廃墟建築士*三崎亜記

  • 2009/03/30(月) 17:29:14

廃墟建築士廃墟建築士
(2009/01/26)
三崎 亜記

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●廃墟に魅せられ、廃墟建築士として生きてきた私。この国の廃墟文化の向上に努めてきたが、ある日「偽装廃墟」が問題になり…「廃墟建築士」
●巷でおこる事件は七階で起こることが多いため、七階を撤去しようという決議が市議会で出された。マンションの七階に住む僕は、同僚の並川さんに誘われて反対運動に参加することになったが…「七階闘争」
●会社から派遣されて、図書館でしばらく働くことになった私。本が“野性”に戻った姿を皆に見せるのが今回の業務だった。上手くいったかに見えたが、思わぬ事態が起こり…「図書館」
●蔵も蔵守も待ち続けていた。自分たちの仕事を引き継ぐ後継者がいつかやってくることを。いつか現れるだろう略奪者との戦いを。…「蔵守」
ちょっと不思議な建物で起こる、ちょっと奇妙な事件たち。三崎ワールドの魅力あふれる最新作品集。


著者の作品をはじめて読む読者は、書かれていることを受け入れるのにさぞ時間がかかるだろう、という世界がまたしても広がっている。
自分たちが生きている世界のなにかに擬えているのではないか とか、ここからなにか現実の生き方の教訓を得よう とか、そんなことを考えるのが無駄だということだけはたしかである。三崎ワールドは、現実のどこにもない三崎ワールドなのだから・・・。
微妙なズレに背中がむずがゆくなる感じを愉しみながら、その世界に身を委ねてしまうのがイチバンであろう。

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みんな家族*清水義範

  • 2009/03/29(日) 20:42:28

みんな家族 (文春文庫)みんな家族 (文春文庫)
(2004/08)
清水 義範

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激動の昭和を「普通の人々」は、こんなにも逞しく生きてきた。二・二六事件の迫る冬、少女は花占いに夢をはせ、優しかったあの子は南方の戦いで死に、焼け野原に立って一儲け企む奴もいた。懐かしい路地裏の匂い漂う清水版昭和史。


百瀬家と豊川家の歴史として書かれているのだが、そのまま昭和史と言っても差し支えないと思う。時代の変化に翻弄されながら生き抜いていく様は、まさに歴史を目の当たりにしているようで、読み応えがある。
そして、「やっとかめシリーズ」の波川まつ尾婆ちゃんのことや、「新築物語--または、泥江龍彦はいかにして借地に家を建て替えたか--」の背景などがよくわかって、とても興味深い。
本作は小説であって、著者の自分史ではない(ことになっていると思う)ので、脚色されていることもあろうかとは思うが、それでも、いまここに在る著者の来し方を覗き見ることができたようで嬉しくもある。

彼女のこんだて帖*角田光代

  • 2009/03/26(木) 18:40:18

彼女のこんだて帖彼女のこんだて帖
(2006/09/01)
角田 光代

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短編小説の名手、角田光代が開いた新しい小説世界は、料理とのコラボレーション。涙あり、笑いあり、そしてふと胸つまるときもある傑作短編15編のキーポイントは「料理」。無骨な男が亡き妻を想いながら作る豚柳川、働きながらひとり子育てをした母が思わず涙したかぼちゃの宝蒸し、恋の痛手をなぐさめたラムのハーブ焼き…。角田光代が小説中に巧みに、鮮やかに描いた料理のレシピをベターホームが再現して、小説と合わせて掲載しました。料理教室を開催し、料理本を数多く出版してきたベターホームのレシピは、「親切で必ずおいしくできる」と定評を得ています。小説で感動したら、さっそくその料理を作って味わってみることができる、2度楽しめる画期的な本です。


料理をキーにした連作掌編集。登場人物が少しずつ次の物語にリンクしていき、ぐるっと一周して輪になる。
料理に纏わる悲喜こもごもが、美味しそうであたたかな湯気と一緒に読者の胸にも染みわたるようである。そして、毎回その美味しそうな料理の写真が添えられていて、目でも愉しめる。しかも、レシピ付である。実際に作れば舌でも愉しめるという、何度も愉しめるたまらない仕掛けの一冊なのだ。

夜は短し歩けよ乙女*森見登美彦

  • 2009/03/26(木) 18:30:15

夜は短し歩けよ乙女夜は短し歩けよ乙女
(2006/11/29)
森見 登美彦

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私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」…「黒髪の乙女」に片想いしてしまった「先輩」。二人を待ち受けるのは、奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった。天然キャラ女子に萌える男子の純情!キュートで奇抜な恋愛小説in京都。


独特の文体、独特の世界観、独特のキャラクター。なんと独特尽くしな一冊であることか。
だが、そのどれもが成功しているのが素晴らしい。物語の中に熱に浮かされてみる夢がでてくるが、そもそも全体が、熱に浮かされてみている夢のような物語である。かなり危険にさらされたり、ハチャメチャな騒動に巻き込まれていたりするのだが、麗しの黒髪の乙女はあくまでもマイペース。騒動などどこ吹く風という様子で、自分のときを過ごしているのが――実際に身近にいたら疲れるだろうが――潔くもあり、胸がすく思いでもある。
表紙をじっくり見ずに読み始めたので、先輩(私)のイメージはずっと桐谷健太さんだったのだが、読み終えて表紙を見たら、それほど濃いキャラではない普通の青年だったので、ちょっと驚いた。

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弥勒の掌*我孫子武丸

  • 2009/03/24(火) 20:56:21

弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)
(2005/04)
我孫子 武丸

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妻を殺され汚職の疑いまでかけられた刑事。失踪した妻を捜して宗教団体に接触する高校教師。錯綜する事件、やがて驚愕の真相が…。書き下ろし。我孫子武丸スペシャル・インタヴューも収録する。


まったく別の事件として語られ始めた、刑事・蝦原の妻が殺された事件と、高校教師・辻の妻の失踪事件。偶然なのか運命なのか、蝦原と辻が出会い、怪しい宗教団体に探りを入れはじめるのだが・・・・・。
たまたま教団の受付で出会っただけで、それぞれが、まったく別の事件の被害者だと思わされていた。教団の闇に迫る過程は、ハラハラしながらも胸のすく思いがしたのだが、こんな結末になろうとは・・・。理想どおりにはいかない現実を見せられているようでもあった。

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レッド・マスカラの秋*永井するみ

  • 2009/03/22(日) 13:26:07

レッド・マスカラの秋 (ミステリーYA!)レッド・マスカラの秋 (ミステリーYA!)
(2008/12)
永井 するみ

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街路樹が色づき、空気がこうばしくなる。なにか素敵なことが起きそうな予感に満ちた、秋。ティーン向けのファッションショー、東京ガールズフェスティバルは、トレンドに敏感な女の子たちで大盛況。私は、三浦凪、17歳。ファッションに興味がないわけじゃないけど、今日ここに来たのは、モデルの友人、ミリの晴れ姿を見るため。ランウエイを颯爽と歩くミリはレッド・マスカラを塗ったアイメイクも印象的で、文句なくカッコよかった。でもその舞台裏は、彼女が勧めたマスカラのせいで、まぶたが腫れたモデルがいるという噂で持ちきり。あんなに仕事に情熱とプライドを持っていたミリが、モデルを辞めようとまで思いつめている。マスカラに問題があるのか、モデル仲間の嫉妬なのか?ミリには胸を張ってランウエイに立ってほしい。私は調査に乗り出す決心をした。『カカオ 80%の夏』につづく、大好評のハードボイルド・ミステリー、シリーズ第2作。


『カカオ80%の夏』の続編だということに初めまったく気づかなかった。カフェ・ズィードが出てきてやっと、「あぁ!」この凪は、あの凪だったのか、と気づいた次第。前作に登場した雪絵も登場し、すでに凪を探偵扱いしている。
今回は、「火の鳥」と呼ばれる紅のマスカラをめぐる出来事である。モデル業界や化粧品業界の裏側、流行の仕掛け人たちの苦悩なども垣間見られ、若い世代にはことさら興味深いのではないかと思われる。
凪の行動範囲も交際範囲もその幅も徐々に広がり、あたたかい目に囲まれていると嬉しくなる。ズィードのマスターとの関係も、この先がたのしみである。次は冬?

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サンタ・エクスプレス-季節風*冬-*重松清

  • 2009/03/21(土) 16:31:22

サンタ・エクスプレス―季節風 冬サンタ・エクスプレス―季節風 冬
(2008/12)
重松 清

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鈴の音ひびく冬が、いとおしい人の温もりを伝えてくれる。ものがたりの歳時記―「冬」の巻、12編。


表題作のほか、「あっつあつの、ほっくほく」 「コーヒーもう一杯」 「冬の散歩道」 「ネコはコタツで」 「ごまめ」 「火の用心」 「その年の初雪」 「一陽来復」 「じゅんちゃんの北斗七星」 「バレンタイン・デビュー」 「サクラ、イツカ、サク」

言うまでもなく舞台は冬。寒いというだけで、からだは縮こまりそうだが、ここには胸の中をあたためてくれる物語が並んでいる。
微笑ましかったり、少しばかり後悔したり、気に病んだり、不憫に思ったりと、テイストはさまざまなのだが、人が誰かのことを思いやる気持ちがどの物語にもあふれているのである。北風に凍えたからだもほっかほかになりそうである。

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ブラザー・サン シスター・ムーン*恩田陸

  • 2009/03/20(金) 17:03:09

ブラザー・サン シスター・ムーンブラザー・サン シスター・ムーン
(2009/01/23)
恩田 陸

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ねえ、覚えてる? 空から蛇が落ちてきたあの夏の日のことを――
本と映画と音楽……それさえあれば幸せだった奇蹟のような時間。
『夜のピクニック』から4年、恩田陸が贈る、青春小説の新たなスタンダードナンバー誕生!


高校のとき不思議な授業があった。クラスバラバラの三人組である町に放り出され、その住人にインタビューしてレポートを書くというものだった。韮崎綾音と戸崎衛と箱崎一の三人が行った町には誰もいなかった。それが彼らの出会いだった。
韮崎綾音が語る「第一部 あいつと私」 戸崎衛が語る「第二部 青い花」 箱崎一が語る「第三部 陽のあたる場所」からなる一冊である。
期せずして同じ大学に進んだ彼らは、学生時代、いつも三人でつるんでいたわけではなく、それぞれのときを過ごしていた。そして、卒業しそれぞれに職を得て大人になったいま、そんな学生時代を思い返し、現在の自分の萌芽を見つめなおしているようにも思われる。淡々とした語りながら、学生時代特有の、そして彼らにとっても有意義なきらめきが窺われて好ましい。
物語に行き着く場所はないのだが、それもこれもが心地好い一冊だった。

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化野学園の犯罪《教育実習生 西郷大介の事件日誌》*姉小路祐

  • 2009/03/19(木) 18:54:55

化野学園の犯罪―教育実習生西郷大介の事件日誌 (講談社ノベルス―教育実習生西郷大介の事件日誌)化野学園の犯罪―教育実習生西郷大介の事件日誌 (講談社ノベルス―教育実習生西郷大介の事件日誌)
(2002/07)
姉小路 祐

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魔性の女子高生が語る学園の「死の伝説」。
教育実習生が1人、謎に挑む!
《西郷大介の事件日誌》シリーズ、開幕!

京都・化野(あだしの)学園に、教育実習生として向かった西郷大介。そこで彼が見たものは、閉鎖的な教師の人間関係と、1人の女子高生の飛び降り自殺に始まる連続した惨劇。果たして、彼女が携帯電話から送った遺書代わりのメールは本物なのか?
現役高校教師でもある姉小路祐が、教え子たちの声を基に描いた渾身の力作!


落ち零れの掃き溜めのような私立高校・化野(あだしの)学園が舞台である。探偵役は、教育実習生の西郷大介。
「二十年前に十五歳が死に、十年前に十六歳が死んだ」という怪しげなビラが撒かれ、今年は十七歳の自分たちの番だ、という話を聞いたばかりで、ひとりの女子高生が体育館の屋上から飛び降りて死んだ。事件はここから始まったのだった。
その後も、次々に化野学園の関係者が死に、西郷の目には教師の問題点も見えはじめ、生徒の抱える問題――西郷自身の高校生活とはまるで違っている――も少しずつ明らかになってくる。二週間の実習期間がすぎても、西郷はこの事件のことを調べ続け、ついに真実にたどり着くのである。
探偵役を教育実習生という半部外者にしたことで、事件をある程度客観的に眺めることができたとは思うが、(観たことはないが)深夜枠のドラマにでもなりそうなマイナーな雰囲気でもある。

いいかげんワールド*眉村卓

  • 2009/03/18(水) 09:52:16

いいかげんワールドいいかげんワールド
(2006/07)
眉村 卓

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老教授がとばっちりでまぎれこんだのは、教え子の空想が生み出した奇妙な異世界。魔法の力は身につけたものの、使い方は当の本人にすらわからない。右も左もわからぬままに、奇想天外な日常に流される暮らしだが…、ま、これも、いいではないか。相棒は猫、参謀はロボット、主人公は…老人。書き下ろしふしぎ小説。


著者の作品は初読みだったが、荒唐無稽さは格別でありながら、統制が取れていると言えばいいのか、支離滅裂ではなく、こちらの世界しか知らない者でも難なく入り込めて興味深い世界だった。
こんな世界でしばらく過ごして、こちらの世界に戻ってきたとしたら、かなりそぎ落とされることが多いのではないだろうか。あちらの世界は、ほんとうに必要とするもののことを考えさせられる世界でもあるようだ。

天使の歩廊*中村弦

  • 2009/03/15(日) 17:21:04

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語
(2008/11)
中村 弦

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時は明治・大正の御世。孤独な建築家・笠井泉二は、依頼者が望んだ以上の建物を造る不思議な力を持っていた。老子爵夫人には亡き夫と過ごせる部屋を、へんくつな探偵作家には永遠に住める家を。そこに一歩足を踏み入れた者はみな、建物がまとう異様な空気に戸惑いながら酔いしれていく…。日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。


笠井泉二をめぐる物語であるのは間違いないのだが、建築家という肩書きを持つ大人になってからの彼だけに留まらず、子ども時代や学生時代の彼とを行き来しながら、笠井泉二と、彼が創った建物、そしてその建物に住まう人たちの「生」を描いた物語である。
明治から大正、昭和初期という日本が激しく移り変わる時代を背景にして、彼と彼の創造物をめぐる物語はまさにファンタジーである。
物語の最後で笠井泉二は、ひとつの町を創るために満州に渡った、という。その町を読者は見ることができるのだろうか。

愛と日本語の惑乱*清水義範

  • 2009/03/13(金) 19:25:54

愛と日本語の惑乱愛と日本語の惑乱
(2008/11/15)
清水 義範

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愛は言葉か、言葉が愛か?
恋多き大女優と同棲するコピーライターが、失われつつある愛に惑乱して、奇妙な言語障害に陥っていく爆笑長編小説。

愛の反乱が、言葉の氾濫を生み、大失恋が言語中枢を破壊する----若者言葉やカタカナ言葉の流行、「日本語の乱れ」に駄洒落地獄、さらに、言葉はどこで生まれるかという脳の問題まで、言葉と日本語をめぐる話題が縦横無尽に交錯する。


「日本語の惑乱」ならば、容易に内容を想像することができる。だが、それに「愛と」がついただけで、果たしてどんな物語が展開されているのか、読んでみるまで判らなくなるのである。
そして実際に読んでみれば、これはもう「愛と日本語の惑乱」以外の何ものでもないと納得するしかない。
40代のコピーライター・野田敦――大物美人女優とつきあっている――の愛の問題と、日本語の用法の問題が、はじめは並行して、次第に絡み合い、最後には入り乱れて語られているのである。
日本語をめぐるあれこれには、さもありなんと思わせられることも多く、このテーマについてだけが語られていても興味深いものになるだろうと思うのだが、そこにごく個人的な愛情問題を絡めてくるのが著者流であろう。硬軟織り交ぜて、絶妙な一冊である。

タカイ×タカイ*森博嗣

  • 2009/03/12(木) 19:00:59

タカイ×タカイ (講談社ノベルス)タカイ×タカイ (講談社ノベルス)
(2008/01/11)
森 博嗣

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「あんな高いところに、どうやって死体を上げたのでしょう?」有名マジシャン・牧村亜佐美の自宅敷地内で発見された他殺死体は、奇妙なことに、地上約十五メートルのポールの上に掲げられていた。被害者は、前夜ファンと牧村の会食中に消えたマネージャだった。事件関係者の調査依頼を受けた“探偵”鷹知祐一朗は、複雑に絡み合う人間関係の糸を解きほぐし、犯人の意図と事件の意外な真相に迫る。ますます好調Xシリーズ第三弾。


今回も、ミステリ的には弱い、というか物足りない。
ただ、椙山探偵事務所(SYアート&リサーチと名前を変えたが)アルバイトのような留守番のような真鍋くんの着想の鋭さと、まったくそうは見えない亡羊としたキャラクターは、回を追うごとに育ってきているように思われる。たのしみなキャラである。
西之園萌絵は、今回は登場人物の一覧に名を連ねており、事件にも顔を出すが、椙山との直接の絡みはまだない。Xシリーズという別物にはなっているが、S&Mシリーズからつづく物語、ということなのだろうか。

キラレ×キラレ*森博嗣

  • 2009/03/11(水) 18:15:21

キラレ×キラレ (講談社ノベルス)キラレ×キラレ (講談社ノベルス)
(2007/09)
森 博嗣

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「この頃、話題になっている、電車の切り裂き魔なんだけれど―」三十代の女性が満員の車内で、ナイフのようなもので襲われる事件が連続する。“探偵”鷹知祐一朗と小川令子は被害者が同じクリニックに通っている事実をつきとめるが、その矢先、新たな切り裂き魔事件が発生し、さらには殺人事件へと―。犯行の異常な動機が浮かび上がるとき、明らかになるものとは…。Xシリーズ第二弾。


ミステリとしての筋そのものは軽めである。犯人はすぐに想像ができてしまう。
ただ、第一弾同様、最後の最後に現れる彼女のこのシリーズとの関わり方を早く知りたいと思うばかりである。
ミステリを愉しむというより、人の関わり方や、登場人物のやりとりを愉しむ物語として読むのがいいかもしれないとも思う。

イナイ×イナイ*森博嗣

  • 2009/03/11(水) 07:30:09

イナイ×イナイ (講談社ノベルス)イナイ×イナイ (講談社ノベルス)
(2007/05/10)
森 博嗣

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「私の兄を捜していただきたいのです」美術品鑑定を生業とする椙田事務所を訪れた黒衣の美人・佐竹千鶴はこう切り出した。都心の一等地に佇立する広大な佐竹屋敷、美しき双子、数十年来、地下牢に閉じ込められているという行方不明の兄・鎮夫。そして自ら“探偵”を名乗る男が登場する。旧家で渦巻く凄惨な事件の香り…。新章開幕、Xシリーズ第1弾。


シリーズを通して登場するのは、探偵・鷹知祐一朗、美術品鑑定業・椙田康男、芸大生で椙田事務所の留守番・真鍋瞬市、椙田の助手・小川令子 のようである。
わたしが未読の別のシリーズに登場した人物がいるようである。わたしが既読の別シリーズの登場人物もラスト近くちらりと姿を見せる。前者に関するなんらかの鍵を握っているような雰囲気で、シリーズ第二弾を心待ちにさせる森テクニックである。
物語自体は、シリーズ第一弾ということで、登場人物紹介の意味合いもあるせいか、さほど込み入ってはいないが、とんでもないところへ視点をもっていかれる、という意味では奇想天外とも言えると思う。

蟋蟀*栗田有起

  • 2009/03/09(月) 17:12:40

蟋蟀(こおろぎ)蟋蟀(こおろぎ)
(2008/09)
栗田 有起

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魅力が暴走している!?
生き物をテーマにした10の物語集。手を握ったひとの未来が見える占い師の身に起こったこととは?(サラブレッド) 優秀でかわいい秘書は、研究室に大きな水槽を持ち込んだ(あほろーとる)。夫の出世で住むことになった社宅には不思議なサークル活動が(猫語教室)。などなど、面白さてんこ盛りの栗田有起ワールド。
泣いて、笑って、びっくりして、しみじみして、夢中になって、幸せになる。


表題作のほか、「サラブレッド」 「あほろーとる」 「鮫島夫人」 「猫語教室」 「蛇口」 「アリクイ」 「さるのこしかけ」 「いのしし年」 「ユニコーン」
著者らしい不思議譚である。ただ、はじまりは一見普通なので、ふと何も引っかからずに読み進んでしまいそうになるのだが、しばらくすると、するするといつのまにか、いままで背中合わせになっていて見えなかった側に立っていることに気づかされる心地になる。そんな物語が多い一冊だった。

小さな男*静かな声*吉田篤弘

  • 2009/03/08(日) 16:54:45

小さな男 * 静かな声小さな男 * 静かな声
(2008/11/20)
吉田 篤弘

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□いまは独り身である。
□友だちはあまりいない。
□引き出しから、思いがけないガラクタが出てきたことがある。
□自転車に乗れる。
□自由奔放な弟/妹になれたら、とときどき思う。
□道に迷いがちである。
□小さなものが好きである。
2つ以上あてはまるものがあれば、どうぞページをおめくりください。
煌めくことばの宝箱。待望の2年ぶりの新作小説!


小さな男は、百貨店の寝具売り場に勤めていて、自分だけの百科事典を作ることを第二の仕事にしている。
静かな声の静香さんは、とあるラジオ局でパーソナリティをしており、夜中に静かな声でラジオから語りかけている。
独身で、同じ街に暮らすこと以外、二人の接点は何もないのだが、それぞれに自分の仕事をこなし、物思いにふけりながら日々を生きている。
はじめのうちは、まったく別の二人の日々が交互に綴られているが、あるとき、あるひとりの人物を通して、ほんの微かに――というか驚くほどの濃密さで、というか――間接的につながりを持つ。だが、つながりを持ったことを、彼らはまったく知らないのであり、それがまたとても好い。
知らずにこぼした小さな種が、風に飛ばされて、思ってもみない場所で芽を出すような、そんな物語である。

きのうの世界*恩田陸

  • 2009/03/06(金) 13:39:46

きのうの世界きのうの世界
(2008/09/04)
恩田 陸

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失踪した男は遠く離れた場所で殺されていた 塔と水路の町にある「水無月橋」。霜の降りるような寒い朝、殺人事件が起こる。バス停に捨てられていた地図に残された赤い矢印は……? 恩田陸待望の新刊。


冒頭から惹きこまれる。「あなた」とは誰なのか?そこはどこなのか?なぜその場所なのか?・・・・・、知りたいことが数珠繋ぎのように現れ、読者に先を急がせる。知りたい、すべてを解き明かしたい、という欲求に追い立てられるように読み進むのだが、物語は行きつ戻りつしながら、ほんの少しずつしか核心に迫らないように思われる。このもどかしさも堪らない。
だが途中から、漠然と想い描いている結末とは別の道筋を進むような違和感に包まれ、次第にそれが確信に変わる。自分の想像力の乏しさゆえなのか、著者の逞しすぎる創作力ゆえなのか。著者らしいといえば、これ以上なく著者らしい結末でもある。謎の死に至る事情、という点に関して言えば、知りたい欲求は満たされた。478ページという大作なのだが、ページを繰るのは速かった。

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殺意*松本清張

  • 2009/03/04(水) 16:57:57

殺意―松本清張短編全集〈4〉 (カッパ・ノベルス)殺意―松本清張短編全集〈4〉 (カッパ・ノベルス)
(2002/10)
松本 清張

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本書には昭和三十一年以降の作品を収めた。このころから、「殺意」、「白い闇」など、推理小説の分野に力作がつぎつぎと生まれている。「殺意」は著者がはっきりと推理小説を書こうという意欲をもって取り組んだ最初の作品である。ホワイトカラーの出世競争にからんで、人間心理の深層にある憎悪をテーマにしたもので、清張ミステリの基盤である“日常生活の中に生まれる犯罪”という主張を打ち出し、このあと書かれた長編推理小説「点と線」へとつながる特徴的な作品である。「白い闇」は、十和田湖から、松島をめぐる東北の取材旅行をした結果生まれた作品だが、これもまた、実在の名勝を犯罪の背景としてめんみつに描くという流行、いわゆる“旅ものミステリ”のさきがけとなった。「通訳」は、かなりな清張ファンにも、あまり知られていないと思う。時代を江戸中期にとって歴史小説のかたちをとっているが、じつは戦後のアメリカ占領時代を風刺した作品である。これは著者がとくに好きな短編の一つであるという。


現代物――とはいっても、昭和三十年代辺りであるが――、時代物を取り混ぜた短編集であり、それぞれに時代背景が生かされたミステリである。
昭和三十年代からは、もう半世紀も時は進んでおり、言葉遣い――特に若い女性の――などには隔世の感もあるが、ミステリの題材にはさほど変わりはないものだという思いもするのである。いろいろな意味で、先駆者だったと言ってもいいだろう。

耳をふさいで夜を走る*石持浅海

  • 2009/03/03(火) 10:32:45

耳をふさいで夜を走る耳をふさいで夜を走る
(2008/06/17)
石持 浅海

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並木直俊は、決意した。三人の人間を殺す。完璧な準備を整え、自らには一切の嫌疑がかからないような殺害計画で。標的は、谷田部仁美、岸田麻理江、楠木幸。いずれ劣らぬ、若き美女たちである。倫理?命の尊さ?違う、そんな問題ではない。「破滅」を避けるためには、彼女たちを殺すしかない…!!しかし、計画に気づいたと思われる奥村あかねが、それを阻止しようと動いたことによって、事態は思わぬ方向に転がりはじめる…。本格ミステリーの気鋭が初めて挑んだ、戦慄の連続殺人ストーリー


冤罪事件で親を失った遺族を護る会のメンバーである並木は、主力メンバーのあかねと(恋人ではないが)つきあっていた。ある晩、いつも訪れない平日にあかねが並木の部屋にやってきて、隙を突いてナイフを振るったのだった。思ってもいなかったなりゆきに、並木は逆にあかねを刺し殺してしまう。このことが、並木の連続殺人の導火線に火をつけてしまうのだった。
ほとんど使命感に駆られるような並木の殺人動機の理由は、殺人を犯すたびに少しずつ読者に向かって明らかにされていき、被害者たちの危なさをすりこまれるので、並木の異常性に危うく麻痺するところだった。殺害シーンの描写が繰り返されるのにはもちろん食傷するのだが、その動機を思うとき、更に一層やりきれなさと恐ろしさを感じるのである。
ラストでは背筋が凍る。

法廷戦術*姉小路祐

  • 2009/03/02(月) 07:03:21

法廷戦術 (ジョイ・ノベルス)法廷戦術 (ジョイ・ノベルス)
(2002/11)
姉小路 祐

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家庭裁判所調査官の多恵子は、警察とは異なる立場で、女子中学生墜死事件の加害者となった少年の事件を担当していた。同事件を審理した飯伏判事は、少年に対して予想外の処分を下すが…(「審判は終わっていない」)。検事から弁護士へ転身した亜耶は、同じく弁護士に転身した検察官時代の元上司の担当事件に不審を抱く(「完全有罪」)。など、法を通した闘いで事件の形勢が一挙に逆転するリーガル・ミステリー全六編を収録。


「審判は終わっていない」 「隠された法廷戦術」 「臨終結婚」 「完全有罪」 「白と黒の殺人」 「閑古鳥(カッコウ)のたくらみ」

罪に問われ、裁判にかけられる。被告が、実際に罪を犯していないとしたら、それをどう証明すればいいのだろう。裁判の場面に、邪な心を持った者がいたとしたら、裁きの行方はどうなってしまうのだろう。
テーマはとても興味深かった。ただ、早い段階で先が読めてしまう作品が多かったのが、少しだけ残念でもある。