脳みその研究*阿刀田高

  • 2008/10/31(金) 18:08:01

脳みその研究脳みその研究
(2004/05)
阿刀田 高

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南の島で中年男が出会う不思議な日本人の話や、ひょんな事から血のつながりを認識する異母兄弟の話など。
読む者を、ある時はクスッ、ある時はドキッとさせる表情豊かな九つの短篇小説集。


表題作のほか、「海の中道」 「兄弟姉妹(はらから)」 「小説ウイスキー教室」 「応久礼を捜せ」 「裏窓」 「狐恋い」 「掌の哲学」 「雨のあと――あるいはエピローグ風の小品」

紹介文のとおり、ほんとうに表情豊かである。真面目なのか不真面目なのか一見判らず、しかしどの作品にも可笑し味がある。一遍ずつ読み終えて、あぁそういうことだったのか、と可笑しさがぶり返したりもする。
どうしても憎くて殺してやりたい奴がいて、殺し屋を捜し歩く「応久礼を捜せ」が著者らしくて好み。ハラハラ・ドキドキ・クスッ、である。

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ベルカ、吠えないのか?*古川日出男

  • 2008/10/30(木) 18:11:40

ベルカ、吠えないのか?ベルカ、吠えないのか?
(2005/04/22)
古川 日出男

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1943年、日本軍が撤収したキスカ島。無人の島には4頭の軍用犬が残された。捨てられた事実を理解するイヌたち。やがて彼らが島を離れる日がきて-。それは大いなる「イヌによる現代史」の始まりだった!
二十世紀をまるごと描いた、古川日出男による超・世界クロニクル。四頭のイヌから始まる、「戦争の世紀」。


神の目とも言える全世界を大局的に眺める視点が物語自体を語り、また、犬に語りかけることで犬に物語を語らせている。
キスカ島に残された四頭の犬の系統樹が世界にどんどん広がり、途絶えそうになりながら枝を伸ばしていくさまが感動的ですらある。
世界中でなくならない戦争も、犬を通してみることで、既存の尺度で測れない別物として捉えられたりもするのが興味深い。尊大な人間の愚かさと、獣である犬の本能の正しさが対比され、歴史と共に生き、ときに歴史の流れを変えさえしたのではないかと思われる場面に立ち会った犬たちの存在感には圧倒されるものがある。

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Presents*角田光代/松尾たいこ

  • 2008/10/27(月) 17:08:39

PresentsPresents
(2005/12)
角田 光代松尾 たいこ

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この世に生まれて、初めてもらう「名前」放課後の「初キス」女友達からの「ウェディングヴェール」子供が描いた「家族の絵」―小説と絵で切りとった、じんわりしあわせな十二景。


「名前」 「ランドセル」 「初キス」 「鍋セット」 「うに煎餅」 「合い鍵」 「ヴェール」 「記憶」 「絵」 「料理」 「ぬいぐるみ」 「涙」

この世に生まれ、人生の幕を閉じるまでに、さまざまな場面で贈られるいろいろなものが織り込まれた物語である。
プレゼントといっても、決してきらびやかなものばかりではなく、形のないものだったり、形あるものに籠められた想いだったり、そしてまた、あふれる想いがぎっしり詰まったありふれた何かだったりするのだ。そのときその場でのかけがえのない気持ち、それがきっとプレゼントなのだろうと思ってみたりする。
そばにいる誰かを、もっともっと大切にしたいと思わせてくれる一冊だった。

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君の望む死に方*石持浅海

  • 2008/10/26(日) 08:39:41

君の望む死に方 (ノン・ノベル 845)君の望む死に方 (ノン・ノベル 845)
(2008/03)
石持 浅海

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私は君に殺されることにしたよ
しかも殺人犯にはしない──。
死を告知された男が選んだ自らの最期。
周到な計画は、一人の女性の出現によって齟齬(そご)をきたしはじめた
膵臓ガンで余命6ヶ月──
〈生きているうちにしか出来ないことは何か〉
死を告知されたソル電機の創業社長日向貞則(ひなたさだのり)は社員の梶間晴征に、自分を殺させる最期を選んだ。彼には自分を殺す動機がある。
殺人を遂行させた後、殺人犯とさせない形で──。
幹部候補を対象にした、保養所での“お見合い研修”に梶間以下、4人の若手社員を招集。日向の思惑通り、舞台と仕掛けは調(ととの)った。あとは、梶間が動いてくれるのを待つだけだった。だが、ゲストとして招いた一人の女性の出現が、「計画」に微妙な齟齬(そご)をきたしはじめた……。
<著者のことば>
推理小説とは、事件発生と解決を描いた読み物です。その事件が「起きるまで」を丁寧(ていねい)に書こうと思いました。実際に書いてみると被害者も、犯人も、探偵も、みんなそれぞれに努力していることがよくわかりました。あなたは、誰に共感してくださるでしょうか?


『扉は閉ざされたまま』の碓氷優佳が登場し、探偵役――と言うのが正しいかどうかはよく判らないが――を務める。シリーズと言うには、つながり方が弱いようにも思われるが・・・・・。
著者のことばにあるように、事件が「起きるまで」の物語なので、作品中で誰かが殺されることはないのだが、そこに至るまでの、殺す側、殺されようとする側の思考の過程が、カムフラージュとも言える幹部候補生お見合い研修の様子に絡めて丁寧に描かれていて飽きさせない。
殺されようとする者の意志がなければ、おそらく誰にも気づかれなかったであろう優佳の邪魔作戦のあれこれが、あまりにも論理的で、前作を読んでいるせいで切なささえ感じさせられた。

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僕たちのミシシッピ・リバー-季節風*夏-*重松清

  • 2008/10/24(金) 18:13:42

僕たちのミシシッピ・リバー―季節風*夏僕たちのミシシッピ・リバー―季節風*夏
(2008/06)
重松 清

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誰より気が合う相棒の転校を前に、僕らは冒険に出かけた──憧れのあの2人組のように。友人を家族を恋人を"思う"12の夏の風景


表題作のほか、「親知らず」 「あじさい、揺れて」 「その次の雨の日のために」 「ささのは さらさら」 「風鈴」 「魔法使いの絵の具」 「終わりの後の始まりの前に」 「金魚」 「べっぴんさん」 「タカシ丸」 「虹色メガネ」

前作と同様、別れの物語が多い。前作の春ゆえの揺れ動く惑いの別れとはやはり少し趣を異にしていて、汗と涙と切なさの別れが多いように思われた。永遠の別れにも、友人との別れにも、そしていままでの自分との別れにも、そのときどきの季節の行事や風景がいつも深くかかわっている。おなじ季節がめぐりくるたびに、別れたものへの想いもまた新たになっていくのだろう。

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空へ向かう花*小路幸也

  • 2008/10/22(水) 18:36:55

空へ向かう花空へ向かう花
(2008/09/26)
小路 幸也

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ハルとカホは違う小学校に通う、六年生。
接点などなかったふたりが、運命のいたずらによって引き寄せられる。
心に傷を負った少年、少女、そして彼らを見守る大人たち。
それぞれが懸命に、前を向いて歩いていく――。


六年生のハル(沢木春之)、違う学校の六年生のカホ(折村花歩)、大学生のキッペイ(桔平)、中年の肉体労働者イザさん(井崎原)が、それぞれ別々に知り合ったにもかかわらず、次々にリンクするように共通の知り合いになっていくのが運命的に見える。しかも、それぞれの知り合ったきっかけが、相手のことを慮った結果なので、神様に与えられた必然なのかもしれないとさえ思えるのである。
十二歳にして背負いきれない重荷を負ってしまったハル、幼すぎるときから過酷な日々を過ごしてきたカホ、そんな彼らをあたたかく見守る目と、差し伸べられる愛にあふれた手があってくれてほんとうによかった。
物語が終わっても、ハルやカホの重荷がなくなるわけではないが、信じられる人たちに出会えたことはふたりの未来をきっと明るくするだろう。

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償い*矢口敦子

  • 2008/10/21(火) 18:21:44

償い償い
(2001/07)
矢口 敦子

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「あの人は死んでよかったんだと思うよ」私が救った子供は、15歳の殺人鬼に成長していた? 36歳の日高は子供の病死と妻の自殺で絶望し、エリート医師からホームレスになった。流れ着いた東京のベッド・タウン光市で、高齢者、障害者など社会的弱者ばかりが殺される連続ナイフ殺人事件が起き、日高は知り合った刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて誘拐犯から命を救った15歳の少年・真人が犯人ではないかと疑い始める。「人の心の泣き声が聞こえる」という真人は、「不幸な人は死んでしまえば、もう不幸は感じずにすむ」と言う。自分が救った子供が殺人鬼になったのか―日高は悩み、真相を探るうち、真人の心の深い闇にたどり着く。感動のミステリ長篇。


殺人事件があり、警察が捜査していて、探偵役となる人物も登場するが、これがミステリか、と問われると、全面的にはうなずけない気もするのである。ミステリと言うよりも、タイトルが表わすように、心のドラマという趣が強い一冊だと思う。

人の肉体を殺したら罰せられるけれど、人の心を殺しても罰せられないんだとしたら、あまりに不公平です。


という本文中の一節に象徴される罪の意識に、探偵役である野宿者・日高も、かつて彼に命を助けられた真人(マコト)も囚われているのである。
連続殺人事件は一応の解決を見るが、彼らは、自らが囚われた心の枷から抜け出すことはおそらくできないのではないかと思われる。この物語のラストその後には、まだまだ苦しみが待ち構えているように思えてならない。日高にも、真人にも・・・・・。

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九つの、物語*橋本紡

  • 2008/10/18(土) 21:26:08

九つの、物語九つの、物語
(2008/03)
橋本 紡

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大切な人を、自分の心を取り戻す再生の物語
大学生のゆきなのもとに突然現われた、もういるはずのない兄。奇妙で心地よい二人の生活は、しかし永遠には続かなかった。母からの手紙が失われた記憶を蘇らせ、ゆきなの心は壊れていく…。


 

 第一話・・・・・「縷紅新草」(泉鏡花著)
 第二話・・・・・「待つ」(『女生徒』太宰治著)
 第三話・・・・・「蒲団」(田山花袋著)
 第四話・・・・・「あぢさゐ」(永井荷風著)
 第五話・・・・・「ノラや」(内田百著)
 第六話・・・・・「山椒魚(改変前)」(井伏鱒二著)
 第七話・・・・・「山椒魚(改変後)」(井伏鱒二著)
 第八話・・・・・「わかれ道」(樋口一葉著)
 第九話・・・・・「コネティカットのひょこひょこおじさん」・・・・・(J・D・サリンジャー著)


傷ついたゆきなの心の再生の物語である。
兄の部屋の本棚から選んだ一冊の本。それがそれぞれの物語の核になっていて趣き深い。ゆきなが手に取った本が絶妙に物語の展開を暗示したり、ときどきの悩みにヒントを与えたり、自分の心の動きを気づかせてくれたりもする大事なキーにもなっている。
そして、兄が作ってくれる食事のあたたかさも、物語の魅力になっている。特性トマトスパゲティ、ご飯を詰めた丸鶏、クロックマダム、パエリアなどなど・・・・・。妹・ゆきなへの思いがぎゅっと詰まったあたたかな食事である。
どの物語もやさしく、あたたかく、そしてあまりに切ない。気づかないうちに頬を涙があたたかく濡らすような一冊だった。

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平成大家族*中島京子

  • 2008/10/17(金) 18:33:55

平成大家族平成大家族
(2008/02/05)
中島 京子

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72歳の元歯科医・緋田龍太郎が妻の春子、妻の母のタケ、ひきこもりの長男克郎と暮らす家に、事業が失敗した長女逸子の一家3人、離婚した妊婦の次女友恵が同居することに。にわか大家族になった緋田家の明日は・・・!?家族それぞれの目線から語られる、それぞれの事情。くすりと笑って、ほっこり心が温かくなる、新家族小説が誕生!


歯科医を引退した緋田龍太郎・72歳。現在は、趣味で義歯を作り、妻と妻の母と引きこもりの長男と四人で、このままこともなく暮らしていくのだろうと思っていた。そんな矢先、出て行った家族が続々ともどってくることになったのだった。
あっという間に八人家族になった緋田家。その八人が、それぞれ現在の状況に至るまでの、そして現在の胸の内を語ったオムニバスである。ここに至るまでには、それぞれに理由があり、言いたいことも多々あるのだが、家族であるがゆえに言わなかったり言えなかったりするあれこれを、それぞれの視線でながめていると、これぞ家族だなぁ、という思いでいっぱいになる。勝手気ままにやっているわけではなく、家族のことを気にかけているのだが、わざわざ言葉にすることもないので伝わらなかったり、逆に心配のあまりつい言いすぎてみたり・・・。
昭和以前の大家族が順当な世代交代によって、入口(出生)も出口(独立、死亡)がはっきりしていたのに対し、平成の大家族は、出たり入ったりが忙しく、予測できない大家族なのである。
家族の距離感の描かれ方が絶妙で、ひとりひとりの思いがそれぞれよくわかり、結構悲惨な状況にもかかわらず、どこか楽天的にも見える緋田家の人々が好ましい一冊だった。

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神の狩人*柴田よしき

  • 2008/10/16(木) 14:11:41

神の狩人 2031探偵物語神の狩人 2031探偵物語
(2008/06/25)
柴田 よしき

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2031年、人々を自殺へと誘う謎の集団がうごめく東京

神の悪意に抗うダーク・ヒロイン、
女探偵サラ誕生──

老人問題、人口減少、整形、自殺、ドラッグ……
現代の闇が凝縮された世界、それが2031年東京。

私立探偵サラのもとに舞い込んだ依頼。何年も前に生き別れたある女性の姉の捜索。
だが、親戚や周囲の誰もがいなかったものとして口を閉ざす。果して本当に姉は
存在したのか? 調査の過程で、元探偵の老人と知り合うことに。
関わる人間が必ず自殺する美しき死の天使。食欲喪失で死に至るセックス・ドラッグ
……。事件はすべて一つの組織につながっていく。そして、サラにも魔の手が。
彼女の奥底に眠る9.11の記憶を呼び起こした才賀医師は何者なのか?!

絶望の正体は神の裁きなんかじゃない……生きろ


舞台は2031年。想像できないほど遠くはなく、2008年の現在よりもよくなっているという希望も持てない近未来である。
そんな時代に、サラが私立探偵をやっているのは偶然なのか、それともはるか過去から定められた必然なのだろうか。本作は、サラが抗いがたい流れに巻き込まれ、何者かと戦うことを余儀なくされるまでの序章のような位置づけのように思われる。
二十世紀を生きた元探偵・風祭と、サラとの交流も興味深い。

あとがきに
 

物語が現実に追いつかれてしまうかもしれない。それでも、物語が現実に呑み込まれてしまうことがないように、必死で逃げようと思います。「


とあるが、著者と現実との戦いも興味深い。

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蕎麦ときしめん*清水義範

  • 2008/10/14(火) 17:10:26

蕎麦ときしめん蕎麦ときしめん
(1986/11)
清水 義範

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読者はパスティーシュという言葉を知っているか?これはフランス語で模倣作品という意味である。じつは作者清水義範はこの言葉を知らなかった。知らずにパスティーシュしてしまったのだ。鬼才野坂昭如をして「とんでもない小説」と言わしめた、とんでもないパスティーシュの作品の数々、じっくりとお楽しみを。


表題作のほか、「商道をゆく」 「序文」 「猿蟹の賦」 「三人の雀鬼」 「きしめんの逆襲」

さすが清水義範!と言うしかない一冊である。名古屋人である著者による――と言ってしまってはいけないのかもしれないが――名古屋論がまさに痛快である。著者にしか書けないだろうとも思われる。ミステリの仕掛けとはまたひと味違った清水流の仕掛けが愉しめる。思わず名古屋に行ってみたくなる。

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ソロモンの犬*道尾秀介

  • 2008/10/13(月) 17:58:29

ソロモンの犬ソロモンの犬
(2007/08)
道尾 秀介

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さっきまで元気だった陽介が目の前で死んだ。愛犬はなぜ暴走したのか? 飄然たるユーモアと痛切なアイロニー。青春ミステリー傑作


物語がはじまった。なにやら不穏な状況の舞台上に登場人物が次々と現れ、回想場面を挟みながら、過去に起こった事件を解き明かしていく物語である。・・・・・とずっと思いながら読んでいた。しかしあるところまでくると・・・・・。
こういう仕掛けに引っかかると思わずうれしくなってしまう。主役は秋本なのだが、事件を直接知らない間宮先生が、脇役ながら探偵役としていい味を出している。学生からは、見かけや行動に問題ありという評価のようだが、気配りもなかなかのように見受けられた。興味深いキャラクターである。

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絶叫城殺人事件*有栖川有栖

  • 2008/10/11(土) 16:53:59

絶叫城殺人事件 (新潮エンターテインメント倶楽部SS)絶叫城殺人事件 (新潮エンターテインメント倶楽部SS)
(2001/10)
有栖川 有栖

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黒鳥亭、それがすべての始まりだった。壷中庵、月宮殿、雪華楼、紅雨荘…。殺人事件の現場はそれぞれ、独特のアウラを放つ館であった。臨床犯罪学者・火村英生と作家・有栖川有栖のふたりが突きとめた、真相とは。そして、大都市を恐怖で覆い尽くした、猟奇的な連続殺人!影なき殺人鬼=ナイト・プローラーは、あの“絶叫城”の住人なのか!?本格推理小説の旗手が、存分に腕を振るった、傑作短編集。


表題作のほか、「黒鳥亭殺人事件」 「壺中庵殺人事件」 「月宮殿殺人事件」 「雪華楼殺人事件」 「紅雨荘殺人事件」

あとがきによると、各作品のタイトル「~~殺人事件」の~~の部分に建物の名を入れることと、殺人事件が夜起きること、というふたつのことを決めて書かれたそうである。
犯罪社会学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖の立ち位置もいつもながら味わい深い。
そして、『絶叫城殺人事件』のなかで、有栖が火村を評して言う言葉に深くうなずかされるのだった。
 

・・・・・まだ抗弁する余地がありそうな犯人が、彼に推理をぶつけられてにわかに崩れ落ちてしまうこと。いくら火村の指摘に理があろうと、死に物狂いでもがきそうな場面でも、犯人たちの多くは思いがけず脆かった。何故ああなるのか?――拠り所を突かれたからだ。どんな犯罪にも、そこさえ見逃してくれたら、と犯人が祈っている急所があるのではないか。火村の目はそこで焦点を結び、「お前が嫌なのは、こうされることだろう」とばかりに光を当てて犯罪者を射ち落とす。私にはそう思えるのだが。

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ひとつ灯せ*宇江佐真理

  • 2008/10/08(水) 17:21:23

ひとつ灯せ―大江戸怪奇譚ひとつ灯せ―大江戸怪奇譚
(2006/08)
宇江佐 真理

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山城河岸の料理茶屋「平野屋」の隠居・清兵衛は53歳。家督をゆずったものの、暇をもてあまし、伊勢屋甚助の誘いで「話の会」という集まりに顔を出し始めた。作り話でない怖い話を持ち寄って酒を酌み交わし……。

江戸の四季折々に語られる人情あふれる、宇江佐版・百物語。


表題作のほか、「首ふり地蔵」 「箱根にて」 「守」 「炒り豆」 「空き屋敷」 「入り口」 「長のお別れ」

年齢も職業もさまざまな人たちが月に一度集まって自分が見聞きした不思議な話を披露する。この話の会に、料理茶屋・平野屋の隠居・清兵衛もひょんなことから参加することになった。
不思議な話を聞きあうだけでなく、次第に不思議な出来事を相談されたりもするようになり、会の面々は怖い思いもすることになるのである。言い伝えられる怪談ではなく、実際に誰かの身に起こったことであるというのが、怖さを募らせ、のめりこませる要因にもなったのだろうか。
ただ、出来事そのものは、すべてがすっきり解決されるという風でもなく、仕舞いには会も散会し、会の面々が次々に亡くなっていくのがいささか腑に落ちなくもある。

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ぬばたま*あさのあつこ

  • 2008/10/06(月) 18:13:45

ぬばたまぬばたま
(2008/01)
あさの あつこ

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あの夏の日、山へ入らなければ、ぼくたちの運命は変わらなかっただろうか。けれど、彼は山に呼ばれてしもうた…。死にゆく者の無念と生きぬく者の苦しみ。山々を舞台に描いた、怖ろしくも哀しい4つの物語。


四つの寂れゆく故郷と緑と山と、その場所に根源を持つ人の物語。
人間の弱さや悪意、秘めておきたい暗部などが、自ずから暴かれていくような不穏さが漂っている。山という神とも魔ともつかないものが棲みついていそうな場所を舞台にしたからこそのおどろおどろしさでもある。
「山に呼ばれる」という科学的には根拠がないであろうことも、理屈抜きで受け容れてしまえそうな雰囲気に満たされていて恐ろしい。

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二つの月の記憶*岸田今日子

  • 2008/10/06(月) 13:38:53

二つの月の記憶二つの月の記憶
(2008/01/18)
岸田 今日子

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かけがえのない
快楽には
少しの独のある
ユーモアと
不思議な愛と
エロスが必要です。
今日子さんを
そのまま
食べて下さい。     佐野洋子


表題作のほか、「オートバイ」 「K村やすらぎの里」 「P夫人の冒険」 「赤い帽子」 「逆光の中の樹」 「引き裂かれて」

現実の時間を生きていると思っていたら、いつの間にかどこからか夢のなかに入り込んでしまったような心地の物語たちである。しかもその内容はといえば、安らかで穏やかな夢物語ではなく、どこか不穏で不安定で、胸のどこかに引っかかるようなものばかり。なのに、読者はいつの間にか岸田今日子ワールドに誘われ、包み込まれている。
明るい物語を暗いトーンで描いたような、あるいは逆に、暗い物語をパステルトーンで描いたような、据わりの悪さが魅力といえるかもしれない。

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床下仙人*原宏一

  • 2008/10/05(日) 20:40:12

床下仙人床下仙人
(1999/09)
原 宏一

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「家の中に変な男が棲んでいるのよ」妻の訴えを、おれは一笑に付した。念願のマイホームに入居して二カ月、そんなバカなことがあってたまるか!長距離通勤で疲れているおれをからかわんでくれ!だが出張から帰宅したある日、おれは我が目を疑った。リビングで、妻と子が得体の知らない長髪、髭面の男と談笑しているではないか。いったい、誰なんだ、この“仙人”みたいな野郎は!?(表題作より)不況、リストラ、家庭不和…現代ニッポン人が抱える悩みを、注目の異才が風刺と諧謔で鮮やかに捌いた新奇想小説。


表題作のほか、「てんぷら社員」 「戦争管理組合」 「派遣社長」 「シューシャイン・ギャング」

家の床下に棲み着く男の正体は・・・、記録にはあるが記憶にない社員がやったこと、男社会と闘う女たち、派遣社長を契約した会社の未来はどうなる、押しかけ靴磨きの少女と失業男の関係は・・・。どれも着想が面白い。一歩踏み外したら、あり得ないと笑ってはいられないような危うさも感じさせられて背筋が寒くなることもあった。知らず知らずのうちに本末転倒していないかどうか、ときどき我が身を省みた方がいいのかもしれない。

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義弟*永井するみ

  • 2008/10/04(土) 16:31:24

義弟義弟
(2008/05/20)
永井 するみ

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克己と彩は血の繋がりのない義理の姉弟。成人した今、克己の彩に対する感情は、姉以上のものになっていた。そんな中、彩の不倫相手が彼女の職場で急死する。助けを求められた克己は、彼女を守るため遺体の処理をするのだが……。克己の抑えられない破滅的な衝動、男性を受け入れられない彩の秘密。それぞれの心の闇を描く、衝撃の問題作。


タイトルから想像したよりも、どうしようもない泥沼の物語ではなくてよかった。単なる不倫物語でもミステリでもなく、期せずして姉弟になってしまったふたりの葛藤の物語、というようなニュアンスの物語である。姉と弟それぞれが、相手に対する想いを胸にしまって、「ひとり」として生きようともがく姿が切なさを誘う。ふたりの本当の人生は、このラストのまたその先にこそあるのだろうと思われる。語られない物語のなかでは、ふたりの人間としてありのままに生きて欲しいと願う。

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裁判員法廷*芦辺拓

  • 2008/10/01(水) 17:29:49

裁判員法廷裁判員法廷
(2008/02)
芦辺 拓

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ある日、あなたのもとに届いた1通の「呼出状」。それがとんでもない日々の始まりだった…。二転三転する評議、そして事件の真相は。裁判員制度の仕組みや公判の流れがわかる、史上初の裁判員ミステリー。


「審理」 「評議」 「自白」というタイトルで、三つの事件が扱われている。

事件はどれも殺人事件だが、タイトルからも判るように、切り口がそれぞれ違う。裁判員の感情の動きや考える道筋なども描かれていて、裁判員制度の入門書としても読めそうである。有罪無罪だけでなく、量刑をも判断する裁判員の目線で読むことになるので、ミステリとしてもいつもと視点が変わって興味深い。ただやみくもに当て推量してはいけないような心持ちにさせられるから不思議である。
現実の問題としてその場に座ることになったら、きちんと見聞きして適切な判断が下せるのかどうか、はなはだ心許なくもある。

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