虚夢*薬丸岳

  • 2009/06/28(日) 17:09:37

虚夢虚夢
(2008/05/23)
薬丸 岳

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愛娘を奪い去った通り魔事件の犯人は「心神喪失」で罪に問われなかった。運命を大きく狂わされた夫婦はついに離婚するが、事件から4年後、元妻が街で偶然すれ違ったのは、忘れもしない「あの男」だった。


愛娘を無残にも殺され、自らも背中を刺され、一時は意識不明になる重症を負わされた佐和子は、激しく落ち込み、精神的に不安定にもなりながら、悲しみに立ち向かっていた。そんな矢先、忘れようもない加害者の男・藤崎と、偶然町ですれ違ったのだった。
事件がきっかけで別れた元夫・三上孝一は、離婚以来初めて元妻に呼び出され、藤崎の居所をつかもうとする。
ところどころに挟み込まれるキャバクラ嬢・ゆきの物語が、どう関係してくるのかと思っていると、途中から藤崎とつながり、物語の流れは一本になっていく。
中盤以降からどんどん明らかになってくるそれぞれの事情に、ページを繰る手を止められなくなり、最後の最後に明かされる佐和子の真意には、胸を突かれる思いがした。
「殺人を犯す段階で、すべての人間は異常な精神状態にあるのではないか」という三上の思いに深くうなずかされるとともに、被害者――加害者家族を含めて――のやりきれない気持ちは、どこへ持っていけばいいのだろう、という思いを強くした。

スノーフレーク*大崎梢

  • 2009/06/27(土) 13:45:45

スノーフレークスノーフレーク
(2009/02/27)
大崎 梢

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「溶けない雪の欠片を見にいこう」その約束を果たせないまま、死んでしまった幼なじみ・速人。六年後、高校卒業を控えた真乃は、彼とよく似た青年を見かける。ほんとうは生きているのかもしれない。かすかな希望を胸に、速人の死にまつわる事件を調べ始めた真乃だったが―!?函館の街を舞台に描いた青春ミステリー。


内容紹介のとおり、まさに青春ミステリである。登場人物も、題材も舞台も、申し分ない程「青春!」である。
それでもそこにあるのは、ただ明るく切ないだけの物語ではなく、幼なじみの急死を心の底から信じきれないが故に、一歩前へ踏み出せずにいる少女の哀しみと、それを取り巻くさまざまな想いがあるのだった。そして思ってもみなかった真相を知った驚きと納得、仄見える明るい予感にほっとするのだった。

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秋期限定栗きんとん事件 上下*米澤穂信

  • 2009/06/25(木) 09:43:25

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)
(2009/02)
米澤 穂信

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あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。―それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…シリーズ第三弾。


シリーズ前作『夏期限定トロピカルパフェ事件』のラストで、互恵関係を解消した小鳩くんと小佐内さんである。あれからほぼ一年後の秋、二人は相変わらずそれぞれ別々の高校生活――小鳩くんには吉口さんというガールフレンドができ、小佐内さんには瓜野くんというボーイフレンドができた――を送っているのだった。上巻では、堂島が部長を務める新聞部の周辺での出来事が主に描かれ、小佐内さんの関わりは匂ってくるものの、小鳩くんは未だ傍流という感じである。ラストまでは・・・・・。


秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)
(2009/03/05)
米澤 穂信

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ぼくは思わず苦笑する。去年の夏休みに別れたというのに、何だかまた、小佐内さんと向き合っているような気がする。ぼくと小佐内さんの間にあるのが、極上の甘いものをのせた皿か、連続放火事件かという違いはあるけれど…ほんの少しずつ、しかし確実にエスカレートしてゆく連続放火事件に対し、ついに小鳩君は本格的に推理を巡らし始める。小鳩君と小佐内さんの再会はいつ―。


上巻で新聞部の新部長・瓜野高彦が追いはじめた連続放火事件は、下巻でも毎月、学校新聞・月刊船戸に連載し続け、さらに、犯人を現行犯逮捕しようと目論むようになる。
その裏で、小鳩くんは秘かに検証をつづけ、推理を組み立て、一方小佐内さんはこっそり瓜野をバックアップしているように思われたのだったが・・・・・。
小鳩くんと小佐内さんが互恵関係を解消して、それぞれの学生生活を送っていることに、なんとなく物足りなさを感じていた読者としては、わくわくするようなラストである。やはりこのふたりはこうでなければ!
やがて出るだろう「冬期限定~~」に期待が繋がる。

ラン*森絵都

  • 2009/06/23(火) 19:33:31

ランラン
(2008/06/19)
森 絵都

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越えたくて、会いたくて、私は走りはじめた。直木賞受賞第1作。


10歳のときに事故で両親と弟を失い、一緒に暮らすようになった叔母を20歳のときに病気で失って、ほんとうにひとりぼっちになってしまった夏目環、23歳。あれからずっと、自分は生よりも死に近いところにいるような気がしている。そんな環が自転車をきっかけに知り合った紺野さんに、モナミ1号と名づけられたオーダーメイドのロードバイクをもらい、モナミ1号に導かれるように冥界へたどり着き、家族と再会したのだった。その日から環は、自力で家族に会いに来るために、走り始めたのだったが・・・・・。

ファンタジーのようでもあり、スポ根もののようでもあり、青春物語のようでもあり、人間ドラマのようでもある。さまざまな要素が一体となって面白さを倍増させている。
登場するキャラクターがみな個性的で、ただはじけているだけではなく、それぞれに悩みを抱えながらも、懸命に生きている姿に励まされる。「あきらめなければならないこと」をきちんとあきらめることも、生きていく上で大切なことなのだと思わせられる一冊だった。

寒椿ゆれる*近藤史恵

  • 2009/06/20(土) 08:38:34

寒椿ゆれる寒椿ゆれる
(2008/11/21)
近藤史恵

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堅物の同心・玉島千蔭。美貌の花魁・梅が枝。若手人気女形・水木巴之丞。そして、千蔭の見合い相手のおろく。巻き起こる難事件の先に仄見える、秘められた想いとは?江戸の風物を効果的にあしらい、市井の息づかいを丁寧に描き上げた傑作シリーズ、待望の最新刊!情感豊かな時代ミステリーの傑作。


「猪鍋」 「清姫」 「寒椿」

どの話もとても丁寧に作られていて愉しめた。
キャラクターもより一層熟してきたように思われるし、人間関係の機微が読むものを否応なく惹き込むので、ページを繰る手が止まらない。
見合い相手で、気難しいと評判のおろくをそのまま認めて受け容れる千陰の懐の深さも好ましい。あまりにすんなりいき過ぎて、このまま上手くいくはずがない、と勘繰らざるを得ないほどで、千陰にとってはいささか切ない結末でもあるが、いつかきっと良縁にめぐり合えることを願おう。
長く続いてほしいシリーズである。

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むかしのはなし*三浦しをん

  • 2009/06/17(水) 07:24:46

むかしのはなし (幻冬舎文庫)むかしのはなし (幻冬舎文庫)
(2008/02)
三浦 しをん

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三カ月後に隕石がぶつかって地球が滅亡し、抽選で選ばれた人だけが脱出ロケットに乗れると決まったとき、人はヤケになって暴行や殺人に走るだろうか。それともモモちゃんのように「死ぬことは、生まれたときから決まってたじゃないか」と諦観できるだろうか。今「昔話」が生まれるとしたら、をテーマに直木賞作家が描く衝撃の本格小説集。


「ラブレス」 「ロケットの思い出」 「ディスタンス」 「入江は緑」 「たどりつくまで」 「花」 「懐かしき川べりの町の物語せよ」

それぞれの物語の冒頭に、桃太郎やかぐや姫といったほんとうの昔話のあらすじが掲げられているが、物語自体は、その昔話を下敷きにしてはいるが、単なるパロディではない。趣向を変えて、まさにいま生まれるむかしばなし、という形になっている。
特定の人を介した連作ではないが、どの物語も「誰か」に向かって語られており、もはや立派な昔話であるという点で、見事な連作である。

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まっすぐ進め*石持浅海

  • 2009/06/15(月) 16:54:33

まっすぐ進めまっすぐ進め
(2009/05/29)
石持 浅海

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書店で真剣に本を選ぶ美しい女性―まるで絵画のような光景に見とれた川端直幸。友人の紹介でその女性・高野秋と偶然にも知り合う。やがて始まるふたりの交際。関係が深まる一方で、秋にちらつく深い闇は消えない。そして、ついにその正体が分かる時がやってくるのだが…。


表題作のほか、「ふたつの時計」 「ワイン合戦」 「いるべき場所」 「晴れた日の傘」
基本的には、日常の謎系ミステリなのだが、主人公のひとりである高野秋になにやら重い秘密があるような様子が、物語自体に深刻な雰囲気を漂わせている。直幸と秋、さらには友人の正一と千草の周りで起こる出来事の謎を解きながら、秋の秘密に近づいていっているという感じである。
探偵役である直幸の慧眼と懐の深いやさしさに救われる。

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ジーン・ワルツ*海堂尊

  • 2009/06/15(月) 10:08:02

ジーン・ワルツジーン・ワルツ
(2008/03)
海堂 尊

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桜宮市・東城大学医学部を卒業、東京・帝華大学に入局した32歳の美貌の産婦人科医、曾根崎理恵―人呼んで冷徹な魔女(クール・ウィッチ)。顕微鏡下人工授精のエキスパートである彼女のもとに、事情を抱えた五人の妊婦がおとずれる。一方、先輩の清川医師は理恵が代理母出産に手を染めたとの噂を聞きつけ、真相を追うが…。


現代にも未来にも問題を山と抱える産科医療をめぐる物語である。そして結果として、『医学のたまご』の曽根崎薫の出生をめぐる物語でもある。
身を挺して産科医療の現状を少しでもよい方へ向かわせようとする曽根崎理恵の情熱が胸を熱くする。加えて、熱い気持ちで奮闘しているにもかかわらず――だからこそかもしれないが――理恵の計算され尽くした根回しの見事さで、他人から冷徹な魔女(クール・ウィッチ)と呼ばれる理由がわかるような気がする。
この物語のラストこそが、産科医療の未来への初めの一歩になるのだろう。

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実験4号*伊坂幸太郎・山下敦弘

  • 2009/06/13(土) 16:59:55

実験4号実験4号
(2008/04)
伊坂 幸太郎山下 敦弘

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新作小説と新作映画がコラボ!
熱狂的人気を誇る2人が場所やキャラクターをリンクさせた奇跡のコラボレーション作品集
Theピーズの名曲『実験4号』に捧げる、青春と友情と感動の物語!
祝 2008年本屋大賞受賞

舞台は今から100年後、温暖化のため火星移住計画の進んだ地球――。
火星へ消えたギタリストの帰りを待つバンドメンバーの絆の物語(伊坂幸太郎『後藤を待ちながら』)と、火星へ旅立つ親友を見送る小学生たちの最後の2日間(山下敦弘『It's a small world』)が、いま爽やかに交錯する!


80年代のバンドブームの中で結成されたロックバンド・The ピーズの「実験4号」をモチーフにして、作家・伊坂幸太郎と、映画監督・山下敦弘が作り上げたコラボ作品である。
小説と映像、切り取られる場面こそ違え、同じ景色がそこに広がっていることがどちらからもわかって、胸が震える。
舞台はいまから100年後、という設定だが、80年代に弾けたロックバンドをモチーフにしているからか、なにか懐かしささえも覚えるのが不思議でもある。
過去と現在が絶妙にリンクして、伊坂流の心憎さも盛り込まれている。

『泣きっつうか、何ちゅうかね、末期的な夕やけ空みたいな。さあ頑張るぞみたいな感じじゃなくて、悲しい歌なのに明るいような』


という、本文中にも引用されている、The ピーズのインタビュー時のひとことが、作品中に満ちているような気がする。

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事件の痕跡

  • 2009/06/13(土) 09:15:33

事件の痕跡  最新ベストミステリー (カッパ・ノベルス)事件の痕跡 最新ベストミステリー (カッパ・ノベルス)
(2007/11/20)
日本推理作家協会

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名探偵ものあり、犯罪小説あり、サスペンスものやノワールあり…。「事件の始まり」をめぐるミステリーの歴史を再認識させ、現代ミステリーの事件に対するアプローチの多彩さを示す、バラエティに富んだアンソロジー。


  蒼井上鷹→私はこうしてデビューした
  五十嵐貴久→女交渉人ヒカル
  乾くるみ→五つのプレゼント
  歌野晶午→玉川上死
  逢坂剛→ツルの一声
  垣根涼介→コパカバーナの棹師・・・・・気取り
  加藤実秋→ラスカル3
  佐野洋→通夜盗
  夏樹静子→ほころび
  新津きよみ→二度とふたたび
  馳星周→世界の終わり
  光原百合→希望の形
  連城三紀彦→ヒロインへの招待状


さまざまなテイストで飽きさせない一冊である。
どの作品も、ミステリとしての、よい意味での裏切られ感はいささか足りない気もするが、まあ愉しめた。

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いい奴じゃん*清水義範

  • 2009/06/10(水) 17:02:12

いい奴じゃんいい奴じゃん
(2008/10/25)
清水 義範

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日本一アンラッキーな男・鮎太に襲いかかる不幸の連続! 25歳で人生が決まってたまるか。鮎太は、オネエ言葉の大道寺、ナマ脚自慢のナオたちとともに、幸せになることに図々しく生きていく。清水流ロスジェネ応援小説!


著者曰く、明朗青春小説である。
なぜか運が悪い主人公・鮎太であるが、本人は、他人から言われるほど運が悪いとは思っていない。いつも前向きで、そのときどきを一生懸命に生きている。そして、困っている人を見ると放っておけない男気もあり、彼に話を聞いてもらって元気を取り戻す人も多い。一見、不運をバネにしてのし上がるわらしべ長者的物語にも見えないこともないが、いささか違うのは、鮎太はいつも全力を出し切って毎日を生きている、ということだろう。運も実力のうち、という言葉を改めて思わされる一冊でもあった。

さよならの扉*平安寿子

  • 2009/06/09(火) 17:24:26

さよならの扉さよならの扉
(2009/03)
平 安寿子

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彼は逝ってしまったけれどわたしとあなたは、ここにいる。社会経験まるでなしの本妻(48歳)と、デキる独身OLにして夫の愛人(45歳)が、夫の死をきっかけに対面。そんな女ふたりが織りなす奇妙な交流を、一滴の涙を添えてユーモラスに描く。


癌を宣告され、治療を拒んで53歳で逝った夫。死を目前にして、夫は5年間続いた愛人の存在と電話番号を妻に教えた。そして夫が息を引き取るまさにその時、妻は愛人に電話で夫の死を伝えたのだった。
そんな状況で愛人の存在を妻に知らせる夫の真意も、愛人に執拗に連絡を取り、友だちになりたいと言い続ける妻の心理も、どちらも理解できないし、共感もできないのだが、夫も妻も愛人も、本人たちさえも自覚していないであろうなにかを共有しているように感じられて、普通に考えれば気持ちのいいものではない妻の行動をも責める気持ちにはなれないのだった。死んでしまえばなんでも許されるとは決して思わないが、先に旅立っていった人が確かに自分たちに残したものを想うことは、許すとか許さないとか、憎むとか愛するとかいうこととは別のなにかであるような気もするのである。
なんとなくしみじみとさせられる一冊だった。

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残される者たちへ*小路幸也

  • 2009/06/08(月) 16:43:03

残される者たちへ残される者たちへ
(2008/12/18)
小路 幸也

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この世界は、まだこうして美しいままにある

デザイン事務所を経営する川方準一のもとに、同窓会の通知が届く。準一の通った小学校の子供たちは、
ほぼ全員が〈方野葉団地〉の子供だった。準一は、親友だったという押田明人に会場で声をかけられるが、
彼のことを何も思い出せない。他の人間はすべて覚えているのに。悩む準一は、団地の幼なじみで
精神科医の藤間美香に相談する。美香は、〈方野葉団地〉に住む中学生、芳野みつきの診療も行っていた。
みつきは、自分を庇って死んだ母親の記憶を見るようになったという。記憶のずれと
団地の存在に関係があると見た準一と美香は、団地の探索に乗り出した。
二人は〈方野葉団地〉で、想像もしなかった“のこされるもの”に遭遇する…。


カタカナの町シリーズと同じ傾向の不思議な物語である。
かなり読み進むまで、準一の記憶からすっぽり抜け落ちた幼なじみ・押田の存在に、厭わしさを感じ、彼がキーになってよくないことが起こるのではないか、と思っていたのだが、そう思わせるのは著者の意図だったのだろうか。異次元の彼らの意図がいまひとつ腑に落ちなくて、ラストはいささか唐突な感がなくもないが、犠牲はあったとしても、未来が見えるのが救いだろうか。

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うたうひと*小路幸也

  • 2009/06/06(土) 16:56:25

うたうひとうたうひと
(2008/07/23)
小路 幸也

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誰にでもその人だけの歌(ストーリー)がある

恋人に、友達に、きっと伝えたくなる7つのやさしい物語
『東京バンドワゴン』の著者が描く珠玉の短編集!

ギターが泣いている。最初にそう言ったのは誰なのか今となってはわからない。
奴がチョーキングすると音が泣き出すんだ。
あなたのギターを聴いているとわけもなく涙が流れてきます。
雨の中を歩けば、誰にも知られずに泣くことができる。
お前のギターがまさにそれだ。
weeping in the rain.
俺の代名詞になった。
それなのに。
………………………(――「クラプトンの涙」より)


「クラプトンの涙」 「左側のボーカリスト」 「唇に愛を」 「バラードを」 「笑うライオン」 「その夜に歌う」 「明日を笑え」

音楽をキーワードにした短編集。
最後の物語はおそらく誰にでもモデルがわかるだろうが、ほかの物語にもモデルがいるのかどうかは、詳しくないのでよく判らない。
音を奏でる、というそれだけのことに情熱を傾け、時に命を注ぐ人たちの、周りをも巻き込んだ想いが、こちらの胸にもひたひたと熱い波を起こすようである。共通する「信じられるもの」を持った繋がりは、だれがなんと言おうとこれほどに強いものなのだとも思わされる。
「笑うライオン」には泣かされた。

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三人姉妹*大島真寿美

  • 2009/06/06(土) 08:17:11

三人姉妹三人姉妹
(2009/04)
大島 真寿美

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大学を出ても就職せず、ミニシアターでバイトしながら仲間と映画作りをしている水絵は三人姉妹の末っ子。長女の亜矢はある日子連れで実家に戻って離婚騒動に、次女の真矢は不倫を脱し、奇病にもまけず転職に成功。水絵は映画合宿がつぶれて、好きな彼とはうまくいかず、夜中のドライブを楽しんだけど、今度は家族の危機が!三姉妹のゆるやかな毎日を瑞々しく描き心温まる長編小説。


青春を散々謳歌したあと、あっさりとお見合いで結婚し一児の母になっている長女・亜矢、実りのない不倫から脱し、ヘッドハンティングの話を断り、仕事もアフターファイブも充実している年子の次女・真矢、そして、大学は卒業したが成り行きで就職せず、ミニシアターでバイトする歳の離れた末っ子・水絵の三姉妹の物語である。語り手は水絵。
それぞれに悩みを抱えているが、なんとなくすべてお互いにバレていて、それぞれがお互いを直接的間接的に思いやっている様子が、姉妹だなぁと思わされる。家族や友人たちとの関わりにも真実味があり、どの登場人物のキャラクターもいい。
同じ女同士、近すぎる鬱陶しさもあるだろうが、安心できる居場所であることが伺われてあたたかい心地になる一冊だった。

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マジックミラー*有栖川有栖

  • 2009/06/05(金) 07:21:11

マジックミラー (講談社文庫)マジックミラー (講談社文庫)
(2008/04/15)
有栖川 有栖

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琵琶湖に近い余呉湖畔で女性の死体が発見された。殺害時刻に彼女の夫は博多、双子の弟は酒田にいてアリバイは完璧。しかし兄弟を疑う被害者の妹は推理作家の空知とともに探偵に調査を依頼する。そして謎めく第二の殺人が…。犯人が作り出した驚愕のトリックとは?有栖川作品の原点ともいえる傑作長編。


いままで読んだ有栖川作品とは、いささか趣が異なる一冊である。メインは、アリバイトリック。
そして冒頭の双子の会話で、すでにタイトルのマジックミラーを思わせられるが、それだけではなく、物語の要所要所で違った形でマジックミラーがキーポイントになっているのも見事である。
また途中に、作中の推理作家・空知が推理研究会の学生相手に行う「アリバイ講義」が挟まれていて、作中の事件のアリバイ崩しの助けにも解説にもなるのが興味深い。
しかし、それだけでは終わらないのが有栖川マジックである。合わせ鏡のなかに迷い込んだかのような眩暈に似た間隔を覚える一冊でもある。

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乱反射*貫井徳郎

  • 2009/06/02(火) 21:49:25

乱反射乱反射
(2009/02/20)
貫井 徳郎

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ひとりの幼児を死に追いやった、裁けぬ殺人。街路樹伐採の反対運動を起こす主婦、職務怠慢なアルバイト医、救急外来の常習者、事なかれ主義の市役所職員、尊大な定年退職者……複雑に絡み合ったエゴイズムの果てに、悲劇は起こった。残された父が辿り着いた真相は、罪さえ問えない人災の連鎖だった。遺族は、ただ慟哭するしかないのか? モラルなき現代日本を暴き出す、新時代の社会派エンターテインメント!


「-44」というチャプターから物語は始まる。
ある町に暮らす平凡な市民――定年後犬を飼い始めた男、虚弱体質の大学生、娘に存在意義を認められたくて社会正義を主張する主婦、責任を負いたくなくてアルバイトに甘んじている夜間救急の内科医、市役所の道路課の職員、潔癖症の造園業者、過保護の母親から逃れて隣町に一家を構えた新聞記者…――のどうということもない日々が綴られる。そして、物語はじりじりとチャプター「0」に近づいていく。
「0」では、罪のない二歳児が、強風に突然倒れてきた街路樹の下敷きになって命を失う。
そこから数を増やしていくチャプターでは、幼い息子を失った新聞記者の父が、理不尽な思いを抱きながら、実りのない責任者探しをする姿が描かれる。そして、あちこちに乱反射を繰り返した光が、最後の最後に照りつけたのは・・・・・。

終わりのないドミノ倒しを見ているような、責任者探しの光景が印象的である。二歳児・健太の死の原因のひとつを作った人たちのあまりの無自覚に、憤りを覚えることもあるが、自分でも絶対にやらないとは言い切れないこともあったりして、そのことが引き起こす結果に背筋が寒くなったりもする。
一人ひとりの無自覚が、とんでもない悲劇を生むこともあるということを、考えさせられる一冊でもあった。

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