歳月*茨城のり子

  • 2008/08/31(日) 16:58:22

歳月歳月
(2007/02)
茨木 のり子

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茨木のり子さんが亡くなったあとで、推敲され整理され、目次にするべき順番も決められて遺されていた詩に、一緒に置かれていたそのほかのものも加えて出版された一冊。

先立たれた最愛の夫・三浦安信氏への思いが、語りかけるように、自らに言い聞かせるように綴られている。
人の力の及ばない別れである死によってこの世では引き裂かれはしたが、からだじゅうに満ち満ちてなおあふれるばかりの思いの深さは、あの世できっとまっとうされていることだろう。

スタンド*バイ*ミー*小路幸也

  • 2008/08/30(土) 16:49:26

スタンド・バイ・ミー―東京バンドワゴンスタンド・バイ・ミー―東京バンドワゴン
(2008/04)
小路 幸也

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大人気の東京バンドワゴンシリーズ第3弾!
古本屋を営む平成の大家族が、古本と共に持ち込まれる事件の数々を家訓に従い解決する、涙と笑いのラブ&ピース物語。今回は、あの昭和のスターが愛のために奔走する!? ますます元気な第3弾!


秋から夏までの一年間の東京バンドワゴンである。
堀田家のメンバーも続々と増え、にぎやかになるとともに、それぞれ――飼い犬や猫さえも――の役割にも少しずつ変化が出てくる。ゆるやかに時代が流れていくのが目に見えるようである。
しかし、変わらないものもある。毎朝繰り広げられるにぎやかな朝の食卓、複雑に飛び交うように見えるが、ちゃんと通じている会話。何度みても微笑が自然に浮かんできてしまう。
堀田家がかかわる謎も相変わらずご近所を巻き込み、助けられ、解かれてみればあたたかい。
勘一が英語に堪能だったとは意外だったが、格好よかった。

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とりつくしま*東直子

  • 2008/08/29(金) 19:40:49

とりつくしまとりつくしま
(2007/05/07)
東 直子

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あなたは何に「とりつき」ますか?
死んでしまったあなたに、とりつくしま係が問いかけます。
そして妻は夫のマグカップに、弟子は先生の扇子に、なりました。
切なくてほろ苦くて、じんわりする連作短編集


「ロージン」 「トリケラトプス」 「青いの」 「白檀」 「名前」 「ささやき」 「日記」 「マッサージ」 「くちびる」 「レンズ」 番外編「びわの樹の下の娘」

この世に思いを残して死んだ者に、もう一度一方通行の現世とのかかわりを持たせてくれる「とりつくしま」係をキーとする連作。
命のないものを「とりつくしま」として契約を交わし、現世に帰ることができるのだが、こちらから働きかけることはもちろんできないし、そこに自分がとりついていることは誰にも知られることはない。ただそこにとりついて起こることを見ることができるだけである。というのがこの物語の要である。
もどかしいことこの上ない。愛する人の役に立ってやることもできないし、危機を知らせることもできない。ただ見守るだけ。
それでも、心を残して死んでいく者たちにとってはかけがえのないひと時だったのだろうと思われる。「とりつく」というとおどろおどろしい感じがするが、「しま」がついただけでなにやらちょっぴり情けないような人間臭いような感じである。読後、つい辺りを見回してしまいそうになる。

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三十女のおいしい暮らし*岸本葉子

  • 2008/08/28(木) 19:08:47

三十女のおいしい暮らし三十女のおいしい暮らし
(1997/12)
岸本 葉子

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憧れの料理教室、アカすり体験、ウォーキングマシーン購入、ヘアダイ、インターネット、快眠追求、居眠り百態…焦りと不安の二十代を抜け出て、好奇心いっぱいの楽しい三十代の真最中をゆく著者の生活エッセイ。



30歳を迎える頃の私は、なんとなく落ち着かなかった。(30がなんぼのもんじゃい、私は私だ)と、訳もなく関西弁をまじえて自分で自分に言い聞かせ、慌てず騒がずのつもりでいたが、やはりどこか浮き足立っていた。私にとって30という年齢は、19が20(はたち)になるよりもずっとインパクトがあったのだ。

とあとがきにあるように、それまでとは日々を過ごす心がまえにも変化があったようである。自らの探究心の赴くまま――といってしまっては大げさかもしれないが――興味のあることをあれこれと体験してみる著者の生き生きとした姿が目に見えるようである。
ときに失敗し、またときには後悔もし、しかし概ね愉しみ満足して次の興味に向かって踏み出しているようにみえる。
著者を囲む友人同士のおしゃべりが、我がことのようでとてもたのしそうである。

ヴァン・ショーをあなたに*近藤史恵

  • 2008/08/27(水) 17:24:03

ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)
(2008/06)
近藤 史恵

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下町のフレンチレストラン、ビストロ・パ・マルのスタッフは四人。二人の料理人はシェフの三舟さんと志村さん、ソムリエの金子さん、そしてギャルソンの僕。気取らない料理で客の舌と心をつかむ変わり者のシェフは、客たちの持ち込む不可解な謎を鮮やかに解く名探偵。
近所の田上家のスキレットはなぜすぐ錆びるのか? しっかりしたフランス風のパンを売りたいとはりきっていた女性パン職人は、なぜ突然いなくなったのか? ブイヤベース・ファンの新城さんの正体は? ストラスブールのミリアムおばあちゃんが、夢のようにおいしいヴァン・ショーをつくらなくなってしまったわけは?・・・・・
絶品の料理の数々と極上のミステリをどうぞ!


表題作のほか、「錆びないスキレット」 「憂さ晴らしのビストウ」 「ブーランジュリーのメロンパン」 「氷姫」 「天空の泉」 

『タルト・タタンの夢』につづく、ビストロ・パ・マル、三舟シェフシリーズ第二弾。
相変わらずいい香りが漂ってきそうなビストロ・パ・マルである。なのに、のっけから三舟シェフと志村さんが言い合いをしている。一大事!と読み進めると、なんとも拍子抜けの理由である。三舟シェフの可愛らしい一面をみせてもらった。
今回は、三舟シェフの若かりし頃のフランスでの様子や、店の名前の由来(たぶん)や、人の躰も心も温めてくれるあのヴァン・ショーの由来もわかって得したような気分である。
三舟シェフは、若い頃からちっとも変わらないのだということもわかって、さらに好きになる。

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平台がおまちかね*大崎梢

  • 2008/08/26(火) 21:41:44

平台がおまちかね (創元クライム・クラブ)平台がおまちかね (創元クライム・クラブ)
(2008/06)
大崎 梢

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自社本をたくさん売ってくれた書店を訪ねたら、何故か冷たくあしらわれ、文学賞の贈呈式では受賞者が現れない…。波瀾万丈の日々を奮闘する、新人出版社営業部員・井辻くんのハートフル・ミステリ。


表題作のほか、「マドンナの憂鬱な棚」 「贈呈式で会いましょう」 「絵本の神さま」 「ときめきのポップスター」
その間に、「新人営業マン・井辻智紀の一日1-5」が挟み込まれている。

書店員さんたちに評判のよかった前任者・吉野さんの後任として、とりたてて秀でたところのない――と自分で思っている――井辻智紀がアルバイトから正社員に登用された。ほかの出版社の営業マンたちと、時に競い、時に協力し合って書店やその周辺で起こる謎を解き明かしていく。吉野先輩には敵わない、といつも思っている井辻くんだが、この一冊が終わるころにはキャラの濃い営業マン仲間にもしっかり溶け込み、書店員さんからも信頼されつつあって、頼もしくすら見えてくる。
成風堂書店の多絵ちゃんを匂わせるエピソードが出てくるのも、思いがけず懐かしい人の消息を聞いたようでうれしい。

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ラットマン*道尾秀介

  • 2008/08/24(日) 16:53:59

ラットマンラットマン
(2008/01/22)
道尾 秀介

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ようこそ。ここが、青春の終わりだ。結成14年のアマチュアロックバンドが、練習中のスタジオで遭遇した不可解な事件。浮かび上がるメンバーの過去と現在、そして未来。注目の新鋭がついに到達した最高傑作。


タイトルは、多義図形といって、見方によってさまざまに見える図形のこと。
  24-2ratman.jpg 
(右端の絵が、上段の人群ではオジサンに見え、下段の動物群ではネズミに見える。) 

バンドの元ドラマーで、メンバーのひとり姫川と付き合っていたひかりが、バンドの練習場所であり、彼女自身の仕事場である音楽スタジオの倉庫でアンプの下敷きになって死んだ。事故なのか事件なのか・・・・・?
メンバーそれぞれの思惑。ひかりと――バンドの現ドラマーで――ひかりの妹の桂の境遇、そして姫川の心に重荷となっている幼い日の姉の死。ひかりの妊娠。などなど、さまざまな要素が出来事をある方向に導こうとする。答えはすぐに出て、それに対する理由づけがなされるのかと思っていると、あっという間に出来事は別の顔を見せはじめるのである。何度裏切られたことか・・・。
そして、すべてを虚しくしてしまうような、それでいて希望以外の何物でもないようなこのラストである。まさにラットマンの錯覚にしてやられた心地である。

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サウスポイント*よしもとばなな

  • 2008/08/23(土) 11:07:11

サウスポイントサウスポイント
(2008/04)
よしもと ばなな

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かつて初恋の少年に送った手紙の一節が、ハワイアンの調べに乗って耳に届いた。キルト作家となった私はその歌い手を訪ねるが……。生命の輝きに充ちたハワイ島を舞台に描く書き下ろし長篇。


普通とはいえない境遇で育ち、だが不幸せかといえばそうも言い切れず、そのときどきでしあわせな風景を思い出すことができるようなテトラと珠彦。事情はまったく違うが、大人の都合に否応なしに振り回された子ども時代。そんな頃に、生木を裂くように別れ別れになり、自分の判断と責任でなんでもできる大人になって再び出会った。
キルト作家になっているテトラは、珠彦の亡くなった弟・幸彦のキルトを作るために、珠彦一家の住むハワイ島に赴き、その場所の魅力に惹きつけられるのだった。
しあわせなのか不幸せなのかよくわからない心のありようのテトラや珠彦とハワイの時間の流れ方がとてもしっくりとなじんでいて、物語を読んでいるというよりも、おなじ時間の流れのなかに身を置いているようなひとときだった。理屈ではないなにかが、こちらの胸のなかに流れ込んでくるような心地の一冊である。

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無言の旅人*仙川環

  • 2008/08/22(金) 14:03:04

無言の旅人無言の旅人
(2008/01)
仙川 環

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交通事故で意識不明になった三島耕一の自宅から見つかった尊厳死の要望書。希望を叶えるべきか否か、婚約者、家族、医者は激しく動揺する。しかし…。元医学ジャーナリストによる慟哭のミステリー。


尊厳死を題材とし、しかもミステリに仕立てている。ただでさえ重い尊厳死というテーマを、善悪とか好悪とか、理論的に感情的に語るだけでなく、自分の最期をどう迎えるかということについて、どのように考え実行に移すのが最善なのか、というところまで踏み込んで、その部分をミステリにしたことで、熱くなった読者の頭をつかのま冷やす効果と、より客観的に考えるきっかけをもたらしているように思う。
おそらく読んでいる誰もが、我が身に引き比べて考えさせられるのではないだろうか。
可否の判断はとうてい簡単に出せるものではないが、ラストの耕一のPCに残されていたメールの下書きが、その判断の難しさを物語っていて、胸が苦しくなった。

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がんから5年*岸本葉子

  • 2008/08/20(水) 19:25:20

がんから5年―「ほどほど」がだいじがんから5年―「ほどほど」がだいじ
(2007/09)
岸本 葉子

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「5年が経過しました」
主治医の言葉がこうも胸にしみ通るとは、予想外だった。
食事療法や漢方医院通いは、今も続けている。
仲間と‶希望‶や‶これから‶を語り合うことも。
たしかに、がんは長い。それでも、
のんびり、ゆったり、自分なりに付き合っていこうと思う。

虫垂がんの手術から6年、日々の思いはさまざま、心も揺れる。
体調の優れないこともあれば仕事やお金のことで頭を悩ましたり。
それらも含め、「年をとっていく」という普遍的なことへ、
自然につなげていける気がしています。


ほんとうの辛さや苦労、苦悩は、がんにかかわらずその病気に罹った本人でなければ決して解らないのだろうと思う。しかも、苦悩のポイントもそれぞれに違うことだろう。とはいっても、自分以外の体験者の言葉や生き方に接することができることで、励みになったり我が身を省みたりできるということもあるだろう。
著者も、ご自身の側にだけ病気を抱え込まず、ボランティア活動などを通じて、外側へ発信することで自分にも他者にも生きていこうとする勇気を広めているように思う。

何も持たず存在するということ*角田光代

  • 2008/08/19(火) 17:03:39

何も持たず存在するということ何も持たず存在するということ
(2008/06)
角田 光代

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家族を、自著を、旅をめぐって各紙誌に寄せた文章を精選した、角田光代の最新エッセイ集。作家として大成するまでの軌跡と等身大の思いの数々が綴られた、切なく、おかしな、心の記録。


ノートにいくつもいくつも物語を書いていた小学生のころのこと、作家になりたいと思い定めて模試の結果にもめげずに志望校に合格・入学したころのこと、さまざまな賞の受賞の前後のこと、あの作品この作品の書かれたときの胸のうち、などなど・・・・・。
いろんな時代の、そして現在の、角田光代というひとりの人のことが詰まっている一冊である。

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ブランケット・キャッツ*重松清

  • 2008/08/16(土) 16:35:16

ブランケット・キャッツブランケット・キャッツ
(2008/02/07)
重松 清

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馴染んだ毛布とともにレンタルされる猫たち。「いま」を生きる人の孤独と猫のしなやかさ。リストラされた父親が家族にささやかな夢として猫を借りてきた「我が家の夢のブランケット・キャット」など、直木賞作家が贈る7つの心温まる物語。asahi.com連載の単行本化。


「花粉症のブランケット・キャット」 「助手席に座るブランケット・キャット」 「尻尾のないブランケット・キャット」 「身代わりのブランケット・キャット」 「嫌われ者のブランケット・キャット」 「旅に出たブランケット・キャット」 「我が家の夢のブランケット・キャット」

二泊三日、生まれたときから馴染んだブランケットとともに貸し出される猫たちと、その借り手たちの物語。貸し出される猫も、借主もさまざま。そして、借りる理由もそれぞれである。にもかかわらず、これらの物語にはどこかおなじような匂いがする。淋しさ、やりきれなさ、心許なさ。そして、このままではいけないと思う気持ちが満ちているような気がする。
さまざまな人の二泊三日の飼い猫になる賢い猫たちは、そんな人間たちの弱さまでをも受け止めて、にゃぁというひと声で背中を押してくれるのかもしれない。猫たちがカウンセラーにも見えてしまう。

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少女七竃と七人の可愛そうな大人*桜庭一樹

  • 2008/08/14(木) 16:24:54

少女七竈と七人の可愛そうな大人少女七竈と七人の可愛そうな大人
(2006/07)
桜庭 一樹

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わたし、川村七竈十七歳はたいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった
鉄道を愛し、孤高に生きる七竈。淫乱な母は、すぐに新しい恋におちて旅に出る。親友の雪風との静かで完成された世界。だが可愛そうな大人たちの騒ぎはだんだんと七竈を巻き込んで。


旭川という冬の長い閉ざされた街で、美しすぎるかんばせに生まれてしまった七竃(ななかまど)。しかも彼女は、母・優奈が、「白っぽい丸」である自分から脱却したいと望み、「辻斬りのように」男と交わった結果の子であった。旭川というひんやりと閉じた街で・・・。七竃が唯一心を許せるのは、同じように美しすぎるかんばせを持った少年・雪風(ゆきかぜ)だけだったが、彼との間にもどうすることもできない複雑な事情が横たわっているのだった。
周りから作り上げられた自分という形を壊したくなる年頃の母とその娘の姿に、一見対照的ながら同質なものを感じるのはなぜだろう。生まれたときから否応なく背負わされているハンデを、乗り越えようとしている七竃にとって、これからの時がやさしいことを祈らずにはいられない。

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ガーデン*近藤史恵

  • 2008/08/13(水) 16:48:51

ガーデン (クイーンの13)ガーデン (クイーンの13)
(1996/02)
近藤 史恵

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失踪した少女を追い、探偵は狂気の庭に足を踏み入れる…。小指のないまま温室に居座り続ける少女。「好きな人がいる、だから殺さねばならない」という彼女の呟きが意味するのは? 鮎川賞作家が、満を持して放つ会心作。


常識で推し量ることのできない価値観を持つ少女・火夜(かや)と、彼女のとらえどころなくしばられない生き方に魅入られた人々の物語である。登場人物の誰もが、不器用で、孤独で、さみしがりやのくせに強がりで、結局は自分から壁を越えられず、乗り越えてきてくれる誰かを待っているかのようである。
周りを壁(塀)に囲まれ、楽園のようでありながらどこか人を拒んでいるような藤枝元医師の庭は、火夜そのものと言えるのかもしれない。

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四〇九号室の患者*綾辻行人

  • 2008/08/10(日) 16:35:57

四〇九号室の患者四〇九号室の患者
(1995/05)
綾辻 行人

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多くの読者を魅了する推理小説家の著者が、プロデビュー前に書いた作品。自動車事故で失った記憶を求めて綴られる日記。次第に明らかになる自らの謎。二転三転の末に待ちうける結末とは。1993年森田塾出版の再刊。


作品のほとんどが、事故にあって生き残りはしたが記憶を失って精神科の病棟に入院している主人公の日記で占められている。その間にほんの少し、看護師や担当医師の思惑が挟み込まれているだけである。それだけで、「わたしは誰?」という主人公の狂おしい胸のうちと、怖いもの見たさの読者の興味とが加速度的に盛り上がるのである。
綾辻氏なので、いちばんありえない結末を予想してみたのだが、まさにそんな結末だった。

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香港の甘い豆腐*大島真寿美

  • 2008/08/09(土) 16:33:48

香港の甘い豆腐香港の甘い豆腐
(2004/10)
大島 真寿美

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出生の秘密が、私を香港へと運んだ。孤独を初めて抱きしめた十七歳の物語。

ひとりが気持ちよかった。やっと、ひとりになれた。親や友だちから解き放たれた地。風はぶっきらぼうだけど、いじわるじゃない-。出生の秘密が、私を香港へと運んだ。たおやかで、ガッツな青春の物語。


生まれたときから父はいないと思って生きてきた十七歳の彩美(アヤミ)は、高校生活にも人生にも倦んでいた。そんなある日突然、母に香港に連れて行かれたのだった。そこに彩美の父がいるという。
香港の雑多で喧騒にあふれた街や人々に、初めは嫌悪感さえ覚えた彩美だったが、ぶっきらぼうななかのあたたかさを知るにつれ、次第に愛着を抱き、離れがたくもなるのだった。
人間同士の繋がりとか、覚悟とか、境遇とか、運命とか、パワーに満ちた香港という街でひとりになったときに吸収したものは、彩美がこれから生きていくためのまさに栄養になったようである。
彩美と母との親子関係には独特のものがあるが、彩美の母とその母である祖母との親子関係もまた不思議で魅力的だった。

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そうか、もう君はいないのか*城山三郎

  • 2008/08/07(木) 17:07:06

そうか、もう君はいないのかそうか、もう君はいないのか
(2008/01/24)
城山三郎

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甦る面影、声にならぬ悲しみ。最期まで天真爛漫だった君よ……。亡き妻との人生の日々を綴った、凛として純真な愛あふれる「妻との半生記」。感涙の絶筆。

癌とわかった妻。私は言葉が出なかった。かわりに両腕をひろげ、その中へ飛びこんできた容子を抱きしめた。「大丈夫だ、大丈夫。おれがついてる」 夫婦の絆を綴る、愛惜の回想記。「遺稿」の単行本化。


「そうか、もう君はいないのか」
タイトルにもなっているこの呟きが、言いようもなく淋しく切なく胸に迫る。
著者にとっての妻・容子さんのかけがえのなさが、これでもかというくらいこちらのむねに流れ込んできて、愛でいっぱいになるほどである。
巻末に添えられた次女・紀子さんの文章に、著者の最期の様子が垣間見られるが、この世の最後の最後まで、そしておそらくあの世でも、しあわせでいらしたのだろうと思わせられる。

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戸村飯店青春100連発*瀬尾まいこ

  • 2008/08/06(水) 17:32:37

戸村飯店青春100連発戸村飯店青春100連発
(2008/03/20)
瀬尾 まいこ

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大阪の下町にある中華料理店・戸村飯店。この店の息子たちは、性格も外見も正反対で仲が悪い。高3の長男・ヘイスケは、昔から要領が良く、頭もいいイケメン。しかし地元の空気が苦手で、高校卒業後は東京の専門学校に通う準備をしていた。一方、高2の次男・コウスケは勉強が苦手。単純でやや短気だが、誰からも愛される明朗快活な野球部員。近所に住む同級生・岡野に思いを寄せながら、卒業後は店を継ぐつもりでいた。
春になり、東京に出てきたヘイスケは、カフェでバイトをしながら新生活をはじめる。一方コウスケは、最後の高校生活を謳歌するため、部活引退後も合唱祭の指揮者に立候補したり、岡野のことを考えたり、忙しい日々を送っていた。ところが冬のある日、コウスケの人生を左右する大問題が現れて……。


人の気持ちにじんとして泣かされ、大阪のコテコテのギャグに笑って泣かされた一冊だった。
一歳違いの兄弟・ヘイスケとコウスケは、何かにつけて正反対のように思われていたが、コウスケが語る兄と、ヘイスケが語る弟とを並べてみると、どうもそうばかりも言えないように思われる。いちばん身近で永遠のライバルである男兄弟の距離感が絶妙で胸がいっぱいになる。
戸村飯店の常連客たちや、コウスケのクラスメイト、ヘイスケのバイト先の店長など、周りの登場人物たちにも魅力的な人が多くて、彼らのことももっと知りたくなるほどである。
戸村兄弟のこれからももっと知りたい。

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極秘捜査*麻生幾

  • 2008/08/05(火) 17:08:42

極秘捜査―政府・警察・自衛隊の「対オウム事件ファイル」 (文春文庫)極秘捜査―政府・警察・自衛隊の「対オウム事件ファイル」 (文春文庫)
(2000/08)
麻生 幾

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世界史上初めて、化学兵器“サリン”での無差別テロリズムを敢行し、さらにクーデターさえも計画していたオウム真理教。わが国の政府、警察、自衛隊は、あるいは秘められた特殊部隊は、いかに壮絶な戦いを繰り広げて来たのか。未公開資料をもとに、恐るべき“戦争”のすべてを緻密に描くノンフィクション大作。


連日ワイドショーの画面に登場し、自分たちに都合のいいことばかりをまくし立てていたオウムの広報の人たちの影で、日本の警察が刑事部と公安部との垣根さえ越えて、必死に捜査に当たっていたのだという事実を、なによりもありがたいことだと思い、頭が下がる。サリンによるテロという未曾有の事態に当たって、各部署がまず第一になにをなすべきかを的確に判断して、即行動に移したからこそその後の展開が変わったのかもしれない、とも思う。不祥事も多く批判されることも多い警察機構だが、この水面下の闘いを知ると、まだまだ信頼してもいいのではないかと思える。
それにしても、未だに完全解決には至らず、不気味としか言いようのない活動を続けている教団である。これからもぜひとも目を離さずに、新たな不穏の芽は早期に摘んでもらいたいものである。

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くちぶえ番長*重松清

  • 2008/08/01(金) 17:25:58

くちぶえ番長 (新潮文庫 し 43-10)くちぶえ番長 (新潮文庫 し 43-10)
(2007/06)
重松 清

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小学四年生のツヨシのクラスに、一輪車とくちぶえの上手な女の子、マコトがやってきた。転校早々「わたし、この学校の番長になる!」と宣言したマコトに、みんなはびっくり。でも、小さい頃にお父さんを亡くしたマコトは、誰よりも強く、優しく、友だち思いで、頼りになるやつだったんだ――。サイコーの相棒になったマコトとツヨシが駆けぬけた一年間の、決して忘れられない友情物語。


大人になって作家になったツヨシが、故郷の家の物置でみつけた小学校四年生のころの『ひみつノート』。作家になったときのネタ帳として何でも書き留めていたノートだった。そこには、いつもマコトがいたのだった。
幼いころに父を亡くし、ほかの同級生よりもひと足先に大人になってしまったようなマコトの健気さと、それをしっかり理解できるほどには大人ではなく、かといってまったく無頓着でいられるほど子どもではないツヨシの心あたたまり、ちょっぴり切ない想いのやりとりの物語。
「泣きたいときには口笛を」というマコトの父の遺した言葉が、熱く哀しい。

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秘匿*堂場俊一

  • 2008/08/01(金) 14:35:53

被匿―刑事・鳴沢了 (中公文庫 と 25-9)被匿―刑事・鳴沢了 (中公文庫 と 25-9)
(2007/06)
堂場 瞬一

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西八王子暑管内で代議士が不審死。ろくな捜査もないまま事故と断じられる。苛立つ鳴沢に地検から、死んだ議員が近々大規模収賄で事情聴取される予定だったとの裏情報が入る。捜査を始めた鳴沢は議員が当夜女と一緒にいたことを突き止めるが・・・・・自殺か?それとも他殺か?事件は思いがけず旧知の人物へとつながっていき――。


刑事・鳴沢了シリーズ八作目。とんでもないく中途半端なところから手をつけてしまったらしい。
刑事が主人公なのだが、いわゆる警察小説というよりも、鳴沢了物語といった趣が強いように思われる。
事件の核心に迫っていく緊張感や高揚感もあるのだが、それにも増して、鳴沢の反応や思考に目が向いてしまうのである。途中から読み始めて、これまでの経緯を知らないからよけいそうなのかもしれないが。
だらけきった西八王子暑の面々のなかで、捜査一課から来た相棒・藤田が魅力的である。

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