中に隠れるように、もたれるようにして暮らしていたのゆりだったが、卓哉の浮気を知ってから、自分の存在が不確かになるような、ここにいてここにいない心許なさに侵食されていくのだった。面と向かって真剣に話さなければならないことがあるのはわかっているのだが、ことさら向かい合うことを避けてしまうような。決断を先延ばしにすれば、いつのまにかなかったことになっているのではないかというあるはずのない期待を胸に秘めながら、のゆりはゆらりゆらりと揺れながら日々をやり過ごしている。
はじめのうちはただなす術もなくおろおろしているかのように見えるのゆりだったが、目に見えないくらいじわりじわちとではあるが確実に変化し、次第に自分の胸の内や行動の意味を自分で確認するようになる。そして、少しずつ自立していくのである。
事が起こったときにほんとうに強いのは、常日頃弱々しく見えている女性の方かもしれないと、ふと思わせられたりもする。
のゆりの言葉にするのは難しい心の動きや変化を、特別な言葉を使うわけではなくさりげなく、それでいて絶妙に描ききる著者はまったくもってすばらしい。

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猫と針*恩田陸

  • 2008/05/07(水) 17:16:21

猫と針猫と針
(2008/02)
恩田 陸

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人はその場にいない人の話をする――。友人の葬式の帰り、久々に学生時代の仲間が集まった。一見なごやかな宴だが、やがて漂う不穏な空気。この集まりの本当の意図とは? 閉鎖空間で展開する心理サスペンス会話劇。戯曲執筆の舞台裏を赤裸々に綴る書き下ろしエッセイ「『猫と針』日記」も収録。遂にベールを脱ぐ、恩田陸〈初戯曲〉。


初戯曲とはいえ、きっちりと恩田色が出ていることにまず感心させられる。もやもやとした不穏さが、それだけで場に興味を惹きつける。舞台は拝見していないが、おそらく終始静かに流れていくのだろう。それでいてずきりと胸に刺さるものを登場人物たちに残し、割り切れない何物かを抱えて幕を下ろすのである。どこからが企みなのか、どこまでが真情なのか。葬式帰りの喪服の集団という設定が効果をいや増している。

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銀座開化事件帖*松井今朝子

  • 2008/05/06(火) 21:25:50

銀座開化事件帖銀座開化事件帖
(2005/02/23)
松井 今朝子

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士族の身でありながら芝居に関わり、御一新後は蝦夷地に渡った変わり種。久々に江戸ならぬ東京に戻ってきた宗八郎が頼まれたのは…。近代日本の青春期・明治ならではの珍妙な事件が次々と起こる街・銀座。ヤソ信者の元若様や薩摩っぽの巡査も大活躍、笑いと涙がたっぷりの事件帖。


「明治の耶蘇祭典(クリスマス)」 「井戸の幸福」 「姫も縫ひます」 「雨中の物語り」 「父娘草」

舞台は明治初期の銀座。文明は加速度的に西洋を取り入れ開化するが、人々がみなそれに着いていけてはいないアンバランスな時代が切り取られている。旧来の藩政を引きずる人々は当然のようにいて、新しい時代を先取りして胸膨らませる人々もまた多くいる銀座である。気持ちの齟齬があるのは当然のことである。そんな古くてあたらしい銀座で起こるあれこれが、当時の風物とからめて興味深い。歴史の裏側をほんの少しだけ覗き見したような妙味もある一冊である。

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人生うろうろ*清水義範

  • 2008/05/04(日) 16:36:29

人生うろうろ人生うろうろ
(1992/01)
清水 義範

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産院からお墓まで
人生の転機・10の局面をあざやかにパスティーシュ


「野間家先祖代々之墓」 「蛭子坂産婦人科」 「御社に惚れました」 「単身人生」 「狭いながらも」 「久仁子の結婚」 「シンドローム離婚」 「このままじゃいけない」 「ほとけさま」

さすが、パスティーシュの名手の手になるものである。それぞれの物語の登場人物の取る思考や行動が、まさに陥りやすいツボに嵌っていて、読者としては面白くて仕方がない。
ただ、身につまされる場面もかなりあって、単に大笑いするというよりもこっそり苦笑するといった感じであろうか。面白く可笑しく、そして切ない一冊だった。

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舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵*歌野晶午

  • 2008/05/03(土) 13:43:19

舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵 (カッパ・ノベルス)舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵 (カッパ・ノベルス)
(2007/11/20)
歌野 晶午

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難事件捜査の合間を縫って、姪のひとみの遊び相手をする刑事・舞田歳三。彼女のふとした言動が、事件解決のヒントになったりもして…。刑事×難事件×おしゃまな11歳=歌野晶午流「ゆるミス」。軽やかに登場。


「黒こげおばあさん、殺したのはだあれ?」 「金、銀、ダイヤモンド、ザックザク」 「いいおじさん、わるいおじさん」 「いいおじさん?わるいおじさん?」 「トカゲは見ていた知っていた」 「そのひとみに映るもの」という六つの連作物語。

「ゆるミス」とはまた絶妙なネーミングである。ガチガチのミステリ仕立てではなく、日常のなかにさりげなくミステリを織り込んでいるという風な物語である。しかし、事件そのものは日常の謎レベルのものではなく、警察が乗り出す類のものであり、現に舞田ひとみの叔父でこの物語の語り手でもある舞田歳三(としみ)が捜査している。
ひとみは決して自分から探偵を名乗っているわけではなく、歳三との会話の中で、無意識に解決のきっかけになるようなひとことを与えるのである。何気ないひとことから事件を解く鍵を探り当てる歳三もさすがなのである。
ラストでは、ミステリとは関係ないすっきり感も得られ、「ゆるミス」もなかなか味があるなと思わされた一冊だった。

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アルペジオ*新津きよみ

  • 2008/05/01(木) 16:59:09

アルペジオアルペジオ
(1998/10)
新津 きよみ

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女は拳銃に運命を、警官は音楽に人生を賭けた。
女は夢みた結婚生活が夫の暴力で破綻し、家を飛び出した。
男は警視庁音楽隊でクラリネットを吹いている。
違う道を歩んできた2人の人生が、いまアルペジオ(分散和音)を奏でる。
新境地を拓く書下ろしサスペンス野心作!

「そういえば、良介さん、いま警察にいるって知ってる?」
どきっとした。垂水良介。大学2年の夏まで、1年間あまり交際していた男だ。
「警察官なんて、意外よね。良介さん。音楽好きでもの静かな感じだったでしょう?」
あの細くてしなやかな指でクラリネットのリング・キイを押さえていた良介と、警察官という職業とが結びつかなかった。――本文より


一時期つきあい、やがて未熟さゆえの他愛のない理由で別々の道を歩いていた由布子と良介の物語である。
由布子は身長の低さによるコンプレックスから、背が高く逞しい男と結婚し、暴力を振るわれて家を出る。
良介は警察官になり音楽隊に配属されてクラリネットを吹く。
由布子は長身の逸美に世話になり、偶然拾ってそのまま持ってきてしまった拳銃を彼女に売る。
良介は上司で長身で優秀なクラリネット奏者の橋爪の豪邸に招かれ、立派なクラリネットをプレゼントされる。
ふたりは、別々の場所でそれぞれに重すぎる荷物を背負い、違う人たちと関わりながら別々に生きているはずだった。いつしか引き合うように糸が撚り合わされるまでは・・・・・。

由布子と良介それぞれ(特に由布子)の平穏とは言えない人生が悩ましく苦しくなるようである。根底にあるのが、背の低さという他人にはなかなか理解されないコンプレックスであることが、現実味を増し、胸を打たれる。途中で逸美の哀しい人生も撚り合わさって、ますます目が離せなくなる。一気に読ませる一冊だった。

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