サボテンの花*安西水丸

  • 2008/06/30(月) 17:24:53

サボテンの花サボテンの花
(2002/06)
安西 水丸

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男には忘れ得ぬ過去があり、女には重い現実があった…。心を寄せ、体を重ね合わせ、ほんのひととき愛を確かめあう男と女の関係をエロティックに切なく描く。『週刊小説』に掲載されたものをまとめた恋愛小説短編集。


表題作のほか、「ソファ」 「友だち」 「国境」 「ブルー・レイン」 「空中ぶらんこ」 「耳」 「初雪」 「蓮」

この手の内容だとは思わずに借りてしまった。
あとがきに、風俗産業を取材していて、女性がそこで働く理由に大切な人の借金を返すため、というのが意外に多く、愛する人のために不幸に陥っているケースがままあることがわかった、と書かれているが、この物語のなかに、そんな女たちの哀しみをわたしは感じ取ることができなかった。
やはり好きにはなれない。

ツバメ記念日-季節風・春-*重松清

  • 2008/06/29(日) 13:48:38

ツバメ記念日―季節風*春ツバメ記念日―季節風*春
(2008/03)
重松 清

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記憶に刻まれた"春"は、何度でも人生をあたためる。憧れ、旅立ち、別れ、幼い日の母の面影──温かい涙あふれる12の春の物語


表題作のほか、「めぐりびな」 「球春」 「拝復、ポンカンにて」 「島小僧」 「よもぎ苦いか、しょっぱいか」 「ジーコロ」 「せいくらべ」 「霧を往け」 「お兄ちゃんの帰郷」 「目には青葉」

家族や故郷の存在のありがたさに改めて思いを馳せる物語である。その舞台の季節は春。別れと出会いが、余韻に浸るまもなく訪れる激動の季節ともいえる春が舞台だからこその、家族への思い、故郷への思いが、時に痛みや切なさを伴って描かれている。家族に、故郷に、しばし羽を休めた心と躰は、またあしたに向かって歩を進める力を蓄えているのだろう。
春という、不安定な季節を乗り越えたあとには、立ち向かうしかない夏が待っていようと、変わらない家族や故郷を知ったあとなら、立ち向かえるようになるのかもしれない。
痛くて切なくてじんと胸に沁みる一冊だった。

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ロズウェルなんか知らない*篠田節子

  • 2008/06/27(金) 20:45:08

ロズウェルなんか知らないロズウェルなんか知らない
(2005/07/06)
篠田 節子

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ときに愚かしくも愛しい“人間”を描く、胸に迫る長編
地方の未来を真面目にわらう!!
過疎の町を再生しようと悪戦苦闘する元若者たちが仕掛けた策とは……?
UFOで町おこし!?

「俺のところの民宿は、つぶれる。うちに田畑はない。あるのは今更だれも見向きもしないテニスコートだけだ。客は来る。公共工事の作業員だ。下請けの下請け、そのまた下請けの建設会社が、宿泊費を叩きに叩く。お袋は去年からこの先の工業団地にパートに出てる。それで過労から腎炎を起こして倒れた。倒れるほど働いたところで、食ってはいけない。俺はまたここを出ていって、東京で職を探すだろう。しかし学部卒の技術屋に職はない。ビル清掃か、キャバレーの呼び込みか、仕事があれば御の字だ。残ったおふくろは、民宿村と心中する……」(中略)「売るか、日本の四次元地帯で」孝一が手の中のショットグラスをカウンターに静かに置いた。「格好つけちゃいられねえってことだ」<本文より>


温泉が出るわけでも古代遺跡があるわけでもなく、スキー場やゴルフ場や大きなテーマパークがあるわけでもない過疎の町・駒木野の青年クラブ――といってもメンバーはもはやみな中年である――の面々と、ふらりとやってきた(元?)コピーライターの町おこし奮戦記である。
大カラオケ大会で優勝し、廃屋同然の一軒家を賞品としてもらった、東京から来たコピーライター・鏑木は、大方の予想に反してそこに住み着いてしまった。そして、村おこしに知恵を絞る青年クラブの会合になんとなく首を突っ込み、口を出したりするようになる。お調子者だが、着眼もセンスもなかなかのもので、行動力もあり、青年クラブの面々も引っ張られるように動き始めるのだが・・・・・。

ひとつのことにのめりこんだときの人間の心の動きが手に取るようにわかって、陥りがちなループに嵌っていくのを見ると切なささえ覚える。口コミやマスコミの諸刃の剣のような危うさにも歯軋りしたくなるようなもどかしさを感じた。それを乗り越え、突き抜けたとき目の前に現れたのは・・・・・。
思わず笑ってしまうような町おこし騒動なのだが、ただ無邪気に笑うだけではいられないさまざまな問題を内包してもいて、胸の奥がずきんとするような切なさも感じさせられる一冊だった。

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イニシエーション・ラブ*乾くるみ

  • 2008/06/23(月) 17:31:23

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)
(2004/03)
乾 くるみ

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大学四年の僕(たっくん)が彼女(マユ)に出会ったのは代打出場の合コンの席。やがてふたりはつき合うようになり、夏休み、クリスマス、学生時代最後の年をともに過ごした。マユのために東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職したたっくん。ところがいきなり東京勤務を命じられてしまう。週末だけの長距離恋愛になってしまい、いつしかふたりに隙間が生じていって…。

目次から仕掛けられた大胆な罠、全編にわたる絶妙な伏線、そして最後に明かされる真相…。80’sのほろ苦くてくすぐったい恋愛ドラマはそこですべてがくつがえり、2度目にはまったく違った物語が見えてくる…。


最後の最後までまんまと騙されてしまった。
最後から二行目を読むまでは、どうしてこれがミステリなのか、と訝しんでさえいたのであった。そうきたか、という感じである。ミステリに殺人や事件は不可欠なものではないのだと、いまさらながら思い知らされる。
ちょっとした、あまりにも些細な違和感を素通りしてはいけなかったのだ。そこにこそこだわらなければ。たっくん(夕樹)にとって魅力的な女性として描かれているマユが、なぜかどうしても好きになれなかったこととか、就職してからのたっくんのちょっとした行動の違和感とか・・・。
まるで、高いところから突き落とされたような衝撃だった。そしてやはり繭子を好きになれない。

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月が100回沈めば*式田ティエン

  • 2008/06/22(日) 16:48:26

月が100回沈めば月が100回沈めば
(2006/06)
式田 ティエン

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コースケは“サンプル”のアルバイトをしている。調査会社に行って自分用の個室で遊び、アンケートに答える仕事だ。この仕事が会社にとってどう役立っているのかはよく分からないが、楽に稼げるおいしいアルバイトには違いない。サンプルのルールはただひとつ。サンプル同士は知り合ってはいけないし、話をしてはならない―。そんななか、ひょんに知り合ってしまったサンプルの佐藤アツシが突然姿を消した。チビのアツシが、いま連続で起こっている「中学生行方不明事件」に巻き込まれたのではないかと心配したコースケは、やはりサンプルで弓という探偵小説好きの美人女子高生とともにアツシの行方を追い始めた。果たしてアツシの行方は?サンプルのバイトに隠された秘密とは?


高校生のコースケ(耕佐)が主人公のミステリ仕立ての渋谷青春物語、といった一冊である。
しかし青春物語とはいいながら、ただ若者の生態を描くだけでなく、大人の思惑、社会の仕組みまでを絡めた、説教ぽくない教訓物語のようでもある。普通とは何か、存在とは何か、を問い続けている。
そして、人はだれも――大人でも子どもでも――みな等しく独りであり、だからといってひとりで生きていくことはできない、ということを知らしめる物語でもある。家族とのかかわり、同僚との交わり、ほんの些細な偶然から声を掛け合った通りすがりの人たちとの繋がり・・・。そういった他者とのかかわりで世界は成り立っているのかもしれない、とふと気づくとき、生きている意味が少しだけ違って見えるのかもしれない。

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カナリヤは眠れない*近藤史恵

  • 2008/06/19(木) 17:18:12

カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)
(1999/07)
近藤 史恵

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変わり者の整体師合田力は、“身体の声を聞く”能力に長けている。助手を務める屈託のない美人姉妹も、一皮剥くと何がしかの依存症に罹っていた。新婚七カ月目の墨田茜を初めて看たとき、力は底知れぬ暗い影を感じた。彼を驚愕させたその影とは?やがて不安が現実に茜を襲うとき、力は決死の救出作戦に出た!蔓延する現代病理をミステリアスに描く傑作、誕生。


整体師・合田力シリーズ一作目。

本作では、恵・歩姉妹の病のことにも、それゆえの彼女らの確執のことにも、突っ込んでは触れられていないので、読者は小松崎雄大と一緒に推測するしかない。そのもどかしさもなかなか興味をそそる点ではあるが、三作目で経緯を知って読むと、また違った感慨もあってそれもまたいい。
今回の主人公――というか謎解きの対象――は、買い物依存症の墨田茜。まだまだ新婚の妻である。ひょんなことから合田接骨院に来ることになった茜を診た合田は、彼女のただならぬ歪みに気づくのである。そしてその墨田茜が、雄大の仕事ともリンクしてくる辺りから、物語は意外な展開を見せはじめる。
探偵役が整体師というのも珍しいのではないだろうか。しかし、そのからだに触れるだけで日常生活の習慣から心の歪みまで判ってしまう合田には、まさにうってつけの役回りとも言えそうである。やはりぜひお世話になりたい合田整骨院であるが、なにもかも見透かされそうで怖い気もしないではない。
そして茜は、自分の買い物依存症の裏にひそむ企みを知ったとき、ほんとうの意味で自分と真っ直ぐ向き合えたのである。合田の元に通う必要がなくなることがほんとうのしあわせなのかもしれない。それでは合田整骨院はいつまで経っても繁盛とは程遠いのだが。

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シェルター*近藤史恵

  • 2008/06/18(水) 17:03:18

シェルターシェルター
(2003/09)
近藤 史恵

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人はなぜ、最も大切な人を傷つけてしまうのだろう? わたしたちは、ひどく似ているのかもしれない-。心のシェルターを求めて出逢った恵と少女いずみのミステリアス・ジャーニー。長編ミステリー。


整体師・合田力シリーズの三作目。
また順番を無視して読み始めてしまったが、本書解説の結城信孝氏によると、恵(めぐむ)・歩(あゆむ)姉妹の過去が明らかにされる本作から読み始めるのも、前二作の理解が深まっていいだろう、ということなので、よしとしよう。
物語は、ちらりとサスペンス風な味つけもされていて、はらはらどきどきさせられる部分もあり、人間関係にほのぼのとさせられるところあり、で読みやすい。表紙のイラストのイメージから想像したよりは事件もそれにまつわることごとも深刻で重いものだったが、キャラクターの魅力で重苦しくなりすぎていなくて好感が持てる。
それよりなにより、合田整骨院の合田力先生の施術にはうっとりしてしまう。ぜひ一度受けてみたい。

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食堂かたつむり*小川糸

  • 2008/06/18(水) 13:27:12

食堂かたつむり食堂かたつむり
(2008/01)
小川 糸

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失ったもの:恋、家財道具一式、声
残ったもの:ぬか床

ふるさとに戻り、メニューのない食堂をはじめた倫子。
お客は一日一組だけ。
そこでの出会いが、徐々にすべてを変えていく。


きっかけはインド人の恋人に、家財道具一式を持ち逃げされて捨てられたこと。でもそれは、前々からずっとやりたかったことだった。料理を作ること、その料理を食べた人のしあわせな顔を見ること。倫子は、ふるさとの村で「食堂かたつむり」という名の小さいけれど、自分の夢のなにもかもが詰まった食堂をひらいたのだった。
痛みを抱えて不本意ながらふるさとに戻り、気の合わない母に厄介になりながら、夢だった料理を作る仕事をはじめるという、切実ながらメルヘンチックな物語である。倫子が作る料理はどれも食材を無駄にせず真心こめて大切に扱われ、食べる人のことも丁寧に考えて作られるので、食べた人をしあわせにする。読んでいて安らげる設定・・・・・のはずなのだが、なぜかこの世界にどっぷりと浸ることができずに読み終えてしまった。
すでにあるあの人やこの人のあれやこれを集めて混ぜ合わせたような感じがしてしまったからかもしれない。今回は、ちょっと素直ではない読者なのだった。

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カシオペアの丘で 上下*重松清

  • 2008/06/16(月) 07:26:00

カシオペアの丘で(上)カシオペアの丘で(上)
(2007/05/31)
重松 清

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カシオペアの丘で(下)カシオペアの丘で(下)
(2007/05/31)
重松 清

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帰ろう、俺たちの丘へ。
『流星ワゴン』『その日のまえに』、そして――魂を刻み込んだ、3年ぶりの長篇小説。

肺の腫瘍は、やはり悪性だった――。40歳を目前にして人生の「終わり」を突きつけられたその日、俊介はテレビ画面に、いまは遊園地になったふるさとの丘を見つける。封印していた記憶が突然甦る。僕は何かに導かれているのだろうか……(上巻)

大空に輝き続ける命の物語。
未来を見つめ、過去と向き合う。人生の締めくくりに俊介が伝えたものは――。

限られた生の時間のなかで、家族へのこす言葉を探すために、俊介はふるさとへ帰ってきた。幼なじみとの再会を果たし、過去の痛みを受けとめた俊介は、「王」と呼ばれた祖父とともに最後の旅に出る。(下巻)


北海道の真ん中・北都市で育った四人――シュン・トシ・ユウちゃん・ミッチョ――の幼なじみと彼らにまつわる人々の物語。
ゆるされない罪を背負ってしまった人、ゆるされたい自分をゆるせない人、ゆるしたい人、ゆるしている人・・・・・。ひとりで、ふたりで、背負ってしまった重荷は捨て去ることはできないが、あしたのために、そして相手のために、ひいては自分のために、軽くすることはできる。背負ってしまった不幸を嘆き悔やむだけでなく、少しでもあしたにつなげられるようにと思い巡らすそれぞれの姿が印象的である。
そのときどきの決断の仕方で、人はその真価を量られる。どんなに痛々しくても、そのときは逃げ腰に見えたとしても、だれかのために、あしたのために下された決断は芯の強いものなのだと思わされる。
救いのないと思われた物語も、ラストではだれもがそれなりにゆるされ、救われ、あしたに目を向けて歩きだそうとするのである。人はひとりでは生きていけない、ということを身にしみて感じる一冊でもある。

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モップの魔女は呪文を知ってる*近藤史恵

  • 2008/06/10(火) 17:10:53

モップの魔女は呪文を知ってる (ジョイ・ノベルス)モップの魔女は呪文を知ってる (ジョイ・ノベルス)
(2007/06/15)
近藤 史恵

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流行のファッションに身を包む女清掃人探偵・キリコが日常の謎を捜査し、全ての事件ををクリーンにする! 深夜のスポーツクラブでひとり残ったスタッフの行動が呼び起こした波紋。女子大生がバイトをかけもちし、やっと入手した希少種の猫が交換された不可解。小児病棟の入院患者である少年少女が噂した魔女騒動。新人看護師が遭遇した魔女の正体とは。はずみから妹を殺害してしまったアクセサリー通販会社の女社長。死体を隠そうとする最中に予期せぬ出来事が――。事件解決のみならず、当事者の心の荷物も軽くする本格ミステリー。


「水の中の悪意」 「愛しの王女様」 「第二病棟の魔女」 「コーヒーを一杯」

清掃作業員・キリコシリーズ三作目。
キリコちゃんが魔女と間違えられる「第二病棟の魔女」では正式な清掃作業員ではなく、キリコちゃんがてきぱきと掃除をしている姿が見られなかったのがちょっぴり残念でもある。手際よく辺りをきれいにしていく姿はそれだけでこちらの気持ちをもさっぱりと軽やかにしてくれるので、実は大好きなのだった。
相変わらず、彼女の物事を見極める力は老成しているといってもいいほどである。しかも、見極めたことをそのまま表に出すのではなく、一度自分の中でよく考えつくしてから、なるべくだれも傷つけないやり方で解きほぐし、解決の後の関係者の気持ちまで慮っているのだから、感動さえ覚えてしまう。
次はどんなところへ掃除に行くのか、たのしみである。

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天使はモップを持って*近藤史恵

  • 2008/06/08(日) 16:52:41

天使はモップを持って (ジョイ・ノベルス)天使はモップを持って (ジョイ・ノベルス)
(2003/03)
近藤 史恵

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オペレータールームに配属された梶本大介。その社内では寄妙な事件が発生する。書類紛失、保険外交員墜死、マルチ商法勧誘社員の台頭、派遣女性社員の突然の昏倒、ロッカールームの泥棒、切り裂かれた部長のぬいぐるみ、黒い液体で汚されたトイレ。オフィスを騒がす様々な“日常の謎”を女性清掃作業員のキリコがたちまちクリーンにする本格ミステリー。


清掃作業員キリコシリーズ一作目。
「オペレータールームの怪」 「ピクルスが見ていた」 「心のしまい場所」 「ダイエット狂想曲」 「ロッカールームのひよこ」 「桃色のパンダ」 「シンデレラ」 「史上最悪のヒーロー」

二作目から読んでしまったので、一作目を読めばキリコちゃんの過去(?)が判るかと思っていたのだが、彼女の生い立ちなどには触れられていないのだった。モップを持った天使にはそれがいちばんふさわしいのかもしれない。
しかし、ゴミ箱というものに対して、人はなんと無防備なのかと思い知らされる。ミステリの謎を解く鍵は往々にして――清掃員のほか――だれも顧みることのないゴミ箱から見つかったりするのだから。
ラストの一話は、大介のしあわせと罪悪感とのせめぎ合いと、もったいぶり方が可笑しくもあり、たまらないラストである。ここから二作目の最終話へと繋がっているのだと納得できた。

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片想い

  • 2008/06/07(土) 16:20:44

片想い。 (ピュアフル文庫 ん 1-8)片想い。 (ピュアフル文庫 ん 1-8)
(2008/03/10)
坂木 司

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「肩が重い」と感じたら・・・・・(「長い片想い」)坂木司
優太の淡い恋の芽生え(「プリウスの双子」)前川麻子
里穂の恋を謎が包む(「北風のマント」)大崎梢
中学に入るまでどこへ行くにも一緒だった彼(「キッキに」)安藤由希
大好きな人を失った十五歳の春(「さつきさん」)草野たき
ドアを開けたら、闇の魔導師がいた(「おまえたちが信じてる世界のライフはゼロだから」)笹生陽子
秘めた想いを抱える少年少女を描いた、全編書き下ろし短編によるオリジナル・アンソロジー。


片想い――ことに少年少女のおそらく初めての――ほど切ないものはないだろう。世界のすべてが恋するその人を中心に回っているような錯覚にとらわれ、しかもその世界に自分はいないことが多いのだから。そんな切なく、だからこそきらめくような片想いにも、こんなにさまざまな形があったのだと本書を読むと気づかされもする。
好きだったのは、紹介文がダジャレチックでもある坂木さんの実ることのない片想い、そして、大崎さんの こちらはたのしいあしたを想い描けそうな、しかもきっちりミステリにもなっている片想い。

モーニング Mourning*小路幸也

  • 2008/06/06(金) 17:20:34

モーニング Mourningモーニング Mourning
(2008/03/19)
小路 幸也

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自殺を止めるべく仲間の一人を説得する中年男たち。
八十年代の大学生活を顧みるうちに、封印してきた事実が浮上……。
中年世代の青春小説。

【あらすじ】
あの人のためにしたことを、後悔したことなんか、ない――。
大学時代の親友である河東真吾の訃報に接した私。葬儀のため福岡に集まったのは、
同じ大学でバンドを組み、四年間一つ屋根の下で共同生活を送った淳平、ヒトシ、ワリョウ。
葬儀を終え、それぞれの家へ、仕事へ戻ろうとしたとき、今は俳優となった淳平が言った。
「この車で一人で帰って、自殺する」。
何故? しかもこんなタイミングで?
思いとどまらせるために、私たちは明日の仕事を放り投げ、レンタカーで一緒に東京まで向かう決意をする。
「自殺の理由を思い出してくれたら、やめる」。
淳平のその言葉に、二十数年前のあの日々へと遡行するロングドライブが始まった。
それは同時に、懐しい思い出話だけでは終わらない、鍵をかけ心の奥底に沈めた出来事をも浮上させることになっていくが……。


語り手はダイ。存在感がないことが逆に特徴となるような男だった。無意識のうちになにかを察して行動するようなところもあった。
真吾の葬儀で四人が揃って会ったのはかれこれ二十年ぶりだった。その間に、それぞれの境遇は変わり、抱えるものも増え、さまざまな変化を遂げているかつての仲間たちだった。
いまは俳優になっている淳平が、このまま自殺すると言い出し、その理由を探り出して自殺を思いとどまらせるために、彼らは飛行機をキャンセルして車で帰途につく。それは、あの頃の若くたのしかった日々を思い出すロングドライブになったのだった。
五歳年上の彼らのマドンナ・茜さん――のちに淳平とつきあうようになるが、事故(?)で亡くなる――にまつわる思い出は、彼らにとってきらめくような青春の一ページであり、ミステリアスなその死の後日談が、淳平に自殺を思わせたのではないかと考えたり、彼らの回顧は、明日の仕事に支障をきたす時間になっても尽きることはなかった。
あるきっかけで淳平の思いを察したダイの計らいによって、mourningの四人が、morningの海辺で車を降りたとき、淳平の自殺の真意は明らかになる。それはまさに淳平らしく、ほかの三人にとってもなくてはならない儀式のようなものだったのだ。それが判ったときには、大人になるということの切なさ 淋しさ ままならなさに胸が締めつけられる思いがした。
器や形がどんなに変わろうとも、彼らにはあの頃の結びつきのままでいて欲しいと切に願う。

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さようなら窓*東直子

  • 2008/06/05(木) 17:10:26

さようなら窓さようなら窓
(2008/03/21)
東 直子

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あの窓のことをあたしは一生忘れない。
「きいちゃんが眠れないんなら、なにか話をしてあげる」
ゆうちゃんがくれた、やさしい不思議な、つんとする物語たち。
雑誌『anan』連載時より話題沸騰。06年『長崎くんの指』、07年『とりつくしま』に続く、人気著者初の長編恋愛小説。

(本書から)
「青鬼は、むごいよ、むごすぎる。赤鬼に、なんの相談もせずに、書き置き一枚で永遠に姿を消すなんて。あたし、青鬼の書き置きの最後の言葉、覚えてる。“ドコマデモ キミノ トモダチ”だよ。二度と会うつもりがないから、こんな残酷なこと書けるんだよ」(「青鬼」)


きいちゃんが――そしてもしかすると、ゆうちゃんも――巣立つまでのぬくぬくとした巣のなかの物語のような一冊だった。
このままじゃいけない、と自分の存在価値をみつけられずにいる二十歳のきいちゃんは、やさしくしてくれるゆうちゃんを好きになり、彼の部屋に住み着いている。自分の心さえもてあましそうになるきいちゃんに、ゆうちゃんはいつも「無理しなくていいよ」とやさしく声をかけてくれ、眠れずにいるときには、お話を聞かせてくれるのだった。
それでもきいちゃんは、自分がゆうちゃんの役に立てていないことを気に病み、ゆうちゃんは、そんなきいちゃんを大きな羽で包みこもうとする。
そんなきいちゃんを、ある日とっくに別れた父が必要とする。癌で余命いくばくもないのだという。最期が近い父に寄り添い、その死を看取ったきいちゃんは、かなしいけれど前向きな決断をする。図らずもそれは、ゆうちゃんとおなじ決断だった。
自立できない子どもっぽい女の子のように描かれているきいちゃんなのだが、実は芯のところではとてもきちんとほんとうのことを見極められる大人なのだと、この最後の決断で思わされる。そしてゆうちゃんも、ほんとうにきいちゃんのことを大切に思っているのだと、おなじ決断をしたことで判って、そう遠くないいつか、おなじ窓の灯りの下で語らうふたりになれるだろうと心から思うのだった。

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くだものだもの*俵万智・選 日本ペンクラブ・編

  • 2008/06/04(水) 17:01:58

くだものだもの (ランダムハウス講談社 た 2-1) (ランダムハウス講談社 た 2-1)くだものだもの (ランダムハウス講談社 た 2-1) (ランダムハウス講談社 た 2-1)
(2007/10/01)
俵万智(選)

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くだものの短篇 くだもののエッセイ
くだものの詩 くだものの落語・・・
みずみずしい くだものがいっぱい!

収録作家
村上春樹
よしもとばなな
江國香織
武田百合子
等31名

村上春樹さんは「葡萄」、江國香織さんは「メロン」。
よしもとばななさんはもちろん「バナナ」・・・。
くだものを作品のどこかに織り込んだ短篇集やエッセー、詩から落語まで、32篇を精選したアンソロジー。
みずみずしく、ちょっと甘酸っぱい、くだものたちの記憶が行間から立ちのぼる。


くだものにまつわる作品が、ジャンルを限らずに集められているのが興味深い。
選者あとがきによると、並べ方にも相当こだわりがあるようである。並べられたとおりに読んでいくと、なるほど、と思わされることもあり、選者・俵さんの笑みを見たような心地にもなる。
ジャンルも時代もさまざまなくだものの饗宴といった一冊である。

こっちへお入り*平安寿子

  • 2008/06/03(火) 21:19:32

こっちへお入りこっちへお入り
(2008/03)
平 安寿子

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落語好きにも、そうでないあなたにも。
笑いあり、涙ありの素人体当たり落語寄席、開演!
この私が、やれるのか。
人を笑わせられるのか?
吉田江利、三十三歳。独身OL。落語に挑戦しちゃいます。
知れば知るほど、落語が描く人間の物語は深く、怖く、温かい。わたしたちを取り巻く状況は常に厳(きび)しいものですが、落語頭があれば乗り切れると、わたしは信じているのです。
(著者あとがきより)
ギャグ? このわたしが、ギャグをやる?
やれるのか。人を笑わせられるのか。オヤジギャグで人をうんざりさせるアホ上司とは大違いの、ちゃんとした笑いをとれるのか。
寿限無(じゅげむ)、寿限無、五劫(ごこう)のすりきれ。
誰にも聞かれないよう台本の上にかがみこみ、江利は小声で繰り返した。(本文より)


「ポンポコピーのポンポコナー」 「孝女の遊女は掃除が好きで」 「タコの頭、あんにゃもんにゃ」 「あっしんとこね、くっつき合いなんすよ」 「俺のほうじゃあ、誰も死なねえ」 「与太さんは、それでいいんだよ」 「あたい、泣いてないよ」 「さぁさ、こっちへお入り」

八つの落語の物語である。落語のたのしさ、奥深さ、むずかしさ、そしてその愉しみ方が、33歳・OLの江利の日常の悩みや愚痴に絡めて描かれている。ある意味人生訓とも言える物語である。
そもそも、落語になどまったく興味がなく、友人の友美に頼まれて発表会を観にいっただけの江利だったのだが、落語サークルの師匠・楽笑の噺を聞いて興味を持ち、CDやDVDで古今の落語家の噺を聞くうちにその魅力に取り憑かれてしまう。
仕事上の人間関係、実家の両親や弟夫婦との関係、さっぱり関係が進まない恋人との関係、などなど愚痴をこぼしたいことばかりの日々の景色が、落語頭になることで見え方が変わってくるのが、読んでいてもよく判ってたのしくなる。
章の切れ目に配される「秋風亭子よし こと、江利の知ったかぶり落語用語解説」も、落語初心者の心をくすぐるような趣向で興味深い。
著者の落語への愛があふれた一冊である。

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愛しの座敷わらし*荻原浩

  • 2008/06/02(月) 18:50:30

愛しの座敷わらし愛しの座敷わらし
(2008/04/04)
荻原 浩

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生まれてすぐに家族になるわけじゃない。一緒にいるから、家族になるのだ。東京から田舎に引っ越した一家が、座敷わらしとの出会いを機に家族の絆を取り戻してゆく、ささやかな希望と再生の物語。朝日新聞好評連載、待望の単行本化!


食品会社で課長を務める晃一は、力を注いだ企画――豆腐デザート――を没にされ、東北の田舎に転勤させられることになった。そこで彼は、これからは仕事よりも家族だ、とばかり家探しをし、広いが古い古民家を借りる契約をしてしまったのだった。
物語はその家を家族そろって――妻・史子、中学生の娘・梓美、小学生の息子・智也、晃一の母・澄子――見に行くところから始まる。
それぞれの思惑が絶妙に交錯し、結局その家に住むことになった高橋一家だったが、引越し一夜目にしてすでに波乱含みである。梓美がもともと置いてあった手鏡をのぞくと、そこに自分以外の顔が映っていたのだ。小さな子どもの顔だった・・・・・。
子どもは、いつでも誰にでも見えるわけではなさそうで、初めて目にしたときのそれぞれの反応やその後の対応が丁寧に描かれていて、それぞれその人らしくてほほえましくさえある。
学校での居場所、会社での立場、近所づきあい、などなど・・・・・。都会に暮らしていたときには、狭い家のなかで家族のそれぞれが自分の抱える問題をばらばらに思い煩っていたが、田舎の広すぎる家で、座敷わらしという共通の問題(?)を囲むうちに、家族の距離も少しずつ縮まってくるのだった。
ただいるだけの座敷わらしなのだが、やはり福を呼ぶ神様なのかもしれない。

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