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おんなの仕種*安西水丸

  • 2009/02/27(金) 09:24:53

おんなの仕種おんなの仕種
(2001/03)
安西 水丸

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眠る、くしゃみをする、鏡を見る、泣く、ランチを決める、酔う、笑う、歌う…。様々な「女の仕種」をテーマに綴ったエッセイ。95年~97年に「マリ・クレール」に連載されたものをまとめる。


純然たる仕種であったり、生態と言った方がいいような類のものであったり・・・。ともかく女性のあれこれが、そっと観察され、綴られている。うなづいたり首を傾げたり、著者の観察力の鋭さに感心したりしながらの読書タイムだった。

LOVE or LIKE

  • 2009/02/26(木) 17:11:00

LOVE or LIKELOVE or LIKE
(2006/07)
石田 衣良中村 航

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「好き」と「愛してる」の違いって?
(恋愛アンソロジー オール書下ろし)
男女が出会うと、いろいろな感情が生まれる。気になる、好き、愛しい、せつない……。友だちが恋の対象になるのは、どんなときだろう? 転校生への憧れ、再会した同級生への複雑な感情、文通相手のまだ見ぬ異性へのときめき。微妙な機微を、6人の実力派男性作家が描く恋愛アンソロジー


  

  石田衣良  リアルラブ?
  中田永一  なみうちぎわ
  中村航  ハミングライフ
  本多孝好  DEAR
  真伏修三  わかれ道
  山本幸久  ネコ・ノ・デコ


石田衣良さんのは、あまり好みではなかったが、ほかは、どれもみなよかった。想いが募り、気持ちが近づいていくもどかしいような道筋こそが、恋の醍醐味かもしれない、などと思いながら読んだ。
いちばん好きだったのは、中村航さんの「ハミングライフ」。いまのこのケータイメール時代に、いっそ潔くてとても好い。

おちゃっぴい*宇江佐真理

  • 2009/02/25(水) 13:40:28

おちゃっぴい―江戸前浮世気質おちゃっぴい―江戸前浮世気質
(1999/12)
宇江佐 真理

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鉄火・伝法が玉にキズ。お吉は十六蔵前小町。だが、突然の縁談話にカッとなり…。笑いと涙の人情譚。表題作他5話を収録。


表題作のほか、「町入能(まちいりのう)」 「れていても」 「概ね、よい女房」 「驚きの、また喜びの」 「あんちゃん」

江戸の庶民のささやかながら義理人情に富んだ日々の暮らしが、気持ちよく描かれている。
相身互いの心意気は、現代ではともすればお節介にも通じるのかもしれないが、親戚付き合い同様の長屋暮らしには、教えられることも多い。
おそらく心根は、現代人となんら変わるところはないと思われるのだが、人と人との距離感の変わりようには著しいものがある。一概にどちらがいいとは言えないものの、江戸の町家の暮らしをこうして覗くたびに、胸がきゅんとなるのは何故だろう。

どうころんでも社会科*清水義範

  • 2009/02/22(日) 16:38:24

どうころんでも社会科どうころんでも社会科
(1998/11)
清水 義範西原 理恵子

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痛快エッセイ
社会科は暗記ではなくて、人間が躍動するガクモンだ!
ご存じ清水ハカセの名講義に、西原セイトのスルドイ突っこみ、冴えわたる。

不朽のロングセラー「理科」シリーズにつづく「社会科」シリーズ第1弾!
あなたの「歴史」「地理」を楽しくする、おもしろくてためになる絶好読みもの。


「理科」シリーズは未読だが、読みたくなってしまった。
まずタイトルが秀逸。ちょっと考えてみればまったくそのとおりなので感心してしまった。社会というのは、私たちが生活している身の回りのことなのだから・・・。
そして、知多半島に行ってみたくなる一冊でもある。
挿絵を西原理恵子が描いていて、それも人気なのだそうだが、私にはなくてもよかったかな、という気がする。

もしもし、運命の人ですか。*穂村弘

  • 2009/02/20(金) 17:24:33

もしもし、運命の人ですか。 (ダ・ヴィンチ・ブックス)もしもし、運命の人ですか。 (ダ・ヴィンチ・ブックス)
(2007/03)
穂村 弘

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間違いない。とうとう出会うことができた。運命の人だ。黙々と働く昼も、ひとりで菓子パンをかじる夜も、考えるのは恋のこと。あのときああ言っていたら…今度はこうしよう…延々とシミュレートし続けた果てに、「私の天使」は現れるのか。


穂村弘パワー炸裂である。
ただし、著者のパワーは、短歌以外では炸裂するほどに裡に籠もって妄想となるようなのであるが・・・。そういう意味で、とても著者らしい一冊である。パワフル(?)な穂村弘が愉しめます。

カフェ・コッペリア*菅浩江

  • 2009/02/20(金) 13:22:35

カフェ・コッペリアカフェ・コッペリア
(2008/11)
菅 浩江

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人間とAIの混合スタッフが、おいしい珈琲とともに恋愛相談に乗ってくれるカフェ・コッペリア。客のひとりが恋してしまったのは果たしてAIだったのか?―理想の恋に惑う若者たちを描いた表題作、アロマペットを手に入れたOLのせつない日常「リラランラビラン」、最先端美容室のヘアケア技術が招いた意外な顛末「エクステ効果」ほか、すこし未来のささやかで切実な人間模様をつづる七篇。『永遠の森 博物館惑星』『五人姉妹』につづく最新作品集。


上記のほか、「モモコの日記」 「言葉のない海」 「笑い袋」 「千鳥の道行」
いまよりも少し科学も技術も進歩した近未来。SF風の味つけがされてはいるが、ヒトの情動はいまとなんら変わることなく、ときとして愚かにさえも見える動きをするのである。
便利で軽快で、しかしともすると味気なくなりそうな近未来社会。それを作るのは人間であり、一方で、乱すのもまた人間なのだと思い知らされる。そして、その乱れが好もしい一冊だった。

森に眠る魚*角田光代

  • 2009/02/19(木) 19:00:48

森に眠る魚森に眠る魚
(2008/12)
角田 光代

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東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通してしだいに心を許しあうが、いつしかその関係性は変容していた。―あの人たちと離れればいい。なぜ私を置いてゆくの。そうだ、終わらせなきゃ。心の声は幾重にもせめぎあい、壊れた日々の亀裂へと追いつめられてゆく。


何とかいまの侘しい生活から抜け出し、都会のお洒落なマンションで素敵な暮らしをしたいと、できる限りの節約をしてお金を貯めているところに義父の突然の死で幾ばくかの現金が手に入り、念願のマンション暮らしを始めた、繁田繭子。大学の四年間は東京に居はしたが寮暮らしで、結婚して東京に住むようになってやっと素晴らしい未来を手にしたと思えるようになった、久野容子。息子を母に預け、スポーツクラブで汗を流す、高原千花。高校生のころ、学校に馴染めず摂食障害になり、心を癒すために入った会で知り合った男性と結婚した、小林瞳。モデルルームのようなマンションで家族と暮らしながら、かつて働いていた出版社の上司だった男性と不倫をしている、江田かおり。
同じ幼稚園に通う子どもを通して、あるいは、同じマンションに住む住人同士という縁で、そしてまた、同じ産婦人科に通う妊婦同士としての縁で知り合い、憧れたり、惹かれたり、心強く思ったり、いい友人に恵まれたとしあわせを感じるときもあったのに、彼女たちの関係はいつの間にか何かに蝕まれるように変わっていくのだった。
文京区音羽事件がモチーフになっているとも言われる。たしかに、この事件の犯人の犯行に至るまでの心の葛藤はこんな風だったか、と思わされる部分も多い。だが、それだけではなく、女同士の関係性の難しさや、理想と現実のギャップ、集団の中で自分らしくあることの難しさなど、さまざまな要素が絡み合って成り立つ物語である。
女たちの胸のうちの呟きがリアルで、ときに胸を締めつけられるような心地でもあり、貪るように読み進んだ。
著者らしい一冊だと思う。

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あなたが名探偵

  • 2009/02/18(水) 18:21:12

あなたが名探偵 (創元クライム・クラブ)あなたが名探偵 (創元クライム・クラブ)
(2005/08)
泡坂 妻夫西澤 保彦

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『ミステリーズ!』から生まれた珠玉の犯人当てミステリを単行本化。泡坂妻夫、西沢保彦、法月綸太郎ら7人の人気作家からの挑戦に、あなたは解答を出せますか?


  泡坂妻夫  蚊取湖殺人事件
  西澤保彦  お弁当ぐるぐる
  小林泰三  大きな森の小さな密室
  摩耶雄嵩  ヘリオスの神像
  法月綸太郎  ゼウスの息子たち
  芦辺拓  読者よ欺かれておくれ
  霞流一  左手でバーベキュー


読者に対する犯人当て挑戦の一冊である。
前半に、謎解き前までが載せられ、謎解きだけが後半に集められているので、不用意に解答を読んでしまうことはない。だが、いささか読むのが面倒な感があるのも否めない。本編に続けて解答編、でもよかったのではないだろうか。
物語自体は、解答編を別に付けることにこだわったためか、こなれていない印象のものが多かった気がする。

クジラの彼*有川浩

  • 2009/02/16(月) 17:03:39

クジラの彼クジラの彼
(2007/02)
有川 浩

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「沈む」んじゃなくて「潜る」。潜水艦とクジラと同じだから。
人数あわせのために合コンに呼ばれた聡子。そこで出会った冬原は潜水艦乗りだった。いつ出かけてしまうか、いつ帰ってくるのかわからない。そんな彼とのレンアイには、いつも大きな海が横たわる。恋愛小説作品集。


表題作のほか、「ロールアウト」 「国防レンアイ」 「有能な彼女」 「脱柵エレジー」 「ファイターパイロットの君」
あとがきで著者自身が認めているように、甘い恋愛話の数々である。だが、べたべたにただ甘い、というわけでもなく、それぞれに屈折した想いを抱きながら、それに悩まされ翻弄され、それでも愛しぬく姿は、健気なほどで、好もしくもある。程度の差はあるとしても、恋愛中なんてみんなこんなものだろうという気もする。

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騙し絵日本国憲法*清水義範

  • 2009/02/15(日) 16:46:18

騙し絵日本国憲法騙し絵日本国憲法
(1996/04)
清水 義範

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日本国憲法公布50年。で、ケンポーってなあに。どんなことが書いてあるの。パスティーシュの鬼才が、あらゆる小説技法を駆使し、楽しく読める憲法読本に挑んだ。知らぬ間に憲法のことがよくわかる。


  二十一の異なるバージョンによる前文

 第一章  シンボル
 第二章  九条
 第三章  ハロランさんと基本的人権
 第四章・第五章・第六章・第七章・第八章  寄席中継
 第九章・第十章  亜葡驢団の掟
 第十一章  場つなぎ

 附録 日本国憲法


目次を見て判るとおり、日本国憲法をさまざまな切り口で見せてくれる一冊である。
ことに、寄席中継は、落語あり、手品あり、曲芸あり、どこかで見たような芸人さんが、面白おかしく語りながらもさりげなく憲法を織り込んでいて、しかもどれもが的を射ているのが、さすが著者である。
面白おかしく読んだあとに「憲法のことをちょっと真面目に考えなくちゃ!」と思わされる一冊でもある。

からくり富--夢裡庵先生捕物帳*泡坂妻夫

  • 2009/02/13(金) 17:01:46

からくり富からくり富
(1996/05)
泡坂 妻夫

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大江戸の風物をめぐる七つのからくりを八丁堀同心・夢裡庵が解き明かす。七つのからくり―三乳観音の謎、愛染様の血箭の謎、踊る新造の謎、古い絵銭の謎、吉相黒子の謎、南蛮かるたの謎、当たり富くじの謎。


表題作のほか、「もひとつ観音」 「小判祭」 「新道の女」 「猿曳駒」 「手相拝見」 「天正かるた」

江戸の風物や人情を絶妙に描きながら、事件の謎を解き明かすのは、八丁堀の同心・夢裡庵である。とはいえ、事件の真中に派手にしゃしゃり出てくるのではなく、関係者の申し立てをよく聞くうちに、事のからくりを見抜くようである。現代ではこうはいかないだろうが、事後の下手人の取り扱いがまた粋である。

金色の野辺に唄う*あさのあつこ

  • 2009/02/11(水) 16:32:00

金色の野辺に唄う金色の野辺に唄う
(2008/05/31)
あさの あつこ

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山陰の静かな山あいの町で、九十を超えた老女・松恵が息をひきとろうとしていた。看取るのは、松恵の曾孫で絵心を持つ中学生・東真、松恵の孫に嫁いだ元 OL・美代子、近所の花屋店員・史明、松恵の娘で稀な美貌を授かり持った奈緒子。四人ともかつて松恵に受け止められ、救われた過去があった―。屈託や業を抱えながらも、誰かと繋がり共に生き抜いていくことの喜びを、晩秋の美しい風景の中に力強く描き出した連作短編集。


あたたかく、誰にでも好かれた松恵ばあちゃんが天寿を全うし、眠るように息をひきとろうとするとき、寄り添っていたのは、曾孫の東真(あずま)であった。彼が五歳のときに描いた焔のような柿の絵を、松恵は大好きなのだった。
松恵の死の周りに集う人たちそれぞれの、さまざまな時代での視点で、松恵とそれぞれのことが思い出され語られる様は、薄紙をのりしろで丁寧に貼りあわせて一枚の絵巻にするようでもある。
勘違いばかりで生きてしまったと、最期のときにたとえ思ったとしても、それはきっとしあわせな勘違いだったのだろう。人は、一生のうちにさまざまな人に影響を与え、与えられるが、その人の一生は、その人ひとりのものであるのだ。それぞれが、自分の思うように悼むのである。それは、旅立つもののためでもあると同時に、生きている自分のためでもあるのだろう。

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木野塚佐平の挑戦*樋口有介

  • 2009/02/10(火) 18:28:00

木野塚佐平の挑戦木野塚佐平の挑戦
(2002/02)
樋口 有介

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国民的な人気をほこる村本啓太郎総理が57歳の若さで急死した。日本の今後を憂える私立探偵・木野塚氏の周囲に、総理が推進する政策を阻止したい勢力による暗殺らしい、という不穏な噂が駆けめぐる。気がつくと、こんな重大事件の真相調査に巻き込まれていた木野塚氏の運命や如何に!私立探偵・木野塚氏の推理が冴える(?)書き下ろし大爆笑ハードボイルド。


シリーズの二作目らしい。

木野塚佐平氏の略歴
 一九XX年、東京生まれ。荻窪産業大学卒業、三十五年間警視庁経理課に勤務。退官後新宿五丁目に「木野塚探偵事務所」を設立。秘書券助手の梅谷桃世とともに、金魚誘拐事件、犬の一目惚れ事件等、難事件を解決。荻窪の自宅に見合い結婚の婦人と二人暮らし。


人気の現職総理の急死により、世間にはさまざまな憶測や思惑が乱れ飛ぶ。そんな折、木野塚佐平はたまたま(?)引き受けた仕事をきっかけに、政治の中枢を揺るがしかねない出来事にかかわることになるのだった。
起こっていることは、国の一大事であり、政治の中枢にかかわるものなのだが、木野塚の俗物振りがあまりにも甚だしく、事件の緊迫感はどこへやら であり、そのギャップがなんともいえない。解決を見たのも、いわば桃世の根回しと行動力の賜物と言う気がしなくもないが、木野塚もほんの時々冴えた推理を見せたりもするので、単なる猿回しで終わらずにいる。
桃世の苦労もいかばかりかとも思われるが、このふたり、案外絶妙のコンビかもしれない。

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夜の光*坂木司

  • 2009/02/07(土) 08:24:06

夜の光夜の光
(2008/10)
坂木 司

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慰めはいらない。癒されなくていい。本当の仲間が、ほんの少しだけいればいい。

本当の自分はここにはいない。高校での私たちは、常に仮面を被って過ごしている。家族、恋愛、将来……。問題はそれぞれ違うが、みな強敵を相手に苦戦を余儀なくされている。そんな私たちが唯一寛げる場所がこの天文部。ここには、暖かくはないが、確かに共振し合える仲間がいる。そしてそれは、本当に得難いことなのだ。


自分たちをスパイになぞらえ、自分に圧力をかけ、自分を追いつめる者たちと闘う高校生四人が、惹かれるように集まったのは、縛りのゆるい天文部という部活だった。彼らは、近からず遠からずの絶妙な距離感で、闘いの最前線にあってひとときの安息を得られる存在として、互いを認め合うのである。
通常彼らは、普通の高校生として生きているので、学園物としての一面もあり、日常の謎系のミステリも織り込まれていて、愉しませてくれる。
彼ら四人は、たまたま惹かれあってスパイとしての存在を認め合ったが、高校時代というのは、誰でも多かれ少なかれ同じような思いを抱く年頃なのではないだろうか。彼ら以外にも闘っている者はいたのかもしれない。そう思うと、同志とも言える仲間にめぐり合えた彼らは、しあわせなのだろう。
満天の星空を見上げながら野外料理を愉しむ彼ら流の観測会は、それぞれに足りないものを無言のうちに補い合うようで、胸をあたためてくれる。

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新築物語--または、泥江龍彦はいかにして借地に家を建て替えたか--*清水義範

  • 2009/02/06(金) 10:47:42

新築物語―または、泥江龍彦はいかにして借地に家を建て替えたか (新文芸)新築物語―または、泥江龍彦はいかにして借地に家を建て替えたか (新文芸)
(1996/03)
清水 義範

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義母の死から始まったお家騒動。借地契約更新問題から始まって、家を建て直すことになった作家泥江龍彦夫婦のすったもんだの奮闘記。これから家を建てる人にもオススメ必読本!


きっかけは悲しい出来事だったが、家を一軒建てることに纏わる煩雑さやドタバタ、そして楽しみやわくわく感が絶妙に描かれていて、ただ面白おかしいだけではない一冊になっている。
だが、貧乏人の庶民としては、なかなかこうはできないだろうな、というところもないわけではなく、羨ましさもおぼえつつたのしんだ。

プラットホームに吠える*霞流一

  • 2009/02/04(水) 21:43:05

プラットホームに吠える (カッパ・ノベルス)プラットホームに吠える (カッパ・ノベルス)
(2006/07/21)
霞 流一

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警察内部の広報誌を編集しているアキラが、ライターで元捜査一課警部の祖父・ヒタロー爺とともに遭遇した、奇妙な墜落死事件。事件の背後には、被害者・鈴鹿咲江の悪評と、その姉の非業の死、そしてなぜか狛犬の姿が見え隠れしていた…。上りと下りの列車がともに停車した一瞬の間に、プラットホームでは何が起こっていたのか!?鉄道ミステリーとギロチン密室の融合、さらには狛犬の謎。巧緻と機知に富んだ、驚くべき意欲作。


登場人物がみな癖のあるキャラクターなのにまず驚く。捜査一課のOBにして、いまだ現役気分で捜査に協力し、警察内部の広報誌にそのネタを書いているヒタロー爺、現役の捜査一課の刑事であるハレチチ警部、警察の広報誌の編集をしているアキラ、という祖父・父・息子の寿宮家三代の男たち。そして、真の探偵役として要になっているのが、彼らが懇意にしている鍼灸院の女医・キラリ。その他、脇役たちもそれぞれに癖がある。
事件はといえば、狛犬がキーワードになっているのだが、それがこれでもかというくらいあちこちに出てくるので、いささか食傷気味にもなる。殺人のトリックは大掛かりなのだが、その謎を解く過程はいささか無理やりな感も否めない。
登場人物のやりとりはコミカルで面白く、事件の発想も興味深いので、細かいことを気にしなければ愉しめる一冊である。

グラニテ*永井するみ

  • 2009/02/02(月) 17:26:12

グラニテグラニテ
(2008/07)
永井 するみ

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愛しているから許さない。母と娘の物語。
万里はカフェのオーナー。夫に先立たれ、17歳の娘唯香と暮らしている。年下の恋人・凌駕との関係も順調だったが、唯香と凌駕が出会ったことで、歯車が狂い始める…母親と娘との三角関係を描く長編。


母と娘とひとりの男との三角関係。たしかに、万里と唯香の胸の中の葛藤や煩悶、歪な形としての想いのぶつかり合いが多くの部分を裂いているが、「恋愛」という点だけではない、母と娘それぞれの、それぞれからの卒業の物語でもあるように思われた。決して、ただのどろどろとした三角関係の物語ではない。
読む年齢によって、受け取り方はまるで違ってくるのだろうとも思うが、唯香の年齢も、万里の年齢も通り過ぎてきたわたしには、最愛の夫を早くに亡くし、一時は抜け殻のようになったにもかかわらず、立ち直って、子育てしながらカフェの経営を始め、順調に店舗を増やすまでにした万里の、強くて弱い胸のうちは、想像に難くなく、この物語のような反応は無理もないのではないかと思えるのである。
ラストに母娘の関係修復の兆しがちらりと見えて、涙を誘われた。

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